• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1149836
異議申立番号 異議2002-71762  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-12-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-19 
確定日 2005-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3248447号「金属板ラミネート用フィルム」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3248447号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由
[1]手続の経緯

本件特許第3248447号は、出願日が平成9年3月24日(優先日 平成8年3月25日 日本)であって、平成13年11月9日に特許権の設定登録がなされ、その後、東レ株式会社(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、第1回目の取消理由を通知したところ、その指定期間内に第1回目の訂正請求がなされるとともに第1回目の特許異議意見書が提出され、第2回目の取消理由の通知を行ったところ、その指定期間内に第2回目の訂正請求と第2回目の特許異議意見書の提出がなされ、併せて、第1回目の訂正請求が取り下げられたものである。

[2]訂正の適否

1.訂正事項
第2回目の訂正請求における訂正事項は、次のとおりである。
[訂正事項a]
特許請求の範囲の請求項1中の「金属ラミネート用フィルム」を「金属板ラミネート用フィルム」と訂正する。
[訂正事項b]
特許請求の範囲の請求項1中の「少なくとも金属にラミネートされる部分に」を「金属板ラミネート用フィルム全体に」と訂正する。
[訂正事項c]
特許請求の範囲の請求項1中の「存在する直径0.1mmφ以上のピンホールの数が0ケ/1,000m2以下であり」を「直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず」と訂正する。
[訂正事項d]
特許請求の範囲の請求項1中の「5%以下である」を「5%以下であり、フィルムの面積が1,000?100,000m2である」と訂正する。
[訂正事項e]
段落【0008】中の「少なくとも金属にラミネートされる部分には」を「金属板ラミネート用フィルム全体に」と訂正し、同「ピンホールが存在しない」を「ピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000?100,000m2であることを特徴とする」と訂正する。
[訂正事項f]
段落【0009】の「さらに、上記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面の表面張力が420μN以上であることが好ましく、該フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であることが好ましい実施態様である。」を「さらに、上記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面の表面張力が420μN以上であることが好ましい。」と訂正する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項2?4等に、金属として金属板が記載されていることを根拠として、金属の形状を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、金属にラミネートされる部分がフィルム全体である場合に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、その意味が、日本語として明りょうでなかったものを、段落【0011】の「前記した目的を達成するためには直径0.1mmφ以上のピンホールが、フィルムの少なくとも金属にラミネートされる部分には存在しないことが必要である。特にフィルムの生産ロットの大きさに関係なく、言い換えれば、小ロットであれ、中ロットであれ、大ロットであれ、1つの生産ロットのフィルムには直径0.1mmφ以上のピンホールが1つもないことが望ましい。すなわち、直径0.1mmφ以上のピンホール数が、0ケ/1,000m2以下、0ケ/10,000m2以下、0ケ/100,000m2以下、0ケ/∞m2が好ましい。」との記載に基づき、本来の意味に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、段落【0011】の「すなわち、直径0.1mmφ以上のピンホール数が、0ケ/1,000m2以下、0ケ/10,000m2以下、0ケ/100,000m2以下、0ケ/∞m2が好ましい。」との記載に基づき、フィルムの面積を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(5)訂正事項e、fについて
訂正事項e、fは、発明の詳細な説明の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させる為の訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明

本件の訂正後の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 金属板ラミネート用フィルム全体に直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000?100,000m2であることを特徴とする熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム。
【請求項2】 熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である請求項1記載の金属板ラミネート用フィルム。
【請求項3】 少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN以上である請求項1または2記載の金属板ラミネート用フィルム。
【請求項4】 水分率を50ppm以下に調整した原料から造られる請求項1?3のいずれかに記載の金属板ラミネート用フィルム。」

[4]取消理由の概要

当審において第1回目の取消理由通知書で示した取消理由の概要は、訂正前の請求項1?4に係る発明は、本件の出願前に国内において頒布された刊行物1(特開平6-71747号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証))、刊行物2(特開平4-261826号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証))、刊行物3(湯木和男編「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」初版 1989年12月22日 日刊工業新聞社発行 p.199?201、676?679、830?833(特許異議申立人が提出した甲第3号証)、刊行物4(特開平7-304885号公報)、及び、刊行物5(特開平2-269120号公報)に記載された発明に基づいて、本件の出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるというものである。

[5]取消理由に対する判断

1.本件発明1について
刊行物1の特許請求の範囲の請求項1、2には
「【請求項1】 融点が210?245℃の共重合ポリエステルからなり、片面にコロナ放電処理が施されていることを特徴とする金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。
【請求項2】 融点が210?240℃の共重合ポリエステルからなり、面配向係数が0.08?0.16、150℃での熱収縮率が10%以下である請求項1記載の金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフイルム。」と記載され、上記請求項1に記載された「融点が210?245℃の共重合ポリエステル」は、熱可塑性樹脂の下位概念物質であり、上記請求項1に記載された「金属板貼合せ成形加工用」は「金属板ラミネート用」と同義である。また、上記請求項2の「150℃での熱収縮率が10%以下」という要件について、刊行物1の段落【0018】、段落【0019】には「【0018】本発明のポリエステルフイルムは、さらに、金属板に貼合せた時にフイルムにしわが入るなどの欠点が生ずるのを防ぐうえで、150℃での熱収縮率が10%以下、好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下であることが望ましい。【0019】ここで、熱収縮率は、室温でサンプルフイルムに2点(約10cmの間隔)の標点をつけ、150℃の熱風循環型オーブン内に30分間保持し、その後室温に戻して上記標点の間隔を測定し、150℃での温度保持前後の差を求め、この差と150℃での温度保持前の標点間隔とから算出する。そして、フイルムの縦方向の熱収縮率をもって代表させる。」と記載されているから、「150℃での熱収縮率」とは、フィルムの縦方向の熱収縮率をもって代表させた150℃、30分間加熱したあとの熱収縮率を意味している。また、熱収縮率10%以下のうち特に好ましいのは6%以下であることが記載され、刊行物1の第5?6頁の段落【0054】の表3には、150℃乾熱収縮率として、2.7?3.5の中の特定の値が記載され、これらの値は、収縮率5%以下に該当する。
以上の点からみて、刊行物1には「フィルムの縦方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下である熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム」の発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されていると認める。
本件発明1と刊行物1の発明を対比すると、両者は「フィルムの縦方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下である熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム」の発明である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:前者では「金属板ラミネート用フィルム全体に直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。
相違点2:前者では「フィルムの横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率が5%以下であり」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。
相違点3:前者では「フィルムの面積が1,000?100,000m2である」との特定があるのに対して、後者ではこのような特定がなされていない点。
そこで、これらの相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物1の段落【0023】に「白色顔料の平均粒径が2.5μmを越える場合は、深絞り製缶等の加工により変形した部分に、粗大粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断が生じるので、好ましくない。」と記載され、また、刊行物2には滑剤を含有する金属板貼合せ成形加工用フィルム(請求項1を参照)に関して「滑剤の平均粒径が2.5μmを越える場合は、深絞り製缶等の加工により変形した部分の、粗大滑剤粒子(例えば10μm以上の粒子)が起点となり、ピンホールを生じたり、場合によっては破断するので、好ましくない。特に耐ピンホール性の点で好ましい滑剤は、平均粒径2.5μm以下であると共に、粒径比(長径/短径)が1.0?1.2である単分散の滑剤である。」(第3頁左欄第5?13行)と記載されているから、刊行物1、2にはピンホールが好ましくない現象であるとの認識が示されている。これら、刊行物1、2記載のピンホールはフィルムを金属板に貼り合わせた後の製缶工程で生じるピンホールであり、金属板に貼り合わせる前のフィルム自体に存在するピンホールではないが、完成品において好ましくないものを素材の段階で排除しておくことは当業者が通常考慮することであるから、フィルムの段階でピンホールを排除しておくことはこれら刊行物1、2の記載に基づいて当業者が当然に考慮できることにすぎない。また、金属板ラミネート用フィルムは、該フィルムで金属板を覆うことにより防錆をもたらすものであり(必要ならば刊行物1の段落【0002】、及び、刊行物2の段落【0002】を参照)、ピンホールは、この覆いの欠陥であるから、ピンホール数が多いほど、また、ピンホールの径が大きいほど防錆性が悪いのは当然のことである。
してみれば、防錆の為に、金属板ラミネート用フィルム全体に径が大きいピンホールを存在させないことは当業者が当然に考慮することである。そして、存在させないピンホールの径の下限を設定することは、必要な防錆性に応じて適宜なしうることである。してみれば、金属板ラミネート用フィルム全体において直径0.1mmφ以上のピンホールを存在しないようにすることは容易である。
特許権者は、本件特許明細書の段落【0011】を引用し「直径が0.1mmφ未満のピンホールはフィルムを金属板にラミネートする時にフィルム自体の寸法変化現象や接着剤の流動現象によって閉塞させられるので、金属缶材の防錆特性はラミネートするフィルムに直径0.1mmφ以上のピンホールが存在しないことによって達成されるということを初めて発見し、本件発明を完成させたものである」と述べ、直径が0.1mmφ未満のピンホールが閉塞する現象の発見について主張している。しかし、ピンホールの径が大きいほど防錆性が悪いという技術常識からみれば、特許権者の上記発見が無くても、直径が0.1mmφ以上のピンホールを存在させないことは容易である。特許明細書の表1に記載された、0.2mmφや0.3mmφのピンホールが存在するフィルムと比較した本件発明1の効果は、ピンホール数が多いほど、また、ピンホールの径が大きいほど防錆性が悪いことから当然予測できることにすぎない。
したがって、相違点1に係る構成は、当業者が、刊行物1、2の記載に基づいて容易に採用できることと認められる。
(2)相違点2について
刊行物1の段落【0018】【0019】には上記のとおり熱収縮率について記載され、該熱収縮率は縦方向の熱収縮率をもって代表させている。ところで、通常、フィルムの熱収縮率としては、縦方向や横方向の収縮率を測定しており、縦方向の熱収縮率をもって代表させているということは、横方向の熱収縮率も考慮に入れていることを意味している。また、刊行物1の段落【0018】に熱収縮率を特定した意味としてしわ防止が記載されており、しわは横方向の熱収縮であっても発生する。したがって、横方向の熱収縮率も、縦方向同様に特定することは容易である。
この点について、特許権者は「フィルムのしわの課題に対して縦方向の熱収縮率を代表させるということは、しわの課題に対しては縦方向の熱収縮率が重要であると言っているのであり(横方向が重要であるのなら、縦方向を代表させたりせず、横方向の熱収縮率を測定してその数値を示しているはずである。)、フィルムの熱収縮率として縦方向や横方向の熱収縮率を測定することが技術常識であるとしても、刊行物1記載の発明はしわの防止のためにフィルムの横方向を重要視していないのであるから、フィルムの横方向の熱収縮率を実施例に記載された縦方向の熱収縮率のように5%以下にすることを教示しているとはいえない。」と主張しているが、前述のとおり、縦方向の熱収縮率をもって代表させているということは、横方向の熱収縮率も考慮に入れていることを意味しているから、刊行物1でフィルムの横方向を重要視していないとは言えない。仮に横方向を重要視していないとしても、上述のとおり、しわは横方向の熱収縮であっても発生するのであるから、横方向の熱収縮について考慮することに困難はない。
したがって、相違点2に係る構成は、刊行物1の記載から当業者が容易に採用できたものと認める。
(3)相違点3について
フィルムの面積は、金属板ラミネートに必要な量を考慮して、適宜決定できるものと認められる。
したがって、相違点3に係る構成を採用することは容易である。
そして、相違点1?3に係る構成をともに採用する点にも困難はない。
したがって、本件発明1は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
なお、特許権者は、刊行物1、2のフィルムに直径0.1mmφ以上のピンホールは存在していないと考えられるが、該フィルムは小面積のものと考えられること、そして、本件発明1の大面積のフィルムは、従来では考えられないような煩雑な工程を複数含む製造方法によって初めて得られるものであり、この方法は、刊行物1?5から容易に想到できない旨の主張をしているが、本件発明1はフィルム自体の発明であり、特許権者が主張する製造方法の発明ではないから、本件発明1の容易性の判断を行うに当たり、該製造方法の容易性を検討する必要は認められない。(なお、刊行物1の段落【0023】の上記記載、刊行物2の第3頁左欄第5?13行の上記記載から粗粒子がフィルムのピンホールの原因となることが示唆され、刊行物3にフィルム原料として異物が少ないものが望ましいこと、ちりやほこりも排除すべきこと、異物をろ過により除去することが記載されており(p.677の「D.異物」の項を参照)、刊行物4に水分がボイドの原因となることが記載されていることからみて、特許権者が主張する製造方法自体は当業者が容易に発明しうるものにすぎない。)
また、本件発明の効果について、特許権者は「1ロットで生産される長尺のフィルムを用いて連続生産されるラミネート金属板から製缶されるラミネート缶は実施例1で示すように1,000,000個中錆発生する不良品が1個も存在せず(本件明細書表1参照)、ラミネート缶におけるピンホール検査が不要になるというラミネート缶の実生産において極めて有利な効果を奏する。」と主張しているが、ラミネート缶におけるピンホール検査が不要になるという効果は本件特許明細書に記載されたものではない。また、ピンホールは、前記、刊行物1の段落【0023】、及び、刊行物2の第3頁左欄第5?13行に記載されているように、製缶工程において新たに発生する場合があるから、本件発明1のフィルムを用いたラミネート缶が当然にピンホール検査が不要である(ラミネート缶にピンホールが存在しない)ということにはならない。したがって、この効果を本件発明1の効果として認めることはできない。

2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1における熱可塑性樹脂をポリエステル系樹脂に特定した発明であるが、刊行物1には、金属板貼合せ成形加工用ポリエステルフィルムが記載されているから、本件発明2も、本件発明1と同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1または2の構成要件を備えているが、これらに対する判断は、上記(1)(2)のとおりである。
さらに、本件発明3は金属板ラミネート用フィルムについて「少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN以上である」との要件も備えているので、この点について判断する。
刊行物1の段落【0035】には、コロナ放電処理を行うことが記載され、刊行物4には、コロナ放電処理により、表面の濡れ張力を46dyne/cm(460μNと換算される。)以上とし、接着力を高めることが記載されている(刊行物4の請求項1、2、段落【0018】、段落【0022】の末尾、段落【0028】、段落【0033】の表1中の濡れ張力の欄を参照。)。
そうすると、刊行物1の発明において、表面濡れ張力を420μN以上とすることは刊行物1、4の記載から容易である。
したがって、本件発明3は、刊行物1、2、4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

4.本件発明4について
本件発明4は、本件発明1?3のいずれかの構成要件を備えているが、これらに対する判断は、上記(1)?(3)のとおりである。
さらに、本件発明4は「水分率を50ppm以下に調整した原料から造られる」との要件も備えているので、この点について判断する。
刊行物5には、ポリエステルに水分が存在すると、ボイドが発生することが記載されている(特許請求の範囲、第1頁左下欄下から第2行?第1頁右下欄第5行を参照)。また、ポリエステルの乾燥が充分であるとポリエステルフィルムの品質を高めることが出来る旨の記載もある(第3頁左上欄第14?19行を参照)。
以上の記載からみて原料の水分率をできるだけ少なくすることは容易である。水分率の上限値は、刊行物5の第3頁左下欄第11?12行に0.008%(80ppm)と記載されている点、また、水分率が少ないほど望ましい点を考慮すれば容易に採用できるものと認められる。
したがって、本件発明4は、刊行物1、2、4、5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

[6]むすび

以上のとおりであるから、本件発明1?4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属板ラミネート用フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属板ラミネート用フィルム全体に直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000?100,000m2であることを特徴とする熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルム。
【請求項2】熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である請求項1記載の金属板ラミネート用フィルム。
【請求項3】少なくとも片面の表面濡れ張力が420μN以上である請求項1または2記載の金属板ラミネート用フィルム。
【請求項4】水分率を50ppm以下に調整した原料から造られる請求項1?3のいずれかに記載の金属板ラミネート用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、清涼飲料、ビール、缶詰の如き金属缶材の耐熱、美粧、防錆用として使用されるラミネート用フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、金属缶の内面および外面の腐食防止のために、一般的に塗料が塗布され、その塗料には熱硬化性樹脂が使用されている。
他の方法としては、熱可塑性樹脂を用いる方法がある。例えば、加熱したティンフリースチールにポリオレフィン系フィルムをラミネートすること等が試みられている。さらに、耐熱性の良好なポリエステル系フィルムを金属板にラミネートし、当該ラミネート金属板を金属缶に利用することが検討されている。
【0003】
熱硬化性樹脂塗料の多くは溶剤型であり、その塗膜の形成には150?250℃で数分間という高温・長時間加熱が必要である。かつ焼き付け時に多量の有機溶剤が飛散するため、工程の簡素化や公害防止等の改良が要望されている。
また、上記のような条件で塗布しても、少量の有機溶剤が塗膜中に残存することが避けられず、例えば上記塗膜を形成させた金属缶に食料品を充填した場合には、当該有機溶剤が食料品に移行し、食料品の味や臭いに悪影響を及ぼす。さらに、塗料中に含まれる添加剤や架橋反応の不完全さに起因する低分子量物質が食料品に移行し、残存有機溶剤と同様の悪影響を及ぼす。
【0004】
上記課題のうち工程の簡素化や公害防止等の課題は、熱可塑性樹脂フィルムを用いる方法により解決することができる。
特に、熱可塑性樹脂フィルムのうちポリエステル系フィルムを用いる方法は、最も好ましい方法である。
【0005】
即ち、ポリエステル系フィルムは、耐熱性に優れており、熱安定剤等の添加剤が不要であり、かつ低分子量物質の生成も少ないことに由来する。このことは配合される添加剤や生成される低分子量物質の移行による食料品の味や臭いの問題に対して好適な手段と言える。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ポリエステル系フィルムに代表される熱可塑性樹脂フィルムを金属板にラミネートし、当該ラミネート金属板を金属缶に利用する場合において、当該フィルムにピンホール(穴)が存在すると、金属缶材に腐食現象が発生し、金属缶外面においてはその商標印刷の鮮明度および美的意匠感を著しく損ね、金属缶内面においては金属缶材の酸化物(錆)が食料品に移行し、食料品の味や臭い、さらには人の健康面にも大きな悪影響を及ぼす。
【0007】
本発明の目的は、上記問題点が解決された、ピンホールの無い、耐腐食性に優れたラミネート用フィルムを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂フィルムに存在するピンホールが大きさとして0.1mmφ以上のものがあってはならないことを見い出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、金属板ラミネート用フィルム全体に直径0.1mmφ以上のピンホールが存在せず、フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であり、フィルムの面積が1,000?100,000m2であることを特徴とする熱可塑性樹脂を含む金属板ラミネート用フィルムに関する。
【0009】
本発明においては上記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂であることが好ましい実施態様である。
さらに、上記熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面の表面張力が420μN以上であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、上記金属板ラミネート用フィルムが金属板にラミネートされてなるラミネート金属板に関する。
そして本発明は、上記ラミネート金属板を用いて成形されてなる金属容器に関する。
【0011】
【発明の実施の態様】
本発明のフィルムには、少なくとも金属にラミネートされる部分には直径0.1mmφ以上のピンホールが存在しないことが特徴である。
即ち、本発明者らは、0.1mmφ未満のピンホールであれば、例えば、金属板への熱圧着によるラミネート時において、フィルムの熱履歴による微小な寸法変化現象が結果としてラミネート直前まで存在していたピンホールを閉塞させたり、フィルムと金属板間に存在する接着剤および/または接着層のラミネート時における熱履歴による微小な流動現象が、結果としてラミネート直前まで存在していたピンホールを閉塞させるために、金属缶材の防錆特性が維持でき得ることを見い出した。前記した目的を達成するためには直径0.1mmφ以上のピンホールが、フィルムの少なくとも金属にラミネートされる部分には存在しないことが必要である。
特にフィルムの生産ロットの大きさに関係なく、言い換えれば、小ロットであれ、中ロットであれ、大ロットであれ、1つの生産ロットのフィルムには直径0.1mmφ以上のピンホールが1つもないことが望ましい。すなわち、直径0.1mmφ以上のピンホール数が、0ケ/1,000m2以下、0ケ/10,000m2以下、0ケ/100,000m2以下、0ケ/∞m2が好ましい。
【0012】
ピンホールは、高電圧印加方式によるピンホール検出器によって検出する。該方式により、0.1mmφ以上のピンホールはすべて検出できる。直径0.01mmφを越えるピンホールをすべて検出できる検出器が好ましい。
【0013】
図1は本発明における高電圧印加方式のピンホール検出器の一例を示すものである。1の巻出し軸部に取り付けられたロール状に巻かれたフィルムサンプルロールは2のガイドローラーに向けて巻出しされ、走行する。次の3における検出部ローラーとその上部に設定された、4の検出電極との間をフィルムが走行する際、ピンホールがフィルムに存在していれば検出電極より放電現象が発生し、8の高電圧発生装置およびピンホール検出データ処理装置にてピンホールの存在を検知する仕組みとなっている。以後フィルムは5のガイドローラーおよび6の圧接ローラー間を走行し、7の巻取り軸部に取り付けられたコアーに巻取られる。
このようなピンホール検出器はフィルム製造工程に対してオンライン設置であってもオフライン設置であっても構わないが、オンライン設置であるものがより好ましい。
【0014】
0.1mmφ以上のピンホールをなくすためには、熱可塑性樹脂フィルムの製造の際、フィルム製造用原料を充分乾燥させることが必要である。例えば、熱可塑性樹脂としてポリエステル系樹脂を使用する場合、該原料中の水分率を50ppm以下にする必要がある。50ppmを越えると、フィルム製造工程中に気泡が混入し、以後の諸加工工程の経緯を経ていく際にこの気泡が破壊されピンホールとなるので好ましくない。
【0015】
また、熱可塑性樹脂フィルムの製造の際、フィルム状に成形するための樹脂溶融工程においては、樹脂劣化物やその他のコンタミ成分を充分に取り除くことが必要であり、例えば、当該工程中においては少なくとも1ヶ所以上にフィルター機能を有する部位を導入しておかなければならない。フィルター機能を有する部位の無い樹脂溶融工程で熱可塑性樹脂フィルムを製造した場合、フィルム中にコンタミ等の異物が核となる気泡が発生し、異物を含んだ気泡が以後の諸加工工程の経緯を経ていく際に破壊されピンホールとなるので好ましくない。
【0016】
さらに、熱可塑性樹脂フィルムの製造工程は常にクリーンな状態、即ち、該フィルム表面に乗る、または付着するような浮遊異物の無い状態に保つように注意をはらう必要がある。熱可塑性樹脂フィルムの製造工程に浮遊異物が特に多く存在するようになると、該フィルムに浮遊異物が乗る、または付着し、例えばフィルム巻取り工程において、浮遊異物が該フィルムと共に巻き込まれ、フィルム巻取り時におけるフィルム張力および/または圧接力などによって浮遊異物がフィルムに穴を開けてしまい、ピンホールとなるので好ましくない。
ピンホール検出器を用い、製品となるフィルムの品質検査をし、ピンホールの存在個数等によって製品区分を実施する。
【0017】
熱可塑性樹脂としてはポリエステル系樹脂が好ましく、該ポリエステル系樹脂としては、主としてポリカルボン酸と多価アルコールが重縮合されてなるものである。
ポリカルボン酸成分としてはジカルボン酸が挙げられ、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニールジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が例示される。
【0018】
上記のうち、特に金属容器内面に上記フィルムを使用する場合には充填される食料品の保護効果、いわゆる耐フレーバー性の点から、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の使用が好ましい。
多価アルコール成分としてはグリコールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ドデカンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;ビスフェノール誘導体のエチレンオキサイド付加体等の芳香族ジオール類等が例示される。好ましくは、エチレングリコールである。
【0019】
当該ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンテレフタレートにポリエーテル成分換算で0.6?6重量%のポリエステル-ポリオールブロック共重合体を含む組成物が特に推奨される。
この構成とすることによって、レトルト処理等の熱水処理により発生するフィルムの白化現象が抑制されるので好ましい。
【0020】
また、当該ポリエステルにおいては、構成成分のうち70モル%以上がエチレンテレフタレート単位よりなることが好ましく、より好ましくは80モル%以上である。
【0021】
エチレンテレフタレート単位が70モル%以上では、耐熱性が低下することもほとんどなく、例えば金属缶材にラミネートする場合の加工時にフィルムが伸びたり、熱収縮による幅縮小や皺の発生等が起こる傾向も少なく、ラミネート条件のマイルド化が必要となったり、加工の生産性が低下することもなく、また、ポリエステルの原料費が高くなり経済的に不利になることもほとんどない。
【0022】
当該ポリエステルは、力学特性の点から、極限粘度で0.5以上のものであることが好ましく、より好ましくは0.55?0.85である。
【0023】
また、熱可塑性樹脂には製缶加工時の滑り性および耐スクラッチ性付与のために無機粒子および/または架橋高分子粒子を適宜配合することや、樹脂がポリエステルの場合、ポリエステルに非相溶の熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の成分を、ポリエステルに含有させることは好ましい実施態様である。
上記成分は単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良いが、併用系が好ましい。
【0024】
無機微粒子としては、熱可塑性樹脂に不溶性で、かつ不活性なものであれば特に制限はない。具体的には、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン等の金属酸化物;カオリン、ゼオライト、セリサイト、セピオライト等の複合酸化物;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;リン酸カルシウム、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩等が挙げられる。これらの無機微粒子は天然品、合成品のどちらでもよく、粒子の形状も特に制限はない。
また、当該無機微粒子は単独で用いてもよいし2種以上を併用しても良い。無機微粒子のみで対応する場合は、凝集タイプの不定形シリカと球状のシリカやゼオライトとの併用系が好ましい。
【0025】
架橋高分子粒子の材料としては、熱可塑性樹脂の溶融成形時の温度に耐えうる耐熱性を有するものであれば特に制限はない。例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等のアクリル系単量体、スチレンやアルキル置換スチレン等のスチレン系単量体等と、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメチルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメチルアクリレート等の架橋性単量体との共重合体;メラミン系樹脂;ベンゾグアナミン系樹脂;フェノール系樹脂;シリコーン系樹脂等が挙げられる。
上記材料のうち、アクリル系単量体および/またはスチレン系単量体と架橋性単量体との共重合体が特に好ましい。
当該架橋高分子粒子は単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記架橋高分子粒子の製造方法は特に限定されず、従来公知の乳化重合法や懸濁重合法等により製造することができる。また、当該架橋高分子粒子の粒子径や粒径分布を調整するために、粉砕や分級等の手段を取り入れるのも何ら制限を受けない。
【0027】
ポリエステルに非相溶の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン酸系樹脂、全芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
当該熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
また、当該樹脂は粒子状である必要はない。
【0028】
上記無機微粒子、架橋高分子粒子、ポリエステルに非相溶の熱可塑性樹脂の添加は、熱可塑性樹脂の製造工程で行ってもよいし、熱可塑性樹脂と上記成分とを加えて溶融混練法により行ってもかまわない。また、上記成分を高濃度に含むマスターバッチとて添加することもできる。添加量はフィルム全成分合計量に対して0.3?5重量%が好ましい。
【0029】
上記熱可塑性樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤等を配合させることができる。
【0030】
上記熱可塑性樹脂の製造方法は何ら制限はなく、例えばポリエステルの場合、従来公知のエステル交換法や直接重合法等により製造することができる。また、分子量を高めるために固相重合法で製造することもできる。
【0031】
また、該熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面におけるJIS-K-6768に規定する表面濡れ張力が420μN以上であることが好ましい。
表面濡れ張力が420μN以上となるための表面処理手段としては何ら制限を受けず、例えば、コロナ放電処理法、プライマー処理法、オゾン処理法、プラズマ処理法、電子照射処理法、フレーム処理法、薬品処理法などが挙げられる。特にコロナ処理法が推奨され、好ましい実施態様である。
表面濡れ張力が420μN以上であると、金属板にラミネートする際に強固な接着力を有し、製缶工程および/または製缶以後の諸工程でフィルムが金属板から剥離することがほとんどないので好ましい。
【0032】
さらに、熱可塑性樹脂フィルムの縦方向および横方向の150℃、30分間加熱処理した後の収縮率がそれぞれ5%以下であることが好ましい。
上記の収縮率を5%以下とするための手段としては何ら制限を受けないが、例えば、フィルムの製造工程中で、いわゆる熱固定工程を設け、フィルムの収縮応力を緩和させる熱固定法や、製膜時のフィルムの張力を最小限にすることによってフィルムに残留する収縮力を緩和させる製膜速度条件設定やフィルム巻取り条件の設定などが挙げられる。特に熱固定法が最も推奨され、好ましい実施態様である。
【0033】
上記の収縮率が5%以下であると、金属板にラミネートする際に熱収縮現象がもたらす皺が発生せず、均一なラミネート金属板が得られるので好ましい。
また、上記の他、耐熱性の面より、適宜耐熱性付与のための耐熱オーバーコート層の付与、熱安定剤など公知の添加剤の配合なども好ましい実施態様である。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもどちらでもよい。
延伸フィルムの場合は1軸延伸および2軸延伸のいずれでもかまわないが、等方性の点から2軸延伸フィルムが好ましい。
当該フィルムの製造方法は何ら制限を受けない。例えば、延伸フィルムの場合には、Tダイ法、チューブラー法等の従来公知の方法が適用できる。
さらに、当該熱可塑性樹脂フィルムの膜厚は、好ましくは4?50μm、より好ましくは5?30μmである。
【0035】
本発明のラミネート金属板は、上記した金属板ラミネート用フィルムを金属板にラミネートして得ることができる。
用いられる金属板としては、ブリキ、ティンフリースチール、アルミニウム等が挙げられる。
上記フィルムの金属板へのラミネート方法は特に限定はなく、従来公知のドライラミネート法やサーマルラミネート法等を採用することができる。
当該ラミネート方法としては、例えば、フィルムに接着剤層を積層した後に金属板とラミネートする方法があり、部分硬化状態で接着剤層をフィルム上に形成しておき、金属板にラミネートした状態で完全に硬化させるのが好ましく、硬化方法としては熱、光および電子線等を用いた方法が好ましい。
また、上記方法において使用される接着剤は、金属板と強固に接合し、かつ製缶時のシーム溶接やその後の煮沸あるいはレトルト処理等によって接合力を失わないよう、硬化性樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルポリウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂等あるいはこれらの各種変性樹脂等が挙げられる。
他の方法としては、例えば、フィルムの上層に低融点のポリエステル系樹脂を積層した多層フィルムを共押出し法で製造し、金属板の通電加熱によりサーマルラミネートする方法があり、この方法がより好ましい。
フィルムの金属板へのラミネートは、片面でも両面でもどちらでもかまわない。両面ラミネートの場合は、同時にラミネートしても逐次でラミネートしてもよい。
【0036】
また、本発明の金属容器は、上記ラミネート金属板を用いて成形することにより得られる。
上記金属容器の成形方法は特に限定されるものではない。また、その金属容器の形状も特に限定されるものではないが、例えば、レトルト食品やコーヒー飲料等の食料品を充填するのに好適な、天地蓋を巻締めて内容物を充填する、いわゆる3ピース缶が好ましい。
【0037】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前述の趣旨を逸脱しない限度において実施することはいずれも本発明の技術的範囲に入る。実施例中、単に部とあるのは重量部を表し、%とあるのは重量%を示す。各測定項目は以下の方法に従った。
【0038】
(1)ピンホールの検出方法(高電圧印加方式)
0.1mmφのピンホールを検出する場合、フィルムに0.1mmφのピンホールをあけ、これを用いて図1に示した装置の検出部電極と検出部ローラとの隙間および印加電圧を適切に決定する。
本実施例の場合、検出部電極と検出部ローラーとの隙間を0.2mm、印加電圧を2.4kV、走行速度を50m/min.に設定し、この条件で巾1,000mm、長さ1,000mのロール状に巻かれたフィルムサンプルロールを走行・検出検査を実施した。
【0039】
(2)ラミネート金属板(ラミネート鋼板)の作製方法
フィルムの金属とラミネートしようとする面にコロナ放電処理を行い、該コロナ面に接着剤(東洋インキ社製のポリウレタン系接着剤「アドコート」および硬化剤の混合物)を固形分換算で4g/m2コーティングし、乾燥し、40℃で24時間エージングしてラミネート用フィルムを得た。
このラミネート用フィルムを、脱脂処理した冷延鋼板にサーマルラミネート法によってラミネートし、ラミネート鋼板を得た。
【0040】
(3)防錆性試験方法
(1)の検査方法にしたがって検査されたラミネート用フィルムを得た後、(2)の方法にしたがってラミネート金属板を作製し、これを製缶工程によって金属容器に成形加工した。缶内に1%NaCl水溶液を充填し、1ヶ月後の錆の発生状況観察および缶の外観検査を実施した。
【0041】
(4)表面濡れ張力試験方法
金属板へラミネートする面の表面濡れ張力を、JIS-K-6768に準じて試験を実施した。
【0042】
(5)加熱収縮率測定方法
金属板へのラミネート用フィルムの縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の加熱収縮率を、JIS-C-2318に準じて測定を実施した。
【0043】
実施例1
凝集タイプのシリカ(平均粒径1.5μm)0.1%およびトリメチロールプロパントリメタアクリレートで架橋されたポリメチルメタアクリレート粒子(球状;平均粒径3.0μm)1.0%を含み、極限粘度が0.70であるポリエチレンテレフタレート97部と、ポリエチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールエーテルブロック共重合体3部との混合物を真空乾燥工程によって水分率を30ppmとした後、Tダイ法で溶融押出して無定形シートとした。この時、該樹脂溶融工程中においては孔径20μmおよび10μmの2段方式のメルトフィルターを有しているものである。
さらに、その後、上記無定形シートを90℃で縦方向に3.5倍、横方向に3.5倍延伸し、200℃で熱固定し、コロナ放電処理法を用いてフィルム両面に表面処理をし、厚さ12μmのポリエステル系フィルムを得た。
そして、上記(1)の検査方法を用いた検査結果は、直径0.1mmφ以上のピンホール検出個数が0ヶ/20,000m2であった。
このような上記ポリエステル系フィルムに対して(2)の方法にしたがって両面ラミネート鋼板を得た。その後、(3)の方法によって錆発生に関する試験を実施した。これらの特性を表1に示す。
本実施例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板および金属容器は、耐腐食性に優れており、錆の発生した缶の個数は0ヶ/1,000,000缶であり、すべての缶の外観も美麗な状態を維持しており、該フィルムは商品価値の高いものであった。
【0044】
比較例1
樹脂溶融工程において、孔径80μmおよび60μmの2段方式のメルトフィルターを有しているものを用い、その結果、直径0.2mmφのピンホール検出個数が1ヶ/1,000m2であったポリエステル系フィルムを用いた以外は実施例1と同じ方法でラミネート鋼板を得て、錆発生に関する試験を実施した。これらの特性を表1に示す。
本比較例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板および金属容器は、錆の発生した缶の個数が1ヶ/50,000缶であり、不良となった缶にはピンホールの存在が確認された。このように該フィルムはピンホールの存在が原因で金属缶材に錆が発生し、外観を著しく劣化させるものであり、商品価値の低いものであった。
【0045】
比較例2
樹脂溶融工程において、孔径100μmおよび80μmの2段方式のメルトフィルターを有しているものを用い、その結果、直径0.3mmφのピンホール検出個数が5ヶ/1,000m2であったポリエステル系フィルムを用いた以外は実施例1と同じ方法でラミネート鋼板を得て、錆発生に関する試験を実施した。これらの特性を表1に示す。
本比較例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板および金属容器は、錆の発生した缶の個数が4ヶ/50,000缶であり、不良となった缶にはピンホールの存在が確認された。このように該フィルムはピンホールの存在が原因で金属缶材に錆が発生し、外観を著しく劣化させるものであり、商品価値の低いものであった。
【0046】
比較例3
ポリエステル系樹脂混合物の水分率が500ppmであるものを用い、その結果、直径0.2mmφのピンホール検出個数が10ヶ/1,000m2であったポリエステル系フィルムを用いた以外は実施例1と同じ方法でラミネート鋼板を得て、錆発生に関する試験を実施した。これらの特性を表1に示す。
本比較例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板および金属容器は、錆の発生した缶の個数が9ヶ/50,000缶であり、不良となった缶にはピンホールの存在が確認された。このように該フィルムはピンホールの存在が原因で金属缶材に錆が発生し、外観を著しく劣化させるものであり、商品価値の低いものであった。
【0047】
比較例4
コロナ放電処理を行わず、表面濡れ張力が380μNであるポリエステル系フィルムを用いた以外は比較例1と同じ方法でラミネート鋼板を得た。これらの特性を表1に示す。
本比較例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板は、ピンホールが存在し、かつ、製缶工程で該フィルムが剥離し、実用性の低いものであった。
【0048】
比較例5
熱固定温度を135℃とし、横方向の加熱収縮率が8%であるポリエステル系フィルムを用いた以外は比較例1と同じ方法でラミネート鋼板を得た。これらの特性を表1に示す。
本比較例で得られた金属板へのラミネート用フィルムおよびラミネート鋼板は、ピンホールが存在し、かつ、ラミネート工程で皺が発生し、実用性の低いものであった。
実施例1および比較例1?5の結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例2
直径0.05mmのピンホールが1ヶ/1缶存在するサンプルにおいて防錆性試験法を実施したところ、1ヶ月後の錆の発生は認められず、錆発生による外観の著しい劣化等の無い、商品価値の高いものであった。
【0051】
比較例6
直径0.1mmのピンホールが1ヶ/1缶存在するサンプルにおいて防錆性試験法を実施したところ、1ヶ月後の錆の発生は認められ、錆発生による外観の著しい劣化が確認され、商品価値の低いものであった。
【0052】
比較例7
直径0.2mmのピンホールが1ヶ/1缶存在するサンプルにおいて防錆性試験法を実施したところ、1ヶ月後の錆の発生は認められ、錆発生による外観の著しい劣化が確認され、商品価値の低いものであった。
【0053】
【発明の効果】
本発明の金属板へのラミネート用フィルム、これをラミネートした金属板およびこの金属板から造られる金属容器は、金属缶材の錆を発生させることによる外観の著しい劣化、美的意匠感の損失、錆成分の食料品への移行による食料品の変質などがほとんどない、極めて美的意匠感が優れ、食料品の保護効果の高い美粧金属容器を提供し得、例えば清涼飲料、ビール、缶詰の如き金属缶材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
フィルムのピンホールの検出装置および検出方法を示す図である。
【符号の説明】
1:巻出し軸部およびピンホール検出試験前フィルム
2:ガイドローラー
3:検出部ローラー
4:検出電極
5:ガイドローラー
6:圧接ローラー
7:巻取り軸部およびピンホール検出試験後フィルム
8:高電圧発生装置およびピンホール検出データ処理装置
9:ケーブル結線
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-22 
出願番号 特願平9-69433
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 藤原 浩子
石井 あき子
登録日 2001-11-09 
登録番号 特許第3248447号(P3248447)
権利者 東洋紡績株式会社
発明の名称 金属板ラミネート用フィルム  
代理人 高島 一  
代理人 高島 一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ