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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G03F
管理番号 1149838
異議申立番号 異議2003-73392  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-10-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-22 
確定日 2006-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3472771号「ポジ型レジスト組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3472771号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3472771号に係る発明は、平成7年10月30日に出願された特願平7-305113号出願の一部を平成12年3月29日に新たな特許出願(特願2000-91921号)として出願し、さらにその一部を平成13年5月7日に新たな特許出願(特願2001-136724号)として出願し、さらにまたその一部を平成14年3月19日に新たな特許出願(特願2002-76812号)として出願したものであって、平成15年9月12日に特許の設定登録がなされた。
本件特許公報は、平成15年12月2日に発行され、その請求項1に係る特許に対して、浜田一美より特許異議の申立があり(なお、請求項2に係る特許に対しての申立ては、平成16年12日付けで取り下げられた。)、当審において、本件の請求項1に係る特許に対して、平成17年1月5日付けで取消理由を通知したところ、同年3月15日付けで訂正請求がなされた。
当審において、該訂正請求のうち、異議の申立てがされていない請求項2に係る訂正事項について、同年6月1日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、同年8月9日付けで訂正請求の補正がなされた。

第2 訂正の適否
1 訂正請求書の補正について
平成17年8月9日付けの手続補正は、同年3月15日付け訂正請求における請求項2についての訂正事項を削除するとともに、それに伴い添付した全文訂正明細書の記載を補正するものであるから、訂正請求の要旨を変更するものではない。

2 訂正事項
よって、本件訂正請求は、本件明細書を、平成17年8月9日付けで補正された訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載された一般式における「R2」及び「R3」を、それぞれ「R4」及び「R5」と訂正するとともに、「R2はメチル基又はエチル基、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である」とあるのを、「R4びR5はメチル基又はエチル基である」と訂正し、末尾に「ポジ型レジスト用基材樹脂」とあるのを、「KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト用基材樹脂」と訂正する。

訂正事項b
段落【0001】及び段落【0009】に「紫外線、遠紫外線、KrF、ArFなどのエキシマレーザー、X線、及び電子線などの放射線」とあるのを、「KrFエキシマレーザー」と訂正する。

訂正事項c
段落【0006】に「化学増幅型レジスト」とあるのを、「KrFエキシマレーザー用化学増幅型レジスト」と訂正する。

訂正事項d
段落【0011】、段落【0018】、段落【0024】、段落【0025】、段落【0026】、段落【0027】、段落【0028】、段落【0029】及び段落【0043】に「ポジ型レジスト組成物」とあるのを、「KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物」と訂正する。

訂正事項e
段落【0010】に記載された一般式【化6】における「R2」及び「R3」を、それぞれ「R4」及び「R5」と訂正するとともに、該式中の説明中に「R2はメチル基又はエチル基、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である」とあるのを、「R4びR5はメチル基又はエチル基である」と訂正し、且つ同段落中に「ポジ型レジスト組成物、及び(A)(a1)前記一般式(I)」とあるのを、「KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物、及び(A)(a1)一般式
【化8】

(I´)
(式中、R1は前記と同じ意味を持ち、R2はメチル基又はエチル基、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である)」と訂正し、さらに同段落にある「【化8】」を「【化9】」と訂正する。

訂正事項f
段落【0012】にある「感度、解像力がバランス良く向上するので好ましい。」という記載と、「この基材樹脂は」という記載の間に、改行して、「また、前記一般式(IV´)の置換基としては、例えば1-メトキシエトキシ基、1-エトキシエトキシ基、1-メトキシ-1-メチルエトキシ基、1-エトキシ-1-メチルエトキシ基、1-メトキシ-n-プロポキシ基、1-エトキシ-n-プロポキシ基などが挙げられる。中でも、特に、1-エトキシエトキシ基及び1-メトキシ-n-プロポキシ基が感度、解像力がバランス良く向上するので好ましい。」を追加するとともに、同段落に「公知の置換反応に従い前記一般式(IV)の残基で置換することにより製造することができる。」とあるのを、「公知の置換反応に従い前記一般式(IV)又は(IV´)の残基で置換することにより製造することができる。」と訂正する。

訂正事項g
段落【0029】に「deep-UV光、エキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して照射するか、電子線により描画し、」とあるのを、「KrFエキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して照射し、」と訂正する。

訂正事項h
段落【0011】に
「【化9】

(IV)
(式中のR1、R2及びR3は前記と同じ意味をもつ)」
とあるのを、
「【化10】

(IV)
又は
【化11】

(IV´)
(式中のR1?R5は前記と同じ意味をもつ)」
と訂正する。

訂正事項i
段落【0014】に「一般式(I)」とあるのを、「一般式(I)又は(I´)」と訂正すると共に、「【化10】」とあるのを「【化12】」と訂正する。

訂正事項j
段落【0019】にある「【化11】」及び「【化12】」を、それぞれ「【化13】」及び「【化14】」に訂正する。

3 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無及び拡張・変更の存否
(1) 訂正事項aは、願書に添付された明細書の段落【0012】の「前記一般式(IV)の置換基としては、・・・中でも、特に1‐エトキシエトキシ基及び1‐メトキシ‐n‐プロポキシ基が感度、解像力がバランス良く向上するので好ましい。」という記載に基づき、特許請求の範囲の請求項1に記載された一般式【化1】における保護基を形成する原子団のうちのR3について、その定義を「炭素数1?4の低級アルキル」から、「メチル基又はエチル基」に限定するとともに、同段落【0036】の「この膜に縮小投影露光装置NSR-2005EX8A(ニコン社製)(光源はKrFエキシマレーザーである)を用い、1mJずつドーズ量を加え露光したのち、」という記載に基づき、特許請求の範囲の請求項1における「ポジ型レジスト組成物」を、「KrFエキシマレーザー用」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものであり、また、「R2」を「R4」に、「R3」を「R5」に表記を替える訂正は、請求項2についての訂正事項を削除することに伴う明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであって、いずれも願書に添付された明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項bないしjは、訂正事項aにより減縮された特許請求の範囲の記載に合わせて、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであって、願書に添付された明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

4 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
前項に記載したとおり、訂正の請求は認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】(A)一般式
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R4びR5はメチル基又はエチル基である)で表わされる構成単位10?60モル%と、式
【化2】

で表わされる構成単位90?40モル%で構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはその両方を含む酸発生剤を含有してなるKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物。」

第4 取消理由の概要
平成17年1月5日付けで通知した取消理由の理由(1)の概要は、以下のとおりである。
理由(1)
本件発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1ないし7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特開平5-249682号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証 )
2.特開平6-194842号公報(同甲第2号証)
3.特開平6-287163号公報(同甲第3号証)
4.特開平6-214402号公報(同甲第4号証)
5.特開平6-332180号公報(同甲第5号証)
6.滝川忠宏他編「ULSIリソグラフィ技術の革新」株式会社サイエンス フォーラム(1994年11月10日発行)308?317頁(同甲第6号証)
7.Japanese Journal of Applied Physics,31(1992)p.4316?4320(同甲第7号証)
8 特開平8-253528号公報

第5 当審の判断
1 本件の出願日
(1) 本件発明は、前項「第3 本件発明」に記載したとおりのものであって、該記載から明らかなように、「一般式【化1】(式及び式中の説明の記載を省略)で表わされる構成単位10?60モル%と、式【化2】(式の記載を省略)で表わされる構成単位90?40モル%で構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなるKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物」をその特定事項とするものである。
そして、この記載から明らかなように、本件発明には、KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物において、基材樹脂として、上記の「式【化1】で表わされる構成単位10?60モル%と、式【化2】で表わされる構成単位90?40モル%で構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体」(以下、「本件発明のポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体」という。)のみを用いる場合が包含されることは明らかである。

(2) 本件に係る出願(特願2002-76812号)は、平成14年3月19日に特願2001-136724号(平成13年5月7日出願)の一部を新たな特許出願として出願されたものであるが、該特願2001-136724号は特願2000-91921号(平成12年3月29日出願)の一部を新たな特許出願として出願されたものであって、さらにまた該特願2000-91921号は特願平7-305113号(平成7年10月3日出願)の一部を新たな特許出願として出願されたものである。
本件に係る出願が、特許法第44条第2項の規定により、特願平7-305113号の出願の時に出願したものとみなされるためには、本件発明において特定する技術的事項のすべてが、もとの出願の願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明又は同図面に記載されていなければならないものであるところ、該特願平7-305113号の願書に最初に添付された明細書(以下、「原明細書」という。特開平9-127698号公報参照。)には、以下のとおり記載されている。
ア 「【0009】こうした現状に鑑み、本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、酸の作用によりアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する樹脂成分として、異なる2種の置換基を特定の割合でそれぞれ置換し、かつ特定の分子量と特定の分子量分布(Mw/Mn)を有するポリヒドロキシスチレンの混合物及び放射線の照射により酸を発生する化合物を使用し、さらに有機カルボン酸化合物を配合することで、高感度、高解像性で、耐熱性、引置き経時安定性、焦点深度幅特性及びレジスト溶液の保存安定性に優れるとともに、基板依存性がなくプロファイル形状の優れたレジストパターンを形成できる紫外線、遠紫外線、KrF、ArFなどのエキシマレーザー、X線、及び電子線などの放射線に感応する化学増幅型のポジ型レジスト組成物が得られることを見出し、本発明を完成したものである。」
イ 「【0012】【課題を解決するための手段】上記目的を達成する本発明は、(A)酸の作用によりアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する樹脂成分、(B)放射線の照射により酸を発生する化合物、及び(C)有機カルボン酸化合物を含むポジ型レジスト組成物において、(A)成分が(a)水酸基の10?60モル%が一般式化2
【0013】
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2はメチル基又はエチル基であり、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である。)で表わされる残基で置換された重量平均分子量8,000?25,000 、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下のポリヒドロキシスチレンと(b)水酸基の10?60モル%がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換された重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下のポリヒドロキシスチレンとの混合物であることを特徴とするポジ型レジスト組成物に係る。」
【0014】上記(A)樹脂成分の混合割合は、(a)成分が30?90重量%、(b)成分が10?70重量%、好ましくは(a)成分が50?80重量%、(b)成分が20?50重量%の範囲がよい。」
ウ 「【0070】製造例1
重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5のポリヒドロキシスチレン120gをN,N-ジメチルアセトアミド680gに溶解し、この溶液の中にジ-tert-ブチル-ジ-カーボネート85.0gを加え、かき混ぜながら完全に溶解したのち、トリエチルアミン59gを約15分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま約3時間かき混ぜた。次いで、得られた溶液に対して20倍量の純水を加え、水酸基がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリヒドロキシスチレンを析出させた。該析出物を純水で洗浄、脱水、乾燥して、水酸基の39モル%がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリヒドロキシスチレン(重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5)150gを得た。」
エ 「【0071】製造例2
重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5のポリヒドロキシスチレン120gをN,N-ジメチルアセトアミド680gに溶解し、この溶液の中に1-クロロ-エトキシエタン42.3を加え、かき混ぜながら完全に溶解したのち、トリエチルアミン78.8gを約30分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま約3時間かき混ぜた。次いで、得られた溶液に対して20倍量の純水を加え、水酸基が1-エトキシエトキシ基で置換されたポリヒドロキシスチレンを析出させた。該析出物を純水で洗浄、脱水、乾燥して、水酸基の39モル%が1-エトキシエトキシ基で置換されたポリヒドロキシスチレン(重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5)130gを得た。」
オ 「【0074】実施例1
製造例1で得られたポリヒドロキシスチレン3gと製造例2で得られたポリヒドロキシスチレン7g、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン0.4g、ビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン0.1g、ピロガロールトリメシレート0.2g、サルチル酸0.02g及びベンゾフェノン0.1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート45gに溶解したのち、さらにトリエチルアミン0.03g及びN,N-ジメチルアセトアミド0.5gを加えて溶解して得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフイルターでろ過したものをポジ型レジストの塗布液として調製した。」
カ 「【0075】次に調製された塗布液をスピンナーを使用してシリコンウエ-ハ上に塗布し、ホットプレート上で80℃、90秒間乾燥して膜厚0.7μmのレジスト膜を得た。この膜に縮小投影露光装置NSR-2005EX8A(ニコン社製)を用い、1mJづつドーズ量を加え露光したのち、105℃、90秒間加熱し、次いで2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で23℃にて65秒間現像処理し、30秒間水洗、乾燥してレジストパターンを形成した。」
キ 「【0080】実施例2
実施例1において、基板をTiNの金属膜が形成されたシリコンウェハーとした以外は、実施例1と同様にしてレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.23μmのラインアンドスペースパターンが形成された。」
ケ 「【0081】実施例3
実施例1において、基板をBPSGの絶縁膜が形成されたシリコンウェハーとした以外は、実施例1と同様にしてレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.23μmのラインアンドスペースパターンが形成された。」
これらの記載から明らかなように、原明細書に記載された上記(a)成分は、本件発明のポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体に相当するものである。
しかしながら、原明細書には、樹脂成分(基材樹脂)として、(a)成分と(b)成分の混合物を用いることが記載されているだけで、(a)成分からなる樹脂成分、すなわち(a)成分のみを樹脂成分(基材樹脂)として用いることについては、何ら記載されておらず、示唆する記載もない。

(3) この点について、特許権者は、平成17年8月9日付け意見書第5頁第14?23行において、以下のように主張している。
「一般に所定の成分を混合して用いるという技術的思想の創作が生じる場合、最初から突如として混合してもちいることが発想されることはなく、その前提として必ず混合する前の個々の成分を用いることが発想され、次いで混合して用いることが発想されるのでありますから、実施例1ないし3で用いている基材樹脂については、それぞれ製造例1で得られたポリヒドロキシスチレンを基材樹脂として用いた場合と製造例2で得られたポリヒドロキシスチレンを基材樹脂として用いた場合が潜在的に示されると考えるのが至当であり、当業者であれば、これらの場合から各成分を単独で用いる基材樹脂を想到することは極めて容易でありますので、原明細書には、本件請求項1の特定発明が示唆されているということができるのであります。」
しかしながら、実際の発想の順序がどうであれ、分割出願の発明が、特許法44条1項の「二以上の発明を包含する特許出願の一部」であるためには、分割出願の発明において特定する技術的事項のすべてが、もとの出願の当初明細書(原明細書)の発明の詳細な説明に記載されていなければならないものであるところ、原明細書においては、KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物における樹脂成分として使用できることが確認されているのは、(a)成分と(b)成分とを混合した場合だけであって、原明細書の記載からでは、樹脂成分として(a)成分のみを単独で使用した場合についても、(a)成分と(b)成分と混合して用いた場合に匹敵する作用効果を有することを示す根拠は全く見いだせず、原明細書から自明であるとすることはできない。

(4) 以上のとおり、原明細書には、本件発明のポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体のみを樹脂成分(基材樹脂)として用いることについては、何ら記載されておらず、また、自明であるとすることもできないから、本件発明は、原明細書に記載された発明であるとすることはできない。
したがって、本件に係る特許出願は、特許法第44条第1項に規定する特許出願であるとは認められず、その出願日は、現実の出願日である平成14年3月19日である。

2 各刊行物に記載された発明
刊行物1:特開平5-249682号公報
(1a)「【0001】・・・【産業上の利用分野】本発明は半導体素子等の製造に於いて用いられるレジスト材料に関する。詳しくは露光エネルギー源として300 nm以下の遠紫外光、例えば248.4 nmのKrFエキシマレーザ光等を用いてポジ型のパターンを形成する際のレジスト材料に関する。」
(1b)「【0003】例えば、KrFエキシマレーザ光や遠紫外光を光源とするレジスト材料として248.4nm付近の光に対する透過性が高い樹脂と分子内にジアゾジケト基を有する感光性化合物より成る溶解阻害型のレジスト材料が開発されている・・・。しかし、これ等の溶解阻害型レジスト材料は共通して感度が低く、高感度レジスト材料が要求される遠紫外光、KrFエキシマレーザ光用途には使用出来ない。又、近年、露光エネルギー量を低減させる方法(高感度化)として露光により発生した酸を媒体とする化学増幅型のレジスト材料が提案され・・・、これに関して種々の報告がなされている・・・。」
(1c)「【0005】更に、最近になって上記の欠点を改良したレジスト材料としてp-tert-ブトキシカルボニルオキシスチレンとp-ヒドロキシスチレンとの共重合体を用いたレジスト材料、・・・・等が報告されている。しかしながら、これ等・・・・の共重合体をレジスト材料の樹脂成分として用いた場合、高感度を保ち、且つtert-ブトキシカルボニル基、テトラヒドロピラニル基、tert-ブチル基等の保護基を脱離させてアルカリ可溶性にする為には強い酸を存在させる必要がある。・・・・等が使用されているが、このように強い酸の存在下でパターン形成を行った場合、露光から加熱処理までの時間経過に伴って、パターン寸法が著しく変化したり、全くパターン形成出来なくなったりするので、極めて短い時間ではパターン形成が可能であっても、露光から加熱処理までに時間を要する実際の操作に於いては良好なパターン形成は出来ない。」
(1d)「【0009】【発明の目的】本発明は上記した如き状況に鑑みなされたもので、遠紫外光、KrFエキシマレーザ光等に対し高い透過性を有し、これ等光源による露光や電子線、X線照射に対して高い感度を有し、耐熱性及び基板との密着性が極めて優れ、高解像性能を有し、且つパターン寸法が経時変化せずに精度の高いパターンが得られる実用的なポジ型レジスト材料を提供する事を目的とする。」
(1e)「【0028】一般式[I]で示される本発明に係る重合体に於て、m=0の場合は即ち、第三の成分を含まない場合は必然的に下記一般式[II]
【0029】
【化14】

【0030】
[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は夫々独立して水素原子又は炭素数1?6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基を表し(但し、R2及びR3が共に水素原子の場合は除く。)、又、R2とR3とで炭素数2?5のメチレン鎖を形成していても良く、R4は炭素数1?10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分枝状又は環状のハロアルキル基、又はアラルキル基を表し、kとlは夫々独立して自然数を表す{但し、0.1≦k/(k+l)≦0.9である。}。]で示される重合体となる。
【0031】一般式[I]又は[II]で示される本発明に係る重合体に於いて、上記一般式[IX]で示されるモノマー単位と、一般式[X]で示されるモノマー単位の構成比は通常1:9乃至9:1であり、何れの場合も本発明のレジスト材料として使用可能であるが重合体の耐熱性及び基板との密着性を極めて良好にする2:8乃至7:3がより好ましい。」
(1f)「【0042】本発明に係る重合体の平均分子量としてはレジスト材料として利用可能なものであれば特に限定することなく挙げられるが、好ましい範囲としては、ポリスチレンを標準とするGPC測定法により求めた重量平均分子量が通常1000?40000程度、より好ましくは3000?25000程度である。」
(1g)「【0054】本発明に於いて用いられる好ましい酸発生剤の具体例としては、例えばビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタン、メチルスルホニルp-トルエンスルホニルジアゾメタン、1-シクロヘキシルスルホニル-1-(1,1-ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1-ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1-メチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、・・・(中略)・・・等が挙げられるがこれ等に限定されるものではないことは言うまでもない。」
と記載され、
(1h)製造例1のポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]の合成では、得られた重合体のp-(1-エトキシエトキシ)スチレン単位とp-ヒドロキシスチレン単位の構成比は約1:1であり、重量平均分子量が約8500、Mw/Mn≒1.8であったこと(【0074】)
(1i)製造例2のポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]の合成では、重量平均分子量が9000で、Mw/Mn≒2.9であること(【0075】)、
(1j)製造例3ないし製造例5のポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]の合成では、重量平均分子量が、それぞれ「10000」、「11000」及び「10000」であること(【0076】?【0080】)
(1k)製造例6のポリ[p-(1-メトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]の合成では、得られた重合体のp-(1-メトキシエトキシ)スチレン単位とp-ヒドロキシスチレン単位の構成比は約45:55であり、重量平均分子量が9000、Mw/Mn≒1.8であったこと(【0081】)
(1l)製造例7のポリ[p-(1-メトキシ-1メチルエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]の合成では、得られた重合体のp-(1-メトキシ-1-メチルエトキシ)スチレン単位とp-ヒドロキシスチレン単位の構成比は約1:1であり、重量平均分子量が、「10000」であること(【0085】
(1m)表3の実施例7では、ポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例3の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0123】の表1)
(1n)同じく実施例11では、ポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例5の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0124】
の表2)
(1o)同じく実施例13では、ポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例4の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0124】の表2)
(1p)同じく実施例14では、ポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例1の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0124】
の表2)
(1q)同じく実施例21では、ポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例2の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0125】
の表3)
(1r)同じく実施例22では、ポリ[p-(1-メトキシ-1-メチルエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン](製造例7の重合体)に、酸発生剤としてビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンを使用したこと(【0125】の表3)
が記載され、
(1s)発明の効果について、「本発明のレジスト材料を300nm以下の光源、例えば遠紫外光(Deep UV)、例えばKrFエキシマレーザ光(248.4nm)等の露光用レジスト材料として用いた場合には、極めて高い解像性能を有し、且つ露光から加熱処理(ポストベーク)迄の時間経過に対して安定したパターン寸法の維持が可能な、実用的なクオーターミクロンオーダーの形状の良い微細なパターンが容易に得られる。従って本発明は、半導体産業に於ける超微細パターンの形成にとって大きな価値を有するものである。」(【0135】)
と記載されている。

刊行物3:特開平6-287163号公報
(3a)「【請求項3】一部の水酸基の水素原子がt-ブトキシカルボニル基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂(a)、溶解阻害剤(b)及び酸発生剤(c)をそれぞれ重量百分率で0.55≦a、0.07≦b≦0.40、0.005≦c≦0.15並びにa+b+c=1となるように含有すると共に、アルカリ水溶液で現像することが可能な、高エネルギー線に感応するポジ型レジスト材料であって、前記溶解阻害剤(b)が請求項1に記載された第三級ブチルエステル誘導体であることを特徴とするポジ型レジスト材料。
【請求項4】ポリ(ヒドロキシスチレン)が、リビング重合反応により得られる単分散性ポリ(ヒドロキシスチレン)である、請求項3に記載のポジ型レジスト材料。」(特許請求の範囲)に関し、
(3b)「【0034】ポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂の重量平均分子量は、耐熱性のレジスト膜を得るという観点から、1万以上であることが好ましく、又精度の高いパタンを形成させるという観点から分子量分布は単分散性であることが好ましい。ラジカル重合で得られるような、分子量分布の広いポリ(ヒドロキシスチレン)系樹脂を用いた場合には、レジスト材料中に、アルカリ水溶液に溶解し難い大きい分子量のものまで含まれることとなるため、これがパタン形成後の裾ひきの原因となる。従って、リビング重合によって得られるような単分散性のポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂を使用することが好ましい。」
(3c)「【0037】尚、単分散性とは分子量分布がMw/Mn=1.05?1.50であることを意味する。」
(3d)「【0049】本発明においては、オニウム塩以外の化合物を酸発生剤として単独で或いは併用して用いることができる。上記化合物としては、例えば、置換又は非置換のジ(フェニルスルホニル)ジアゾメタン等のジアゾ化合物、2,6─ジニトロベンジルトシレート等のベンジルトシレート類、ベンゾイントシレート及びトリアジン誘導体等を挙げることができる。」
と記載され、
(3e)実施例5では、「ベース樹脂には、分子量が10,000で分子量分布(Mw/Mn)が1.05のポリ(p-ヒドロキシスチレン)を20モル%t-ブトキシカルボニル化した樹脂を用いた。」(段落【0069】)
(3f)表3には、5つのベース樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が、それぞれ「1.10」、「1.13」、「1.11」、「1.00」及び「1.31」であること(段落【0078】)
が記載されている。

刊行物6:「ULSIリソグラフィ技術の革新」308?317頁
「化学増幅型レジスト」に関し、
(6a)「ノボラック樹脂はKrFリソグラフィには光吸収が大きく使用できないので、ポリヒドロキシスチレン(PHS)をベースにした材料が別に開発されている」(第310頁左欄第10?12行)
(6b)「NTTはイオン重合で得られる狭分散PHSを用い、部分的にtBOC化したレジストを検討し、解像性が改善されることを報告している。」(第311頁右欄第8?11行)
と記載されている。

刊行物7:Japanese Journal of Applied Physics,31(1992)p.4316?4320
(7a)「新しい単分散PHS(決定注:ポリヒドロキシスチレンの略)をベース樹脂とした化学増幅型ポジレジスト(MDPR)がKrFエキシマレーザリソグラフィー用に開発された。MDPRは、アルカリ現像可能な単層レジストで、部分的にt-BOC(決定注:t-ブトキシカルボニルの略)で保護された単分散のPHS、溶解抑止剤、及び光酸発生剤から構成されている。リビング重合により合成されたほぼ単分散のPHSを使用することにより、微細パターンを得ることができること。MDPRは、γ値が4の高いコントラストを示し、これが高解像度をもたらしている。」(第4316頁の要約部分)
(7b)「tBOC-PHSは、重量平均分子量(Mw)が13000、30000、70000で、各々の分散度(Mw/Mn)が1.29、1.02、1.03のものを信越化学工業(株)から入手した。」(第4316頁左欄第23?26行)
(7c)「この実験の中では、分子量が13000、分散度が1.29のほぼ単分散であるPHSをベースとしたレジストを使用した。」(第4316頁右欄下から第15?18行)
(7d)「Mw/Mnの効果を確かめるため、Mwが36400、Mw/Mnが1.76及びtBOC保護化率が13%である多分散のPHSをベースとしたレジストについても検討した。分子量分布のみの効果を評価するため、多分散のPHSをベースとしたレジストは、3種類の異なったMw(13000、30000、70000)を有するほぼ単分散のtBOC-PHSを混合することにより調整することができる。」(第4318頁右欄第8?14行)
と記載され、
(7e)「結論」の項には、「新しい単分散のPHSをベース樹脂とした化学増幅型ポジレジスト(MDPR)が開発された。MDPRは、部分的にt-BOCで保護されたPHS、溶解抑止剤、及び光酸発生剤から構成されているいる。ほぼ単分散のPHSを使用することにより、微細パターンを得ることができる。」(第4320頁左欄第3?8行)
と記載されている。

3 対比判断
(1) 刊行物1に記載された発明
上記刊行物1、3、6及び7は、いずれも前項1に記載した原出願の出願日である平成7年10月30日の前に頒布されたものであるところ、刊行物1には、前項2に記載した摘記事項(1d)ないし(1f)からみて、以下の発明が記載されているといえる。
「下記一般式[II]
【0029】
【化14】

【0030】
[式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2及びR3は夫々独立して水素原子又は炭素数1?6の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基を表し(但し、R2及びR3が共に水素原子の場合は除く。)、又、R2とR3とで炭素数2?5のメチレン鎖を形成していても良く、R4は炭素数1?10の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基、炭素数1?6の直鎖状、分枝状又は環状のハロアルキル基、又はアラルキル基を表し、kとlは夫々独立して自然数を表す{但し、0.1≦k/(k+l)≦0.9である。}。]で示される、重量平均量が3000?25000程度である重合体と、露光により酸を発生する感光性化合物と、これらを溶解可能な溶剤を含んで成るKrFエキシマレーザ用幅型ポジ型レジスト組成物。」

(2) 対比
そこで、本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
(ア) 刊行物1に記載された製造例1ないし製造例5で合成されたポリ[p-(1-エトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]、製造例6で合成されたポリ[p-(1-メトキシエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]、及び製造例7で合成されたポリ[p-(1-メトキシ-1-メチルエトキシ)スチレン-p-ヒドロキシスチレン]は、いずれも本件発明における、
一般式【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R4及びR5はメチル基又はエチル基である)で表わされる構成単位及び
式【化2】

で表わされる構成単位とからなる(ヒドロキシスチレン)誘導体に相当するものである。
(イ) 摘記事項(1e)の「本発明のレジスト材料として使用可能であるが重合体の耐熱性及び基板との密着性を極めて良好にする2:8乃至7:3がより好ましい。」という記載からみて、刊行物1に記載された発明の(ヒドロキシスチレン)重合体の構成比は、その殆どが、本件発明における一般式【化1】で表わされる構成単位10?60モル%と一般式【化2】で表わされる構成単位90?40モル%と重複するものである。
(ウ) 刊行物1には、「露光により酸を発生する感光性化合物」の好ましい例の1つとして、本件発明で特定する「ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン」が例示され(摘記事項(1g)参照)、また、実施例7、実施例11、実施例13、実施例14、実施例21及び実施例22では、基材樹脂として、それぞれ前記製造例3、製造例5、製造例4、製造例1、製造例2及び製造例7の重合体に、酸発生剤として本件発明で特定する「ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン 」を組み合わせて用いている(摘記事項(1m)?(1r)参照)。

以上の認定を踏まえると、両者は、
「(A)一般式【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R4及びR5はメチル基又はエチル基である)で表わされる構成単位10?60モル%と、
式【化2】

で表わされる構成単位90?40モル%で構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタンからなる酸発生剤を含有してなるkrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点:
ポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体の分子量分布(Mw/Mn)について、本件発明では、「1.5以下」と特定するものであるのに対して、刊行物1に記載された発明では、最小でも「1.8」である点。

(3) 相違点について
ア 相違点に係る構成の容易想到性ついて
刊行物3には、樹脂成分として、一部の水酸基の水素原子がt-ブトキシカルボニル基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂を用いたポジ型レジスト組成物(摘記事項(3a)参照)に関し、「ポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂の重量平均分子量は、耐熱性のレジスト膜を得るという観点から、1万以上であることが好ましく、又精度の高いパタンを形成させるという観点から分子量分布は単分散性であることが好ましい。ラジカル重合で得られるような、分子量分布の広いポリ(ヒドロキシスチレン)系樹脂を用いた場合には、レジスト材料中に、アルカリ水溶液に溶解し難い大きい分子量のものまで含まれることとなるため、これがパタン形成後の裾ひきの原因となる。従って、リビング重合によって得られるような単分散性のポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂を使用することが好ましい。」及び「尚、単分散性とは分子量分布がMw/Mn=1.05?1.50であることを意味する。」と記載されている。
また、刊行物7には、「新しい単分散のPHSをベース樹脂とした化学増幅型ポジレジスト(MDPR)が開発された。MDPRは、部分的にt-BOCで保護されたPHS、溶解抑止剤、及び光酸発生剤から構成されているいる。ほぼ単分散のPHSを使用することにより、微細パターンを得ることができる。」と記載され、実験では、分散度(Mw/Mn)が1.29のものを使用するとともに、Mw/Mnの効果を確かめるために、(Mw/Mn)が1.76のものを用いたことが記載されている。
さらに、刊行物6には、「ノボラック樹脂はKrFリソグラフィには光吸収が大きく使用できないので、ポリヒドロキシスチレン(PHS)をベースにした材料が別に開発されている」及び「NTTはイオン重合で得られる狭分散PHSを用い、部分的にtBOC化したレジストを検討し、解像性が改善されることを報告している。」と記載されている。
これらの刊行物の記載から明らかなように、本件の原出願の出願日である平成7年10月30日の前に、ポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなるKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物において、基材樹脂が単分散であること、すなわち、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であることが望ましいことは、既に知られているところである。
これらの刊行物の記載は、いずれも、一部の水酸基の水素原子がt-ブトキシカルボニル基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂に関するものであるが、ポリヒドロキシスチレン誘導体をベース樹脂としたKrFエキシマレーザー用ポジレジスト組成物である点では、本件発明と共通するものであるから、当業者であれば、刊行物1に記載された発明において、レジスト用基材樹脂(重合体)として、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下である、単分散のものを用いることに格別な創意を要するものとは認められない。

イ 明細書記載の効果について
本件明細書には、分子量分布の特定について、「さらに、耐熱性を高めるには、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で表わされる分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であることが必要である。」(段落【0013】)と記載されているのみであって、それ以上の記載はない。
さらに、本件明細書の実施例及び比較例の記載を検討するに、実施例及び比較例のいずれも、基材樹脂として、「1-エトキシエトキシ基で置換されたヒドロキシスチレン誘導体」と「t-ブトキシカルボニル基で置換されたヒドロキシシチレン誘導体」の混合物を用いたものであり、本件発明で特定するポリヒドロキシスチレン誘導体を単独で用いた場合については何等記載されていないから、単独使用の場合の効果については、明らかでないといわざるを得ない。

ウ 特許権者の主張について
特許権者は、平成17年8月9日付け意見書において、以下のように主張している。
「こられの刊行物(決定注:刊行物3,6及び7)には、上記のポリヒドロキシスチレン誘導体に対し、ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンという特定の酸発生剤を組み合わせて含有させたポジ型レジスト組成物については全く記載されていません。そして前出の実験成績報告書から以下のことが分かります。
(イ)本件請求項1の特許発明のポジ型レジスト組成物は、感度、限界解像度、パターン断面形状のすべてにおいて優れており、基板依存性もない。
(ロ)単分散エトキシエチル化ポリヒドロキシシチレンと多分散エトキシエチル化ポリヒドロキシスチレンを用いたポジ型レジスト組成物を比較すると、前者は後者よりも感度と解像度が優れている。両者の限界解像度の差は10?2nmであるが、微細化が要求される半導体デバイス製造に用いられるポジ型レジストにおいて、解像度は最も重要な特性であり、またKrF(248nm)の波長限界を超えた180nmという解像度は実用上非常に重要
な意味を有する。
(ハ)公知の単分散t-Boc化ポリヒドロキシスチレンを用いたポジ型レジスト組成物は、感度、限界解像度において、著しく劣る上に、基板依存性も大きく、チタンナイトライド基板に代えると未解像であり、基板依存性が大きい。
(ニ)単分散tert-ブトキシエチル化ポリヒドロキシスチレンを用いたポジ型レジスト組成物は、限界解像度において著しく劣る。なお、これは効率のよいジアゾメタン系酸発生剤を用いたにもかかわらず、限界解像度は220nmと低い。
(ホ)単分散t-ブトキシエチル化ポリヒドロキシスチレンを用いたポジ型レジスト組成物は、別の好ましい酸発生剤であると思われるN-スルホニルオキシイミド系酸発生剤を用いた場合でも限界解像度は250nmと劣るし、基板依存性も大きい。
以上のように、ポリヒドロキシスチレンについて、その水酸基の一部を置換している酸解離性保護基の種類により、分子量分布(Mw/Mn)の大小すなわち単分散か多分散かの影響は著しく異なるのでありますから、刊行物3,6ないし7により、特定の化学増幅型のポジ型レジストにおいて重合体の分子量分布が小さいことすなわち単分散であることが好ましことが知られていたとしても、それに基づいて本件請求項1の特許発明分子量分布を1.5以下に選ぶことにより奏される効果を予測することはできないものであります。」

そこで、以下、請求人の主張する効果について検討する。
(a) 確かに、刊行物3、6及び7には、酸発生剤として「ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン」については記載がないが、該酸発生剤との組み合わせについては、既に刊行物1に記載されているところであって、相違点ではない。
前項「(2) 対比」に記述したとおり、刊行物1に記載された発明との相違点は、分子量分布を1.5以下と特定した点だけであるが、前記イで述べたとおり、本件明細書には、分子量分布の特定について、「さらに、耐熱性を高めるには、質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で表わされる分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であることが必要である。」(段落【0013】)と記載されているのみであって、それ以上の記載はない。
また、本件明細書の実施例及び比較例の記載を検討するに、両者の相違点は、実施例では分子量分布が「1.5」であるのに対して、比較例では分子量分布が「4」であるという点だけであるが、実施例及び比較例のいずれも、基材樹脂として、「1-エトキシエトキシ基で置換されたヒドロキシスチレン誘導体」と「t-ブトキシカルボニル基で置換されたヒドロキシシチレン誘導体」の混合物を用いたものであり、特許権者が主張する、本件発明で特定するポリヒドロキシスチレン誘導体を単独で用いた場合については何等記載されていない。
しかも、混合物である両者の効果上の相違は、最大露光量(mJ/cm2)が実施例では「11」であるのに対し比較例では「15」である点、耐熱性(℃)が実施例では「135」であるのに対し比較例では「125」である点、焦点深度(μm)が実施例では「2.0」であるのに対し比較例では「1.6」である点、及び引置経時安定性(分間)が実施例では「90」であるのに対し比較例では「60」である点だけであり、ラインアンドスペースはいずれも「0.21μm」であり、保存安定性については「6ヶ月異常発生なし」であり、さらに、プロファイルについては「側面が垂直で良好な形状」である点では相違していない。
したがって、特許権者の上記主張の根拠となる記載は本件明細書には全く見いだせないから、該主張は、本件明細書の記載に基づかない主張である。

(b) さらに、特許権者は、追加の実験成績報告書(平成17年3月15日付け意見書に添付)を提出するとともに、ポリヒドロキシスチレンの水酸基の一部を置換している酸解離性保護基の種類により、分子量分布(Mw/Mn)の大小すなわち単分散か多分散かの影響は著しく異なる旨の主張をしている。
しかしながら、基材樹脂の分子量分布(Mw/Mn)を1.5以下としたことによる効果については、刊行物3に「精度の高いパターンを形成させるという観点から分子量分布は単分散であることが好ましい。」(摘記事項(3b))と記載され、刊行物6に「解像性が改善される」(摘記事項(6b))と記載され、さらに、刊行物7に「微細パターンを得ることができる。MDRPは、γ値が4の高いコントラストを示し、これが高解像性をもたらしている。」(摘記事項(7e))と記載されている。
これらの刊行物に記載されたものは、いずれも一部の水酸基の水素原子がt-ブトキシカルボニル基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂を基材樹脂とするものであるが、これらの刊行物に記載されたようなt-ブトキシカルボニル基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)樹脂に限らず、その他の酸解離性保護基で置換されたポリヒドロキシスチレン誘導体を基材樹脂としたKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物において、該基材樹脂の分子量分布(Mw/Mn)の小さい方が好ましいことは、前述の原出願の出願日である平成7年10月30日の前に、すでによく知られているところである。例えば、特開平6-273935号公報(請求項2参照)、特開平6-273934号公報(請求項2参照)、特開平6-236037号公報(請求項2、及び【効果】参照)及び特開平2-161436号公報(実施例1のベース樹脂の合成例参照)等には、基材樹脂の分子量分布(Mw/Mn)の小さい方が、感度、解像度に優れ、しかも、レジストパターンの耐熱性が優れており、微細で基板に対して垂直なパターンが形成できることも記載されている。また、本件に係る特許出願の現実の出願日である平成14年3月19日の前公知である特開平8-253528号公報(刊行物8)には、本件発明と同じ構成単位を有する樹脂であり、Mw/Mn比が1.03?1.80、より好ましくは1.03?1.5である樹脂をポジ型レジスト用の樹脂として用いることにより、良好な接着性、加工安定性、UV放射線、電子ビームおよびX線に対する感受性を有し、高い光学的透明度のためDUV領域での使用に特に適し、良好な熱安定性を有し、かつ高い解像度が可能であることも記載されている。
してみれば、当業者であれば、刊行物1に記載された発明においても、レジスト用基材樹脂(重合体)として、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下である、単分散のものを用いてみることに、格別な創意を要するものとは認められない。そして、そのことにより、感度及び解像度に優れ、しかも、レジストパターンの耐熱性が優れており、微細で基板に対して垂直なパターンが形成できるという効果が得られるであろうことは、当業者が容易に予測し得ることである。

(c) 一方、摘記事項(1c)に摘記するとおり、刊行物1には、KrFエキシマレーザー用化学増幅型ポジ型レジストにおける従来技術として、これらのtert-ブトキシカルボニル基、テトラヒドロピラニル基、tert-ブチル基等の酸解離性保護基で置換したヒドロキシスチレン誘導体を基材樹脂とするレジスト材料を挙げると共に、刊行物1に記載された発明の目的が、これらの従来技術における「このように強い酸の存在下でパターン形成を行った場合、露光から加熱処理までの時間経過に伴って、パターン寸法が著しく変化したり、全くパターン形成出来なくなったりするので、極めて短い時間ではパターン形成が可能であっても、露光から加熱処理までに時間を要する実際の操作に於いては良好なパターン形成は出来ない。」という問題点を解決することにあること、及び刊行物1に記載された発明が、「極めて高い解像性能を有し、且つ露光から加熱処理(ポストベーク)迄の時間経過に対して安定したパターン寸法の維持が可能な、実用的なクオーターミクロンオーダーの形状の良い微細なパターンが容易に得られる。」(摘記事項(1n)参照)という効果を有することが記載されている。
すなわち、酸解離性保護基を、特定のアルコキシアルキルオキシ基としたことによる効果については、上述のとおり刊行物1に記載されており、特に、刊行物1に記載された「露光から加熱処理(ポストベーク)迄の時間経過に対して安定したパターン寸法の維持が可能」という記載は、本件発明の効果である「引置き経時安定性」に該当するものである。

(d) 特許権者の主張する「基板依存性」に関しては、いずれの刊行物にも具体的な記載はない。
しかしながら、上記主張における(ハ)及び(ホ)の記載からみて、本件発明における基板依存性は、酸解離性保護基が特定のアルコキシアルキルオキシ基であるポリヒドロキシスチレン誘導体である基材樹脂と、酸発生剤としての「ビス(シクロへキシルスルホニル)ジアゾメタン又は/及びビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン」とを用いたことによるものともいえるが、この点については刊行物1に記載されているところであって、刊行物1に記載された発明においても当然に奏されるものである。

ウ まとめ
以上のとおり、上記相違点に係る構成は、当業者が容易に導き出しうる構成であって、特許権者が主張する本件発明の効果は、当業者が容易に予期しうるところのもの、或いは刊行物1に記載された発明自体が有している効果にすぎない。
したがって、本件に係る特許出願が特許法第44条第1項の規定に基づく適法な特許出願であるか否かに拘わらず、本件発明は、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明及び刊行物3、刊行物6及び刊行物7等に記載された当該分野における周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結び
以上のとおり、本件発明は、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明及び刊行物3、6及び7等に記載された当該分野における周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第113条第2号の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポジ型レジスト組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)一般式
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R4及びR5はメチル基又はエチル基である)
で表わされる構成単位10?60モル%と、式
【化2】

で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはその両方を含む酸発生剤
を含有してなるKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物。
【請求項2】(A)(a1)一般式
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2はメチル基又はエチル基、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である)
で表わされる構成単位10?60モル%と、式
【化4】

で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体と、(a2)式
【化5】

で表わされる構成単位10?60モル%と、前記化4で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体との混合物からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはその両方を含む酸発生剤
を含有してなるポジ型レジスト組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なポジ型レジスト組成物、さらに詳しくは、高感度、高解像性を有し、耐熱性、焦点深度幅特性、引置き経時安定性及びレジスト溶液の保存安定性がよく、かつ基板依存性がなくプロファイル形状の優れたレジストパターンを与えるKrFエキシマレーザーに感応する化学増幅型のポジ型レジスト組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ICやLSIなどの半導体素子は、ホトレジスト組成物を用いたホトリソグラフィー、エッチング、不純物拡散及び配線形成などの工程を数回繰り返し製造されているが、このホトリソグラフィーにおいては、ホトレジスト組成物をシリコンウエーハ上に回転塗布などにより塗布し薄膜を形成し、それをマスクパターンを介して、紫外線などの放射線を照射し、現像してレジストパターンを形成したのち、前記レジストパターンを保護膜としてエッチングが行われる。
【0003】
そして、これまで、前記ホトリソグラフィーで使用されているホトレジスト組成物は、それに要求される解像性が、サブミクロン(1μm以下)、ハーフミクロン(0.5μm以下)程度であり、g線(436nm)、i線(365nm)などの紫外線を利用したアルカリ可溶性ノボラック樹脂とキノンジアジド基含有化合物を基本成分としたポジ型ホトレジストで十分実用に供することができた。
【0004】
ところで、近年、半導体素子の微細化が益々高まり、今日ではクオーターミクロン(0.25μm以下)の超微細パターンを用いた超LSIの量産が開始されようとしている。しかし、このようなクオーターミクロンの超微細パターンを得るには、従来のアルカリ可溶性ノボラック樹脂とキノンジアジド基含有化合物を基本成分としたポジ型ホトレジストでは困難なことから、より短波長の遠紫外線(200?300nm)、KrF、ArFなどのエキシマレーザー、電子線及びX線のためのレジストとして、高解像性が達成される上に、放射線の照射により発生した酸の触媒反応、連鎖反応を利用でき、量子収率が1以上で、しかも高感度が達成できる化学増幅型レジストが注目され、盛んに開発が行われ、既にポリ(ヒドロキシスチレン)の水酸基をtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換した樹脂成分とオニウム塩などの酸発生剤を組み合わせたレジスト組成物(米国特許4,491,628号明細書)が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記レジスト組成物は、解像度、焦点深度幅特性において十分なものでない上に、露光後一定時間放置した後、現像した場合、化学増幅型レジストに特有の露光により発生した酸の失活に起因するパターン形状劣化、いわゆる引置き安定性の不良(レジストパターン上部が庇状に連なってしまうブリッジング)を生じるという欠点がある。このようなブリッジングを生じると所望の配線パターンが得られないため、半導体素子製造において致命的なものとなる。このような欠点を克服する方法として、レジスト層上に露光により発生した酸の失活を防止するためトップコート層を設ける方法があるが、このような方法は、製造工程が増えスループットが悪くなる上に、コスト高となるため好ましくない。そこで、トップコート層を設ける必要のない引置き安定性に優れたレジストの出現が強く望まれている。
【0006】
また、これまでのKrFエキシマレーザー用化学増幅型レジストは、シリコン窒化膜(SiN)、ホウ素-リン-シリケートガラス(BPSG)などの絶縁膜やチタンナイトライド(TiN)の膜を設けた基板に対して裾引きのパターン形状を形成するという欠点がある。
【0007】
さらに、アルミニウム-ケイ素-銅(Al-Si-Cu)の合金、タングステン(W)などの金属膜を設けた基板を使用すると定在波の影響を受けパターン断面形状が波形となるという欠点がある。これらの基板依存性と定在波の欠点を改善する方法としては、基板とレジスト層との間に反射防止層を設ける方法があるが、この方法は上述トップコート層と同様に製造工程が増えスループットが悪くなる上に、コスト高となるため好ましくない。そこで、基板依存性がなく反射防止層を設ける必要がない上に、定在波の影響を受けにくくプロファイル形状の優れたレジストパターンを形成できるレジストの出現が強く望まれている。
【0008】
そのほか、従来のレジスト組成物は、熱に対して十分な耐性がない上に、それを溶液としたとき、しばしばその保存中に異物が発生するなど保存安定性に欠けるという欠点がある。そのため、耐熱性に優れるとともに、前記異物の発生のない保存安定性に優れたレジスト溶液が得られるレジスト組成物に対する要望も強くなっている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
このような現状に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、酸の作用によりアルカリ水溶液に対する溶解性が増大する基材樹脂成分として、水酸基の特定の割合が特定の置換基で置換され、かつ、特定の重量平均分子量及び分子量分布を有するポリ(ヒドロキシスチレン)を用い、かつこれを特定のジアゾメタン化合物を含む酸発生剤と組み合わせて用いることにより、高感度、高解像性で、かつ耐熱性、焦点深度幅特性、引置き経時安定性及びレジスト溶液の保存安定性が優れるとともに、基板依存性がなくプロファイル形状の優れたレジストパターンが形成でき、KrFエキシマレーザーに感応する化学増幅型のポジ型レジスト組成物が得られることを見出し、本発明を完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、(A)一般式
【化6】

(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R4及びR5はメチル基又はエチル基である)
で表わされる構成単位10?60モル%と、式
【化7】

(II)
で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはその両方を含む酸発生剤
を含有してなるKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物、及び(A)(a1)一般式
【化8】

(I´)
(式中、R1は前記と同じ意味をもち、R2はメチル基又はエチル基、R3は炭素数1?4の低級アルキル基である)
で表わされる構成単位10?60モル%と、前記式(II)で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体(以下ポリヒドロキシスチレンa1という)と、(a2)式
【化9】

(III)
で表わされる構成単位10?60モル%と、前記式(II)で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体(以下ポリヒドロキシスチレンa2という)との混合物からなる基材樹脂及び
(B)ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはその両方を含む酸発生剤
を含有してなるポジ型レジスト組成物を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物の(A)成分として用いる基材樹脂は、ポリ(ヒドロキシスチレン)の水酸基の10?60%、好ましくは20?50%を、一般式
【化10】

(IV)
又は
【化11】

(IV´)
(式中のR1?R5は前記と同じ意味をもつ)
で表わされる残基で置換することにより得られるポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体であって、重量平均分子量が8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下のものを用いることが必要である。このポリ(ヒドロキシスチレン)の水酸基の置換率が10%未満では形状の優れたパターンが得られず、60%を超えるとレジストの感度が低下するため好ましくなく、実用的には20?50%が好適である。
【0012】
前記一般式(IV)の置換基としては、例えば1-メトキシエトキシ基、1-エトキシエトキシ基、1-n-プロポキシエトキシ基、1-イソプロポキシエトキシ基、1-n-ブトキシエトキシ基、1-イソブトキシエトキシ基、1-(1,1-ジメチルエトキシ)-1-メチルエトキシ基、1-メトキシ-1-メチルエトキシ基、1-エトキシ-1-メチルエトキシ基、1-n-プロポキシ-1-メチルエトキシ基、1-イソブトキシ-1-メチルエトキシ基、1-メトキシ-n-プロポキシ基、1-エトキシ-n-プロポキシ基などが挙げられる。中でも、特に1-エトキシエトキシ基及び1-メトキシ-n-プロポキシ基が感度、解像力がバランス良く向上するので好ましい。
また、前記一般式(IV´)の置換基としては、例えば1-メトキシエトキシ基、1-エトキシエトキシ基、1-メトキシ-1-メチルエトキシ基、1-エトキシ-1-メチルエトキシ基、1-メトキシ-n-プロポキシ基、1-エトキシ-n-プロポキシ基などが挙げられる。中でも、特に1-エトキシエトキシ基及び1-メトキシ-n-プロポキシ基が感度、解像力がバランス良く向上するので好ましい。
この基材樹脂は、上記重量平均分子量と上記分子量分布を有するポリ(ヒドロキシスチレン)の水酸基を、例えば1-クロロ-1-エトキシエタンや1-クロロ-1-メトキシプロパンなどにより、公知の置換反応に従い前記一般式(IV)又は(IV´)の残基で置換することにより製造することができる。
【0013】
このポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体の重量平均分子量は、前記したように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法(GPC法)に基づき、ポリスチレン基準で8,000?25,000の範囲にあることが必要である。これよりも小さいと被膜性が不十分になるし、また、これよりも大きいとアルカリ水溶液に対する溶解性が低下する。
さらに、耐熱性を高めるには、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で表わされる分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であることが必要である。
【0014】
また、(A)成分は、前記の一般式(I)又は(I´)で表わされる構成単位と式(II)で表わされる構成単位からなるポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体すなわちポリヒドロキシスチレンa1は、水酸基の10?60%がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)、すなわち式
【化12】

(V)
で表わされる構成単位10?60モル%と、前記式(II)で表わされる構成単位90?40モル%とから構成され、かつ重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下を有するポリ(ヒドロキシスチレン)誘導体すなわちポリヒドロキシスチレンa2と混合して用いることもできる。このような基材樹脂を用いると、解像性、耐熱性及びプロファイル形状がより優れたポジ型レジスト組成物が得られるので有利である。
【0015】
このポリヒドロキシスチレンa2は、例えば重量平均分子量8,000?25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5以下のポリ(ヒドロキシスチレン)の水酸基を、ジ-tert-ブチル-ジカーボネートとの反応により、tert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換することにより得られる。この際、水酸基の置換率が10%未満では、プロファイル形状の優れたレジストパターンを与えることができないし、またこれが60%を超えると感度が低下する。水酸基の置換率の好ましい範囲は20?50%である。
ポリヒドロキシスチレンa1とポリヒドロキシスチレンa2とを混合して用いる場合の混合割合は、前者が30?90重量%、後者が70?10重量%、好ましくは前者が50?80重量%、後者が50?20重量%の範囲内で選ぶのが好ましい。
【0016】
本発明組成物は、上記の基材樹脂と、酸発生剤すなわち放射線の照射により酸を発生する化合物を含有してなるもので、これにより、高感度、高解像性を有し、溶液として良好な保存安定性を示す。そして、このポジ型レジスト組成物は、耐熱性、焦点深度幅特性、引置き経時安定性が優れ、かつ基板依存性がなく良好なプロファイル形状のレジストパターンを与える。
【0017】
次に、本発明組成物の(B)成分として用いられる酸発生剤としては、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン又はビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタンあるいはこの両方の混合物を含むものが用いられる。
前記酸発生剤の配合量は、基材樹脂成分100重量部に対し1?20重量部、好ましくは2?10重量部の範囲が選ばれる。酸発生剤が1重量部未満の配合では効果が不十分であり、また20重量部を超えると溶剤に溶解しにくくなる上に、樹脂成分との混和性が劣化する。
【0018】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物においては、所望によりさらに(C)成分として有機カルボン酸を含有させることができる。これにより、感度、解像度、レジストパターンの断面形状、露光後の引置き経時安定性が優れているとともに、種々の基板に対しても断面形状の良好なレジストパターンを与えるレジストとすることができる。
【0019】
このような有機カルボン酸としては、飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、オキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ケトカルボン酸、芳香族カルボン酸などいずれも使用でき、特に制限はない。このような有機カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの一価又は多価脂肪族カルボン酸、1,1-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,1-シクロヘキシルジ酢酸などの脂環式カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、3-ブテン酸、メタクリル酸、4-ペンテン酸、プロピオール酸、2-ブチン酸、マレイン酸、フマル酸、アセチレンカルボン酸などの不飽和脂肪族カルボン酸、オキシ酢酸などのオキシカルボン酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸などのアルコキシカルボン酸、ピルビン酸などのケトカルボン酸や一般式
【化13】

(VI)
[式中、R13及びR14はそれぞれ独立して水素原子、水酸基、ニトロ基、カルボキシル基、ビニル基を表す(ただし、R13及びR14が共に水素原子の場合は除く)]
及び一般式
【化14】

(VII)
(式中、nは0又は1?10の整数を示す)
で表わされる芳香族カルボン酸などを挙げることができるが、特に脂環式カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、及び芳香族カルボン酸が好ましい。
【0020】
上記一般式(VI)で表わされる芳香族カルボン酸としては、例えばp-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ-3-ニトロ安息香酸、3,5-ジニトロ安息香酸、2-ニトロ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などを挙げることができ、特にo-位に置換基を有する安息香酸、例えばo-ヒドロキシ安息香酸、o-ニトロ安息香酸、フタル酸などが好適である。
【0021】
また、一般式(VII)で表わされる芳香族カルボン酸としては、式中のnが単一のもののみ、または異種のものを組み合わせても使用することができるが、実用的にはフェノール化合物として市販されているSAX(商品名、三井東圧化学社製)が好ましい。
【0022】
上記一般式(VI)及び(VII)で表わされる芳香族カルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの芳香族カルボン酸の配合により断面形状の良好なレジストパターンを形成することができるとともに、露光後の引置き経時安定性が優れ、露光後に施される加熱処理までの時間の長さに関係なく、良好なプロファイル形状が形成できる。特に一般式(VII)で表わされる芳香族カルボン酸は矩形の断面形状が形成できるため好適である。
【0023】
この有機カルボン酸の配合量としては、基材樹脂と酸発生剤の合計量に対して0.01?1重量%、好ましくは0.05?0.5重量%の範囲で用いられる。有機カルボン酸の配合量が0.01重量%未満では断面形状の良好なレジストパターンが得られず、また1重量%を超えると現像性が低下するため好ましくない。
【0024】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物には、さらに放射線の照射により発生した酸の必要以上の拡散を防止し、マスクパターンに忠実なレジストパターンを形成でき、かつ解像度、引置き経時安定性を高めるために、(D)成分としてアミンを基材樹脂に基づき0.01?1重量%、好ましくは0.05?0.5重量%の範囲で含有させることができる。このアミンとしては脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミンなどが用いられる。この脂肪族アミンとしては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、イソプロピルアミンなどを挙げることができる。また、芳香族アミンとしては、例えばベンジルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、o-メチルアニリン、m-メチルアニリン、p-メチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジフェニルアミン、ジ-p-トリルアミンなどを挙げることができる。さらに複素環式アミンとしては、例えばピリジン、o-メチルピリジン、o-エチルピリジン、2,3-ジメチルピリジン、4-エチル-2-メチルピリジン、3-エチル-4-メチルピリジンなどを挙げることができる。これらの中で、特に強塩基性で低沸点のアミン、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンのような脂肪族アミンが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物には、前記した(A)ないし(D)成分に加え、さらに(E)成分としてN,N-ジアルキルカルボン酸アミドを含有させることにより、孤立したレジストパターンの形状の改善を行うことができる。このN,N-ジアルキルカルボン酸アミドの含有量は、基材樹脂に基づき0.1?5重量%の範囲が好ましい。このN,N-ジアルキルカルボン酸アミドとしては、低級カルボン酸アミドのN,N-ジアルキル基置換体、例えばN,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、また2種以上組み合せて用いてもよい。
【0026】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物においては、さらに、吸光剤を配合するのが好ましい。この吸光剤としては、例えば1-[1-(4-ヒドロキシフェニル)イソプロピル]-4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,4-ジヒドロキシフェニルメタンなどのポリフェノール類のナフトキノン-1,2-ジアジド-5-スルホン酸エステル、ベンゾフェノンなどが用いられる。そして、これらの吸光剤を配合することにより感度及び解像性の向上効果が得られるとともに、定在波の影響を抑制し断面形状が波状とならず矩形のレジストパターンを与えることができる。この吸光剤の配合量としては、基材樹脂と酸発生剤との合計量に対して30重量%を超えない範囲、好ましくは0.5?15重量%の範囲が選ばれる。この配合量が30重量%を超えるとプロファイル形状が悪くなる。
【0027】
上記各成分を含有するKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物は、その使用に当たっては溶剤に溶解した溶液の形で用いるのが好ましい。このような溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2-ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコール又はジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル又はモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類及びその誘導体;ジオキサンのような環式エーテル類;及び乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0028】
また、この際、所望によりKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物と混和性のある添加物、例えばレジスト膜の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、安定剤、着色剤、界面活性剤などの慣用されているものを添加含有させることができる。
【0029】
上記KrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物は、溶剤に溶解されスピンナーなどを用いて、例えばシリコンウエーハ、シリコン窒化膜(SiN)、BPSGなどの絶縁膜を設けた基板、チタンナイトライド(TiN)、Al-Si-Cu、タングステンなどの金属膜を設けた基板などに塗布し、乾燥して、感光層を形成したのち、縮小投影露光装置などにより、KrFエキシマレーザー光を所望のマスクパターンを介して照射し、現像液、例えば1?10重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液のようなアルカリ性水溶液などを用いて現像処理することにより、マスクパターンに忠実で良好なレジストパターンを形成する。このようにして、本発明の基材樹脂と酸発生剤を用いることにより、各種基板に依存することがなく、優れたレジストパターンが形成できる。
【0030】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0031】
参考例1
重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5のポリ(ヒドロキシスチレン)120gをN,N-ジメチルアセトアミド680gに溶解し、この溶液の中にジ-tert-ブチル-ジ-カーボネート85.0gを加え、かき混ぜながら完全に溶解したのち、トリエチルアミン59gを約15分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま約3時間かき混ぜた。次いで、得られた溶液に対して20倍量の純水を加え、水酸基がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)を析出させた。該析出物を純水で洗浄、脱水、乾燥することにより、水酸基の39%がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)[重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5]150gを得た。
【0032】
参考例2
重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5のポリ(ヒドロキシスチレン)120gをN,N-ジメチルアセトアミド680gに溶解し、この溶液の中に1-クロロ-1-エトキシエタン42.3gを加え、かき混ぜながら完全に溶解したのち、トリエチルアミン78.8gを約30分間かけて滴下した。滴下終了後、そのまま約3時間かき混ぜた。次いで、得られた溶液に対して20倍量の純水を加え、水酸基が1-エトキシエトキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)を析出させた。該析出物を純水で洗浄、脱水、乾燥することにより、水酸基の39%が1-エトキシエトキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)[重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)1.5]130gを得た。
【0033】
参考例3
参考例1においてポリ(ヒドロキシスチレン)を重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)4.0のポリ(ヒドロキシスチレン)に代えた以外は、参考例1と同様にして、水酸基の39%がtert-ブトキシカルボニルオキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)[重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)4.0]150gを得た。
【0034】
参考例4
参考例2においてポリ(ヒドロキシスチレン)を重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)4.0のポリ(ヒドロキシスチレン)に代えた以外は、参考例2と同様にして、水酸基の39%が1-エトキシエトキシ基で置換されたポリ(ヒドロキシスチレン)[重量平均分子量13,000、分子量分布(Mw/Mn)4.0]130gを得た。
【0035】
実施例1
参考例1で得られたポリ(ヒドロキシスチレン)3gと参考例2で得られたポリ(ヒドロキシスチレン)7g、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン0.4g、ビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン0.1g、ピロガロールトリメシレート0.2g、サリチル酸0.02g及びベンゾフェノン0.1gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート45gに溶解したのち、さらにトリエチルアミン0.03g及びN,N-ジメチルアセトアミド0.5gを加えて溶解して得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過したものをポジ型レジストの塗布液として調製した。
【0036】
次に調製された塗布液をスピンナーを使用してシリコンウエーハ上に塗布し、ホットプレート上で80℃、90秒間乾燥して膜厚0.7μmのレジスト膜を得た。この膜に縮小投影露光装置NSR-2005EX8A(ニコン社製)を用い、1mJずつドーズ量を加え露光したのち、105℃、90秒間加熱し、次いで2.38重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液で23℃において65秒間現像処理し、30秒間水洗、乾燥してレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は、定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.21μmのラインアンドスペースパターンが形成された。また、目視で確認できる大面積のレジストパターンがパターニングされ基板表面が現れる最小露光量を感度として測定した結果、11mJ/cm2であった。さらに、形成されたレジストパターンの耐熱性(熱によるフローが生じる温度)を調べた結果、135℃であった。焦点深度幅として0.25μmのラインアンドスペースパターンが1:1に形成される焦点の最大幅(μm)を求めたところ2.0μmであった。このレジスト溶液を褐色ビン中25℃で保存し保存安定性を調べたところ、6か月間異物の発生がなかった。
【0037】
また、引置き経時安定性として、上記と同様にしてレジストパターンを形成し、側面が垂直で良好なプロファイル形状の0.25μmのラインアンドスペースパターンが形成される露光から露光後加熱処理までの時間を測定したところ、90分間であった。
【0038】
比較例1
参考例3で得られたポリ(ヒドロキシスチレン)3gと参考例4で得られたポリ(ヒドロキシスチレン)7g、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン0.7g、サリチル酸0.05gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート45gに溶解したのち、さらにトリエチルアミン0.01g及びN,N-ジメチルアセトアミド0.2gを加えて溶解して得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターでろ過したものをポジ型レジストの塗布液として調製した。
【0039】
次に調製された塗布液を実施例1と同様にしてレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は、定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.21μmのラインアンドスペースパターンが形成された。また、目視で確認できる大面積のレジストパターンがパターニングされ基板表面が現れる最小露光量を感度として測定した結果、15mJ/cm2であった。さらに、形成された目視で確認できる大面積のレジストパターンの耐熱性(熱によるフローが生じる温度)を調べた結果、125℃であった。焦点深度幅として0.25μmのラインアンドスペースパターンが1:1に形成される焦点の最大幅(μm)を求めたところ1.6μmであった。このレジスト溶液を褐色ビン中25℃で保存し保存安定性を調べたところ、6か月間異物の発生がなかった。
【0040】
また、引置き経時安定性として、露光後加熱処理を110℃、90秒間とした以外は実施例1と同様にしてレジストパターンを形成し、側面が垂直で良好なプロファイル形状の0.25μmのラインアンドスペースパターンが形成される露光から露光後加熱処理までの時間を測定したところ、60分間であった。
【0041】
実施例2
実施例1において、基板をTiNの金属膜が形成されたシリコンウエーハとした以外は、実施例1と同様にしてレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.23μmのラインアンドスペースパターンが形成された。
【0042】
実施例3
実施例1において、基板をBPSGの絶縁膜が形成されたシリコンウエーハとした以外は、実施例1と同様にしてレジストパターンを形成した。形成されたレジストパターン断面は定在波の影響はなく矩形に近い良好なものであり、0.23μmのラインアンドスペースパターンが形成された。
【0043】
【発明の効果】
本発明のKrFエキシマレーザー用ポジ型レジスト組成物は、高感度で、クオーターミクロン以下の高解像性を有し、かつ耐熱性、焦点深度幅特性、引置き経時安定性及びレジスト溶液の保存安定性が優れ、基板依存性がなくプロファイル形状の優れたレジストパターンを与える。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-02-27 
出願番号 特願2002-76812(P2002-76812)
審決分類 P 1 652・ 121- ZA (G03F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 前田 佳与子山鹿 勇次郎  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 秋月 美紀子
阿久津 弘
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3472771号(P3472771)
権利者 東京応化工業株式会社
発明の名称 ポジ型レジスト組成物  
代理人 三輪 鐵雄  
代理人 阿形 明  
代理人 阿形 明  

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