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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1149840
異議申立番号 異議2003-71361  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-07-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-23 
確定日 2006-12-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3349851号「スラッジ抑制性に優れたアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物および表面処理方法」の請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3349851号の請求項1?7に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件発明
特許第3349851号の請求項1?7に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】アルミニウム含有金属材料の表面に化成皮膜を形成する水系
表面処理液であって、
下記成分:
(A)りん酸化合物、
(B)ジルコニウム化合物、
(C)酸化剤、および
(D)水溶液においてフッ化水素を、0.0001?0.2g/リットルの濃度で発生する量のフッ化水素供給源化合物を含有し、かつ1.5?4.0のpHを有することを特徴とする、スラッジ抑制性に優れたアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物。
【請求項2】前記フッ化水素供給源化合物がフッ化水素酸、およびフッ化アンモニウムから選ばれる請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】前記酸化剤が、過酸化水素、亜硝酸、オルガノパーオキサイド、およびこれらの塩から選ばれた少なくとも1種からなる、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項4】前記ジルコニウム化合物が、ジルコニウムに換算して0.005?0.5g/リットルの濃度で含まれている、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項5】前記りん酸化合物が、PO4イオンに換算して0.005?0.4g/リットルの濃度で含まれている、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項6】前記酸化剤が、0.01?5.0g/リットルの濃度で含まれている、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項7】請求項1?6のいづれか1項に記載の表面処理組成物を含有する処理液を、アルミニウム含有金属材料の表面に、0.5?60秒間接触させて化成皮膜を形成し、その後、当該表面を水洗し、乾燥することを特徴とする、スラッジ抑制性に優れたアルミニウム含有金属表面処理方法。」

2.引用刊行物記載の発明
当審が平成16年12月7日に通知した取消しの理由において引用した刊行物1、2(以下、「引用例1」、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)引用例1(特開昭54-24232号公報)
(1-1)「(1)チタン塩又はジルコニウム塩の1種又は2種以上と過酸化水素とリン酸又は縮合リン酸、又はリン酸誘導体の1種又は2種以上を含有する酸性溶液で処理することを特徴とするアルミニウム及びその合金の表面処理法。」(特許請求の範囲(1))
(1-2)「本発明は、アルミニウム及びその合金の表面処理法に関するもので、缶、建築、自動車、電気製品等の材料用アルミニウム及びその合金の表面に、外観、防食性、塗膜密着性の良好な保護被膜を形成させることを目的としている。」(第1頁左下欄第18行?右下欄第3行)
(1-3)「反応機構としては、チタン-過酸化水素-リン酸系(縮合リン酸、リン酸誘導体を含む)、ジルコニウム-過酸化水素-リン酸系(縮合リン酸、リン酸誘導体を含む)溶液にアルミニウムを接触させた場合、Me-(H2O2)(注 Me:チタン及びジルコニウム)によりアルミニウムが酸化され、アルミニウムイオンとMeイオンができる(式-1)、Me4+とAl3+はリン酸と反応してアルミニウム表面にMe3(PO4)4とAl・PO4系の被膜が化成される。(式2)
Al+Me-(H2O2)+H+→Al3++Me4++H2O-----(1)
(Me:Ti又はZr)
Me4++Al3++H3PO4→Me3(PO4)4↓+Al・PO4↓+H2O-----(2)
本反応により、生成した保護被覆は、非常に難溶性塩で安定した化合物であるため防食性及び塗膜密着性が優れている。」(第1頁右下欄第20行?第2頁左上欄第15行)
(1-4)「又本処理液には、反応促進剤として、弗酸、硫酸、ホウ酸、硝酸、ホウ弗化水素酸、ケイ弗化水素酸等の酸又は塩類を添加しても良い。本処理液は酸性側で使用する。好ましくはpH2?4である。」(第2頁左下欄第9?13行)
(1-5)「本発明に使用する成分Iは、チタン塩及びジルコニウム塩である・・・。ジルコニウム塩としては、ジルコニウム弗化水素酸・・・を挙げることができる。1lの処理液に含まれるチタン塩及びジルコニウム塩の1種又は2種以上の濃度は金属換算で0.01g?l0gで好ましくは0.1?2gである。」(第2頁左上欄第16行?右上欄第7行)、
「成分IIは過酸化水素及びその塩である・・・。1lの処理液に含まれる過酸化水素及びその塩の濃度は過酸化水素に換算して0.005g?5gで好ましくは0.01g?0.5gである。」(第2頁右上欄第8?13行)、
「成分IIIはリン酸又は縮合リン酸又はリン酸誘導体である・・・。1lの処理液に含まれるリン酸又は縮合リン酸又はリン酸誘導体の濃度は、リン酸に換算して、0.05g?20gで、好ましくは0.3g?3gである。」(第2頁右上欄第14行?左下欄第2行)
(1-6)「処理温度及び処理時間は、浴組成により異なるが、一般には室温?100℃、3秒?3分で浸漬、噴霧、塗布等の公知の方法で処理する。」(第2頁左下欄第19行?右下欄第1行)
(1-7)「実施例1
50×100×0.3mmのアルミニウム合金(5052)を弱アルカリ性洗浄液(pH9)で情浄した後、以下に示した浴成分を含む5lの水溶液で45℃、10秒間浸漬による処理をし、水洗、脱イオン水洗、次で乾燥した。
浴組成 Li2TiF6 1.0g/l
30%過酸化水素 0.07g/l
リン酸 1.0 〃
弗酸 0.02 〃
pH3.0 」(第3頁左上欄第13行?右上欄第4行)
(1-8)「実施例2
50×100×0.3mmのアルミニウム合金(5052)を硫酸系洗浄液(弗酸を含む)にて清浄した後、以下に示した浴成分を含む5lの水溶液で50℃、1分間スプレー方式による処理をし、水洗、脱イオン水洗、次で乾燥し、実施例1と同1条件で・・・試験を行った。」(第3頁右上欄第10?17行)
(1-9)「実施例3
50×100×0.3mmのアルミニウム合金(5052材)を弱アルカリ性洗浄液(pH9)で清浄した後、以下に示した浴組成を含む5lの水溶液で30℃、5秒間スプレー方式による処理をし、水洗、脱イオン水洗、次で乾燥し、・・・
浴組成 チタン弗化水素酸 3g/l
ジルコニウム弗化水素酸 2 〃
30%過酸化水素 1.8〃
ピロリン酸 1.8〃
pH3.5 」(第3頁左下欄第3?16行)

(2)引用例2(特開昭52-131937号公報)
(2-1)「(1)ジルコニウムまたはチタンあるいはこれらの混合物、ホスフェートおよび弗化物を含有し、且つ約1.5?約4.0の範囲内のpHを有する酸性の水性コーチング溶液であって、・・・該溶液は沈殿傾向のある固形物を実質的に含有しないものである、酸性の水性コーチング溶液。」(特許請求の範囲(1))
「(2)ジルコニウムおよび(または)チタンの合計量の少なくとも約10ppmであり、また少なくとも約10ppmのホスフエートおよび有効弗化物を含有する特許請求の範囲第(1)項記載の酸性の水性コーチング溶液。」(特許請求の範囲(2))
「(10)ジルコニウム源が弗化ジルコニウム酸アンモニウムであり、ホスフェート源がりん酸であり、有効弗化物源がHFを包含し、該溶液のpHを前記の値にするのに必要な量の硝酸、約8?約200ppmの弗化硼素酸および約40?約400ppmのグルコン酸を含有する特許請求の範囲第(9)項記載のコーチング溶液。」(特許請求の範囲(10))
「(15)アルミニウム表面を特許請求の範囲第(1)項記載のコーチング溶液と接触させることを包含するアルミニウム表面のコーチング法。」(特許請求の範囲(15))
(2-2)「本発明は、腐食抵抗性のコーチングであって、その上にペイント類、インク類およびラッカー類から形成されるようなオーバーレイコーチングが優秀に付着するコーチングをアルミニウム表面に施すことに関する。」(第3頁左下欄第2?6行)
(2-3)「本発明は六価のクロムを用いる必要がなく、アルミニウム表面にコーチング、特に均一に無色透明な外観を有し、腐食抵抗性であってしかもその上にオーバーレイコーチングがよく粘着することのできるコーチングを形成することのできる水性コーチング溶液を提供するものである。」(第4頁右上欄第7?12行)
(2-4)「ジルコニウム、弗化物およびホスフェートを含有する水性組成物を作成してこれを用いて本発明と同様なタイプのアルミニウムにコーチングを行う従来の技術はジルコニウム・ホスフェートの沈殿を生成するような条件下で行なっているが、これは以下に詳述するように工業的コーチング操作においては非常に望ましくないものである。また以下に詳述するように本発明の組成物は、この発明の水性コーチング溶液が沈殿する傾向のあるジルコニウムまたはチタンのホスフェートを実質的に含有しないような条件下で生成する。」(第6頁左上欄第6?17行)
(2-5)「たとえば本発明のコーチング溶液はアルミニウムを溶かすという事実である。従ってアルミニウムをコーチング溶液の浴に浸たすことによりこれをコーチング溶液と接触する場合、該浴中に溶解しているアルミニウムの濃度に蓄積がある。同様にアルミニウムを接触させるのに噴霧またはフロー・コーチング技術を用いて過剰または未反応の溶液を該溶液の浴に再循環させる場合には溶解したアルミニウムの浴中の蓄積がある。コーチング溶液中におけるアルミニウムの蓄積による結果生ずるコーチング・プロセスに対する悪影響を制止または予防するためには該溶液が十分な量の弗化物を含有して該溶解したアルミニウムを錯体としなければならない。」(第8頁左上欄第6?20行)
(2-6)「このような錯体弗化物の加水分解によって得られる弗化物の量は該アルミニウムの錯化を行なうには不十分であり、加水分解の程度は未錯化のジルコニウムまたはチタンがホスフェートと結合して望ましくない沈殿を生ずる程度であろう。該アルミニウムを錯化するのに十分な弗化物を容易に与えるような他の物質を用いると上記の事項を避けることができる。このような物質の例は弗化水素酸、その塩、NH4F・HFおよびアルカリ金属ビフルオライド等である。弗化水素酸は該アルミニウムを錯化するのに十分な弗化物を提供し、しかもコーチング・プロセスを妨害する外部カチオン源とならないので特に良好な弗化物源である。」(第8頁右上欄第16行?左下欄第8行)
(2-7)「実際的見地から言えばコーチング溶液は工業的規模で操作する時に過剰の弗化物、すなわち弗化物と錯化物を生成する該溶液中のアルミニウムおよびその他の全ての金属成分と錯化を行なう量以上の弗化物を含有していなければならない。本明細書ではこのような過剰の弗化物を「有効弗化物」と称し、HFおよび弗化物イオンとして存在する弗化物すなわち該溶液中の他の物質と結合していないFを意味する。」(第8頁左下欄第9?17行)
(2-8)「有効弗化物の上限はアルミニウム表面を不当にエッチングしないようなものとする。このような不当なエッチングにより表面は霜におおわれたようなにぶい状態のものとなる。有効弗化物が過剰に存在するとコーチングの腐食抵抗性および粘着性に悪影響をおよぼすことがわかった。これらの問題をひきおこす有効弗化物濃度はコーチング・プロセスにおける他のパラメー夕ーたとえば溶液のpHおよび接触時間および温度等によっても変わる。有効弗化物濃度が約500ppmより大きくないのが望ましい。」(第8頁右下欄第9?19行)
(2-9)「本発明を実施するに当たって特に好ましいコーチング溶液は約2.6?約3.1の範囲のpH値を有し、次の成分を含有するものである:・・・有効弗化物10?200(ppm)」(第9頁右下欄第2?8行)

3.対比・判断
(1)本件発明1について
引用例1には、アルミニウム及びその合金の表面処理法に用いられる酸性溶液であって、ジルコニウム塩と、過酸化水素と、リン酸、縮合リン酸又はリン酸誘導体の1種又は2種以上とを含有するもの(摘記1-1)が記載されており、当該酸性溶液をpH2?4で使用すること、また、反応促進剤としてであるが、弗酸を添加してもよいこと(摘記1-4)、水溶液を用いたもの(摘記1-7?1-9)、弗酸0.02g/lを添加したもの(摘記1-7)が記載されている。
ここで、引用例1記載の表面処理法は、当該酸性溶液がアルミニウム及びその合金と接触して反応し、アルミニウム及びその合金の表面に被膜が化成されて、防食性及び塗膜密着性の良好な保護被膜を形成するものである(摘記1-2、1-3)から、当該被膜が化成皮膜であることは明らかである。
これら引用例1の記載からみて、引用例1には、「アルミニウム及びその合金の表面に化成皮膜を形成する水系表面処理液であって、(A)リン酸、縮合リン酸又はリン酸誘導体の1種又は2種以上、(B)ジルコニウム塩、(C)過酸化水素を含有し、かつ2?4のpHを有するアルミニウム及びその合金用表面処理組成物」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

そこで、本件発明1と引用発明1を対比する。
本件特許明細書には、本件発明1の酸化剤として過酸化水素が例示され(請求項3)、「過酸化水素を用いることが最も好ましい」(段落【0031】)と記載されているから、引用発明1の「過酸化水素」は、本件発明1の「酸化剤」に相当し、また、引用発明1の「アルミニウム及びその合金」、「リン酸又は縮合リン酸、又はリン酸誘導体」、「ジルコニウム塩」は、それぞれ本件発明1の「アルミニウム含有金属材料」、「りん酸化合物」、「ジルコニウム化合物」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1は、「アルミニウム含有金属材料の表面に化成皮膜を形成する水系表面処理液であって、(A)りん酸化合物、(B)ジルコニウム化合物、(C)酸化剤、を含有するアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物」の点で一致し、かつ「1.5?4.0のpHを有する」の点でも重複し一致している。
一方、
(i)本件発明1では、「水溶液においてフッ化水素を、0.0001?0.2g/リットルの濃度で発生する量のフッ化水素供給源化合物」のとおり、フッ化水素供給源化合物の添加及びその含有量の特定がなされているのに対して、引用例1には、フッ化水素供給源化合物に該当する弗酸を添加することの記載があるものの(摘記1-4)、本件発明1のとおりにその含有量の特定をする記載が見当たらない点、並びに、
(ii)本件発明1では、「スラッジ抑制性に優れた」との特定がなされているのに対して、引用例1には、そのような特定をする記載が見当たらない点、
で、両者の発明は相違する。

そこで、これら相違点(i)及び(ii)について、検討する。

(1)相違点(i)について
引用例1に、反応促進剤として弗酸を添加することが記載され(摘記1-4)、その実施例1には、当該弗酸の含有量を0.02g/lとした例が示されている(摘記1-7)。当該実施例はチタン塩を含有成分とした場合のものであるが、引用例1に記載された表面処理法においては、チタン塩とジルコニウム塩とが互換可能な選択成分として同等に扱われていること(摘記1-1)からすると、ジルコニウム塩を含有成分とした場合、上記実施例1の記載に基づいて、弗酸の含有量を、チタン塩を含有成分とした場合と同じく0.02g/lとしてみることは、当業者が容易に想到できることである。
そして、弗酸(HF)の含有量は、実質的に、水溶液中でフッ化水素(HF)を発生する量に該当するといえるから、上記含有量の0.02g/lは、本件発明1で特定する含有量の「0.0001?0.2g/リットルの濃度で発生する量」に包含され、一致している。
してみれば、上記相違点(i)のようにフッ化水素供給源化合物の含有量を特定することは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点(ii)について
相違点(ii)に係る「スラッジ抑制性に優れた」との点は、本件発明1の組成物が請求項1に記載された特定の組成を有することにより奏される作用効果に係る特定事項であるところ、その組成については、上記「(1)相違点(i)について」欄で検討したとおり、当業者が容易になし得たことである。
加えて、上記のとおり引用例1には、弗酸の含有量を0.02g/lとすることが記載されており(摘記1-7)、この含有量の場合にスラッジが抑制されることは、本件明細書(段落【0019】参照。)の記載からも明らかである。
そして、組成物の組成が同じ場合には、それが奏する作用効果も同等といえるので、上記(1)欄までで検討したとおりの、本件発明1の組成物と一致した組成(成分、含有量、pH)からなる組成物の場合は、本件発明1と同じく、スラッジが抑制されるという作用効果が奏されるといえる。
したがって、上記相違点(ii)は、実質的な相違点を構成するものということはできない。

(3)さらに、別の観点から、上記相違点(i)及び(ii)について検討する。
引用例2には、ジルコニウムあるいはその混合物、ホスフェート及び弗化物を含有し、約1.5?4.0のpHを有する酸性の水性コーチング溶液、及び当該溶液をアルミニウム表面に接触させるコーチング法(摘記2-1)が記載されている。(なお、当該「コーチング溶液」または「コーチング法」との語句は、アルミニウム表面に関する記載(摘記2-2、2-3)からみて、皮膜を形成する用語を意味し、一般に使用される「表面処理液」または「表面処理法」に相当することは明らかである。)
そして、未錯化のジルコニウムまたはチタンがホスフェートと結合して望ましくない沈殿を生ずること、アルミニウムを錯化するのに十分な弗化物を容易に与える他の物質を用いるとそのような事態を避けることができること、弗化水素酸が良好な弗化物源であること(摘記2-6)、溶液中のアルミニウム及びその他の全ての金属成分と錯化を行う量以上の弗化物、すなわち過剰の弗化物(有効弗化物)を含有しなければならず、当該有効弗化物はHF及び弗化物イオンとして存在する弗化物を意味すること(摘記2-7)が記載されている。

したがって、これら引用例2の記載に基づき、引用例1記載の酸性溶液に対して、上記相違点(ii)のとおりジルコニウム含有スラッジの発生を抑制するために、上記相違点(i)のとおりフッ化水素酸(弗酸)のようなフッ化水素供給源を添加することは、引用例2の記載から当業者が容易に想到し得るものである。
また、上記相違点(i)におけるフッ化水素供給源化合物の含有量を「水溶液においてフッ化水素を、0.0001?0.2g/リットルの濃度で発生する量」とした点についても、この数値範囲は、引用例1記載の弗酸の含有量である「0.02g/l」(摘記1-7)及び引用例2記載の有効弗化物の含有量である「10?200ppm(0.01?0.2g/リットル)」(摘記2-9)の数値と特に異なるものでなく、しかも、当該数値範囲の上限を超えるとエッチング効果が過多になり化成皮膜形成が困難になるという点で本件発明1(段落【0026】)と共通する事項が引用例2(摘記2-8)に記載されているから、フッ化水素供給源化合物の含有量を上記の数値範囲に特定することは、実験等により当業者が適宜なし得るものである。
そして、本件明細書の記載をみても、本件発明1のように構成したことによる効果も当業者が予想できない程に顕著であると認めることはできない。

以上(1)?(3)のとおりであるから、本件発明1は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、本件特許権者は、平成17年2月15日付け意見書及びそれに添付した乙第1、2号証を提出し、意見書第7?8頁(2.1)において、以下の点で本件発明1が進歩性を有する旨主張している。
(ア)本件発明1の「水溶液においてフッ化水素を、0.0001?0.2g/リットルの濃度で発生する量のフッ化水素供給源化合物を含有し」との構成要件は、引用例2から導くことができない。要するに、リン酸濃度、Zr濃度、酸化剤濃度、pHおよび【HF】濃度を一定にして、Al濃度を三段階に変動させて調整した化成処理液(pH2.8、【HF】濃度6.7mg/L)を用いて、本件発明1と引用例2記載の各測定法により、【HF】濃度と有効弗化物濃度を算出したところ、有効弗化物濃度は12.5?22.0ppmまで変動したので、本件発明1の【HF】濃度と引用例2記載の有効弗化物濃度とは異なることが明らかとなり、そして、引用例2の記載から【HF】濃度を計算するためにはAl濃度を確定する必要があるが、引用例2には、Al濃度についての記載がないから、引用例2から本件発明1の【HF】濃度を計算により導くことが不可能である。
(イ)本件発明1は、優れた耐食性と密着性、優れたスラッジ抑制性、優れた操業安定性を実現できるものである。
しかしながら、上記(ア)の点について、当該乙第2号証の本文第3頁の表3に記載された測定結果は、本件発明1の濃度範囲「0.001?0.2g/リットル」を満たす6.7mg/Lのフッ化水素濃度が、引用例2記載の「10?200ppm」に含まれる有効弗化物濃度12.5?22.0mg/L」に対応することを示しているともいえる。
また、上記(イ)の点について、優れた耐食性と密着性は、引用例1に記載された事項であり、またスラッジ抑制性は、引用例2に記載された事項であり、さらに所定濃度範囲に規定された成分をその範囲に管理制御することは、表面処理を行う上で通常必要とされる事項であるから、その結果として、操業安定性の面でも良好な効果が得られることは当業者にとって予想困難なものと認めることはできない。
したがって、意見書の上記主張を採用することができない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において「フッ化水素供給源化合物」を「フッ化水素酸」または「フッ化アンモニウム」に限定したものである。しかし、これらの化合物が引用例2(摘記2-6)に有効弗化物の具体例として記載されているから、本件発明2における上記の限定事項は、当業者が適宜なし得るものである。
よって、本件発明2は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1において「酸化剤」が「過酸化水素」等に限定されたものである。しかし、過酸化水素は、引用例1に記載されている。また、過酸化水素以外の成分についても過酸化水素と同様の酸化剤として周知のものであるから、本件発明3における上記の限定事項は、当業者が適宜なし得るものである。
よって、本件発明3は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1において「ジルコニウム化合物」の濃度を「ジルコニウムに換算して0.005?0.5g/l」に限定したものである。しかし、引用例1には、ジルコニウム塩の濃度について、「金属換算で0.01g?10g/lで好ましくは0.1g?2g/l」(摘記1-5)と記載されているから、本件発明4における上記の限定事項は、当業者が適宜なし得るものである。
よって、本件発明4は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1において、「りん酸化合物」の濃度を「PO4イオンに換算して0.005?0.5g/リットル」に限定したものである。しかし、引用例1には、りん酸化合物の濃度について、「リン酸に換算して0.05g?20g、好ましくは0.3g?3g」(摘記1-5)と記載されているから、本件発明5の上記限定は、当業者が適宜なし得るものである。
よって、本件発明5は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明1において「酸化剤」の濃度を「0.01?5.0g/l」に限定したものである。しかし、引用例1には、過酸化水素の濃度について、「0.005g?5g/lで、好ましくは0.01g?0.5g」(摘記1-5)と記載されているから、本件発明5の上記限定は、当業者が適宜なし得るものである。
よって、本件発明6は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1?6のいづれかの表面処理組成物を含有する処理液の表面処理方法に係る発明であり、「アルミニウム含有金属材料の表面に、0.5?60秒間接触させて化成皮膜を形成し、その後、当該表面を水洗し、乾燥させること」を特徴とする。しかし、引用例1に、アルミニウム合金に10秒間浸漬による処理、1分間スプレー方式による処理、または5秒間スプレー方式による処理をし、水洗、脱イオン水洗、乾燥した処理方法(摘記1-7?1-9)、及び処理時間が3秒?3分であること(摘記1-6)が記載されているから、本件発明7が特徴とする上記の方法は、当業者が容易になし得る事項であり、その効果も当業者にとって予想困難なものと認めることはできない。
よって、本件発明7は、引用例1?2記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?7は、上記引用例1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?7の特許は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1?7についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基く、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-09-28 
出願番号 特願平6-320545
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C23C)
最終処分 取消  
特許庁審判長 北村 明弘
特許庁審判官 瀬良 聡機
池田 正人
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3349851号(P3349851)
権利者 日本パーカライジング株式会社
発明の名称 スラッジ抑制性に優れたアルミニウム含有金属材料用表面処理組成物および表面処理方法  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 内田 公志  
代理人 八木 敏安  
代理人 安富 康男  
代理人 後藤 正邦  

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