• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01G
管理番号 1150387
審判番号 無効2004-80028  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-27 
確定日 2007-01-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3245590号「育苗用ポット」の特許無効審判事件についてされた平成16年8月24日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成16年行(ケ)第432号平成16年12月27日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3245590号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3245590号の請求項1に係る発明は、平成9年2月3日に特願平9-20674号として出願され、平成13年11月2日にその設定登録がなされ、その後、平成16年4月27日付けでアンドウケミカル株式会社より本件無効審判の請求がなされ、同年8月24日付けで本件の請求項1に係る特許を無効とする旨の審決がなされたところ、本件の被請求人から東京高等裁判所に当該審決の取消を求める訴が平成16年(行ケ)第432号として提起されるとともに、平成16年11月18日付けで本件特許第3245590号につき訂正2004-39264号として訂正審判の請求がなされ、これに基づいて平成16年12月27日付けで東京高等裁判所にて本件を審判官に差し戻すために前記審決を取り消す旨の決定がなされ、平成17年1月24日付けで前記訂正審判の訂正請求書が援用され、平成17年3月7日付けで請求人より審判事件弁駁書が提出され、平成17年4月22日付けで職権による無効理由が通知され、これに対して請求人から平成17年5月26日付けで上申書が提出されるとともに、被請求人から平成17年5月26日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、さらに請求人から平成17年7月11日付けで審判事件弁駁書が提出されたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容(下線部訂正個所)
平成17年5月26日付けの訂正請求の内容は、以下のとおりである。
i.訂正事項a
明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を、以下のとおり訂正する。
「全体が合成樹脂により薄肉に形成され、上端開口縁で終端する筒状の側壁と、排水孔を有する底壁とよりなるポットの複数が縦横複数列に並列して同一平面内で全体としてトレイ形状をなすように連結されてなり、仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポットであって、
各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものであり、
各ポットは、前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が1mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え、
全体の外周で連結されることなく、隣接するポット同士が対向する前記耳部の辺の1個所でのみ、耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され、
前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっており、
育苗土充填後あるいは育苗後に前記連結部を引き裂くことにより、単体のポットに容易に分離できることを特徴とする育苗用ポット。」
ii.訂正事項b
明細書の段落【0007】に記載中の「土入れのための土詰め器」を「仕切り目空間を有する土入れのための土詰め器」と訂正する。
iii.訂正事項c
明細書の段落【0008】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決する育苗用ポットであって、全体が合成樹脂により薄肉に形成され、上端開口縁で終端する筒状の側壁と、排水孔を有する底壁とよりなるポットの複数が縦横複数列に並列して同一平面内で全体としてトレイ形状をなすように連結されてなり、仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポットであって、各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものであり、各ポットは、前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が1mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え、全体の外周で連結されることなく、隣接するポット同士が対向する前記耳部の辺の1個所でのみ、前記耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され、前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっており、育苗土充填後あるいは育苗後に前記連結部を引き裂くことにより、単体のポットに容易に分離できることを特徴とする。」
iv.訂正事項d
明細書の段落【0009】の記載を、以下のとおり訂正する。
「前記において、各ポットの前記耳部の幅が1?5mmであるのが好適である。すなわち、耳部の幅が1mm未満になると、耳部を設けたことによる効果がなく、また耳部の幅が5mmを越えると、多数のポットを並列し連接した形態が大きくなる上、各ポットに分離した状態での耳部の張出しが大きくなり、好ましくない。本発明では、前記耳部の幅の範囲において、耳部を設けたことによる効果があり、また、多数のポットを並列し連接した形態が大きくなることが最もなく、各ポットに分離した状態での耳部の張出しが大きくなることが最もない、耳部の幅が1mmであることとした。」
v.訂正事項e
明細書の段落【0010】に記載中の「土詰め器」を「仕切り目空間を有する土詰め器」と訂正する。
vi.訂正事項f
明細書の段落【0011】に記載中の「各ポットの側壁上端に耳部があって」を「各ポットの側壁上端に前記耳部があって」と訂正する。
vii.訂正事項g
明細書の段落【0012】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0012】しかも、育苗土充填後あるいは育苗後に、各ポット毎に分離する場合には、隣接するポットを対向する前記耳部同士の連結部で引き離すようにすれば、この連結部が、隣接するポットの対向する耳部の辺の1個所のみで、しかも耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅で分離可能に連結されているので、この連結部を容易に引き裂くことができ、単体のポットに容易に分離できる。」
viii.訂正事項h
明細書の段落【0015】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0015】図に示すように、本発明に係る連結形の育苗用ポット(A)は、全体がポリエチレンや塩化ビニル樹脂等の合成樹脂により比較的薄肉に型形成されてなり、上方ほど径大のテーパ状をなしかつ上端開口縁(2)で終端する筒状の側壁(3)と、該側壁(3)の下端に連接されかつ1もしくは複数の排水孔(4)を有する底壁(5)とにより単一の鉢体形状をなすポット(1)が形成されるとともに、該ポット(1)の複数体が縦横それぞれ複数列をなすように並列して連結されている。各ポット(1)の形態は、図1?5のように、上端開口部(2)の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものである。」
ix.訂正事項i
明細書の段落【0016】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0016】その連結形態として、各ポット(1)の側壁(3)の上端開口縁(2)にこれに対応して外方へ僅かに張出した外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部(6)を有し、隣接するポット(1)(1)同士が対向する前記耳部(6)(6)の辺の1個所で分離可能に連結成形されている。(7)はその連結部を示す。前記の各連結部(7)が同一平面内にあって、全体としてトレイ形状をなしている。前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポット(1)(1)(1)(1)の耳部(6)(6)(6)(6)の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっている。」
x.訂正事項j
明細書の段落【0017】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0017】前記各ポット(1)の耳部(6)は、前記テーパ状をなす側壁(3)に対して交差角度(θ)が90°?105°の角度で折曲し外方に延出しており、各ポット毎の単体に分離した状態での保形性および体裁や取扱い易さを考慮して、その幅は図のように上端開口縁(2)に対応した形状をなすように通常1?5mmの範囲に設定される。前記のとおり、本発明ではその幅を1mmとする。」
xi.訂正事項k
明細書の段落【0019】に記載中の「比較的容易に切離せるようにごく僅かな幅で連結しておく」を「比較的容易に切離せるように耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅で連結しておく」と訂正する。
xii.訂正事項l
明細書の段落【0020】に記載中の「る場合のほか」を「図のように縦横に並列させる場合のほか」と訂正する。
xiii.訂正事項m
明細書の段落【0029】の記載を、以下のとおり訂正する。
「【0029】【発明の効果】上記したように本発明の連結型の育苗用ポットによれば、野菜や花き等の植物苗を育苗する際の土入れ作業や置床等の際には、全体を一体のものとして取扱うことができ、仕切り目空間を有する土詰め器にワンタッチで収容セットすることができ、省力化および作業能率の向上を図ることができ、しかもその後の出荷等の際には各ポット毎に容易に分離することができる。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
i.訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1に記載の「全体が薄肉に形成され」を「全体が合成樹脂により薄肉に形成され」、以下同様に「前記側壁の上端開口縁に外方へ僅かに張出した耳部を備え」を「前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が1mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え」、「隣接するポット同士が対向する前記耳部の1個所でのみ、ごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され」を「隣接するポット同士が対向する前記耳部の辺の1個所でのみ、耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され」と具体的に限定するとともに、「仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポットであって」、「各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものであり」及び「前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっており」と付加的に限定するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、その訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において構成を限定するものであるから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
ii.訂正事項b乃至mについて
訂正事項b乃至mは、本件特許明細書の特許請求の範囲の訂正に整合させて発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.むすび
よって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3項、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第3.本件発明
本件特許第3245590号の請求項1に係る発明は、訂正が認められるから、本件の訂正明細書及び図面の記載からみて、前記第2.1.i.訂正事項aに示す特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。(以下、「本件発明」という。)

第4.当事者の主張及び当審無効理由通知
1.請求人の主張
請求人は、下記の甲第1号証乃至甲第23号証を提出して、特許第3245590号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、本件発明の特許を無効とすべき理由として、以下のように主張する。
本件発明は、甲第1号証?甲第7号証、甲第9号証?甲第11号証、甲第17号証?甲第23号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

甲第1号証:特開平7-203776号公報
甲第2号証:特開平4-173024号公報
甲第3号証:特開平6-7041号公報
甲第4号証:特開昭57-206315号公報
甲第5号証:特開平8-337248号公報
甲第6号証:実公昭58-49961号公報
甲第7号証:実公昭48-25602号公報
甲第8号証:特願平9-20674号(本件特許出願)の審査における
拒絶理由通知
甲第9号証:登録実用新案第3031249号公報
甲第10号証:実願昭47-86940号(実開昭49-43440号)
のマイクロフイルム
甲第11号証:実願昭53-98637号(実開昭55-14482号)
のマイクロフイルム
甲第12号証:特願平9-20674号の拒絶査定
甲第13号証:不服2000-7486の審判請求書
甲第14号証:特願平9-20674号における
平成12年6月14日提出の手続補正書
甲第15号証:不服2000-7486の審判請求書の手続補正書
甲第16号証:不服2000-7486の審決
甲第17号証:登録実用新案第3002708号公報
甲第18号証:特開平7-99840号公報
甲第19号証:実開平7-7372号公報
甲第20号証:特開昭52-107904号公報
甲第21号証:特開昭58-155024号公報
甲第22号証:平成15年(ワ)第889号(平成16年9月27日判決)
甲第23号証:特開平7-115848号公報

2.被請求人の反論
被請求人は、下記の乙第1号証乃至乙第3号証を提出して、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、無効審判の請求人が主張する無効の理由、及び、当審が職権により通知した当審無効理由に対して、以下のように反論する。
(1)本件発明は、請求人が提出した各甲号証に対して進歩性を有するから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
また、請求人の主張は、下記の乙第1号証乃至乙第3号証をみるとおり、矛盾している。

乙第1号証:特開平10-315315号公報
乙第2号証:特願平10-63177号における
平成10年8月20日付けの拒絶理由通知書
乙第3号証:特願平10-63177号における
平成10年10月27日付けの意見書
(2)本件発明については、平成17年5月26日付けの訂正請求により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の当審無効理由が解消したものである。

3.当審無効理由通知
当審では職権により、平成17年4月22日付けで当審無効理由(進歩性違反)を、以下のように通知した。
(1)当審無効理由(進歩性違反)
本件発明は、下記の引用刊行物1乃至引用刊行物4に記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、本件発明の特許は、同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
引用刊行物1:登録実用新案第3031249号公報
引用刊行物2:登録実用新案第3002708号公報
引用刊行物3:特開平8-337248号公報
引用刊行物4:実公昭58-49961号公報
引用刊行物5:実願昭47-86940号(実開昭49-43440号)
のマイクロフイルム
引用刊行物6:特開昭57-206315号公報

第5.当審の判断
当審が平成17年4月22日付けで職権により通知した特許法第29条第2項に係る当審無効理由(進歩性違反)に関して、本件発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるか否か、以下検討する。
1.引用刊行物に記載の発明
(1)引用刊行物1に記載の発明
引用刊行物1〔登録実用新案第3031249号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「しかしながら、一体に連結したものから育苗鉢を1個ずつ分離するには、その度に鋏等の道具を用いるため手間がかかって面倒なことが難点であり、これを改善した生分解性プラスチック育苗鉢セットを提供することがこの考案の目的である。」(段落【0004】)、
(1-b)「【課題を解決するための手段】以上の目的を達成するため、この考案は、複数個より成る分割型生分解性プラスチック育苗鉢セットの隣り合う鉢相互を、手で容易に切り離しできるようにした境界帯を介して連結するものである。」(段落【0005】)、
(1-c)「【実施例】以下に1実施例を示すと、図1(A)及び(B)は、育苗鉢1を複数個上下左右に規則的に並べて一体に形成した育苗鉢セットAの側面及び平面を示す。それにおいて、育苗鉢1は、厚さ0.5mmの生分解性プラスチックフイルムを材料として、共に正方形の上縁2及び底板3、及び逆梯形の4枚の側板4から成っており、高さHは57mm、巾3mmの上縁及び底板それぞれの1辺の長さ2’及び3’は、それぞれ66mm及び46mmで、底板の中央には直径10mmの水抜き孔4を設けてある。」(段落【0007】)、
(1-d)「5は、互に隣り合う二つの育苗鉢間に介在する巾Wが2mmの境界帯で、その両縁5’、5’には、長さ3?10mmごとに0.5?1mmの続き部分6を設け、これのみが両側の育苗鉢の上縁2にそれぞれ連結している。」(段落【0008】)、
(1-e)「【考案の効果】このように、複数個の育苗鉢1を境界帯5を介してそれぞれ縦横に接続させ一体に構成した本考案の分割型生分解性プラスチックの育苗鉢セットAは、各育苗鉢1が境界帯5と僅かの部分でしか連結されていないので、必要なときに手で容易に切り取って鉢を苗ごと他に移植できるから、きわめて便利で能率的である。」(段落【0009】)。
(1-f)図1(A)及び(B)には、各育苗鉢1が側板4の上端開口縁及び底板3が四隅部にアールをつけた略四角形をなし、上端開口縁に形成された上縁2が、上方ほど径大のテーパ状をなす側板4に対して交差角度が90°より若干大なる角度で折曲し外方へ張出すとともに、前記側板4の上端開口縁に対応して外形形状が四隅部にアールをつけた略四角形の形状とすること、また、境界帯5が育苗鉢を縦横に並列して全体の外周で連結し、複数の育苗鉢間の各コーナーでは4個の育苗鉢の上縁2の各一隅部のアールで囲まれる菱形形状になっていることが図示されている。
上記記載及び図面の記載によると、引用刊行物1には、以下の発明(以下、「引用刊行物1の発明」という。)が記載されていると認められる。
「全体が厚さ0.5mmの生分解性プラスチックフイルムを材料とし、
上端開口縁が四隅部にアールをつけた略四角形をなす筒状の側板4と、水抜き孔4を設けた略四角形をなす底板3とよりなる育苗鉢の複数が縦横に並列して連結され、
各育苗鉢は、前記側板4の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側板4に対して交差角度が90°より若干大なる角度で折曲し外方へ幅が3mmで張出し、且つ前記側板4の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする上縁2を備え、
全体の外周で連結されるべく、互に隣り合う2つの育苗鉢間に幅Wが2mmの境界帯5を介在させ、境界帯5の両縁5’、5’に、長さ3?10mmごとに設けた0.5?1mmの続き部分6のみにより育苗鉢の上縁2を僅かの部分で連結し、
縦横に並列して連結された育苗鉢間の各コーナーは4個の育苗鉢の上縁2の各一隅部のアールで囲まれる菱形形状の境界帯5になっており、
隣り合う育苗鉢相互を、手で容易に切り取って育苗鉢を苗ごと他に移植できるようにした育苗鉢セットA。」

(2)引用刊行物2に記載の発明
引用刊行物2〔登録実用新案第3002708号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「開口部より面積が狭い底面に排水孔を設けた育苗ポットにおいて、開口部(1)が四隅に丸み(5)をつけたほぼ正方形で、一辺の直線部(6)の長さが対向辺(6)間の間隔(7)の2分の1以上あり、底面(2)が円形で複数個の排水孔(4)を有することを特徴とする熱可塑性樹脂製射出成形硬質育苗ポット。」(【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】)、
(2-b)「また、底面が円形または八角形なので、苗の植え替えに際して苗土の取り出しが容易で、市販の円形ポットへの入替えも円形の化粧鉢への収容も極めて容易に行える。」(段落【0023】)。
上記記載によると、引用刊行物2には、上端開口部の外形形状を四隅に丸み(5)をつけたほぼ正方形とし、底面を円形に形成した育苗ポットが記載されている。

(3)引用刊行物3に記載の発明
引用刊行物3〔特開平8-337248号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(3-a)「【請求項1】 単位容器が複数平面状に連結されたものであって、隣り合う該単位容器は上下方向に延長させた一以上の狭隘部によって相互に連結されたものであることを特徴とする連結容器。」(【特許請求の範囲】)、
(3-b)「従来の複合容器では1乃至複数の単位容器に分離させる際にナイフや鋏等の道具が必要であり、分離作業を簡単に行なうことができない構造上の問題があった。」(2頁左欄26?29行)、
(3-c)「「狭隘部」とは、隣り合う単位容器同士を相互に平面状に連結固定させると共に、容易に分離できるように小さな断面積によって形成された部分をいう。狭隘部の断面形状としては、細幅の線状や点線状、或いは点状などである。本発明においては、狭隘部は単位容器の上下に延長する方向に一以上設けることによって単位容器同士を連結させるようにする。上下方向に延長とは、細幅の線状や点線状を縦方向に設ける場合や、点状のものを上下に配列する場合である。つまり、上下方向に厚みを持たせ、横方向にはほとんど厚みを持たせないということである。狭隘部を線状で形成する場合、上下の少なくとも一方に切込を入れて分離しやすくしてもよい。」(2頁右欄20?32行)、
(3-d)「図4は本発明のさらに他の実施例を示すもので、分解性プラスチックによって成型した連結容器1である。つまり、この容器1は苗木10を各単位容器2に収納させることにより、単位容器2をそのまま土中に埋め込んで植え付けができるようにしたものである。これも前述した実施例と同様に梱包が容易であると共に、販売方法も簡易となり、しかも狭隘部3によって一定間隔に連結されていることから、植え付け作業もより簡単となる。」(3頁左欄27行?同頁右欄2行)。
(3-e)図4には、縦横複数列の単位容器2がなす各格子点は4個の単位容器2の上端開口部の各一隅部のアールで囲まれる穴となっており、狭隘部が略四角形の単位容器2の辺に設けられていることが図示されている。
上記記載によると、引用刊行物3には、苗木10を育苗する、4隅部にアールをつけた略四角形の単位容器2を、その隣り合う単位容器2の辺に設けた、上下方向に延長させた一以上の狭隘部のみによって相互に連結し、分離作業を簡単に行なうようにすることが記載されている(縦横複数列に連結された単位容器2がなす各格子点には、4個の単位容器2の各一隅部のアールで囲まれる穴が形成されている。)。

(4)引用刊行物4に記載の発明
引用刊行物4〔実公昭58-49961号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(4-a)「(2)熱可塑性樹脂シート製の蓋が、それぞれ隣接する周辺部の容器の側板を被覆する側面の下端において1個所または2個所で互いに点状の連接部によって連接せしめられたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の蓋付連結容器。」(実用新案登録請求の範囲の第2項)、
(4-b)「4は蓋であり、非発泡のポリエチレンシートを真空成形して得られたものであり、前記各容器の側板2の上部開口部の外周を被覆して固定するように形成せられ、かつ、各隣接する蓋4の周辺部の中央部分の容器の側板2を被覆する下端において、連接部5によつて連接せしめられている。連接部5は極めて狭い巾を以って点状に設けられている。」(2頁左欄24?31行)、
(4-c)「また、蓋4の連接部5は極めて狭い巾を有する点状に連接せしめられているのみであるから、容器の連結部3の切断と同時に容易に切断分離される。」(2頁右欄14?17行)。
(4-d)図1には、縦横複数列の蓋4がなす各格子点は4個の蓋4の各一隅部のアールで囲まれる穴となっており、連接部5が略四角形の蓋4の辺に設けられていることが図示されている。
上記記載によると、引用刊行物4には、4隅部にアールをつけた略四角形の熱可塑性樹脂シート製の蓋4を、それぞれ隣接する周辺部の容器の側板を被覆する側面の下端において1箇所または2箇所で互いに点状の連接部5によって連接し、蓋を容易に切断分離できるようにすることが記載されている(縦横複数列に連結された蓋4がなす各格子点には、4個の蓋4の各一隅部のアールで囲まれる穴が形成されている。)。

(5)引用刊行物5に記載の発明
引用刊行物5〔実願昭47-86940号(実開昭49-43440号)のマイクロフイルム〕には、以下の事項が記載されている。
(5-a)「合成樹脂シートに真空成形加工で仕切部分1を介して連接する有底凹陥部2、2′……を桝目状に独立的に凹設し、仕切部分1の外周は翼状に張出させ、・・・さらに各有底凹陥部2、2′……を区割する仕切部分1にはその略中央に有底凹陥部2、2′……を各1個毎に切離して苗床単体aとするための切溝4を切設して成る農芸用苗床。」(実用新案登録請求の範囲)、
(5-b)「なお5は仕切部分1の外周における翼状張出部の周辺に上記切溝4の端部と対応した位置に設けた切口であつて切溝4に沿つての仕切部分1の切離しを容易にするためのものである。」(2頁10?14行)、
(5-c)「本案は・・・仕切部分1の略中央に切設した切溝4に沿つて有底凹陥部2,2′……を各1個毎に切離すことがきわめて容易にできる」(2頁19行?3頁1行)。
(5-d)第1図には、切溝4が仕切部分1の大部分に亘って切設されており、切溝4と切口5とが切設されていない、耳部と同じ厚さの細幅の部分によって有底凹陥部2,2′……が連結されていることが示されている。
上記記載によると、引用刊行物5には、略四角形の苗床単体aが複数平面状に連結された農芸用苗床において、隣り合う苗床単体aの辺に切溝4を切設し、隣り合う苗床単体aを、切溝4と切口5とが切設されていない、苗床単体aの角部の4箇所の細幅の部分によって連設することにより、苗床単体aを1個毎にきわめて容易に切離すことができる農芸用苗床が記載されている。

(6)引用刊行物6に記載の発明
引用刊行物6〔特開昭57-206315号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(6-a)「図中、1?1は上面が開放されたコップ状の育苗用のマルチポット(以下単にポットという)であって、該ポット1の多数個が平面的に配列され、その上端縁を一枚の継ぎフランジ2によって互に連結されている。
なお該ポット1及び継ぎフランジ2は、ポリエチレンなどの薄肉のプラスチックシートなどを材料として真空成形などにより形成されており、ポット1の上端周縁と継ぎフランジ2の境目は、本例では4個の脆弱連結部分3を残し切り目4を設けて切離されている。すなわち各ポット1?1はそれぞれ4個の脆弱連結部分3により継ぎフランジ2に連結されている。5は各ポット1?1の底面にそれぞれ貫設された排水孔である。」(1頁右欄19行?2頁左上欄12行)、
(6-b)「本例によれば各ポット1を脆弱連結部分3のみによって継ぎフランジ2に連結し、且つ頭付押圧片8によりポット1を押圧しながら継ぎフランジ2を引き上げるので、継ぎフランジ2をポット1本体より容易に切り離すことができる特長がある。」(2頁右上欄19?同頁左下欄3行)。
(6-c)第1図には、脆弱連結部分3の幅が狭いことが示されている。
上記記載によると、引用刊行物6には、育苗用マルチポットにおいて、各マルチポット1を、4個の幅の狭い脆弱連結部分3のみによって継ぎフランジ2に連結することにより、継ぎフランジ2と各マルチポット1とを容易に切り離せるようにすることが記載されている。

2.対比・判断
(1)本件発明と引用刊行物1の発明との対比
本件発明と引用刊行物1の発明とを対比すると、引用刊行物1の発明の「側板4」、「水抜き孔4」、「底板3」、「育苗鉢」、「上縁2」、「境界帯5」及び「育苗鉢セットA」は、本件発明の「側壁」、「排水孔」、「底壁」、「ポット」、「耳部」、「連結部」及び「育苗用ポット」にそれぞれ相当している。
そして、引用刊行物1の発明の「厚さ0.5mmの生分解性プラスチックフイルム」は、薄肉の合成樹脂ということができる。
また、耳部が側壁に対して折曲している交差角度について、引用刊行物1の発明が「90°より若干大なる角度」とすることは、本件発明が「90°?105°の角度」とすることと対比して、いずれも育苗用ポットにおいて通常採用されている交差角度のものとして実質的に差異がないものである。
また、耳部が外方へ張出す幅について、引用刊行物1の発明が「3mm」とすることは、本件発明が「1mm」とすることと対比して、いずれも「数mm」とすることで共通している。
また、4個のポットの耳部の各一隅部のアールで囲まれる各コーナーについて、引用刊行物1の発明が「菱形形状の連結部」になっていることは、本件発明が「貫通穴」となっていることと対比して、いずれも「切除部」となっていることで共通している。
さらに、引用刊行物1の発明は、「隣り合う育苗鉢相互を、手で容易に切り取って育苗鉢を苗ごと他に移植できるようにした」ものであるから、育苗土充填後あるいは育苗後に単体のポットに容易に分離できるものであるといえる。
そうすると、本件発明と引用刊行物1の発明とは、以下の点で一致並びに相違する。
一致点
「全体が合成樹脂により薄肉に形成され、上端開口縁で終端する筒状の側壁と、排水孔を有する底壁とよりなるポットの複数が縦横複数列に並列して同一平面内で全体としてトレイ形状をなすように連結されてなり、
各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形としたものであり、
各ポットは、前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が数mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え、
隣接するポット同士が対向する前記耳部において分離可能な連結部によって連結され、
前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる切除部となっており、
育苗土充填後あるいは育苗後に前記連結部を引き裂くことにより、単体のポットに容易に分離できる育苗用ポット。」
相違点A
育苗用ポットの用途を、本件発明では、「仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポット」と特定をしているのに対し、引用刊行物1の発明では、前記特定をしていない点。
相違点B
各ポットの形態を、本件発明では、「上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成し」ているのに対し、引用刊行物1の発明では、上端開口部の外形形状と底部とを四隅部にアールをつけた略四角形としている点。
相違点C
各ポットの耳部を外方へ張出す幅を、本件発明では、「1mm」としているのに対し、引用刊行物1の発明では、「3mm」としている点。
相違点D
隣接するポット同士を対向する耳部において分離可能な連結部によって連結する構成が、本件発明では、「全体の外周で連結されることなく、隣接するポット同士が対向する耳部の辺の1個所でのみ、耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され」るのに対し、引用刊行物1の発明では、全体の外周で連結されるべく、互に隣り合う2つのポット間に連結部を介在させ、連結部の両縁に、長さ3?10mmごとに設けた0.5?1mmの続き部分のみによりポットの耳部を僅かの部分で連結する点。
相違点E
4個のポットの耳部の各一隅部のアールで囲まれるコーナーが、本件発明では、「貫通穴」となっているのに対し、引用刊行物1の発明では、「菱形形状の連結部」になっている点。

(2)相違点の検討
相違点Aについて
育苗用ポットの技術分野において、複数の育苗用ポットを収容セットするための仕切り目空間を有する土詰め器は、周知技術(例えば、甲第23号証〔特開平7-115848号公報〕、特公昭54-33962号公報)であり、引用刊行物1の発明において、複数の育苗用ポットを前記周知の土詰め器に適合する形態として収容セットすることは、当業者が容易に想到することである。
相違点Bについて
上端開口部の外形形状を四隅部にアール(丸み)をつけた略四角形とし、底部を円形に形成した育苗用ポットは、周知(例えば、引用刊行物2〔登録実用新案第3002708号公報〕、甲第23号証〔特開平7-115848号公報〕)の形態であり、引用刊行物1の発明において、各ポットの形態として前記周知の形態を採用することは、当業者が容易に想到することである。
相違点Cについて
本件特許明細書の段落【0009】には、「各ポットの前記耳部の幅が1?5mmであるのが好適である。すなわち、耳部の幅が1mm未満になると、耳部を設けたことによる効果がなく、また耳部の幅が5mmを越えると、多数のポットを並列し連接した形態が大きくなる上、各ポットに分離した状態での耳部の張出しが大きくなり、好ましくない。」と記載されているところ、引用刊行物1の発明がポットの耳部を外方へ張出す幅を「3mm」とすることは、本件特許明細書に記載の「1?5mm」に含まれるから、ポットの連接形態の大きさを制限しつつ、耳部による補強効果を達成するという2つのファクターを満足するものである。
また、ポットの連接形態の大きさは、耳部の幅のみならず連結部の幅によっても影響を受けることが明らかである。
そうすると、前記2つのファクターを満足する範囲内において、前記連結部の幅や、あるいは、ポットを分離した後の耳部の張出具合等の前記2つのファクター以外の要素をも考慮して、耳部による補強効果を達成する最小の限界値を求め、本件発明の「1mm」という数値を採用することは、当業者が適宜になし得る単なる設計的事項というべきである。
相違点Dについて
引用刊行物3〔特開平8-337248号公報〕には、苗木10を育苗する、4隅部にアールをつけた略四角形の単位容器2を、その隣り合う単位容器2の辺に設けた、上下方向に延長させた、1つの僅かな幅の連結部(狭隘部)のみによって相互に連結することが開示されており、また、引用刊行物4〔実公昭58-49961号公報〕には、4隅部にアールをつけた略四角形の熱可塑性樹脂シート製の蓋4を、それぞれ隣接する周辺部の容器の側板を被覆する側面の下端において1つの僅かな幅の連結部(点状の連接部5)によって連接することが開示されている。
また、本件発明において、連結部が耳部と同じ厚さであることは、明細書に明示的記載がなく、図面を根拠にするものであるところ、育苗用ポットにおいて、各ポットに設けた耳部と同じ厚さのごく僅かな幅の連設部によって各ポットを連結し、単体のポットに容易に分離できるようにすることは、周知技術(例えば、引用刊行物5〔実願昭47-86940号(実開昭49-43440号)のマイクロフイルム〕、引用刊行物6〔特開昭57-206315号公報〕の図面参照)である。そして、育苗用ポットにおいて、ポットの耳部と連結部とを一体的に成形する場合に、特に工夫を施さない限り、両者を同じ厚さをもって成形することは、通常のことというべきである。
そうすると、引用刊行物1の発明において、隣接するポット同士を全体の外周で連結することに代えて、ポットの辺に設けた1つの僅かな幅の連結部によって連結するように構成することは、当業者なら容易に想到できることであり、また、その連結部を耳部と同じ厚さにすることは、当業者が適宜できることである。
相違点Eについて
4個のポットの耳部の各一隅部のアールで囲まれるコーナーを貫通穴とすることは、周知技術(例えば、引用刊行物3〔特開平8-337248号公報〕、引用刊行物4〔実公昭58-49961号公報〕、甲第20号証〔特開昭52-107904号公報〕、甲第21号証〔特開昭58-155024号公報〕)であり、引用刊行物1の発明において、コーナーを菱形形状の連結部とすることに代えて、前記周知技術に示される貫通穴とすることは、当業者が容易に想到することである。
本件発明の作用効果について
本件発明が奏する作用効果は、引用刊行物1乃至4に記載された発明及び周知技術から予測できる程度であって格別顕著なものではない。

(3)まとめ
よって、本件発明は、引用刊行物1乃至4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.結び
以上のとおり、本件発明は、引用刊行物1乃至4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、本件発明の特許は、同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
育苗用ポット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が合成樹脂により薄肉に形成され、上端開口縁で終端する筒状の側壁と、排水孔を有する底壁とよりなるポットの複数が縦横複数列に並列して同一平面内で全体としてトレイ形状をなすように連結されてなり、仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポットであって、
各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものであり、
各ポットは、前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が1mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え、
全体の外周で連結されることなく、隣接するポット同士が対向する前記耳部の辺の1個所でのみ、前記耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され、
前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっており、
育苗土充填後あるいは育苗後に前記連結部を引き裂くことにより、単体のポットに容易に分離できることを特徴とする育苗用ポット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、野菜や花き等の植物苗を育苗するのに使用する育苗用ポットに関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
従来、野菜および花き等の植物苗を育苗するに際して、ポリエチレンまたは塩化ビニル等の軟質合成樹脂製の育苗用ポットが多用されている。
【0003】
かかるポットは、単一の鉢体形状をなすもので、鉢体の上端開口縁で終端する筒状の側壁と、該側壁下端より連続する排水孔付きの底壁とよりなり、前記側壁および底壁によって育苗用の土壌を収容する室が形成されていた。
【0004】
しかしながら、このような育苗用ポットにおいては、素材が比較的柔らかいポリエチレン等の軟質合成樹脂であり、しかも使用材料の節約や軽量化のためにかなり薄肉に形成されており、側壁に補強用のリブが形成されていても、腰が弱くて保形性に乏しく、取扱い難いものである。
【0005】
したがって、前記のようなポット多数個を取扱う土入れ作業等がきわめて面倒なものとなっている。特に、各ポットへの土入れ作業の能率化のために、多数の育苗用ポットを並列しておいて、一度に各ポット内に育苗土を充填することが行なわれているが、前記ポットを単純なトレイの上に並列させておいただけでは、ポット側壁の上端開口縁が折れ曲ってしまい、育苗土の充填ができないことになる。
【0006】
そのため、前記の土入れ作業においては、格子状の仕切りにより区画された仕切り目空間を有するトレイや籠トレイ等の特殊な土詰め器を用いて、各ポットを1鉢ずつ、前記土詰め器の各仕切り目空間に嵌め込んで側壁が折れ曲らないように固定しておいて、育苗土を充填することも考えられている(例えば、特公昭54-33962号公報)。しかしこの場合、育苗用ポットを1鉢ずつ土詰め器の仕切り目空間に嵌め込み並べるセット作業、土入れ後の取出し作業のために、その作業に多大な労力を要するものとなっている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、野菜や花き等の植物苗を育苗するのに使用する育苗用ポットとして、仕切り目空間を有する土入れのための土詰め器へのセット作業や置床等の際の取扱いを容易にし、その作業の省力化および能率向上を図ることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決する育苗用ポットであって、全体が合成樹脂により薄肉に形成され、上端開口縁で終端する筒状の側壁と、排水孔を有する底壁とよりなるポットの複数が縦横複数列に並列して同一平面内で全体としてトレイ形状をなすように連結されてなり、仕切り目空間を有する土詰め器に収容セットする育苗用ポットであって、各ポットの形態は、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものであり、各ポットは、前記側壁の上端開口縁に、上方ほど径大のテーパ状をなす側壁に対して交差角度が90°?105°の角度で折曲し外方へ幅が1mmで張出し、且つ前記側壁の上端開口縁に対応して外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部を備え、全体の外周で連結されることなく、隣接するポット同士が対向する前記耳部の辺の1個所でのみ、前記耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅の分離可能な連結部によって連結され、前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポットの前記耳部の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっており、育苗土充填後あるいは育苗後に連結部を引き裂くことにより、単体のポットに容易に分離できることを特徴とする。
【0009】
前記において、各ポットの前記耳部の幅が1?5mmであるのが好適である。すなわち、耳部の幅が1mm未満になると、耳部を設けたことによる効果がなく、また耳部の幅が5mmを越えると、多数のポットを並列し連接した形態が大きくなる上、各ポットに分離した状態での耳部の張出しが大きくなり、好ましくない。本発明では、前記耳部の幅の範囲において、耳部を設けたことによる効果があり、また、多数のポットを並列し連接した形態が大きくなることが最もなく、各ポットに分離した状態での耳部の張出しが大きくなることが最もない、耳部の幅が1mmであることとした。
【0010】
【作用】
上記の本発明の育苗用ポットによれば、複数の各ポットは、隣接するポット同士が側壁上端の前記耳部の連結部1個所で分離可能に連結されているので、必要な個数をワンタッチでアンダートレイや籠トレイ等に収容セットできて、仕切り目空間を有する土詰め器に容易に並べることができ、ポット1鉢ずつを並べてセットしていた従来に比して、数十倍の高能率で作業できる。
【0011】
またこの育苗用ポットは、各ポットの側壁上端に前記耳部があって、これが一種の補強縁としての役目を果すことと、隣接するポット同士が前記耳部の連結部で連結されていて側壁の折れ曲りを相互に規制するように作用することとが相まって、形態保持性が高く、従来法のようにアンダートレイや籠トレイ等を用いなくても、土入れ時にポットの腰折れが生じるおそれはない。
【0012】
しかも、育苗土充填後あるいは育苗後に、各ポット毎に分離する場合には、隣接するポットを対向する前記耳部同士の連結部で引き離すようにすれば、この連結部が、隣接するポットの対向する耳部の辺の1個所のみで、しかも耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅で分離可能に連結されているので、この連結部を容易に引き裂くことができ、単体のポットに容易に分離できる。
【0013】
【実施例】
次に本発明の実施例を図面に基いて説明する。
【0014】
図1は本発明に係る育苗用ポットの斜視図を示し、図2は同上の平面図、図3は一つのポット部分を示す一部を欠截した拡大斜視図、図4は同上の拡大平面図、図5は同断面図を示し、図6は耳部同士の連結部を拡大した斜視図である。
【0015】
図に示すように、本発明に係る連結形の育苗用ポット(A)は、全体がポリエチレンや塩化ビニル樹脂等の合成樹脂により比較的薄肉に型形成されてなり、上方ほど径大のテーパ状をなしかつ上端開口縁(2)で終端する筒状の側壁(3)と、該側壁(3)の下端に連接されかつ1もしくは複数の排水孔(4)を有する底壁(5)とにより単一の鉢体形状をなすポット(1)が形成されるとともに、該ポット(1)の複数体が縦横それぞれ複数列をなすように並列して連結されている。各ポット(1)の形態は、図1?5のように、上端開口部(2)の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したものである。
【0016】
その連結形態として、各ポット(1)の側壁(3)の上端開口縁(2)にこれに対応して外方へ僅かに張出した外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とする耳部(6)を有し、隣接するポット(1)(1)同士が対向する前記耳部(6)(6)の辺の1個所で分離可能に連結成形されている。(7)はその連結部を示す。前記の各連結部(7)が同一平面内にあって、全体としてトレイ形状をなしている。前記縦横複数列のポット間の各コーナーは4個のポット(1)(1)(1)(1)の耳部(6)(6)(6)(6)の各一隅部のアールで囲まれる貫通穴となっている。
【0017】
前記各ポット(1)の耳部(6)は、前記テーパ状をなす側壁(3)に対して交差角度(θ)が90°?105°の角度で折曲し外方に延出しており、各ポット毎の単体に分離した状態での保形性および体裁や取扱い易さを考慮して、その幅は図のように上端開口縁(2)に対応した形状をなすように通常1?5mmの範囲に設定される。前記のとおり、本発明ではその幅を1mmとする。
【0018】
また前記の耳部(6)(6)同士の連結部(7)としては、隣接するポット(1)(1)の耳部(6)(6)同士を引き裂き分離可能に連結できるものであれば、その位置や形状はどのようなものであってもよいが、本発明では前記耳部(6)の辺の1個所で連結する。
【0019】
また連結部(7)は、比較的容易に切離せるように耳部と同じ厚さで且つごく僅かな幅で連結しておくが、図6(a)に示すように該連結部(7)の端縁部に切込みやV字形のノッチ(8a)を形成したり、あるいは図6の(b)のように切離しラインに沿うミシン目状の切込み(8b)を形成する等の分離助成手段を設けておくことができる。この場合、さらに容易に引き裂き分離できる。もちろん薄肉でごく僅かな幅の連結部であれば、前記の分離助成手段がなくても容易に引き裂き分離することができる。
【0020】
上記各ポット(1)の配列形態としては、図のように縦横に並列させる場合のほか、横列を1列ごとに交互に左右に位置をずらせた配列とすることもできる。土詰機等に使用するアンダートレイや籠トレイ等の形態、ポットサイズ等に応じて、図のように縦横に適宜並列させて実施できる。これらの形態の育苗用ポット(A)は全体を一度に型成形でき容易に製造できる。
【0021】
なお、各ポット(1)の形態については、図1?5のように、上端開口部の外形形状を四隅部にアールをつけた略四角形とし、底部を円形に形成したもののほか、図7のように、上端開口縁(2)および底部が共に平面円形の鉢体形状をなすもの等、種々の形態による実施が可能である。この実施例の場合にも、上記実施例と同様に、図示するごとく上端開口縁(2)にこれに対応した張出し状の耳部(6)を設けるとともに、隣接するポット(1)(1)を対向する前記耳部(6)(6)の1個所で容易に分離できるように連結しておけばよい。
【0022】
図中の(9)は各ポット(1)の側壁(3)の周方向所要間隔に根巻き防止用に設けた側壁リブであり、補強用の縦方向リブでもある。また(10)は床面に置いた場合の通気性や排水性を確保するために底壁(5)の下面側に形成した凹溝であって、外周部から中央の排水孔(4)に通じている。(11)は上端開口縁近傍に設けた周方向の線状リブである。
【0023】
いずれの実施例においても、ポット(1)を入れ子にして多数の育苗用ポット(A)を重ね合せた場合の密着を防止するために、各ポット(1)の側壁(3)または底壁(5)の所要の個所に凸部や段部等の密着防止部(図示省略)を設けておくのが好ましい。
【0024】
上記した本発明の育苗用ポット(A)によれば、連結された複数のポット(1)を一体のものとして取扱えるので、運搬および保管等の取扱い作業が容易になる上、自動土詰機を用いて各ポット(1)に育苗土を充填する場合や育苗床に置床する場合の作業も容易に能率よく行なえる。
【0025】
例えば、特殊形態の保持トレイや籠トレイ等の土詰め器を用いて各ポット(1)に育苗土を充填する場合に、必要な個数のポット(1)を仕切り目空間を有する土詰め器にワンタッチで収容セットすることができ、土詰め器に容易に並べることができるもので、ポット1個ずつを並べていた従来方式に比して、数十倍の高能率で土詰め作業を行なうことができる。
【0026】
すなわち、土詰め器である籠トレイ(株式会社斉藤農場製)にポットをセットするのに、本発明の実施例品である連結された育苗用ポットと、従来品である単体の軟質育苗用ポットとをそれぞれ使用して、そのセット作業能率を比較したところ、次の表1のようになり、本発明の実施例品のほうがはるかに能率的なものであった。
【0027】
【表1】

しかも、各ポット(1)の側壁(3)上端に耳部(6)があって、これが一種の補強縁としての役目を果し、また複数のポット(1)が耳部(6)で連結されていて側壁(3)の折れ曲りが相互に規制されるために、軟質合成樹脂により薄肉に形成されたものであっても、全体的な形態保持性が高く、育苗土を充填する時にも腰折れが生じず、土入れ作業を容易にして確実に行なえる。
【0028】
そして、育苗土の充填後あるいは育苗後の出荷の際に各ポット(1)毎に分離する場合、対向する前記の耳部(6)(6)同士の連結部(7)の1個所を引き裂くようにすれば、容易に分離することができる。
【0029】
【発明の効果】
上記したように本発明の連結型の育苗用ポットによれば、野菜や花き等の植物苗を育苗する際の土入れ作業や置床等の際には、全体を一体のものとして取扱うことができ、仕切り目空間を有する土詰め器にワンタッチで収容セットすることができ、省力化および作業能率の向上を図ることができ、しかもその後の出荷等の際には各ポット毎に容易に分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の育苗用ポットの1実施例を示す斜視図である。
【図2】
同上の平面図である。
【図3】
1つのポット部分の一部を欠截した拡大斜視図である。
【図4】
同上の平面図である。
【図5】
同上縦断面図である。
【図6】
(a)(b)それぞれ分離助成手段を設けた連結部を例示する拡大斜視図である。
【図7】
他の実施例を1つのポット部分の拡大斜視図である。
【符号の説明】
(A)育苗用ポット
(1)ポット
(2)上端開口縁
(3)側壁
(4)排水孔
(5)底壁
(6)耳部
(7)連結部
(8a)ノッチ
(8b)ミシン目状の切込み
(9)側壁リブ
(10)凹溝
(11)線状リブ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-09-15 
結審通知日 2005-09-21 
審決日 2005-09-27 
出願番号 特願平9-20674
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 坂田 誠  
特許庁審判長 二宮 千久
特許庁審判官 白樫 泰子
渡部 葉子
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3245590号(P3245590)
発明の名称 育苗用ポット  
代理人 松原 等  
代理人 松原 等  
代理人 廣江 武典  
代理人 廣江 武典  
代理人 松原 等  
代理人 熊野 剛  
代理人 廣江 武典  
代理人 白石 吉之  
代理人 松原 等  
代理人 廣江 武典  
代理人 田中 秀佳  
代理人 江原 省吾  
代理人 城村 邦彦  
代理人 山根 広昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ