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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B25B
管理番号 1150388
審判番号 無効2005-80094  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-08-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-25 
確定日 2006-12-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2079660号発明「インパクトレンチの締付制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2079660号の請求項1?5に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2079660号の請求項1?6に係る発明についての出願は、平成1年9月7日(優先権主張昭和63年10月12日)に出願され(特願平1-232617号)、平成7年11月15日に出願公告がなされ(特公平7-106549号)、平成8年8月9日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)これに対して、平成17年3月25日に、請求人ヨコタ工業株式会社は、請求項1?5に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求める審判を請求し、さらに、平成17年8月12日に審判事件弁駁書を、平成17年9月26日に口頭審理陳述要領書を、それぞれ提出した。
(3)一方、被請求人不二空機株式会社は、平成17年6月13日に訂正請求書及び審判事件答弁書を、平成17年9月26日に口頭審理陳述要領書を、それぞれ提出した。
(4)平成17年9月26日に第1回口頭審理が行われた。

2.請求人の主張
請求人は、証拠方法として下記に示す甲各号証を提示し、以下の旨主張している。なお、請求人は、証拠方法から甲第2、7?15号証を取り下げた。(口頭審理陳述要領書第14頁1行?3行)
(1)訂正請求について
被請求人の求める、請求項1、2、4、5及びそれらに対応する発明の詳細な説明に記載の「基準値」を「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」とする訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていないから、新規事項である。仮に、技術常識を勘案して、上記訂正事項が願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、新規事項でないとするのであれば、下記7.に示す相違点1に係る本件発明1?5の構成は、技術常識を勘案すると、甲第1号証に記載されていると解すべきである。(第1回口頭審理調書の「請求人 1.」)
(2)請求項1、2に係る発明について
請求項1、2に係る発明は、甲第1号証記載の発明であるか、あるいは、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきである。
(3)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は、甲第1、3?5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきである。
(4)請求項4、5に係る発明について
請求項4、5に係る発明は、甲第1、3?6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4、5に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきである。
[証拠方法]
甲第1号証:実願昭59-50901号(実開昭60-165159号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実公昭61-16069号公報
甲第4号証:特開昭62-203776号公報
甲第5号証:特開昭62-259782号公報
甲第6号証:特公昭56-21551号公報

3.被請求人の主張
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)訂正請求について
訂正請求の内容は、本件出願の出願公告公報の第5欄34行?36行、第7欄16行?19行、第8欄45?47行、第3図の記載に基づいてなされたもので、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、新規事項の追加には該当しない。(訂正請求書第3頁?第6頁の「(4)請求の原因」、口頭審理陳述要領書第2頁の「(1)訂正請求の適否について」)
(2)請求項1?6に係る発明について
(2-1)一致点および相違点の認定
下記7.に示す一致点及び相違点1乃至4の認定に異論はない。(第1回口頭審理調書の「被請求人 2.」)
(2-2)相違点1の判断
甲第1号証の発明は、圧力センサの出力信号から変化率検出回路によって静圧の変化を検出してはいるものの、この変化率検出回路は、被締付体である螺子の着座を検出するものである。そして、甲第1号証の発明は、必要打数の技術的意義が、必要打撃時間と同一である旨明記されていることからみて、必要打数は、単に被締付体の着座後の締付時間をカウントするカウンタとして機能しているに過ぎず、被締付体の締付に寄与しない打数も当然にカウントしており、本件発明1とは全く技術的思想を異にしている。(審判事件答弁書第6頁7行?第11頁18行、口頭審理陳述要領書第2頁26行?第6頁15行)
(2-3)相違点2?4の判断
下記7.に示す相違点2と相違点1とは、表現上異なるものの、実質的に同一内容の相違点である。そして、下記7.に示す相違点3に係る本件発明3の構成は、甲第3乃至5号証に記載されており、相違点4に係る本件発明4及び本件発明5の構成は、甲第6号証に記載されていることを認める。(第1回口頭審理調書の「被請求人 3.」)

4.訂正の適否について
(1)訂正の内容
被請求人の求める訂正の内容は、以下のとおりである。
〈訂正事項イ〉
本件特許の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1(本件出願の出願公告公報第1欄4行参照)、請求項2(出願公告公報第1欄12行参照)、請求項4(出願公告公報第2欄13行参照)及び請求項5(出願公告公報第3欄10行?13行参照)に記載される「基準値」をすべて「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」と訂正する。
〈訂正事項ロ〉
本件特許明細書の発明の詳細な説明の〈問題点を解決するための手段〉(出願公告公報第2欄13行、第4欄30行?31行、第4欄46行及び第5欄8行参照)に記載される4箇所の「基準値」をすべて「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a、bに関して、本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
(i)「打撃状態においては、給気圧には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ、この変化に基づいて打撃信号が出力される。」(出願公告公報第5欄34行?36行参照)
(ii)「上記検知レベル設定部24において設定された検知レベル以上の正変動、つまり打撃が発生すると、上記打撃信号出力部23からは、同図(C)に示すように打撃信号が所定時間T4だけ出力される。」(出願公告公報第7欄16行?19行参照)
上記(i)中の「ある程度以上の変化が生じ」る打撃及び上記(ii)中の「検知レベル以上の正変動、つまり打撃」が、被締付体に対する締付に実質的に寄与する打撃に他ならないとする直接的な記載は、本件特許明細書にはない。しかしながら、インパクトレンチは被締付体に対し打撃を作用させて締付けるのであるから、そのことを勘案すると、上記(i)中の「ある程度以上の変化が生じ」る打撃及び上記(ii)中の「検知レベル以上の正変動、つまり打撃」は被締付体に対する締付に実質的に寄与する打撃であると解するのが相当である。
したがって、訂正事項a、bは、明りょうでない記載の釈明を目的とし、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

5.本件発明
上記4.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下それぞれを、「本件発明1」等という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項2】インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項3】上記締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けたことを特徴とする第1請求項又は第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項4】給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項5】給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。

6.甲各号証記載の発明
(1)甲第1号証記載の発明
本件特許の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1-イ)明細書第3頁16行?18行
「一方、ハンマの反転量を検出する方式は、反転量が一定値以上の打撃を締付トルクに影響する有効打撃とし、この有効打撃をカウントし」
(1-ロ)明細書第4頁6行?17行
「この考案では、同トルクレンチの締付トルクが、供給空気の静圧と、有効締付打数・・・によつて定まることに着目して、有効締付打撃の開始時期、すなわち、螺子が被締結物に着座した時期を、供給空気の静圧変動により検出し、爾後の有効締付打数をカウントして、設定締付トルクに見合う打数に達する・・・と、同レンチの締付作動を停止せしめるように締付トルク制御装置を構成することにより、締付トルクのばらつきが少なく、しかも耐久性に富むインパクトレンチの締付トルク制御装置を提供せんとするものである。」
(1-ハ)明細書第4頁18行?第5頁1行
「本考案の実施例を図面にもとづき詳説すれば、(A)は空気圧駆動のインパクトレンチを示し、同レンチ(A)はエアホース(1)を介して空気圧源たるエア主管(2)に連通連結しており、」
(1-ニ)明細書第6頁13行?17行
「制御装置(B)は、・・・変化率検出回路(13),発信回路(14),・・・制御計数回路(17),記憶素子(18),電磁弁駆動回路(19)によって構成されており、」
(1-ホ)明細書第9頁8行?18行
「発信回路(14)は、比較回路(21)から入力がある度毎に一個のパルスを出力を発信して制御計数回路(17)に出力するものであり、制御計数回路(17)は、同パルスを積算し、記憶素子(18)から読みだした必要打数(Nn)に達したとき・・・、電磁弁駆動回路(19)を介して電磁弁(9)を作動させるように構成している。」
(1-ヘ)明細書第11頁3行?第12頁1行
「制御装置(17)では、増巾回路(12)の入力電圧を増巾して、変化率検出回路(13)に出力し、差動増巾器(20)の反転入力端子(20)-1と非反転入力端子(20)-2に入力するが、同端子(20)-1,(20)-2にそれぞれ前置したCR回路(22)-1,(22)-2のコンデンサ(C1),(C2)の容量の差により、差動増巾器(20)の出力は、入力電圧の時間に対する変化率に略比例した電圧を比較回路(21)に出力し、比較回路(21)は、差動増巾器(20)からの入力電圧が、比較電圧より高い場合出力するものである。
従って、変化率検出回路(13)は、螺子(6)が空転しているときは静圧が略一定で変動率が小さいので出力せず、螺子(6)が着座したときのインパクトレンチ(A)回転数の低下に伴う供給空気量の減少による静圧の急上昇を検出することにより螺子(6)の着座時期を検出するものである。」
(1-ト)明細書第12頁9行?20行
「制御計数回路(17)は、・・・必要打数(Nn)と、発信回路(14)からのパルスの積算が一致したとき、すなわち、インパクトレンチ(A)が必要打数(Nn)だけ締付作動して螺子(6)を設定締付トルク(Td)で締付完了したとき、電磁弁駆動回路(19)を介して電磁弁(9)を作動せしめ、同レンチ(A)への空気供給を遮断すると共に、同レンチ(A)側の残圧を放出して同レンチ(A)の作動を停止させるものである。」
(1-ロ)?(1-ト)の記載事項からみて、甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率を把握する変化率検出回路13と、上記変化率が比較値より高いときにパルスを出力する発信回路14と、上記パルスをカウントし、このカウント値が設定締付トルクに見合う打数Nnに達したときに締付完了を指令する制御計数回路17と、締付完了の指令でエアホース1への空気供給を遮断する電磁弁駆動回路19とを有するインパクトレンチAの締付トルク制御装置B。」

(2)甲第3号証記載の発明
本件特許の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(2-イ)第1欄16行?19行
「本考案はインパクトレンチを用いて複数本のボルト等を締め付ける場合、その締付忘れを防止するようになしたインパクトレンチのボルト締付確認装置に関するものである。」
(2-ロ)第2欄16行?第3欄17行
「ボルト締付確認装置は第4図に示す如き各構成要素より成る・・・。このボルト締付完了時の締付負荷を信号用チューブを介して本体外へ取り出し、このエヤーの圧力変化信号を圧力スイツチ5へ供給し、ここでエヤー信号を電気信号に変換して打撃検出回路6へ送る。・・・
次に該回路6よりの信号を積算カウンター7へ供給し、ここでボルト締付本数を積算カウンターにてカウントする。
また、あらかじめカウント設定器8によりカウント数を設定し、タイマー9にて締付タクト時間も設定する。締付タクト時間完了確認でボルト締付回数と設定回数を比較判別回路10により合否判別を行う。そして締付タクト時間内にボルト締付回数が設定回数に達するとカウントアツプし、これをランプ11を点灯せしめて報知するようになす。」
以上の記載事項からみて、甲第3号証には次の発明が記載されていると認められる。
「インパクトレンチにおいて、ボルト締付完了時の信号を積算カウンター7によりカウントし、カウントしたボルト締付回数が設定回数に達したときに、そのことをランプ11を点灯せしめて報知するようになす比較判別回路10とを設けること。」

(3)甲第4号証記載の発明
本件特許の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(3-イ)第5頁右上欄4行?19行
「次にステップ109では空電変換器11からの信号を待ち、締付トルクが規定トルクに達するのを待つ。・・・締付トルクが規定トルクに達しインパクトレンチ3内のメカバルブが切替えられ信号チューブ10に空気圧が現われると空電変換器11から締付終了信号が出力され、ステップ110に進む。・・・
ステップ110では装置30内部の締付個数カウンタを前進させる。」
(3-ロ)第5頁右下欄1行?10行
「ステップ113ではステップ110でカウントされる締付本数を調べ、締め忘れがないか否かをチェックする。締付個数が規定本数に達していないときはステップ122に進み、前記ステップ121と同様に締付個数未達成ランプ41に異常表示すると共に作業ライン5を停止させる。
締付個数が規定本数に達すればステップ114に進み、リセット位置検出スイッチ25からの信号を待つ。」
以上の記載事項からみて、甲第4号証には次の発明が記載されていると認められる。
「インパクトレンチにおいて、締付終了信号により締付個数をカウントし、このカウント値が規定本数に達したときに次のステップ114に進ませること。」

(4)甲第5号証記載の発明
本件特許の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(4-イ)第2頁左下欄12行?13行
「この発明のインパクトレンチの締付制御装置」
(4-ロ)第6頁左上欄20行?同頁右上欄11行
「カウンタ85にて上記指令信号のカウントを行ない、最初のボルトの締付作業を完了する。そして締付作業の終了と共にトリッガーを戻し、同時に設定カウント数が再度自動的にセットされ、上記と同様な次の締付作業の準備が完了する。そこで作業者は次に2本目、3本目と締付作業を進めて行くことになる訳であるが、所定の本数(6本)に達したところで、カウンタ85からの締付完了信号が出力されることになり、この信号に基づいてブザー等を作動させ、これにより作業者は締付数量が所定数量に達したことを知り得ることになる。」
以上の記載事項からみて、甲第5号証には次の発明が記載されていると認められる。
「インパクトレンチにおいて、締付作業の完了したボルト数を信号によりカウントし、このカウント値が所定の本数に達したときに、所定員数締付完了の信号を出力するカウンタ85を設けること。」

(5)甲第6号証記載の発明
本件特許の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(5-イ)第5欄16行?39行
「本発明は他の分野にも使用できるが、複数個の緊締具を同時に締上げる機械に特に有効である。ここに図示し説明する装置は多数スピンドルのナツト緊締装置を制御するよう設計してあるが、単なる例示に過ぎないこと勿論である。
第1図に示す装置は4個の工具10,11,12,13を備え、それぞれの工具はそれぞれスピンドル15?18を有する。これ等スピンドル15?18はナツト又はねじのような緊締具(図示せず)を駆動するよう設計する。各工具のハウジング19には例えば空気式又は電動式の駆動モータをそれぞれのスピンドルのため設ける。この駆動モータのための動力供給手段を設けること勿論であるが図示しない。
工具10?13にソレノイド作動空気弁を設ける。この例ではスピンドルを空気式モータによつて駆動し、この空気弁をハウジング19内に設置する。4個のそれぞれの工具に対し入力線21に生ずる制御信号によつて各工具のソレノイドを付勢する。制御信号が各入力線21に生じた時、ソレノイドを付勢し、空気弁を開いて圧縮空気を導入しモータを駆動し各ユニツトのスピンドルを駆動する。ソレノイドを付勢しない時は、スピンドルは駆動させないこと勿論である。」
(5-ロ)図1から、
「4個の工具10?13はそれぞれ制御回路23?26を有すること」が看取できる。
4個の工具10?13をそれぞれ給気源に接続する給気路が必要なことは当業者にとって自明であるから、上記の記載事項からみて、甲第6号証には次の発明が記載されていると認められる。
「空気式モータで駆動する多数スピンドルのナツト緊締装置が、複数の給気路と、各給気路に接続された複数の工具10?13と、上記各工具を個別に制御するための制御回路23?26とを有すること。」

7.対比
本件発明1?5と甲第1号証記載の発明とを対比すると、後者の「変化率検出回路13」が前者の「圧力変化率把握手段」に、後者の「パルス」が前者の「打撃信号」に、後者の「発信回路14」が前者の「打撃信号出力手段」に、後者の「設定締付トルクに見合う打数Nn」が前者の「設定値」に、後者の「締付完了を指令する制御計数回路17」が前者の「締付完了信号を出力するカウンタ」に、後者の「締付完了の指令」が前者の「締付完了信号の出力」に、後者の「エアホース1への空気供給を遮断する電磁弁駆動回路19」が前者の「インパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段」に、後者の「締付トルク制御装置B」が前者の「締付制御装置」に、それぞれ相当することは明らかである。
また、甲第1号証記載の発明の「インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率」は、本件発明1、3、4の「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率」に相当する。
そして、甲第1号証記載の発明の「インパクトレンチAに供給される空気の静圧の時間に対する変化率」と本件発明2、5の「インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分」とは、「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率」の限りで共通し、甲第1号証記載の発明の変化率に係る「比較値」と本件発明1?5の「被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値」とは、圧力変化率に係る「基準値」の限りで共通する。
そうすると、本件発明1?5と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有するインパクトレンチの締付制御装置」である点。
〈相違点1〉(本件発明1?5に関し)
本件発明は、変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに、打撃信号出力手段が打撃信号を出力するのに対して、甲第1号証記載の発明は、変化率が基準値より高いときに、打撃信号出力手段が打撃信号を出力するものの、当該基準値が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値であるとは特定していない点。
〈相違点2〉(本件発明2、3、5に関し)
本件発明は、圧力変化率把握手段がインパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握するのに対して、甲第1号証記載の発明は、圧力変化率把握手段がインパクトレンチに供給される給気圧力変動の把握するものの、給気圧力変動の交流成分を把握するとは特定されていない点。
〈相違点3〉(本件発明3に関し)
本件発明は、締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けているのに対して、甲第1号証記載の発明は、員数計数手段を設けていない点。
〈相違点4〉(本件発明4、5に関し)
本件発明は、給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は、圧力変化率把握手段と打撃信号出力手段とカウンタと各給気路を閉じる吸気停止手段とをそれぞれ有するのに対して、甲第1号証記載の発明は、給気源に接続された給気路と、給気路に接続されたインパクトレンチと、上記インパクトレンチを締付制御するための制御手段を有するものの、給気路、インパクトレンチ、制御手段の数がそれぞれ1個である点。

8.相違点についての判断
(1)相違点1について
甲第1号証には、「螺子が被締結物に着座した時期を、供給空気の静圧変動により検出し」と記載され(摘記事項(1-ロ)参照)、甲第1号証記載の発明の「基準値」は「螺子が被締結物に着座した時期」であるといえるが、当該「着座時期」がどのような時期を意味するのかは、甲第1号証にはそのことに関する具体的記載がないので、定かではない。
ところで、甲第1号証には、「有効締付打撃の開始時期、すなわち、螺子が被締結物に着座した時期」と記載され(摘記事項(1-ロ)参照。なお、下線は当審で付与。)、また、従来技術についての説明の中で、「反転量が一定値以上の打撃を締付トルクに影響する有効打撃とし、この有効打撃をカウントし」と記載されている(摘記事項(1-イ)参照。なお、下線は当審で付与。)。さらに、上記4.(2)で述べたように、インパクトレンチにおいて注目すべき打撃が被締付体に対する締付に実質的に寄与する打撃であることは技術常識である。
そうすると、甲第1号証の上記(1-イ)及び(1-ロ)の記載、並びに、インパクトレンチにおける上記技術常識からみて、甲第1号証記載の発明の打撃信号を出力する際の「基準値」は、本件各発明と同じく、被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値であって、当該相違点1は実質上の相違点でないとするのが相当である。
仮に、そうでないとしても、甲第1号証記載の発明の「基準値」を、甲第1号証の上記(1-イ)の記載及びインパクトレンチにおける上記技術常識から、被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
甲第1号証記載の発明の「インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率」は、インパクトレンチAに供給される空気の静圧に関する信号がそもそも交流成分の集まりであることが自明であるから、インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分と云いうるものである。このことについては、被請求人も事実上認めている(3.(2-3)参照)。
そうすると、相違点2は相違点1と実質上同一の相違点であり、したがって、甲第1号証記載の発明において、相違点2に係る構成を本件発明2、3、5のようにすることは、少なくとも当業者が容易になし得ることである。

(3)相違点3について
甲第3?5号証には、上記6.(2)?(4)に示したとおりの発明が示されており、甲第3号証記載の発明の「ボルト締付完了時の信号を積算カウンター7によりカウントし、カウントしたボルト締付回数が設定回数に達したときに、そのことをランプ11を点灯せしめて報知するようになす比較判別回路10」及び甲第4号証記載の発明の「締付終了信号をカウントし、このカウント値が規定本数に達したときに次のステップ114に進ませる」手段、甲第5号証記載の発明の「締付作業の完了したボルト数を信号によりカウントし、このカウント値が所定の本数に達したときに、所定員数締付完了の信号を出力するカウンタ85」は、本件発明3の「締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段」に相当する。
そうすると、甲第3?5号証には、「締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けている」という、相違点3に係る本件発明3の構成が示されているということだできる。なお、このことは、被請求人も認めている(上記3.(2-3)参照)。
そして、当該甲第3?5記載の発明と上記甲第1号証記載の発明とは、「インパクトレンチ」という同一の技術分野に属するものである。
したがって、甲第1号証記載の発明に甲第3?5号証記載の発明を組み合わせ、相違点3に係る構成を本件発明3のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)相違点4について
甲第6号証には、上記6.(5)に示したとおりの発明が示されており、甲第6号証記載の発明の「各給気路に接続された複数の工具10?13」は本件発明4、5の「各給気路に接続されたインパクトレンチ」と、「各給気路に接続され、空気圧によって締付作業を行う複数の工具」の限りで、また、甲第6号証記載の発明の「各工具を個別に制御するための制御回路23?26」は本件発明4、5の「各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段」と、「複数の工具を個別に締付制御するための制御手段」の限りで、それぞれ共通する。
そうすると、甲第6号証には、「給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続され、空気圧によって締付作業を行う工具と、上記各工具を個別に締付制御するための制御手段とを有する」という発明が示されているということができる。
そして、当該甲第6記載の発明と上記甲第1号証記載の発明とは、「空気圧によって締付作業を行う工具」という同一の技術分野に属するものである。
したがって、甲第1号証記載の発明に甲第6号証記載の発明を組み合わせ、相違点4に係る構成を本件発明4、5のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

(5)作用効果について
本件発明1?5の作用効果は、甲第1号証記載の発明等から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

9.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2は、甲第1号証記載の発明に基づいて、本件発明3は、甲第1、3?5号証記載の発明に基づいて、本件発明4、5は、甲第1、3?6号証記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?5についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インパクトレンチの締付制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項2】
インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項3】
上記締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けたことを特徴とする第1請求項又は第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項4】
給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項5】
給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴とするインパクトレンチの締付制御装置。
【請求項6】
給気源から複数のインパクトレンチへ至る各給気路に各給気路を開閉制御するためのエアオペレートバルブを介設し、そのパイロット室にはこのエアオペレートバルブを開作動させるエアを供給するパイロットエア通路を接続し、各パイロットエア通路には切換作動時に該通路を大気開放して上記エアオペレートバルブを閉作動させる常開のパイロットバルブを介設し、上記全パイロットエア通路へ連通する主パイロットエア通路を開閉制御する電磁弁を設け、インパクトレンチの締付開始時に上記電磁弁を開弁させるスタートスイッチを設け、上記エアオペレートバルブより下流の圧力を検出する圧力検出手段からの検出信号が入力されると共に各インパクトレンチの締付が完了したときに上記パイロットバルブに締付停止信号を出力して各パイロットバルブを切換作動させるように上記制御手段を構成したことを特徴とする第4請求項又は第5請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(産業上の利用分野)
この発明はインパクトレンチの締付制御装置に関するものである。
(従来の技術及びその問題点)
インパクトレンチにおいて、締付トルク制御を正確に行ったり、あるいは締付作業の完了した員数を正確に把握しようとすれば、打撃状態を検出する必要があるが、従来、この打撃状態の検出は、エアモータの主軸にセンサを取着し、主軸の反転を検出する方法によって行われている。しかしながらこの方法では、インパクトレンチ内部に正転及び逆転を検出するためのセンサを配置する必要のあることから、機器の大形化やコストアップを招くという欠点がある。
【0002】
そのため給気圧を検出し、この給気圧が基準値以下に低下したときにインパクトレンチが作動しているとして、上記打撃状態を検出するという方式を採用することが考えられる。しかしながらこの方式では、インパクトレンチが無負荷回転状態にあるのか、打撃状態にあるのかの識別が不可能であるという欠点がある。それは、無負荷回転状態と打撃状態において生ずる圧力差が、給気源において不可避的に生ずる圧力変動よりも小さく、その識別が不可能であるためである。
【0003】
そこでこの発明の主たる目的は、インパクトレンチにおける打撃状態の検出を、簡素な構成でかつ正確に行うことのできると共に、締付トルク制御を正確に行うことのできるインパクトレンチの締付制御装置を提供することにある。
【0004】
さらにこの発明の他の目的は、上記のように正確なトルク制御のもとに、締付作業の完了した員数把握を正確に行うことの可能なインパクトレンチの締付制御装置を提供することにある。
【0005】
またさらにこの発明の他の目的は、複数個設けられたインパクトレンチを個別に締付制御することができるインパクトレンチの締付制御装置を提供することにある。
(問題点を解決するための手段)
第1請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴としている。
【0006】
第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの給気路を閉じる給気停止手段とを有することを特徴としている。
【0007】
第3請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、上記締付完了信号をカウントし、このカウント値が設定員数に達したときに所定員数締付完了信号を出力する員数計数手段を設けたことを特徴としている。
【0008】
第4請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力の変化率を把握する圧力変化率把握手段と、上記変化率が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴としている。
【0009】
第5請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、給気源に接続された複数の給気路と、各給気路に接続されたインパクトレンチと、上記各インパクトレンチを個別に締付制御するための制御手段とを有し、この制御手段は各インパクトレンチに対応して、上記インパクトレンチに供給される給気圧力変動の交流成分を把握する圧力変化率把握手段と、上記交流成分が被締付体を締付けるための打撃に相当する基準値に達したときに打撃信号を出力する打撃信号出力手段と、上記打撃信号をカウントし、このカウント値が設定値に達したときに締付完了信号を出力するカウンタと、締付完了信号の出力でインパクトレンチへの各給気路を閉じる給気停止手段とをそれぞれ有していることを特徴としている。
【0010】
第6請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置は、給気源から複数のインパクトレンチへ至る各給気路に各給気路を開閉制御するためのエアオペレートバルブを介設し、そのパイロット室にはこのエアオペレートバルブを開作動させるエアを供給するパイロットエア通路を接続し、各パイロットエア通路には切換作動時に該通路を大気開放して上記エアオペレートバルブを開作動させる常開のパイロットバルブを介設し、上記全パイロットエア通路へ連通する主パイロットエア通路を開閉制御する電磁弁を設け、インパクトレンチの締付開始時に上記電磁弁を開始させるスタートスイッチを設け、上記エアオペレートバルブより下流の圧力を検出する圧力検出手段からの検出信号が入力されると共に各インパクトレンチの締付が完了したときに上記パイロットバルブに締付停止信号を出力して各パイロットバルブを切換作動させるように上記制御手段を構成したことを特徴としている。
(作用)
上記第1請求項及び第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置では、無負荷回転中は給気圧は特定の圧力に維持され、給気圧の経時変化が生じないことから、打撃信号は出力されない。これに対し、打撃状態においては、給気圧には打撃発生毎にある程度以上の変化が生じ、この変化に基づいて打撃信号が出力される。そして出力される打撃信号の数をカウントし、これらが設定値に達したときに給気を停止する。
【0011】
また第3請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置では、締付作業の完了した被締付体の員数を計数でき、これが設定員数に達したことを把握し得るので、正確な締付員数管理を行うことが可能となる。
【0012】
さらに第4請求項及び第5請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置では、各インパクトレンチ毎の締付制御を制御手段で個別に行い得る。すなわち上記制御手段では、圧力変化率把握手段での給気圧力の変化率、交流成分を把握し、これらに基づいて打撃信号を打撃信号出力手段から出力すると共に、上記打撃信号をカウンタで計数し、カウンタからの締付完了信号で給気停止手段が給気路を閉じてインパクトレンチの締付を停止するという制御を各インパクトレンチ毎に行い得ることになるのである。
【0013】
そして第6請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置では、エアオペレータバルブ、パイロットバルブ、電磁弁等から成る空気圧回路で複数のインパクトレンチを個別に締付制御可能な締付制御装置を提供し得る。
(実施例)
次にこの発明のインパクトレンチの締付制御装置の具体的な実施例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
第1図に全体構成の概略図を示すが、同図において、1は給気源、2はエアホース、3はインパクトレンチをそれぞれ示しており、エアホース2には、給気源1側から順に、電磁弁4、チェックバルブ5、圧力トランスデューサ6が介設されている。このチェックバルブ5は、給気源1側の圧力低下に起因するトラブルを防止するためのものである。また同図において、7は制御装置を示しているが、この制御装置7は、圧力トランスデューサ6に接続された入力ポート8、電磁弁4に接続された出力ポート9、設定員数の入力される複数の入力ポート10…、所定員数締付完了信号及びNG信号の出力される出力ポート11、12を備えている。
【0015】
第2図には上記制御装置7の機能ブロック図を示す。上記圧力トランスデューサ6からの圧力信号は、圧力信号増幅部21に入力され、次いで圧力変化率把握部22、打撃信号出力部23へと出力される。この打撃信号出力部23は、検知レベル設定部24、リセットレベル設定部26をそれぞれ備え、打撃信号を出力するためのものであるが、その機能については後述する。この打撃信号は、カウンタ27にてその出力数が計数され、これらが設定部29における設定値に達したときに締付完了信号を出力する。そしてこの締付完了信号に基づいて、電磁弁シャットオフ部31は電磁弁4を閉弁する。一方、上記制御装置7には、デジタルスイッチより成る員数設定部32と、員数計数部33とが設けられており、員数計数部33にて上記締付完了信号をカウントし、これが員数設定部32での設定値に達したときに、所定員数締付完了信号を出力し、一連の締付作動を停止し得るようなされている。34は残数表示部を示しているが、これは、あと何本の締付を行うかをLEDで表示するためのものである。なお上記員数設定部32は、単数の場合もあるし、複数個設けておくこともある。また上記制御装置7にはさらにタイマ部35が設けられており、一連の締付作動を開始する際のスタート信号によってリセットされた後、所定時間内に所定員数締付完了信号の出力されない場合に、NG信号を出力するようなされている。36はタイマ調整部、37は電源部である。
【0016】
次に上記制御装置の作動状態について,第3図に基づいて説明する。まず同図(a)には、圧力トランスデューサ6からの出力信号を示すが、この信号から圧力変化率把握部22においては、交流成分のみを圧力変動信号として取出す。すなわち上記圧力トランスデューサ6からの圧力信号は、同図(a)のように停止時には変動がなく、レバー開時には大きな負変動レベルが得られ、フリーランニング(無負荷回転)時には微少な正負変動があり、また打撃時には一打撃毎に大きな正変動と小さな負変動とを繰返すという特性を有するものである。したがって圧力トランスデューサ6からの圧力信号を、あるレベルの周波数以上の周波数成分のみの通過を許容するハイパスフィルタ、つまり微分フィルタを通過させることにより、同図(b)に示すように交流成分を圧力変動信号として取出すのである。そしてこの圧力変動信号に基づき、まず打撃信号出力部23では、レバー開時の負変動がリセットレベル設定部26でのリセットレベルに達した際に、上記カウンタ27やタイマ28をリセットし、打撃状態の検出を開始する。上記検知レベル設定部24において設定された検知レベル以上の正変動、つまり打撃が発生すると、上記打撃信号出力部23からは、同図(C)に示すように打撃信号が所定時間T4だけ出力される。そして上記打撃信号の出力数をカウンタ27にて計数し、これが設定値に達すると締付完了信号を出力して電磁弁4を閉弁し、次いでレバーを閉止する(第3図(d)(e))。なお電磁弁4は閉弁後、所定時間T2経過後に自動的に再度開弁する。そして上記のような締付作動を所定回数だけ繰返し、員数計数部33においてカウントされる締付完了信号が設定値に達したときに、所定員数締付完了信号を出力し、これにより一連の作動を完了する。
【0017】
以上にこの発明のインパクトレンチの締付制御装置の一実施例の説明をしたが、この発明のインパクトレンチの締付制御装置は上記実施例に限定されるものではなく、種々変更して実施可能である。例えば上記において打撃間隔T3を検出し、この打撃間隔が基準時間よりも長い場合には、これを打撃とはみなさず、外乱であるとし、カウンタ27やタイマ28をリセットするような方策を講じることもある。さらに上記では圧力変化率を変動圧力の交流成分のみを取出すことで把えたが、これは他の方式を採用して取出すようにしてもよい。
【0018】
また第1図に示すような1台のインパクトレンチ3を制御する場合に限らず、第4図に示すように、例えば4台のインパクトレンチ3…を同時に制御することもできる。なお第4図において、第1図?第2図と同一符号で示した部分は同一又は相当部分である。第4図中で、各インパクトレンチ3…には給気路であるエアホース2…を1本ずつ接続している。各エアホース2にはインパクトレンチ3側から圧力トランスデューサ6、エアオペレートバルブ40、調圧弁41が順次に介設されている。空気力によって切換作動する常閉のエアオペレートバルブ40のパイロット室には、給気源1からパイロットエアを供給するパイロットエア通路42…が1本ずつ接続している。各パイロットエア通路42にはパイロットバルブ43…が介設されており、パイロットエア通路42の集合部分、つまり主パイロットエア通路42aには電磁弁44が介設されている。この電磁弁44はスタートスイッチ45からのスタート信号46で開弁制御されるようになっている。上記パイロットバルブ43は、上記制御装置7によってインパクトレンチ3の締付停止時に切換制御される常開の切換弁である。なお制御装置7は、各パイロットバルブ43毎に1台ずつ設けられている。そして上記圧力トランスデューサ6からの検出信号50は制御装置7に入力され、制御装置7は上記第1実施例と同様に、圧力トランスデューサ6からの検出信号50に基づいて各インパクトレンチ3の締付完了時にパイロットバルブ43に締付停止信号51を出力するようになされている。なおこの実施例では、スタート信号46は電磁弁44に入力されるので、制御装置7はスタート信号は入力されていない。
【0019】
第4図の実施例装置は次のように作動する。まずスタートスイッチ45からのスタート信号46により電磁弁44を開弁し、各パイロットエア通路42…にエアが供給され、常開のパイロットバルブ43を通じてエアオペレータバルブ40を切換作動させ、エアホース2…からインパクトレンチ3…にエアが供給され、インパクトレンチ3…が締付作動する。各インパクトレンチ3による締付が開始されると、圧力トランスデューサ6が打撃毎の圧力変動を検出し、上記制御装置7で検出信号50から打撃カウント信号をカウントし、上述の通り制御装置7に予め設定されている打撃カウント数に達した時点で制御装置7から締付停止信号51がパイロットバルブ43に出力され、パイロットバルブ43が閉弁する。パイロットバルブ43が閉弁すると、パイロットエア通路42が大気開放され、エアオペレートバルブ40が作動してエアホース2が大気開放され、インパクトレンチ3の締付作動が停止する。またこのとき制御装置7からインパクトレンチ3の停止信号がスタートスイッチ45へと出力され、4台のインパクトレンチ3…が全て停止した時点で上記電磁弁44へ出力されていたスタート信号46も停止し、電磁弁44が閉弁してパイロットエアの供給が停止する。
【0020】
そして4台のインパクトレンチ3…が全て停止した時点で、制御装置7内のタイマ(図示せず)が計時を開始し、このタイマがタイムアップ(0?6秒)した後には、制御装置7から出力されている締付停止信号51が解除され、パイロットバルブ43が無励磁状態に復帰し、再びスタートスイッチ45を押すことにより、再スタートして上記のサイクルを繰り返すことになる。
【0021】
なお上記各実施例におけるインパクトレンチとは、ボルト等の被締付体に対し打撃を作用させて締付ける方式を採用するものであって、この打撃に起因して給気圧力に変動を生じさせるものであれば、打撃ハンマを用いるものや、油圧シリンダを利用するものであってもよい。
(発明の効果)
以上のように第1請求項及び第2請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置では、従来のように給気圧の絶対値そのものを検出するのではなく、給気圧の変化に基づいて打撃状態を検出するようにしてあるので、打撃とは無関係な給気圧そのものの変動(平均レベルの変動)の影響を受けず、したがって構成簡素にして正確に打撃状態を検出することが可能であり、そのため、締付トルクを正確に制御し得ることになる。
【0022】
また第3請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置によれば、上記トルク制御に加えて、員数管理を正確に行えることになり、使用上便利である。
そして第4請求項及び第5項請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置によれば、複数の給気路に接続された各インパクトレンチの締付制御を上記同様な手順で個別に行うようにしてあるので、複数のインパクトレンチを同時に制御することができる。
【0023】
また第6請求項記載のインパクトレンチの締付制御装置によれば、エアオペレートバルブ、パイロットバルブ、電磁弁等から成る簡素な構成の空気圧回路で上記に好適な締付制御装置を構成し得ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
第1図はこの発明のインパクトレンチの締付制御装置の一実施例の全体構成の説明図、第2図はその制御構成を示すブロック図、第3図はその作動状態を示すタイムチャート図、第4図はこの発明の第2実施例を示す配管系統図である。
【0025】
2…給気源、3…インパクトレンチ、4…電磁弁、6…圧力トランスデューサ、7…制御装置、22…圧力変化率把握部、23…打撃信号出力部、27…カウンタ、31…電磁弁シャットオフ部、32…員数設定部、33…員数計数部、40…エアオペレートバルブ、42a…主パイロットエア通路、42…パイロットエア通路、43…パイロットバルブ、44…電磁弁、45…スタートスイッチ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-10-11 
結審通知日 2005-10-13 
審決日 2005-10-25 
出願番号 特願平1-232617
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (B25B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
佐々木 正章
登録日 1996-08-09 
登録番号 特許第2079660号(P2079660)
発明の名称 インパクトレンチの締付制御装置  
代理人 辻本 希世士  
代理人 前田 弘  
代理人 今江 克実  
代理人 今江 克実  
代理人 前田 弘  
代理人 上野 康成  
代理人 窪田 雅也  
代理人 森田 拓生  
代理人 二宮 克也  
代理人 二宮 克也  
代理人 辻本 一義  

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