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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1150845
審判番号 不服2004-8600  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-26 
確定日 2007-01-17 
事件の表示 平成10年特許願第213261号「記録装置の制御方法及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月13日出願公開、特開平11- 99643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年7月28日の出願(米国出願に基づく優先権主張 1997年7月28日)であって、平成16年3月22日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月26日付けで本件審判請求がされるとともに、同年5月26日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年5月26日付けの手続補正を却下する。

[理由1]
1.補正内容
本件補正により請求項が一部削除されているが、本件補正前後の請求項2同士及び請求項17同士が対応関係にあることは明らかであり(本件補正書では、請求項18までは、請求項番号に補正箇所を示す下線が付されていない。)、それぞれ次のように記載されている。
(補正前の記載)
【請求項2】記録素子を配列した記録ヘッドを用い、前記記録ヘッドを複数搭載したキャリッジを走査して記録媒体に記録を行う記録装置の制御方法であって、
前記複数の記録ヘッドを用い、前記複数の記録ヘッドの往復走査方向のレジストレーション量に依存した各濃度を有する複数のテストパターンを記録媒体に印刷し、
印刷された前記複数のテストパターンの濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別し、
その判別した結果に応じて前記レジストレーション量に関連した情報を取得することを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項17】記録素子を配列した記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法において、
前記記録ヘッドのレジストレーションの量に依存した濃度を有し、少なくとも所定方向に沿って複数ドット幅の記録領域と複数ドット幅のスペースとが繰り返されるテストパターンを複数形成する形成工程と、
前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程と、
その判別した関係に応じて前記記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能とする取得工程と、
を有することを特徴とする画像形成方法。

(補正後の記載)
【請求項2】記録素子を配列した記録ヘッドを用い、前記記録ヘッドを複数搭載したキャリッジを走査して記録媒体に記録を行う記録装置の制御方法であって、
線状の画像を間隔を置いて配列するテストパターンを、前記複数の記録ヘッドを用い、前記複数の記録ヘッドのそれぞれによる相対的記録位置を異ならせて複数記録するテストパターン記録工程と、
前記テストパターンを構成する前記線状の画像の幅と前記間隔の大きさを、先の前記テストパターン記録工程で記録されたテストパターンと異ならせて前記テストパターン記録工程を複数回行い、当該複数回の前記テストパターン記録工程のそれぞれにおける前記複数のテストパターンの濃度について相対的な大小関係を判別する判別工程とを有し、
前記判別工程による判別結果に基づいて、前記複数の記録ヘッド間のレジストレーション量に関連した情報を取得することを特徴とする記録装置の制御方法。
【請求項17】記録素子を配列した記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に沿って往復走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法において、
前記記録ヘッドの往方向の走査と復方向の走査により形成されるテストパターンであって、主走査方向に沿って複数ドット幅の記録領域と複数ドット幅のスペースとが繰り返されるドットパターンで構成され、前記往方向の走査で形成する前記ドットパターンに対する前記復方向の走査で形成する前記ドットパターンの位置を異ならせることによって前記記録ヘッドの往復記録のレジストレーションの量に依存した濃度を有するテストパターンを、前記ドットパターンを異ならせて複数形成する形成工程と、
前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンのそれぞれについて、往方向走査と復方向走査とで記録位置を異ならせたパターン間の濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程と、
その判別した関係に応じて前記記録ヘッドの往復走査におけるレジストレーションの量を取得可能とする取得工程と、
を有することを特徴とする画像形成方法。

2.補正目的違反
(1)請求項2の補正について
補正前請求項2には「レジストレーション量」が「往復走査方向のレジストレーション量」とされており、当然「テストパターン」は往復走査によって形成されるものである。ところが、補正後請求項2には、「レジストレーション量」が「往復走査方向のレジストレーション量」であることも、「テストパターン」が往復走査によって形成されることも限定されておらず、補正前の限定事項が削除されている。このように、補正前の限定事項が削除することが、請求項削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。

(2)請求項17の補正について
上記によれば、補正前の「記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能とする取得工程」が「記録ヘッドの往復走査におけるレジストレーションの量を取得可能とする取得工程」と補正されており、補正前の「複数ドットに亘る」との文言が削除(以下「本件補正事項」という。)されている。
本件補正事項が、請求項削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
そればかりか、「複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能」(補正前の限定事項)とするためには、「前記往方向の走査で形成する前記ドットパターンに対する前記復方向の走査で形成する前記ドットパターンの位置」を複数ドット以上異ならせたテストパターンを形成しなければならないところ、本件補正後の請求項17には、かかる限定がないのだから、補正後請求項17に係る発明(以下「補正発明」という。)においては、必ずしも「記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能」ではない。すなわち、本件補正事項は、特許請求の範囲を拡張するものである。

(3)補正目的についての結論
以上のとおり、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

[理由2]
本件補正後請求項17において記録されるテストパターンは「記録ヘッドの往方向の走査と復方向の走査により形成されるテストパターン」であり、そのテストパターンの具体的限定は「主走査方向に沿って複数ドット幅の記録領域と複数ドット幅のスペースとが繰り返されるドットパターンで構成され」ることのみである。この限定によれば、テストパターンは記録領域が斜め方向に延びたパターンであってもよいことになる。
ところが、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、2つのヘッドを用いる場合の縦レジ検出用のテストパターンとして、横方向の縞模様(主走査方向には、ドットを連続して記録するか、又は全く記録しないことにより、横方向の縞模様を記録する。)を2つのヘッドで記録したパターン(【図7】?【図21】)、横レジ検出用のテストパターンとして、縦方向の縞模様を2つのヘッドで記録したパターン(【図22】,【図34】)が記載されており、双方向記録におけるレジに関し、「双方向記録方法においては、・・・往方向での記録位置と復方向での走査方向(横方向)の記録位置がずれてしまう。」(段落【0107】)及び「往復のレジずれ量の検出方法は、先に説明した2つのヘッドの横レジのずれ量の検出方法と同じである。」(段落【0110】)との記載がある。
これら記載によれば、「記録ヘッドの往方向の走査と復方向の走査により形成されるテストパターン」として当初明細書に記載されていたものは、往方向の走査と復方向の走査それぞれにおいて縦方向の縞模様パターンのみであり、斜め方向のパターンなどは記載されていないし、自明でもない。
したがって、本件補正は当初明細書に記載した事項の範囲内でされたものではないから、特許法17条の2第3項の規定に違反している。

[理由3]
1.補正目的及び補正発明の認定
理由1(2)で述べた本件補正事項は特許請求の範囲を減縮するものではないが、それ以外にも「テストパターン」を「往方向の走査と復方向の走査により形成されるテストパターン」に限定する等の補正も加えられているから、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする部分を含んでいる。そこで、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項17】に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。本件補正後の【請求項17】は「[理由1]1」に掲げたので、ここでは再掲しない。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-41252号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?クの記載が図示とともにある。
ア.「1)複数の記録ヘッドにより画像信号に応じて画像を形成する画像装置において、
第1および第2の記録ヘッドにより形成されるべき基準ドット状態に対応する駆動条件にて前記第1および第2の記録ヘッドを駆動して第1および第2ドットを形成させる駆動手段と、
当該形成された第1および第2ドットの形成状態が前記基準ドット状態に一致するように前記駆動手段を制御する制御手段と
を具えたことを特徴とする画像形成装置。」(1頁左下欄5?14行)
イ.「2)前記制御手段は、前記第1および第2ドットの形成状態を読取る読取り手段と、当該形成状態が前記基準ドット状態に一致しているかを判別する判別手段を有することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。」(1頁左下欄15行?右下欄2行)
ウ.「3)前記基準ドット状態は前記第1および第2ドットが同一位置に重ね合されるように記録される状態であることを特徴とする請求項1または2に記載の画像形成装置。」(1頁右下欄3?6行)
エ.「インクジェット記録装置の記録型式としては、他の方式によるものと同様、記録媒体に沿って移動するキャリッジ上に記録ヘッドを搭載し、記録媒体の幅方向に走査することによって1ライン毎の記録を行なうシリアル型式と、記録ヘッドに1ライン分のインク吐出口を配列した所謂フルマルチヘッドを用いて記録を行なうライン型式とがある。」(2頁右上欄16行?左下欄4行)
オ.「ステップS101で第5図に示したテストパターンをプリントし、ステップS102で光センサ7によるテストパターン読み取りを行ない、ステップS103で第6図に示した波形における時間tをt0として記憶する。
ステップS104で基準色のヘッド(本例ではBk用ヘッド)に対して制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップ速くし、ステップS105でテストパターンを再度印字し、ステップS106でテストパターンの読み取りを行ないステップS107で第6図に示した波形における時間tをt1として記憶する。
ステップS108ではt0とt1との時間を比較し、吐出タイミング変更後の時間t1の方が短かい場合にはステップS116で時間t1をt0として記憶し、ステップS117で制御対象ヘッドの吐出タイミングを再に1ステップ速くし、ステップS118,S119,S120でテストパターン印字、読み取り、波形変化部分の時間tをt1として記憶する動作を行なう。
ステップS121で時間t(審決注;t0の誤記と認める。)をt1とを比較し、t1がt0より長かった場合にはステップS122で制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップ遅くし、再補正前の状態として補正を終了する。一方、ステップS121でt1がt0より短かかった場合にはステップS116からステップS121までの動作をt1>t0を満足するまでくりかえす。
ステップS108で時間t1がt0より長かった場合には、ステップS109で制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップ遅くして、ステップS110,S111,S112でテストパターンの印字、読み取り、および読み取り波形変化部分の時間tをt1として記憶する。
ステップS113ではt0とt1とを比較し、制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップ速くして再補正前の状態として補正を終了する。ステップS113でt1がt0より短かかった場合にはステップS109からステップS113までをt1>t0を満足するまでくりかえす。」(6頁左上欄12行?左下欄9行)
カ.「第9図は本発明の他の実施例に係る記録ドット位置検知用テストパターンの拡大図を示す。
各色とも1ドットあるいは2ドットの間引き印字がなされており、第9図(A)は基準色ヘッド(ブラックBk)と制御対象ヘッド(ここではシアンC)の記録ドット位置が一致している場合を示す。また、第9図(B)は基準色ヘッドと制御対象色ヘッドの記録ドット位置がずれていることを示している。」(6頁右下欄15行?7頁左上欄3行)
キ.「本実施例で用いる光センサは、先の実施例で示したセンサより分解能が低く第9図(A)の点線内の部分を平均して測定できるものである。
第10図は本例に係る光センサからの出力電流値を示す。
基準ヘッドと制御対象ヘッドとの記録ドットが一致している場合は出力電流値はI0を示し、基準色と制御対象ヘッドによる出力色との記録ドット位置にずれがある場合には出力電流値はI1となる。ここでI1<I0となるが、これは記録ドット位置にずれがあった場合には、単位面積あたりのインク被覆量が多いために紙の白色度の低下、すなわち反射光量の低下により、光センサからの出力電流が小さくなるためである。」(7頁左上欄3?17行)
ク.「実際の補正を行なう場合には第7図に示したシーケンスと同様な手法により、初期の出力電流値と制御対象色の吐出タイミングを補正した場合の出力電流値を比較し、センサからの出力電流値が最大となるように吐出タイミングの補正を行なうことができる」(7頁左上欄18行?右上欄3行)

3.引用例1記載の発明の認定
記載クの「第7図に示したシーケンス」とは、記載エのシーケンスであるが、第9図の実施例では時間を測定するわけではないから、記載オの「時間」を「光センサからの出力電流値」又は「反射光量」に読み替えなければならない(ただし、時間の場合は小さいほどずれが小さいのに対し、出力電流値又は反射光量の場合は、その値が大きいほどずれが小さい。)。要するに、基準ヘッドと制御対象ヘッドで間引き印字をし、両ヘッドによるドットを重ねて記録したテストパターンの反射光量を測定することを前提として、基準ヘッドに対する制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップずつ変更しながら、前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較することを繰り返し、反射光量が最大となるタイミングを取得するシーケンスである。そして、反射光量が最大となるタイミングが判明すれば、そのタイミングによって画像形成を行うことは明らかである。記録ヘッドは、記載エの「シリアル型式」であってもよく、その場合記載カの「間引き印字」とは、記録媒体の幅方向に走査する方向(キャリッジの移動方向)における「間引き印字」である。また、シリアル型式の記録ヘッドが第2図に図示されているところ、各記録ヘッドにおいては、図上縦方向に符番8で示される「インク吐出口」が並んでおり、このことは「記録素子」と称しうるものが配列されていることを意味する。
したがって、引用例1には、画像形成方法として次のような発明が記載されていると認めることができる。
「キャリッジ上にシリアル型式の基準ヘッド及び制御対象ヘッドを搭載し、記録媒体の幅方向に走査することによって1ライン毎の記録を行なう画像形成方法であって、
前記基準ヘッド及び前記制御対象ヘッドは記録素子を配列したインクジェット記録ヘッドであり、
前記基準ヘッド及び前記制御対象ヘッドにて、前記キャリッジの移動方向に間引き印字したものを重ね合わせたテストパターンを作成し、そのテストパターンの反射光量を測定することを前提とし、
前記基準ヘッドに対する前記制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップずつ変更しながら、前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較することを繰り返し、
反射光量が最大となるタイミングにて前記制御対象ヘッドを駆動することにより画像形成を行う画像形成方法。」(以下「引用発明1という。)

4.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「キャリッジの移動方向」と補正発明の「主走査方向」に相違はない。
補正発明及び引用発明1の「テストパターン」を比較すれば、ドットパターン(引用発明1においても、個々の記録ヘッドにより形成されるパターンが「ドットパターン」であることは自明である。)が、「主走査方向に沿って記録領域とスペース領域とが繰り返されるドットパターン」である点、及び1つのテストパターンがドットパターンを2回記録することにより2つのドットパターンで構成される点において一致する。
引用発明1において基準ヘッドに対する制御対象ヘッドの吐出タイミングを変更することと、補正発明において「前記往方向の走査で形成する前記ドットパターンに対する前記復方向の走査で形成する前記ドットパターンの位置を異ならせる」ことは、1つのテストパターンを構成する2つのドットパターンの相対位置を異ならせる点で一致する。
引用発明1の「反射光量」と補正発明の「濃度」は等価である(反射光量が大きいほど濃度が小さい。)から、補正発明及び引用発明1において形成される「テストパターン」は、「記録ヘッドのレジストレーションの量に依存した濃度を有するテストパターン」である点で一致し、「ドットパターンを異ならせて複数形成する形成工程」を有する点でも補正発明と引用発明1に相違はない。
引用発明1では、「前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較」しており、比較対象となるテストパターンは2つあるから、「前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンについて、往方向走査と復方向走査とで記録位置を異ならせたパターン間の濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程」を有する限度では、補正発明と引用発明1は一致する。
さらに、判別工程を有するからには、「その判別した関係に応じて前記記録ヘッドのレジストレーションの量を取得可能とする取得工程」を有する点においても、補正発明と引用発明1は一致する。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「記録素子を配列した記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向に沿って走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法において、
前記記録ヘッドの走査により形成されるテストパターンであって、主走査方向に沿って記録領域とスペース領域とが繰り返されるドットパターンを2回記録することにより2つのドットパターンで構成されるテストパターンを記録し、前記2回記録における相対的な前記ドットパターンの位置を異ならせることによって前記記録ヘッドのレジストレーションの量に依存した濃度を有するテストパターンを、前記ドットパターンを異ならせて複数形成する形成工程と、
前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンについて、往方向走査と復方向走査とで記録位置を異ならせたパターン間の濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程と、
その判別した関係に応じて前記記録ヘッドのレジストレーションの量を取得可能とする取得工程と、
を有する画像形成方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明は「主走査方向に沿って往復走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法」であり、2つのドットパターンは往方向の走査及び復方向の走査により形成されるのに対し、引用発明1における2つのドットパターンは2つの異なる記録ヘッドの走査により形成される点。なお、補正発明において、「前記往方向の走査で形成する前記ドットパターンに対する前記復方向の走査で形成する前記ドットパターンの位置を異ならせる」、「記録ヘッドの往復記録のレジストレーションの量」、「往方向走査と復方向走査とで記録位置を異ならせたパターン」及び「記録ヘッドの往復走査におけるレジストレーションの量」とされていることは、上記相違点1に必然的に付随する事項にすぎず、別途独立した相違点にはならない。
〈相違点2〉「ドットパターン」につき、補正発明が「複数ドット幅の記録領域と複数ドット幅のスペースとが繰り返される」と限定しているのに対し、引用発明1にはかかる限定がない点。
〈相違点3〉「判別工程」につき、補正発明が「複数のテストパターンのそれぞれについて」パターン間の濃度の相対的な大小関係を判別するとしているのに対し、引用発明1では「それぞれについて」判別するかどうか明らかでない点。

5.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-153151号公報(以下「引用例2」という。)には、「往復動するキャリジに搭載された記録ヘッドを有するインクジェット記録装置において、インク滴の記録媒体上における往復動作方向の位置の一致を確認するテストパターンを形成する」(1頁左下欄5?8行)、「第4図は、本発明におけるインク滴の記録位置(付着位置)のズレの有無を確認するためのテストパターンを例示する。すなわち、第4図(A)は往復記録時における同一記録ヘッドの記録位置補正に用いるテストパターンIを示し、第4図(B)は複数個の記録ヘッド5A?5D相互間の記録位置補正に用いるテストパターンIIを示す。」(4頁右上欄11?17行)、「テストパターンIは、1つの記録ヘッド・・・のみによる往復記録で、図示のような縦線を記録して形成される。すなわち、矢印P方向(往方向)で1行分の高さの縦線を記録し、次いで矢印Q方向(復方向)で1行分の高さの縦線を記録する。」(4頁左下欄2?8行)及び「片方向(矢印P方向)の記録により、各記録ヘッド5A?5Dそれぞれの縦線すなわちシアン、マゼンタ、イエロおよびブラックの各縦線を図示のように1行単位で記録する。」(4頁左下欄19行?右下欄2行)との各記載がある。第4図(A),(B)から明らかなように、ここでいう「縦線」とは「主走査方向に沿って記録領域とスペース領域とが繰り返されるドットパターン」であり、「往復記録時における同一記録ヘッドの記録位置補正」及び「複数個の記録ヘッド5A?5D相互間の記録位置補正」に共通して、縦線からなるテストパターンを形成することが引用例2に記載されている。
すなわち、「主走査方向に沿って記録領域とスペース領域とが繰り返されるドットパターン」により構成されるテストパターン(補正発明、引用発明1及び引用例2記載技術すべてに共通)は、「往復記録時における同一記録ヘッドの記録位置補正」及び「複数個の記録ヘッド5A?5D相互間の記録位置補正」に共通して有効なのだから、引用発明1における「記録ヘッドのレジストレーションの量」を「記録ヘッドの往復走査におけるレジストレーションの量」とすることは当業者にとって想到容易である。
「記録ヘッドのレジストレーションの量」を「記録ヘッドの往復走査におけるレジストレーションの量」とすれば、必然的に「主走査方向に沿って往復走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法」となり、2つのドットパターンは往方向の走査及び復方向の走査により形成することになる。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
引用例1の第9図には、主走査方向に1ドット記録、1スペースを繰り返したドットパターンが記載されている。その場合、テストパターンは2ドットを周期とする周期関数になり、制御対象ヘッドの吐出タイミングを2ドット変化させると同一テストパターンになる。換言すれば、1ドット記録、1スペースでは±1ドットまでのレジストレーション量しか取得することができない。
記録ヘッドや走査機構が極めて精密に製造されており、±1ドット以内のレジストレーション量のみ存在し得ないのならば、別段不都合はないけれども、そのような記録ヘッドや走査機構は相当程度高価になることも予測されるから、当業者であれば±1ドットを超えるレジストレーション量を取得できるように心がけるべきである。そして、±1ドットまでのレジストレーション量しか得ることができない理由は、上記のとおりテストパターン周期が2ドットであることに起因するのだから、±1ドットを超えるレジストレーション量を取得するために、テストパターン周期を大きくすることは当業者にとって想到容易である。
他方、引用例1の記載キにあるように、反射光量の大小は「単位面積あたりのインク被覆量」によって変化する。例えば、1ドット記録、2スペースのように、スペース領域が記録領域よりも広い場合を想定すると、2つのドットパターンのずれが1ドット?2ドットまでの「単位面積あたりのインク被覆量」は等しくなり、適切なレジストレーション量を得るには不都合なことは自明である。逆に、2ドット記録、1スペースのように、スペース領域が記録領域よりも狭い場合を想定すると、2つのドットパターンのずれが1ドット近傍の場合、そのずれ量がが少々変化しても「単位面積あたりのインク被覆量」は変わらないから、これも適切なレジストレーション量を得るには不都合なことは自明である。すなわち、適切なレジストレーション量を得るに当たっては、記録領域とスペース領域のドット数を等しくすることが好都合なことは当業者には自明である。
以上を総合すれば、テストパターン周期を引用例1第9図の実施例よりも大きくし、かつ記録領域とスペース領域のドット数を等しくことは当業者が容易に想到できる事項であって、そのことは相違点2に係る補正発明の構成を採用することにほかならない。
すなわち、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点3について
補正発明の「複数のテストパターンのそれぞれについて」との文言につき、テストパターンが2つである場合には、大小関係判別の対象となるものが2つしかなく、その場合も「複数のテストパターンのそれぞれについて」に含まれるのだとすれば、相違点2は実質的相違点ではない。以下では、大小関係判別の対象となるテストパターンが3以上として検討をすすめる。
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-99566号公報(以下「引用例3」という。)には、「本発明に係る印画位置調整方法は、(1)各色ノズル群からのインクの吐出タイミングを異なる複数のオフセット値に従って変化させることによって印画位置の異なるアライメント用サンプル画像を各色ごとに作像してアライメントパターンを作成し、(2)さらに、そのアライメントパターンを参照してインク吐出のための適正なオフセット値を決定するようにした印画位置調整方法」(段落【0007】)との記載があり、この記載と【図5】によれば、オフセット値を変化させた3以上のアライメントパターン(ドットパターンを異ならせて複数形成した3以上のテストパターンといえる。)を形成し、その後適正なオフセット値を決定することが記載されていると認める。
引用発明1においても、「前記基準ヘッドに対する前記制御対象ヘッドの吐出タイミングを1ステップずつ変更しながら、前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較することを繰り返」すのだから、テストパターンは3以上形成される。そうであれば、前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較することを繰り返すことに代えて、基準ヘッドに対する制御対象ヘッドの吐出タイミングを異ならせた3以上のテストパターンを形成し、その後最適な吐出タイミングとして、反射光量が最大のテストパターンを選択することは当業者にとって想到容易である。
そして、3以上のテストパターンから、反射光量が最大のテストパターンを選択するに当たっては、3以上のテストパターンのそれぞれについてパターン間の濃度の相対的な大小関係(反射光量を基準とすれば、濃度基準とは大小関係が逆になる。)を判別することは設計事項に属する。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1?3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1並びに、引用例2及び引用例3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
理由1?理由3で述べたとおり、本件補正は特許法17条の2第3項、同条4項及び同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1及び請求項17に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明17」は、平成15年4月30日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項17】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。本願発明17は「第2[理由1]1」に示したとおりであるが、再掲しておく。
本願発明1:「記録ヘッドを走査して記録媒体に記録する記録装置の制御方法であって、
記録ヘッドの往復走査方向のレジストレーション量に依存した各濃度を有する複数のテストパターンを記録媒体に印刷し、
印刷された前記複数のテストパターンの濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別し、
その判別した結果に応じて前記レジストレーション量に関連した情報を取得することを特徴とする記録装置の制御方法。」
本願発明17:「記録素子を配列した記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法において、
前記記録ヘッドのレジストレーションの量に依存した濃度を有し、少なくとも所定方向に沿って複数ドット幅の記録領域と複数ドット幅のスペースとが繰り返されるテストパターンを複数形成する形成工程と、
前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程と、
その判別した関係に応じて前記記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能とする取得工程と、
を有することを特徴とする画像形成方法。」

2.本願発明1と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定
引用発明1は「反射光量が最大となるタイミングにて前記制御対象ヘッドを駆動することにより画像形成を行う画像形成方法」であり、制御対象ヘッドを駆動するを上記のタイミングで駆動する方法であるから、「記録装置の制御方法」と見ることもできる。以下、かかる観点で引用発明1を見たものを「引用発明制御方法」ということにする。
引用発明制御方法における「前回までの反射光量最大のテストパターンと吐出タイミング変更後のテストパターンの反射光量を比較」は、本願発明1における「印刷された前記複数のテストパターンの濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別」と異ならず、比較結果は「レジストレーション量に関連した情報」である。
したがって、「第2[理由3]4」で述べたことを考慮すると、本願発明1と引用発明制御方法とは、
「記録ヘッドを走査して記録媒体に記録する記録装置の制御方法であって、
記録ヘッドのレジストレーション量に依存した各濃度を有する複数のテストパターンを記録媒体に印刷し、
印刷された前記複数のテストパターンの濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別し、
その判別した結果に応じて前記レジストレーション量に関連した情報を取得する記録装置の制御方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点4〉レジストレーション量につき、本願発明が「記録ヘッドの往復走査方向のレジストレーション量」としているのに対し、引用発明制御方法では、基準ヘッドと制御対象ヘッドのレジストレーション量である点。
なお、平成15年4月30日付け意見書において請求人は「本願発明は、レジストレーション量に依存した各濃度を有する複数のテストパターンを印刷してその濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の大小関係のみを判別して記録位置のずれ量に関する情報を取得するものであり、この本願発明の特徴的構成について、引用文献1(審決注;審決の引用例1)には何ら開示も示唆もありません。」(10頁20?24行)と主張しているが、引用例1の記載オにあるように、第5図?第7図の実施例では「t0とt1との時間を比較」を比較しており、「第2[理由3]3」で述べたように、第9図の実施例では時間を反射光量に読み替えるべきであり、反射光量と濃度は等価であるから、当然「レジストレーション量に依存した各濃度を有する複数のテストパターンを印刷してその濃度を検出し、その検出した各テストパターンの濃度の大小関係のみを判別して記録位置のずれ量に関する情報を取得する」ことになる。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。この点は、後記4.においても同様である。

3.相違点4についての判断及び本願発明1の進歩性の判断
相違点4は、「第2[理由3]4」であげた相違点1と実質的に同一の相違点であり、「第2[理由3]5(1)」で述べたと同様の理由により、相違点4に係る本願発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。また、かかる構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明1は引用発明制御方法及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4.本願発明17と引用発明1との一致点及び相違点の認定
「第2[理由3]4」で述べたことを踏まえると、本願発明17と引用発明1とは、
「記録素子を配列した記録ヘッドを搭載したキャリッジを走査しつつ、前記記録ヘッドにより記録媒体上にドットを記録することにより画像を形成する画像形成方法において、
前記記録ヘッドのレジストレーションの量に依存した濃度を有し、少なくとも所定方向に沿って記録領域とスペース領域とが繰り返されるテストパターンを複数形成する形成工程と、
前記形成工程により形成された前記複数のテストパターンの濃度の相対的な大小関係を判別する判別工程と、
その判別した関係に応じて前記記録ヘッドのレジストレーションの量を取得可能とする取得工程と、
を有する画像形成方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点5〉本願発明17が、「記録領域」及び「スペース領域」を「複数ドット幅」と限定し、「記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能」としているのに対し、引用発明1にはこのような限定がない点。

5.相違点5についての判断及び本願発明17の進歩性の判断
相違点5は、「第2[理由3]4」であげた相違点2と密接に関連しており、「第2[理由3]5(2)」で述べた理由により、「記録領域」及び「スペース領域」を「複数ドット幅」とすることは当業者にとって想到容易である。そして、「第2[理由3]5(2)」では、その理由として±1ドットを超えるレジストレーション量を取得することをあげたのだから、「記録ヘッドの複数ドットに亘るレジストレーションの量を取得可能」とすることにも、何ら困難性はない。
すなわち、相違点5に係る本願発明17の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明17は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明1及び本願発明17が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-21 
結審通知日 2006-11-24 
審決日 2006-12-05 
出願番号 特願平10-213261
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 57- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 長島 和子
島▲崎▼ 純一
発明の名称 記録装置の制御方法及び画像形成方法  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康徳  

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