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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 G02C 審判 一部無効 特29条の2 G02C |
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管理番号 | 1151286 |
審判番号 | 無効2005-80161 |
総通号数 | 87 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-03-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-05-26 |
確定日 | 2007-02-14 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3294825号発明「眼鏡レンズの供給システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許第3294825号に係る発明についての出願は、平成4年6月24日に特許出願された特願平4-165912号の一部を平成11年7月27日に特願平11-212631号として新たな特許出願としたものであって、平成14年4月5日にその特許の設定登録がなされた。 2.これに対して、平成17年5月26日に請求人東海光学株式会社より本件特許特許第3294825号の請求項1に係る発明についての特許に対し無効審判が請求された。 3.被請求人HOYA株式会社より、平成17年8月16日に答弁書が提出された。 4.口頭陳述要領書が、平成17年10月28日に被請求人から、また、平成17年11月11日に請求人から、それぞれ提出されるとともに、平成17年11月11日に口頭審理が行われた。 5.被請求人より平成17年11月22日に上申書が提出された。 6.請求人より平成17年12月1日に上申書が提出された。 第2 本件特許発明 本件特許発明は、設定登録時の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本件発明」という。)。 「【請求項1】眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータに情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを備え、 前記発注側コンピュータが前記眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有し、前記製造側コンピュータが前記眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する眼鏡レンズの供給システムにおいて、 前記発注側コンピュータにおいて、眼鏡レンズ情報、3次元的枠形状情報及び枠材質情報を含む眼鏡フレーム枠情報、処方値及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力する一方、 前記製造側コンピュータにおいて、前記入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し、この演算処理結果に基づき、レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより、 前記発注側コンピュータにおいて、少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき、かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにした眼鏡レンズの供給システムであって、 前記発注側コンピュータには、3次元フレーム枠形状測定装置が接続されており、この3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果が前記3次元的枠形状情報として当該発注側コンピュータに入力されるようになっており、 前記発注側コンピュータには、表示装置が接続され、該表示装置の画面には、前記3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として、少なくともフレームカーブ、ヤゲン溝の周長、フレームPD(瞳孔間距離)、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより、当該出力結果が確認できるようになっていることを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」 第3 請求人の主張の概要及び証拠方法 A.特許法第29条の2違反 本件発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって本件出願後に出願公開された特願平4-54214号の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第2号証;以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 B.特許法第29条第2項違反(その1) 本件出願は、特願平4-165912号(特開平6-34923号公報)の分割出願であるが、本件出願は分割出願の要件を満たさないから、本件出願の出願日は遡及せず、平成11年7月27日である。そして、本件発明は、出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 C.特許法第29条第2項違反(その2) 本件発明は、出願前に頒布された甲第3号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開平6-34923号公報 (特願平4-165912号(以下、「原出願」という。)の公開公報(以下、「刊行物1」という。)) 甲第2号証:特開平5-212661号公報(特願平4-54214号の公開公報(以下、「刊行物2」という。)) 甲第3号証:特開昭59-93420号公報(以下、「刊行物3」という。) 甲第4号証:特開平4-13539号公報(以下、「刊行物4」という。) 甲第5号証:特開平3-149169号公報(以下、「刊行物5」という。) 甲第6号証:特開昭58-196407号公報(以下、「刊行物6」という。) 甲第7号証:特開昭62-215814号公報(以下、「刊行物7」という。) 第4 被請求人の主張の概要 被請求人は、証拠方法として乙第1号乃至乙第4号証を提出するとともに、本件発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって本件出願後に出願公開された明細書又は図面(甲第2号証)に記載された発明と同一ではなく、また、本件特許出願は、分割出願の要件を満たすものであり、本件出願の出願日は、原出願のものに遡及するから、甲第1号証に記載された発明は公知ではなく、したがって、本件発明が、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、さらに、本件特許発明は、甲第3号証、甲第6号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、請求人の主張は理由がなく、採用されるべきではない旨主張する。 [証拠方法] 乙第1号証:「特許・実用新案審査基準」の適用時期・適用対象 乙第2号証:「眼鏡」1993年3月号 乙第3号証:「眼鏡」1994年8月号 乙第4号証:特許第3208566号公報 第5 各刊行物の記載事項 1.刊行物1(特開平6-34923号公報) (1-1)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は眼鏡レンズの供給システムに関し、特に眼鏡レンズの発注側に設置された端末装置と、眼鏡レンズの加工側に設置され、この端末装置に通信回線で接続された少なくとも演算装置とからなる眼鏡レンズの供給システムに関する。 【0002】 【従来の技術】従来、眼鏡店舗等において、レンズがフレームに枠入れされた眼鏡を眼鏡注文者に提供するまでの作業は、まず、眼鏡店舗が、眼鏡注文者の処方および使用する眼鏡フレームの形状やサイズに基づき、眼鏡レンズを決定し、そのレンズをレンズ製造者に注文する。そして、眼鏡店舗は、製造者から届いたレンズを種々の加工機器を操作して、処方とレンズ情報と眼鏡フレーム情報とに基づき縁摺り加工およびヤゲン加工を行い、その加工されたレンズを眼鏡フレームに枠入れしている。なお、以下、レンズを眼鏡フレーム枠形状に合わせて研削加工することを「縁摺り加工」と定義し、また、縁摺り加工されたレンズにヤゲンを設ける加工を「ヤゲン加工」と定義する。」 (1-2)「【0011】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、ヤゲン加工をした結果、レンズ形状が不適当なためにヤゲンを適当な位置に設けることができないということを回避すべく、ヤゲン加工を含めてレンズ加工が可能か否かの可否情報を事前に得て、可否を確認するようにし、この確認に基づき眼鏡レンズを決定したり、最適なヤゲンを設けるようにした眼鏡レンズの供給システムを提供することを目的とする。」 (1-3)「【0035】〔S6〕測定すべき眼鏡フレームをフレーム形状測定器102に固定して測定を開始する。フレーム形状測定器102は、眼鏡フレームの左右枠のヤゲン溝に測定子を接触させ、その測定子を所定点を中心に回転させてヤゲン溝の形状の極座標値を3次元的に測定し、データを得る。つぎに、それらのデータのスムージングを行い、フレームカーブCV、ヤゲン溝の周長L、フレームPD(瞳孔間距離)FPD、フレーム鼻幅DBL、フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ、有効径ED、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILTを算出する。そして、フレーム形状測定器102は、これらの算出されたデータを端末コンピュタ101に送り、画面表示装置に表示させる。なお、データに大きな乱れがあったり、左右フレーム枠の形状に大きな差があったりした場合には、その旨のエラーメッセージを画面表示装置に表示する。 【0036】図7はその画面表示装置に表示されたフレーム形状測定結果の画面の一例を示す。すなわち、メタル材質(表示71)のフレームのヤゲン溝形状を上面と正面とからみた図(表示72、表示73)を示すとともに、左(L)および右(R)の上記算出値(表示74)を表示している。」 (1-4)「【0039】〔S9〕図6のオーダエントリ画面の欄60に、「問い合わせ」か、「注文」かの指定をする。 以上のステップの実行によって得られたレンズ情報、処方値、フレーム情報等のデータが、公衆通信回線を介して工場200のメインフレーム201に送られる。送信が行われている間、眼鏡店100の端末コンピュータ101には送信中である旨の表示がされる。なお、レンズを注文する場合には、まとめて最大、例えば15件まで一遍に送信して通信時間の短縮ができるグループ送信を利用することができる。グループ送信では、1件1件の注文内容を確認の上、一時的に記憶させておき、後にまとめて送信する手順をとる。 【0040】図3は、工場200での処理の流れ、ならびに工場200からの転送により眼鏡店100で行われる確認およびエラー表示のステップを示すフローチャートである。図中、Sに続く数字はステップ番号を表す。 【0041】〔S11〕工場200のメインフレーム201には眼鏡レンズ受注システムプログラム、眼鏡レンズ加工設計プログラム、およびヤゲン加工設計プログラムが備えられている。レンズ情報、処方値、フレーム情報等のデータが、公衆通信回線を介して送られると、眼鏡レンズ受注システムプログラムを経て眼鏡レンズ加工設計プログラムが起動し、レンズ加工設計演算が行われる。 【0042】まず、フレームの形状情報、処方値、およびレイアウト情報に基づき、指定レンズの外径が不足していないかを確認する。レンズの外径が不足している場合には、ボクシングシステムでの不足方向、不足量を算出し、眼鏡店100の端末コンピュータ101に表示するために、眼鏡レンズ受注システムプログラムに処理を戻す(後述のステップS146参照)。」 (1-5)「【0085】 【発明の効果】以上説明したように本発明では、眼鏡レンズの発注側から送られた眼鏡レンズ情報、眼鏡フレーム枠情報、および処方値に基づき、眼鏡レンズの加工側がヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し、その結果に基づき、ヤゲン加工を含めてレンズ加工が可能か否かの可否情報を発注側に送信し、発注側は、送信された可否情報を画面表示し、ヤゲン加工を含めたレンズ加工の可否の確認を行うように構成した。このため、事前に、ヤゲン加工を含めたレンズ加工が可能か否かの確認ができ、この確認に基づき眼鏡レンズを決定したり、最適なヤゲンを設けるようにすることができる。 【0086】さらに、事前にヤゲン加工形状を含めた眼鏡レンズの仕上がり予想形状を確認するようにし、この確認に基づき眼鏡レンズを決定したり、最適なヤゲンを設けるようにすることができる。特に、眼鏡レンズのコバ部分だけでなく、眼鏡レンズ全体の形状を表示することにより、好みに合った眼鏡レンズの選択と適切なヤゲン位置の指定が容易にできるようになる。また、使用する眼鏡フレームに対して、眼鏡レンズの種類や加工指定値が適切かどうかを、眼鏡レンズの注文の前に確認することができる。 【0087】そして、確認の後に、縁摺り加工前までの眼鏡レンズを加工側(製造者)に注文して発注側で縁摺り加工およびヤゲン加工を行う場合でも、発注側は、処方および眼鏡フレームに合致する眼鏡レンズを注文することができる。 【0088】また、確認の後に、ヤゲン加工済の眼鏡レンズを加工側(製造者)に注文する場合では、発注側は、眼鏡フレームを手元に置いたままでも、適正にフレーム枠入れできるヤゲン加工済眼鏡レンズを注文することができ、特に、加工による煩わしさをなくすことができるとともに、眼鏡に関する深い知識と加工に関する熟練した技術がなくとも眼鏡の提供が可能となる。」 2.刊行物2(特開平5-212661号公報) (2-1)「【請求項1】 眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工機において、立体計測された眼鏡枠のレンズ枠形状を入力する入力手段と、該入力手段により入力された3次元レンズ枠形状からレンズ枠の周長を求める算出手段と、レンズのヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定するヤゲンカ-ブ決定手段と、前記算出手段により求められたレンズ枠の周長に略一致するようなレンズのヤゲン先端の軌跡を演算する演算手段と、を有することを特徴とするレンズ周縁加工機。 ・・・ 【請求項5】 眼鏡枠に枠入れするためにレンズの周縁を加工するレンズ周縁加工方法において、眼鏡枠のレンズ枠形状を立体計測する第1ステップと、第1ステップにより得られたデ-タに基づいて眼鏡枠のレンズ枠の周長を求める第2ステップと、枠入れされる仮想又は現実のコバ厚及びレンズカ-ブを測定又は算出する第3ステップと、第3ステップにより測定又は算出されたデ-タに基づいてヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定する第4ステップと、第4ステップで決定されたヤゲン先端の軌跡の周長と前記眼鏡枠のレンズ枠の周長が略一致するようにレンズ周縁加工機の制御デ-タを算出する第5ステップと、第5ステップで得られた制御デ-タに基づいてレンズ周縁加工機を制御する第6ステップとからなることを特徴とするレンズ周縁加工方法。」 (2-2)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の装置においては、ヤゲンカーブとレンズ枠のカーブRが等しい場合には両者の周長も一致するが、多くの場合異なるためので周長も一致しない。従って、このようにヤゲン加工したレンズを眼鏡枠に枠入れると、周長が一致せず、枠入れ作業時の適切なフィットが得られない。そこで作業者は眼鏡枠の無理な変形を行わざるを得なくなるという欠点がある。本発明は上記欠点に鑑み案出されたもので、レンズ枠入れ時にフィット感の良い、すなわちサイズ精度の高いレンズ周縁加工機及びレンズ周縁加工方法を提供することを技術課題とする。」 (2-3)「【0009】 【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基いて詳細に説明する。 (1)装置の全体構成 図1は本発明に係るレンズ研削装置の全体構成を示す斜視図である。1は装置のベースでレンズ研削装置を構成する各部がその上に配置されている。2はレンズ枠及び型板形状測定装置で装置上部に内蔵されている。その前方には測定結果や演算結果等を文字またはグラフィックにて表示する表示部3と、データを入力したり装置に指示を行う入力部4が並んでいる。装置前部には未加工レンズの仮想コバ厚等を測定するレンズ形状測定装置5がある。6はレンズ研削部で、ガラスレンズ用の荒砥石60aとプラスティック用の荒砥石60bとヤゲン及び平加工用60cとから成る砥石60が回転軸61に回転可能に取付けられている。回転軸61はベース1にバンド62で固定されている。回転軸61の端部にはプーリ63が取付けられている。プーリ63はベルト64を介してACモータ65の回転軸に取付けられたプーリ66と連結されている。このためモータ65が回転すると砥石60が回転する。7はキャリッジ部で、700はキャリッジである。」 (2-4)「【0019】・・・さらに、(xn ,yn ,zn )(n=1,2,3………N)の各データ間の距離を算出し、それをたし合わせることにより近似的に玉型の周長を求め、これをΠf とする。 【0020】また図10において(xn ,yn ,zn )のx,y成分(xn ,yn )から、x方向の最大値を持つ被計測点(xa ,ya )、x軸方向の最小値を持つ被計測展B(xb ,yb )、y軸方向の最大値を持つ被計測点C(xc ,yc )及びy軸方向の最小値を持つ被計測点D(xd ,yd )を選び、レンズ枠の幾何学中心OF (xF ,yF )を、・・・として求め、既知であるフレーム中心から測定子部2120の回転中心Oo (xo ,yo )までの距離LとOO 、OF のズレ量(Δx ,Δy )から、レンズ枠幾何学中心間距離FPDの1/2は、 FPD/2=(L-Δx )={L-(xF -xO )} ……(2) として求める。次に、入力部4で設定された瞳孔間距離PDから内寄せ量Iを、・・・として求め、また設定された上寄せ量Uをもとに、被加工レンズの光学中心が位置すべき位置Os (xs ,ys )を、・・・として求める。・・・ 【0021】・・・この計測データ(rn ,Θn )から、フレーム測定の場合と同様に幾何学中心Oを求め、入力部からのFPD、PD、内寄せ量I、上寄せ量Uをもとに加工データである“( srn , sΘn )(n=1,2,………,N)を得る。」 (2-5)「【0025】(ニ)表示部及び入力部 第18図は本実施例の表示部3及び入力部4の外観図で、両者は一体に形成されている。本実施例の入力部は各種のシートスイッチからなり、電源の入・切をコントロールするメインスイッチ400、各種の加工情報を入力する設定スイッチ群401及び装置の操作方法を指示する操作スイッチ群410とからなる。設定スイッチ群401には、被加工レンズの材質がプラスチックかガラスかを指示するレンズスイッチ402、フレームの材質がセルかメタルかを指示するフレームスイッチ403、加工モードを平加工かヤゲン加工かを選択するモードスイッチ404、被加工レンズが左眼用か右眼用か選択するR/Lスイッチ405、レンズ光心の上/下レイアウト及びPD値の遠用・近用変換を行う遠/近スイッチ406、設定データの変更項目を選択する入力切換スイッチ407、入力切換スイッチ407により選択された項目のデータを増減する+スイッチ408及び-スイッチ409が配置されている。操作スイッチ群410には、スタートスイッチ411、ヤゲンシュミレーション表示への画面切換スイッチも兼ねる一時停止用のポーズスイッチ412、レンズチャック開閉用のスイッチ413、カバー開閉用のスイッチ414、仕上げ二度摺い用の二度摺いスイッチ415、レンズ枠、型板トレースの指示をするトレーススイッチ416、レンズ枠及び型板形状測定部2で測定したデータを転送させる次データスイッチ417がある。表示部3は液晶ディスプレイにより構成されており、加工情報の設定値、ヤゲン位置やヤゲンとレンズ枠との嵌合状態をシュミレーションするヤゲンシュミレーションや基準設定値等を後述する主演算制御回路の制御により表示する。第19図は表示画面の例であり、第19-1図はレンズの加工情報を設定するための画面で、第19-2図はヤゲンシュミレーションの画面である。」 (2-6)「【0028】(4)装置全体の動作 次に第21図のフローチャートを基にしてレンズ研削装置の動作を説明する。 [ステップ1-1]第21図のメインスイッチ400をONにした後、まずフレームまたは型板をフレームまたは型板保持部にセットし、トレーススイッチ416にてトレースを行う。 [ステップ1-2] 被装者のPD値及び乱視軸を入力する。型板測定の場合にはFPD値も入力する。また、遠近切換スイッチ406により、入力されるPDが遠方であるか近方であるかを設定する。設定状態は表示部3のディスプレイにて表示される。ここで遠方に設定された状態で遠方PDを入力した後、遠近切換スイッチ406にて近方に変更すると、次式により近方PDに変換する。 近方PD=遠方PD×((l-12)/(l+13)) lは必要とする作業距離、12は日本人の角膜頂点間距離、13は角膜頂点と回旋点との距離を意味する。近方状態において近方PDを入力した後遠方に変更すると、下記の式により遠方PDに変換する。 遠方PD=近方PD×((l+13)/(l-12)) 変換の詳細については特開昭63-82621号公報に記載されている。また上下レイアウトも近方、遠方それぞれにあらかじめ前述の基準値設定において入力された設定値に設定する。作業者がその値について変更を加えたい場合には、(+)スイッチ408、(-)スイッチ409にて変更が可能である。このときPDについても変更が可能である。 [ステップ1-3]ステップ1-1で求めたフレームまたは型板の動径情報及びFPD値と前ステップで入力されたPD上下レイアウトの情報により、前述の方法により新たな座標中心に座標変換し、新たな動径情報(rs δn ,rs θn )を得、これを枠データメモリに記憶する。・・・・」 (2-7)「【0032】[ステップ2-7、2-8、2-9]モータ728によりレンズを砥石から離脱させた後キャリッジ移動モータ714によりレンズをヤゲン砥石の上に移動させる。次に、動径情報(rs δn 、rs θn )とヤゲンデータ(rs θn 、yZn )からヤゲンカーブ軌跡(rs δn 、rs θn 、yZn )を求め、その各データ間の距離を算出し、それをたし合わせることにより近似的にヤゲンカーブ軌跡の周長を求め、これをΠb とする。ここで、サイズ補正量Δを求める。 Δ=(Πb -Πf )/2π (Πf :玉型の周長) という形に直してからさらに、サイズ補正後のヤゲン加工情報(L´i 、ξi、Zi )を求め、これを枠データメモリに記憶し直す。このときL´i =Li -Δである。ヤゲンはこの情報に基づいてモータ728はL´i をモータ721はξi をモータ714はZi をそれぞれi=1、2、3・・・・Nの順に同時に制御しながら加工する。 [ステップ3-1]研削モードが平加工モードである場合において、ステップ1-4による設定によりレンズがプラスティックであればプラスティック用荒砥石60c、ガラスであればガラス用荒砥石60aの上に被加工レンズがくるようキャリッジをモータ714に移動させる。砥石を回転させてからモータ728により砥石回転中心とレンズ加工中心間の距離Lを枠データメモリにより読み込んだ加工補正情報(Li 、ξi 、Θi )の内のLi まで移動する。その時加工終了ホトスイッチ727がONされるのを待って角度をξ2 まで回転させると同時にLをL2 まで移動させる。以上の動作を連続して(Li 、ξi )(i=1、2、3・・・・N)に基づき行う。これによりレンズは動径情報(rs δn 、rs θn )の形状に加工される。」 (2-8)「【0034】 【発明の効果】上記のように本発明は、枠入れ作業時のフィット感における重要な要素の1つがヤゲンカーブの軌跡の周長と玉型立体形状の周長が一致していることに着目し、一般的なレンズ枠入れ作業において多く発生しているレンズ枠のカ-ブRとヤゲンカーブの違いによる周長の誤差を補正し、眼鏡枠の材質に柔軟性がある場合には枠をヤゲンカーブになじませ、また、柔軟性のない場合には枠のカ-ブRを修正して枠入れ作業を行うことにより、眼鏡枠にレンズをフィットとさせることができる。」 3.刊行物3(特開昭59-93420号公報) (3-1)「2.特許請求の範囲 (1)レンズの処方値と、レンズの種類と、使用する眼鏡枠の種類と形状についての情報と及び該眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報とを眼鏡店頭に於いて把握し、レンズ製造工場に伝え、レンズ製造工場ではその情報を基に該眼鏡枠に適したレンズ肉厚を決定し、該レンズを製造、供給する眼鏡レンズの供給方法。 (2)特許請求の範囲第1項の方法であって、前記レンズ製造工場においてコンピュータが設置され、該コンピュータには眼鏡枠の形状を表わすデータが多種類の眼鏡枠ごとに品番を付されて蓄積されていることを特徴とする眼鏡レンズの供給方法。」 (3-2)「本発明による方法が従来の方式と最も異なるところは、眼鏡店に於いて眼鏡枠に関する情報を把握し、レンズ製造工場に伝えることにある。 眼鏡枠に関する情報としては次のものがある。 (イ)眼鏡枠の種類 即ち、合成樹脂製か、金属製か、ナイロン糸等で固定する方式か、等に関する情報であり、縁摺りされたレンズの最も薄い周辺の厚みを決定する際に必要となる情報である。又、眼鏡枠の品番等、後述の眼鏡杵の形状に関する情報を兼ねている場合もありうる。 (ロ)眼鏡枠の形状 眼鏡枠の大きさを正確に把握する為の情報であり、左右それぞれの眼鏡枠内の中心(フレーム・センターと呼ばれる。)相互の距離(フレ-ムPDと呼ばれる。)、鼻幅(レンズ間距離とも呼ばれる。)、枠の片眼の横幅(一般にAで表わされ、レンズサイズと呼ばれる。)、及び縦幅(一般にBで表される。)、更にフレ-ムセンタ-を中心として、眼鏡枠の縁までの距離を種々の方向に対して測定した寸法(即ち、フレ-ムセンタ-を中心とした眼鏡枠の極座標表示)等の情報である。 この他、眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報、即ち、装用者の角膜頂点間距離(PDと呼ばれる。左右眼が対称で無いときは、左右一対の片眼PDと呼ばれる数値で表現されることもある。)、又、レンズの光学中心や多重焦点レンズの近方視領域の眼鏡枠内に於ける配置を指定することもある。 この様に多くの情報を眼鏡店がレンズ製造工場に伝える手段としてはコンピュータを用い、オンラインにて電送することが最も望ましいが、本発明はそれに限定されるものではない。」(2頁右下欄2行?3頁左上欄15行) (3-3)「(2)眼鏡枠の種類は、そのデザインおよび大きさによってきわめて多数なものであるが、それらを類型化して大きく分類すれば、第2図(a)、(b)に示すごとく「なす型」や「四角型」等の数種のものとなる。そこで、これらの眼鏡枠の標準類型を型番号で表わしたデータをレンズ製造工場のコンピュータに蓄積しておき、眼鏡店では装用者の好みによって選択した型番号とその装用者のレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報すなわち横幅(A)、縦幅(B)や枠内の瞳孔の位置を表すデータ(BD)等をレンズ製造工場に伝達する。 (3)眼鏡店に於いて第3図の2で示すような例えば格子状のチャート(又はこれに相当する測定器)が予め準備されており、装用者の好みによって或る眼鏡枠が決まると、その枠3をチャート2の所定位置に乗せ、枠中心O’から枠上の複数点n1,n2,n3・・・・・nnまでのそれぞれの距離データを眼鏡枠形状データとして、前頂(2)で述べたレンズ処方値および眼鏡枠の寸法情報とともにレンズ製造工場に伝送する。 さて、この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し、そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変わるところない。 即ち、眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し、その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し、所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺、砂掛、研磨することにより、所望のレンズが得られるのである。」(3頁右上欄12行?右下欄1行) 4.刊行物4(特開平4-13539号公報) (4-1)「2.特許請求の範囲 (1)複数の眼鏡フレーム形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュータから構成された眼鏡レンズ加工システムであつて、前記コンピュータは、前記複数の眼鏡フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差量と前記複数の玉摺機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手段と、 眼鏡フレーム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを当該形状データを測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前記測定誤差量と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し加工データを得るための演算手段とを有することを特徴とする眼鏡レンズ加工システム。 (2)前記眼鏡フレーム形状測定手段は各々少なくとも1台毎に複数の眼鏡店舗に設けられ、前記コンピュータと前記複数の玉摺機は加工センターに設けられ、前記各々の眼鏡フレーム形状測定手段と前記コンピュータは公衆通信回線網を介して前記形状データの授受が行われるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡レンズ加工システム。」 5.刊行物5(特開平3-149169号公報) (5-1)「【特許請求の範囲】 (1)被加工レンズが枠入れされる眼鏡フレームのレンズ枠またはそれから倣い加工された型板の形状を表すレンズ枠画像を画像表示する画像表示手段と; 前記レンズ枠の幾何学中心に対する前記被加工レンズの光学中心位置を入力する位置入力手段と; 前記被加工レンズの直径または半径値を入力するレンズ径入力手段とを有し; 前記画像表示手段が前記光学中心位置に中心を有し前記直径または半径値を有するレンズ画像を前記レンズ枠画像と共に画像表示するよう構成されたことを特徴とするレンズの加工可否判定装置。」 (5-2)「(産業上の利用分舒》 本発明は、玉摺機による未加工レンズの研削加工時に、未加工レンズから所望のレンズ枠形状のレンズが取れるか否かを、研削加工前に、判定できるレンズの加工可否判定装置およびそれを有する玉摺機に関する。」(2頁左上欄1?6行) (5-3)「第1図は本発明に係る加工可否判定装置を有する玉摺機の外観を示す斜視図である。 1Gはフレーム形状測定装置で、眼鏡フレーム500のレンズ枠501の形状、またはレンズ枠501から倣い加工された型板(図示せず)の形状を機械-電気的に計測するものである。このフレーム形状測定装置10は玉摺機本体11に電気的に接続されている。 玉摺機本体11はフレーム形状測定装置1Gからのレンズ枠501の形状データに基いて未加工レンズ(生地レンズ)Lを研削加工するノンフォーマ-玉摺機である。 これらフレーム形状測定装置10および玉摺機本体11の構成と作用の詳細は上述の特願昭60-115079号に開示のそれと同様であるので、ここではその説明を省略する。 玉摺機本体11の加工部Bの前方の操作部Aには加工可否判定装置を構成する電気回路11表示器2および入カキ-ボード3が設けられている。」(3頁右下欄1?18行) (5-4)「(発明の効果) 以上説明したように、本発明によれば、被加工レンズのレンズ径を有するレンズ画像をその光学中心が所望の爆心量分だけレンズ枠画像の幾何学中心から偏心されてレンズ枠画像と共に画像表示できるレンズ加工可否判定装置が提供でき、操作者はレンズ枠画像の少なくとも一部がレンズ画像から食み出しているか否かを目視で判定する外形加工可否チェックができ、食み出している場合は被加工レンズを玉摺機で研削加工しても前記レンズ枠形状を取れない”とレンズ加工前に事前にチェックできる長所を有する。 また判定手段と警告手段とをさらに設けることにより、レンズ枠形状の少なくとも一部がレンズ画像の外側に食み出し”でいるか否かの外形加工可否チェックが判定手段で自動的に判定され、食み出し”がある場合は、玉摺機で当該被加工レンズを研削加工しても前記レンズ枠形状を取れない”として警告手段により自動的に操作者に警告できるレンズ加工可否判定装置を提供でき、これにより操作者は食み出し”判定作業を要しない長所を有する。」(8頁左上欄10行?右上欄11行) 6.刊行物6(特開昭58-196407号公報) (6-1)「本発明は斯かる事情に鑑み、フレーム枠の眼鏡レンズ周端と嵌合するV状溝の内周長を測定し得る測定装置を提供し、測定した内周長を基に眼鏡レンズを加工機により取外すことなく、直ちに最終形状に迄研削し得ることを可能にして枠合せ作業の能率を飛躍的に向上させると共に研削加工精度も大幅に向上させることを目的とするものである。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄3行) (6-2)「従って、回転子(17)はフレーム枠(23)の全内周分だけ転動したことになり、回転子(17)の円周長にエンコーダ(15)で検出した回転数を掛合せればフレーム枠(23)の内周長を測定し得る。又、眼鏡レンズは完全な円形ではない為、その周端は3次曲線となり、V状溝(24)も上下に変位する。この上下方向の変位に対しては、平行リンク(14)、バランスバネ(19)の作用によって回転子(17)を追従させる。 而して、眼鏡レンズの外形形状は原型レンズより研削した時点でフレーム枠の形状と相似形に仕上げられているので、上記測定した内周長に眼鏡レンズの外周長が合致する様眼鏡レンズを削込めば、該レンズの加工機より取外すことなくフレーム枠の形状に正確に合せることができる。」(2頁左下欄12行?右下欄7行) 7.刊行物7(特開昭62-215814号公報) (7-1)「【特許請求の範囲】 眼鏡フレームのレンズ固定用溝形状を三次元的に求めて三次元座標データを出力する形状測定装置と、前記形状測定装置からの信号を入力し、前記フレームの幾何学中心データとカーブ値データとを演算する演算装置と、前記フレームの形状データとして前記三次元座標データと前記幾何学中心データ及び前記カーブ値データを出力する出力装置と、を有することを特徴とする眼鏡フレームの玉型形状測定装置。」 (7-2)「また、この時この球の中心座標データとフレームの三次元座標データの幾何学中心座標データとを比較することにより、フレームの測定時の傾きも算出できる。」(2頁右下欄17行?3頁左上欄1行) (7-3)「以上の実施例によればフレームの溝形状を測定する際、フレームが傾かないように固定したり、フレームの正型の幾何学中心の中心出しをしながら固定する必要がなくなり、測定が容易になり、フレームの傾き、正型の幾何学中心を溝形状の測定データにより算出し補正することにより測定も正確になる利点がある。」(5頁右上欄15行?左下欄1行) (7-4)「(発明の効果) 以上述べた如く本発明によれば、フレームの玉量形状を決定するデータが簡単に得られるので、眼鏡レンズの加工及び枠入れ作業が容易になる、という効果が得られる。」(6頁左上欄6行?10行) 第6 当審の判断 A.特許法第29条の2について 1.先願明細書(甲第2号証)に記載の発明 上記(2-1)乃至(2-8)の記載からみて、先願明細書には、「測定子を有するレンズ枠測定装置2と、測定結果や演算結果等を表示する表示部3と、眼鏡枠の材質情報や3次元レンズ枠形状等が入力される入力部4と、レンズ研削部6とを備え、前記レンズ枠測定装置2の測定子を眼鏡枠の形状に従って移動させることによりレンズ枠形状(r,Θ,z)を計測し、前記入力手段により入力された3次元レンズ枠形状からレンズ枠の周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、及びフレームセンター等を求める手段と、レンズのヤゲン先端軌跡がなすカ-ブ値を決定するヤゲンカ-ブ決定手段と、前記算出手段により求められたレンズ枠の周長に略一致するようなレンズのヤゲン先端の軌跡を演算する演算手段と、を有することを特徴とするレンズ加工機」についての発明が記載されている(以下、「先願発明」という。)。 2.対比及び当審の判断 本件発明と先願発明とを比較すると、先願発明も眼鏡レンズの供給システムといえるものであり、また、先願発明に係る「レンズ枠測定装置2」は、その計測データを処理することにより眼鏡枠周長、眼鏡枠瞳孔間距離、眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、及びフレームセンター等の3次元的眼鏡枠形状情報を取得しているものであり、かつ、それらの情報は処方値、レイアウト情報とともに枠入れ加工する上で必要な情報であることは明らかである。さらに、先願発明には発注側と製造側との区別は明確になされていないが、レンズ研削加工に必要な各種情報は入力部に入力され、そこから研削加工のための必要な情報がレンズ研削部に送られるのは当然の技術的事項であるから、それらはレンズ研削部に研削・加工の指示を出す発注側とそれらの指示を受け取るレンズ研削部すなわち製造側が存在することは明らかである。そして、発注側には、計測データを演算処理していることから、いわゆる発注側コンピュータを備えていることは普通に推認しうるものである。 しかしながら、先願発明に係るレンズの供給システムは、図1からわかるように眼鏡枠保持部、測定部、入力部、表示部、及びレンズ研削部、等、眼鏡レンズの供給システムを構成する各部材が全体として一つの装置になっているものである。このような装置において、発注側に測定値を処理し、表示機能を制御するコンピュータが備わっているとしても、製造側すなわち研削部側にコンピュータは必要とはしないものである。一方、本件発明は、発注側コンピュータとは別個に、発注側コンピュータへ情報交換可能に接続され、眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有する製造側コンピュータを有することを構成要件とするものであり、製造側コンピュータを有さない先願発明のものとは、あきらかに発明の構成を異にするものである。 したがって、本件発明は先願発明と同一であるということはできない。 B.特許法第29条第2項違反(その1)について 請求人は、本件出願が、原出願との関係で分割出願の要件を満たさないことを前提として、本件発明は、出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張するので、本件出願が分割要件を満たすか否かについて検討する。 1.本件出願と原出願(特願平4-165912号(特開平6-34923号公報 )) (1)請求人の主張の概要(平成17年5月26日付け無効請求書24頁下から3行?25頁11行) 原出願の当初の明細書又は図面(刊行物1参照)には、本件発明に係る、フレームカーブ、ヤゲン溝の周長、フレームPD及び傾斜角について、他の情報(眼鏡枠の縦サイズ横サイズ、フレームセンター、フレーム鼻幅、有効径等)と共に個別に記載がある。しかし、原出願の明細書等には、このような多数の情報の中から、本件発明の特定事項である「表示装置の画面には、前記3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として、少なくともフレームカーブ、ヤゲン溝の周長、フレームPD(瞳孔間距離)、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより、当該出力結果が確認できるようになっている」に記載の各要素のみを選出する旨の言及はない。 また、傾斜角については、[0035]段落の記載しかなく、レンズが変更できるシステムとする場合における傾斜角の正確な把握の必要性は、全く記載されていない。 したがって、本件出願の明細書又は図面は、原出願の当初明細書等に記さした事項の範囲内ではないから、適法な分割出願とは認められない。 (2)当審の判断 まず、原出願の当初明細書の段落[0035]?[0036]によれば、フレーム形状測定器は、眼鏡枠のヤゲン溝にスタイラスを接触させることにより、3次元測定形状データを得るものであって、この計測された3次元測定形状データに基づいて、フレームカーブCV、ヤゲン溝の周長L、フレームPD(瞳孔間距離)FPD、フレーム鼻幅DBL、フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ、有効径ED、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILTを算出するものである。したがって、原出願には、3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として、少なくともフレームカーブ、ヤゲン溝の周長、フレームPD(瞳孔間距離)、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角、が表示されることが開示されている。 請求人は、当初明細書には多数の情報の中から上記各要素のみを選出する旨の記載はないと主張するが、当該各要素はいずれも当初明細書に記載されているから、これらは当初明細書に記載された事項の範囲内のものである。 次に、原出願の当初明細書の段落[0085]?[0088]を参照すれば、レンズ加工が可能か否かの判断に際して、傾斜角を含めたレンズ枠情報が必要であることが実質的に開示されており、その際、それらの情報を正確に把握すべきであることは、当然の技術的事項である。 以上から、請求人が原出願の当初明細書に記載がないとする事項は、いずれも、実質的に原出願の当初明細書に開示されているから、本件出願が、原出願との関係で分割要件を満たさないとする請求人の主張は採用することができない。 2.結論 以上のとおり、本件出願は、分割出願の要件を満たすから、本件出願が分割要件を満たさないこと前提とした請求人の特許法第29条第2項違反に関する主張は採用することができない。 C.特許法第29条第2項違反(その2)について 1.刊行物3(甲第3号証)に記載の発明 上記(3-1)?(3-3)の記載から、刊行物3には「眼鏡店において眼鏡枠材質の情報、レンズ処方値、及び眼鏡枠のフレームセンター、フレームPD、横幅及び縦幅、等の眼鏡枠の形状情報からなる眼鏡枠に関する情報を取得し、それらの情報をコンピュータによりオンラインでレンズ製造工場に伝達し、コンピュータが設置された製造工場はそれらの情報を受け取り所望のレンズに加工することを特徴とする眼鏡レンズの供給システム」についての発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されているものと認められる。 2.本件発明と刊行物3発明との対比 刊行物3発明において、コンピュータは眼鏡店及び製造工場にそれぞれ設置されているもので、本件発明でいう「「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータ」又は「発注側コンピュータ」」及び「製造側コンピュータ」にそれぞれ相当し、かつ、刊行物3発明に係る2つのコンピュータはオンラインで情報を伝達することから、情報交換可能に接続されていることは明らかである。 さらに、刊行物3発明において、眼鏡店に設置されたコンピュータ、すなわち発注側コンピュータは、レンズの製造に必要な種々の情報(レンズ処方値及び眼鏡枠の寸法情報、等)をレンズ製造工場に伝達する機能を有するものであって、発注側コンピュータは、コンピュータの機能からして、所定の入力操作により、眼鏡レンズの発注に必要な処理を行う機能を有するとともに、製造側コンピュータは発注側コンピュータからの送信に応じて眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を有することは明らかである。 そして、刊行物3発明に係る眼鏡枠に関する情報は、上記摘記事項及び出願時点における当該技術分野の技術水準を考慮すれば、眼鏡レンズ情報及び眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、並びにレイアウト情報を含むものであることは普通に想起しうるものであり、これらは枠入れ加工する上で必要となる情報といえるものである。また、刊行物3発明に係る「眼鏡枠のフレームPD」は、本件発明に係る「フレームPD」に相当するものである。 以上から、両者は「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと、この発注側コンピュータへ情報交換可能に接続された製造側コンピュータとを有する眼鏡レンズの供給システムであって、前記発注側コンピュータは、眼鏡レンズ情報、眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報、処方値、及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し、発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し、一方、製造側コンピュータは、前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い、眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能と備え、発注側コンピュータは枠データに基づいて眼鏡レンズ枠のフレープPDを求め、これを前記創造側コンピュータに送信することを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本件発明では、3次元的フレーム枠形状測定装置が発注側コンピュータに接続され、この3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果が前記3次元的枠形状情報として発注側コンピュータに入力されるようになっているのに対し、刊行物3発明には3次元的眼鏡枠測定装置について明示的な記載はない点。 [相違点2] 本件発明では、発注側コンピュータに表示装置が接続され、該表示装置の画面には、3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として、少なくともフレームカーブ、ヤゲン溝の周長、フレームPD(瞳孔間距離)、左右フレーム枠のなす角度である傾斜角が表示されることにより、当該出力結果が確認できるようになっているのに対し、刊行物3発明では、表示装置及び表示項目についての記載がなく、したがって、出力結果の確認についても記載がない点。 [相違点3] 本件発明に係る眼鏡レンズの供給システムは、製造側コンピュータにおいて、入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し、この演算処理結果に基づき、レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を前記発注側コンピュータに出力することにより、発注側コンピュータにおいて、少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき、かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにしたのに対し、刊行物3発明には、そのような構成について記載がない点。 3.当審の判断 (1)[相違点1]について 刊行物3の上記摘記事項(3-2)によれば、眼鏡店において眼鏡枠に関する情報を把握することが記載され、また、その情報としてフレームセンター、フレームPD、枠の横幅縦幅、等の眼鏡枠の形状情報が挙げられている。してみれば、これらの眼鏡枠に関する情報を把握するために眼鏡枠の測定装置が用いられることは当然の技術的事項である。そして、眼鏡枠の測定装置として3次元的測定装置が用いられることは、当該技術分野において周知であり(周知例として、特開昭62-169009号公報、特開昭62-215814号公報、特開平1-305308号公報、特開平3-20605号公報を参照のこと)、その際、3次元的測定装置を発注側コンピュータと接続すること、及び当該測定装置の出力結果が発注側コンピュータに入力されるようにすることは、単なる、設計事項にすぎないものである。 以上から、本件発明に係る相違点1の構成は、当業者が刊行物3に記載の発明及び周知技術から当業者が容易に想到することができたものである。 (2)[相違点2]について コンピュータに表示装置を接続し、必要な情報を適宜表示し、出力結果の確認をおこなうことは、常套手段にすぎない。また、フレーム枠の情報として、フレームPDが用いられることは刊行物3に開示されており、また、フレームカーブも眼鏡枠の形状情報として当業者が適宜選択しうる情報にすぎない。さらに、ヤゲン溝の周長を用いることは刊行物6に、また、傾斜角を用いることは刊行物7に記載されている。 以上から、本件発明に係る相違点2の構成は、刊行物3、刊行物6及び刊行物7に記載の発明並びに周知技術から当業者が容易に想到することができたものである。 (3)[相違点3]について 刊行物3発明には、製造側コンピュータにおいて、入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算する点について、記載も示唆もないものである。さらに、刊行物3発明は、ヤゲン形状を含めたレンズ形状の演算処理結果に基づき、レンズ加工が可能か否かの可否判断処理を含む処理結果を発注側コンピュータに出力することにより、発注側コンピュータにおいて、少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき、かつ当該処理結果に基づいて前記各情報の当初の入力内容を変更できるようにしたものであるが、刊行物3発明には、この点についても記載も示唆もないものである。 そして、本件発明では、この相違点3の構成により、本件特許明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明は、刊行物3乃至刊行物7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。 よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 4.請求人の主張 請求人は、平成17年11月11日付けの口頭陳述要領書において、「甲第5号証の発明は、発明の名称にもある通り、レンズの加工可否判定装置に係るものであるから、明らかに特定事項R(合議体注;「発注側コンピュータにおいて、少なくともレンズ加工の可否を発注前に確認でき」るとの構成)を開示する。」(8頁12?13行)と主張する。 たしかに、刊行物5(甲第5号証)には、未加工レンズから所望のレンズ枠形状のレンズが取れるか否かを研削加工前に判定し、操作者に警告を発することが記載されているが、上記判定の前提となるレンズ枠形状の情報にはヤゲン形状が含まれるとの開示又は示唆はないものである。 また、請求人は、平成17年12月1日付けの上申書において、「本件特許発明は、・・・「ヤゲン付き眼鏡レンズの供給方法」とは異なり、単なる「眼鏡レンズの供給方法」に係るものである。」(3頁3?5行)と主張するが、本件発明は製造側コンピュータにおいて、ヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算するものであるから、実質的に、製造側はヤゲン形状を有するレンズを製造するものと認められる。 したがって、相違点3についての本件発明の構成から、本件発明では、製造側はヤゲン形状を有するレンズを製造することを前提に「製造側コンピュータにおいて、前記入力された枠入れ加工をする上で必要となる情報に基づいてヤゲン形状を含めた所望のレンズ形状を演算し」、そして「この演算処理結果に基づき、レンズ加工が可能か否かの可否判断処理」をおこなうものであって、本件発明はこの構成により、本件特許明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。以上から、本件発明が、前記前提及び構成についての記載又は示唆のない甲第3号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではないとした上記当審の判断に何ら誤りはない。 第7.むすび 以上のとおりであるから、無効審判請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-23 |
結審通知日 | 2006-01-30 |
審決日 | 2006-02-10 |
出願番号 | 特願平11-212631 |
審決分類 |
P
1
123・
16-
Y
(G02C)
P 1 123・ 121- Y (G02C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 峰 祐治 |
特許庁審判長 |
鹿股 俊雄 |
特許庁審判官 |
前川 慎喜 末政 清滋 |
登録日 | 2002-04-05 |
登録番号 | 特許第3294825号(P3294825) |
発明の名称 | 眼鏡レンズの供給システム |
代理人 | 園田 清隆 |
代理人 | 吉澤 敬夫 |
代理人 | 岩田 弘 |
代理人 | 牧野 知彦 |
代理人 | 新井 全 |
代理人 | 石田 喜樹 |
代理人 | 岡▲崎▼ 信太郎 |