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審決分類 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  D04H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D04H
管理番号 1151663
異議申立番号 異議2003-73394  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-02-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2007-01-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3473561号「ウェットティッシュ用不織布」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3473561号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3473561号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成12年 7月28日に出願され、平成15年 9月19日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 株式会社クラレ(以下、「第1申立人」という。)により特許異議の申立て(以下、「第1異議申立て」という。)がされ、また、特許異議申立人 梅村友之(以下、「第2申立人」という。)により特許異議の申立て(以下、「第2異議申立て」という。)がされ、取消理由(起案日:平成17年 5月23日)が通知され、その指定期間内である平成17年 8月 1日付けで特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がされ、次いで、特許権者に対して審尋(起案日:平成17年 9月27日)がされ、平成17年10月31日付けで回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成17年 8月 1日付け訂正請求の内容は、以下のとおりである。(なお、下記下線は、訂正箇所を明らかにするため、当審が便宜上付したものである。)
・訂正事項A
特許査定時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の
「【請求項3】前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を0?40重量%含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布。」との記載を、
「【請求項3】前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布。」と訂正する。
・訂正事項B
本件特許明細書の段落[0014]の
「請求項3に係る本発明として、前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を0?40重量%含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布が提供される。」との記載を、
「請求項3に係る本発明として、前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布が提供される。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項Aについて
訂正前の請求項3には、上記のとおり、「前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を0?40重量%含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布」と記載されているから、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維が0重量%である場合、即ち、熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を含まない条件のウェットティッシュ用不織布が2種類の繊維からなる場合も含むものである。一方、請求項3は請求項2の従属項であり、請求項2には、「親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維と、熱捲縮性を示す熱可塑性繊維との3種類の繊維から構成され」と記載され、請求項2に係る発明は3種類の繊維からなるものである。とすると、訂正前において、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明より広い技術範囲を包含する発明が記載されており、従属項とはなり得ない発明が記載されていたところ、当該訂正事項Aに係る訂正のとおり熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を「40重量%以下」含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布と訂正することにより、訂正前の本件請求項3に係る発明から、前記熱可塑性繊維を含まない態様を削除して、上記「前記親水性を示す第1繊維」及び「前記熱融着性を示す第2繊維」とともに「前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維」を必須成分として含有する態様に限定するものと認めることができるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項Bについて
訂正事項Bは、発明の詳細な説明の記載について、上記訂正事項Aに係る特許請求の範囲の訂正と整合を図るためにするものと認められるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてするものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記平成17年 8月 1日付け訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件請求項1ないし4に係る発明
上記「2.訂正の適否についての判断」に記載のとおり訂正が認められることから、本件請求項1ないし4に係る発明は、訂正後の本件特許明細書(以下、単に「訂正明細書」という。)の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 少なくとも、親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維とを含み、繊維が三次元的に交絡するとともに、前記熱融着性を示す第2繊維の融着により繊維同士が結合された不織布であって、
前記不織布は、相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部と、相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部とが交互に存在し、
前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し、前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであり、かつ前記凸条部と凹条部との高低差は、50?300μmであることを特徴とするウェットティッシュ用不織布。
【請求項2】 前記親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維と、熱捲縮性を示す熱可塑性繊維との3種類の繊維から構成され、高圧水流の投射により繊維を交絡させた後、熱処理により前記熱融着性を示す第2繊維により繊維同士を結合すると同時に、前記熱可塑性繊維を捲縮させて嵩高性を付与している請求項1記載のウェットティッシュ用不織布。
【請求項3】 前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布。
【請求項4】 前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維がポリエステル繊維である請求項3記載のウェットティッシュ用不織布。」

4.特許異議申立てについて
4-1.第1異議申立て理由の概要
第1申立人は、甲第1号証(特願2001-127786号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開2002-30557号公報))、甲第1号証の2(甲第1号証に係る出願の優先権主張の元となった先の出願である、特願2000-124944号の願書に最初に添付した明細書及び図面)、甲第2号証(クラフレックス株式会社、開発部部員、横溝昌子が作成した平成16年 6月 1付けの「実験報告書」)、甲第3号証(特開平11-48381号公報)、甲第4号証(特開平7-166456号公報)、甲第5号証(特開平8-60509号公報)、甲第6号証(特開平10-237750公報)、及び甲第7号証(繊維学会編「繊維便覧 原料編」、平成元年 5月30日、丸善株式会社発行、第192頁)を提出して、概略、以下のとおり主張している。
請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に係る他人の先願明細書に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるので取り消されるべきである旨、
請求項1及び3に係る発明は、甲第3号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので取り消されるべきである旨、並びに、
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の記載及び発明の詳細な説明の記載には不備があるから、請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので取り消されるべきである旨。

4-2.第2異議申立て理由の概要
第2申立人は、甲第1号証(第1申立人が提出した甲第1号証と同じ)、甲第2号証(第1申立人が提出した甲第1号証の2と同じ)、及び甲第3号証(JIS L 1913:1998、表紙、P2-5、P17-20)、並びに、参考資料1(特開平9-228212号公報)及び参考資料2(特開平9-228213号公報)を提出して、概略、以下のとおり主張している。
請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に係る出願の先願明細書に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるので取り消されるべきである旨、及び、
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載には不備があるから、請求項1ないし4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号並びに同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので取り消されるべきである旨。

5.当審による取消理由及び審尋の概要
(1)当審が通知した取消理由(起案日:平成17年 5月23日)は、概略、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載に不備があるため、特許法第36条第4項並びに第6項第1、第2号に規定する要件を満たしていないというものである。
(2)意見書の主張を受けて、概略、「上記【請求項1】に記載の「線状模様の線本数」の「計測すべき『線』」、「凸条部及び凹条部との高低差」が一義的に定まるか、及びその「測定方法」が、本件特許明細書及び図面の記載から、明確であるとするのであれば、その理由を、合理的根拠・論拠を示して、明確に釈明して下さい。」との審尋を行った。

6.当審の判断
当審が通知した特許法第36条第4項及び第6項第2号に係る取消理由は、具体的には、以下の理由を含むものである。
取消理由(1):上記「線状模様の線本数」とは何か、その定義が一義的に定まらず、明確ではなく、また、その測定方法も不明である。
取消理由(2):請求項1の上記「凸条部と凹条部の高低差」との記載について、「繊維を三次元的に交絡し、繊維同士の一部を熱融着してなる繊維不織布に形成された凸条部と凹条部であるから、両凸凹条部の表面は、フイルムの場合のように各部の界面が明確に規定されることなく、不織布を構成する繊維端や繊維ループなどランダムに突出しているものであるので、ここにいうところの「凸条部と凹条部の高低差」とは、何処と何処との高低差を測定するのか、また、当該高低差をどのように測定するのかその測定方法が発明の詳細な説明に記載されておらず、「凸条部と凹条部の高低差」の測定方法が不明である。
そこで、当該訂正が認められること及び審尋に対する回答により、上記取消理由(1)、(2)が解消し得るか検討する。

6-1.取消理由(1)「線状模様の線本数」についての当審の判断
a.「線状模様の線本数」とは何かについて
上記したとおり訂正は、平成17年 5月23日付け取消理由通知で指摘した事項に対応するための請求項3に係る訂正であり、請求項1に記載の「線状模様の線本数」に関連する明細書の記載箇所については訂正されていない。そして、「線状模様の線本数」に関する記載として、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、単に「請求項1」という。)には、「前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し、前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであり、かつ前記凸条部と凹条部との高低差は、50?300μmであること」と記載されているだけで、「凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数」との記載が如何なることかを明らかにする記載もなく、また、発明の詳細な説明には、「線状模様の線本数」についての関連記載は、「線状模様」に関して記載している段落【0017】及び「線状模様の線本数」の数値範囲について記載している段落【0022】にあるのみで、それ以外に、依然として「線状模様の線本数」に関する明確な定義の記載はなく、また、「線状模様の線本数」の測定方法について記載するところもない。
したがって、訂正明細書の記載からは、「線状模様の『線』」が明確でなく、かつ「線状模様の線本数」の測定方法も訂正明細書に記載がないため不明であるから、「線状模様の線本数」とは何かが明確でないものである。

b.取消理由(1)及び特許異議意見書に関連する審尋に対する特許権者の主張について
当該取消理由(1)に対し、特許権者は、実験報告書を添付した意見書及び審尋回答書の中で「線状模様の線本数」の求め方について、
イ.『線状模様』は、凸条部と凹条部とによって形成されるわけですから、凸条部が線状模様の一構成要素を成し、凹条部が線状模様の一構成要素を成すことは文言上から明らかであります。また、『線状模様』はこれら凸条部と凹条部との両者によって形成される筋状の模様を言うのであるから、線本数の計数は凸条部のみを計数する或いは凹条部のみを計数するのは妥当ではなく、凸条部を1本と数え、前記凹条部を1本と数えることによって計数することが、文言の解釈から導きだせるところであります。
ロ.杉綾模様のピッチは、(略)杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向をピッチとして設定している方が一般的」である旨、主張すると共に、拭き取り試験から、出願当時に、前記杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向又はこれに直交する方向の2方向を拭き取り方向として設定していたことが伺い知れるところであると存じます。
したがって、本件特許権者が提出した実験報告書においては、杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する対向2辺と、これに直交する対向2辺を外縁とした正方形部分を切り取り、前述のように、拭き取り方向の一方として設定した、杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向に金属製直尺を当てて凸条部と凹条部との線本数を計測した次第であります。
したがって、『線状模様の線本数』の記載及び測定方法は、出願当初の明細書の記載から明確である
旨主張するので、この点について検討する。

c.特許権者の主張に対する判断
(c-1)上記主張(イ)について
特許権者は「文言の解釈から導きだせるところであります」と主張するが、訂正明細書には「線状模様の線本数」と記載するのみで、「線状模様の線本数」の定義がなく、特許権者の主張どおり、凸条部、凹条部、それぞれの本数を「線」本数として数えるのか、1本の凸条部と1本の凹条部とから形成される線状模様を「線」として認識し、線状模様を1本と数え、その本数を数えるのかなど、訂正明細書の記載からは「線状模様の線本数」の「線状模様の『線』」とは何か明確に導き出せるものではないので、いずれの解釈が合理的な根拠を有するものと判断できず、一義的に定まるものとはいえないから、特許権者の主張は訂正明細書に基づくものではない。
したがって、依然として「線状模様の線本数」が明確に定まるとはいえない。
(c-2)上記主張(ロ)について
特許権者は、「杉綾模様のピッチは、(略)杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向をピッチとして設定している方が一般的」である旨、主張しているが、訂正明細書には、段落[0036]に「ウエブ繊維を杉綾模様のワイヤメッシュ上に集積し高圧水流処理」をすることが記載されているだけであるから、前記「杉綾模様のピッチ」に関する特許権者の上記主張は、訂正明細書の記載に基づくものでない。
しかも、上記「杉綾模様のピッチ」とは、上記「V字状模様」のピッチを意味すると認められるから、請求項1に記載の「杉綾模様」を呈する「線状模様の線本数」とは基本的に異なるものであると認められる。
したがって、上記「杉綾模様のピッチ」に関する特許権者の上記主張は、上記「線状模様の線本数」を、どの方向に計数するかについて、直接的かつ具体的に示唆を与えるものではない。
また、特許権者は、訂正明細書の段落[0039]の[表1]中には、「拭き取り方向」として「ウェブ方向」及び「ウェブ直交方向」と記載され、上記「ウェブ方向」が「杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向に対して直交する方向」(以下、「MD方向」という。)を意味し、また、「ウェブ直交方向」が「杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向」(以下、「CD方向」という。)を意味する旨の主張をしているが、この点については容認できる。
さらに、特許権者は、「ウェットティッシュを商品として消費者に提供するに当たり、メーカー側で想定する拭き取り方向」は、上記MD方向及びCD方向の2方向である旨、つまり、前記2方向が、製品である矩形のウェットティッシュの縦横の辺の方向に相当する旨、及び「線状模様の線本数」を計数するべき方向は、「拭き取り方向」である旨、主張している。
しかしながら、請求項1には、「前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し」と記載され、また、段落[0021]には、「交差模様、図示例では杉綾模様を呈するようにした。その結果、どの方向に拭取りを行っても凸条部2の存在によって排泄物が凹条部3内に押し込められるとともに、最後は凸条部2によって排泄物がすくい取られるようになるため、筋ムラを生じさせることなく綺麗に拭取りが行えるようになる。」、段落[0022]には、「前記交差模様としては、前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が、他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差していれば良く、前記杉綾模様以外に、格子模様、菱形模様等種々の模様とすることができる。」と記載されており、『どの方向に拭取り』を行っても拭取りが行えるようになる旨記載されていることから、「2方向を拭取り方向として設定していた」とはいえないし、前記「交差」の角度についても、何ら限定されていない。
仮に、上記2方向の拭取り方向を設定していたとしても、本件に係る「杉綾模様」を呈する「線状模様の線本数」の計数方向として、「拭取り方向」である上記のCD方向を選択した場合とMD方向を選択した場合とでは、(CD方向ないしMD方向に対する「線」の角度が45度である場合を除き)その計数結果は当然に異なるものと解される。
すなわち、上記「実験報告書」の、「実験1の結果」に記載の「写真1-1b」(第3頁)において、「金属製直尺」と線状模様の「線」とのなす角度が変わると、「試料」が同じでも、金属製直尺で測定される線の全体幅は変化するから、単位長さ当たりの「線本数」、即ち「線状模様の線本数」(本/cm)は、線状模様の「線」の方向に対する測定方向・角度によって異なり、一義的に定まるものではない。
また、本件訂正明細書において、「線状模様」を構成する「線」(凸条部、凹条部、又は前記両者)の方向、例えば、長手方向に対して、どの方向・角度を基準として(いわば、どの方向に「金属製直尺」を置いて)、一定長さに含まれる「線本数」とするのか、実施例を含め本件特許明細書又は図面にも、意見書等にも、何も記載されていないことから、前記「拭取り方向」に、上記「線状模様の線本数」を計数するべき旨の特許権者の主張を採用したとしても、「線状模様の線本数」を計数するべき方向として、上記MD方向及びCD方向の2方向から、MD方向ではなく、CD方向を選択しなければならないとする合理的理由・根拠が明らかでない。
さらに、特許権者の上記主張のとおり、「線状模様の線本数」の計数方向をCD方向としたとしても、上記段落[0022]に記載のとおり、上記のとおり「線状模様」の「交差」角度には、何ら限定がないのであるから、前記「交差」角度が異なれば、「線状模様の線本数」の計数結果自体が同じであっても、同段落に記載の「凸条部2と凹条部3とで形成される空間の容積」は当然に異なり、一定のものとはならないので、拭取り効果に差異をもたらす結果となることは明らかである。
このように、計数するべき方向は定まらないだけでなく、「線状模様の線本数」が定まらない。
よって、「実験報告書」において、「拭取り方向の一方として設定した、杉綾模様を成すV字状模様を水平方向に横断する方向に金属製直尺を当てて凸条部と凹条部との線本数を計測した」、つまり、CD方向に「線本数を計測した」とする特許権者の上記主張に、合理的な技術的根拠があるとは認められない。

d.まとめ
上記のとおり、「線状模様の『線』」本数が明確でなく、また、請求項1に記載の「杉綾模様」を呈する「線状模様の線本数」を計数する方向についての特許権者の主張には、技術的根拠があるとは認めることができないから、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、前記「線状模様の線本数」が明確であるとはいえないし、その測定方法が明りょうであるともいえない。
よって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、明確であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

6-2.取消理由(2)「凸条部と凹条部の高低差」についての当審の判断
a.「凸条部と凹条部の高低差」について
上記2.に記載したとおり訂正請求に係る訂正は、請求項1に記載の「凸条部と凹条部の高低差」に関連する箇所について訂正するものではない。そして、請求項1に、「前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し、前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであり、かつ前記凸条部と凹条部との高低差は、50?300μmであること」との記載と、発明の詳細な説明に、「凸条部と凹条部との高低差」について測定値の記載はあるが、その測定方法についてはどのように測定したものかについて実施例を含め何ら記載されていないところである。
以上のとおりであるから、依然として、取消理由(2)は解消していないものといえる。
b.取消理由(2)及び特許異議意見書に関連する審尋に対する特許権者の主張について
当該取消理由(2)に対し、特許権者は、実験証明書を添付した意見書及び審尋回答書の中でその測定方法について、概略、以下のような主張をしている。
(イ)実際の不織布の場合は、その繊維端や繊維ループなどがランダムに突出しているものと認められますが、例えばこのような不織布表面から突出した繊維端や繊維ループの先端部をもって界面として設定し、凸条部や凹条部の厚みを計測すること自体、不適切であることは技術常識の点から当然であります。
従って、不織布の界面設定は、マイクロスコープ等で拡大した不織布断面写真において、不織布表面から突出した繊維端や繊維ループ等を除外し、適性に不織布本体の界面として設定できる位置を目視的に設定することで十分であると思料します。この手法は、明細書に直接的記載が存在しなくても、当業者乃至技術者の常識的であり自明である。
(ロ)実際に、実験報告書の第6頁において、不織布の断面を拡大撮影し、目視観察から実質的な不織布界面を適性に設定することは可能であり、このようにして設定した界面間の距離を測定することにより、凸条部と凹条部との高低差は測定可能である旨主張し、本件特許発明の「凸条部と凹条部の高低差」の測定方法は、当初明細書の記載より明確であるとともに、当業者乃至技術者等が通常行う自明の手法によって行い得る。
(ハ)上記実験報告書において、本件特許権者が採用したマイクロスコープを用いた不織布の厚み計測について、当業者において多用乃至認知されている計測方法で、採用したマイクロスコープ等の拡大写真による計測方法によって十分に測定が可能であることを、文献による実例を挙げて主張している。
c.特許権者の主張に対する判断
(c-1)実験報告書には、フィルム等のように均質でなく、一定形状を維持するような剛直なものでもなく、更に、本件訂正明細書、段落【0023】の記載事項にあるように厚みが厚くても約0.8mm程度のμm単位の不織布の断面写真を撮影するというのであれば、不織布の適切な断面構造・寸法を保持した状態の試料をどのように調製するかということは、実験の客観性・信頼性を担保する上で重要であると解されるにもかかわらず、該「実験報告書」には試料調製について何ら具体的記載がない。
(c-2)上記「実験報告書」に記載の上記「写真2-1」及び「写真2-2」をみるに、写されている不織布の断面構造・寸法及び構成繊維の配置等は、かなり不規則かつ不鮮明であって、特許権者が主張するように、拡大した不織布断面写真において、不織布表面から突出した繊維端や繊維ループ等を除外し、適正に不織布本体の界面として設定できる位置を目視的に設定することで十分であると思料しますというように、簡単に、上記「凸条部と凹条部との高低差」が客観的に定まるものとは認められない。また、当該写真の拡大倍率により不織布の表面から突出した繊維端や繊維ループ等の識別・排除も変わってくるものと認められるにもかかわらず、写真の拡大倍率について定められておらず、一義的に識別・排除が適正に行えるものとはいえない。したがって、本件訂正明細書、段落【0023】の記載事項、及び特に【図2】又は【図3】に模式的に図示されたものと同じようにμm単位での厚みを認識し、設定することは困難である。
更に、上記「写真2-1」及び「写真2-2」に示された断面構造等からみて、μm単位での「高低差」を有する「凸条部」及び「凹条部」における「不織布表面から突出した繊維端や繊維ループ等」の識別・排除、凸条部及び凹条部の頂部、底部の識別・認定、凸条部及び凹条部の各「界面」の認定・設定等が、目視により一義的且つ客観的に実施し得るものではない(実験報告書の上記「写真2-1」及び「写真2-2」には、「凸条部」及び「凹条部」の「界面」であると「認定」した箇所に補助「線」が記入されていると解されるが、該補助「線」の位置及び長さが妥当なものであると判断できない。)。また、その測定方法も訂正明細書に記載がなく、不明である。
(c-3)特許権者は、「マイクロスコープ等の拡大写真による計測方法は、いわば当業者において多用乃至認知されている計測方法」であると主張して、本件特許の出願時以降の出願であって、マイクロスコープを用いて厚みを計測することが記載されているとみられる甲第3ないし第9号証の公開公報、また、本件特許の出願時公知の光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡を用いることが記載された甲第10ないし第15号証の公開公報を提示しているが、これらからは、「厚さを計測する方法」として「マイクロスコープ」は厚みを測定するために対象を測定できる状態(拡大写真にして測りやすい状態)にするために用いることがうかがえるのみであって、実際に厚みを測定する手段については記載がなく、本件特許明細書には、厚みを計測する手段も、その厚みを測るためにマイクロスコープで拡大写真を撮り、計測するという一連の厚さを計測する方法についても何ら記載がないから、特許権者の先の主張は、明細書の記載に基づかない主張であるとともに、上記「実験報告書」の具体的記載事項、特に、上記「写真2-1」及び「写真2-2」に写されている「断面構造」について、また、どのように「凸条部と凹条部との高低差」が客観的に定まるかについては、「不織布表面から突出した繊維端や繊維ループ等を除外し、適性に不織布本体の界面として設定できる位置を目視的に設定することは可能である」旨主張するのみで、十分な釈明も説明もしていない。
d.まとめ
したがって、請求項1に記載の「凸条部と凹条部との高低差」とは、どの高低差か一義的に定まらず、また、具体的にどのようにして「凸条部と凹条部との高低差」を測定するのか訂正明細書に記載がなく、その測定方法が明りょうであるとはいえない。
よって、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が、明確であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

7.むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ウェットティッシュ用不織布
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも、親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維とを含み、繊維が三次元的に交絡するとともに、前記熱融着性を示す第2繊維の融着により繊維同士が結合された不織布であって、
前記不織布は、相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部と、相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部とが交互に存在し、
前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し、前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであり、かつ前記凸条部と凹条部との高低差は、50?300μmであることを特徴とするウェットティッシュ用不織布。
【請求項2】前記親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維と、熱捲縮性を示す熱可塑性繊維との3種類の繊維から構成され、高圧水流の投射により繊維を交絡させた後、熱処理により前記熱融着性を示す第2繊維により繊維同士を結合すると同時に、前記熱可塑性繊維を捲縮させて嵩高性を付与している請求項1記載のウェットティッシュ用不織布。
【請求項3】前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布。
【請求項4】前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維がポリエステル繊維である請求項3記載のウェットティッシュ用不織布。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特には赤ちゃん用のお尻拭き、大人用の身体またはお尻拭き、ウェットワイプなどに好適に使用でき、柔軟性と、良好な肌触り感とウェット強度とを兼ね備え、拭取り時に汚物や汚れなどを残さず綺麗に除去できるようにしたウェットティッシュ用不織布に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、赤ちゃん用のお尻拭き、大人用の身体またはお尻拭き、ウェットワイプなどの用途として、種々の構造または成分のウェットティッシュ用不織布が提案されている。
【0003】
たとえば、レーヨン等の親水性繊維と、熱接着性繊維とからなる複合繊維ウェブを高圧水流処理により繊維同士を交絡させた後、熱処理を行い前記熱接着性繊維を溶着させることにより、ドライ時およびウェット時の強度を確保するようにした不織布が知られている。
【0004】
しかし、この不織布は、用途が赤ちゃん用のお尻拭き、大人用の身体またはお尻拭き、ウェットワイプなどで、排泄物などの汚物や量のある汚れ等を拭取り対象とする場合には、不織布単位面積当たりの拭取り可能量が少ないとともに、不織布に付着した汚物が身体側に再び転着したり、汚物が筋状に残るなどの問題があった。
【0005】
そこで、不織布の表面に凹凸を形成したり、不織布に通孔を形成することで、汚物を前記表面凹部や開孔内に封じ込めるようにしたワイパー用不織布などが提案されている。
【0006】
不織布表面に凹凸を形成するようにしたものとしては、たとえば特開平2-160962号公報、特開昭62-141167号公報、特開平9-67748号公報、特開平11-48381号公報などに記載されるものを挙げることができる。具体的に述べると、特開平2-160962号公報には高スパイラル捲縮繊維やエラストマー繊維等の伸縮性繊維の収縮性を利用して不織布表面にクレープを形成したものが開示され、特開昭62-141167号公報には熱収縮性シートと、非熱収縮性シートとを部分的に結合して一体化した後、熱処理を行い前記結合部間に凸部を形成した不織布が開示され、特開平9-67748号公報には、最大熱収縮率が50%以上の熱収縮性繊維と、非熱収縮性繊維とからなる繊維ウエブに、高圧水流処理を施し、繊維同士を交絡させて一体化した後、熱収縮性繊維の融点近傍の温度で熱処理を施すことにより、構成繊維同士を熱接着させると共に、熱収縮繊維を収縮させて不織布の両面に不規則に多数の畝を形成した不織布が開示されている。さらに、特開平11-48381号公報には、畝状の山部と溝状の谷部とが交互に並列した表面形態を成すワイパー用積層物が開示されている。
【0007】
一方、不織布に通孔を形成するものとしては、特開昭61-6355号公報、特開平1-321961号公報、特開2000-45161号公報などに記載されるものを挙げることができる。具体的に述べると、特開昭61-6355号公報には一定の反復間隔で開孔模様を形成した不織布が開示され、特開平1-321961号公報には縦方向および横方向に開孔列を形成した格子開孔模様を形成した不織布が開示され、特開2000-45161号公報には開孔列と非開孔列とが交互に形成された不織布が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、不織布表面にクレープ、凸部、畝状の凹凸を形成するようにした前記不織布の場合、拭取り面部では面圧が加えられることにより、実質的に不織布面が平坦化されてしまい、所望の拭取り効果を期待することは出来ないことがある。また、お尻拭き用の場合、大量の汚物が局部的に集中する傾向にあり、許容量を超えた不織布の凹部から汚物の戻りが生じて綺麗に拭取りが出来なかったり、拭取り時の不織布の移動方向によっては、汚物が筋ムラとなって残るなどの問題があった。
【0009】
一方、不織布に開孔を形成した不織布の場合には、汚物が容易に通過可能な開孔であるため、不織布に加えられる面圧も手伝って汚物が不織布を通過してしまい、手が汚物で汚れてしまうなどの問題があった。
【0010】
一方、レーヨン等の親水性繊維と、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱接着性繊維とからなる複合繊維ウェブを高圧水流処理により繊維同士を交絡させた後、熱処理を行い前記熱接着性繊維を溶着させた不織布は、親水性繊維と熱接着性繊維との比率をうまく調整すれば、所定の保水性とウェット強度とを備えるとともに、柔軟性と表面肌触り感に優れたものを得ることが可能であるが、前記排泄物などの汚物や量のある汚れを拭取り対象とする場合には、柔軟性や肌触り感とともに、湿潤時にへたりが無く、嵩のある不織布であることが望まれる。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、排泄物などの汚物や量のある汚れ等を拭き取った際、これら汚物や汚れを筋ムラを残すこと無く、完全に綺麗に拭き取ることができるようにするとともに、柔軟性および風合いに優れると共に、べた付き感が無く、しかも適度のコシを備えて湿潤時のへたりが無い、そして必要な湿潤時強度を兼ね備えるなどのトータルバランスに優れたウェットティッシュ用不織布を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、少なくとも、親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維とを含み、繊維が三次元的に交絡するとともに、前記熱融着性を示す第2繊維の融着により繊維同士が結合された不織布であって、
前記不織布は、相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部と、相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部とが交互に存在し、
前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様が、他の凸条部と凹条部とによって形成される線状模様と交差する杉綾模様を呈し、前記凸条部と凹条部とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであり、かつ前記凸条部と凹条部との高低差は、50?300μmであることを特徴とするウェットティッシュ用不織布が提供される。
【0013】
請求項2に係る本発明として、前記親水性を示す第1繊維および熱融着性を示す第2繊維と、熱捲縮性を示す熱可塑性繊維との3種類の繊維から構成され、高圧水流の投射により繊維を交絡させた後、熱処理により前記熱融着性を示す第2繊維により繊維同士を結合すると同時に、前記熱可塑性繊維を捲縮させて嵩高性を付与している請求項1記載のウェットティッシュ用不織布が提供される。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記親水性を示す第1繊維を50?70重量%、前記熱融着性を示す第2繊維を10?30重量%、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維を40重量%以下含有する請求項2記載のウェットティッシュ用不織布が提供される。
【0015】
請求項4に係る本発明として、前記熱捲縮性を示す熱可塑性繊維がポリエステル繊維である請求項3記載のウェットティッシュ用不織布が提供される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0017】
本発明に係るウェットティッシュ用不織布1は、図1?図3に示されるように、レーヨンなどの親水性繊維と、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱融着性繊維と、ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維とを含み、これら各繊維が三次元的に交絡するとともに、前記熱融着性繊維の融着により繊維同士が結合された不織布として製作されたものであって、特に相対的に繊維密度が高くかつ線状に形成された凸条部2,2…と、相対的に繊維密度が低くかつ線状に形成された凹条部3,3…とが交互に存在し、かつ前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が、他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差する交差模様を呈している。前記凸条部2と凹条部3とによる線状模様は、図2に示されるように片面のみに形成しても良いし、図3に示されるように両面に形成してもよい。
【0018】
本発明者等は、拭取り時に汚物や汚れなどを残さず綺麗に除去できる不織布の表面形態について、種々の検討を行った結果、不織布の表面形態を凹凸状として、拭取り性を向上させるようにした従来の不織布は、主に凹部の窪み部分を排泄物の捕捉部として拭取りを行うものであり、拭取り初期は前記凹部に排泄物が堆積する一方、拭取り面には凸部が主に接触するため、ムラなく拭取りが可能であるが、前記凹部での堆積量が許容量を超えると、一旦拭き取られた排泄物が逆に拭取り面に転着して拭取りムラが生じる現象が見られるようになることを知見した。
【0019】
そこで、不織布の表面形態を凸状部2,2…と、凹状部3,3…とが交互に存在する筋模様とするとともに、特に凹部での繊維密度を相対的に小さくなるようにした。拭取りによって凹部に蓄積された排泄物は、繊維密度の小さい凹部面から繊維間に侵入し、いわば繊維間の空間によって捕捉されるようになるため、言わば主として表面の凹凸形状によって排泄物の捕捉を行う従来物と比較すると、全体として拭取り可能量の向上が見られるとともに、一旦捕捉した排泄物の戻り(転着)を防止し得るようになる。
【0020】
また、凸状の畝と、凹状の溝とが単に一方向に沿って形成されている従来の不織布の場合、この畝・溝方向に直交または交差する方向に沿って拭取りが行われた場合には、排泄物が凹状溝内に集積する一方、拭取り面とは凸状の畝が接触するようになる。すなわち、凸状畝の存在によって排泄物が凹状溝内に押し込められるとともに、凸状畝によってすくい取られるため綺麗な拭取りが可能であるが、前記畝・溝方向に沿って拭取りが行われたとすると、前記凹状溝内に集積した排泄物は、拭取り当初から最後まで肌面と接触する状態となり、凸状畝によってすくい取られるということが無く、排泄物が筋状の拭取りムラとなって残ることが判った。
【0021】
そこで、前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が、他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差する交差模様、図示例では杉綾模様を呈するようにした。その結果、どの方向に拭取りを行っても、凸条部2の存在によって排泄物が凹条部3内に押し込められるとともに、最後は凸条部2によって排泄物がすくい取られるようになるため、筋ムラを生じさせることなく綺麗に拭取りが行えるようになる。
【0022】
前記交差模様としては、前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様が、他の凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様と交差していれば良く、前記杉綾模様以外に、格子模様、菱形模様等種々の模様とすることができる。前記凸条部2と凹条部3とによって形成される線状模様の線本数は3?9本/cmであることが望ましい。線本数が3本/cm未満の場合には、不織布が平坦に近づくことで、一旦捕捉された排泄物が転着し易くなり、線本数が9本/cmを超える場合には、凸条部2と凹条部3とで形成される空間の容積が小さくなり過ぎるため、前記凹条部3に所望の量の排泄物を確保出来なくなり望ましくない。
【0023】
また、図2および図3に示されるように、前記凸条部2の裏面からの高さ(厚み)Hmは、300?800μm、好ましくは450?650μm、前記凹条部3の裏面からの高さ(厚み)Hdは、100?500μm、好ましくは200?400μmとするのが望ましい。別の視点から言えば、前記凸条部2と凹条部3との高低差は、50?300μm、好適には75?150μm程度とするのが望ましい。高低差が50μm未満である場合には、凹条部3による捕捉効果を多く期待できず所望の拭取り量が確保出来なくなる。また、高低差が300μmを超えるものは、結果的に不織布の厚みが厚くなり、柔軟性や手触り感が損なわれ、ウェットティッシュ用不織布としては不適となる。
【0024】
一方、この種の不織布に要求される柔軟性、保水性、風合い、湿潤時のへたりや湿潤時強度に関して言えば、レーヨンなどの親水性繊維を適切な割合で含有することにより所定の柔軟性と保水性とを備えるとともに、繊維密度の高い部分凸条部2と繊維密度の低い部分凹条部3とが交互に存在しているため、前記繊維密度の低い凹条部3における屈曲容易性により構造的にも適度な柔らかさが付与され、かつ表面の凹凸模様により適度な風合いが付与されるようになる。
【0025】
また、熱融着性繊維を混入することにより、湿潤時強度が向上するとともに、熱捲縮性を有する熱可塑性繊維により、湿潤時強度の付与とともに、不織布が嵩高となり風合い、手触り感に優れたものなる。
【0026】
前記親水性繊維は、綿、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維などを使用することができる。これらの繊維の中でも特にはレーヨンが好適である。レーヨンは、吸水性に富み、取り扱いが容易であると共に、一定長の繊維を安価に入手することができる。かかる親水性繊維は、50?70重量%の含有比で配合するのが望ましい。親水性繊維の含有量が50重量%未満である場合には、ウェットティッシュ用として十分な柔軟性と保水性を与えることが出来ず、70重量%を超える場合には、湿潤時強度が低すぎて破れなどが生じ易くなるとともに、容器からポップアップ式で取り出す際に伸びが生じ過ぎるようになる。
【0027】
前記熱融着性繊維としては、加熱によって溶融し相互に接着性を発現する任意の繊維を用いることができる。この熱融着性繊維は、単一繊維からなる物でもよいし、2種以上の合成樹脂を組み合わせた複合繊維等であってもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニルアルコール等のポリオレフィン系単一繊維や、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート-エチレン・プロピレン共重合体、低融点ポリエステル-ポリエステルなどからなる鞘部分が相対的に低融点とされる芯鞘型複合繊維または偏心芯鞘型複合繊維、またはポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン、ポロプロピレン/ポリエチレンからなる各成分の一部が表面に露出している分割型複合繊維、あるいはポリエチレンテレフタレート/エチレン-プロピレン共重合体からなる一方の成分の熱収縮により分割する熱分割型複合繊維などを用いることができる。この場合、生産性および寸法安定性を重視する場合は芯鞘型複合繊維が好ましく、不織布のボリューム感を重視するならば偏心型複合繊維が好ましい。また、柔軟性を重視するならば、分割型複合繊維や熱分割型複合繊維を用いると、高圧水流処理時に各成分が容易に分割して極細繊維化されるようになる。かかる熱融着性繊維は、10?30重量%の含有比で配合するのが望ましい。熱融着性繊維が10重量%未満の場合には、湿潤時強度が確保し得ないとともに、容器からポップアップ式で取り出す際に伸びが大きくなり過ぎるようになる。また、30重量%を超える場合には、風合いが硬くなり、手触り感がざらついた感触となり、この種のウェットティッシュとしては好ましくないものとなる。
【0028】
本発明においては、前記親水性繊維および熱融着性繊維の他、熱可塑性合成繊維を混合することができる。熱可塑性繊維としては、色々の合成繊維が存在するが、中でもポリエステル繊維が好適である。ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維は、高圧水流処理した際の交絡性が悪いとともに、毛羽立ちや湿潤強度に劣るようになる。また、ナイロン等のポリアミド系繊維は、親水性があり好ましくない。
【0029】
前記ポリエステル繊維の混合量は40重量%以下とされる。ポリエステル繊維の含有量が40重量%を超えると、保水性が損なわれ、ウェットティッシュ用不織布としてのウェット性能が著しく低下するようになる。なお、このポリエステル繊維は省略することも可能である。
【0030】
ポリエステル繊維を混入することにより、湿潤時のコシが向上し、嵩のある不織布を得ることができる。また、一部が不織布表面に露出することで、疎水性により湿潤時においてもべた付き感を緩和し、さらりとした感触が付与される。
【0031】
前記ポリエステル繊維は、熱捲縮性を有することが望ましい。熱捲縮性を与えるのは、ポリエステル繊維に対して熱収縮温度の異なる合成樹脂を貼り合わせたサイド・バイ・サイド型複合繊維の形態を採るようにする。ポリエステル繊維の融点は、ポリエチレンテレフタレートが255℃、ポリブチレンテレフタレートが215℃であり、これに貼り合わせる低融点樹脂としては、前述の熱融着性繊維の融点温度とほぼ同様の樹脂を用いるようにするのがよい。すなわち、レーヨン等の親水性繊維および熱融着性繊維と、熱捲縮性を示すポリエステル繊維との3種類の繊維から構成され、後述のように、高圧水流の投射により繊維を交絡させた後、熱処理により前記熱融着性繊維の溶融により繊維同士を結合すると同時に、前記ポリエステル繊維を捲縮させて嵩高性を付与するのが望ましい。
【0032】
前述したウェットティッシュ用不織布を得るには、不織布に与えたい表面模様を成すワイヤメッシュ上に、レーヨンなどの親水性繊維と、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱融着性繊維と、ポリエステル繊維等の熱可塑性繊維からなる繊維ウエブを積層し、搬送中にこの繊維ウエブの上方から高圧水流を噴射して繊維同士を交絡させるようにする。この際、ワイヤメッシュのワイヤが存在する部分の繊維は、高圧水流の衝突エネルギーによってワイヤの両側に押し分けられ開孔側に移動されるため、メッシュ開孔部の繊維部分が相対的に繊維密度が高くなるとともに、開孔形状に合わせて凸状となり、一方ワイヤが存在する部分は相対的に繊維密度が小さくなるとともに、ワイヤに沿って凹状が形成される。
【0033】
高圧水流により各繊維は相互に絡み合い繊維ウエブ全体が一体化される。その後、一体化された繊維ウエブに対して、熱融着性繊維の融点近傍の温度で熱処理を行い、熱融着繊維の溶融により繊維相互を結合するとともに、熱捲縮性を有する熱可塑性繊維が捲縮化することで嵩高性が付与されるようになる。
【0034】
なお、本ウェットティッシュ用不織布の目付け量は、20?50g/m2、好ましくは20?40g/m2程度が好適とされる。
【0035】
【実施例】
人工皮膚上(200mm×135mm)にプロピレングリコール、塩化ベンザルコニウム等の保湿用薬液、殺菌用薬液、防腐剤等の薬液を含浸させた不織布(本発明不織布と表面が均一な従来不織布)を敷き、一定重量の重り(底面105mm×55mm)を載せる。軟便に見立てた味噌と、水との混合物(味噌:水=2:1)を人工皮膚上に載せ、不織布の端を持ち、引っ張ることで人工皮膚上を移動させ、味噌を拭き取る。人工皮膚上に残った味噌の量から不織布の拭取り性を判断する。
【0036】
前記本発明不織布は、親水性繊維としてレーヨン繊維60重量%、熱融着性繊維として高密度ポリエチレン(鞘部分)/ポリプロピレン(芯部分)複合繊維20重量%、熱可塑性繊維として高密度ポリエチレン/ポリエステル(サイド・バイ・サイド型)複合繊維20重量%のウエブ繊維を杉綾模様のワイヤメッシュ上に集積し高圧水流処理した後、熱風型乾燥機にて温度140℃の熱を加え、前記熱融着性繊維の鞘成分を溶融し、他の繊維と結合させるとともに、前記熱可塑性繊維を熱捲縮させた、杉綾模様の表面凹凸を有する比較的嵩のある不織布である。
【0037】
一方、従来不織布は、レーヨン繊維70重量%、高密度ポリエチレン(鞘部分)/ポリプロピレン(芯部分)複合繊維30重量%のウエブ繊維を平滑なウエブ支持体上に集積し、高圧水流により繊維を交絡させ、熱風型乾燥機にて温度140℃の熱を加え、前記熱融着性繊維の鞘成分を溶融し、他の繊維と結合させた、表面が均一な不織布である。
【0038】
また、拭取り強さについては、軟便を手で軽く拭き取った際に残った軟便の状態から、重りの重量を設定し、重りの重量を段階的に重くしていくことで、強く拭き取った状態を再現する。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
なお、表中の記号は、味噌の拭き残し量の少ない順から○、△、×とした。
【0041】
【発明の効果】
以上詳説のとおり本発明によれば、排泄物などの汚物や量のある汚れ等を拭き取った際、これら汚物や汚れを筋ムラを残すこと無く、完全に綺麗に拭き取ることができるようになるとともに、柔軟性および風合いに優れると共に、べた付き感が無く、しかも適度のコシを備えて湿潤時のへたりが無い、そして必要な湿潤時強度を兼ね備えるなどのトータルバランスに優れたウェットティッシュ用不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るウェットティッシュ用不織布の要部平面図である。
【図2】
断面構造例を示す図である。
【図3】
断面構造の他例を示す図である。
【符号の説明】
1…ウェットティッシュ用不織布、2…凸条部、3…凹条部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-01-13 
出願番号 特願2000-228755(P2000-228755)
審決分類 P 1 651・ 536- ZA (D04H)
P 1 651・ 832- ZA (D04H)
P 1 651・ 537- ZA (D04H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 芦原 ゆりか
野村 康秀
登録日 2003-09-19 
登録番号 特許第3473561号(P3473561)
権利者 エリエールペーパーテック株式会社 大王製紙株式会社
発明の名称 ウェットティッシュ用不織布  
代理人 和泉 久志  
代理人 辻 良子  
代理人 和泉 久志  
代理人 辻 邦夫  
代理人 和泉 久志  

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