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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1152384
審判番号 無効2005-80184  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-06-15 
確定日 2007-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3497579号発明「エポキシセメント組成物とその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3497579号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
出願 平成6年9月13日(特願平6-254075号)
審査請求日 平成13年6月27日
拒絶理由通知 平成15年9月2日(発送日)
手続補正書 平成15年9月25日
意見書 平成15年9月25日
特許査定 平成15年10月15日
登録 平成15年11月28日
特許第3497579号
無効審判請求日 平成17年6月15日
答弁書 平成17年9月5日
訂正請求書 平成17年9月5日
弁駁書 平成18年5月1日
II.訂正請求について
1.訂正事項
被請求人は、平成17年9月5日付け訂正請求書を提出して、本件特許発明の明細書を訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めている。
(1)すなわち、特許請求の範囲を
「【請求項1】 セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項2】セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材表面に設けた液状樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、請求項1に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項3】液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である、請求項1または2に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項4】骨材に粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項5】液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤や水溶性溶剤を添加したもの、から選んだ樹脂である、請求項4に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項6】液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂である請求項4ないし請求項5のいずれかに記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項7】液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、請求項4ないし6のいずれか1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」と訂正することを求めるものである。
(2)そして、特許明細書の段落【0003】を
「【課題を解決する手段】
本発明は、「1. セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
2.セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材表面に設けた液状樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
3.液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である、1項または2項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
4.骨材に粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
5.液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤や水溶性溶剤を添加したもの、から選んだ樹脂である、4項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
6.液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂である4項4ないし5項のいずれかに記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
7.液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、4項ないし6項のいずれか1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」に関する。」とするものである。
(3)これらの訂正事項は、特許請求の範囲と明細書段落【0003】において、「液状エポキシ樹脂」であったものを「粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂」と訂正し、「二材型エポキシセメント組成物」であったものを「混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物」と訂正するものである。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)液状エポキシ樹脂を「粘度600?11000cpsの」とする点は、粘度を実施例の上限及び下限の範囲に限定するもので、特許請求の範囲の限定的減縮に該当し、明細書についてしたものは、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定、及び同条第5項により準用する第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(2)二材型エポキシセメント組成物を「混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物」とする点は、混練中あるいは混和時の作業上の作用効果を付加したもので、一応、特許請求の範囲の限定的減縮に該当するものであり、そして、明細書についてしたものは、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、上記訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定、及び同条第5項により準用する第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.請求人の主張
これに対して、審判請求人は、本件特許は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証である米国特許第5162060号明細書に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、本件特許を無効とすべきものである、と主張している。
IV.被請求人の主張
被請求人は、平成17年9月5日付け訂正請求書により本件特許の請求項を訂正し、請求人が主張する無効理由は以下のとおり解消した旨主張している。
(本件発明1)について
本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、「引用例発明」という。)を対比すると、両者は、セメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる二材型エポキシセメント組成物である点で共通する。
しかしながら、エポキシ樹脂の粘度について、前者は「600?11000cps」と規定しているのに対し、後者には粘度について開示されていない点、及び二材型エポキシセメント組成物の混練中の性質について、前者は、「混練中に粉塵が発生しない」と規定しているのに対し、後者は何も規定していない点、で両者は構成上相違する。
本件発明1は、「セメント粉体を現場で撹拌混合する際には著しく粉塵が発生し作業者の健康に悪影響を及ぼしていた。過去には、セメント材料にエポキシ樹脂を混合し二材化にする試みが行われていたが、液状エポキシ樹脂の粘度が高くセメントに均一に混合することが困難であり、団塊状となり易く、作業性の良い二材型組成物が得られなかった。」(本件明細書【0002】)という技術課題を解決するためになされたもので、原材料に用いる液状エポキシ樹脂の粘度に着目して、上記新規構成を採用し、「施工現場での混和時に粉塵が発生しない」という効果が奏されるものである。
これに対して、引用例は、2成分系のセメント組成物を提供する点では本件発明1と構成上共通するが、引用例は二成分を混合して養生した後のセメント組成物の各種特性をバランス良く向上させることを主たる技術課題としているのに対し、本件発明1は二成分の混練中における粉塵の発生を防止することを主たる技術課題としている点で両者は技術課題を異にするものである。
次に、引用例発明の構成及び作用効果について検討すると、本件発明1を構成する粒状混合物は、引用例発明のセメント組成物を構成するドライミックスに構成上対応するものである。そして、引用例のドライミックスの製造方法において、成分を特定の順序で混合した結果、本件発明1を構成する粒状混合物に相当するものが得られたことが開示されているといえる。
しかしながら、引用例には液体のエポキシ樹脂の粘度については全く記載がないとともに、ドライミックス(本件発明1における「粒状混合物」に相当)とウェットミックス(本件発明1における「エポキシ樹脂硬化剤」に相当)の混練中の作用効果について記載も示唆もされていない。
すなわち、引用例には、製造されたセメント組成物の最終強度及び耐薬品性等を向上させるための技術内容については種々開示されているといえるが、ドライミックスとウェットミックスの混練中における粉塵の発生の有無を確認したことをうかがわせる記載はない。
これに対して、本件発明1は、エポキシセメント組成物を構成する粒状混合物のうち、「粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂」を用いると、「粒状混合物とエポキシ樹脂硬化剤の混練中に粉塵が発生しない」という、引用例に開示されておらず、かつ引用例から自明でもない異質の作用効果を見出したものである。
したがって、本件発明1における「粘度600?11000cps」の液状エポキシ樹脂および「混練中に粉塵が発生しない」二材型エポキシセメント組成物という構成については、引用例に何ら示唆するところがないといえ、引用例を根拠として本件発明1の新規性は否定されず、また進歩性も否定されない。
また、本件発明2?3は、本件発明1に従属するから、引用例に開示されていない。
さらに、本件発明4?7は、製造原料として「粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂」を用いているから同様に引用例に開示されていない。
なお、本件発明5及び6は本件発明4に従属するが、本件発明4は上記の説明と同様に引用例を根拠として進歩性が否定されないから本件発明5及び6も同様に引用例を根拠として進歩性は否定されない。
V.本件特許発明
本件特許の請求項1乃至7に係る発明は、平成17年9月5日付け訂正請求書により訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、上記II.1.(1)の特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載されたとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1乃至7」という。)。
VI.甲第1号証の記載事項について
甲第1号証(米国特許第5162060号明細書)には、
1.「There is a need for a coating composition for Portland cement concrete which reqiures a minimum of components to be separately packaged and shipped, and mixed together with other materials at the site of the application.」(第2欄第19乃至23行)「別々に包装される最少の成分を必要とし、かつ使用する場所において他の成分といっしょに混合するポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物が要望されている。」(翻訳文)、
2.「The polymer-modified cementitious composition can be advantageously formulated as a two-package system, the coating composition being mixed from a pair of storage-stable components which can be separately mixed, stored, and later transported to a remote application site, where they can be mixed together with water with conventional equipment to provide a fluid coating composition having a long pot life and low viscosity, permitting easy and rapid application to the substrate. 」(第4欄第17乃至26行)「本発明の重合体変性セメント質組成物は、2包装系として有利に配合することができる。すなわち、被覆性組成物は、別々に混合し、貯蔵することができ、かつあとで遠方の適用場所に輸送することができる一組の貯蔵安定性成分から混合される。それらは従来の装置を用いて水といっしょに混合し長いポットライフおよび低粘度を有し、基体に容易かつ急速に適用することができる。」(翻訳文)、
3.「The composition of the present invention includes at least one epoxy resin. Preferably, the epoxy resin is liquid at the temperature at which the coating composition is applied.・・・A suitable bisphenol A-type epoxy resin is available from Shell Co. as Epon(registered trademark)828 resin. Mixtures of epoxy resins, including mixture with reactive epoxy-functional diluents, can also be used.」(第8欄第54行乃至第9欄第4行)「本発明の組成物には、少なくとも1種のエポキシ樹脂が含有される。エポキシ樹脂は、被覆性組成物を適用する温度において液体であることが好ましい。・・・適当なビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂は、Shell Chemical Co.からEpon 828樹脂(登録商標)として市販されている。また、反応性エポキシ官能性希釈剤との混合物を含有するエポキシ樹脂の混合物を使用することもできる。」(翻訳文)、
4.「The epoxy resin can be blended directly with the hydraulic cement and any sand or fine particle size filler used to provide a dry component for preparing the coating composition of the present invention. The dry component can be separately packaged and stored, and subsequently shipped to the site at which the coating composition is to be applied. The dry component including the epoxy resin can be blended on the site with wet component including the amine-functional epoxy curing agent. The liquid epoxy resin can be blended directly with the hydraulic cement, sand, etc., or the resin can be first emulsified using conventional emulsification process.」(第9欄第5乃至17行)「エポキシ樹脂は、水硬セメントと直接混合することができ、かつ任意の砂または微粒子サイズの充填剤を使用して、本発明の被覆性組成物を造るための“ドライ(dry)”成分を提供する。ドライ成分は、別々に包装して貯蔵することができ、次いで被覆性組成物を用いる場所に輸送することができる。エポキシ樹脂を含有しているドライ成分は、アミン官能性のエポキシ硬化剤を含有する“ウェット(wet)”成分と、その場所において混合することができる。液体のエポキシ樹脂は、水硬セメント、砂等と直接混合することができ、または、樹脂は、従来の乳化方法を使用して最初に乳化させることもできる。」(翻訳文)、
5.「The cementitious compositions of the present invention can be mixed from the components thereof using intermediate components are first prepared, packaged, and stored, and then subsequently transported to the application site where they are mixed together with water in proportion to provide the cementious composition. One component is preferably a dry mix including the fine particle size filler, if any, other fillers such as large particle size sand or aggregate, the hydraulic cement, and the liquid epoxy resin. These components can be mixed using conventional equipment for mixing particulate minerals, such as ribbon or rotary blenders. Preferably, the optional large particle size filler is first charged to the mixer, and the liquid epoxy resin is blended in. After through mixing, the hydraulic cement is mixed in, along with any fine particle size filler, and the mixing is continued to form the dry mix. This order of addition is preferred to avoid the formation of clumps which tend to occur when the epoxy resin is blended first with the hydraulic cement or another fine particle size material. 」(第11欄第50行乃至第12欄第3行)「本発明のセメント質組成物は、従来の方法および装置を用いて、それらの成分を混合することができる。好ましくは、2つの中間物成分を先ず製造し、包装し、そして貯蔵し、次いで適用する場所に輸送し、そこでそれらをセメント質組成物を提供する割合で水といっしょに混合する。第1の成分は、好ましくは“ドライミックス(dry mix)”であり、これは微細は粒子サイズの充填剤、もしあるならその他の充填剤例えば大きな粒子サイズの砂または骨材、水硬セメント、および液体のエポキシ樹脂を含有する。これらの成分は、粒状鉱物を混合するための従来の装置、例えばリボン式またはロータリー式ブレンダーを使用して混合することができる。好ましくは、任意的に大きな粒子サイズの充填剤を最初にミキサーに入れ、液体のエポキシ樹脂が混合され、混合の後、任意の微細な粒子サイズの充填剤といっしょに水硬セメントをその中に混合し、混合を続けて“ドライミックス”を生成させる。この添加順序は、エポキシ樹脂を、水硬セメントまたは他の微細な粒子サイズの材料と最初に混合するときに生起する傾向にある凝集塊の生成を避けるのに好ましい。」(翻訳文)、
6.「The second component or wet mix preferably includes the polymeric latex, the amine-functional epoxy curing agent, any optionally the epoxy- or amine-functional silane, and can be prepared using any conventional low shear mixing equipment for liquids, with care being taken to avoid shear-induced coagulation or destabilization of the polymer latex.」(第12欄第4乃至11行)「第2の成分または“ウェットミックス(wetmix)”には、好ましくは、重合体ラテックス、アミン官能性エポキシ硬化剤、水硬セメントのための任意的な水溶性促進剤、および任意的なエポキシ-またはアミン-官能性シランが包含される、そして従来の液体用の低せん断混合用装置(low Shear mixing equipment)を用い、重合体ラテックスがせん断により誘発される凝固または不安定化されるのを避けるように注意しながら製造する。」(翻訳文)、
7.「Example 1
247.1 parts by weight of MDC-2(angular particles) (MDC Industries, Philadelphia, PA) sand, 247.1 parts by weight of Ottawa 20-30 mesh (round particle)(Fisher Scientific Co.) sand, and 247.1 parts by weight of 7
0 mesh (MDC Industries) sand were charged to a Hobart Model K5SS mixer (Hobart, Inc., Troy, OH) and blended at low speed. 11.4 parts by weight of EPON828 (digycidyl ether of bisphenol A, 185-192 epoxy equivalent weight, Shell Chemical Co., Atlanta, GA) liquid epoxy resin were gradually added with mixing of the sand, and the mixture is susequently mixed until the epoxy resin is well dispersed in the sand(approximately fifteen minutes). Subsequently, 247.1 parts by weight Type III Portland cement (Allentown Cement Co., Allentown, PA) is added to the mixture of sand and epoxy resin and mixing is continued until the cement is well dispersed. When this order of addition is observed, a uniform mixture free of clumps is obtained, while if the cements is added before the epoxy resin the mixture may tend to form clumps when the epoxy resin is added.
The resulting dry mix appeared to be free flowing marerial with no obvious liquid present.」(第14欄第2乃至24行)「実施例1
MDC-2(角形粒子)(MDC Industries, Philadelphia,PA)砂の247.1重量部、オッタワ(Ottawa)20-30メツシユ(球形粒子)(Fisher Scientific Co.)砂の247.1重量部、および70メツシユ(MDC Industries)砂の247.1重量部を、ホバート型K5SSミキサー(Hobart Model K5SS mixer)(Hobart,Inc.,Troy,OH)に仕込み、低速度で混合した。これらの砂をかきなぜながら、Epon828(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、185-192エポキシ当量、Shell Chemical Co.Atlanta,GA)液体エポキシ樹脂を徐々に添加し、次いでこの混合物をエポキシ樹脂が砂中によく分散するまで混合した(約15分)。続いて、247.1重量部のタイプIIIポルトランドセメント(Allentown Cement Co.Allentown,PA)がセメントが砂とエポキシ樹脂の混合物に添加され、セメントが良く分散されるまで混合が続けられた。添加のこの順序を観察するとき、凝集塊のない均質な混合物が得られる。しかし、もしセメントを、エポキシ樹脂を加える前に添加するならば、混合物はエポキシ樹脂を加えたときに凝集塊を生成する傾句にある。
結果として得られるドライミックスは、明らかな液体が存在していないが自由に流動する物質であった。」(翻訳文)が記載されている。
VII.対比
1.VI.4.及び同5.によれば甲第1号証には、「a coating composition for Portland cement concrete which reqires a minimum of components to be separately packaged and shipped, and mixed together with other materials at the site of the application.」「別々に包装される最少の成分を必要とし、かつ使用する場所において他の成分といっしょに混合するポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物」であって、「a two-package system, the coating composition being mixed from a pair of storage-stable components which can be separately mixed, stored」「被覆性組成物は、別々に混合し、貯蔵することができ」る「2包装系」で、「One component is preferably a dry mix including the fine particle size filler, if any, other fillers such as large particle size sand or aggregate, the hydraulic cement, and the liquid epoxy resin.」「第1の成分は、好ましくは“ドライミックス(dry mix)”であり、これは微細な粒子サイズの充填剤、もしあるならその他の充填剤例えば大きな粒子サイズの砂または骨材、水硬セメント、および液体のエポキシ樹脂を含有」し、「The second component or wet mix preferably includes the polymeric latex, the amine-functional epoxy curing agent, any optionally the epoxy- or amine-functional silane,」「第2の成分または“ウェットミックス(wet mix)”には、好ましくは、重合体ラテックス、アミン官能性エポキシ硬化剤、水硬セメントのための任意的な水溶性促進剤、および任意的なエポキシ-またはアミン-官能性シランが包含される」ことが記載されている。本件発明1の記載に則って整理すると、「第1の成分は、好ましくは“ドライミックス(dry mix)”であり、これは微細な粒子サイズの充填剤、もしあるならその他の充填剤例えば大きな粒子サイズの砂または骨材、水硬セメント、および液体のエポキシ樹脂を含有し、第2の成分または“ウェットミックス(wet mix)”には、好ましくは、重合体ラテックス、アミン官能性エポキシ硬化剤、水硬セメントのための任意的な水溶性促進剤、および任意的なエポキシ-またはアミン-官能性シランが包含され、使用する場所において他の成分といっしょに混合するポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物。」 の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されているといえる。そして、甲第1発明の「砂または骨材、水硬セメント、および液体のエポキシ樹脂を含有」した「第1の成分」の「ドライミックス」がVI.7.に記載されるように「セメントが砂とエポキシ樹脂の混合物に添加され、セメントが良く分散されるまで混合が続けられ」、「明らかな液体が存在していないが自由に流動する物質」であるから、本件発明1の「セメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状混合物」に相当し、エポキシ硬化剤を含む「第2の成分」の「ウェットミックス」には、「アミン官能性エポキシ硬化剤」が含まれるから「エポキシ樹脂硬化剤」に相当することは明らかで、「第1の成分」と「第2の成分」は使用する場所において混合されるので「二材型」といえるから、両者は、「セメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状混合物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる、二材型エポキシセメント組成物。」で一致し、本件発明1では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第1発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明1では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第1発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の二点において一応相違するものと認められる。
2.記載事項VI.5.には、「the optional large particle size filler is first charged to the mixer, and the liquid epoxiy resin is blended in. After through mixing, the hydraulic cement is mixed in, along with any fine particle size filler, and the mixing is continued to form the dry mix. This order of addition is preferred to avoid the formation of clumps which tend to occur when the epoxy resin is blended first with the hydraulic cement or another fine particle size material. 」「任意的に大きな粒子サイズの充填剤を最初にミキサーに入れ、液体のエポキシ樹脂が混合され、混合の後、任意の微細な粒子サイズの充填剤といっしょに水硬セメントをその中に混合し、混合を続けて“ドライミックス”を生成させる。この添加順序は、エポキシ樹脂を、水硬セメントまたは他の微細な粒子サイズの材料と最初に混合するときに生起する傾向にある凝集塊の生成を避けるのに好ましい」ことが記載されている。この記載から、充填剤と液体のエポキシ樹脂が先ず混合され、その後、水硬セメントが混合されるから、充填剤の表面にまずエポキシ樹脂の層が形成され、次に水硬セメント層が形成されて凝集塊のないドライミックスを構成するから、上記1.と同様に本件発明2に則って整理すると、甲第1号証には、「任意的に大きな粒子サイズである充填剤の表面にエポキシ樹脂層が形成され次に水硬セメント層が形成されたドライミックスである甲第1発明の、ポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物。」が記載されており、甲第1号証の「任意的に大きな粒子サイズである充填剤」、「ドライミックス」および「ポルトランドセメントコンクリート用の被覆組成物」が本件発明2の「骨材」、「粒状混合物」および「二材型エポキシセメント組成物」に相当することは明らかであるから、甲第1号証には、「甲第1発明において、セメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材表面に設けた液状樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、二材型エポキシセメント組成物。」の発明(以下、「甲第2発明」という。)が記載されているといえる。
そして、甲第1発明が請求項1に係る発明に対応するから、両者は「セメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材表面に設けた液状樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、請求項1に記載された二材型エポキシセメント組成物。」で一致し、本件発明2では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第2発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明2では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第2発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の二点において一応相違するものと認められる。
3.液状エポキシ樹脂の配合量に関しては、VI.7.のExample 1において、11.4 parts by weight of EPON828に対して 247.1 parts by weight Type III Portland cementが添加されているが記載され、この添加量は、液状エポキシ樹脂4.6重量部に対してポルトランドセメント100重量部に相当する。したがって、甲第1号証には、本件発明3において特定する「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」範囲内で「4.6重量部」であることが記載され、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である、甲第1発明又は甲第2発明に記載された二材型エポキシセメント組成物。」の発明(以下、「甲第3発明」という。)が記載されているといえる。
そして、甲第1発明及び甲第2発明が請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明に対応するから、甲第3発明は、本件発明3と、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である、請求項1又は2に記載された二材型エポキシセメント組成物。」である点で一致し、本件発明3では、「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」のに対して、甲第3発明では、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である」一点以外の範囲については記載のない点、本件発明3では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第3発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明3では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して、甲第3発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の三点において一応相違するものと認められる。
4.上記VII.1.及びVII.2.で記載したように、甲第1号証では、充填剤と液体のエポキシ樹脂が先ず混合され、その後、水硬セメントが混合されるから、充填剤の表面にまずエポキシ樹脂の層が形成され、次に水硬セメント層が形成されて凝集塊のない第1の成分であるドライミックスが構成され、エポキシ硬化剤を含む第2の成分であるウェットミックスと使用する場所においていっしょに混合するポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物の製造方法が記載され、甲第1号証の「充填剤」、「水硬セメント」及び「エポキシ硬化剤」が本件発明4の「骨材」、「粉末状のセメント」及び「エポキシ樹脂硬化剤」に相当し、第1及び第2の成分から成る「ポルトランドセメントコンクリート用の被覆性組成物」が本件発明4の「二材型エポキシセメント組成物」に相当することが明らかであるから、甲第1号証には、「骨材に液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」の発明(以下、「甲第4発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明4と甲第4発明を比較すると、両者は、「骨材に液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」で一致し、本件発明4では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第4発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明4では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第4発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の二点において一応相違するものと認められる。
5.VI.3で記載されるように甲第1号証では、「エポキシ樹脂は、被覆性組成物を適用する温度において液体であることが好ましい。」ことや「反応性エポキシ官能性希釈剤との混合物を含有するエポキシ樹脂の混合物を使用することもできる。」が明記されているので、甲第1号証には、「甲第4発明において、液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤を添加したもの、から選んだ樹脂である二材型エポキシセメント組成物の製造方法」の発明(以下、「甲第5発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明5と甲第5発明を比較すると、甲第4発明が請求項4に係る発明に対応するから、両者は、「液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤を添加したもの、から選んだ樹脂である請求項4に記載された二材型エポキシセメント組成物の製造方法」で一致し、本件発明5では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第5発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明5では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第5発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の二点において一応相違するものと認められる。
6.VI.4では、「樹脂は、従来の乳化方法を使用して最初に乳化させることもできる。」ことが記載され、液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂であることは記載されているに等しい事項といえるので、甲第1号証には、「甲第4または5発明において、液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂である二材型エポキシセメント組成物の製造方法」発明(以下、「甲第6発明」という。)が記載されているといえる。
本件発明6と甲第6発明を比較すると、甲第4又は5発明が請求項4又は請求項5に係る発明に対応するから、両者は、「液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤を添加したもの、から選んだ樹脂である請求項4乃至請求項5に記載された二材型エポキシセメント組成物の製造方法」で一致し、本件発明6では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第6発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明6では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第6発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の二点において一応相違するものと認められる。
7.VII.3に記載した通り、甲第1号証には、本件発明7において特定する「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」範囲内で「4.6重量部」であることが記載されているといえるので、甲第1号証には、「甲第4乃至6発明において液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し4.6重量部である二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」の発明(以下、「甲第7発明」という。)が記載されているといえる。
そして、甲第4乃至6発明が請求項4乃至請求項6に係る発明に対応するから、甲第7発明は、本件発明7と、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である、請求項4乃至請求項5に記載された二材型エポキシセメント組成物。」である点で一致し、本件発明3では、「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」のに対して、甲第3発明では、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である」一点以外の範囲については記載のない点、本件発明7では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第7発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、および本件発明7では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第7発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、の三点において一応相違するものと認められる。
VIII.判断
1.本件発明1乃至7に係る甲第1乃至7発明との相違点は、
(1)本件各発明では、粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を用いるのに対して甲第1号証に記載された発明では、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載のない点、
(2)本件各発明では、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物であるのに対して甲第1号証に記載された発明では、混合する際の粉塵の発生については記載のない点、
(3)本件発明3及び7では、「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」のに対して、甲第3及び7発明では、「液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である」一点以外の範囲については記載のない点、
の三点にあるということができる。
2.以下、それぞれ検討する。
(1)液状エポキシ樹脂の粘度について
無効審判請求人が主張するように甲第1号証には、液体のエポキシ樹脂の粘度については記載がない。一方、本件特許明細書においてもエポキシ樹脂としては常温で液状で、一般的なビスフェノール型のものなどで、エポキシ樹脂の粘度に関する記載は、実施例の段落【0009】乃至【0011】における、ベッコポックスEP122W(明細書には「128」とあるが段落【0010】の記載からみて「122W」の誤記と認められる。)(ドイツ ヘキスト社製 自己乳化型液状エポキシ樹脂主剤 粘度600?750cps)、ベッコポックスEP128(ドイツ ヘキスト社製 液状樹脂主剤 粘度700?1000cps)、ベッコポックスEP140(ドイツ ヘキスト社製 液状エポキシ樹脂主剤 粘度8000?11000cps)があるだけで、その技術的意義は明らかでなく、単に、混合によりセメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粉粒体が得られる程度の粘度を実施例の最小値と最大値を数値限定の下限と上限としたものと解する他はない。
そして、無効審判請求人が平成18年5月1日付けで提出した弁駁書に添付した本件特許出願前に頒布されたことが明らかなカタログである甲第4号証にビスフェノールA型・液状として「EPICLON840、エポキシ当量180-190、粘度9000-11000 性状 液状、特徴 低粘度、用途 塗料 土木 接着 電気 電子」「EPICLON855、エポキシ当量183-193、粘度800-1100、性状 液状、特徴 低粘度 希釈剤希釈型、用途 塗料 土木 接着 電気 電子」と記載されるように、土木用途で用いられる一般的なビスフェノールA型・液状液状エポキシ樹脂が通常の粘度として800-11000cpsを有していたものと認められる。前記したように甲第1号証において用いられるエポキシ樹脂は、Epon828(ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、185-192エポキシ当量)で、粘度については記載がないものの用途から見て一般的な値と認められ、しかも本件特許発明の実施例で用いられた液状エポキシ樹脂主剤も同様な材料と認められるので、甲第1号証において用いられるエポキシ樹脂に土木用途で通常の800-11000cpsの粘度を有すると数値限定を付加することも当業者であれば適宜なし得る程度の事項である。
(2)混練中に粉塵が発生しない点について
本件特許発明が混練中に粉塵を発生しない作用が奏されるのは、セメントが粒状物の一部となっているためであり、粒状物の表面を被覆するセメント層はブロッキング防止剤となって、粒状物の凝集を防いでいる。(本件特許明細書段落【0004】)一方、甲第1号証のVI.5.に「充填剤を先ずミキサーに入れ、液体のエポキシ樹脂が混合され、混合の後、任意の微細な粒子サイズの充填剤といっしょに水硬セメントをその中に混合し、混合を続けて“ドライミックス”を生成させる。この添加順序は、エポキシ樹脂を、水硬セメントまたは他の微細な粒子サイズの材料と最初に混合するときに生起する傾向にある凝集塊の生成を避けるのに好ましい。」と記載されるように特定の添加順序により、本件特許発明と同様な凝集防止の効果を奏するのであり、この記載から甲第1号証においてもセメントはエポキシ樹脂によりドライミックスの表面を被覆しており、甲第1号証のVI.7に「結果として得られるドライミックスは、明らかな液体が存在していないが自由に流動する物質であった。」と記載され、ドライミックスの流動を妨げるセメントが存在しないことが明らかであるから、ウェットミックスと混合する際に粉塵となって自由に飛散することも防止されていることが推認されるものである。
したがって、甲第1号証に記載された発明において「混練中に粉塵が発生しない」とすることは、当業者であれば容易に想到しうる事項にすぎないものであり、または、当然、奏せられる作用効果を付加したにすぎないものである。
(3)本件発明3及び7では、「液状エポキシ樹脂が、セメント100重量部に対し3?100重量部である」点について
甲第3及び7発明では、液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し4.6重量部である点で、本件発明3及び7と共通しており、このセメントの添加量について適用可能な上限及び下限を設定することも実施に際して普通に行われる施工条件の付加にすぎないものである。
以上を総合すると、本件発明1乃至7は、甲第1号証に記載された甲第1乃至7発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
また、上記の(1)については、単なる物性の限定で甲第1号証においても液状エポキシ樹脂の混合が可能であったことから600?11000cpsの数値範囲内の粘度を有していたものと推認され、(2)については、「混練中に粉塵が発生しない」という単なる効果の発見にすぎないものということができ、(3)もセメントの添加量が重複しているのであるから、本件発明1乃至7は、甲第1号証に記載されたものであるということができる。
なお、審理の終結の通知後に被請求人から提出された平成18年11月10日付け上申書を考慮しても、上記判断を変更することはできない。
IX.むすび
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項及び同法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エポキシセメント組成物とその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項2】セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材の表面に設けた液状エポキシ樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、請求項1に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項3】液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、請求項1または2に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
【請求項4】骨材に粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項5】液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤や水溶性溶剤を添加したもの、から選んだ樹脂である、請求項4に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項6】液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂である請求項4ないし請求項5のいずれかに記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【請求項7】液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、請求項4ないし6のいずれか1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、コンクリートやモルタル作成時に粉塵の発生しない作業性に優れた二材型のエポキシセメント組成物とその製造方法に関するもので、貯蔵安定性にも優れている。
【0002】
【従来の技術】
セメントモルタル、セメントコンクリートの強度、接着性および耐薬品性を高めるためエポキシ樹脂を配合することは従来から行われていた。しかしながら、エポキシ樹脂は硬化剤と反応して硬化するので、エポキシ樹脂、硬化剤、セメントと骨材からなる粉体材料、の三成分を施工現場で混合し水を加えて混練りし使用されていた。従って三成分またはそれ以上の分割包装が必要であり、施工の煩雑さと計量ミスによるトラブルは避けられなかった。さらに、セメント粉体を現場で撹拌混合する際には著しく粉塵が発生し作業者の健康に悪影響を及ぼしていた。過去には、セメント材料にエポキシ樹脂を混合し二材化にする試みが行われていたが、液状エポキシ樹脂の粘度が高くセメントに均一に混合することが困難であり、団塊状となり易く、作業性の良い二材型組成物が得られなかった。
【0003】
【課題を解決する手段】
本発明は、
「1.セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物と、エポキシ樹脂硬化剤の二材からなる、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
2.セメントと骨材と粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂の粒状混合物が、骨材の表面に設けた液状エポキシ樹脂層と、液状エポキシ樹脂の表面を被覆するセメント層からなる粒状物である、1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
3.液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、1項または2項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物。
4.骨材に粘度600?11000cpsの液状エポキシ樹脂を混合して骨材表面に液状エポキシ樹脂を被覆し、ついで粉末状のセメントを添加して混合し液状エポキシ樹脂の表面を被覆して粒状となした一材と、エポキシ樹脂硬化剤からなる他の一材とを配合することを特徴とする、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
5.液状エポキシ樹脂が、樹脂自体が液状であるもの、さらに反応性希釈剤や水溶性溶剤を添加したもの、から選んだ樹脂である、4項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
6.液状エポキシ樹脂が界面活性剤を加えた水に乳化分散性の樹脂である4項ないし5項のいずれかに記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。
7.液状エポキシ樹脂がセメント100重量部に対し3?100重量部である、4項ないし6項のいずれか1項に記載された、混練中に粉塵が発生しない二材型エポキシセメント組成物の製造方法。」に関する。
【0004】
【作用】
本発明はセメントと骨材と液状エポキシ樹脂を粒状の混合物としたところに特徴を有する。一材であるセメントと骨材と液状エポキシ樹脂の粒状物は、骨材の表面に液状エポキシ樹脂を層状に配置し、その表面をセメントで被覆した粒状物はセメント層がブロッキング防止剤となって粒状物の凝集を防ぎ、貯蔵安定性が良好な粒状を保つことが出来るものである。またセメントが粒状物の一部となっているので施工時に撹拌等を行っても飛散しないので粉塵の発生がない作用が奏される。次に本発明のセメント、骨材、液状エポキシ樹脂粒状物を構成する材料を説明する。
【0005】
使用するセメントは、通常のモルタルやコンクリートに使用されるものでよく、例えば、普通ポルトランドセメント、アルミナセメント、水硬性石灰、高炉セメント、シリカセメント、フライ・アッシュ・セメント、等の1または2以上が使用できる。
【0006】
骨材としては、川砂、山砂、海砂、珪砂、硅石粉、無機系人工骨材等の細骨材が使用される。その使用量は特に限定されないが、通常のモルタルやコンクリートに使用される程度配合すれば良く通常セメント100重量部に対し100?300重量部である。また粗骨材や有機系人工骨材も使用できるが、その際は、セメントエポキシ樹脂粉粒体の製造時に用いずに、粉粒体製造後や施工現場で配合する方が好ましい。
【0007】
液状エポキシ樹脂としては常温で液状のもので、一般的なビスフェノール型や反応性希釈剤として低分子量グリシジル化合物を含むものや、更にイソプロピルアルコールのような水溶性溶剤を添加することもできる。液状エポキシ樹脂に界面活性剤を加えて水に乳化分散する性質を付与すると使用時に水との混和性が向上する利点がある。また、本発明では常温で流動性を示すものを使用する。液状である理由は、前述のように骨材と液状エポキシ樹脂を混合した際に、骨材表面を均一に湿潤させるためである。使用する量は、セメント100重量部に対し3?100重量部で、3重量部より少ないと、粉塵を防止することが出来ず、また100重量部より多いと骨材表面を過剰に湿潤させセメントが付着した後でも粒子が湿潤して団塊状となる。
【0008】
他の一材であるエポキシ樹脂の硬化剤としては、アミノ基を有する親水性の硬化剤で、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対しその20?100%の活性水素を有する量を使用する。この硬化剤は、セメント混練に必要とされる水で希釈しておくことも可能である。所望により、消泡剤、減水剤、粘度調整剤、保水剤、無機系混和剤、着色顔料などが使用できる。これらのうち、粉体のものはセメントエポキシ粉粒体に配合でき、液体のものや水に溶解、分散可能なものは、水希釈した硬化剤に配合しておくこともできる。これら添加剤は、量も比較的少なく計量も手間であるから、セメントエポキシ粉粒体や水希釈した硬化剤に積極的に配合したほうが良い。
【0009】
【実施例】
実施例1
珪砂4号 900重量部
珪砂7号 450重量部
ベッコポックスEP128 30重量部
(ドイツ ヘキスト社製 自己乳化型液状エポキシ樹脂主剤 粘度600?750cps)を混合し、
普通ポルトランドセメント 450重量部
を加え混合する。得られたものは、粉粒体となった。次に、
ベッコポックスEH623w 30重量部
(ドイツ ヘキスト社製 アミン系エポキシ樹脂硬化剤)
水 150重量部
を加え混練し養生してセメント硬化体とした。混練中、粉粒体からは粉塵が発生せず良好な作業性であった。
【0010】
実施例2
ベッコポックスEP122wに変えてベッコポックスEP128(ドイツ ヘキスト社製 液状エポキシ樹脂主剤 粘度700?1000cps)を使用した以外は実施例1と同様にした。この実施例は、混練中に粉粒体から粉塵が発生せず良好な作業性であった。
【0011】
実施例3
ベッコポックスEP128に変えてベッコポックスEP140(ドイツ ヘキスト社製 液状エポキシ樹脂主剤 粘度8000?11000cps)を使用した以外は実施例1と同様にした。この実施例は、混練中に粉粒体から粉塵が発生せず良好な作業性であった。
【0012】
比較例1(粉粒体とせずに混練した例)
珪砂4号 900重量部
珪砂7号 450重量部
普通ポルトランドセメント 450重量部
を混合し、
ベッコポックスEP128 30重量部
ベッコポックスEH623w 30重量部
水 150重量部
を配合して混練した。この例は、混練時に著しく粉塵が発生した。
【0013】
比較例2(混合する順序を変えた例)
ベッコポックスEP128 30重量部
普通ポルトランドセメント 450重量部
を混合し、
珪砂4号 900重量部
珪砂7号 450重量部
を加え混合する。得られたものは、粉粒体とならず団塊状となった。次に、
ベッコポックスEH623w 30重量部
水 150重量部
を加え混練し養生してセメント硬化体とした。混練は団塊状のため非常に困難であった。
【0014】
比較例3(使用するエポキシ樹脂の量が少ない例)
珪砂4号 900重量部
珪砂7号 450重量部
ベッコポックスEP128 10重量部
を混合し、
普通ポルトランドセメント 450重量部
を加え混合する。得られたものは、粉粒体と粉末の混在するものであった。次に、
ベッコポックスEH623w 30重量部
水 150重量部
を加え混練し養生してセメント硬化体とした。混練中、粉粒体からは粉塵が発生した。
【0015】
【発明の効果】
従来三材以上の包装であったものが二材とすることが可能で、これにより商品の包装在庫および輸送を含め管理が軽減される。施工現場での配合ミスによるトラブルが避けられる。硬化材に混練時に必要な水を加えておけば、二材だけで他は、加える必要がない。さらに施工現場での混和時に粉塵が発生しない。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-10-24 
結審通知日 2006-10-27 
審決日 2006-11-16 
出願番号 特願平6-254075
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (C04B)
P 1 113・ 113- ZA (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塩見 篤史  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 松本 貢
増田 亮子
登録日 2003-11-28 
登録番号 特許第3497579号(P3497579)
発明の名称 エポキシセメント組成物とその製造方法  
代理人 小山 方宜  
代理人 面谷 和範  
代理人 平山 孝二  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 箱田 篤  
代理人 面谷 和範  
代理人 小川 信夫  
代理人 福島 三雄  
代理人 小山 方宜  
代理人 向江 正幸  
代理人 向江 正幸  
代理人 浅井 賢治  
代理人 福島 三雄  

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