• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
管理番号 1152385
審判番号 無効2006-80052  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-29 
確定日 2007-01-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2991526号発明「トレイ包装体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2991526号の請求項1および2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2991526号に係る発明についての出願は、平成3年4月16日に特許出願されたものであって、平成11年10月15日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成18年3月29日に請求人旭化成ライフ&リビング株式会社より無効審判の請求がなされ、平成18年6月30日に被請求人株式会社クレハより答弁書及び訂正請求書が提出され、平成18年8月18日に請求人より弁駁書が提出され、さらに平成18年10月25日に被請求人より答弁書(第2回)が提出されたものである。

2.訂正について
(1)訂正請求の内容
被請求人が請求する訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1中の記載「その多層フィルムの構成が、(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、かつ、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものである」を、
「その多層フィルムの構成が、(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置され、かつ、
(d)前記ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであり、」と訂正する。

訂正事項b:特許請求の範囲の請求項1中の記載「前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、」を、
「(1)前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、」と訂正し、
かつ、特許請求の範囲の請求項1中の記載「熱収縮性多層フィルムであることを特徴とするトレイ包装体。」を、
「(2)前記トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物を包む該熱収縮性多層フィルムが、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部および前後縁部にてヒートシールされ、そして、
(3)該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されていることを特徴とするトレイ包装体。」と訂正する。

訂正事項c:本件明細書の段落【0004】中の記載「本発明は、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がガスバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムにより包まれており、」を、
「本発明は、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がガスバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムにより包まれており、その多層フィルムの構成が、
(a)外表面および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置され、かつ、
(d)前記ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであり、」と訂正する。

訂正事項d:本件明細書の段落【0004】中の記載「このフィルムがトレイの底部ならびに縁部でヒートシールされていることを特徴とするトレイ包装体である。」を、
「このフィルムがトレイの底部ならびに縁部でヒートシールされている、すなわち、前記トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物を包む該熱収縮性多層フィルムが、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部および前後縁部にてヒートシールされ、そして、該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されていることを特徴とするトレイ包装体である。」と訂正する。

(2)訂正の可否に対する判断
上記訂正事項aは、多層フィルムに関し、その具体的な構造についてさらに限定するものであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

上記訂正事項bは、トレイ包装体に関し、その具体的な構造について限定するものであるから、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

上記訂正事項c及びdは、上記訂正事項a及びbによる訂正に伴い、それに対応させるために明細書中の記載を明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

したがって、平成18年6月30日付けの訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件特許請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1及び2に係る発明(以下、「特許発明1」、「特許発明2」という。)は、明細書の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、
(1)前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置され、かつ、
(d)前記ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであり、
(2)前記トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物を包む該熱収縮性多層フィルムが、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部および前後縁部にてヒートシールされ、そして、
(3)該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されていることを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】 多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。」

4.請求人及び被請求人の主張の概略
(1)請求人の主張
請求人の主張は、以下の通りである。
本件の請求項1及び2に係る特許発明は、本件特許出願の日前に頒布された甲第1号証ないし甲第5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証 特開昭61-228955号公報
甲第2号証 PACKAGING DIGEST誌、1990年9月号、
第50頁と第52頁、ADELTA PUBLICATION 社発行
甲第3号証 特開平1-160639号公報
甲第4号証 特開昭58-20663号公報
甲第5号証 特開平2-187441号公報

(2)被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
本件の請求項1及び2に係る特許発明は、本件特許出願の日前に頒布された甲第1号証ないし甲第5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.甲第1ないし5号証の記載事項
(1)甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.「ポリアミド樹脂層、及び・・・エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物層を含む積層熱収縮性フィルムに於いて、両最外層を疎水性樹脂により構成し・・(中略)・・収縮応力が縦、横各方向ともに常に30g/cm以上で・・・である積層熱収縮性フィルム。」(特許請求の範囲第1項)

イ.「疎水性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、・・・である特許請求の範囲第1項記載の積層熱収縮性フィルム。」(特許請求の範囲第1項)

ウ.「本発明の積層熱収縮性フィルムは、熱収縮包装用に利用されるもので、主として加工肉の包装、特に焼豚の塊等の包装に好適に利用され得るものである。」(「産業上の利用分野」の欄の1行?4行)

エ.「焼豚等、加工肉の熱収縮性包装には、機械的強度や酸素遮断性の面からポリアミド樹脂層を有する積層熱収縮性フィルムや、酸素遮断性の特に優れたエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下EVOHと称す。)層を有する積層熱収縮性フィルム等が好んで用いられている。又、これらの両層を合わせ持つ積層熱収縮性フィルムを用いると、より望ましい結果を得る事ができる。・・・。尚、最内層としては、ヒートシール性を有する樹脂である事が必要であるので、ポリエチレン樹脂を用いるのが一般的である。」(「従来の技術」の欄の12行?26行)

オ.「本発明は機械的強度に優れたポリアミド樹脂層や、酸素遮断性に優れたEVOH層を有する積層熱収縮性フィルムにより、焼豚の塊等、主として加工肉を熱収縮包装する場合において、・・・積層熱収縮性フィルムを得る事を目的とするものである。」(「発明が解決しようとする問題点」の欄の1行?4行)

カ.「焼き豚の塊等、主として加工肉の熱収縮包装は真空包装や長距離輸送等を行なう事から、該熱収縮包装に使用される熱収縮性フィルムとしては、機械的強度に優れたものが好ましい。この事から、機械的強度に優れたポリアミド樹脂を少なくとも1つの層構成とした積層熱収縮性フイルムが望ましい。・・・熱収縮包装された内容物である加工肉等の保存性を向上させるために、酸素遮断性の樹脂層を少なくとも1つの層構成とする積層熱収縮性フィルムを用いる事が必要である。そして、その様な酸素遮断性樹脂としては酸素遮断性の優れているEVOHを用いるのが望ましい。」(4頁右下欄1行?15行)

キ.「積層熱収縮性フィルムのポリアミド樹脂層、及び/又は、EVOH層の吸湿性を押える両最外層の疎水性樹脂としては、透湿度の低い樹脂である事が必要である事は勿論、熱収縮包装時にヒートシール加工される事から、少なくとも一方の最外層はヒートシール性を有する樹脂である事が必要である。この様な疎水性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂・・・が望ましい。」(4頁右下欄最下行?5頁左上欄8行)

ク.「所が、該多層シート製造に於いて、ポリアミド樹脂層やEVOHはポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、或いは、エチレン一酢酸ビニル共重合体樹脂等とは溶融接合しない。そこで、極性基をグラフト共重合させた変性ポリエチレン樹脂、変性ポリプロピレン樹脂、又は変性エチレン一酢酸ビニル共重合体樹脂等を用いるか、或いはこれら変性樹脂を介して前記樹脂を用いる。」(5頁右上欄4行?12行)

ケ.「本発明の積層フィルムは、焼豚等、加工肉の熱収縮包装用のみではなく、生肉の熱収縮包装用や、他の食品等の熱収縮包装用に利用した際にも、そのすぐれた性能を発揮するものである。」(5頁右下欄16行?20行)

コ「該積層熱収縮性フィルムの構成は、最外層より変性ポリエチレン樹脂層、ポリアミド層、EVOH層、そして、変性ポリエチレン樹脂層であり」(「実施例1」の13行?15行)

サ.「この様にして得られた積層熱収縮性フィルムを用いて製造された袋で焼き豚の塊を真空包装し、80℃の熱水中で20分間加熱収縮と殺菌を行う包装試験と、その後の経時変化を調べた。その結果、該熱収縮包装体は・・・自然状態に1カ月放置していても、・・・内容物の豚肉の塊は何等変質しておらず、優れた保存性を示していた。」(「実施例1」の6頁右上欄2行?13行)

(2)甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
シ.「フィルムの収縮性とバリア性の特性により、カロリナ社は、各トレイを改良されたガス充填型パッケージとすることができた。・・・カロリナ社の現在のパッケージは、1ポンドの新鮮な七面鳥肉の塊で、10日間の販売可能期間(shelf life)を有する。」(50頁10行?24行の和訳)

ス.「(従前の)製品は、現在と同じ発泡ポリスチレンフォームのトレイを用いていたが、包装に用いられたフィルムは、透過性で非バリア性のものだった。」(50頁31行? 39行の和訳)

セ.「この問題をフィルムベンダーであるクリオバック社と議論する中で、カロリナ社は、収縮性とバリア性とを兼ね備えた新しいクリオバックフイルムBDF-2050を知った。」(50頁76行?85行の和訳)

ソ.「パッケージが連続包装機から出てくると、フィルムは密封シールされているが、まだトレイに密着はしていない(上左図)。直後にパッケージが熱収縮トンネルを通って魅力的なパッケージとなる(50頁上右図)。」(上左図と上右図の説明の和訳)

タ.「ロールから供給されたフィルムは、トレイにいれた肉のまわりをくるんで、トレイ底部でヒートシールされる(右図)」(50頁右下図説明文の和訳)

チ.「往復運動するシールヘッド(上図)が、密封シールを確実にするために制御された時間と温度と圧力の下に、シールを行う。」(50頁中央図説明文の和訳)

ツ.50頁中央図および左上図から、包装体の前後縁部がシールされていることがわかる。

テ.「小売業者が、それが製造されてから二日後にそのトレイを冷蔵ケースに入れたか、あるいは十日後入れたかには関わりなく、それはまだ良好に見えた、とジョンソンは述べた。」(52頁1列め3行?6行の和訳)

ト.「クリオバックス社のローリス氏によれば、カロリナ社によって使用された物は、全体厚みが1ミルで酸素透過度が5cc/m2/24hr の共押出成形品(a coextrusion)である。それはまた、樹脂を配合する際にブレン ドされた防曇剤(antifog properties)が組み込まれている。」(52頁2列め23行?28行の和訳)

ナ.「底面シーリングシステムは、制御された熱と圧力を指定された時間加えて、発泡体トレイの底面に縦方向のシールを設ける。」(52頁3列め18行?20行の和訳)

ニ.「両端のシールは、連続的に移動するトレイに対して前後に動くシーリングヘッドによりなされる。それは1つの包装体の後端のシールと、続く次の包装体の先端のシールを同時に行う。」(52頁3列め30行?34行の和訳)

(3)甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ヌ.「少なくとも両表面層が、・・・から成り?かつ全重量に基づき非イオン性界面活性剤0.3?0.5重量%を含有する組成物の延伸体で構成されていることを特徴とする・・・ポリオレフィン系樹脂包装フィルム。」(特許請求の範囲)

ネ.「本発明フィルムにおいては少なくとも前記組成物中に全重量当たり0.3?5.0重量%の非イオン性界面活性剤を含有することが必要である。この非イオン性界面活性剤は、通常の防曇性賦与の効果に加えて・・・。この非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビタン・・・などの多価アルコールの脂肪酸エステル及びエチレンオキシド付加物、・・・ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが用いられ」(3頁右下欄17行?4頁左上欄17行)

(4)甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ノ.「前記樹脂100重量部に対し0.1?4.5重量部の防曇剤を添加してなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の包装用ストレッチフィルム。」(特許請求の範囲第2項)

ハ.「防曇剤としてはソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、・・・等が例としてあげられる。」(2頁右下欄20行?3頁左上欄3行)

(5)甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ヒ.「界面活性剤を添加したフィルムであって、・・・防曇性に優れた熱収縮性ポリプロピレン系フィルム。」(甲第5号証、特許請求の範囲第1項)

フ.「前記のポリプロピレン系樹脂に添加する界面活性剤(防曇性)は、・・・多価アルコール脂肪酸エステル・・・を用いる」(2頁左下欄12行?右下欄1行)

6.対比・判断
[本件特許発明1について]
本件特許発明1と甲第1号証記載のものとを比較する。
甲第1号証に記載された積層熱収縮性フィルムは、熱収縮包装用に利用されるもので、主として加工肉の包装、特に焼豚の塊等の包装に好適に利用され得るものであり(記載事項ウ)、そのフィルムの構成は、最外層より変性ポリエチレン樹脂層、ポリアミド層、EVOH層、そして、変性ポリエチレン樹脂層であり(記載事項コ)、最外層および最内層の変性ポリエチレン樹脂層はヒートシール性を有する樹脂であり(記載事項キ)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は酸素遮断性に優れている(記載事項カ)、ものである。
そして、ポリエチレンはポリオレフィンの一種であり、酸素遮断性に優れていることはバリヤー性に優れていることである。また、甲第1号証に記載された積層熱収縮性フィルムは、加工肉等の内容物を包装し、熱収縮を行い、熱収縮包装体とするものであるから(記載事項サ)、これらの点を考慮して、本件特許発明の用語を用いて、本件特許発明1と甲第1号証記載のものとを比較すると、両者は
「内容物がフィルムにより包まれている包装体であって、
(1)前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置されているものであり、
(3)該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されている包装体。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は、包装されるものはトレイならびにこのトレイ上に設置された内容物であるのに対し、甲第1号証記載のものは、包装されるものが内容物のみであって、トレイについては記載がなされていない点。

相違点2:本件特許発明1は、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているのに対し、甲第1号証記載のものは、フィルムの最外層がヒートシール性の樹脂層であるから、包装の際にヒートシールされるものではあるが、その具体的な態様については記載がない点。

相違点3:本件特許発明1は、ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているのに対し、甲第1号証記載のものは、接着剤を用いることについて明確な記載はない点。

上記各相違点について検討する。
相違点1について。
甲第2号証には、フィルムは、トレイにいれた肉のまわりをくるんで、トレイ底部でヒートシールされるとの記載があり(記載事項タ)、甲第2号証50頁の写真からもトレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれていることは明らかである。
そして、食品等を包装するに際し、食品のみを包装することも食品をトレイに載せて包装することもいずれも公知の事項であり、熱収縮性多層フィルムによる包装技術を考慮する際に、技術分野が異なるものとして判断しなければならないほどの、格別の理由があるものとは認められない。
してみれば、甲第1号証に記載の発明において、肉等の内容物のみをフィルムで包装することに代えて、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物をフィルムで包装して包装体とすることに何ら困難性は認められず当業者が容易になし得たことである。

相違点2について
甲第2号証に「ロールから供給されたフィルムは、トレイにいれた肉のまわりをくるんで、トレイ底部でヒートシールされる」(記載事項タ)との記載及び第50頁の写真より明らかなように、フィルムによって包装する際に内容物たるトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールを行うことは公知の事項であるから、甲第1号証に記載の発明においてもこのような包装を行うことは当業者が容易になし得ることである。

相違点3について。
本件特許発明では、ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであるが、積層体を製造する際に接着剤を必要に応じて用いることは周知の事項であるし、甲第1号証においても、ポリアミド樹脂層やEVOHはポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等とは溶融接合しないため、他の樹脂を介して多層シートを製造する旨の記載があり(記載事項ク)、ポリアミド樹脂層やEVOHとポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等との間に介して用いられる樹脂は接着のための機能を果たしていることは明らかである。
そして、本件特許発明では、ポリオレフィン樹脂からなるヒートシール性樹脂層の内側には、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層やポリアミド(PA)樹脂層が配置されているのであるから、ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層を配置することは当業者が容易になし得ることにすぎない。

[本件特許発明2について]
本件特許発明2と甲第1号証記載のものとを比較すると、両者は本件特許発明1の対比判断において記載したのと同じ点で一致しており、上記相違点1から3に加えて、次の相違点4で相違する。

相違点4:本件特許発明2は、多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいるのに対し、甲第1号証記載のものは、この点について記載がない点。

上記各相違点について検討する。
相違点1から3については、本件特許発明1についての判断で示したとおりであるので、相違点4について検討する。

相違点4について。
食品等を包装する包装用のフィルムに防曇剤を含有させることは、甲第3から5号証に記載されているように周知の事項であり、また、内容物に接する層に含有させることについても、甲第3号証には、防曇性賦与効果のある非イオン性界面活性剤を表面層に含有させることが記載されているのであるから、多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含ませることに何ら困難性は認められず当業者が容易になし得たことである。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1および2は甲第1から5号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1および2は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トレイ包装体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がフィルムにより包まれており、フィルムがトレイの底部ならびに縁部にてヒートシールされているトレイ包装体であって、
(1)前記フィルムは、バリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムであって、
その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置され、かつ、
(d)前記ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであり、
(2)前記トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物を包む該熱収縮性多層フィルムが、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部および前後縁部にてヒートシールされ、そして、
(3)該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されている
ことを特徴とするトレイ包装体。
【請求項2】多層フィルムの少なくとも内容物に接する層が、防曇剤を含んでいる請求項1記載のトレイ包装体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、食品などがトレイ内に設置された状態でトレイと共にフィルムにより包まれているトレイ包装体に係り、特にバリヤー性のフィルムを使用したトレイ包装体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、畜肉加工品、生肉、鮮魚、生菓子などが、発泡ポリスチレン(PSP)製などのトレイに設置され、これらの内容物とトレイとがフィルムにより包まれたトレイ包装体が使用されている。従来のこの種のトレイ包装体に使用されているフィルムとしては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリブタジエンなどのストレッチフィルムが使用されている。このトレイ包装体の包装形態としては、トレイならびに内容物に対し上方からフィルムがかぶせられ、このフィルムの縁部がトレイの底部にて互いにオーバラップした状態に畳まれている。そしてフィルムに包まれた状態のトレイがホットテーブル上に送られ、トレイの底部に重ねられたフィルムがホットプレートにて加熱され、フィルムの縁部どうしが互いに熱圧着された状態になっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来のこの種のトレイ包装体では、包装用フィルムとして前述のポリ塩化ビニル、ポリエチレンなどのように酸素や水蒸気に対するバリヤー性に欠ける樹脂フィルムが使用されており、さらにトレイ底部におけるフィルムのオーバラップ部分がホットテーブルにより弱く熱圧着されているだけであるため、気密性の劣るものとなっている。よって従来のトレイ包装体では食品などの長期間の保存に適せず、内容物の日持ちが悪く、またある程度日数を経ると内容物の変質や目減りが生じるなどの不都合がある。特に従来のトレイ包装体に使用されているフィルムは酸素に対するバリヤー性がないため、内容物と共に脱酸素剤を入れたとしても、内部の酸素濃度を低下させることはできない。そのため従来のこの種のトレイ包装体は、日配食品などのように保存性を要しない分野においてのみ使用されている。本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、気密性に優れ、食品などの日持ちをよくし、また脱酸素剤を封入することもでき、従来の日配食品以外の保存食品にも適用できるトレイ包装体を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物がガスバリヤー性樹脂層とヒートシール性樹脂層とを含む熱収縮性多層フィルムにより包まれており、その多層フィルムの構成が、
(a)外表層および/または内表層としてポリオレフィン(PO)樹脂からなるヒートシール性樹脂層が配置され、
(b)芯層としてエチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなるバリヤー性樹脂層が配置され、
(c)前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が配置され、かつ、
(d)前記ヒートシール性樹脂層に接してその内側に接着剤層が配置されているものであり、このフィルムがトレイの底部ならびに縁部でヒートシールされている、すなわち、前記トレイならびにこのトレイ上に設置された内容物を包む該熱収縮性多層フィルムが、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部および前後縁部にてヒートシールされ、そして、該熱収縮性多層フィルムが熱収縮されていることを特徴とするトレイ包装体である。
【0005】
多層フィルムの構成は、ガスバリヤー性樹脂層が、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂で、ヒートシール性樹脂層がポリオレフィン(PO)樹脂である。すなわちガスバリヤー性樹脂層となるEVOH樹脂は、これ単独ではヒートシール性が劣るため、ヒートシール層を別に設けている。また、包装される内容物特にトレイとフィルムとが密着していることが包装品の外観をよくすることになり、よって熱収縮性の多層フィルムが使用されている。さらに、多層フィルムの、少なくとも内容物に面する層に、防曇剤を含有させることが好ましい。
【0006】
本発明では、ガスバリヤー性樹脂層と、ヒートシール性樹脂層とを含み且つ熱収縮性を付与された多層フィルムを使用し、この多層フィルムによりトレイならびに内容物を包装したいわゆるピロー包装の形態としている。このピロー包装の形態は、トレイならびに内容物を多層フィルムによりピロー包装機で包装して、前記ヒートシール性樹脂層により、トレイの底部ならびに縁部にて多層フィルムどうしをヒートシールすることにより気密性を高める。さらにシール完了後に、多層フィルムを熱収縮させたものである。
【0007】
ここで、フィルムのヒートシール強度は800g/15mm以上、好ましくは1000g/15mm以上が望ましい。ヒートシール強度が800g/15mmに満たないと熱収縮時にシール部からやぶれが生じることがある。また、フィルムの熱収縮率は、90℃、3秒でフィルムの長手方向及び横手方向共に20%以上、好ましくは25%以上が望ましい。
【0008】
エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層は、酸素バリヤー性を具備しているため、外気を遮断でき、内容物の保存性を高めることができる。またポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層を含み且つ熱収縮性が付与された多層フィルムを使用し、トレイの底部ならびに縁部にてヒートシール層どうしをヒートシールした後に加熱室(シュリンクトンネル)を通過させて多層フィルムを熱収縮させたピロー包装体の形態としているため、多層フィルムとトレイとが密着して密閉性のよい包装体となる。また少なくとも多層フィルムの内容物と面する層に防曇剤を含ませることにより、冷蔵庫から取り出した後に水滴による曇りが生じることがなく、外観の良好な包装体を得ることができる。
【0009】
本発明によるトレイ包装体は、従来のものと異なり酸素バリヤー性を具備しているものであるため、脱酸素剤を入れることにより内部の酸素濃度を低下させることができる。またトレイを多層フィルムにて包む際に、その内部をガス置換することにより、内部の雰囲気を望ましい組成に長時間維持できるようになる。よってポリ塩化ビニルなどを使用した従来のトレイ包装体では予期し得ないような格段の鮮度保持が可能となる。
【0010】
以下本発明の構成を詳細に説明する。
(多層フィルムの構成)
本発明では、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)をバリアー層(芯層)とし、ポリオレフィン(PO)樹脂をヒートシール層(外表層および/または内表層)とした熱収縮性を有する多層フィルムを使用している。
【0011】
1)芯層となるEVOHとしては、一般に市販のエチレン含有量が29?44モル%、ケン化度が99%以上のEVOHまたはその変性品を使用し得るがこれに限定されるものではない。
【0012】
2)外表層または内表層となるポリオレフィン(PO)樹脂としては、一般に押出グレードの低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などが適宜使用可能である。
【0013】
3)また、強度保持のために、前記芯層と共に内層としてポリアミド(PA)樹脂層が使用されるが、このポリアミド樹脂としては、公知の脂肪族PA、例えば6-Ny、6-66Nyの共重合体、6-12Nyの共重合体、または6-66Nyと6-12Nyとの共重合体、芳香族PA例えばSelarPA(デュポン社製)などで、これらの単一またはポリマーアロイ(ブレンド物)が用いられる。
【0014】
4)さらに、上記1)から3)の各層からなる多層フィルムを共押出しするに当たり、公知の接着剤層が適宜用いられる。本発明の第1の形態の多層フィルムの具体的な構成例としては、外表層(包装体の外に向く面)から内表層(内容物に向く面)へ順に、
a)EVA/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
厚さは例えば順に(3/1.5/6/4/1.5/14)(単位はμm)
b)VLDPE/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPE
厚さは例えば順に(3/1.5/6/4/1.5/14)(単位はμm)
などである。また耐熱性を要求される場合は、外表層または内表層の少なくとも一方のEVAやVLDPEに置き代えて、耐熱性、透明性の優れたポリエステル(PET)、コ-ポリエステル(CO-PET)を適宜用いることができる。さらに、内表層(内容物に面する層)となるEVAやVLDPEなどに、曇りを防止する為に防曇剤を添加することが好ましい。
【0015】
この防曇剤は市販のものでいわゆる防曇剤または防滴剤と称されるものであり、内層のポリオレフィン樹脂との相溶性があるものが使用される。その例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、特殊多価アルコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加物(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)などの中から適宜選ばれたもの、またはそれらの混合物などが用いられる。なお防曇剤としてはこれらに限られるものではない。
【0016】
防曇剤の使用量(添加量)は対樹脂で0.05?3重量%程度が一般に用いられるが、防曇効果を得るために適宜調整できる。一般的には、防曇剤の添加量として対樹脂で0.05重量%より少ないと、十分な防曇効果は得られず、対樹脂で3重量%よりも多いと防曇剤がブリードするおそれが生じ、フィルムの外観、特に高級感が失われる。
【0017】
本発明に使用される前記の多層フィルムは、公知のインフレーションプロセスまたはバブルプロセスと呼ばれる工程にて製造される。本発明のトレイ包装体に使用される多層フィルムの各層の厚さは前述のとおりであるが、フィルム全体の厚さとしては15?80μm程度のものであり、最も好ましい厚さは20?40μm程度である。
【0018】
(使用するトレイ)
本発明のトレイ包装体に使用されるトレイは、従来から使用されているものであり、例えば発泡ポリスチレン(PSP)トレイ、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)トレイ、延伸ポリスチレン(OPS)トレイ、ポリプロピレン(PP)トレイなどである。
【0019】
(使用する脱酸素剤)
脱酸素剤を内容物と共に包装する場合に、脱酸素剤としては、例えば三菱瓦斯化学株式会社製の「エージレス」(登録商標)、や日本曹達株式会社製の「セキュール」(登録商標)などが用いられる。
【0020】
(包装体の製造方法)
本発明のトレイ包装体の製造方法はいわゆるピロー包装であり、完成した状態では、図5に示すように、内容物11が乗せられたトレイ10が前記の多層フィルムFにより包まれ、ヒートシール層によりトレイ底部にて多層フィルムどうしがセンターシール(S1で示す)され、さらにトレイ10の縁部がヒートシール(S2で示す)され、加熱工程により多層フィルムFが熱収縮されたものである。
【0021】
図6は、市販のピロー自動包装機の構造の概略を示し、図1から図4まではこの自動包装機による包装工程を順に示している。まず図6において(A)で示すように、荒挽きロングウインナーソーセージなどの内容物11が入れられたトレイ10(図1参照)が搬送コンベア21により送りこまれる。次に図6に示す原反Rから前記多層フィルムFが引出され、図1に示すようにトレイ10上に多層フィルムFが被せられる。図6の(B)で示す位置では、トレイ10とフィルムFが共に矢印方向へ送られ、図2に示すように、フィルムFの幅方向両縁部F1とF2がガイド部材により導かれて合掌(Fin)状態に合わされ、さらに図3に示すように、ロータリーシーラー22によりトレイ10の底部にて前記縁部F1とF2がセンターシール(S1で示す)される。その後図6における(C)の位置にて、多層フィルムFの前後の縁部F3とF4がエンドシーラ23と24により溶着され且つ溶断される。この溶着状態は図4に示す。なお溶着後に切断するカッターをエンドシーラ23、24と別個に設けてもよい。これにより図5に示すように、トレイの前後縁部にて多層フィルムFがエンドシール(S2で示す)される。さらに図6において25で示す加熱室へ送られ、多層フィルムFが熱収縮されて多層フィルムFがトレイ10に密着する。
【0022】
以上の工程で、図5に示すように、EVOH樹脂とPO樹脂との多層フィルムを使用したトレイ包装体が完成する。なお、前記シール線S1とS2を形成する際に、フィルムF内の空気抜きを行なってもよい。このようにしてフィルムFの縁部を溶着したトレイ包装体は、内部が完全に密閉されたものとなる。よって内容物11と共に前記脱酸素剤を入れることにより、内部の酸素濃度を低下させることができる。また上記の包装工程において、包装体内部の空気を保護ガス(用途によって変わるが、例えば窒素などを主体とするガス)と置換することも可能である。
【0023】
上記において説明したピロー包装の構造では、図3ならびに図5に示すように、多層フィルムFの縁部F1ならびにF2および多層フィルムの前縁F3と後縁F4をトレイに近い位置にてヒートシールしているが、多層フィルムの各縁部をトレイ10から離れた位置にてヒートシールしてS1とS2で示すシール部を形成し、このシール部ならびにトレイから延びているフィルムをトレイ底部に折りたたむようにしてもよい。
【0024】
【実施例】
以下本発明の実施例を説明する。以下の実施例-1から実施例-6では、EVOH樹脂をガスバリヤー層とし、PO樹脂をヒートシール層とした多層フィルムを使用した。
【0025】
(実施例-1)
(1)使用したフィルム
本実施例に使用したフィルムは、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂をガスバリヤー層とするポリオレフィン(PO)樹脂との多層フィルムからなる二軸延伸フィルムである。具体的には呉羽化学工業株式会社製の「HT-10」(商品名)で、厚さ30μmの多層フィルムを使用した。この多層フィルムの構成ならびに各層の厚さは以下のとおりである。
【0026】
まず層の構成は外表層から内表層に向かって順に、
EVA/接着性樹脂/PA/EVOH/接着性樹脂/VLDPEで、各層の内容は、
EVA:(VAC含有量7.5%)
PA:(6-66Ny共重合体と6-12Ny共重合体の7:3ブレンド品)
EVOH:エチレン含有量47モル%
VLDPE:比重0.905、融点121℃
接着性樹脂:EVA(VAC含有量9%)
であり、その各層の厚さは順に、
3/1.5/8/4/1.5/14(単位はμm)
合計30μmである。
この多層フィルムの内表層となるVLDPE(上記の最右部に記載されたもの)には、防曇剤としてジクリセリンモノオレートを0.6重量%を添加した。なお、多層フィルムの物性は次の表1の通りである。
【0027】
【表1】
(厚み)30μm(多層フィルム)
(酸素透過度)ASTM-D-1434.66による酸素透過度(気温30℃、相対湿度100%)は、120cc/m2・24hr・atm
(透湿度)ASTM-E-96-66による透湿度(気温40℃、相対湿度90%)は、20g/m2・24hr
(熱水収縮率)100℃の沸水内3秒での収縮率は30%(縦、横)
(2)使用したトレイ
市販の発泡ポリスチレン(PSP)トレイを使用した。サイズは(190mm×117mm×14mm)である。
(3)使用した脱酸素剤
日本曹達株式会社製の商品名「セキュールex」(登録商標)を使用した。
(4)内容物
製造直後の荒挽きロングウインナーソーセージ(直径1.7cm、長さ17?19cm)を8本使用した。
(5)包装形態
【0028】
前記トレイに内容物(荒挽きロングウイナーソーセージを8本)ならびに前記脱酸素剤を入れ、図6に示したような市販のピロー包装機を使用し、図1から図5に示したのと同じ工程でピロー包装によるトレイ包装体を製造した。完成した包装体は図5に示したとおりである。多層フィルムによる包装が完了した後に、130℃、5秒で加熱室(シュリンクトンネル)25を通過させて、フィルムを収縮させた。
【0029】
(比較例)
比較例としては、実施例-1と同じトレイに同じ内容物を入れ、ポリエチレンストレッチラップフィルムにより包装した。また実施例-1と同じ脱酸素剤を入れた。この比較例において使用した前記ポリエチレンストレッチラップフィルムの物性は次の表2に示す通りである。
【0030】
【表2】
(厚み)15μm(単層フィルム)
(酸素透過度)
ASTM-D-1434.66による酸素透過度(気温30℃、相対湿度65%)は、1.1×104cc/m2・24hr・atmであった。
(透湿度)
ASTM-E-96-66による透湿度(気温40℃、相対湿度90%)は、52g/m2・24hrであった。
(評価方法)
前記実施例-1ならびに比較例の各トレイ包装体(包装試料)に対して保存テストを実施した。この保存テストでは、各包装試料を、蛍光灯(1300Lux)の下(直下100cm)で10℃の温度にて保存し、以下の各評価を行なった。
(評価項目)
(1)褪色:
肉眼で褪色度合いを比較した。
(2)包装体内部の酸素濃度:
東レ株式会社製のジルコニア式酸素分析計を使用して包装体内部の酸素濃度を測定した。
(3)臭い:
開封後直ちに官能によりテストした。
(4)ウインナーソーセージ表面の乾燥度:
ソーセージ表面のシワの発生具合を肉眼で判定した。
(5)落体テスト:
段ボール箱(サイズ:440mm×350mm×100mm)にそれぞれの試料を別々に10個ずつ詰め、それぞれの段ボール箱を76cmの高さから異なる面を下にして3回落下させ、試料の包装フィルムのピンホールの発生の有無を目視で検査した。
(6)防曇性:
各試料を内部温度が5℃の冷蔵庫に貯蔵した後に20℃の外気中に取り出し、そのときのフィルム表面の曇り状態を肉眼で観察した。
各項目の評価結果は以下の表3の通りである。
【0031】
【表3】

【0032】
以上の如く、実施例-1によるトレイ包装体は、比較例のトレイ包装体に比べて、内容物のウインナーソーセージの褪色、臭気、表面の乾燥度などの面で良好であり、また落体強度の点でも強いことが判った。
【0033】
(実施例-2)
内容物を荒挽きロングウインナーソーセージの代りに、スキンレスウインナーソーセージ、スライスロースハム、スライスベーコン、スライスチョップドハムとし、このそれぞれを内容物として、前記実施例-1ならびに比較例と同じ形態のトレイ包装体を製作し、前記と同じ評価方法により同じ項目について評価した。その結果実施例-1の場合と同様の顕著な効果の差が認められた。
【0034】
(実施例-3)
実施例-1と同じフィルムで同じトレイと同じ内容物(荒挽きロングウインナーソーセージ)を包装して、実施例-1と同じ包装形態のトレイ包装体を製造した。ただし本実施例では脱酸素剤を使用せず、ガス置換包装(CAP包装)した。この包装体を製造するにあたっては、実施例-1と同じ市販のピロー包装機を使用し、トレイに多層フィルムをかぶせる際に、その内部にガスフラッシュできるようにした。また比較例としては、実施例-1における比較例と同じフィルムを用いて前記比較例と同じ形態のトレイ包装体を製造し、これについても本実施例と同様に脱酸素剤を入れずに包装内部をガス置換した。
【0035】
この場合の置換ガスの組成は、窒素(N2)/炭酸ガス(CO2)=80/20vol%であり、ガス置換率は実施例-3ならびに比較例共に97%以上であることを確認した。(ここでいうガス置換率とは、東レ株式会社製のジルコニア式酸素分析計によって測定した空間部の酸素量を示し、この酸素量をxVol%として、{(21-x)/21}×100で表わされる。)
【0036】
結果は以下の表4の通りである。表4から判るように、ここでも、比較例であるポリエチレンストレッチラップ品に比較し、実施例-3の包装体は、退色、臭いの他、保存性の点で格段の効果が認められた。
【0037】
【表4】

【0038】
(実施例-4)
内容物をスライスした生肉に変え、実施例-3と同様に内部をガス置換したトレイ包装体を製造した。比較例についても、スライスした生肉を内容物として実施例-3における比較例と同じようにガス置換したトレイ包装体を製造した。この場合の置換ガスの組成は、酸素(O2)/炭酸ガス(CO2)=80/20vol%のものを用いた。トレイは発泡ポリスチレントレイであり、サイズは、180mm×127mm×30mmのものを使用した。内容物となる生肉の量は100g、また包装体内部のガス置換率は97%であった。
この実施例-4と比較例との保存テストの結果は以下の表5の通りである。
【0039】
【表5】

【0040】
(実施例-5)
本実施例では、実施例-1と同じフィルムで同じ包装形態とし、内容物を荒挽きロングウインナーソーセージに代えて、饅頭(生菓子)とした。また比較例としては、実施例-1における比較例と同じ包装形態とし、内容物を饅頭とした。実施例-5ならびに比較例共に脱酸素剤を用い、それぞれのトレイ包装体を20℃で保存テストした。
(内容物)饅頭:6ケ(つぶあん入り)
(脱酸素剤)エージレスS、1ケ
結果は表6の通りである。(EVOHを使用)
【0041】
【表6】

【0042】
本実施例では、特に目減り防止と日持ちに顕著な効果が認められた。
【0043】
(実施例-6)
実施例-3のガス置換の包装形態において、内容物を荒挽きロングウインナーソーセージから鮮魚の切り身に変え、置換ガスの組成を、窒素(N2)/炭酸ガス(CO2)=70/30vol%とした。また比較例も同様にして製造し、それぞれ5℃で保存テストをした。なお、ガス置換率は97%であった。
(内容物)鮮魚の切り身としてハマチ100gを用いた。
結果は表7の通りである。(保存温度5℃)
【0044】
【表7】

【0045】
本実施例では、ハマチの切り身の鮮度保存にも有効である。
【0046】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、トレイ包装体用のフィルムとしてエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂からなるバリヤー層とポリオレフィン(PO)樹脂などのヒートシール層との多層フィルムを使用し、このヒートシール層により多層フィルムを熱溶着したため、従来のトレイ包装体では得られなかった酸素ならびに水蒸気のバリヤー性を期待できるようになり、気密性に優れ長期保存が可能なトレイ包装体を得ることができるようになる。また包装体内部に脱酸素剤を入れ、または包装体内部をガス置換した場合、多層フィルムのバリヤー性により包装体内部の雰囲気を食品などの保存に適した状態に維持でき、食品の日持ちなどが大幅に向上される。よって従来は日配食品などに限られていたトレイ包装体を、ある程度の期間継続して店頭に並べる包装体をして使用できるようになる。
【0047】
さらに、電子線照射や、強度保持層を配することでエチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂をバリヤー層とするポリオレフィン(PO)樹脂を含む多層フィルムは包装体全体の強度を高めることできる。
さらに、少なくとも内表層に防曇剤を含ませることにより、冷蔵後に外気に触れたときにフィルムに水滴による曇が生じなくなり、外観の良好なトレイ包装体を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるトレイ包装体を製作する工程のうちトレイに多層フィルムが被せられた状態を示す斜視図。
【図2】多層フィルムの縁部があわせられる状態を示す斜視図。
【図3】多層フィルムがトレイの底部にてセンターシールされる状態を示す正面図。
【図4】多層フィルムがエンドシールされる状態を示す斜視図。
【図5】ピロー包装が完了したものを示す斜視図。
【図6】ピロー包装工程の一例を示す側面図。
【符号の説明】
10 トレイ
11 内容物
F 多層フィルム
S1 センターシール
S2 ヒートシール(エンドシール)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-11-07 
結審通知日 2006-11-09 
審決日 2006-11-21 
出願番号 特願平3-111076
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 溝渕 良一  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 豊永 茂弘
関口 勇
登録日 1999-10-15 
登録番号 特許第2991526号(P2991526)
発明の名称 トレイ包装体  
代理人 野田 直人  
代理人 野田 直人  
代理人 西川 繁明  
代理人 西川 繁明  
代理人 田中 哲郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ