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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1152788 |
審判番号 | 不服2006-8638 |
総通号数 | 88 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-05-01 |
確定日 | 2007-02-19 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第135192号「異方性希土類磁石粉末および磁気異方性ボンド磁石」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月 8日出願公開、特開平10-326705〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成9年5月26日の出願であって、平成18年3月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月31日付けで手続補正がされたものである。 第2 平成18年5月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年5月31日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】 高温水素熱処理され、異方性(Br/Bs、ただしBsは1.6T(16kG)とした)が0.84?0.86であり、イットリウム(Y)を含む希土類元素(R)を原子百分率で11?15at%と、ホウ素(B)を5?8at%と、1.4?4.8at%のコバルト(Co)と、0.01?0.6at%のガリウム(Ga)および0.01?1.0at%のニオブ(Nb)と、残部が鉄(Fe)と不可避な不純物と、からなることを特徴とする異方性希土類磁石粉末。」(以下、「本願補正発明」という。)と補正された。 2 新規事項について 本願補正発明では、出願当初の請求項9と比べ、コバルト(Co)量を「0?25at%」から「1.4?4.8at%」に補正し、異方性(異方化率)を「0.65以上」から「0.84?0.86」に補正し、さらに、ガリウム(Ga)量を「0.01?1.0at%」から「0.01?0.6at%」に補正している。 そして、表3,4の試料番号14、試料番号15、試料番号17(いずれも、出願当初の試料番号。以下同様。)のCo量と異方化率などを補正の根拠としている。 しかし、試料番号14、15,17の組成以外の(R:11?15,Fe:bal,B:5?8,Co:1.4?4.8,Nb:0.01?1.0,Ga:0.01?0.6)のすべて又は一部の組成において、異方化率:0.84?0.86になるとの発明は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていないし、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載から自明な事項とも認められない。 ゆえに、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 3 独立特許要件について 上記本願補正発明に係る補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項であるガリウム(Ga)量を「0.01?1.0at%」から「0.01?0.6at%」に補正しているので、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)特許法第29条について (ア)原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-278615号公報(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明 刊行物1には、「永久磁石用異方性希土類合金粉末の製造方法」に関して、以下の点が記載されている。 【請求項1】 R:10?20at%(R:Yを含む希土類元素の少なくとも1種で、かつPrまたはNdの1種または2種をRのうち50at%以上含有)、T:67?85at%(T:FeまたはFeの一部を50at%以下のCoで置換)、M:0.01?10at%(M:Ga、Zr、Nb、Hf、Ta、Al、V、Siのうち1種または2種以上)、B:4?10at%である合金鋳塊を破砕して、少なくとも80vol%以上が正方晶構造Nd2Fe14B型化合物からなる平均粒度が0.3mm?50mmの粗粉砕粉または合金塊片となした後、前記粗粉砕粉または合金塊片を原料として、これに下記1)から3)の各工程を順次施した後、冷却して平均結晶粒径が0.05μm?1μmで磁気的に異方性を有する希土類合金粉末を得ることを特徴とする永久磁石用希土類合金粉末の製造方法。 1) 10kPa?1000kPaのH2ガス中で、0℃?600℃で15分以上保持することにより水素粉砕する工程。 2) 同一炉内で連続して600℃?750℃の温度域で昇温速度が10℃/min?200℃/minになるように昇温後、10kPa?1000kPaのH2ガス中で、750℃?900℃で15分?8時間加熱保持し、組織をR水素化物、T-B化合物、T相、R2T14B化合物の少なくとも4相の混合組織となす工程。 3) ArガスまたはHeガスによる絶対圧100Pa?50kPaの減圧気流中もしくは真空排気によって炉内の水素分圧を10kPa以下とし、700℃?900℃の温度範囲で5分?8時間の保持をする脱H2処理工程。 【0012】この発明は、上述のR-T-(M)-B系永久磁石用希土類合金粉末を水素化処理法により製造する方法において、原料の取扱い量が多く、原料の取扱並びに処理が容易であり、処理による異方化度の低下がなく、優れた磁気特性、特に高い異方性を有する異方性希土類合金粉末を得る製造方法の提供を目的としている。 【0017】添加元素Mの効果は、水素化時に母相の分解反応を完全に終了させずに、母相すなわちNd2Fe14B相を安定化して故意に残存させるのに有効な元素が望まれる。特にこの効果を持つものとして、Ga、Zr、Hf、Nb、Ta、Al、V、Siがある。また、このうちGa、Zr、Hf、V、Siは、脱H2処理時の再結晶粒を0.1?1μmのサイズにまで成長させ、粉末に磁気異方性を付与するのに有用な元素である。Al、Nb、Taは、脱H2処理時の再結晶粒が、1μm以上に粗大化するのを防止し、結果として保磁力が低下するのを抑制する効果を有する。従って、Mとしては、上記の元素を目的に応じて組み合わせて用いることが望ましい。添加量は、0.01at%未満では異方性が低下し、また10at%を超えると強磁性でない第2相が析出して磁化を低下させることから、Mは0.01?10at%とした。好ましいMの範囲は0.5?5%である。 さらに、【0039】の表1と【0040】の表2には、試料番号5として「Pr:11.0at%、Ce:2.0at%、Fe:72.0at%、Co3.0at%、Ta:4.5at%、Ga:1.0at%、B:6.5at%で残留磁化Br:1.30」、試料番号6として「Nd:12.5at%、Fe:74.0at%、Co5.0at%、Ga:1.0at%、Nb:1.0at%、B:6.5at%で残留磁化Br:1.29」、試料番号7として「残留磁化Br:1.34」の実施例が記載されている。 (イ)本願補正発明と刊行物1に記載された発明との対比・判断 (a)本願補正発明の組成は、刊行物1の請求項1に係る発明の組成範囲「R:10?20at%(R:Yを含む希土類元素の少なくとも1種で、かつPrまたはNdの1種または2種をRのうち50at%以上含有)、T:67?85at%(T:FeまたはFeの一部を50at%以下のCoで置換)、M:0.01?10at%(M:Ga、Zr、Nb、Hf、Ta、Al、V、Siのうち1種または2種以上)、B:4?10at%」に含まれており、高温水素熱処理されている点も、高い異方性を得るとの課題も同じであり、本願補正発明は、刊行物1の請求項1に係る発明に含まれるものである。 この場合、本願補正発明が、選択発明として、進歩性を有するためには、組成範囲の限定により、当業者の予測を超えた顕著(臨界的)な効果があることを請求人が明細書において立証する必要がある。 そして、刊行物1の課題は、本願補正発明と同じく高い異方性を得ることで同質であるから、本願補正発明は、本願補正発明に含まれるすべての範囲において、刊行物1の実施例などに記載されたものと比べ当業者の予測を超えた臨界的意義、すなわち、刊行物1の実施例の異方化率を大幅に超えた異方化率が要求され、このことが本願実施例などから明らかでなければならない。 しかし、刊行物1の試料番号6では、異方化率=1.29/1.6=0.806≒0.81、試料番号7では、異方化率=1.34/1.6=0.8375≒0.84であり、本願補正発明の異方化率:0.84?0.86と比べてもほぼ同じである。 したがって、本願補正発明は、刊行物1と比べ、当業者の予測を超えた臨界的な効果を奏するとは、認められないので、刊行物1において、本願補正発明程度の異方性を得るべく組成を変化させることは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、本願補正発明の組成及び異方化率とすることは、当業者が実験などにより適宜なし得たことである。 (b)本願補正発明と刊行物1の試料番号6とを対比すると、本願補正発明のCo量が1.4?4.8、Ga量が0.01?0.6であるのに対して、刊行物1の試料番号6のCo量が5.0、Ga量が1.0である点で一応相違する。 しかし、本願補正発明のCo量の上限である4.8と刊行物1の試料番号6のCo量:5.0は、ほとんど同量であり、この微量の差により、格別顕著な効果の差異が生じるとは認められない。このことは、本願補正発明の試料番号13,19において、Co量が5.1,6.7であっても異方化率:0.84であり、本願補正発明の試料番号17のCo量:4.8で、異方化率:0.84と比べ、差異は認められないことからも裏付けられる。 また、刊行物1の課題は、本願補正発明と同じく高い異方性を得ることであり、高い異方性を得るべく組成を変化させることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。さらに、刊行物1の請求項1では、「Feの一部を50at%以下のCoで置換」と記載されているので、Co量:1.4?4.8も当然含まれ、刊行物1の試料番号5では、希土類がPr+Ce(本願補正発明に含まれる希土類である。)ではあるが、Co量を3.0としており、このCo量:3.0や刊行物1の試料番号6のCo量:5.0を、例えば4.8程度に変更して実験することは、当業者が適宜なし得たことであり、この変更により格別顕著な効果の差異は、認められない。 また、刊行物1の試料番号6のGa量は1.0であるが、刊行物1の請求項1によれば、GaやNbの合計であるM:0.01?10at%であり、Ga量を0.01?10at%の範囲で、高い異方性を得るべく組成を変化させることは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。そして、刊行物1の試料番号6のGa量:1.0を0.6程度に変更して実験することは、当業者が適宜なし得たことであり、この変更により格別顕著な効果の差異は、認められない。 (ウ)特許法第29条についてのまとめ 以上(イ)の(a)及び(b)の理由により、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである (2)特許法第36条について (ア)本願補正発明では、試料番号14、試料番号15、試料番号17の3例の結果のみから、この3例の組成以外の本願補正発明に含まれる(R:11?15,Fe:bal,B:5?8,Co:1.4?4.8,Ga:0.01?0.6,Nb:0.01?1.0)のすべて又は一部の組成においても、異方化率が0.84?0.86になるとは、認められない。 したがって、出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容(試料番号14,15,17の3例の結果)を本願補正発明の広い組成範囲に拡張ないし一般化することができないので、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (イ)(R:11?15,Fe:bal,B:5?8,Co:1.4?4.8,Ga:0.01?0.6,Nb:0.01?1.0)の広い組成範囲の内どの範囲の組成であれば、異方化率が0.84?0.86になるのか、不明であり、発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載されているとは認められず、第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (3)独立特許要件についてのむすび 以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項、同法第36条第4項及び同法第36条第6項の規定により、その特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下の決定のむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、さらに、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成18年5月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,平成18年1月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 高温水素熱処理され、異方性(Br/Bs、ただしBsは1.6T(16kG)とした)が0.84?0.86であり、イットリウム(Y)を含む希土類元素(R)を原子百分率で11?15at%と、ホウ素(B)を5?8at%と、1.4?4.8at%のコバルト(Co)と、それぞれ0.01?1.0at%のガリウム(Ga)およびニオブ(Nb)と、残部が鉄(Fe)と不可避な不純物と、からなることを特徴とする異方性希土類磁石粉末。」 2 刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1に記載された発明は,前記第2 3(1)(ア)に記載したとおりである。 3 本願発明と刊行物に記載された発明との対比・判断 本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明のガリウム(Ga)量を「0.01?0.6at%」から「0.01?1.0at%」に拡張したものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらにガリウム(Ga)量を減縮したものに相当する本願補正発明が、前記第2 3(1)に記載したとおり、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-11-28 |
結審通知日 | 2006-11-28 |
審決日 | 2007-01-09 |
出願番号 | 特願平9-135192 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(H01F)
P 1 8・ 537- Z (H01F) P 1 8・ 575- Z (H01F) P 1 8・ 121- Z (H01F) P 1 8・ 561- Z (H01F) P 1 8・ 572- Z (H01F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菊地 聖子、山田 正文、小池 秀介 |
特許庁審判長 |
橋本 武 |
特許庁審判官 |
浅野 清 山本 一正 |
発明の名称 | 異方性希土類磁石粉末および磁気異方性ボンド磁石 |
代理人 | 大川 宏 |