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審決分類 審判 全部無効 発明同一  H04L
管理番号 1152843
審判番号 無効2005-80158  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-27 
確定日 2007-02-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2994589号発明「サイクリック自動通信による電子配線システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯・本件発明
本件特許第2994589号の請求項1ないし3に係る発明(平成8年6月7日に特許出願され、平成11年10月22日に設定登録された。その後、異議の申し立てがなされ、平成14年2月28日付で取消理由が通知され、その指定期間内の平成14年4月30日付で訂正請求がなされ、平成14年5月28日付の異議の決定において、当該訂正が認められた上で、請求項1ないし3に係る特許が維持された。その後、平成17年5月27日付けで無効審判請求がなされたものである。)は、特許明細書及び図面、並びに平成14年4月30日付の訂正請求の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)。

(本件特許発明1)
「【請求項1】1台のIC化された中央装置(1)と1台又は複数台のIC化された端末装置(2)とがデジタル通信回線(3)を介して、相互接続されて構成され、上記中央装置(1)から上記端末装置(2)宛に、出力データの組み込まれたコマンドパケットを一斉にサイクリックに自動的に送信し、1台又は複数台の端末装置(2)の中から順次に択一的に選択される1台づつの上記端末装置(2)から上記中央装置(1)宛に、入力データの組み込まれたレスポンスパケットを逐次にサイクリックに自動的に送信するサイクリック自動通信方式の電子配線システムであって、
上記中央装置(1)は、上記出力データと上記入力データとを読み取り可能に記憶するメモリ(4)と、上記コマンドパケットの送信と上記レスポンスパケットの受信とを、プログラムによる通信制御に基づかないで、回路の駆動で制御するステートマシーンとから成り、
上記メモリ(4)は、i番目のコマンドパケットに組み込まれるi番目の出力データをi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶し、i番目のレスポンスパケットに組み込まれていたi番目の入力データをi番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶するメモリであり、
上記ステートマシーンは、i-1番目の端末装置(2)宛のi-1番目のコマンドパケットの送信が完了した直後に、又は、i-1番目のコマンドパケットの送信が完了してから、i-1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に、上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域から読み取られたi番目の出力データとi番目の端末装置アドレス符号とが組み込まれたi番目のコマンドパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信し、該i番目のコマンドパケットの送信が完了した後に、i番目の入力データの組み込まれたi番目のレスポンスパケットをi番目の端末装置からデジタル通信回線(3)経由で受信し、該i番目の入力データを上記メモリ(4)のi番目対応の入力データ記憶領域に書き込むことを特徴とし、
上記端末装置(2)は、デジタル通信回線(3)経由で受信した上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の端末装置アドレス符号が自己の端末装置アドレス符号として設定されているi番目の端末装置アドレス符号と一致するときに、上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の出力データを出力ポート(22)でのポート出力データとして出力するとともに、入力ポート(21)からのポート入力データがi番目の入力データとして組み込まれた上記i番目のレスポンスパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信することを特徴とし、さらに、
上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域に読み取り可能に記憶されている出力データのビット群の構成と上記出力ポート(22)から出力されるポート出力データのビット群の構成とが同一形態であり、上記メモリ(4)のi番目対応の入力データ記憶領域に読み取り可能に記憶されている入力データのビット群の構成と上記入力ポート(21)から入力されるポート入力データのビット群の構成とが同一形態であり、
前記メモリ(4)内のデータビット群が、前記複数の端末装置毎にメモリ領域を分割して設定したことを特徴とするサイクリック自動通信方式の電子配線システム。」

(本件特許発明2)
「【請求項2】上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域からのi番目の出力データの読み取り動作と、該i番目対応の出力データ記憶領域へのユーザインターフェースPCからのi番目の出力データの書き込み動作と、該メモリのi番目対応の入力データ記憶領域へのi番目の入力データの書き込み動作と、該i番目対応の入力データ記憶領域からのユーザインターフェースPCへのi番目の入力データ読み取り動作とが、それぞれ、別個独立に実行可能である請求項1に記載のサイクリック自動通信方式の電子配線システム。」

(本件特許発明3)
「【請求項3】前記端末装置(2)毎に分割されたメモリ領域内のデータビット群は、送受信単位毎のフィールドに設定し、該設定されたフィールド単位で送受信するようにした請求項2に記載のサイクリック自動通信方式の電子配線システム。」

第2 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許発明1ないし3は、本件出願の日前の他の特許出願であって本件特許出願後に出願公開された特願平7-21367号(特開平8-195682号公報)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(以下、「先願発明」という。)と同一であるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明の特許は、特許法29条の2の規定に該当し特許を受けることができないと主張し、その証拠方法として,甲第1号証(特開平8-195682号公報)を提出している。加えて、周知技術を示すものとして、甲第2号証(特開昭61-230446号公報)、及び甲第3号証(特開昭59-126346号公報)を提出している。

第3 甲第1号証ないし甲第3号証
(3-1)甲第1号証(特開平8-195682号公報)
甲第1号証には、以下が記載されている。
なお、甲第1号証には第1実施例(図1?図5に対応;一つのゲートアレイGAが他のゲートアレイGAと通信回線を介して相互接続されるもの)、第2実施例(図6に対応;入力機器用のゲートアレイGAと出力機器用のゲートアレイGAを有する送受信部が他の送受信部と通信回線を介して相互接続されるもの)、及び第3実施例(図7、図8に対応;ゲートアレイGAを内蔵した通信ボードを付加したパーソナルコンピュータ50とゲートアレイGAを内蔵した複数のベースターミナルが通信回線を介して相互接続されるもの)が記載されているところ、本件特許発明1が「1台のIC化された中央装置(1)と1台又は複数台のIC化された端末装置(2)とがデジタル通信回線(3)を介して、相互接続されて構成される」点を基本的構成要件とし、「メモリの使用」を構成要件としていることから、本件特許発明1のものと最も類似点の多い第3実施例を中心に記載を摘記する。また、甲第1号証の段落【0054】の「なお、ベースターミナル51A、51B、51C、51Dやサテライトターミナル52A、52B、52C、52D等の構成及び動作は、前述の第1実施例と同様であり、また、その他の作用効果も前述の第1実施例と同様である。」との記載に基づき、第1、2実施例の記載も適宜摘記する。
a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シリアルラインを用いて多数の入出力ポートの入出力情報を高速で伝達するためのシリアル通信方法及び装置に係り、とくに半導体集積回路のシリアル通信用ゲートアレイを用いたシリアル通信方法及び装置に関する。」(第2頁第1欄)
b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来のシリアル通信によるアクチュエータ、表示機構等の出力機器の駆動は、プログラマブルコントローラ、コントロール用コンピュータを介して制御を行っており、その制御に当たって高速化の配慮がなされていないため、・・・(中略)・・・
【0005】このため、シリアル通信を用いてスイッチ、センサ等の入力機器とアクチュエータ等の出力機器が一対一で実質的に接続されるように、かつ間に制御装置を介さずに制御を行えるようにし、」(第2頁第2欄)
c)「【0026】また、入出力ポートP0乃至P3に付随して入出力制御部12が設けられている。該入出力制御部12は当該固定チャンネル型ゲートアレイのチップアドレスを設定する信号を端子CA0乃至CA4に受けるとともに、MPUの接続、非接続の設定信号を端子MODEで受ける。」(第4頁第6欄)
d)「【0037】次に、この第1実施例の動作説明を図4の通信方式の説明図及び図5の状態遷移図と共に行う。図1では、左側の送受信部30Aのサテライトターミナル32Aには入力機器33が接続されているので、ベースターミナル31A内の固定チャンネル型ゲートアレイGAの各入出力ポートP0乃至P3は入力ポートに設定する。右側の送受信部30Bのサテライトターミナル32Bには出力機器34が接続されているので、ベースターミナル31B内の固定チャンネル型ゲートアレイGAの各入出力ポートP0乃至P3は出力ポートに設定する。
【0038】そして、左側の送受信部30Aにおいて、サテライトターミナル32Aを介しベースターミナル31A内の固定チャンネル型ゲートアレイGAの入出力ポートP0乃至P3にそれぞれ入力されたチャンネルCH0乃至CH3の伝送データ(パラレル送信信号)は時分割でチャンネルCH0から順に送信ブロック2からシリアル送信出力信号としてシリアルライン35に送信される。すなわち、図4のように、サイクリック通信方式でチャンネルCH0の伝送データを含むシリアル送信出力信号の送信を固定チャンネル型ゲートアレイGA内の送信ブロック2から始めて、チャンネルCH0の出力側(右側の送受信部30B)からの正常に受信できたことを示す応答(正常受信を表すACK信号)を受信ブロック1で確認し、以下同様にしてチャンネルCH1、CH2、CH3の送信を順次行う(通信データバス4に接続する入出力ポートをセレクタ3で順次切り換えることで実施できる。)。チャンネルCH0の入力側(左側の送受信部30A)は、シリアルライン上をモニタしながら、一定時間キャリア(シリアルデータを伝送するのに用いる搬送波)がなくなると再びチャンネルCH0についてのCH0データの送信を行う。受信側(右側の送受信部30B)は、キャリア有りで、データチェックにより正常データ受信と判断されたときにアドレス比較により自分のチャンネルアドレスのパケットデータのみを受け取り、所定の入出力ポートに出力する(例えば図1では左側の送受信部30Aの入出力ポートP0に入力されたチャンネルCH0の伝送データを右側の送受信部30Bの入出力ポートP0に出力する)とともに、正常に受信できたときは正常受信を表すACK信号を相手側に送信する。」(第5頁第8欄)
e)「また、1個の入出力ポートのデータを送信後、相手側より正常に受信されたことを示す信号(正常受信を表すACK信号)が返ってきたことを確認して、次の1個の入出力ポートのデータを順次送信する受信応答確認方式でデータ送受信を行うため、高い障害検出機能を持つ。この結果、誤った伝送データで出力機器等が誤動作する事態の発生を未然に防止できる。」(第6頁第9欄)
f)「【0048】なお、第2実施例において、1個のベースターミナル内の固定チャンネル型ゲートアレイGAの入出力ポートP0乃至P3は全て入力ポートとして使用するか、あるいは全て出力ポートとして使用するようにしたが、同一ゲートアレイGA内の入出力ポートP0乃至P3のなかで入力ポートとして使用するものと出力ポートとして使用するものとが混在してもよい。なお、シリアル通信の際のベースターミナルの選択は、各ベースターミナルに内蔵されたゲートアレイにチップアドレスを付与し、このチップアドレスを指定(伝送データに付加する)してやることで行うことができる。」(第6頁第10欄?第7頁第11欄)
g)「【0049】図7は本発明の第3実施例であって、固定チャンネル型ゲートアレイGAとライン・ドライバ/レシーバDRとを内蔵するシリアル通信ボード55を付加したパーソナルコンピュータ50を中心として、ベースターミナル51A、51B、51C、51D及びサテライトターミナル52A、52B、52C、52Dで構成したものである。パーソナルコンピュータ50内のMPU60と固定チャンネル型ゲートアレイGAとはCPUバス61で接続され、該CPUバス61は図2に示すゲートアレイGA内部のCPUデータバス5を介してデータレジスタ#0乃至#15に接続されている。なお、シリアル通信ボード55(MPUに接続された送受信部として働く)と各ベースターミナル51A乃至51D間はシリアルライン35で接続されている。また、シリアル通信ボード55内のゲートアレイGAはMPU接続モードで働くことになる。
【0050】図8に示すように、1個の固定チャンネル型ゲートアレイGAは16個のデータレジスタ#0乃至#15を有しており、図7の第3実施例では、データレジスタ#0乃至#3がチャンネルCH0乃至CH3の伝送データを取り扱うベースターミナル51A及びサテライトターミナル52Aの組を持つ送受信部に対応し、データレジスタ#4乃至#7がチャンネルCH4乃至CH7の伝送データを取り扱うベースターミナル51B及びサテライトターミナル52Bの組を持つ送受信部に対応し、データレジスタ#8乃至#11がチャンネルCH8乃至CH11の伝送データを取り扱うベースターミナル51C及びサテライトターミナル52Cの組を持つ送受信部に対応し、データレジスタ#12乃至#15がチャンネルCH12乃至CH15の伝送データを取り扱うベースターミナル51D及びサテライトターミナル52Dの組を持つ送受信部に対応している。
【0051】この第3実施例では、各データレジスタ#0乃至#15を、MPU60が直接書き込み、読み出し可能な入出力ポートとして利用できる(第1及び第2実施例の入出力ポートP0乃至P3の代わりに利用できる。)。例えば、サテライトターミナル52Aに接続された入力機器からのチャンネルCH0乃至CH3の伝送データは、サテライトターミナル52A、ベースターミナル51A、シリアルライン35を経由してシリアル通信ボード55に伝送され、内蔵する固定チャンネル型ゲートアレイGA内の受信ブロック1で受信され、シリアル-パラレル変換されて通信データバス4を介して出力ポートとして機能するデータレジスタ#0乃至#3に書き込まれる(格納される)。このとき、MPU60ではデータレジスタ#0乃至#3の格納データをモニタすることができる。
【0052】データレジスタ#4乃至#7を入力ポートとして使用するときは、MPU60からデータレジスタ#4乃至#7にチャンネルCH4乃至CH7の伝送データを書き込み、該データレジスタ#4乃至#7の格納内容を通信データバス4を介して送信ブロック2に送る。送信ブロック2で伝送データはパラレル-シリアル変換され、ベースターミナル51B、サテライトターミナル52Bを経由して該サテライトターミナル52Bに接続された出力機器に出力される。
【0053】同様に、データレジスタ#8乃至#11を入力ポートとして使用するときは、MPU60からデータレジスタ#8乃至#11にチャンネルCH8乃至CH11の伝送データを書き込み、該データレジスタ#8乃至#11の格納内容を通信データバス4、送信ブロック2、ベースターミナル51C、サテライトターミナル52Cを経由して該サテライトターミナル52Cに接続された出力機器に出力可能である。
【0054】また、サテライトターミナル52Dに接続された入力機器からのチャンネルCH12乃至CH15の伝送データは、サテライトターミナル52D、ベースターミナル51D、シリアルライン35を経由してシリアル通信ボード55に伝送され、ゲートアレイGAの出力ポートとして機能するデータレジスタ#12乃至#15に書き込まれる(格納される)。このとき、MPU60ではデータレジスタ#12乃至#15の格納データをモニタすることができる。なお、ベースターミナル51A、51B、51C、51Dやサテライトターミナル52A、52B、52C、52D等の構成及び動作は、前述の第1実施例と同様であり、また、その他の作用効果も前述の第1実施例と同様である。」(第7頁第11欄?第12欄)

したがって、上記摘記事項の記載からみて、甲第1号証には、下記の先願発明が記載されているものと認められる。
(先願発明)
「1台のシリアル通信ボード(55)と複数台のベースターミナル(51A?51D)とがシリアルライン(35)を介して、相互接続されて構成され、
上記ベースターミナル(51A)から上記シリアル通信ボード(55)宛に、入力データの組み込まれたチャンネルCH0?CH3の伝送データを送信し、上記シリアル通信ボード(55)から上記ベースターミナル(51B)宛に、出力データの組み込まれたチャンネルCH4?CH7の伝送データを送信し、上記シリアル通信ボード(55)から上記ベースターミナル(51C)宛に、出力データの組み込まれたチャンネルCH8?CH11の伝送データを送信し、上記ベースターミナル(51D)から上記シリアル通信ボード(55)宛に、入力データの組み込まれたチャンネルCH12?CH15の伝送データを送信するシリアル通信方法及び装置であって、
上記シリアル通信ボード(55)は、上記入力データと上記出力データとを読み取り可能に記憶するデータレジスタ♯0?♯3、♯4?♯7、♯8?♯11、♯12?♯15と、チャンネルCH0?CH3、CH12?CH15の伝送データを受信する受信ブロック(1)と、チャンネルCH4?CH7、CH8?CH11の伝送データを送信する送信ブロック(2)と、及び受信ブロック(1)で受信された伝送データを、シリアル-パラレル変換した後通信データバス(4)を介して出力ポートとして機能するデータレジスタの対応する記憶領域に書き込むとともに、入力ポートとして機能するデータレジスタの対応する記憶領域から伝送データを読み出し、通信データバス(4)を介し、送信ブロック(2)でパラレル-シリアル変換して送信する制御を行う制御手段とから成り、
上記データレジスタ♯0?♯15は、ベースターミナル(51A)からのチャンネルCH0?CH3の伝送データに組み込まれていた入力データをデータレジスタ♯0?♯3の記憶領域に読み取り可能に記憶し、ベースターミナル(51B)宛のチャンネルCH4?CH7の伝送データに組み込まれる出力データをデータレジスタ♯4?♯7の記憶領域に読み取り可能に記憶し、ベースターミナル(51C)宛のチャンネルCH8?CH11の伝送データに組み込まれる出力データをデータレジスタ♯8?♯11の記憶領域に読み取り可能に記憶し、ベースターミナル(51D)からのチャンネルCH12?CH15の伝送データに組み込まれていた入力データをデータレジスタ♯12?♯15の記憶領域に読み取り可能に記憶する記憶するデータレジスタであり、
上記制御手段は、入力データの組み込まれたチャンネルCH0?CH3の伝送データを、ベースターミナル(51A)からシリアルライン(35)経由で受信し、当該伝送データをデータレジスタ#0?#3の記憶領域に書き込み、データレジスタ#4?#7の記憶領域から読み取られた出力データが組み込まれたチャンネルCH4?CH7の伝送データをシリアルライン(35)経由で送信し、データレジスタ#8?#11の記憶領域から読み取られた出力データが組み込まれたチャンネルCH8?CH11の伝送データをシリアルライン(35)経由で送信し、入力データの組み込まれたチャンネルCH12?CH15の伝送データを、ベースターミナル(51D)からシリアルライン(35)経由で受信し、当該伝送データをデータレジスタ#12?#15の記憶領域に書き込むことを特徴とし、
ベースターミナル(51A)は、サテライトターミナル(52A)から入力されたポート入力データが組み込まれたチャンネルCH0?CH3の伝送データをシリアルライン(35)経由でシリアル通信ボード55に送信し、ベースターミナル(51B)は、シリアルライン(35)経由で受信したCH4?CH7の伝送データに含まれているポート出力データをサテライトターミナル(52B)から出力し、ベースターミナル(51C)は、シリアルライン(35)経由で受信したCH8?CH11の伝送データに含まれているポート出力データをサテライトターミナル(52C)から出力し、ベースターミナル(51D)は、サテライトターミナル(52D)から入力されたポート入力データが組み込まれたチャンネルCH12?CH15の伝送データをシリアルライン(35)経由でシリアル通信ボード(55)に送信することを特徴とし、
上記データレジスタ#0?#3の記憶領域に読み取り可能に記憶される入力データはサテライトターミナル(52A)から入力されるデータに対応し、上記データレジスタ#4?#7の記憶領域に読み取り可能に記憶されている出力データはサテライトターミナル(52B)から出力されるデータに対応し、上記データレジスタ#8?#11の記憶領域に読み取り可能に記憶されている出力データはサテライトターミナル(52C)から出力されるデータに対応し、上記データレジスタ#12?#15の記憶領域に読み取り可能に記憶されている入力データはサテライトターミナル(52D)から入力されるデータに対応し、
上記データレジスタ♯0?♯3、#4?#7、♯8?♯11、#12?#15が、チャンネルCH0?CH3、CH4?CH7、CH8?CH11、CH12?CH15のそれぞれの伝送データを扱うベースターミナル51A、51B、51C、51Dに対応して分割され設定されたことを特徴とするシリアル通信方法及び装置。」

(3-2)甲第2号証(特開昭61-230446号公報)
甲第2号証はデータ通信方式に関するものであって、以下が記載されている。
a)「第3図(B)は、従来のフレームのフォーマットの一例を示す。フレーム14は、フレームの先頭を示すスタ-トフラグ(SF)6、当該フレーム14自体の宛先を示す送信先アドレス(A)7、コマンド(C)8、後述するデータ(DATA)の宛先を示すデータ送信先アドレス(DA)9、当該フレーム14の送信元を示す送信元アドレス(SA)10、転送されるべきデータ(DATA)11、伝送誤りの検査のためのチェックビット群であるフレームチェックシーケンス(FCS)12、及びフレ-ムの末尾を示すエンドフラグ(EF)13よりなる。」(第2頁左上欄下から3行目?右上欄第9行目)
b)「第3図(A)は、本発明において用いられるフレームフォーマットの一例を示す。このフレーム15は、スタートフラグ(SF)6、送信先アドレス(A)7、送信元アドレス(SA)10、コマンド(C)8、データ(DATA)11、フレームチェックシーケンス(FCS)12、及びエンドフラグ13よりなる。」(第3頁左下欄第1行目?第8行目)

(3-3)甲第3号証(特開昭59-126346号公報)
甲第3号証はポーリング制御方式であって、以下が記載されている。
「第1図において、制御装置2は端末装置41?4nをポーリング方式で制御することにより通信回線31?3nを経由して端末装置41?4nと情報処理装置1との間のデータ転送を行う。
すなわち、情報処理装置1の命令を受けた制御装置2は、予め定められた時間を応答監視タイマにセットして端末装置41にポーリングコマンドを送出する。これを受けた該端末装置41が応答信号を返し、データの転送が行われる。次に制御装置2は端末装置42にポーリングコマンドを送出し、これを受けた端末装置42が応答信号を返しデータ転送が行なわれる。
このようにして、制御装置2は次々と各端末装置をポーリングしてデータ転送を行なうが、その間に端末装置が無応答である場合には前記監視タイマによりタイムアウトが検出されるので、該端末装置に対するポーリングを打ち切って次のアドレスの端末装置にポーリングコマンドを送出する。端末装置が無応答である理由としては、該端末装置のサービス休止中や故障などの場合がある。」(第1頁右下欄第6行目?第2頁左上欄第7行目)

第4 対比・判断
(4-1)本件特許発明1について
(イ)対比
本件特許発明1と先願発明とを対比する。

a)先願発明の「シリアル通信ボード」、「ベースターミナル51A?51D」は、本件特許発明1の「中央装置」、「複数台の端末装置」にそれぞれ相当することが明らかであり、また、先願発明の「シリアルライン」は甲第1号証の記載から見て、デジタルデータを通信させる回線であると言うことができるから、本件発明1の「デジタル通信回線」と実質的に差異は無い。
また、甲第1号証の段落【0001】の「とくに半導体集積回路のシリアル通信用ゲートアレイを用いたシリアル通信方法及び装置に関する。」(下線加筆)の記載からみて、ゲートアレイからなる「シリアル通信ボード」及び「ベースターミナル51A?51D」はIC化されていることが自明である。
b)本件特許発明1の「コマンドパケット」と先願発明のCH4?CH7、CH8?CH11の伝送データは、「中央装置側から端末装置側に向かって送信される伝送データ」であるという点で共通する。また、同一端末装置からの応答であるか否かを別とすれば、本件特許発明1の「レスポンスパケット」と先願発明のCH0?CH3、CH12?CH15の伝送データは、「端末装置側から中央装置側に向かって送信される伝送データ」であるという点で共通する。
そして、同一端末装置からの応答であるか否かを別とすれば、上記のように、「中央装置側から端末装置側への伝送データの送信」、及び「端末装置側から中央装置側へ送信される伝送データの受信」を制御する制御手段であるという点で、本件特許発明1の「ステートマシーン」と先願発明の「制御手段」は共通する。
c)本件特許発明1の「メモリ」と先願発明の「データレジスタ」は、入力データや出力データを記憶する記憶手段という点で共通する。

すると、本件特許発明1と先願発明とは次の点で一致し、相違する。

(一致点)
「1台のIC化された中央装置と複数台のIC化された端末装置とがデジタル通信回線を介して、相互接続されて構成され、
上記中央装置から上記端末装置宛に、出力データの組み込まれた伝送データを送信し、複数台の端末装置から上記中央装置宛に、入力データの組み込まれた伝送データを送信する通信システムであって、
上記中央装置は、上記出力データと上記入力データとを読み取り可能に記憶する記憶手段と、上記中央装置側から端末装置側への伝送データの送信と上記端末装置側から中央装置側への伝送データの受信とを制御する制御手段とから成り、
上記記憶手段は、上記中央装置側から端末装置側への伝送データに組み込まれる出力データを対応する記憶領域に読み取り可能に記憶し、上記端末装置側から中央装置側への伝送データに組み込まれていた入力データを対応する記憶領域に読み取り可能に記憶する記憶手段であり、
上記制御手段は、記憶手段の対応する記憶領域から読み取られた出力データが組み込まれた上記伝送データをデジタル通信回線経由で送信し、入力データの組み込まれた上記伝送データを端末装置からデジタル通信回線経由で受信し、受信した入力データを上記記憶手段の対応する記憶領域に書き込むことを特徴とし、
上記端末装置は、デジタル通信回線経由で受信した上記伝送データに組み込まれている出力データを出力ポートからポート出力データとして出力するとともに、入力ポートからのポート入力データが入力データとして組み込まれた上記伝送データをデジタル通信回線経由で送信することを特徴とし、さらに、
上記記憶手段の所定の記憶領域に読み取り可能に記憶されている出力データが上記出力ポートから出力されるポート出力データに対応し、上記記憶手段の所定の記憶領域に読み取り可能に記憶されている入力データが上記入力ポートから入力されるポート入力データに対応し、
前記記憶手段内の記憶領域が、前記複数の端末装置毎に分割して設定されたことを特徴とする通信システム。」

(相違点1)
本件特許発明1が「中央装置から端末装置宛に、出力データの組み込まれたコマンドパケットを一斉にサイクリックに自動的に送信し、1台又は複数台の端末装置の中から順次に択一的に選択される1台づつの上記端末装置から中央装置宛に、入力データの組み込まれたレスポンスパケットを逐次にサイクリックに自動的に送信するサイクリック自動通信方式の電子配線システム」であるのに対して、先願発明は、「シリアル通信ボード(本件特許発明1の中央装置に相当)からベースターミナル51B、51C(それぞれ本件特許発明1の端末装置に相当)に出力データの組み込まれた伝送データを送信する一方、ベースターミナル51A、51D(それぞれ本件特許発明1の端末装置に相当)からシリアル通信ボード(本件特許発明1の中央装置に相当)に入力データの組み込まれた伝送データを送信する通信システム」であるものの、「コマンドパケットを一斉にサイクリックに自動的に送信する」点、「レスポンスパケットを逐次にサイクリックに自動的に送信する」点、及び「サイクリック自動通信方式の電子配線システム」である点を明示しない点。

(相違点2)
本件特許発明1の中央装置が「コマンドパケットの送信とレスポンスパケットの受信とを、プログラムによる通信制御に基づかないで、回路の駆動で制御するステートマシーン」を含むのに対して、先願発明は、「中央装置側から端末装置側への伝送データの送信、及び端末装置側から中央装置側へ送信される伝送データの受信を制御する制御手段」を含むものの、同一の端末装置からの応答である点を開示せず、また、「プログラムによる通信制御に基づかないで、回路の駆動で制御する」点を明示しない点。

(相違点3)
記憶手段について、本件特許発明1が「メモリ」であるのに対して、先願発明は「データレジスタ」である点、及び本件特許発明1のメモリの出力データのビット群の構成とポート出力データのビット群の構成とが同一形態であり、入力データのビット群の構成とポート入力データのビット群の構成とが同一形態であるのに対して、先願発明は上記「ビット群の構成が同一形態」である点は明示がない点。

(相違点4)
本件特許発明1のステートマシーンが、「i-1番目の端末装置(2)宛のi-1番目のコマンドパケットの送信が完了した直後に、又は、i-1番目のコマンドパケットの送信が完了してから、i-1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に、上記メモリ(4)のi番目対応の出力データ記憶領域から読み取られたi番目の出力データとi番目の端末装置アドレス符号とが組み込まれたi番目のコマンドパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信し、該i番目のコマンドパケットの送信が完了した後に、i番目の入力データの組み込まれたi番目のレスポンスパケットをi番目の端末装置からデジタル通信回線(3)経由で受信し、該i番目の入力データを上記メモリ(4)のi番目対応の入力データ記憶領域に書き込む」のに対し、
先願発明は、「入力データの組み込まれたチャンネルCH0?CH3の伝送データを、ベースターミナル51Aからシリアルライン(35)経由で受信し、当該伝送データをデータレジスタ#0?#3の記憶領域に書き込み、データレジスタ#4?#7の記憶領域から読み取られた出力データが組み込まれたチャンネルCH4?CH7の伝送データをシリアルライン(35)経由で送信し、データレジスタ#8?#11の記憶領域から読み取られた出力データが組み込まれたチャンネルCH8?CH11の伝送データをシリアルライン(35)経由で送信し、入力データの組み込まれたチャンネルCH12?CH15の伝送データを、ベースターミナル51Dからシリアルライン(35)経由で受信し、当該伝送データをデータレジスタ#12?#15の記憶領域に書き込む」に止まる点。

(相違点5)
本件特許発明1の端末装置が、「デジタル通信回線(3)経由で受信した上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の端末装置アドレス符号が自己の端末装置アドレス符号として設定されているi番目の端末装置アドレス符号と一致するときに、上記i番目のコマンドパケットに組み込まれているi番目の出力データを出力ポート(22)でのポート出力データとして出力するとともに、入力ポート(21)からのポート入力データがi番目の入力データとして組み込まれた上記i番目のレスポンスパケットをデジタル通信回線(3)経由で送信する」のに対して、
先願発明は、「ベースターミナル51Aは、サテライトターミナル52Aから入力されたポート入力データが組み込まれたチャンネルCH0?CH3の伝送データをシリアルライン(35)経由でシリアル通信ボード55に送信し、ベースターミナル51Bは、シリアルライン(35)経由で受信したCH4?CH7の伝送データに含まれているポート出力データをサテライトターミナル52Bから出力し、ベースターミナル51Cは、シリアルライン(35)経由で受信したCH8?CH11の伝送データに含まれているポート出力データをサテライトターミナル52Cから出力し、ベースターミナル51Dは、サテライトターミナル52Dから入力されたポート入力データが組み込まれたチャンネルCH12?CH15の伝送データをシリアルライン(35)経由でシリアル通信ボード55に送信する」に止まる点。

(ロ)判断
以下、相違点について検討する。

(相違点1について)
「伝送データを一斉にサイクリックに自動的に送信する」点、「伝送データを逐次にサイクリックに自動的に送信する」点、及び「サイクリック自動通信」の点については、甲第1号証の段落【0038】に「すなわち、図4のように、サイクリック通信方式でチャンネルCH0の伝送データを含むシリアル送信出力信号の送信を固定チャンネル型ゲートアレイGA内の送信ブロック2から始めて、チャンネルCH0の出力側(右側の送受信部30B)からの正常に受信できたことを示す応答(正常受信を表すACK信号)を受信ブロック1で確認し、以下同様にしてチャンネルCH1,CH2,CH3の送信を順次行う(通信データバス4に接続する入出力ポートをセレクタ3で順次切り換えることで実施できる。)。」と記載されているように、チャンネルCHの伝送データ単位で見れば、甲第1号証にも対応する記載があると認められる。
一方、端末装置を単位とする「コマンドパケットとレスポンスパケットの組」としてのサイクリック通信における差異については、「相違点4について」で検討する。
また、本件特許発明1の「電子配線システム」については、甲第1号証の段落【0005】の「このため、シリアル通信を用いてスイッチ、センサ等の入力機器とアクチュエータ等の出力機器が一対一で実質的に接続されるように、」との記載及び先願発明の構成を参酌すれば、先願発明には「電子配線システム」との明示はないものの、この点で本件特許発明1のものと実質的に差異はない。

(相違点2について)
本件特許発明1の「プログラムによる通信制御に基づかないで、回路の駆動で制御するステートマシーン」の点については、甲第1号証の段落【0004】の「【発明が解決しようとする課題】ところで、従来のシリアル通信によるアクチュエータ、表示機構等の出力機器の駆動は、プログラマブルコントローラ、コントロール用コンピュータを介して制御を行っており、その制御に当たって高速化の配慮がなされていないため、」及び段落【0005】の「このため、シリアル通信を用いてスイッチ、センサ等の入力機器とアクチュエータ等の出力機器が一対一で実質的に接続されるように、かつ間に制御装置を介さずに制御を行えるようにし、」との記載に基づく示唆、及び先願発明においても、「中央装置側から端末装置側への伝送データの送信、及び端末装置側から中央装置側へ送信される伝送データの受信を制御する制御手段」を含むという点に照らせば、先願発明も「プログラムによる通信制御に基づかないで、回路の駆動で制御する」点で実質的に差異はない。
なお、端末装置を単位とし、「コマンドパケットとレスポンスパケットを組」として通信を行う点については、「相違点4について」で検討する。

(相違点3について)
先願発明の「データレジスタ」は、本件特許発明1の「メモリ」と表現上相違するが、上記ポート入力データや上記ポート出力データが対応する記憶領域に記憶され読み出されるものである点で違いは無く、実質的な差異は認められない。
また、先願発明のデータレジスタの記憶領域に記憶され読み出される出力データや入力データが、サテライトターミナルの出力ポートから出力されるデータや入力ポートから入力されるデータにそれぞれ対応して読み出し及び入出力処理される点並びに甲第1号証の図8の記載に照らせば、先願発明には本件特許発明1の「データのビット群の構成が同一形態」とする点が明示されていないものの、この点に実質的な差異は認められない。

(相違点4について)
本件特許発明1のステートマシーンは、「i-1番目の端末装置(2)宛のi-1番目のコマンドパケットの送信が完了した直後に、又は、i-1番目のコマンドパケットの送信が完了してから、i-1番目のレスポンスパケットの受領期間が経過した直後に、」と、その構成が択一的に記載されているが、何れの構成を選択するにしても、「中央装置と端末装置との間の通信において、i-1番目の端末装置との送受信の次はi番目の端末装置との送受信を行うという端末装置を単位とした通信手順の順次性」を有する点に変わりはなく、その上で一つの端末装置との遣り取りに着目すると、「i番目の端末装置にコマンドパケットを送信し、その送信が完了した後、同じi番目の端末装置から入力データが組み込まれたレスポンスパケットを受信する」という通信手順に特徴を有するものである。そしてこのような通信手順を実行させるため、コマンドパケットに端末装置アドレス符号も組み込ませる一方、端末装置では自己の端末装置アドレス符号と照合させることを特徴としている。

そこで、一つの端末装置に着目し、中央装置との通信手順の有り様を比較・検討すると、先願発明において本件特許発明1のコマンドパケットに対応するものとして、シリアル通信ボード55(本件特許発明1の中央装置に相当)からベースターミナル51B(本件特許発明1の端末装置に相当)に送信されるデータという意味で、ベースターミナル51Bに向けたチャンネルCH4?CH7の伝送データを取り上げることができよう。しかし、同じ端末装置であるベースターミナル51Bからは、シリアル通信ボード55に向かって送信される入力データの組み込まれた伝送データ、即ち本件特許発明1の「レスポンスパケット」に対応する伝送データは見いだすことができない。チャンネルCH0?CH3データは、ベースターミナル51Aからシリアル通信ボード55に向け、入力データが組み込まれて送信されるものであるが、ベースターミナル51Aと51Bは別の端末装置に相当するものである。そして、逆に当該ベースターミナル51Aには、シリアル通信ボード55からベースターミナル51Aに向けて送信される出力データが組み込まれた伝送データを見いだすことができない。
結局、ベースターミナル51A?51Bの何れを取っても、シリアル通信ボード55からベースターミナルに送信される伝送データとその逆方向のベースターミナルからシリアル通信ボード55に向かって送信される伝送データの双方を含んだ組み合わせは見いだすことができない。

この点に関して、平成18年1月31日に開催された本件の口頭審理において、請求人は次のように主張している(調書の2)と3)を適宜参照)。
「2)請求人は、弁駁書第5頁の「説明図」のパターン1を使って、甲第1号証の図7では「例えば、ベースターミナル51BでCH4?CH7は纏めて(一括して)送信され、その後、ACKが返信される。そのACKにはデータが含まれない」旨主張する。また、その根拠として(イ)甲第1号証の図7に記載された「CH0?CH3」の「?」の点、(ロ)図8に記載されたデータレジスタ「♯0?♯3」の「?」の点、「CH0?CH3」の「?」の点、及び(ハ)ベースターミナルに内蔵されたゲートアレイにチップアドレスが付与され、このチップアドレスを伝送データに付加する点(段落【0048】後段、【0026】3行目参照)を主張する。
3)上記2)を踏まえた上で、請求人は、上記「説明図」に、可能性のある組み合わせとして記載されたパターン2を使って、「例えばベースターミナル51Aに着目すれば、CH2とCH3のデータが纏めて(一括して)送信され、その後にACK信号、CH0及びCH1の3つのデータが纏めて(一括して)返信される。」と主張する。また、その根拠として、「纏めて(一括して)送信」の点は、上記2)のとおりとし、また、ACKとCHデータが一括されて(ACKにCHデータが含まれて)送信される根拠は、「甲第1号証の図5で<ACK送信>とその左方の<自局の送信順番>を基にした<データ送信>が同時に行われる」点にあること、及び「図5では、例えば<キャリアセンス>と<ACK WAIT>が同時に行われるように、同時のフローの発生が否定されない」ことを主張する。」

そこで、上記請求人の主張について検討する。
先ず、上記2)により、請求人は「CH4?CH7は纏めて(一括して)送信され、その後、ACKが返信される。そのACKにはデータが含まれない。また、その根拠として(イ)甲第1号証の図7に記載された「CH0?CH3」の「?」の点、(ロ)図8に記載されたデータレジスタ「♯0?♯3」の「?」の点、「CH0?CH3」の「?」の点、及び(ハ)ベースターミナルに内蔵されたゲートアレイにチップアドレスが付与される点。」を主張する。一般的に、「?」又は「乃至」(甲第1号証の段落【0052】の1行目等参照)については、複数のものを「○、○、○、・・・」のように逐一記載する代わりに、その先頭のものと末尾のものを取り上げた上で、その間を「?」又は「乃至」を使用して「纏めて(一括して)」表現されることが良く知られている。よって表現上は纏まったものだが、実際の通信手順としてCH4?CH7の4つの伝送データが一つに纏められて送信されるのか又はCH4、CH5、CH6、CH7のチャンネル単位で逐次に送信されるのか定かではない。
確かに、「ベースターミナルに内蔵されたゲートアレイにチップアドレスが付与される」(上記(3-1)甲第1号証のf)の【0048】の記載参照)との記載に着目すれば、チャンネルCHを単位ではなくベースターミナル51Bを単位として送信されることが示唆されていると言えなくもないが、甲第1号証の図1や図6の記載から、出力機器はチャンネルCHを単位に接続されることが示唆されているから、結局はベースターミナル単位のアドレスに加え、何らかの形でチャンネルCHを単位とした処理も必要となるのである。
また、請求人は「CH4?CH7の一括送信後、ACKが返信される。」と主張するが、CH4、CH5、CH6、CH7のチャンネル単位で送信される場合、通信手順を明示する図4の記載によれば、CH4、ACK、CH5、ACK、CH6、ACK、CH7、ACKのような通信手順になると解釈する方が自然でもある。
よって、上記請求人の主張には根拠がないというほかはない。

次に、上記3)により、請求人は「例えばベースターミナル51Aに着目し、CH2とCH3のデータが纏めて(一括して)送信され、その後にACK信号、CH0及びCH1の3つデータが纏めて(一括して)返信される。」と主張し、その「纏めて(一括して)」の根拠は上記2)で主張したとおりであり、ACKとCHデータとが纏めて(ACKにCHデータが含まれて)送信される根拠は、「甲第1号証の図5で<ACK送信>とその左方の<自局の送信順番>を基にした<データ送信>が同時に行われる」点にあること、及び「図5では、例えば<キャリアセンス>と<ACK WAIT>が同時に行われるように、同時のフローの発生が否定されない」旨主張する。
この点、請求人が主張するように、CH0?CH4の送信方向の設定の組み合わせとして、CH0とCH1を入力向けとし、CH3とCH4を出力向けにすること(弁駁書第5頁「説明図」のパターン2参照)、あるいは、CH0とCH1を出力向けとし、CH3とCH4を入力向けに設定することもできないわけでない(甲第1号証の段落【0048】の「同一ゲートアレイGA内の入出力ポートP0乃至P3のなかで入力ポートとして使用するものと出力ポートとして使用するものとが混在してもよい。」参照)。
しかし、この場合には上記2)で請求人が主張するような「?」又は「乃至」の記載が無いので、例えばCH0とCH1を纏めて送信することについては上記CH0?CH3の場合よりも更に根拠がないというべきである。
仮にCH0とCH1を纏めて送信ができたとしても、その後に「ACKとCH2とCH3の3者を纏めて(ACKにCH2、3のデータを含んで)返信する」ということについて、図5には記載も示唆もない。
即ち、図5を参照すると、例えばベースターミナル51Aが<キャリア有り>と認識し、<データチェック>の後、<正常データ受信>により<アドレス比較・格納判断>し、アドレスが<自局データ>であれば<データ格納・I/O出力>し<ACK送信>する。この<ACK送信>の左方には、<送信アドレスチェック>し<自局の送信順番>であれば<データ送信・トリガ出力>の処理を行うとの記載がある。このフローにおいて、<アドレス比較>時の「自局」と<自局の送信順番>のときの「自局」とが仮に同じとしても、また、第5図内の一部の処理が同時に行われることがあるとしても、<ACK送信>とそれ以降の<送信アドレスチェック>及び<データ送信・トリガ出力>は、矢印の前後関係が一本の直列的なフローで書き表されているという点から見て、これらが同時に行われるものではなく引き続く別の処理であると解する方が自然であり、これを根拠に<ACK送信>に(CH2、3の)データを含めると解釈することはできない。
また、甲第1号証の段落【0037】の「次に、この第1実施例の動作説明を図4の通信方式の説明図及び図5の状態遷移図と共に行う。」旨の図4と図5を関係づけた記載の点、及び図4には、CHデータとACKデータとを明確に分離したフローが記載されている点に照らせば、ACKとCHデータとが同時、即ちACKにCHデータを含ませるとすることは、尚更解釈することができない。またこの点、甲第2号証や甲第3号証においても、記載も示唆もない。

以上により、ベースターミナル51A?51Dの内の一つとシリアル通信ボードとの間の通信に限定して比較したとしても、先願発明は、その甲第1号証全体の記載及び甲第2号証や甲第3号証等の周知技術を踏まえても、上記本件特許発明1における中央装置と端末装置との間の通信手順、即ち、「出力データが組み込まれたコマンドパケットの送信と、その後に同じ端末装置の入力データが組み込まれたレスポンスパケットを送信する」という手順と同一のもの、もしくはこれが先願発明から自明な範囲とは言うことができない。

したがって、端末装置が1台であるか複数台であるかについて検討するまでもなく、また、端末装置を単位とする通信の順次性について比較検討するまでもなく、本件特許発明1が上記先願発明と同一であるとすることはできない。また、上記甲第2号証、甲第3号証を参酌しても、同一であるとする根拠は見いだせない。

(相違点5について)
本件特許発明1の端末装置は「自己の端末装置アドレス符号と一致する毎に、コマンドパケットに組み込まれている出力データを出力ポートから出力するとともに、入力ポート(21)からのポート入力データをレスポンスパケットに組み込んで送信する」ものであるが、上記「相違点4について」で述べたように、先願発明のベースターミナル51A?51D(各々本件特許発明1の端末装置に相当)の何れに着目しても、「コマンドパケットに組み込まれている出力データを出力ポートから出力するとともに、同じ端末装置の入力ポートからのポート入力データをレスポンスパケットに組み込んで送信する」旨の本件特許発明1の構成は甲第1号証に見いだすことができない。

よって、本相違点においても、本件特許発明1が、甲第1号証に記載された上記先願発明と同一であるとすることはできない。また、上記甲第2号証、甲第3号証を参酌しても、同一であるとする根拠は見いだせない。

上記相違点1?5の判断に加えて、本件特許発明1は先願発明や甲第2、3号証にない効果を奏するものである。
したがって,本件特許発明1は、甲第2、3号証を周知のものとして参酌してもなお、甲第1号証に記載された上記先願発明と同一であるとすることはできない。

(4-2)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、各々本件の請求項2、3に記載されたとおりのものであるが、請求項2、3はそれぞれ請求項1(本件特許発明1)の従属項である。そして、上記(4-1)のとおり、上記本件特許発明1が甲第1号証に記載された上記先願発明と同一であるとすることはできないのだから、本件特許発明1に更に限定の要件を追加した本件特許発明2、3は、甲第1号証に記載された上記先願発明と同一であるとすることはできないことが明らかである。

したがって、本件特許発明1ないし3が、甲第1号証に記載された上記先願発明と同一であるとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-08 
結審通知日 2006-02-13 
審決日 2006-02-27 
出願番号 特願平8-145648
審決分類 P 1 113・ 161- Y (H04L)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 羽鳥 賢一
特許庁審判官 廣岡 浩平
衣鳩 文彦
登録日 1999-10-22 
登録番号 特許第2994589号(P2994589)
発明の名称 サイクリック自動通信による電子配線システム  
代理人 沢田 雅男  
代理人 木下 洋平  

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