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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1153275
審判番号 不服2004-4934  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-11 
確定日 2007-03-08 
事件の表示 平成10年特許願第244138号「画像印刷方法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 7日出願公開、特開2000- 71520〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年8月28日の出願であって、平成16年2月2日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年3月11日付けで本件審判請求がされるとともに、同月26日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年3月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正目的
本件補正後の請求項2は、補正前請求項9を限定的に減縮(特許法17条の2第4項2号該当)することを目的としたものと認める。
そこで、本件補正後の請求項2に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項2】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「それぞれが1つの画素ドットを印刷する複数のドット素子を上下または左右の所定方向に配設した印刷ヘッドの、前記複数のドット素子の一部を使用して、前記印刷ヘッドにより印刷可能な前記所定方向の最大ドット数より小さな前記所定方向のドット数を有する印刷画像を、前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら、前記印刷対象物に印刷する画像印刷装置であって、
前記印刷画像を前記印刷対象物上の所定の印刷領域に印刷するに際して、前記複数のドット素子の使用範囲を前記所定方向において移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記所定方向においてドット単位で調整可能であるとともに、前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能である印刷位置調整手段を備え、
前記印刷領域として大きさの異なる複数種類が存在し、
前記印刷位置調整手段は、前記印刷位置の調整情報を表示画面に表示する表示手段を有し、
前記調整情報には、調整対象となる前記印刷領域の種別と、前記印刷位置の調整方向と、前記ドット単位による調整値が含まれることを特徴とする画像印刷装置。」

3.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-96790号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?コの記載が図示とともにある。
ア.「キャラクタのコードデータ及び種々の指令信号を入力する為の入力手段と、入力されたコードデータを格納する為の入力データバッファと、多数のキャラクタのドットパターンデータを格納したパターンデータ記憶手段と、印字されるキャラクタのドットパターンデータをパターンデータ記憶手段から受けて格納する為の印字バッファと、キャラクタが印字される印字媒体テープ上にドット列にて印字可能な印字ヘッドと、印字バッファからドットパターンデータのドット列データを順次受けて印字ヘッドを制御する制御手段とを備えたテープ印字装置において、
前記印字媒体テープに印字するときの印字基線位置をテープ送り方向と直交方向に可変に設定する為の基線位置設定手段と、
前記基線位置設定手段の出力を受け、設定された印字基線位置でもって印字媒体テープ上に印字するように、印字バッファ内のドットパターンデータをドット列方向にシフトさせるパターンデータシフト手段とを備えたことを特徴とするテープ印字装置。」(【請求項1】)
イ.「本発明はテープ印字装置に関し、特に印字媒体テープに印字するキャラクタの印字基線位置をテープ幅方向に可変に設定できるようにしたものに関する。」(段落【0001】)
ウ.「本発明の目的は、印字文字列のレイアウトにバリエーションを施すことができるようなテープ印字装置を提供することにある。」(段落【0004】)
エ.「図5に示すように、1行印字のときには文字「A」で示すように、L文字パターンデータに基いてサーマルヘッド7の発熱素子群11に対応する印字用テープ9上の印字領域PE全域に亙って印字用テープ9上に印字され、また2行印字のときにはSS文字パターンデータに基いて、上段行の印字はこの印字領域PE内の上段印字行ULに行なわれ、下段行の印字は印字領域PEの下段印字行LLに行なわれる。更に、L文字の通常印字基線位置PS1は発熱素子群11の最下位置に対応し、またSS文字に関する上段行の印字基線位置PS2は発熱素子群11の幅方向の中央位置に対応する中央線CLよりも「4」ドット分上側の位置に設けられ、SS文字に関する下段行の通常印字基線位置PS3は前記印字基線位置PS1よりも「4」ドット分上側の位置に設けられている。」(段落【0017】)
オ.「ディスプレイ19に1行印字マーク「>」が表示され且つこの1行印字マーク「>」に対応する1行印字指令データを入力」(段落【0018】)
カ.「上段印字行マーク「△」がディスプレイ19に表示される・・・下段行印字行マーク「▽」がディスプレイ19に表示される」(段落【0021】)
キ.「設定キーが操作されたとき・・・印字基線位置に関する先頭の選択内容、例えば印字基線位置を通常印字基線位置PS2・PS3に対して印字用テープ9の上端側に4ドット分だけ変更する「基線位置+4」がディスプレイ19に表示され(S39)、フラグF5がセットされる(S40)。・・・次に、選字用ダイヤル3が回転操作されたとき・・・印字基線位置に関する次の選択内容、例えば「基線位置+3」がディスプレイ19に表示される(S25)。以後、選字用ダイヤル3を連続して回転操作したときには、選択内容「基線位置+2」→「基線位置+1」→「基線位置-1」→「基線位置-2」→「基線位置-3」→「基線位置-4」→「基線位置+4」が順次ディスプレイ19に表示される。尚、「基線位置-1」?「基線位置-4」は、印字基線位置を通常印字基線位置PS2・PS3に対して印字用テープ9の下端側への変更量である。」(段落【0024】?【0025】)
ク.「上段行印字指令データに印字基線位置変更量dが格納されているときには(S93:Yes)、その基線位置変更量d(+4ドット)が読出されて印字基線位置変更量メモリ36に格納され(S94)、図19に示すようにこのドットパターンデータを上段行の通常印字基線位置PS2にシフトさせる為の「4ドット」にこの基線位置変更量dを加算したドット数分だけドット列方向にシフトされる(S96)。」(段落【0035】)
ケ.「下段行印字指令データに印字基線位置変更量dが格納されているときには(S99:Yes)、その基線位置変更量d(-4ドット)が読出され印字基線位置変更量メモリ36に格納され(S100)、ドットパターンデータを下段行の通常印字基線位置PS3にシフトさせる為の「4ドット」にこの基線位置変更量dを加算したドット数分だけドット列方向にシフトされ(S102)」(段落【0036】)
コ.「1行印字用のドットパターンデータとして、48ドット×48ドットより小さいドット数からなるドットパターンデータを用いて、1行印字のときにも印字基線位置を変更可能に構成することも可能である。」(公報11欄の段落【0028】。なお、段落【0028】は公報7欄にもあり、11欄の段落【0028】直前の段落は【0037】であるから、11欄の段落【0028】?【0030】は、【0038】?【0040】の誤記と認める。)

4.引用例記載の発明の認定
引用例の記載キは記載アの「基線位置設定手段」についての説明であり、操作に伴い「基線位置+4」→「基線位置+3」→「基線位置+2」→「基線位置+1」→「基線位置-1」→「基線位置-2」→「基線位置-3」→「基線位置-4」→「基線位置+4」の順にディスプレイに表示されるものであり、記載カの「基線位置変更量d(+4ドット)」を併せ読めば、印字基線位置をドット単位で設定する手段である認めることができる。
記載コの「1行印字のときにも印字基線位置を変更可能に構成する」場合にも、当然印字基線位置をドット単位で設定することができ、記載アの「印字ヘッド」はテープ幅方向(記載アの「テープ送り方向と直交方向」に同義と認める。)に複数のドット素子を配設したものであり、そのうちの一部のみを用いて印字を行うと認めることができる。
したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「キャラクタのコードデータ及び種々の指令信号を入力する為の入力手段と、入力されたコードデータを格納する為の入力データバッファと、多数のキャラクタのドットパターンデータを格納したパターンデータ記憶手段と、印字されるキャラクタのドットパターンデータをパターンデータ記憶手段から受けて格納する為の印字バッファと、キャラクタが印字される印字媒体テープ上にドット列にて印字可能な印字ヘッドと、印字バッファからドットパターンデータのドット列データを順次受けて印字ヘッドを制御する制御手段とを備えたテープ印字装置において、
前記印字ヘッドはテープ幅方向に複数のドット素子を配設し、そのうちの一部のみを用いて印字を行うものであり、
前記印字媒体テープに印字するときの印字基線位置をテープ幅方向にドット単位で可変に設定し、設定内容を表示する基線位置設定手段と、
前記基線位置設定手段の出力を受け、設定された印字基線位置でもって印字媒体テープ上に印字するように、印字バッファ内のドットパターンデータをドット列方向にシフトさせるパターンデータシフト手段とを備えたテープ印字装置。」(以下「引用発明」という。)

5.補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「印字ヘッドはテープ幅方向に複数のドット素子を配設」したものであり、「テープ幅方向」と本願発明の「上下または左右の所定方向」に差異を認めることはできないから、補正発明の「それぞれが1つの画素ドットを印刷する複数のドット素子を上下または左右の所定方向に配設した印刷ヘッド」に相当する。
引用発明の「印字バッファ内のドットパターンデータ」(厳密にいうと、キャラクタ印字に割り当てられている部分であり、「ドット列方向にシフト」可能とするため、空白データが割り当てられるドット行が必ず存在し、それは含まない。)と補正発明の「印刷画像」にも差異を認めることはできず、引用発明では複数のドット素子の一部のみを用いて印字を行うのだから、「印刷ヘッドの、前記複数のドット素子の一部を使用して、前記印刷ヘッドにより印刷可能な前記所定方向の最大ドット数より小さな前記所定方向のドット数を有する印刷画像を、前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら、前記印刷対象物に印刷する画像印刷装置」である点で、補正発明と引用発明に相違はない。なお、補正発明の「印刷対象物」に相当するのは引用発明の「印字媒体テープ」であり、引用発明においても「前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら」印刷することは自明である。
引用発明において「印字基線位置をテープ幅方向にドット単位で可変に設定」すれば、複数のドット素子の使用範囲も可変となるから、引用発明の「基線位置設定手段」は「前記複数のドット素子の使用範囲を前記所定方向において移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記所定方向においてドット単位で調整可能である」との限度で補正発明の「印刷位置調整手段」と一致するものであり、「調整情報を表示画面に表示する表示手段」を有する点及び「調整情報」に「ドット単位による調整値」(引用発明の「設定内容がこれに相当する。)が含まれる点においても、補正発明と引用発明は一致する。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「それぞれが1つの画素ドットを印刷する複数のドット素子を上下または左右の所定方向に配設した印刷ヘッドの、前記複数のドット素子の一部を使用して、前記印刷ヘッドにより印刷可能な前記所定方向の最大ドット数より小さな前記所定方向のドット数を有する印刷画像を、前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら、前記印刷対象物に印刷する画像印刷装置であって、
前記印刷画像を前記印刷対象物上に印刷するに際して、前記複数のドット素子の使用範囲を前記所定方向において移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記所定方向においてドット単位で調整可能である印刷位置調整手段を備え、
前記印刷位置調整手段は、前記印刷位置の調整情報を表示画面に表示する表示手段を有し、
前記調整情報には、前記ドット単位による調整値が含まれる画像印刷装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「印刷対象物上の所定の印刷領域に印刷する」及び「印刷領域として大きさの異なる複数種類が存在し」と限定し、調整情報に「調整対象となる前記印刷領域の種別」が含まれると限定しているのに対し、引用発明がかかる限定を有するとまではいえない点。
〈相違点2〉補正発明の「印刷位置調整手段」が「前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能」であり、調整情報に「印刷位置の調整方向」が含まれるのに対し、引用発明の「印刷位置調整手段」が「印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能」とはいえない(当然、調整情報には「印刷位置の調整方向」が含まれない。)点。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
「印刷領域」との用語の意味は必ずしも明確ではないが、本件補正後の請求項2を引用する請求項4に「前記印刷領域は、前記印刷対象物にハーフカットで形成された半抜きラベルの領域である」との記載があることを考慮すれば、印刷対象物上の印刷許容範囲と解するのが相当である。そして、補正発明では「印刷位置調整手段」が印刷画像の印刷位置を所定方向及び直交方向の2方向で調整することを踏まえれば、印刷許容範囲についても上記2方向において規制されていると解するのが相当である。
引用発明では、テープ幅方向(補正発明でいう「所定方向」)の印刷許容範囲は規制されているけれども、直交方向においては必ずしも規制されていない。
しかしながら、引用発明における「印字媒体テープ」として、「ハーフカットで形成された半抜きラベルの領域」を有するテープを採用できない理由はない。そのようなテープは周知である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-183427号公報(以下「周知例」という。)を参照。)。しかも、上記周知例の【図3】には、大きさの異なる複数の「型抜されたラベル」(「半抜きラベルの領域」と同義と認める。)が図示されている。そればかりか、多くのテープ印字装置は、異なる幅のテープに対して印刷可能であり、幅の異なるテープでれば「ハーフカットで形成された半抜きラベルの領域」のサイズも異なると解すべきである。
そうであれば、「印刷対象物上の所定の印刷領域に印刷する」及び「印刷領域として大きさの異なる複数種類が存在し」と限定することは設計事項というべきである。
ところで、引用発明の実施例では、1行印字と2行印字の選択ができ、1行印字であるのか、又は2行印字の上段若しくは下段であることを表示している(記載オ,カ)。これらの表示は印刷位置調整時の表示ではないかもしれないが、印刷領域として大きさの異なる複数種類が存在する場合には、どの印刷領域を対象としての調整であるかを、操作者に知らしめることが有意義な点においては、記載オ,カにおける表示と何ら異ならない。したがって、印刷領域として大きさの異なる複数種類が存在する場合に、調整情報に「調整対象となる前記印刷領域の種別」が含ませることも設計事項というべきである。
以上のとおり、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項である。

(2)相違点2について
(1)で述べたように、「ハーフカットで形成された半抜きラベルの領域」を有するテープは周知であり、そのようなテープを引用発明に採用することは設計事項である。その場合、「半抜きラベルの領域」内に印刷しなければならないことは自明である。
ところで、引用発明は「印字文字列のレイアウトにバリエーションを施す」(引用例の記載ウ)ことを目的とした発明であり、直交方向における印刷位置をも調整する方がより目的に適うことは明らかである。半抜きラベルの領域を有さない通常テープであれば、テープのカット位置を調整する等によって、結果的に直交方向における印刷位置を調整することができるが、半抜きラベルの領域を有するテープであれば、印刷段階で印刷位置を調整するよりない。
また、本願明細書に出願当初から一貫して「テープ印刷装置などの印刷装置では、印刷ヘッドにより印刷する方向と印刷対象物(例えばテープ)の送り方向とが一致するので、送り制御により調整できるのは、その送り方向の印刷開始/終了位置であり、いわゆる前余白や後余白(上記ワープロの上下の余白に相当)は調整できる」(段落【0005】)とあるように、「前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記直交方向において調整可能」とすることには何の技術的困難性もない。そうである以上、引用発明において「前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定する」を採用することは設計事項というべきである。
残る検討項目は、直交方向における設定を「ドット単位」とすること(以下「前者」という。)、及び調整情報に「印刷位置の調整方向」が含まれること(以下「後者」という。)である。
前者については、上記段落【0005】の記載からみて、「相対移動の制御により移動させるように設定」は「印刷開始/終了位置」の設定や、「前余白や後余白」の設定と等価であり、「ドット単位」で設定しなければならない理由はなく、「ドット単位」で設定することの格別の作用効果を認めることもできない。他方、補正発明と引用発明に共通して、「所定方向」の設定は「ドット単位」でしか設定できず、そのように設定している。そうであれば、直交方向の設定を「ドット単位」とすることは、、「所定方向」の設定に倣った程度であり、これも設計事項というべきである。
後者については次のとおりである。(1)でも述べたように、引用発明の実施例では、1行印字と2行印字の選択ができ、1行印字であるのか、又は2行印字の上段若しくは下段であることを表示している。このような表示により、現在何を操作しているかを操作者にわかりやすく知らせていることは明らかである。印刷位置の設定についても、所定方向と直交方向の1方向の設定を行うのであれば、現在設定中のものがどちらの方向であるかを操作者に知らせることが有意義なことは明らかであるから、そのようにすることは設計事項である。
以上のとおりであるから、相違点2に係る補正発明の構成を採用することも設計事項である。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは設計事項であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反しており、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年7月9日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項9】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「それぞれが1つの画素ドットを印刷する複数のドット素子を上下または左右の所定方向に配設した印刷ヘッドの、前記複数のドット素子の一部を使用して、前記印刷ヘッドにより印刷可能な前記所定方向の最大ドット数より小さな前記所定方向のドット数を有する印刷画像を、前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら、前記印刷対象物に印刷する画像印刷装置であって、
前記印刷画像を前記印刷対象物上の所定の印刷領域に印刷するに際して、前記複数のドット素子の使用範囲を前記所定方向において移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記所定方向においてドット単位で調整可能であるとともに、前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能である印刷位置調整手段を備えたことを特徴とする画像印刷装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明とは、
「それぞれが1つの画素ドットを印刷する複数のドット素子を上下または左右の所定方向に配設した印刷ヘッドの、前記複数のドット素子の一部を使用して、前記印刷ヘッドにより印刷可能な前記所定方向の最大ドット数より小さな前記所定方向のドット数を有する印刷画像を、前記印刷ヘッドおよび印刷対象物の少なくとも一方を他方に対して前記所定方向と直交する直交方向に相対移動させながら、前記印刷対象物に印刷する画像印刷装置であって、
前記印刷画像を前記印刷対象物上に印刷するに際して、前記複数のドット素子の使用範囲を前記所定方向において移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記所定方向においてドット単位で調整可能である印刷位置調整手段を備えた画像印刷装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1’〉本願発明が「印刷対象物上の所定の印刷領域に印刷する」と限定しているのに対し、引用発明がかかる限定を有するかどうか明らかでない点。
〈相違点2’〉本願発明の「印刷位置調整手段」が「前記直交方向における前記印刷画像の印刷位置を前記相対移動の制御により移動させるように設定することにより、前記印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能である」のに対し、引用発明の「印刷位置調整手段」が「印刷画像の印刷位置を前記直交方向においてドット単位で調整可能」とはいえない点。

「第2[理由]6」において、相違点1,2について述べたと同様の理由により、相違点1’,2’に係る本願発明の構成を採用することは設計事項であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-26 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-23 
出願番号 特願平10-244138
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 長島 和子
島▲崎▼ 純一
発明の名称 画像印刷方法およびその装置  
代理人 落合 稔  

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