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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1154243
審判番号 不服2004-20276  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-30 
確定日 2007-03-15 
事件の表示 平成 7年特許願第337193号「プリンタ装置及びプリント方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月 8日出願公開、特開平 9-174934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成7年12月25日の出願であって、平成16年8月27日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月30日付けで本件審判請求がされるとともに、同年10月25日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年10月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正前後の【請求項1】の記載は次のとおりである。なお、平成16年8月5日付け手続補正は原審において却下されたから、補正前とは同年4月23日付け手続補正による補正後を意味する。

(補正前の請求項1)
「プリントヘッドを往方向走査及び復方向走査して、上記プリントヘッドに供給されるプリント情報のプリントを行うプリンタ装置において、
上記プリントヘッドの走査時の通過のタイミングを検出する検出手段と、
上記検出手段からの検出信号の任意の基準点からの遅延時間を計測する計測手段と、
上記プリントヘッドの駆動のタイミングを制御する制御手段とを有し、
上記往方向走査及び復方向走査での上記検出信号の基準点からの遅延時間の差を判別し、
上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正し、
上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする
ことを特徴とするプリンタ装置。」

(補正後の請求項1)
「プリントヘッドを往方向走査及び復方向走査して、上記プリントヘッドに供給されるプリント情報のプリントを行うプリンタ装置において、
上記プリントヘッドの走査時の通過のタイミングを検出する検出手段と、
上記検出手段からの検出信号の任意の基準点からの遅延時間を計測する計測手段と、
上記プリントヘッドの駆動のタイミングを制御する制御手段とを有し、
上記往方向走査及び復方向走査での上記検出信号の基準点からの遅延時間の差を判別し、
記録解像度が400dpiの場合、上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正し、
上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする
ことを特徴とするプリンタ装置。」(下線部が本件補正により追加記載された箇所)

2.補正目的違反
本件補正によれば「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」するかどうかが、「記録解像度が400dpi」であるかどうかによって決し、「記録解像度が400dpi」以外であれば、そのような駆動タイミングの補正を要しないことになる。
しかし、補正前の請求項1においては、上記のように駆動のタイミングを補正することについて、記録解像度について何らの条件も付加されていないから、「記録解像度が400dpi」以外であっても駆動タイミングの補正をすると解すべきである。
したがって、本件補正は、補正前の請求項1を減縮するというよりむしろ拡張するものであるから、特許法17条の2第4項2号の規定には該当しない。特許法17条の2第4項1号,3号又は4号の何れにも該当しないことも明らかである。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.新規事項追加
(1)本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、「記録解像度が400dpi」以外であれば、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」することを要しないことは、2.で述べたとおりである。
しかし、駆動のタイミングを補正について、「記録解像度が400dpi」であるかどうかによって区別することは願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、これらを総称して「当初明細書」という。)の何れにも記載されていないし、自明の事項でもない。

(2)補正発明においては、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」することと、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする」ことが独立して記載されており、そうである以上、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいとき」には、「プリント情報をシフトする」だけで、「往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」しない場合を含んでいる。
これに対し当初明細書には、「各プリントヘッドの機構的な誤差が1/2画素の幅以上になる場合には、各プリントヘッドに供給されるプリント情報をシフトすることによって、誤差を1/2画素の幅以下にすることができる。そしてその後に、上述の吐出の駆動信号のタイミングのシフトにより、往方向走査及び復方向走査でのプリントの位置の補正を行うことができるものである。」(段落【0061】)とあり、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいとき」には、「プリント情報をシフトする」だけでなく、「往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」する旨記載されている。
したがって、補正発明はこの意味においても当初明細書に記載された発明ということはできない。なお、後記独立特許要件の判断及び本件補正前の請求項1に係る発明の進歩性の判断においては、「往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」することと、「記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする」こととを組み合わせたもの(それも、当然補正発明等に包含される。)に限定した判断を行う。

(3)以上2つの理由により、本件補正が当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたと認めることはできないから、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。

4.独立特許要件欠如
(1)補正発明の認定
2.で述べたとおり、本件補正は限定的減縮を目的とするものと認めることはできないが、仮にそうであるとした場合の予備的判断を以下において行う。補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、その記載は1.に示したとおりであるので再掲しない。

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-90369号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?キの記載が図示とともにある。
ア.「紙・OHPシートなどの記録媒体の搬送方向に対し、直角に往復運動する記録ヘッドを搭載した可動部(キャリッジ)を有するシリアルプリンタは、種々の配録方式による記録ヘッドを搭載した形態で提案されている。このシリアルプリンタ、特にドットマトリックスにて文字・図形・その他の画像の形成を行うプリンタで使われている記録ヘッドには、ワイヤードット方式、感熱方式、熱転写方式およびインクジェット方式によるものなどがある。」(2頁左上欄10?19行)
イ.「正逆両方向印字をするこの種のプリンタにおいては、縦横罫線による作表能力や、グラフ等の図形作成能力、そして複数行にわたる拡大文字等が要求されるため、正方向と逆方向の印字結果をより高い精度で合致させることが望まれている。さらに、印字の解像度の向上に伴って印字パターンを構成するドットも細かくなり、正逆の印字結果が少しでも合致してないと非常に見苦しい結果になる。この点からも正逆印字結果の合致が強く要望されている。」(2頁左下欄2?11行)
ウ.「正逆両方向印字をする際には、メカ的な組立精度のバラツキや外気温の変化による各機構部の摩擦力やゴムの弾性力の変化、さらにはキャリッジの移動距離の変化による制御テーブルの変化等の要因により、正方向の印字結果と逆方向の印字結果に横方向のずれが発生する。そのとき、正方向あるいは逆方向の少なくとも一方で印字開始アドレスに補正を加えてやることにより、印字開始位置をドット単位で調整することができる。すなわち、未印字領域の範囲内で印字開始アドレスの補正を行えれば、印字データポインタを変えるだけで他の部分に何も影響を与えずに簡単にずれ補正ができることになる。」(10頁左下欄末行?右下欄12行)
エ.「正方向印字において印字開始アドレスを補正する場合について説明する。
ここで、正方向印字は、ヘッドを右方へ進行させながら行う印字であり、また未印字領域は第20図(A)に示すように2ドット分として、それに対応するバッファ領域が記録データバッファPBに確保されているものとする。そのバッファ領域はデータを書込まない領域(“0”を書込んである領域)であり、この領域に対応するアドレスを印字の開始アドレスとして印字を実行することにより、最大2ドット分の未印字領域ができることになる。その開始アドレスは開始アドレスレジスタ157に格納されており、前述したような印字ずれの要因に応じて変更できるものとする。
いま、ずれ補正を必要としないときは、第10図(A)(審決注;「第20図(A)」の誤記と解する。)に示すように、実質の未印字領域を半分の1ドットとするように印字の開始アドレスを開始アドレスレジスタ157に設定する。これにより、ヘッドの進行方向の前後1ドット分ずつのずれ補正の余裕のある中立状態での印字が実行されることになる。
第10図(B)(審決注;「第20図(B)」の誤記と解する。)は、開始アドレスレジスタ157の設定アドレスを1アドレス分だけアップさせた場合であり、印字の開始アドレスが1ドット分ずれて、その印字行全体の印字結果が1ドット分だけ左方にずれることになる。
逆に、開始アドレスレジスタ157の設定アドレスを1アドレス分だけダウンさせた場合には、印字結果が1ドット分だけ右方にずれることになる。
このような1ドット単位のずれ補正は、逆方向印字においても行うことができ、その場合には終了アドレスレジスタ161の設定値を変更すればよい。」(10頁右下欄13行?11頁右上欄6行)
オ.「第15図に示したようなC0M8?COM1の出力タイミングとモータ駆動信号CM1?CM4の出力タイミングとの関係において、CM1?4の変化点とC0M8の立下り変化点との時間間隔を$00?$08の間で任意に設定できるようにすると、ヘッドの移動方向における1ドットの範囲内での印字位置調整が行える。」(11頁右上欄10?16行)
カ.「上述した2つのずれ補正、つまり印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正と、印字の開始タイミング調整による1ドット範囲内の細かなずれ補正を組み合わせることにより、正逆両方向印字時の横方向のずれをより正確に補正することができる。」(11頁左下欄13?18行)
キ.「他の実施例としては、印字ずれの補正量を正方向、逆方向印字の両方に分配して与えることもできる。つまり、プリンタ自体の正規な印字ポジションに対して印字結果の位置が正逆の両方向印字においてずれるわけだから、そのずれ補正を両方向に1/2ずつ分配して逆方向にかけてやることにより、プリンタの正規な印字ポジションに対して印字結果の位置が常に一定になるように補正することができる。」(11頁右下欄12?20行)

(3)引用例1記載の発明の認定
引用例1において、記載カのとおりの「正逆両方向印字時の横方向のずれをより正確に補正することができる」シリアルプリンタは次のようなものである。
「正逆両方向印字をするシリアルプリンタであって、
印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正と、印字の開始タイミング調整による1ドット範囲内の細かなずれ補正を組み合わせることにより、正逆両方向印字時の横方向のずれを補正することができるシリアルプリンタ。」(以下「引用発明1」という。)

(4)補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「シリアルプリンタ」は「正逆両方向印字をする」ものであり、正方向及び逆方向は補正発明の「往方向」及び「復方向」に順不同に相当するから、引用発明1を「プリントヘッドを往方向走査及び復方向走査して、上記プリントヘッドに供給されるプリント情報のプリントを行うプリンタ装置」ということができる。
引用発明1では「印字の開始タイミング調整」を行っているから、補正発明の「プリントヘッドの駆動のタイミングを制御する制御手段」を有するものと認める。
引用例1の記載エは「印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正」についての詳細説明であり、「未印字領域は第20図(A)に示すように2ドット分として、それに対応するバッファ領域が記録データバッファPBに確保されているものとする。・・・・・・この領域に対応するアドレスを印字の開始アドレスとして印字を実行することにより、最大2ドット分の未印字領域ができることになる。その開始アドレスは開始アドレスレジスタ157に格納されており、前述したような印字ずれの要因に応じて変更できるものとする。」との記載によれば、開始アドレスを変更することにより、プリントヘッドに供給されるプリント情報がシフトされると認めることができるから、引用発明1の「印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正」は補正発明の「上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする」ことと異ならない。また、引用発明1の「印字の開始タイミング調整」が補正発明の「往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」に相当することは明らかである。すなわち、ずれ幅を補正するために、往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正する手段、及びずれ幅を補正するためにプリント情報をシフトする手段を有する点において、補正発明と引用発明1は一致する。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「プリントヘッドを往方向走査及び復方向走査して、上記プリントヘッドに供給されるプリント情報のプリントを行うプリンタ装置において、
上記プリントヘッドの駆動のタイミングを制御する制御手段とを有し、
上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正する手段、及び上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする手段を有するプリンタ装置。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「プリントヘッドの走査時の通過のタイミングを検出する検出手段」及び「検出手段からの検出信号の任意の基準点からの遅延時間を計測する計測手段」を有し、「往方向走査及び復方向走査での上記検出信号の基準点からの遅延時間の差を判別」しているのに対し、引用発明1はかかる構成を採用していない点。
〈相違点2〉補正発明が「記録解像度が400dpiの場合、上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正し、上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする」としているのに対し、引用発明1では「印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正と、印字の開始タイミング調整による1ドット範囲内の細かなずれ補正を組み合わせる」ものの、補正発明の上記構成に当たるとまではいえない点。

(5)相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
〈相違点1について〉
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-261678号公報(以下「引用例2」という。)には、「キャリッジの移動範囲内の少なくとも1か所に設けられたキャリッジ位置検出手段と、・・・キャリッジ往復駆動手段が予め定められたキャリッジ駆動制御基準点に至った時点と、キャリッジが前記キャリッジ位置検出手段に至った時点との、キャリッジ往動時及び復動時の各時間を測定する移動時間測定手段と、その往動時及び復動時の移動時間の差を当該プリンタの駆動力伝達系のバックラッシュのデータとして求める移動時間差演算手段と、その演算結果に基づいて往復印字における往印字及び復印字の少なくとも一方の印字タイミングを前記移動時間差に基づいて前記バックラッシュを相殺する側にずらす印字タイミング補正手段とを含む」(1頁左下欄9行?右下欄7行。なお、改行及び一字空白は省略した。)との記載がある。
補正発明は「検出手段からの検出信号の任意の基準点からの遅延時間を計測する計測手段」とは別に「プリントヘッドの走査時の通過のタイミングを検出する検出手段」を有しているから、「タイミングを検出」は時間の検出ではなく、特定位置をプリントヘッドが通過することを検出するという意味に解すべきであり、引用例2記載の「キャリッジ位置検出手段」がこれに相当する。また、引用例2記載の「移動時間測定手段」が補正発明の「計測手段」に相当し(時間測定は、基準となる時点(基準点)からの遅延時間測定である。)、「プリンタの駆動力伝達系のバックラッシュのデータとして求める」ことは補正発明における「往方向走査及び復方向走査での上記検出信号の基準点からの遅延時間の差を判別」にほかならない。
そして、「往復印字における往印字及び復印字の少なくとも一方の印字タイミングを前記移動時間差に基づいて前記バックラッシュを相殺する側にずらす印字タイミング補正」は、引用発明1においても行われることであり、当然引用発明1においても、引用例2記載の「移動時間差」に相当する情報が必要である。そうである以上、その情報を引用例2記載の技術により取得することは当業者にとって想到容易であり、引用例2記載の技術を採用することは相違点1に係る補正発明の構成を採用することにほかならない。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

〈相違点2について〉
相違点2に係る補正発明の構成のうち、「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当する」とあるのは、相違点1に係る補正発明の構成を採用した結果にすぎないから、ここでは検討する必要がない。
まず「記録解像度が400dpiの場合」との文言を度外視して検討する。
補正発明では、記録解像度の画素間隔の1/2画素幅(以下「記録解像度の画素間隔の」との修飾語を省略する。)より大きいときは、ずれ幅を補正するためにプリント情報をシフトしているから、シフト後のずれ量は、画素間隔の-1/2画素幅?+1/2画素幅の範囲である。そうである以上「記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下」とあるのは、ずれ量が正の場合と負の場合があることを意味し、-1/2画素幅?+1/2画素幅までの幅は1画素幅であって、引用発明1の「1ドット範囲内」と異ならない。
ところで、「1ドット範囲内の細かなずれ補正」に当たって、正逆何れか一方向のみ補正し、かつ遅れる方向又は早める方向のどちらかしか補正できない場合には、ずれ量から1画素幅の整数倍を控除した余りを「細かなずれ」としなければならないから、それは0画素幅?1画素幅となる。
しかし、引用例1の記載キに「ずれ補正を両方向に1/2ずつ分配」する場合には、「細かなずれ」を上記のように0画素幅?1画素幅としなければならない理由はない。正方向を遅らせることと逆方向を早めることは等価であるから、遅れる方向及び早める方向の両方に補正可能な場合も同様である。そして、1画素幅を両方向に分配又は遅らせる方向と早める方向に分配する場合には、1画素幅を2等分して、それぞれ1/2画素幅ずつ分担することとなり、そのようにすることは設計事項というべきである。このように、「細かなずれ」を1画素幅を両方向に分配又は遅らせる方向と早める方向に分配すれば、「ずれ幅が、上記記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正」することとなるし、「細かなずれ」を1/2画素幅以下とするために、「プリント情報をシフト」(「1ドット単位のずれ補正」)を「記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいとき」に行わざるを得ない。
したがって、相違点2に係る補正発明の構成のうち、「記録解像度が400dpiの場合」との文言を度外視した構成を採用することは設計事項というべきである。
そして、補正発明は「記録解像度が400dpiの場合」と断っているけれども、記録解像度が400dpiの場合には、ずれ補正を行う必要があるが、それ以外の解像度ではその必要がないと認めることはできないばかりか、補正発明においても記録解像度が400dpi以外の場合に、ずれ補正を行わない旨規定しているわけではない。
したがって、「記録解像度が400dpiの場合」との文言を含めた場合にも、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは設計事項というべきである。

〈補正発明の独立特許要件の判断〉
相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできないから、補正発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正が特許法17条の2第4項2号の規定に該当するとした場合には、同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第3項及び4項の規定に違反しており、仮に同条4項の規定に違反しない場合には同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
平成16年8月5日付け手続補正は原審において却下され、本件補正は当審において却下されたから、平成16年4月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面に基づいて審理する。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記平成16年4月23日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、その記載は「第2[理由]1」において「(補正前の請求項1)」として示したとおりであるから、ここでは再掲しない。

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明1とは「第2[理由]4(4)」で述べた一致点において一致し、相違点1及び次の相違点2’において相違する(相違点1については「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
〈相違点2’〉本願発明が「上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、記録解像度の画素間隔の1/2画素幅以下のときは、上記ずれ幅を補正するために、上記往方向走査及び復方向走査でのプリントヘッドの駆動のタイミングを補正し、上記検出信号の基準点からの遅延時間の差に相当するずれ幅が、記録解像度の画素間隔の1/2画素幅より大きいときは、上記ずれ幅を補正するために上記プリント情報をシフトする」としているのに対し、引用発明1では「印字開始ドット位置のデータポイント調整による1ドット単位のずれ補正と、印字の開始タイミング調整による1ドット範囲内の細かなずれ補正を組み合わせる」ものの、本願発明の上記構成に当たるとまではいえない点。

相違点1については「第2[理由]4(5)」で述べたと同様に、引用例2記載の技術を採用することにより、当業者にとって想到容易である。
相違点2’に係る本願発明の構成は、相違点2の補正発明の構成のうち「記録解像度が400dpiの場合」との文言を除いた構成と実質的に同一である。そして、「第2[理由]4(5)」では、上記文言を度外視した構成を採用することが設計事項である旨説示した。同じ理由により、相違点2’に係る本願発明の構成を採用することは設計事項である。
また、相違点1,2’に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-10 
結審通知日 2007-01-16 
審決日 2007-01-29 
出願番号 特願平7-337193
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 長島 和子
藤井 靖子
発明の名称 プリンタ装置及びプリント方法  
代理人 角田 芳末  

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