• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B41F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41F
管理番号 1154573
審判番号 不服2004-11792  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-10 
確定日 2007-03-22 
事件の表示 特願2001-306554「印刷機」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 9日出願公開、特開2003-103747〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成13年10月2日の出願であって、平成16年4月27日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年6月10日付けで本件審判請求がされるとともに、同年7月12日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年7月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及び補正目的
本件補正前後の特許請求の範囲の記載を比較すると、補正前請求項1記載の「当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版胴の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定するように取り付けてなる」が「当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版銅の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定し同軸受けフレームの振動による版胴の動きに追従して動くように取り付けてなる」(下線部が補正箇所)と補正されているから、「センタリング装置および/またはロック装置」の取り付けについて限定するものであり、特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。なお、補正目的がそれ以外ならば、本件補正は特許法17条の2第4項に違反するものとして却下される。
そこで、本件補正後の請求項1?5に係る発明(以下、請求項番号に応じて「補正発明1」?「補正発明5」といい、これらを総称して「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】?【請求項5】に記載された事項によって特定されるものであり、【請求項1】及び【請求項4】の記載は次のとおりである。
【請求項1】印刷ユニットと、版銅、ブランケット胴および圧胴から成る印刷部と、その他の補助装置Aとを備えた印刷機であって、
当該補助装置Aを、版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動と、円柱の軸線からの距離を実質的に一定にしたまま円柱の軸線に沿って平行に移動する方向への移動とをこの順に組み合わせて退避できるような直線状退避機構と、
当該補助装置Aを作動位置で位置決めするためのセンタリング装置および/または当該補助装置Aを位置決めされた位置に固定するためのロック装置を有し、
当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版銅の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定し同軸受けフレームの振動による版胴の動きに追従して動くように取り付けてなる印刷機。
【請求項4】前記補助装置Aが、光線照射装置,版洗浄装置,剤塗布装置,乾燥装置,刷版取り付け装置,調色確認装置の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の印刷機。

3.独立特許要件の判断その1(記載不備に基づく独立特許要件欠如)
(1)上記によれば、「センタリング装置および/またはロック装置」の取付位置は「版銅の軸受けフレーム」に限らずその近傍でもよいとされている。その場合、「フレームの振動による版胴の動きに追従して動く」ためにはどのように取り付ければよいのか、発明の詳細な説明又は添付図面には記載がなく、当業者が実施可能な程度に記載されているとはいえない。
「フレームの振動による版胴の動きに追従して動く」ことからすると、取付位置を「版銅の軸受けフレーム」に限定したのかもしれないが、それならば「あるいはその近傍」との文言を削除すべきである。同文言が残っているため、取付位置及び取付形態が不明確となっている。
本件補正後の請求項2?5にも、取付位置及び取付形態を明確ならしめる記載は見あたらない。
したがって、本件補正後の明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項及び6項2号に規定する要件を満たしていない。

(2)請求項4には上記のとおり「補助装置A」の例が具体的に特定されているが、この中には明らかに「版胴」との直接的関連を有さないものが含まれている。当然補正発明1?3,5の「補助装置A」もそのように理解しなければならない。これら例示以外にも、版胴と直接的関連を有さない補助装置は多数ある。
ところが、請求項1には「当該補助装置Aを作動位置で位置決めするためのセンタリング装置および/または当該補助装置Aを位置決めされた位置に固定するためのロック装置」につき、その取付位置を版胴との関連で限定し、「版胴の動きに追従して動くように取り付け」と限定しており、これら限定は請求項2?5にも及ぶ。
そして、版胴と直接的関連を有さない補助装置Aについて、その取付位置を版胴との関連で限定し、「版胴の動きに追従して動くように取り付け」と限定することの技術的意義を理解することができず、そのような限定を有する発明が発明の詳細な説明に記載されていると認めることもできないから、本件補正後の明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。

(3)以上のとおり、本件補正後の明細書の記載は平成14年改正前特許法36条4項並びに6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-314353号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?キの記載が図示とともにある。
ア.「印刷ユニット(2)用の補助装置(1)であって、作動位置(3)で前記印刷ユニット(2)に立掛けられるとともに少なくとも1つの待機位置(4、5)で前記印刷ユニット(2)の領域から退避するようになっており、前記補助装置(1)が揺動機構(8)により印刷機(9)に取り付けられているような補助装置(1)において、
前記補助装置(1)が側壁(10、11)の近傍の垂直な待機位置(5)へ移動可能となるように、印刷ユニット(2)の前記側壁(10、11)の領域に揺動機構(8)が配設されており、そしてまた、前記補助装置(1)が、印刷ユニット(2)から退避する水平な待機位置(4)に移動可能となるように、前記側壁(10、11)の前に少なくとも1つの直線状案内部材(12)が配設されていることを特徴とする補助装置(1)。」(【請求項1】)
イ.「補助装置(1)が前記垂直な待機位置(5)へ揺動する前に、少なくとも前記補助装置が前記印刷ユニット(2)に嵌合しなくなる範囲で水平に移動するようになっている請求項1記載の補助装置。」(【請求項2】)
ウ.「特に、本補助装置は、画像刻印装置に関するものであり、このような補助装置は特に正確に位置決めしなければならず、これによりこの種の画像刻印は印刷機見当に一致させられる。この理由により、センタリング装置によって補助装置が正確に作業位置に位置決めされるようになっている。さらに、ロック装置が、保持力により補助装置を中央位置でロックすることができるようになっている。これにより、画像刻印装置と、例えば版胴との間における各々の相対運動が無くなり、そしてまた、揺動がこのような相対運動を招かないようにすることができる。」(段落【0010】)
エ.「作動位置3では、補助装置1は、例えば、版胴6またはゴムブランケット胴7のようなシリンダ上で作動することが可能である。」(段落【0017】)
オ.「図2は、前述の実施形態について平面図で示すものであり、ここでは、補助装置1が印刷ユニット2におけるその作動位置3でどのように置かれているかについて示されている。すなわち、ここでは、例えば版胴6上にある版25の画像刻印を行うために、印刷ユニット2に補助装置1のほとんどが嵌合していることが示されている。この平面図では、印刷ユニット2の側壁11が作業側において完全に空いている状態、そしてまた、補助装置1が、すなわち印刷機9の駆動側において、その垂直な待機位置5で他方の側壁10の近傍にある状態、が示されている。この領域では、必要なメンテナンス作業を行うために作業者が作業側から印刷ユニット2の間に入り込むので、補助装置1は、妨げとなるような位置とはなっていない。」(段落【0018】)
カ.「図7は、様々な作動位置における本発明の補助装置1と版交換装置24、24´とを備えた印刷機9を示している。左側の印刷ユニット2では、補助装置1が次のような作動位置、すなわち、レーザによって版胴6上の版25を画像刻印するような作動位置となっている。中央の印刷ユニット2にあっては、補助装置1が、例えば版交換を開始するために、その水平な待機位置4に移動させられている。」(段落【0022】)
キ.「図8は、センタリング装置13およびロック装置14の平面図を示している。補助装置1の両側部では、側壁10、11に、空気作動式部材17、すなわちそのつどボルトレバー26に作用しそしてこれによりロック装置14として働くような空気作動式部材17が配置されている。ボルトレバー26は、側壁10、11に、旋回心軸で旋回するように取り付けることができ、そしてまた、このレバーのサイズを定めることにより力を増大させる働きをすることができる。」(段落【0024】)

5.引用例1記載の発明の認定
引用例1は、発明の名称を「印刷ユニット用の補助装置」とする公開公報であるが、引用例1からは、そのような補助装置(その退避機構を含む。)を備えた印刷機の発明も把握することができる。
引用例1記載の「印刷ユニット」は、記載エの「版胴」及び「ゴムブランケット胴」を含むものである(補正発明1の「印刷ユニット」とは意味が異なる。)。
引用例1記載の「画像刻印装置」は、作動位置では版胴上の版を画像刻印するものであり、そうである以上記載イの「水平に移動」とは、「版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動」であり、同方向の移動後に記載アの「待機位置」に揺動により移動する。
補助装置として「画像刻印装置」を採用し、「センタリング装置」及び「ロック装置」を備え、作動位置において補助装置の位置決めを行う印刷機は次のようなものである。
「印刷ユニット及び補助装置としての画像刻印装置を備えた印刷機であって、
前記印刷ユニットは版胴及びゴムブランケット胴を含んでおり、
画像刻印装置をその作動位置から版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向へ水平移動させた後に、垂直な待機位置に揺動する機構を有しており、
さらにセンタリング装置及びロック装置を備え、画像刻印装置をその作動位置において位置決めする印刷機。」(以下「引用発明1」という。)

6.補正発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
「印刷ユニット」との用語は、前項で述べたとおり異なる意味合いで用いられている。補正発明1の「印刷ユニット」は「版銅、ブランケット胴および圧胴」以外であって、かつ印刷に不可欠なユニット(「補助装置」とは認識できない。)ものである。本願明細書には出願当初から一貫して「印刷ユニットとは、印刷インク等を印刷対象である紙等の表面に供給するための装置であり」(段落【0017】)との記載があり、「印刷インク等を印刷対象である紙等の表面に供給するための装置」は当然引用発明1の「印刷ユニット」にも備わっている。また、引用発明1の「画像刻印装置」は補正発明1の「補助装置A」に相当する。要するに、印刷機を構成するユニット又は装置として、補正発明1の用語に従えば、「印刷ユニット」、「版銅及びブランケット胴(審決注;引用発明1の「ゴムブランケット胴」がこれに相当)を含む印刷部」及び「その他の補助装置A」を備える点で一致し、唯一明文上相違するのは「圧胴」の有無である。
引用発明1の「画像刻印装置をその作動位置から版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向へ水平移動」と補正発明1の「当該補助装置Aを、版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動」に相違はなく、この移動と別の移動を「この順に組み合わせて退避できる」退避機構を有する点でも補正発明1と引用発明1は一致する。
「センタリング装置及びロック装置」につき、これら用語は補正発明1と引用発明1において同一の意味で用いられており、「当該補助装置Aを作動位置で位置決めするためのセンタリング装置および/または当該補助装置Aを位置決めされた位置に固定するためのロック装置を有」する点において、補正発明1と引用発明1は一致する。
したがって、補正発明1と引用発明1とは、
「印刷ユニットと、版銅及びブランケット胴を含む印刷部と、その他の補助装置Aとを備えた印刷機であって、
当該補助装置Aを、版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動と、これとは別の移動をこの順に組み合わせて退避できる退避機構を有し、
当該補助装置Aを作動位置で位置決めするためのセンタリング装置および/または当該補助装置Aを位置決めされた位置に固定するためのロック装置を有する印刷機。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明1の「印刷部」が「版銅、ブランケット胴および圧胴から成る」としているのに対し、引用発明1のそれが「圧胴」を有し、これら3胴からなる印刷部かどうか不明である点。
〈相違点2〉「これとは別の移動」につき、補正発明1では「円柱の軸線からの距離を実質的に一定にしたまま円柱の軸線に沿って平行に移動する方向への移動」としているのに対し、引用発明1では「垂直な待機位置に揺動」としている点。なお、補正発明1の「退避機構」が「直線状退避機構」であることは、この相違点に付随する事項にすぎないので、別途独立した相違点とはしない。
〈相違点3〉「センタリング装置および/またはロック装置」の取り付けについて、補正発明1が「当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版銅の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定し同軸受けフレームの振動による版胴の動きに追従して動くように取り付けてなる」としているのに対し、引用発明1が同構成を有するかどうか不明である点。

7.相違点についての判断及び補正発明1の独立特許要件の判断その2
(1)相違点1について
引用例1には「圧胴」との文言記載はないけれども、印刷機であればブランケット胴に対向する「圧胴」が存在すると解するのが自然である。
すなわち、相違点1は実質的相違点には当たらない。仮に実質的相違点と見る余地があるとしても、極めて軽微な設計事項程度の微差にすぎない。

(2)相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-67094号公報(以下「引用例2」という。)には、「ドクターブレード5および6は、インキが塗布される印刷シリンダである版胴8にポジティブに接触されている。すなわち、これらのドクターブレードは、版胴8の回転方向7と同じ方向に向いている。また、ドクターブレード5,6は、版胴8の外周面に対して配置されている。これらのドクターブレードはビーム9に固定され、ビーム9はガイド10,11を用いて支持体12に支持されている。ビーム9は、作業シリンダ13により、矢印14および15で示される方向に、すなわち版胴8から離間し、または接近するように移動可能となっている。さらに、支持体12は支持体16上に固定され、支持体16は連結部材17,18によって管状部材19に連結されている。この管状部材19は、一方の側が側壁部4内に固定されると共に、図4に示されるように、他方の側が支持部材20を介して支持体3に支持されている。また、支持体16の一方の側は連結部材18を介してスピンドル21に連結され、スピンドル21はガイド22,23を介して管状部材19内に支持されている。これにより、スピンドル21は入れ子状に管状部材19から引き出されて、図4に示されるように、連結部材18を一点鎖線で示す位置18’へ移動させることが可能となる。この際、連結部材17も同様に、管状部材19上を位置17’まで摺動する。これにより、ブレード装置が版胴8に対して平行移動するから、保守位置においては、ブレード装置全体が版胴8の領域から外へ出る。」(段落【0007】)との記載があり、「版胴8から離間」(【図1】における矢印15の方向)が補正発明1の「版銅の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動」に等しく、「ブレード装置が版胴8に対して平行移動」における移動主体が「補助装置A」に該当するかどうかは別として、補正発明1における「円柱の軸線からの距離を実質的に一定にしたまま円柱の軸線に沿って平行に移動」に等しいことは明らかである。そして、「ブレード装置全体が版胴8の領域から外へ出る」以上、ブレード装置全体は退避することになる。
すなわち、移動主体が「ブレード装置」であるものの(引用例2記載の「ブレード装置」は補正発明1の「印刷ユニット」に相当するものであり、「補助装置A」に該当しないことは認める。)、版胴から退避すべき装置である点では補正発明1の「補助装置A」と異ならず、「退避機構」においても「円柱の軸線からの距離を実質的に一定にしたまま円柱の軸線に沿って平行に移動する方向への移動」させる点で一致する。
そして、「補助装置A」の退避機構と「ブレード装置」の退避機構が異ならなければならない理由を見出すことはできず、相互の退避機構は転用可能と考えるべきである。引用発明1の「画像刻印装置」も、補正発明1の「補助装置A」及び引用例2記載の「ブレード装置」同様に版胴から退避すべき装置であり、退避機構としては適宜の機構を採用できるものと考えなければならない。そうであれば、引用発明1の「これとは別の移動」として、引用例2記載の「版胴8に対して平行移動」を採用して、相違点2に係る補正発明1の構成に至ることは当業者にとって想到容易というべきである。

(3)相違点3について
引用例1の記載ウには、画像刻印装置の位置決め及び版胴との相対運動を無くすことの必要性が記載されている。
引用例1の記載キには、ロック装置として働く空気作動式部材が側壁に配置されることが記載されており、明文記載はないもののセンタリング装置も同様に側壁に配置されるものと解される。引用例1記載の「側壁」と「版銅の軸受けフレーム」を同視することはできないかもしれない(同視できるのならば、相違点3は存在しない。)が、上記のとおり画像刻印装置を版胴に対して正確に位置決めする必要があることは引用例1においても指摘されている。
そして、画像刻印装置と版胴の位置決めを確実にするためには、版胴に対する固定位置にロック装置及びセンタリング装置を配するべきことは自明というべきであり、その固定位置として版胴との位置関係が定まっている「版銅の軸受けフレーム」を選択することに困難性があると認めることはできない。ロック装置及びセンタリング装置を版銅の軸受けフレームに固定した場合、ロック装置及びセンタリング装置が版銅の軸受けフレームの振動による版胴の動きに追従して動くことは当然である。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(4)補正発明1の独立特許要件の判断
相違点1?3に係る補正発明1の構成を採用することは、せいぜい設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明1は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上述べたとおり、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない(すべての補正発明に共通して記載不備の理由があり、補正発明1についてはそれ以外にも進歩性欠如の理由がある。)から、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年1月23日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「印刷ユニットと、版胴、ブランケット胴および圧胴から成る印刷部と、その他の補助装置Aとを備えた印刷機であって、
当該補助装置Aを、版胴の円柱軸の軸線から平行に遠ざかる方向への移動と、円柱の軸線からの距離を実質的に一定にしたまま円柱の軸線に沿って平行に移動する方向への移動とをこの順に組み合わせて退避できるような直線状退避機構と、
当該補助装置Aを作動位置で位置決めするためのセンタリング装置および/または当該補助装置Aを位置決めされた位置に固定するためのロック装置を有し、
当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版胴の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定するように取り付けてなる印刷機。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明1とは、「第2[理由]6」において、補正発明1と引用発明1との一致点として認定した点で一致し、相違点1,相違点2及び次の相違点3’で相違する(相違点1,相違点2については、「補正発明1」を「本願発明」と読み替える。)
〈相違点3’〉「センタリング装置および/またはロック装置」の取り付けについて、本願発明が「当該センタリング装置および/またはロック装置を当該版銅の軸受けフレームあるいはその近傍に対し固定するように取り付けてなる」としているのに対し、引用発明1が同構成を有するかどうか不明である点。

相違点1,2については「第2[理由]7(1)、(2)」で述べたとおりである(「補正発明1」を「本願発明」と読み替える。)
そこで相違点3’について検討するに、引用発明1の実施例では、ロック装置が側壁に配置されており、側壁と版銅の軸受けフレームを同視できないかもしれないが、側壁が版銅の軸受けフレームの近傍であることは明らかである。すなわち、実施例に則して引用発明1を認定すれば相違点3’は存在しない。
仮に、側壁が版銅の軸受けフレームの近傍であるとしても、「第2[理由]7(3)」で述べたと同様の理由により、ロック装置及びセンタリング装置を版銅の軸受けフレームに固定して取り付けること、すなわち相違点3’に係る補正発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。
そして、相違点1,相違点2及び相違点3’に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-22 
結審通知日 2007-01-23 
審決日 2007-02-05 
出願番号 特願2001-306554(P2001-306554)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41F)
P 1 8・ 537- Z (B41F)
P 1 8・ 575- Z (B41F)
P 1 8・ 536- Z (B41F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一畑井 順一  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
國田 正久
発明の名称 印刷機  
代理人 石川 新  
代理人 田中 重光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ