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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B66B
管理番号 1155019
審判番号 無効2004-80206  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-29 
確定日 2007-04-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3438697号「機械室レスエレベータ装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年10月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10796号平成18年11月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3438697号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第3438697号の出願は、平成5年4月5日に出願された特願平5-78142号(以下、「原出願」という。)の一部を平成12年3月23日に新たな特許出願として出願したものであって、その特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明に対して、平成15年6月13日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から本件無効審判の請求がなされ、平成17年1月17日付けで被請求人より答弁書の提出がなされ、平成17年4月22日に請求人、被請求人より、それぞれ口頭審理陳述要領書が提出されるとともに、同日に口頭審理が行われた。そして、平成17年5月12日付けで無効理由の通知がなされ、被請求人より平成17年6月14日付けで訂正請求がなされ、平成17年6月29日付けで訂正請求書を請求人に送付したが、弁駁書の提出はなかった。その後、平成17年10月11日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。

2.請求人は、これを不服として平成17年11月16日に知的財産高等裁判所に同審決の取消を求める訴(平成17年(行ケ)10796号)を提起した後、平成18年11月30日に、『特許庁が無効2004-80206号事件について平成17年10月11日にした審決中、「本件審判の請求は、成り立たない。」との部分を取り消す。』との判決が言い渡された。そして、同判決の確定後、被請求人からの訂正請求の申立てはなかった。

第2.請求人及び被請求人の主張概要
1.請求人の主張概要および提示した証拠方法
請求人は、「特許第3438697号発明の明細書の請求項1乃至5に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決を求め、その理由として、概ね、以下のような主張(1)、(2)をするとともに、証拠方法として(3)を提出した。
(1)『本件特許の請求項1ないし5に記載されている発明(以下、請求項1乃至5に記載の発明を、順に「本件第1発明」乃至「本件第5発明」と云い、これら全部の発明を総称して「本件発明」と云う。)と同一構成の「巻上機駆動方式又は油圧駆動方式の機械室レスエレベータ装置」の発明は、原明細書に記載されていない発明であるから、本件出願は適法な分割出願でなく、特許法第44条第2項に定める出願日の遡及は認められないから、本件特許の出願日はその願書の提出が現実になされた平成12年3月23日である。そうすると、本件発明に包含される(本件第1発明乃至本件第5発明と同一構成の)リニアモータ駆動方式の機械室レスエレベータ装置の発明は、本件特許の出願日(平成12年3月23日)より前に国内頒布された甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきである。』(審判請求書2頁3?16行。ここで、原明細書とは、原出願の出願当初明細書又は図面を指しており、以下、これを「原明細書」という。原明細書の記載は、以下に示す甲第1号証2?14頁の記載と同一である。)

(2)「一方、本件第1発明乃至本件第5発明に係る機械室レスエレベータ装置は、いずれも、その駆動方式について特許請求の範囲の記載上何らの限定もなされていないので、リニアモータ駆動方式の機械室レスエレベータ装置だけでなく、巻上機駆動方式や油圧駆動方式の機械室レスエレベータ装置を包含するものであるが、他方、原明細書には、原出願に係る発明の名称「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」から容易に推測し得るように、リニアモータ駆動方式の機械室レスエレベータ装置についての記載はあるが、これ以外の駆動方式、たとえば巻上機駆動方式や油圧駆動方式の機械室レスエレベータ装置についての記載は皆無であった。そうすると、上記の如く、リニアモータ駆動方式の機械室レスエレベータ装置だけでなく、巻上機駆動方式や油圧駆動方式の機械室レスエレベータ装置を包含するものとしての本件発明は、全体として原明細書に記載されていたとは認められない。したがって、本件出願は適法な分割出願とは認められず、出願日の遡及は認められないので、本件出願の出願日はその願書の提出が現実になされた平成12年3月23日である。」(審判請求書3頁8?22行)

(3)請求人の提示した証拠方法
・甲第1号証;特開平6-286960号公報
・甲第2号証;特願2000-81982号の出願関連情報
・甲第3号証;特願2000-81982号の特許願
・甲第4号証;実公平4-50297号公報
・甲第5号証;特開昭61-127585号公報
・甲第6号証;東京高裁平成12年(行ケ)第296号事件判決

2.被請求人の主張概要
被請求人は、以下のように主張した。
「本件特許は、特許法第44条第1項規定の分割要件を満たしており、本件特許の出願日は原出願の出願日(平成5年4月5日)に遡及されるから、甲第1号証は特許法29条第1項第3号規定における刊行物に相当せず、本件特許は無効にされるべきものではない。」(答弁書2頁13?16行)

第3.本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書、及び、図面の記載からみて、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認められる。(以下、それぞれ、「本件訂正発明1ないし4」という。前記第1.2.参照)
「【請求項1】 昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと、前記昇降路内に設置され、前記かごをガイドするかご用レールと、前記かごを吊るとともに前記釣合おもりの頂部を一箇所の支持で吊るロープと、前記昇降路内に設けられ、前記かごから前記釣合おもりに至る間のロープの一部分が巻き掛けられる巻掛手段とを有し、当該巻掛手段は、平面図において前記かごと離れて配置され、当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したことを特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項2】 昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと、前記昇降路内に設置され、前記かごをガイドするかご用レールと、前記かごおよび釣合おもりを吊るロープと、前記昇降路内に設けられ、前記かごから前記釣合おもりに至る間のロープの一部分が巻き掛けられる巻掛手段とを有し、前記かごおよび釣合おもりを一つのロープで吊るとともに、当該巻掛手段は、平面図において前記かごと離れて配置され、当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したことを特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項3】 昇降路内を昇降するかごおよび釣合おもりと、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと、前記昇降路内に設置され、前記かごをガイドするかご用レールと、かごの中心と釣合おもりの中心とを結ぶ線上で前記かごを吊るとともに前記釣合おもりを吊るロープと、前記昇降路内に設けられ、前記かごから前記釣合おもりに至る間のロープの一部分が巻き掛けられる巻掛手段とを有し、当該巻掛手段は、平面図において前記かごと離れて配置され、当該巻掛手段の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したことを特徴とする機械室レスエレベータ装置。
【請求項4】 前記巻掛手段は、前記昇降路の上部に配置されるとともに、平面図において前記釣合おもりと重ならせて配置したことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の機械室レスエレベータ装置。」

第4.分割出願としての適法性について
前記判決による判示事項は、以下のとおりである。
『原明細書には、「機械室レスエレベータ装置」として「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」のみが記載されているのであり、吊り車を傾斜させることにより他の駆動方式によるエレベータにおいても昇降路の寸法を低減できるという効果を奏することができることを示す記載や、「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」が「機械室レスエレベータ装置」の例示にすぎないことを示す記載は存在しない。また、原明細書では、産業上の利用分野、従来の技術、発明が解決しようとする課題、課題を解決するための手段、実施例を通じて、終始「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」について説明されている。これらの記載によれば、原明細書記載の発明は、従来の「リニアモータ駆動方式エレベータ装置」につき吊り車の構成の工夫により昇降路の寸法を低減する改良を加えたものであって、その対象となるエレベータを駆動方式として「リニアモータ駆動方式」を用いるものに限定した発明というべきである。(5)以上のとおり、駆動方式を限定しない「機械室レスエレベータ装置」に係る訂正発明が原明細書に包含されているということはできないから、本件出願は分割出願の要件を満たさないものである。 2 結論 そうすると、本件出願の出願日は、本件出願が実際に出願された日である平成12年3月23日であり、平成6年に頒布された刊行物である本件刊行物は本件出願前に頒布された刊行物に該当する』(判決13頁12?14頁5行)

したがって、本件訂正発明1ないし4に係わる出願の出願日は、平成12年3月23日である。

第5.当審の判断
1.甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次のような事項が記載されている。
ア.「【請求項1】 かごと、釣合おもりと、昇降路に設置され、上記釣合おもりをガイドする釣合おもり用レールと、上記釣合おもりに配設したリニアモータの電機子と、昇降路に設置され、上記リニアモータの電機子と係合して推力を発生するニアモータの二次導体と、上記かごの上記釣合おもりの対向面より上記釣合おもり側の昇降路上部に配設した吊り車と、一端を上記かごの上記釣合おもりとの対向面側に固定し、上記吊り車を介して他端を釣合おもりに固定したロープとを備えたリニアモータ駆動方式エレベータ装置において、吊り車を釣合おもり用レールの中心線に対して90度未満の角度をもって設置したことを特徴とするリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(特許請求の範囲。「ニアモータ」は「リニアモータ」の誤り。)

イ.「【0031】 【実施例】実施例1.以下、この発明に一実施例を図について説明する。図1(a)はこの発明の一実施例のリニアモータ駆動方式エレベータ装置の平面図である。図1(b)は図1(a)の側面図である。図中、図13と同一符号は同一又は相当部分を示す。図において、101はかご1の下部に取り付けたロープ固定板で、このロープ固定板101にロープ7の一端を固定してある。吊り車5を介してロープ7の他端を釣合おもり2に固定する。釣合おもり2に搭載するリニアモータの電機子3は図のように釣合おもりの片側にのみ設置してある。このように構成することにより、吊り車5は昇降路8の上部のかご1の外側で釣合おもり2側に設置され、また、釣合おもり2のリニアモータの電機子3を搭載しない端側の頂部にロープ7を固定することができるようになるので、吊り車5をかご1と釣合おもり2を結ぶ中心線L1に対して角度θを大きく取って設置することができる。このように構成することによりA3寸法を図15(b)のA2寸法より低減することができる。10は釣合おもり用のレールである。また、吊り車5は昇降路8の上部のかご1の釣合おもり2側の外側に設置されているので、人がかご1の天井に乗って作業をしても吊り車5に頭をぶつけることがなく、頂部安全隙間TC0=頂部隙間TC2とすることができるので、建物の高さ寸法を有効に活用することができる。ここでは、リニアモータの電機子3を釣合おもり2の片側に設置した場合について説明したが、図18(a)に示すリニアモータの電機子3が釣合おもり2の両側に設置した場合は角度θを大きく取ることができないが、スペース的に許容される範囲で角度θを取ることによりA3寸法をA2寸法より低減することができる。」(段落0031。「図18(a)」は「図15(a)」の誤記である。以下同様に、下線は当審で付した。)

ウ.「【0034】実施例4.本発明のリニアモータ駆動方式エレベータ装置では図1?図4に示すように、かご1はかご1の片側の底部に設けられたロープ固定板101の固定されたロープ7により吊られているので、かご1には図5に示すモーメントF1が加わる。このため、かご1はかご用レール11に沿って昇降するようにローラ30A、30B、30C、30Dによりガイドされているので、モーメントF1がかご用レール11とローラ30Bの間に加わり、昇降音を発生させたりローラの摩耗を早めたりする等の問題がある。図5はこの対策の一実施例を示すものである。」(6頁10欄4?14行)

エ.段落0031より、「図1(a)はこの発明の一実施例のリニアモータ駆動方式エレベータ装置の平面図である。図1(b)は図1(a)の側面図である。」
図1(b)において、5と表示された部材を逆U字状に通過する1本の線が示されており、紙面上左右の長方形にそれぞれ一箇所で連結している。図1(c)において、2と表示された長方形に7と表示された線が一箇所で連結している。図1(a)において、101と表示された部材と、10と表示された部材と結ぶ方向に、角度θをなす線が引かれ、その線上に細長い長方形が示されており、3と表示された凹形の部材と重なり合っている。L1と表示された線上で、101と表示された枠内に黒丸が表示されている。(図1、段落0031)

(2)甲第1号証に記載に記載された発明
上記記載事項ア.ないしエ.、及び図1から、甲第1号証には次の発明が記載されている。
「昇降路内を昇降するかご1および釣合おもり2と、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもり2をガイドする釣合おもり用レール10と、前記昇降路内に設置され、前記かご1をガイドするかご用レール11と、前記かご1を吊るとともに前記釣合おもり2の頂部を一箇所の支持で吊るロープ7と、前記昇降路内に設けられ、前記かご1から前記釣合おもり2に至る間のロープ7の一部分が巻き掛けられる吊り車5とを有し、当該吊り車5は、平面図において前記かご1と離れて配置され、当該吊り車5の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(以下、「甲第1号証発明1」という。)

同様に、甲第1号証には次の発明が記載されている。
「昇降路内を昇降するかご1および釣合おもり2と、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもり2をガイドする釣合おもり用レール10と、前記昇降路内に設置され、前記かご1をガイドするかご用レール11と、前記かご1および釣合おもり2を吊るロープ7と、前記昇降路内に設けられ、前記かご1から前記釣合おもり2に至る間のロープ7の一部分が巻き掛けられる吊り車5とを有し、前記かご1および釣合おもり2を一つのロープ7で吊るとともに、当該吊り車5は、平面図において前記かご1と離れて配置され、当該吊り車5の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(以下、「甲第1号証発明2」という。)

同様に、甲第1号証には次の発明が記載されている。
「昇降路内を昇降するかご1および釣合おもり2と、前記昇降路内に設置され、前記釣合おもり2をガイドする釣合おもり用レール10と、前記昇降路内に設置され、前記かご1をガイドするかご用レール11と、かご1と釣合おもり2を結ぶ中心線L1上で前記かご1を吊るとともに前記釣合おもり2を吊るロープ7と、前記昇降路内に設けられ、前記かご1から前記釣合おもり2に至る間のロープ7の一部分が巻き掛けられる吊り車5とを有し、当該吊り車5は、平面図において前記かご1と離れて配置され、当該吊り車5の回転面を前記昇降路壁に対して傾斜させて配置したリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(以下、「甲第1号証発明3」という。)

同様に、甲第1号証には次の発明が記載されている。
「甲第1号証発明1ないし3において、前記吊り車5は、前記昇降路の上部に配置されるとともに、平面図において前記釣合おもり2と重ならせて配置したリニアモータ駆動方式エレベータ装置。」(以下、「甲第1号証発明4」という。)

2.本件訂正発明の新規性について
そこで、本件訂正発明1ないし4と甲第1号証発明1ないし4とを対比するに、甲第1号証発明1ないし4における「吊り車5」、「かご1と釣合おもり2を結ぶ中心線L1」は、本件訂正発明1ないし4における「巻掛手段」、「かごの中心と釣合おもりの中心とを結ぶ線」に相当する。
そして、訂正請求書に添付された訂正明細書の段落0016等には、甲第1号証発明1ないし4が実施の形態として記載され、甲第1号証発明1ないし4は、それぞれ、本件訂正発明1ないし4に包含されている。
したがって、本件訂正発明1ないし4は、それぞれ、本件訂正発明1ないし4に係わる出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された甲第1号証発明1ないし4と同一と認められる。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第1項第3号規定により特許を受けることができないものであり、本件の請求項1ないし4に係る発明の特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-21 
結審通知日 2005-09-27 
審決日 2005-10-11 
出願番号 特願2000-81982(P2000-81982)
審決分類 P 1 113・ 113- Z (B66B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 志水 裕司  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 深澤 幹朗
岩瀬 昌治
登録日 2003-06-13 
登録番号 特許第3438697号(P3438697)
発明の名称 機械室レスエレベータ装置  
代理人 内田 敏彦  
復代理人 後藤 文夫  
代理人 高橋 省吾  
代理人 伊達 研郎  

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