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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06K
管理番号 1155954
審判番号 不服2005-24731  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-22 
確定日 2007-04-11 
事件の表示 特願2005-123349「ICカード」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-259166〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年7月26日(優先権主張平成5年7月28日)に出願した特願平6-174301号の一部を平成17年4月21日に新たな特許出願としたものであって、平成17年11月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成17年12月22日に審判請求がなされ、平成18年10月23日付けで当審より拒絶理由通知を行ったところ、平成18年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年12月26日付け手続補正書によって補正された、以下のとおりのものであると認める。
「少なくとも2枚の上下基体を貼合してなるICを搭載したカードの、少なくとも上基体には熱転写記録法で昇華もしくは熱拡散性染料画像を受容する受像層を設け、2枚の上下基体の間にICを有する中間層を有し、かつ受像層を有する上基体とICを有する中間層の間にクッション層を有し、受像層/上基体/クッション層の順に設け、前記クッション層の引張弾性率(ASTM D790)が20?200kgf/mm2であり、前記上基体の引張弾性率(ASTM D790)が210?1020kgf/mm2であることを特徴とするICカード。」

3.特許法第29条第2項の拒絶理由について
3-1.引用例の開示
当審における平成18年10月23日付け拒絶理由通知において、引用例1として引用した、特開平1-152095号公報(以下、引用例1という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「〔従来の技術〕……(中略)……ICカードの製造方法としては、オーバレイ3と硬質塩ビコアシート4を積層し、各シートが加熱、加圧による自己融着によって接着することによって成形される。」(第1頁左上欄17行?右上欄8行)

(2)「第1図において、1は内部に半導体素子が内蔵されたモジュール、2は外部装置と電気的に接続する電極、3は透明な塩化ビニルのシートからなるオーバレイ、4,5は本発明の特徴的な部分である塩ビシートで、4は硬質塩ビコアシート、5は軟質塩ビコアシートである。
次に作用について説明する。ICカードの製造方法及び使用方法に関しては、従来のものと同じであるが、本発明のICカードの場合、モジュール裏面に使用しているコアシートが従来に比べて軟質な塩化ビニルのシートを使用しているため、第3図のような曲げに対して、モジュールとシートの境界部裏面での割れが発生しにくい。」(第2頁左上欄19行?右上欄11行)

(3)「4、図面の簡単な説明
第1図はこの発明の一実施例を示すもので、(ア)は上面図、(イ)は断面図……(後略)」(第2頁右上欄18?20行)

また、上記(2),(3)の記載にある第1図(イ)、すなわち、発明の一実施例の断面図では、4層の部材が重ねられて、上から3,4,5,3の番号が付されており、上記(2)の記載から、オーバレイ、硬質塩ビコアシート、軟質塩ビコアシート、オーバレイを重ねた構造が図示されていると解される。また、その2枚のオーバレイのうちの上側の1枚(便宜上、以下「オーバレイA」という。また、他方となる下側の1枚については「オーバレイB」という。)と、硬質塩ビコアシートにまたがる位置には1の番号が付された部材、即ち半導体素子が内蔵されたモジュールを有することが図示されている。
これらのことから引用例1には、

2枚のオーバレイを接着してなる半導体素子が内蔵されたモジュールを搭載したカードの、2枚のオーバレイの間に硬質塩ビコアシートを有し、オーバレイAと硬質塩ビコアシートにまたがる位置には半導体素子が内蔵されたモジュールを有し、かつ、オーバレイBと硬質塩ビコアシートの間に軟質塩ビコアシートを有し、オーバレイB/軟質塩ビコアシートの順に設けたことを特徴とするICカード。
に関する発明が開示されているものと認める。(以下、これを「引用例1記載の発明」という)

また、当審における平成18年10月23日付け拒絶理由通知において、引用例4として引用した、特開平4-336294号公報(以下、引用例4という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(4)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は画像記録体に関し、さらに詳しくは、鮮明な階調画像を有すると共に高い画像耐久性を有し、偽造や変造のおそれがなく、かつ他のカ-ドと識別の容易な情報記録体、例えば免許証、IDカードなどに関するものである。」

(5)「【0009】以下、本発明について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の画像記録体の好ましい一実施態様を示したものである。なお、本発明の画像記録体は図1に示す一実施態様に限定されるものではない。図1において、画像記録体は、支持体1aの片面に受像層1bを設けることにより形成された基材1を有する。そして、その受像層1bの所定表面に、昇華型熱転写方式により形成された階調情報含有画像情報3および溶融型熱転写方式により形成された文字情報含有画像2が形成されており、画像情報含有画像3の表面には透明保護層4が形成されており、さらに、透明保護層4の表面とこの透明保護層4を除く受像層1bの表面に紫外線硬化保護層5が形成され、基材1の反対側の面には筆記層6が設けられている。」

(6)「【0017】層との積層体として形成するときには、その支持体の厚みは通常100?1,000μm、好ましくは100?800μmである。支持体の厚みは通常100?1,000μm、好ましくは200?800μmである。前記支持体には必要に応じてエンボス、サイン、ICメモリ-、光メモリ-、磁気記録層、他の印刷等を設けることができる。」

上記(4)?(6)の記載によれば、支持体にICメモリーを設けたカード、つまりICカードにおいて、昇華型熱転写方式による階調情報含有画像が形成可能な受像層を設ける構成が開示されているものと認める。

3-2.対比
本願発明と引用例1記載の発明とを比較する。
引用例1記載の発明における「2枚のオーバレイ」は、本願発明の「2枚の上下基体」に相当し、また、引用例1記載の発明における「接着」は、本願発明の「貼合」に相当する。なお、引用例1記載の発明ではオーバレイが2枚となっているが、これは本願発明でいうところの「少なくとも2枚」にあたるものである。
次に、引用例1記載の発明における「半導体素子が内蔵されたモジュール」について、半導体素子が内蔵されたモジュールは、ICの形態を取ることが一般的であるから、前記引用例1記載の発明における「半導体素子が内蔵されたモジュール」は、本願発明の「IC」と同等のものである。
また、引用例1記載の発明における「硬質塩ビコアシート」は、2枚の上下基体に相当する2枚のオーバレイの間に配置されてており、さらに、ICであるところの半導体素子が内蔵されたモジュールを有している。このことから見て、該「硬質塩ビコアシート」は、本願発明の「中間層」に相当する。
次に、引用例1記載の発明では、「オーバレイB」と、中間層であるところの塩ビコアシートの間に「軟質塩ビコアシート」が位置している。このことから、引用例1記載の発明の「オーバレイB」と、「軟質塩ビコアシート」は、それぞれ、本願発明の「上基体」、「クッション層」に相当する。
なお、引用例1記載の発明における「オーバレイB」は、引用例1の第1図(イ)の断面図において、一番下にある、3の番号が付された部材であり、一方、本願発明における「上基体」という用語には「上」という語が含まれていることから、当該部材が上部に位置するものであると限定した解釈が可能である。しかしながら、カードにおいて、上、下といった位置関係は、当該カードを裏返すことにより逆転するものである。したがって、引用例1記載の発明における「オーバレイB」が、図面において下に記載されていることを根拠に、本願発明の「上基体」に対応しないものであると解することはできない。

してみると、本願発明と引用例記載の発明は、

少なくとも2枚の上下基体を貼合してなるICを搭載したカードの、2枚の上下基体の間に中間層を有し、かつ受像層を有する上基体と中間層の間にクッション層を有し、上基体/クッション層の順に設けたことを特徴とするICカード。

である点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明では「少なくとも上基体には熱転写記録法で昇華もしくは熱拡散性染料画像を受容する受像層を設け」、「受像層/上基体/クッション層の順」の構造を有するのに対し、引用例1記載の発明には、受像層に対応する構成がなく、「上基体/クッション層の順」の構造しか示されていない点。

(相違点2)
本願発明では「2枚の上下基体の間にICを有する中間層を有し」ているのに対し、引用例1記載の発明では、中間層に相当する硬質塩ビコアシートについては、2枚の上下の基体に相当する2枚のオーバレイの間にあるものの、ICであるところの半導体素子が内蔵されたモジュールについては、オーバレイAと硬質塩ビコアシートにまたがる位置にあり、2枚の上下基体の間にICを有するとはいえない点。

(相違点3)
本願発明ではクッション層の引張弾性率(ASTM D790)が20?200kgf/mm2であるとされるのに対し、引用例記載の発明にはクッション層に相当する軟質塩ビコアシートの引張弾性率についての限定がない点。

(相違点4)
本願発明では上基体の引張弾性率(ASTM D790)が210?1020kgf/mm2であるとされるのに対し、引用例記載の発明には上基体に相当するオーバレイBの引張弾性率についての限定がない点。

3-3.当審の判断
これら相違点について検討する。

(相違点1について)
上述した引用例4には、ICカードにおいて、昇華型熱転写方式による階調情報含有画像が形成可能な受像層を設ける構成が開示されている。ここで、昇華型熱転写方式による階調情報含有画像が形成可能であるということは、昇華性染料画像を受容するものであると解されるから、この引用例4開示の技術を、同じICカードの発明である引用例1記載の発明に適用し、上基体に相当するオーバレイBに受像層を設け、「少なくとも上基体には熱転写記録法で昇華もしくは熱拡散性染料画像を受容する受像層を設け」た構成を得ることに格別の困難性は認められない。
そして、そのような受像層をオーバレイBに設けたとき、必然的に「受像層/上基体/クッション層の順」の構造が得られることは明らかである。
したがって、相違点1は格別のものでない。

(相違点2について)
2枚の基体の間にICを搭載したICカードについては、本願出願前において周知技術(必要ならば、当審における平成18年10月23日付け拒絶理由通知で引用例2,3として示した特開昭59-83285号公報(特に第5図参照)、特開昭62-218196号公報(特に第5図参照)を参照されたい。)である。該周知技術に基づいて、引用例1記載の発明において、2枚の基体の間にICを搭載する構造とし、「2枚の上下基体の間にICを有する中間層を有し」た構成を得ることに格別の困難性は認められない。
したがって、相違点2は格別のものでない。

(相違点3,4について)
引用例4の、「支持体としては、たとえば紙、コート紙、および合成紙(ポリプロピレン、ポリスチレンもしくは、それらを紙とはり合せた複合材料)等の各種紙類、白色の塩化ビニル系樹脂シート、白色のポリエチレンテレフタレートベースフィルム、透明のポリエチレンテレフタレートベースフィルム、ポリエチレンナフタレート、ABSベースフィルム、ASベースフィルム、ポリプロピレンベースフィルム、ポリスチレンベースフィルム等の各種プラスチックフィルムないしシート、各種の金属で形成されたフィルムないしシート、各種のセラミックス類で形成されたフィルムないしシート等を挙げることができる。」(【0015】段落)、あるいは、「クッション層を構成する材質としては例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレン系樹脂、ブタジエンラバー、エポキシ樹脂等が挙げられる。」(【0036】段落)等の記載に見られるように、カードを構成する各部材の材質については、種々の素材が選択できるものであり、このような素材の選択により、引張弾性率の値は自ずと決定するものである。また、引用例4において、「クッション層を設けると、ノイズが少なくて、画像情報に対応した画像を再現性良く転写記録することができる。」(【0037】段落)とあることから、画像の再現性を高めることは本願出願前において知られた課題である。してみれば、画像の再現性を高めるという一定の課題を解決するために、基体やクッション層の材質を選択し、その結果として引っ張り弾性率の値を決定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
そして、本願発明で示される、20?200kgf/mm2、210?1020kgf/mm2という数値範囲については、明細書の発明の詳細な説明を見ても、単にこのようなものが好ましいとされるだけで、根拠が示されておらず、限定された数値範囲に、進歩性を推認できるような、当業者が予測し得ない顕著な効果があるものとは認められない。
したがって、相違点3,4は格別のものでない。

また、発明の効果について検討するに、凹凸のある部分に対し、その上に重ねる層が多ければ多いほど、その凹凸が表面に現れにくくなることは明らかであるから、引用例1記載の発明のように、軟質塩ビコアシートを含む構成が、軟質塩ビコアシートを除去した構成より、表面に凹凸が現れにくいことは明らかであり、その結果、画像の記録品質が向上するといったことも当業者であれば容易に予測しうるものである。
また、引用例4では、受像層と支持層の間にクッション層を設けることで画像の再現性を高めることについて言及している(【0036】?【0037】段落参照)。引用例1記載の発明の軟質塩ビコアシートは、引用例4記載の発明と組み合わせた場合に設けられる受像層に対して、隣り合わせて配置されるものではないものの、受像層にかかる圧力が伝搬する範囲に柔らかい層を配置することで、同様に画像の再現性を高められるであろうといったことは、当業者であれば容易に予測しうるものである。

よって、上記で検討したごとく、相違点1-4はいずれも格別なものではなく、そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、当業者であれば容易に予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。

なお、請求人は平成18年12月26日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)内において、追加実験のデータを提示して本願発明の効果を主張している。しかしながら、このデータでは、上基体の引張弾性率が300kgf/mm2に限定した場合に、クッション層の引張弾性率の変化によって印字カスレがどのように変化するのかと、クッション層の引張弾性率が50kgf/mm2に限定した場合に、上基体の引張弾性率の変化によって印字カスレがどのように変化するのかを明らかにしたに過ぎず、本願発明で限定される数値範囲の組み合わせ全体において、進歩性を推認できるような、当業者が予測し得ない顕著な効果があることが示されたものとは認められない。特に、このデータによれば、上基体の引張弾性率は400kgf/mm2を頂点にして、この値を離れるほど印字カスレ率が悪化しており、クッション層についても引張弾性率130kgf/mm2を頂点にして、この値を離れるほど印字カスレ率が悪化していることから、例えば、本願発明に合致する範囲で、これらの引張弾性率の値から最も離れた、上基体の引張弾性率1020kgf/mm2、クッション層の引張弾性率20kgf/mm2の組み合わせについても、進歩性を推認できるような、当業者が予測し得ない顕著な効果があるかどうかは明らかでない。
また、本願は、「1.手続の経緯」の欄でも述べたように、特願平6-174301号の一部を平成17年4月21日に新たな特許出願としたものであるが、この特願平6-174301号の平成17年6月23日付け手続補正書において、請求人は、本願と同様に追加実験のデータを提示している。そして、このデータにおいて「本発明」された試料、すなわち、基体の引張弾性率300kgf/mm2、クッション層の引張弾性率130kgf/mm2とした時の結果について、画像歪み評価結果は100%となっており、「本発明の試料は階調画像情報の歪みはなく、特定の基体と特定のクッション層の組み合わせにより優れた転写性を示すことが分かる。」と説明している。
一方、本願の意見書で示される追加実験のデータにおいて、試料No.5とした試料は、層構成も含め、上記特願平6-174301号における「本発明」とした試料と同じ条件のはずであるが、印字カスレ率25%、評価×とされている。
してみると、印字カスレ率の25%程度の相違は、実験の度に変化する誤差の範囲ということになり、本願の意見書で示される試料No.8?No.22に見られる程度の印字カスレ率の変化も誤差の範囲内ということになる。
さらに、本願の意見書で示される追加実験については、実験が公正に行われたことを公的機関などの第三者が証明するものでなく、このような実験結果の相違があることを考慮すると、示されたデータを本願発明の効果の裏付けとして採用することはできない。

また、請求人は意見書において、「本願発明においては、上基体とIC中間層との間にクッション層を有することにより、上記の大きな凹凸を吸収することができ、印字カスレなどのムラを防止することができるのに対し、引用例4に記載の受像層と上基体との間にクッション層を設けるものでは、表面の小さな凹凸や、小さな表面突起に起因する印刷ムラは改善できるものの、上記の大きい凹凸の撓みを抑制することができず印字カスレを改良することは困難であります。」といった主張を行っているが、本願発明のクッション層に相当する構成は、「3-2.対比」の欄で述べているように、引用例1記載の発明における「軟質塩ビコアシート」であり、引用例4に記載されたクッション層ではない。そして、該「軟質塩ビコアシート」は、本願発明と同じ上基体と中間層の間に位置するものであるから、受像層と上基体の間に設けられたクッション層と本願発明の相違を主張する意見書の上記主張は採用できない。

3-4.小括
よって、本願発明は上記引用例1,4記載された発明、および、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

4.特許法第36条第4項の拒絶理由について
4-1.拒絶理由の概要
当審における平成18年10月23日付け拒絶理由通知では、特許法第36条4項の拒絶理由について、次のように指摘している。
「この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

本願請求項5に係る発明では、クッション層の引張弾性率を20?200kgf/mm2と限定している。これに対し、本願図面図5では、請求項5に係る発明のクッション層と同じである基体と中間層の間に、硬質下敷き層を有する構成が示されており、該硬質下敷き層については、明細書【0039】?【0040】段落において、引張弾性率210kgf/mm2以上が好ましいとされている。してみると、クッション層としては、なぜ引張弾性率を20?200kgf/mm2とするのが適当であるのか、その根拠が不明であり、本願明細書の記載からでは、発明の構成要素の技術的意味を理解することができない。つまり、同じ位置に配置する部材が、「クッション層」と名付けられたときと、「硬質下敷き層」と名付けられたときで、適切な引張弾性率が異なることは理解できない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」

4-2.当審の判断
以下、上記拒絶理由通知において指摘した事項が解消されたか否か検討する。
本願発明には、「前記クッション層の引張弾性率(ASTM D790)が20?200kgf/mm2であり」とあり、上記拒絶理由通知において指摘した、クッション層の引張弾性率についての限定が含まれている。
そして、請求人は意見書において、「これについては、本願明細書段落番号「0039」に記載されているように、硬質下敷き層はカード全面ではなく、一部(ICチップの上)に形成されるもので、本願発明の上基体とクッション層の組合せでは、クッション層はICの厚みによる上下基体の大きな凹凸のたわみを改良するのに対し、硬質下敷き層は上下基体よりも硬い材質のもので、ICによる凹凸をごく一部の限られた面積の平滑性を達成することが必要なとき、必要な場所にのみ用いるものであり、前記の引張弾性率が必要となるものであります。」と説明している。
しかしながら、本願発明のクッション層については、カード全面であるというような大きさについての限定が全く付されておらず、明細書【0039】段落にあるような「カード全面ではなく一部に形成され」たものも、クッション層から除外されてはいない。
よって、クッション層と硬質下敷き層の大きさが異なることを前提とする、請求人の意見書の上記主張は採用できない。
また、補正によって【0035】?【0040】段落が削除されたが、硬質下敷き層に関する記載を削除するだけでは、依然として「クッション層としては、なぜ引張弾性率を20?200kgf/mm2とするのが適当であるのか、その根拠が不明」であることに変わりはなく、拒絶理由は解消していない。
なお、意見書の追加実験のデータについては、上記「3-3.当審の判断」で述べたように、クッション層の引張弾性率の変化によって印字カスレがどのように変化するのかについて、上基体の引張弾性率が300kgf/mm2に限定した場合の結果を示したに過ぎないものであること、試料No.8?No.22に見られる程度の印字カスレ率の変化は誤差の範囲内と考えられること、さらに、実験が公正に行われたことを公的機関などの第三者が証明するものでなく、実験結果に相違があることを考慮すると、示されたデータを、クッション層の引張弾性率を20?200kgf/mm2とすることの根拠として採用することはできない。

4-3.小括
よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が依然として記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上の通りであるから、本願発明は上記引用例1,4記載された発明、および、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-31 
結審通知日 2007-02-06 
審決日 2007-02-19 
出願番号 特願2005-123349(P2005-123349)
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (G06K)
P 1 8・ 121- WZ (G06K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 良平  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 成瀬 博之
長島 孝志
発明の名称 ICカード  

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