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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1156375
審判番号 不服2004-7858  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-16 
確定日 2007-04-26 
事件の表示 平成10年特許願第148704号「インクジェット式記録装置、及びインクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月 7日出願公開、特開平11-334098〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成10年5月29日の出願であって、平成16年3月11日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年4月16日付けで本件審判請求がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成18年12月4日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は平成19年2月5日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年2月5日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「往復動可能なキャリッジと、該キャリッジの記録媒体との対向面にインクジェット式記録ヘッドを搭載し、また前記記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジを着脱可能に搭載したインクジェット式記録装置において、
前記インクカートリッジを構成するインク収容容器に単一の球面を有する反射部材と、前記反射部材を取り囲むようにフードを設けるとともに、前記反射部材の移動経路に対向させて前記反射部材からの反射光を受けるカートリッジ検出手段を配置してなるインクジェット式記録装置。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
当審における拒絶の理由に引用した特開平7-309018号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?エの記載が図示とともにある。
ア.「交換可能なインクカートリッジ内のインク残量を検出するインク残量検出器を備えたインクジェット記録装置」(段落【0002】)
イ.「インクジェット記録装置では、インクカートリッジ44が装着されたことをインクカートリッジ検出手段43が検出する」(段落【0010】)
ウ.「前記ヘッドは支持手段としての図示しないキャリッジ(図示せず)上に配置されており、そのキャリッジの移動と共に前記ヘッドがインクを噴射してプラテン(図示せず)上に搬送された記録媒体に印字を行う。」(段落【0030】)
エ.「制御部1には、カートリッジ検出器4が接続されており、そのカートリッジ検出器4は、インクが充填されているインク保持手段であるインクカートリッジ5のインクジェット記録装置への装着を検知するものあり、例えば接点スイッチや電磁スイッチや光スイッチ等により構成されている。」(段落【0031】)

2.引用例1記載の発明の認定
記載ア?エを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認めることができる。
「交換可能なインクカートリッジを装着し、キャリッジ上に配置したヘッドにより、前記キャリッジと共に前記ヘッドが移動し、インクを噴射して記録媒体に印字を行うインクジェット記録装置であって、
前記インクカートリッジの装着を検出する光スイッチを備えたインクジェット記録装置。」(以下「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「キャリッジ」が「往復動可能」なことは自明であり、同じく「ヘッド」(本願発明の「インクジェット式記録ヘッド」に相当)が「キャリッジの記録媒体との対向面に」搭載されていることも自明である。また、引用発明1の「インクカートリッジ」(当然「記録ヘッドにインクを供給する」ものと認める。)は交換可能であるから、「着脱可能に搭載」したものである。
引用発明1の「光スイッチ」は、「カートリッジ検出器4」の例としてあげられているのだから、本願発明の「カートリッジ検出手段」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「往復動可能なキャリッジと、該キャリッジの記録媒体との対向面にインクジェット式記録ヘッドを搭載し、また前記記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジを着脱可能に搭載したインクジェット式記録装置において、
カートリッジ検出手段を配置してなるインクジェット式記録装置。」である点で一致し、次の各点で相違する。
〈相違点1〉インクカートリッジにつき、本願発明が「インクカートリッジを構成するインク収容容器に単一の球面を有する反射部材」を設けると限定しているのに対し、引用発明1には同限定がない点。
〈相違点2〉同じくインクカートリッジにつき、本願発明が「前記反射部材を取り囲むようにフードを設ける」と限定しているのに対し、引用発明1には同限定がない点。
〈相違点3〉カートリッジ検出手段につき、本願発明が「前記反射部材の移動経路に対向させて前記反射部材からの反射光を受ける」と限定しているのに対し、引用発明1には同限定がない点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点3について
便宜上、相違点3から検討する。
引用発明1の「光スイッチ」は、インクカートリッジ装着を検知するものであり、より具体的には、所定位置にインクカートリッジが存在するかどうかを検知するものである。そのような「光スイッチ」として、発光部と受光部を有し、対象物(インクカートリッジ)からの反射光の有無を検出する手段(以下「反射型光スイッチ」という。)は例をあげるまでもなく周知である。その場合、反射型光スイッチが対象物に対向しなければならないことは当然である。また、引用例1に直接記載はないけれども、インクカートリッジはヘッドにインクを供給するものであり、ヘッドはキャリッジと共に移動するものであり、インクカートリッジをキャリッジに搭載することが一般的であるから、インクカートリッジ(上記周知技術を採用した場合には、反射部を有する。)の移動経路(反射部の移動経路)に対向させて、反射部からの反射光を受けるようにすることは設計事項である。
なお、本願発明は「前記反射部材の移動経路に対向させて前記反射部材からの反射光を受ける」としているけれども、これはインクカートリッジ側の限定(相違点1に係る構成)を採用した結果にすぎないから、「反射部」であるか「反射部材」であるかは、カートリッジ検出手段としての相違でなく、ここでは検討を要しない。

(2)相違点1について
当審における拒絶の理由に引用した実願昭62-157294号(実開平1-61687号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)には、以下のオ?ケの記載が図示とともにある。
オ.「この考案は、穀稈検出装置の反射面構造に関する。」(2頁3行)
カ.「従来、・・・レーザ光線等を用いた非接触型の穀稈検出装置・・・では、脱穀部の穀稈入口の上方に脱稿部に搬入される穀稈と略平行に発信器と受信器とを並設し、同入口底面に反射面を形成して、同反射面と発受信器との間に介在した穀稈穂先の有無を、受信波のレベルによって検出することにより穀稈の有無を検知するように構成されており」(2頁5?13行)
キ.「上記反射面は、製作上の組立誤差などのため設計上の一定の取付角度を確保することが難しく、第9図で示すように発信波(a)に対して反射面(b)が角度(θ)だけ傾くと、反射波(c)は2倍の角度(2θ)進行方向が偏向することになって、受信器に入射する反射波(c)のレベルが低くなり、穀稈がないにもかかわらず、穀稈があるものと誤判別することがあり、穀稈の有無の検出に支障をきたし」(3頁7?15行)
ク.「この考案によれば、上記反射面の発受信器の設置位置を結ぶ線を含む面での断面形状が、発受信器側に突出した多数の円弧を集合して構成されているため、・・・組立誤差などによって角度(θ)変化しても、反射波のうち必ず受信器に入射するものが存在するので、穀稈の有無判別に充分な受信レベルを得ることになり」(4頁14行?5頁2行)
ケ.「反射面(23)の具体的形状を第6図、第7図で示しており、・・・第7図のものは、略半球状突起(37)多数を配設して円弧状断面を多数集合させた半球状反射面(38)を構成しており、特に第7図のものは、X、Y両方向の角度の狂いに対しても反射波を有効に受信器に入射させることができるものである。」(8頁9?17行)

引用例2記載の技術は、穀稈の有無を検出対象とする技術であるが、直接的に検出しているのは反射面からの反射波(レーザ光線を用いる場合には「反射光」といえる。)である。そして、記載キ及び第9図にあるように、反射面が平面であったのでは、組立誤差等により、本来反射面からの反射光を受光すべきであるのに受光できないという不都合があり、これを回避するために「発受信器側に突出した多数の円弧を集合して構成」、特に第7図では「半球状反射面」を採用し、組立誤差があっても反射波のうち必ず受信器に入射するものが存在するようにした技術である。引用例2記載の技術につき、請求人は「投射された光を入射角にかかわりなく可能な限り投射方向に反射させるいわゆる自己回帰反射面を構成するもの」(平成19年2月5日付け意見書2頁13?14行)と主張しているが、引用例2を曲解した主張としかいいようがない。
組立誤差に起因して反射光を受信できないことが不都合であることは、引用発明1(反射型光スイッチを採用した場合)においても共通するから、引用発明1において、インクカートリッジ側に反射型光スイッチ側に突出する半球状反射面を設けることは当業者にとって想到容易であり、そのような反射面を設けた場合には、単なる反射部ではなく「反射部材」ということができる。本願発明は「半球状」ではなく「球面」としているが、球面全体が反射面になるわけではなく、【図2】又は【図3】も見ても、球面の一部が「反射部材」として設けられているだけであるから、「半球状」か「球面」かは表現上の相違にとどまる。
残る検討項目は、「単一の球面」と限定した点である。反射面を球面とした場合、反射面を形成すべき面積が大きい場合には、単一の球面を用いれば突出量が大きくなるから、突出量を小さくするため、多数の球面にすることが普通であろうが、反射面を形成すべき面積が小さければ、単一の球面であっても何の問題もないことは自明である。引用発明1では、光スイッチの位置が決まっており、所定位置にインクカートリッジがあるかどうかだけを検知すればよいのだから、反射面の位置も光スイッチ(発受光部)に対して定まっていると解すべきであり、そのような場合には、単一の球面とすることが自然であって、設計事項というよりない。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点2について
相違点2に係る本願発明の構成につき本願明細書には、「ユーザーの手の接触による汚染による反射特性変化に起因する検出ミスを防止したものである。」(段落【0017】)との記載があり、この記載はフードを設ける目的として頷けるものの、汚染防止を目的として、保護を図るべき部材を取り囲むようにフードを設けることはありふれた周知技術であるから、設計事項としかいいようがない。
本願明細書には、「発光素子15と受光素子16を設け、また反射部材11との対向面側に外光の入射を防止するフード17を形成して構成されている。」(段落【0009】)との記載もあり、平成19年2月5日付け意見書においても「外光などによる影響を可及的に減らすように、請求項1乃至4の発明では反射部材にはフードが設けられていたり」(2頁22?23行)との主張があるが、インクカートリッジを搭載した場合には、反射光を検出することでインクカートリッジが存在するものと判断するのであって、外光があればなお一層強い反射光を検出するのだから、外光の入射を防止する必要はさらさらない。外光の入射を防止する必要性に基づいてフードを設けたのだとすると、全く無意味な理由に基づいて設けただけであって、無価値であるから、フードを設けたことによる進歩性が生じる余地はない。仮に、本願明細書の記載からは窺い知れない理由があり、外光を防止する必要があるのだとしても、光電的な検出に当たって、外光を防止するために適宜の光遮蔽部材(フードを含む。)を設けることは周知である(光遮蔽部材を設けるべき位置としては、発受光部及び検出対象を含む光学系全体の性質によって、発光部に設けることもあれば、受光部に設けることも、途中の光学部材に設けることも検出対象に設けることもある。)から、相違点2に係る本願発明の構成を採用することが設計事項であることに変わりはない。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1?3に係る本願発明の構成を採用することは設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-26 
結審通知日 2007-02-27 
審決日 2007-03-12 
出願番号 特願平10-148704
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
藤井 勲
発明の名称 インクジェット式記録装置、及びインクカートリッジ  
代理人 木村 勝彦  

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