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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1156820 |
審判番号 | 不服2004-15863 |
総通号数 | 90 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-06-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-29 |
確定日 | 2007-05-09 |
事件の表示 | 平成10年特許願第236570号「印刷装置および印刷方法並びに記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月22日出願公開、特開2000- 52573〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成10年8月6日の出願であって、平成16年6月22日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年7月29日付けで本件審判請求がされるとともに、同年8月27日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成16年8月27日付けの手続補正を却下する [理由] 1.補正内容 本件補正のうち、特許請求の範囲の補正についてみると、補正前請求項5を削除する(それに伴い、補正前の請求項6?8の項番が繰り上がっている。)とともに、請求項1,6,7(請求項6,7については補正前は請求項7,8)に補正を加えている。 補正前請求項1,7,8及び補正後請求項1,6,7の記載は次のとおりである。 (補正前の記載) 【請求項1】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷装置のうち、 前記ヘッドは、前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が主走査における往復双方の運動時で異なるヘッドである印刷装置であって、 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段と、 残余のドット列に対応するノズルを駆動して、1回の主走査で該ドット列を完成する第2のヘッド駆動手段と、 主走査を実行するごとに前記副走査を行う副走査手段とを備える印刷装置。 【請求項7】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、主走査における往復双方の運動時で各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a) 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルとその他のノズルとを区分する工程と、 (b) 前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c) 前記副走査を行う工程とを備える印刷方法。 【請求項8】ヘッドの往復双方の運動時に多色のドットを形成可能な印刷装置を駆動するためのプログラムをコンピュータ読みとり可能に記録した記録媒体であって、 従前の主走査により形成されたドット列のうち副走査が行われる移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルとその他のノズルとを区分する機能と、 前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルに対して各ドット列の一部のドットを形成するためのデータを供給する機能と、 その他のノズルに対して各ドット列を完成させるために必要なドットを形成するためのデータを供給する機能とを実現するためのプログラムを記録した記録媒体。 (補正後の記載)(下線部が補正箇所) 【請求項1】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷装置のうち、 前記ヘッドは、前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が主走査における往復双方の運動時で異なるヘッドである印刷装置であって、 印刷条件を入力する入力手段と、 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成される第1種のドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段と、 従前の主走査において前記第1のヘッド駆動手段により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、前記印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第2のヘッド駆動手段と、 残余のドット列に対応するノズルを駆動して、1回の主走査で該ドット列を完成する第3のヘッド駆動手段と、 主走査を実行するごとに前記副走査を行う副走査手段と、 を備える印刷装置。 【請求項6】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており、主走査における往復双方の運動時で各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a)(i)従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置する第1種のドット列を新たに形成するノズルと、(ii)従前の主走査により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成するノズルと、(iii)その他のノズルとを区分する工程と、 (b)前記第1種及び第2種のドット列を形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c)前記副走査を行う工程と、 を備える印刷方法。 【請求項7】ヘッドの往復双方の運動時に多色のドットを形成可能な印刷装置を駆動するためのプログラムをコンピュータ読みとり可能に記録した記録媒体であって、 前記ヘッドは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置された複数のノズルを有しており、 前記記録媒体は、 (i)従前の主走査により形成されたドット列のうち副走査が行われる移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置する第1種のドット列を新たに形成するノズルと、(ii)従前の主走査により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成するノズルと、(iii)その他のノズルとを区分する機能と、 前記第1種及び第2種のドット列を形成するノズルに対して各ドット列の一部のドットを形成するためのデータを供給する機能と、 その他のノズルに対して各ドット列を完成させるために必要なドットを形成するためのデータを供給する機能と、 を実現するためのプログラムを記録した記録媒体。 2.補正目的違反 (1)請求項1の補正について 補正前請求項1に係る発明においては、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段」によりドット形成されるノズル列以外のすべてのノズル列(「残余のドット列」)については、「1回の主走査で該ドット列を完成する」旨限定されていた。 ところが、補正後請求項1に係る発明においては、補正前と同じ「第1のヘッド駆動手段」によりドット形成されるノズル列以外について、「複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第2のヘッド駆動手段」によりドット形成されるものと、「第3のヘッド駆動手段」により「1回の主走査で該ドット列を完成する」ものが混在することになる。このような補正が、特許請求の範囲の減縮に該当するはずがない。 そればかりか、補正後の「印刷条件を入力する入力手段」及び「第2のヘッド駆動手段」が、補正前の発明特定事項を限定したものでないことは明らかである。 したがって、請求項1の補正は特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号)を目的とするものと認めることはできず、請求項削除(同項1号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)にも該当しない。 請求人は「請求項1の補正は、元の請求項5の限定内容を追加したものです。」(平成16年8月27日付け手続補正書(方式)1頁39行)と主張しているが、特許請求の範囲の減縮に当たらないことは明らかである。 本件補正後の請求項1に対応する補正前の請求項が請求項5であるとの主張かもしれないが、仮にそうだとすると補正前請求項5を引用する請求項は存在しないから、補正後の請求項2?5が新設請求項となり、請求項を新設することを特許法17条の2第4項は認めていない。 (2)請求項6,7(補正前請求項7,8)の補正について 補正後の「(ii)従前の主走査により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成するノズルと、(iii)その他のノズルとを区分する工程」(請求項6)及び「(ii)従前の主走査により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成するノズルと、(iii)その他のノズルとを区分する機能」(請求項7)は、補正前請求項7,8の発明特定事項を限定したものではないことは明らかである。 したがって、請求項6,7の補正は特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号)を目的とするものと認めることはできず、請求項削除(同項1号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)にも該当しない。 (3)請求項1の補正と請求項2?4の関連について 請求項2?4については、「印刷条件を入力する入力手段と、」との文言が削除されたことを除いては、実質的な補正はない。補正後請求項2?4の記載は次のとおりである。 【請求項2】請求項1記載の印刷装置であって、さらに、 前記印刷条件に基づいて前記第1のヘッド駆動手段を適用するか否かを判定する判定手段とを備える印刷装置。 【請求項3】前記印刷条件は、前記印刷媒体の種類である請求項2記載の印刷装置。 【請求項4】前記印刷条件は、印刷の解像度である請求項2記載の印刷装置。 請求項2に「前記印刷条件」とあるから、印刷条件自体は請求項1?4に共通したものである。 まず、請求項4について検討する。請求項4記載の「前記印刷条件」は請求項1記載の印刷条件であるから、「印刷の解像度に応じて」「n-1本以下の第2種のドット列」を定めることになる。「印刷の解像度に」については、主走査方向の解像度と副走査方向の解像度があるが、本願明細書の「印刷解像度即ち記録密度が比較的低く最初に形成されたラスタの間隔が広い場合と、印刷解像度即ち記録密度が高く最初に形成されたラスタの間隔が狭い場合とを比較」(段落【0081】)との記載によれば、後者(副走査方向の解像度)である。ところが、解像度は補正後請求項1の「各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており」との記載における「n」で定まるから、nを定めた上で、「n-1本以下」の本数を印刷の解像度に応じて定める余地はない。 すなわち、請求項1記載の印刷条件と請求項4記載の印刷条件を同一と解したのでは不都合である。請求項2?4については、印刷条件が請求項1記載の「n-1本以下の第2種のドット列」を定める役割と、請求項2記載の「第1のヘッド駆動手段を適用するか否かを判定する」役割のどちらか一方の役割だけを果たせばよいと解釈すれば、上記の不合理はない。しかし、その場合には、補正前請求項2?4にあっては、必ず「第1のヘッド駆動手段を適用するか否かを判定する」役割である旨限定されていたことからすると、特許請求の範囲を減縮するものとはいえなくなる。 すなわち、本件補正後の請求項1?4全体を合理的に解釈すると、請求項1?4の補正は特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号)を目的とするものと認めることはできず、請求項削除(同項1号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)にも該当しない。 (4)補正目的についての結論 以上のとおりであるから、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。 3.独立特許要件欠如その1 請求項1,6の「前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており、」及び請求項7の「前記ヘッドは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置された複数のノズルを有しており、」との補正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認めることができるから、これら請求項及びそれを引用する請求項に係る発明が独立して特許を受けることができるかどうか検討する。 (1)請求項1に係る発明について 以下、本件補正後の請求項番号に応じて、各請求項に係る発明を「補正発明1」?「補正発明7」という。 まず、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成される」とあるけれども、「前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査」である以上、「副走査の移動方向」とは、ヘッドから見た印刷媒体の移動方向(【図10】等では、紙面内で下から上)であり、「移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に」はノズルが存在しないから、「新たに形成」することは不可能である。そこで、上記文言を活かすため、特許請求の範囲の解釈(請求項1だけではない。)に当たっては、「副走査の移動方向」を印刷媒体から見たヘッドの移動方向(【図10】等では、紙面内で上から下)と解することにする。 補正発明1の第1のヘッド駆動手段?第3のヘッド駆動手段について検討する。 「第1種のドット列」は「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成される」ものである。本願明細書(図面を含む)には、【図10】?【図12】の例(以下「例1」という。)と、【図13】の例(以下「例2」という。)が示されている。 例1は、ノズル数(以下「M」と記す。)が48,n=5(解像度をノズルピッチの6倍とすることに等しい。)、副走査方向の送り量をL=41(ドットピッチを単位とする。)としたものであり、同じく例2はM=7,n=2(n+1=3)及びL=4としたものである。 「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成」するためには、従前の主走査における48番ノズルで記録されたラインよりも前方にノズルが位置しなければならず、そのように位置するノズル数は、副走査方向の送り量Lを(n+1)で除した数を下回らない最小の整数(例1では、41/6を下回らないことから、7となる。例2では、4/3を下回らないことから、2となる。)であり、例1では42番?48番ノズルがこれに当たり、例2では6番及び7番ノズルがこれに当たる。 他方、1回の主走査でドット列を完成しない(オーバラップ)ノズルの数は、ノズル数Mと副走査方向の送り量Lの差で定まり(Lと同数のノズルがあれば、オーバラップのないインターレース記録が実現できるから、余分のノズルはオーバーラップのためである。)、例1では48-41=7、例2では7-4=3となる。 ところで、第2のヘッド駆動手段は「従前の主走査において前記第1のヘッド駆動手段により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する」のであるが、これを例1で見ると、「第1種のドット列」は42番?48番ノズルで形成されたドット列の間に位置するドット列に対する駆動を規定したものである。発明の詳細な説明には「最初に形成されたドット列の間に形成されるドット列も2回以上の主走査で形成することにより、色ムラを適切に抑制することができる。」(段落【0026】)、「図13中の5番ノズルから7番ノズルで形成されたラスタが最初に形成されるラスタに相当する。・・・2回目の主走査において、6番ノズルおよび7番ノズルで記録されるラスタも最初に形成されるラスタに相当する。これらのラスタもオーバラップ方式により記録される。2回目の主走査において5番ノズルで記録されるラスタR11は、1回目の主走査において6番ノズルと7番ノズルで形成されたラスタの間に位置しているため、最初に形成されたラスタには相当しない。図13の例では、このラスタR11つまり、最初に形成されたラスタの間に位置するラスタもオーバラップ方式により記録している。」(段落【0077】?【0078】)及び「本実施例におけるノズルを用いた場合でも、図13と同様、最初に形成されたラスタの間に位置するラスタにまでオーバラップ方式を適用した記録を行うことができる。」(段落【0080】)とある。どのようにして「最初に形成されたラスタの間に位置するラスタにまでオーバラップ方式を適用した記録を行う」かについては、本願明細書に「送り量は、印刷条件に応じて設定される。本実施例では、予め選択可能な印刷条件の組み合わせに対して送り量を与えるテーブルをROM42に記録しておき、該テーブルを参照することによって送り量を設定可能とした。例えば、図10のラスタR1?R7に示すように、一部のラスタにオーバラップ方式を適用する場合、送り量は41ドット相当に設定される。送り量は、オーバラップ方式を適用して記録するラスタの本数に応じて変化する。」(段落【0058】)とあるとおり、副走査方向の送り量Lを変更することによるとしか解することができない。前示のとおり、1回の主走査でドット列を完成しないノズルの数は、ノズル数と副走査方向の送り量Lの差で定まるから、Lを小さくすればオーバラップ記録のライン数が増えることはたやすく理解できる。しかし、Lを変更すれば、一般に「第1種のドット列に対応するノズル」数も変更される。しかも、Lは(n+1)と互いに素でなければ、一定の送り量で「各ノズル間にn本のドット列を記録」することができないから、例1において変更できるのは、L=37,L=35等である。 L=37に変更すれば、「第1種のドット列に対応するノズル」数は7のままである(42番?48番ノズル)けれども、M-L=11であるから、38番?48番ノズルで形成されたドット列が、6回後の走査で1番?11番ノズルでオーバラップ記録されることになる。ところが、第1のヘッド駆動手段で形成されるドット列は7列であり、「ドット列の間」は6個ある。「n本のドット列のうち、前記印刷条件に応じて定まるn-1本以下」とあり、例1は「n-1本以下」が0本に当たるため、変更後は1本以上でなければならないから、「ドット列の間」が6個ある以上、合計して6の倍数(最低でも6)だけオーバラップ記録のドット列を増やさなければならないのに、M-Lは4増えるだけだから、「n本のドット列のうち、前記印刷条件に応じて定まるn-1本以下」の選択をすることができない。より具体的には、48番と47番ノズルの間、47番と46番ノズルの間、46番と45番ノズルの間及び45番と44番ノズルの間は、1本のドット列がオーバラップ記録されるが、44番と43番ノズルの間及び43番と42番ノズルの間のドット列はオーバラップ記録されない。このようなことを「前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、前記印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列に対応するノズルを駆動」と認めることはできない。 L=35に変更すれば次の不都合がある。まず、「第1種のドット列に対応するノズル」数が6に変更される。すなわち、第1ヘッド駆動手段により駆動されるノズルが変更される。第2のヘッド駆動手段は「前記第1のヘッド駆動手段により形成された前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列のうち、前記印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列に対応するノズルを駆動」するのだから、第1ヘッド駆動手段により駆動されるノズルには変更がないことが前提とされている。同前提がないのならば、上記記載は著しく不明確である(特許法36条6項2号違反)。そうである以上、L=35に変更した場合には、第1ヘッド駆動手段により駆動されるノズルには変更がないとの前提を欠くことになる(これは、L<35にも当てはまる。)。さらに、L=35であれば、43番?48番ノズルが「第1種のドット列に対応するノズル」になり、従前の主走査において48番ノズルで形成されたドット列と次の走査で43番ノズルで形成されるドット列との間に4本のドット列があり、これらドット列は「前記第1種のドット列の間に位置するn本のドット列」には該当せず、43番ノズルで形成されるドット列の1つ手前のドット列は、その次の走査で37番ノズルでドット形成される。ここで、L=35であれば、M-L=13であるから、36?48番ノズルで形成されたドット列が、6回走査後に1?13番ノズルでオーバラップ記録されることになり、上記「43番ノズルで形成されるドット列の1つ手前のドット列」は、37番ノズルで部分的にドット形成された後、その6回走査後に2番ノズルでオーバラップ記録される。これは、補正発明1の「残余のドット列に対応するノズルを駆動して、1回の主走査で該ドット列を完成する第3のヘッド駆動手段」に反する。 結局のところ、副走査方向の送り量Lを変更しても、補正発明1の第1?第3のヘッド駆動手段すべてに該当するわけではない。 そうである以上、補正発明1が発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできず、発明の詳細な説明の記載が、補正発明1を実施可能な程度にされていると認めることもできない。 以上のとおり、補正後の請求項1及び発明の詳細な説明の記載は、平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 (2)補正発明2?4について 2(3)で述べたことと関連するが、請求項2に「前記印刷条件に基づいて前記第1のヘッド駆動手段を適用するか否かを判定する判定手段」とあることにより、「n-1本以下の第2種のドット列」を定めるとの請求項1記載の役割と、請求項2記載の役割との関係が著しく不明確である。 したがって、請求項1?4は、補正発明2?4を確定する意味合いにおいて不明確といわざるを得ず、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (3)補正発明5について 補正後の請求項5の記載は次のとおりである。 「請求項1記載の印刷装置であって、 前記第1のヘッド駆動手段は、前記印刷条件に応じて設定される分割数で、各ドット列を形成する手段である印刷装置。」 請求項1には「複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段」とあるから、最低2分割が条件である。すると、請求項5の「印刷条件に応じて設定される分割数」は3分割以上の場合を必須としている。 しかし、3分割以上とするためには、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成される第1種のドット列」を、ノズル番号の大きなノズルで一部形成し、ノズル番号が中間のノズル列で一部形成し、最後にノズル番号の小さなノズルでドット列を完成させなければならない。そのためには副走査方向の送り量Lを相当程度小さくしなければならず、そのようにすれば、「第1種のドット列に対応するノズル」数が変更されてしまう。 そればかりか、第1種のドット列につき、ノズル番号が中間のノズル列で一部形成されるまでに、「第1種のドット列の間に位置するn本のドット列」すべてが1回ドット形成され、ノズル番号の小さなノズルでドット列を完成するまでに、上記n本のドット列すべてが2回目のドット形成をされる。これは「印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成するノズル」に反する。 したがって、補正発明5を発明の詳細な説明に記載された発明と認めることはできないし、発明の詳細な説明の記載が、補正発明1を実施可能な程度にされていると認めることもできない。 以上のとおり、補正後の請求項5及び発明の詳細な説明の記載は、平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 (4)補正発明6について 補正発明6の(a)及び(b)の発明特定事項は、補正発明1における第1?第3のヘッド駆動手段を、発明のカテゴリーが相違することに起因して、工程として表現したものである。もっとも、発明特定事項(b)には「その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程」とあるものの、請求項1にある「1回の主走査で該ドット列を完成する」(下線は当審で加入)との限定記載はない。 「その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程」が「1回の主走査」を意味するのならば、(1)で述べたと同様の理由により、平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 「その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程」が「1回の主走査」を意味しないのならば、補正発明6が発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできず、「前記第1種及び第2種のドット列を形成するノズル」と「その他のノズル」を区分する工程(a)の技術的意義を理解できない。 したがって、補正後の請求項6及び発明の詳細な説明の記載は、平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 (5)補正発明7について 若干表現は異なるけれども、請求項7は請求項6に係る印刷方法を実現するためのプログラムを記録した記録媒体である。 そうである以上、(4)で述べたと同様の理由により、補正後の請求項7及び発明の詳細な説明の記載は、平成14年改正前特許法36条4項及び6項1号に規定する要件を満たしていない。 (6)独立特許要件の判断その1 以上の理由により、補正発明1?7は、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。 4.独立特許要件欠如その2 (1)補正発明6の認定 補正発明6は、補正後の請求項6に記載された事項によって特定される発明であるが、同請求項の記載には、3.で述べた重大な不備がある。そのため、次のように解釈した上で、さらに審理を進める。 まず、副走査方向については、「前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査」については、「前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査」の趣旨に解する。 発明特定事項(a)及び(b)については、「各ドット列の一部のドットを形成」するノズルと「1回の主走査で該ドット列を完成する」ノズルを区分するとともに、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」は「各ドット列の一部のドットを形成」するノズルとし、さらに「各ドット列の一部のドットを形成」するノズル数を、印刷条件に応じて定める工程の趣旨に解する。 上記解釈のもとでは、補正発明6を次のとおり認定することができる。 「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており、主走査における往復双方の運動時で各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a)各ドット列の一部のドットを形成するノズルと1回の主走査で該ドット列を完成するその他のノズルを区分するとともに、従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列は各ドット列の一部のドットを形成するノズルとし、さらに各ドット列の一部のドットを形成するノズル数を、印刷条件に応じて定める工程と、 (b)前記各ドット列の一部のドットを形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは1回の走査で各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c)前記副走査を行う工程と、 を備える印刷方法。」 (2)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-290508号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?カの記載又は図示がある。 ア.「副走査方向に配列した複数の記録ノズルからなる記録ノズル列を有する記録ヘッドと、記録媒体を副走査方向に移動させる手段とを備え、前記記録ヘッドの副走査方向の記録ノズル間隔をDとしたとき、前記記録ヘッドと記録媒体とを、副走査方向へ(m+1/k)D、又は(m-1/k)Dだけ(mは整数で、m≧0、kは整数で、k≧2)相対移動させ、前記記録ノズル間隔Dの間をk回主走査することでD/kの記録ドット密度で画像を記録するインターレス印写が可能なインクジェット記録装置において、N回目(Nは整数で、N≧1)の主走査時に印写する領域と、(N+k)回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねて、この重ね領域のドットを前記N回目及び(N+k)回目のいずれかで印写することを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項1】) イ.「請求項1乃至3のいずれかに記載のインクジェット記録装置において、前記重ね領域の記録ノズル数を前記記録媒体の厚みに応じて変化させることを特徴とするインクジェット記録装置。」(【請求項4】) ウ.「記録ヘッド4は、図2に示すように、イエロー(Y)のインクを吐出する複数の記録ノズル11からなる記録ノズル列11Yを有するヘッドHY、マゼンタ(M)のインクを吐出するノズル列11Mを有するヘッドHM、シアン(C)のインクを吐出する記録ノズル列11Cを有するヘッドHC及びブラック(Bk)のインクを吐出するノズル列11Bを有するヘッドHBという4個のヘッドを、各記録ノズル列11Y、11M、11C及び11Bの記録ノズル11が副走査方向に配列されるようにキャリッジ3に主走査方向に配列したものである。」(段落【0013】) エ.「例えば、図7(a)に示すように、上述と同様に記録ヘッド4の記録ノズル数を記録ノズルn1?n10の10個、定数m=2、k=3、記録ノズル間隔Dとして、副走査方向への移動量を(m+1/k)Dとすることによって、N回目、例えば1回目の主走査時に印写する領域と、(N+k)回目、例えば(1+3)=4回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねている。つまり、1回目の主走査時に記録ノズルn7?n10で印写する領域と4回目の主走査時に記録ノズルn1?n3で印写する領域の一部を重ねている。この場合、重ね領域の記録ノズル数は3個である。」(段落【0026】) オ.「各色毎にN回目(Nは整数で、N≧1)の主走査時に印写する領域と、(N+k)回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねて、この重ね領域をN回目及び(N+k)回目のいずれかの主走査時に印写する。図9に重ね領域の印写ドットパターンを示している。同図(a)はN回目と(N+k)回目とで1ドット毎に交互に印写するようにした場合、同図(b)は同図(a)と逆の順序で印写するようにした場合、同図(c)はN回目と(N+k)回目とで2ドット毎に交互に印写するようにした場合、同図(d)は同図(c)と逆の順序で印写するようにした場合である。」(段落【0033】) カ.【図1】及び【図2】から、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのヘッドが主走査方向に並列配置され、各色ヘッドのノズル位置は副走査方向では同一位置にあることが看取できる。 (3)引用例記載の発明の認定 引用例は直接的には「インクジェット記録装置」について記載した文献であるが、記載又は図示ア?カを含む引用例の全記載及び図示によれば、インクジェット記録装置を用いた印刷方法として次のような発明が記載されていると認めることができる。 「イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのヘッドを主走査方向に並列配置し、各色ヘッドのノズル位置を副走査方向では同一位置とした記録ヘッドを用いた印刷方法であって、 記録ヘッドの副走査方向の記録ノズル間隔をDとしたとき、前記記録ヘッドと記録媒体とを、副走査方向へ(m+1/k)D、又は(m-1/k)Dだけ(mは整数で、m≧0、kは整数で、k≧2)相対移動させ、前記記録ノズル間隔Dの間をk回主走査することでD/kの記録ドット密度で画像を記録するインタレース印写を行い、N回目(Nは整数で、N≧1)の主走査時に印写する領域と、(N+k)回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねて、この重ね領域のドットを前記N回目及び(N+k)回目のいずれかで印写し、 前記重ね領域の記録ノズル数を前記記録媒体の厚みに応じて変化させる印刷方法。」(以下「引用発明A」という。) (4)補正発明6と引用発明Aとの一致点及び相違点の認定 引用発明Aの「記録ヘッド」及び「記録媒体」と補正発明の「ヘッド」及び「印刷媒体」には表現上の相違しかないから、引用発明Aが「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に移動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法」であることは自明である。 引用発明Aの「k」は補正発明6の「n+1」に相当するものであり、引用発明Aの「記録ヘッド」が「前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されて」いることも明らかである。 引用発明Aが、主走査における往復双方の運動時にインクを吐出するかどうか明らかでないが、仮にそうした場合には、「イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのヘッドを主走査方向に並列配置し、各色ヘッドのノズル位置を副走査方向では同一位置とした記録ヘッド」であることから、「往復双方の運動時で各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なる」ことになる。 引用発明Aにおける「重ね領域の記録ノズル」は補正発明6の「各ドット列の一部のドットを形成するノズル」に相当し、引用発明Aにおいて「前記重ね領域の記録ノズル数を前記記録媒体の厚みに応じて変化させる」ことと補正発明6において「各ドット列の一部のドットを形成するノズル数を、印刷条件に応じて定める」ことに相違はない。すなわち、補正発明6の発明特定事項(a)のうち「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列は各ドット列の一部のドットを形成するノズル」とするかどうかの点を除けば、同発明特定事項は引用発明Aにも備わっている。 補正発明6の発明特定事項(b)及び(c)を引用発明Aが備えることは自明である。 したがって、補正発明6と引用発明Aとは、 「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に移動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、前記ノズルは、各ノズル間にn本のドット列を記録可能な間隔で配置されており、仮に主走査における往復双方の運動時でインクを吐出した場合には、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a)各ドット列の一部のドットを形成するノズルと1回の主走査で該ドット列を完成するその他のノズルを区分するとともに、各ドット列の一部のドットを形成するノズル数を、印刷条件に応じて定める工程と、 (b)前記各ドット列の一部のドットを形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは1回の走査で各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c)前記副走査を行う工程と、 を備える印刷方法。」である点で一致し、次の各点で相違する。 〈相違点1〉補正発明6は「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成」を行う、すなわち主走査における往復双方の運動時にインク吐出を行うのに対し、引用発明Aにおいて往復双方の運動時にインク吐出を行う旨の限定がない点。 〈相違点2〉補正発明6が「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列は各ドット列の一部のドットを形成するノズルと」するのに対し、引用発明Aにはその限定がない点。 (5)相違点についての判断及び補正発明6の独立特許要件の判断その2 〈相違点1について〉 本件出願当時、印刷速度向上のため往復双方の運動時にインク吐出を行うことは周知であり、引用発明Aにこの周知技術を採用することを妨げる理由はない。 したがって、相違点1に係る補正発明6の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。 〈相違点2について〉 引用発明Aには、相違点2に係る補正発明6の発明特定事項の限定はないが、引用例の記載エ(【図7】)には、ノズル数M=10、k=3(n=2)及びm=2とし、副走査方向へ(2+1/3)D、すなわちドットピッチを単位とした副走査方向送り量L=7とした例が示されている。この例では、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」は3列であり、重ね領域の記録ノズル数も3であり、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」はすべて重ね領域となる。 引用例の記載エ(【図7】)を出発点として、重ね領域の記録ノズル数を変更した場合を考察すると、副走査方向送り量をL=5((2-1/3)Dだけ送る。)に変更すれば、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」は2列となり、重ね領域の記録ノズル数は5となって、相違点2に係る補正発明6の発明特定事項を充足する。 そうである以上、相違点2に係る補正発明6の発明特定事項を採用することに困難性があるということはできず、当業者にとって想到容易というべきである。 請求項6の「n本のドット列のうち、印刷条件に応じて定まるn-1本以下の第2種のドット列を形成」との記載から、「各ドット列の一部のドットを形成するノズル数」が全ノズル数よりも小さいことを補正発明6の発明特定事項に加えたとすると、上述したM=10かつL=5であればこれに該当しないが、M=11にすれば、L=8(送り量が(3-1/3)D)とするかL=7(送り量が(2+1/3)D)によって、「各ドット列の一部のドットを形成するノズル数」を全ノズル数11よりも小さく保ったまま重ね領域を変更できるから、相違点2に係る上記判断には影響を及ぼさない。 〈補正発明6の独立特許要件の判断〉 相違点1,2に係る発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易であり、同発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明6は引用発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、本件補正は、特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。 [補正の却下の決定のむすび] 以上のとおり、本件補正は特許法17条の第4項及び同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下され、他に明細書の補正はされていないから、本願の請求項1及び請求項7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明7」という。)は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項1】又は【請求項7】に記載された事項によって特定されるものである。ただし、副走査方向については「第2[理由]3(1)」で指摘した問題があるため、「第2[理由]4(1)」と同様に、「前記印刷媒体を前記ヘッドに対し相対的に一方向に移動する副走査」を、「前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査」の趣旨に解する。 したがって、本願発明1及び本願発明7を次のとおり認定する。 【本願発明1】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷装置のうち、 前記ヘッドは、前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が主走査における往復双方の運動時で異なるヘッドである印刷装置であって、 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段と、 残余のドット列に対応するノズルを駆動して、1回の主走査で該ドット列を完成する第2のヘッド駆動手段と、 主走査を実行するごとに前記副走査を行う副走査手段とを備える印刷装置。 【本願発明7】ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、主走査における往復双方の運動時で各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a) 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルとその他のノズルとを区分する工程と、 (b) 前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c) 前記副走査を行う工程とを備える印刷方法。 2.引用例記載の発明の認定 引用例には「第2[理由]4(2)」で摘記した記載又は図示があり、記載エ及び【図7】に具体例として示されたインクジェット記録装置及び印刷方法は、それぞれ次のようなものである。 (インクジェット記録装置の発明) 「イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのヘッドを主走査方向に並列配置し、各色ヘッドのノズル位置を副走査方向では同一位置とした記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置であって、 各色のヘッドは副走査方向にノズル間隔Dで10個のノズルを配置したヘッドであり、 記録媒体を副走査方向に移動させる手段とを備え、 前記記録ヘッドの副走査方向の記録ノズル間隔をDとしたとき、前記記録ヘッドと記録媒体とを、副走査方向へ(2+1/3)D相対移動させ、前記記録ノズル間隔Dの間を3回主走査することでD/3の記録ドット密度で画像を記録するインタレース印写を行い、N回目(Nは整数で、N≧1)の主走査時に印写する領域と、(N+3)回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねて、この重ね領域のドットを前記N回目及び(N+3)回目のいずれかで印写するインクジェット記録装置。」(以下「引用発明B]という。) (印刷方法の発明) 「イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのヘッドを主走査方向に並列配置し、各色ヘッドのノズル位置を副走査方向では同一位置とした記録ヘッドを用いた印刷方法であって、 各色のヘッドは副走査方向にノズル間隔Dで10個のノズルを配置したヘッドであり、前記記録ヘッドと記録媒体とを、副走査方向へ(2+1/3)Dだけ相対移動させ、前記記録ノズル間隔Dの間を3回主走査することでD/3の記録ドット密度で画像を記録するインタレース印写を行い、N回目(Nは整数で、N≧1)の主走査時に印写する領域と、(N+3)回目の主走査時に印写する領域の一部を重ねて、この重ね領域のドットを前記N回目及び(N+3)回目のいずれかで印写する印刷方法。」(以下「引用発明C]という。) 3.本願発明1と引用発明Bとの一致点及び相違点の認定 「第2[理由]4(5)」で述べたことを踏まえると、本願発明1と引用発明Bが「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に移動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷装置のうち、 前記ヘッドは、前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、仮に主走査における往復双方の運動時でインクを吐出した場合には、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドである印刷装置」である点及び「主走査を実行するごとに前記副走査を行う副走査手段とを備える」点で一致する。 引用発明Bでは「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」は3列であり、これら3列は副走査方向先端部の3つのノズル(【図7】のn8?n10)及び後端部の3つのノズル(【図7】のn1?n3)によりドット形成されるから、これら6個のノズルが本願発明1の「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列に対応するノズル」に相当する。引用発Bの残余のノズル(【図7】のn4?n7)が本願発明1の「残余のドット列に対応するノズル」に相当する。 そして引用発明Bでは、n8?n10及びn1?n3のノズルは、ドット列の一部のドットを形成し、n4?n7のノズルは1回の主走査でドット列を完成するように駆動されるのだから、これら2種類のノズルに対する駆動手段を「第1のヘッド駆動手段」及び「第2のヘッド駆動手段」と称することには何の問題もない。 したがって、本願発明1と引用発明Bとは、 「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に移動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷装置のうち、 前記ヘッドは、前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、仮に主走査における往復双方の運動時でインクを吐出した場合には、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドである印刷装置であって、 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列に対応するノズルを駆動して、複数回の主走査分に分割された一部のドットを形成する第1のヘッド駆動手段と、 残余のドット列に対応するノズルを駆動して、1回の主走査で該ドット列を完成する第2のヘッド駆動手段と、 主走査を実行するごとに前記副走査を行う副走査手段とを備える印刷装置。」である点で一致し。次の点で相違する。 〈相違点〉本願発明1は「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に往復動する主走査により該主走査方向のドット列の形成」を行う、すなわち主走査における往復双方の運動時にインク吐出を行うのに対し、引用発明Bにおいて往復双方の運動時にインク吐出を行う旨の限定がない点。 4.相違点についての判断及び本願発明1の進歩性の判断 上記相違点は、発明のカテゴリは異なるものの、「第2[理由]4(4)」において、補正発明6と引用発明Aの相違点1としてあげた相違点と実質的に同じである。 そして、「第2[理由]4(5)」で、相違点1に係る補正発明6の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易である旨説示したが、同理由により上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易である。また、同発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明1は引用発明B及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 5.本願発明7と引用発明Cとの一致点及び相違点の認定 「第2[理由]4(5)」で述べたように、引用発明Cにおいては、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向の位置に新たに形成されるドット列」は3列であり、重ね領域のドット列数と一致している。引用例【図7】から明らかなように、上記3列はn8?n10で部分的に印写(N回目)された後、(N+3)回目にn1?n3で印写される。すなわち、引用発明Cのn8?n10が本願発明7の「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズル」に相当し、これらノズルによって「各ドット列の一部のドットを形成」点で本願発明7と引用発明Cに相違はない。 本願発明7の「その他のノズル」に相当するのは、引用発明Cのn1?n7のノズルである。 引用発明Cのn1?n3のノズルは、既にn8?n10のノズルによって「各ドット列の一部のドットを形成」したドット列の残りのドットを形成しており、これは「各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する」ことと異ならない。また、引用発明Cのn4?n7のノズルは、1回の主走査でドット列を完成していることが明らかであり、これも本願発明7の「各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する」ことと異ならない。以上によれば、引用発明Cは本願発明7の発明特定事項(b)を備えると認めることができ、同(c)(副走査を行う工程)を備えることは明らかである。 本願発明7の発明特定事項(a)は、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズル」だけを他のノズルと区分する旨限定しているが、これらのノズルによっては発明特定事項(b)のとおり「各ドット列の一部のドット」しか形成せず、残りは「その他のノズル」の一部で形成するのだから、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズル」だけを他のノズルと区分することには意味がなく、「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズル」だけを他のノズルと区分することは、せいぜい認識上の区分であって、印刷方法として見た場合、実質的な相違点であると認めることはできない。現に、本願発明1では、「新たに形成されるドット列に対応するノズル」と「1回の主走査で該ドット列を完成する」ノズルを区分していることを考慮すれば、なおさら「従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズル」とそのドット列のドットを後に形成するノズルを区分することには意味がなく、発明特定事項(a)を相違点とすることはできない。 したがって、本願発明7と引用発明Cとは、 「ヘッドを印刷媒体に対し相対的に移動する主走査により該主走査方向のドット列の形成と、前記ヘッドを前記印刷媒体に対し相対的に一方向に移動する副走査とを繰り返し実行して、入力された画像データに応じた多色の画像を該印刷媒体上に印刷する印刷方法のうち、 前記副走査方向に所定のピッチで配置された複数のノズルからなるノズル列を、前記多色の画像に用いられるインクの色数に対応した数だけ有し、仮に主走査における往復双方の運動時でインクを吐出した場合には、各記録位置に対する各色のインクを吐出する順序が異なるヘッドを用いる印刷方法であって、 (a) 従前の主走査により形成されたドット列のうち前記副走査の移動方向の端に位置するドット列よりもさらに前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルとその他のノズルとを区分する工程と、 (b) 前記移動方向に位置するドット列を新たに形成するノズルでは各ドット列の一部のドットを形成し、その他のノズルでは各ドット列を完成させるために必要なドットを形成する工程と、 (c) 前記副走査を行う工程とを備える印刷方法。」である点で一致し、「第2[理由]4(4)」であげた〈相違点1〉においてのみ相違する(「補正発明6」及び「引用発明A]を「本願発明7」及び「引用発明C」と読み替える。) 6.相違点についての判断及び本願発明7の進歩性の判断 「第2[理由]4(5)」で、相違点1に係る補正発明6の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易である旨説示したが、同理由により上記相違点に係る本願発明7の発明特定事項を採用することが当業者にとって想到容易である。また、同発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明7は引用発明C及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本件補正は却下されなければならず、本願発明1及び本願発明7が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-02-28 |
結審通知日 | 2007-03-06 |
審決日 | 2007-03-19 |
出願番号 | 特願平10-236570 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J) P 1 8・ 537- Z (B41J) P 1 8・ 536- Z (B41J) P 1 8・ 572- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 時男、小松 徹三 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
長島 和子 尾崎 俊彦 |
発明の名称 | 印刷装置および印刷方法並びに記録媒体 |
代理人 | 特許業務法人明成国際特許事務所 |