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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680172 審決 特許
無効200680012 審決 特許
無効2007800010 審決 特許
無効200680124 審決 特許
無効200680221 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H05K
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H05K
審判 全部無効 2項進歩性  H05K
管理番号 1157719
審判番号 無効2004-80231  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-18 
確定日 2007-04-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第1927967号「印刷回路用銅箔の処理方法」の特許無効審判事件についてされた平成18年3月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成18年(行ケ)第10181号、平成18年6月16日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
(1)本件特許第1927967号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成1年5月2日に出願され、平成7年5月12日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
(2)これに対し、請求人は、平成16年11月18日に請求項1及び2に係る発明の特許について無効審判を請求した。
(3)被請求人は、平成17年2月4日に答弁書を提出し、また、請求人は、同年4月4日に弁駁書を提出した。
(4)請求人及び被請求人は、平成17年5月30日にそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出し、同日、特許庁審判廷において、第1回口頭審理が行われた。
(5)平成17年6月10日付けで請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。
(6)これに対し、被請求人は、平成17年7月20日に審決の取消しを求める訴えを知的財産高等裁判所に提起した(平成17年(行ケ)第10580号)後、90日の期間内に特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求したところ、当該裁判所は、平成17年11月8日付けで、特許法第181条第2項の規定を適用して審決の取消の決定をした。
(7)その後、被請求人は、特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内の平成17年12月5日に訂正請求書を提出し、これに対し、請求人は、平成18年1月11日に弁駁書を提出した。
(8)そこで、さらに審理がなされたうえで、平成18年3月10日付けで訂正を認め、請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。
(9)これに対し、被請求人は、平成18年4月21日に審決の取消しを求める訴えを知的財産高等裁判所に提起した(平成18年(行ケ)第10181号)後、90日の期間内に特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判を請求したところ、当該裁判所は、平成18年6月16日付けで、特許法第181条第2項の規定を適用して再度審決の取消の決定をした。
(10)その後、被請求人は、特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内の平成18年7月3日に訂正請求書を提出し、これに対し、請求人は、平成18年8月11日に弁駁書を提出し、また、被請求人は、平成18年11月10日に答弁書を提出した。
(11)請求人及び被請求人は、平成18年12月11日にそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出し、同日、特許庁第1審判廷において、第2回口頭審理が行われた。

第2.訂正の可否に対する判断
1.訂正の内容
平成18年7月3日付けの訂正請求の要旨は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した全文訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲1)において、「銅、コバルト及びニッケルから成る電気めっき層」を「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲1)の電気めっき層について、「該電気めっき層が、i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、iii)平均厚みが0.2?0.5μmである」ことを規定する。

(3)訂正事項c
本件特許明細書第7頁第6?9行(本件特許公報(特公平6-50794号公報)第2頁第4欄第30?33行)の
「(1)印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に銅、コバルト及びニッケルから成る電気めっき層を形成することを特徴とする印刷回路用銅箔の処理方法」を
「(1)印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層を形成することを特徴とする印刷回路用銅箔の処理方法であって、該電気めっき層が、
i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、
ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、
iii)平均厚みが0.2?0.5μm
である印刷回路用銅箔の処理方法」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
上記訂正事項aは、本件特許明細書の特許請求の範囲1)に記載された「銅、コバルト及びニッケルから成る電気めっき層」を「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」と訂正するものであり、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明に該当する。すなわち、電気めっき層について、例えば、本件特許明細書第6頁第13行(本件特許公報第2頁第4欄第18?19行)には、「銅-コバルト-ニッケルを含む三元合金」、本件特許明細書第8頁下から7?3行(本件特許公報第3頁第5欄第7?10行)には、「本発明に従えば、この合金めっきは、電解めっきにより、……3元系合金を形成するように実施される。」と3元系合金めっき層であることが記載されている一方で、本件特許明細書の特許請求の範囲1)で「銅、コバルト及びニッケルから成る電気めっき層」と記載され、両者は一致していないという不明りょうがあったところを明りょうにするために、本件訂正明細書の特許請求の範囲1)で、「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」と訂正するものである。
また、上記訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項bについて
上記訂正事項bは、特許請求の範囲1)の電気めっき層を「i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、iii)平均厚みが0.2?0.5μmである」ことに限定するものであり、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、本件特許明細書第8頁下から7行?第10頁第1行(本件特許公報第3頁第5欄第7?31行)に、「本発明に従えば、この合金めっきは、電解めっきにより、20?40mg/dm2銅-100?3000μg/dm2コバルト-100?1000μg/dm2ニッケル3元系合金を形成するように実施される。……このCu-Co-Ni3元系合金層の厚みは、……その計算上の平均の厚みで表わすと、0.2?0.5μm……である。……また、同様にしてCu-Co-Ni3元系合金層中のCo及びNi含有量は以下の通りとなる。まず、Co含有量は、重量%で、1?8%が好ましく、……一方、Ni含有量は重量%で、0.5?3%が好ましく、」と記載されていることから、この限定は新規事項の追加に該当するものではなく、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
更に、上記訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項cについて
上記訂正事項cは、上記訂正事項a、bにより特許請求に範囲1)の記載が訂正された結果、当該訂正事項a、bと整合するように発明の詳細な説明の欄の記載を訂正するものであるから、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明に該当し、かつ、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、更に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.本件発明について
平成18年7月3日付けの訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲1)及び2)に記載された次のとおりのものと認められる。
「1)印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層を形成することを特徴とする印刷回路用銅箔の処理方法であって、該電気めっき層が、
i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、
ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、
iii)平均厚みが0.2?0.5μm
である印刷回路用銅箔の処理方法。
2)前記電気めっき層を形成した後に防錆処理を施すことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の印刷回路用銅箔の処理方法。」(以下、それぞれ、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)

第4.請求人の主張
1.訂正前の本件発明1,2及び明細書の記載について
請求人は、平成16年11月18日付け審判請求書において、本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、概ね次の主張をしている。
(1)本件特許明細書の特許請求の範囲1)及び2)に記載された発明(以下、それぞれ、「訂正前の本件発明1」及び「訂正前の本件発明2」という。)は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である後記の甲第1号証?甲第11号証のいずれかに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、または、それらに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の本件発明1及び2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という)。
(2)また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び特許請求の範囲の記載は不備であるから、本件特許は、平成2年改正前特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、平成6年改正前特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という)。
(3)そして、請求人は、証拠方法として次の甲第1号証?甲第11号証を提出している。

甲第1号証:特開昭62-40348号公報
甲第2号証:特開昭52-145769号公報
甲第3号証:特開昭58-28893号公報
甲第4号証:榎本英彦、小見崇著,「合金めっき」,初版,
日刊工業新聞社,昭和62年7月25日,p.65-79の写し
甲第5号証:特公昭62-14234号公報
甲第6号証:特表昭58-500149号公報
甲第7号証:特公昭61-34385号公報
甲第8号証:特開昭49-16863号公報
甲第9号証:特開昭52-124172号公報
甲第10号証:特開昭62-128594号公報
甲第11号証:特公昭63-25518号公報

また、請求人は、他の証拠方法として、平成17年4月4日付け弁駁書において次の甲第12号証?甲第15号証を提出している。

甲第12号証:特許第2875187号公報
甲第13号証:特許第3367805号公報
甲第14号証:米国特許第5,019,222号明細書
甲第15号証:一枚目に「株式会社日鉱マテリアルズ」、「圧延銅箔」
との記載のあるパンフレットの写し
(全2枚、発行日不詳)

2.訂正後の本件発明1,2及び明細書の記載について
請求人は、平成18年8月11日付け弁駁書及び平成18年12月11日付け口頭審理陳述要領書において、本件訂正明細書の特許請求の範囲1)及び2)に記載された訂正後の本件発明1及び2(上記「第3.本件発明について」、参照)は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(以下、「無効理由1:進歩性欠如」という)、また、本件訂正明細書の記載は平成2年改正前特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない(以下、「無効理由2:記載不備」という)旨を主張し、証拠方法として次の甲第16号証及び甲第17号証を提出し、その理由として、概ね次の主張をしている。

甲第16号証:特公平6-54831号公報
甲第17号証:被請求人(原告)が
東京地方裁判所平成16年(ワ)第15688号
特許権侵害差止請求事件で提出した「被告製品説明書」
(作成日 平成16年6月21日)の写し

(1)無効理由1:進歩性欠如について
ア 発明の構成の自明性について
本件明細書の実施例では「Cu-Co-Niめっき(本発明)」のめっき浴組成として、「Cu:5?25g/l、Co:3?15g/l、Ni:3?15g/l」と記載されている。一方、甲第5号証の第3頁第6欄第26?33行には、めっき浴組成として、「ニッケル塩(金属ニッケル分として):2?30g/l(0.03?0.5モル/l、銅塩(金属銅分として):0.3?10g/l(0.005?0.16モル/l)、コバルト塩(金属コバルト分として):0.1?20g/l(0.002?0.34モル/l)」と記載されている。このめっき浴組成は、上記した本件明細書の実施例のめっき浴組成と重複している。そうすると、甲第5号証の上記めっき浴から得られる3元合金には、本件発明1の3元合金も当然に自明の態様として包含さていることになる。よって、本件発明1の構成事項は、甲第1号証に内在し且つ甲第1号証?甲第5号証に記載された技術事項から自明の域を出ないものである。
イ 発明の効果の自明性について
本件発明1の効果(効果(a):耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有すること。効果(b):CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングをも可能とすること。効果(c):帯磁性を許容水準以下とすること。)は、いずれも予期せざる顕著な効果ではないので、特許性の根拠とはなり得ないものである。

(2)無効理由2:記載不備について
ア 平均厚みが0.2?0.5μmという要件について
本件発明1における平均厚みは、銅めっき粗化処理することなく銅箔上に直接3元合金めっき層を付与した場合にのみ適用されうる規定であり、甲第17号証に示されているような著しい凹凸面をもつ銅めっき粗化処理層を介して付与した3元合金めっき層の平均厚みには適用し得ない規定である。
イ 3元合金めっき層の製造方法(条件)について
本件発明1が処理方法の発明であることからも、明細書中には、組成にかかわらない3元合金めっき層を製造する条件ではなく、数値限定された要件を満足する3元合金めっき層の製造方法(条件)が記載されていることが要求される。然るに、本件明細書には、一般的説明はもとより、実施例でも、めっき条件、特にめっき浴組成、が範囲をもって記載されているにとどまり、しかもその条件は、本件発明1の3元合金の規定を満足しない3元合金を与える条件として被請求人が示した乙第2号証に記載されている条件と区別がつかないのである。このことは、本件明細書が本件発明1の数値限定された要件をもつ3元合金層を製造する方法(条件)の記載を欠いていることを意味する。
本件明細書の記載は、当然実施例を含む本件発明1の実施に当り、当業者に過度の実験を強いることを意味するが、そのこと以前に、本件発明1の限定された合金めっき層を与える製造方法(条件)の記載を欠くことをもって、本件明細書は記載要件を満足しない。
ウ 3元合金めっき層の分析法について
銅めっき粗化処理層は著しい凹凸表面を有しており、しかもその上に付与する3元合金が粗化処理層と同じ銅を主要成分とすることから、請求人の知る限り、現時点での分析技術をもってしても、両者を分離したり、3元合金層中の各成分だけを分析することは不可能であるから、上記の含有量についての測定法の記載を欠く本件明細書は記載不備である。
被請求人の指摘する方法(ファラデーの法則)では、合金層中の銅の含有量を測定することは事実上不可能である。ファラデーの法則による測定法を指摘したという事実は、被請求人自身も、従来知られた成分分析では、銅めっき(粗化)処理層の銅と区別して合金層中の銅だけを定量分析することが不可能であることを認めているからに他ならない。このような状況下では、分析法(特に合金層中の銅の定量分析法)は明細書に記載すべき不可欠の技術事項であり、これを欠く本件明細書は記載不備である。

第5.被請求人の主張
1.訂正前の本件発明1,2及び明細書の記載について
一方、被請求人は、平成17年2月4日付け答弁書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は審判請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね次の主張をしている。
(1)無効理由1に対して、訂正前の本件発明1及び2は、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明でないばかりでなく、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)無効理由2に対して、本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載には、請求人が主張するような不備はない。

また、被請求人は、証拠方法として、平成17年5月30日付け口頭審理陳述要領書において、次の乙第1号証?乙第3号証を提出している。

乙第1号証:特公平6-50795号公報
乙第2号証:発明者山西敬亮作成の実験報告書
乙第3号証:Surface Technology, 16(1982) p.219-225の写し

2.訂正後の本件発明1,2及び明細書の記載について
被請求人は、平成18年7月3日付け訂正請求書、平成18年11月10日付け答弁書及び平成18年12月11日付け口頭審理陳述要領書において、訂正後の本件発明1及び2は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないし、また、本件訂正明細書の記載は特許法第36条の記載要件も満たしている旨を主張し、証拠方法として次の乙第4号証?乙第8号証を提出し、その理由として、概ね次の主張をしている。

乙第4号証:インターネット上の百科事典「Wikipedia」の
ウェブサイト中、「合金」の項の写し
乙第5号証:国立大学法人東北大学多元物質科学研究所の
ウェブサイト中、「研究活動報告 物理機能制御究分野」
(2004.1?2004.12)」の写し
乙第6号証:財団法人日本宇宙フォーラムのウェブサイト中、
「宇宙環境利用に関する公募地上研究 平成11年度
研究成果報告書 無容器溶融凝固法による
新材料生成プロセシングの創出」の写し
乙第7号証:産業技術審議会 評価部会
高融点金属系部材の高度加工技術評価委員会
「高融点金属系部材の高度加工技術」中間評価報告書、
平成11年8月、p.69-70の写し
乙第8号証:発明者山西敬亮の陳述書
「3元合金めっき層を形成する方法(条件)について」

(1)無効理由1:進歩性欠如について
訂正後の本件発明1のi)銅、コバルト及びニッケルの含有量(付着量)、ii)コバルト及びニッケルの含有量(重量%)、及びiii)厚みについての数値限定は、甲第1号証?甲第3号証及び甲第4号証、甲第5号証の周知技術においても何ら記載されていないし、示唆もされていない。本件発明1では、これらの数値限定範囲の銅、コバルト及びニッケルの3元系電気めっき層によって、本件発明1の3つの効果(耐熱剥離強度、エッチング性、磁気特性)を同時に満たすという効果を奏しているのである。これらについて何ら開示のない先行技術から、本件発明1の進歩性が否定されるべきでない。
また、甲第5号証に記載された銅-ニッケル-コバルト合金電気めっきは、その実施例をみれば分かるように、ニッケルを主成分とする銅-ニッケル-コバルト合金電気めっきである。その銅-ニッケル-コバルト合金電気めっき層を形成するためのめっき浴の組成として例示された組成範囲が本件明細書記載のめっき浴の組成範囲と重複するとしても、そのことは、形成された合金めっき層の組成が重複することにはならない。したがって、甲第5号証のめっき浴組成の記載は、本件発明1の銅、コバルト及びニッケルからなる3元系合金電気めっき層の組成範囲を容易であるとする根拠にはなり得ない。

(2)無効理由2:記載不備について
ア 平均厚みが0.2?0.5μmという要件について
本件発明1の「平均厚み」は、本件明細書の記載(本件特許公報第3頁第5欄第17?25行、参照)に基づいて限定したものであり、明細書記載のとおり、Cu、Co及びNi単独の真比重を用い且つ凹凸を無視して計算した計算上の平均厚である。よって、粗化処理された凹凸を有する表面にも適用されるものである。
イ 3元合金めっき層の製造方法(条件)について
当業者であれば、本件明細書に記載されているめっき浴組成やpH、電流密度等の条件を手がかりに調整することによって訂正後の数値限定のめっき層を含め所望の数値のめっきを製造することは容易である。
ウ 3元合金めっき層の分析法について
例えば、一例を挙げると、所定面積の銅箔を全量溶解して分析することにより、単位面積当たりのコバルトとニッケルの付着量を定量することは可能である。そして、単位面積に流した電流量からファラデーの法則により総電着量を求め、そこからコバルトとニッケルの付着量を差し引くことにより、銅の付着量を計算することができる。そして、各元素の付着量から各元素の含有量(重量%)および平均厚みも計算で求めることができる。

第6.甲各号証の記載事項
請求人が提出した甲第1号証?甲第11号証には、それぞれ、次の事項が記載されている。

1.甲第1号証(特開昭62-40348号公報)の記載事項
甲第1号証には、「銅箔の製造法」に関して、次の事項が記載されている。
(ア)「(1)圧延銅箔をトリート処理後、焼鈍することを特徴とする銅箔の製造法。
(2)トリート処理が、銅メッキ、クロームメッキ、ニッケルメッキ、鉄メッキ、コバルトメッキの一種以上で行われることを特徴とする第1項記載の銅箔の製造法。」(第1頁左下欄第5?10行)
(イ)「発明の効果
以上、本発明を実施することにより以下の効果を生ずる。
(1)圧延銅箔を直ちにトリート処理するため、ピットデンツ(押し傷)が生じ難くなり、工程上好ましい処理が可能となる。
……
(3)さらに予め真空処理し不活性ガス等の雰囲気で焼鈍を行うことにより、銅箔の酸化を防止できる。印刷回路用銅箔として好ましいものが得られる。
……
(5)銅、ニッケル、クローム、鉄、コバルト等のメッキによりトリートされたものは、トリート後の焼鈍がなされても拡散が生ぜず品質上極めて良好である。
(6)さらに、トリート後の焼鈍により、ピール強度の低下もない。」(第2頁左下欄第13行?右下欄第13行)
(ウ)「実施例1
圧延銅箔(厚さ18μ)を、焼鈍せずに直接トリート処理を行った。
トリート処理は、ニッケルと銅の合金メッキを箔表面に電気メッキにより行った。ニッケルは、ニッケルと銅の総量に対し、40?60%となるようにメッキした。その後クロメート処理を行った。
……
またピール強度は、焼鈍前が、1.3kg/cmであり焼鈍後も全く同じ値で、焼鈍による悪影響はないことを確認した。」(第2頁右下欄第18行?第3頁左上欄第13行)

2.甲第2号証(特開昭52-145769号公報)の記載事項
甲第2号証には、「印刷回路用銅箔の表面処理方法」に関して、次の事項が記載されている。
(エ)「1)処理すべき銅箔の表面を、該銅箔を陰極としそしてポリアクリルアミド、ニツケル及び銅を含む硫酸酸性水溶液を電解浴として陰極処理する印刷回路用銅箔の表面処理方法。」(第1頁左下欄第4?7行)
(オ)「これによつて、接着性が良好であり、エツチング後の電気特性に秀れ、更に色むらや粉落ちの全くない表面性状に秀れた印刷回路用銅箔が得られる。」(第2頁左下欄第1?4行)

3.甲第3号証(特開昭58-28893号公報)の記載事項
甲第3号証には、「印刷回路用銅箔の表面処理方法」に関して、次の事項が記載されている。
(カ)「(1)処理すべき銅箔の表面を、該銅箔を陰極とし、そしてコバルト及び銅を含む硫酸酸性水溶液を電解浴として陰極処理する印刷回路用銅箔の表面処理方法。」(第1頁左下欄第5?8行)
(キ)「これによつて酸性及びアルカリ性エツチングの適用が可能となるのみならず接着性も向上し、エツチング後の電気特性に秀れ、更に色むらや粉落ちの全くない表面性状に秀れた印刷回路用銅箔が得られる。」(第2頁左下欄第1?5行)

4.甲第4号証(「合金めっき」)の記載事項
甲第4号証第72頁の表2.15の第3段目には、その他の三元合金めっきとして「Ni-Co-Cu」が記載され、「結果」の欄には、「Cu1.58?26.56% Co9.5?42.0% Ni51.4?88.92%」と記載されている。

5.甲第5号証(特公昭62-14234号公報)の記載事項
甲第5号証には、「光沢銅-ニツケル-コバルト合金電気めつき浴」に関して、次の事項が記載されている。
(ク)「1 ニツケル塩、銅塩、コバルト塩およびピロリン酸塩よりなる主めつき浴に、下記に示される少なくとも1種の第1次添加剤と、少なくとも1種の第2次添加剤を添加したことを特徴とする光沢銅-ニツケル-コバルト合金電気めつき浴」(第1頁第1欄第2?6行)
(ケ)「一般に銅-ニツケル系合金は耐食性に優れており、展延性もよい。特に銅-ニツケル合金は全率固溶系であり、鋳造も容易であるため種々の組成のもとに広範囲に利用されている。銅-ニツケル合金-コバルト合金はこの銅-ニツケル合金にさらにコバルトをも要素として含むもので、銅-ニツケル合金とは異なる物性を持つ三元合金である。金属コバルトは金属ニツケルより硬度も高く、また電導性も優れているので、銅-ニツケル-コバルト合金は銅-ニツケル合金よりも耐摩耗性、電気的特性に優れている。またニツケル-コバルト合金めつき浴(いわゆるワイズベルグ浴)からの皮膜は単なるニツケルめつきよりも展延性に優れており、銅-ニツケル-コバルト合金皮膜も、銅-ニツケル合金皮膜本来の優れた展延性がさらに向上する。しかもこの銅-ニツケル-コバルト合金の有為性は合金めつきとして銅-ニツケル合金めつきと比較するとさらに明らかになる。すなわち銅-ニツケル系合金めつきでは銅が非常に析出しやすく、低電流密度域における色むらの原因となるが、ピロリン酸溶液中ではコバルトはニツケルよりも析出電位が貴であるため、銅-ニツケル合金めつき浴にコバルトを添加すると銅の析出を抑制する効果がある。さらにコバルトは皮膜を緻密にする作用がある。」(第1頁第1欄第23行?第2欄第22行)
(コ)「本発明の電気めつき浴の各成分はそれぞれ次のような濃度範囲で使用することができる。
ニツケル塩(金属ニツケル分として):2?30g/l(0.03?0.5モル/l)
銅塩(金属銅分として):0.3?10g/l(0.005?0.16モル/l)
コバルト塩(金属コバルト分として):0.1?20g/l(0.002?0.34モル/l)」(第3頁第6欄第26?33行)
(サ)「実施例 1
塩化ニツケル(NiCl2・6H2O)20g/l(金属ニツケル分4.94g/l)、ピロリン酸銅(Cu2P2O7)2g/l(金属銅分0.84g/l)、塩化コバルト(CoCl2・6H2O)2g/l(金属コバルト分0.50g/l)およびピロリン酸カリウム(K4P2O7)100g/lからなる主めつき浴」(第4頁第8欄第7?13行)
(シ)「実施例 2?11
本発明による銅-ニツケル-コバルト合金電気めつき浴を第1表に示す種々の浴組成で調整し、」(第4頁第8欄第25?27行)
(ス)第5頁の第1表には、実施例2?11の浴組成が記載されている。

6.甲第6号証(特表昭58-500149号公報)の記載事項
甲第6号証には、「銅はくの処理」に関して、次の事項が記載されている。
(セ)「4. 被覆層の金属が、銅、ひ素、ビスマス、真鍮、青銅、ニッケル、コバルトもしくは亜鉛の1つ以上またはこれら金属の合金または共沈着物である、請求の範囲第3項記載の方法。」(第1頁左下欄第12?15行)
(ソ)「本発明はプリント回路基板の製造に使用する圧延した銅はくまたは好ましくは電気めっきした銅はくを処理して、基材に対する銅はくの接着を改良する方法、及びこの処理の結果として形成された積層体に関する。」(第2頁右上欄第4?8行)
(タ)「数層の電気めっき層を順次形成して、はんだ付けによって大きく影響をうけることのない所望な強さの接着を得る。」(第2頁右上欄第16?18行)

7.甲第7号証(特公昭61-34385号公報)の記載事項
甲第7号証には、「印刷配線用合成箔とその製造法」に関して、次の事項が記載されている。
(チ)「1 その片面に、クロム酸化物中のクロムの量が20?200μg/dm2の範囲にあるクロメート薄膜剥離層を設けた厚さ18μ以上の銅、銅合金、ニツケルおよびニツケル合金のいずれかの金属箔支持層の該剥離層上に、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Znの中から選ばれるいずれかの金属またはそれらの金属の合金剥離層を設け、さらに該層上に自己支持が不可能な厚さ18μ以下の銅層を設けたことを特徴とする四層構造の合成箔。」(第1頁第1欄第2?10行)

8.甲第8号証(特開昭49-16863号公報)の記載事項
甲第8号証には、「印刷回路用銅箔」に関して、次の事項が記載されている。
(ツ)「(1)銅箔の接合する側の面に、銅と銅よりも卑な単極電位を有する金属とからなる合金または銅よりも卑な単極電位を有する金属もしくはそれらの合金の中から選ばれるいずれかの金属または合金の層を形成させたことを特徴とする印刷回路用銅箔。」(第1頁左下欄第4?9行)

9.甲第9号証(特開昭52-124172号公報)の記載事項
甲第9号証には、「プリント配線基板の製造方法」に関して、次の事項が記載されている。
(テ)「前処理をしたポリイミドフイルム表面に、ニツケル、コバルト及びその合金から選ばれる金属を、接着剤層を設けることなく、かつ電解を用いない方法により付着せしめ、更にその上に銅を無電解メツキ及び/又は電解メツキにより付着せしめて得られたプリント配線基板材料に、金属パターンを形成せしめたのち、プリント配線パターンを金属メツキをするか、又は90℃以上の高温条件にさらすことを特徴とするプリント配線基板の製造方法。」(第1頁左下欄第5?14行)

10.甲第10号証(特開昭62-128594号公報)の記載事項
甲第10号証には、「導電回路の形成方法」に関して、次の事項が記載されている。
(ト)「(1)絶縁性基板上に導電回路を形成するに際して、(a)先づ前記基板上に、Cu又はCu合金粉とレジンとから成るペーストにより回路パターンを形成し、(b)その上に、薄付けCu化学メッキを施し、(c)さらにその上にNiB,NiP,CoB,CoP又はNi-Co合金の群から選らばれたいずれかの化合物の化学メッキの中間層を介在させ、(d)次いで前記中間層上に所望厚さのCu化学メッキを施すことを特徴とする導電回路の形成方法。」(第1頁左下欄第5?13行)

11.甲第11号証(特公昭63-25518号公報)の記載事項
甲第11号証には、「印刷配線板の製造法」に関して、次の事項が記載されている。
(ナ)「16 浴はニツケル、コバルトおよびそれらの組み合わせからなる群より選ばれた一次金属の0.001?0.3モル/l、スズ、モリブデン、銅およびタングステンからなる群より選ばれた二次金属の0.001?0.5モル/lおよび該金属の陽イオンのための還元剤の0.001?0.2モル/lを含む複数金属の触媒化剤からなり、該浴は銅金属表面上への引き続く重ねめつきを促進することを特徴とする、印刷配線板の製造におけるニツケル、コバルト、またはニツケルもしくはコバルトを含む合金による引き続く重ねめつきのため銅金属表面を触媒化する浴。」(第2頁第3欄第40行?第4欄第7行)
(ニ)「本発明の他の目的は、銅、銅合金など上への無電解析出金属の改良された付着を形成する配合物、方法および製品を提供することである。」(第3頁第6欄第27?29行)
(ヌ)「実施例 13
実施例1?9の触媒化剤の浴のいずれか1つを使用して浴に約45秒間維持した銅支持体上に触媒フイルムを形成した後、」(第9頁第18欄第12?15行)
(ネ)「実施例 14
銅クラツド支持体を実施例1?9のいずれか1つの触媒化浴中に約45秒間浸漬してそれらの上に触媒被膜を形成し、」(第9頁第18欄第26?29行)

第7.当審の判断
1.無効理由1:進歩性欠如について
(1)発明の対比
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両者の対応関係は次のとおりである。
甲第1号証には、「圧延銅箔を、銅メッキ、クロームメッキ、ニッケルメッキ、鉄メッキ、コバルトメッキの一種以上で行われるトリート処理後、焼鈍すること」という方法の発明が記載されているものと認められる(記載事項(ア)、参照)。
そして、甲第1号証には、得られた銅箔が「印刷回路用銅箔として好ましい」こと(記載事項(イ)、参照)が記載されており、当該記載の「印刷回路用銅箔」は本件発明1の「印刷回路用銅箔」と同じであり、また、甲第1号証には実施例として、「トリート処理は、ニッケルと銅の合金メッキを箔表面に電気メッキにより行った。」(記載事項(ウ)、参照)と記載されていることから、甲第1号証記載の発明の「トリート処理」は、本件発明1の「処理すべき銅箔の表面に電気めっき層を形成すること」に相当するといえる。
なお、甲第1号証記載の発明では、「トリート処理後、焼鈍すること」(記載事項(ア)、参照)も要件となっているが、本件訂正明細書第7頁下から6?5行(本件特許公報第3頁第6欄下から2?1行)には、「この後、必要なら、銅箔の延性を改善する目的で焼鈍処理を施すこともある。」と記載されているように、本件発明1においても、電気めっき層の形成後の焼鈍処理を排除するものではないので、上記要件は、本件発明1と甲第1号証記載の発明との対比に影響を及ぼすものではない。
よって、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、
《一致点》
「印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に電気めっき層を形成する印刷回路用銅箔の処理方法」である点で一致し、
《相違点》
本件発明1では、「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」という限定があるとともに、該電気めっき層が、「i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、iii)平均厚みが0.2?0.5μmである」という数値限定があるのに対して、甲第1号証記載の発明では、「銅、クローム、ニッケル、鉄、コバルトの5種のうちの1種以上から成る電気めっき層」(記載事項(ア)、参照)であることはいえるが、上記本件発明1のような「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」という限定及び上記の数値限定がない点で相違している。

(2)相違点についての検討
ア 本件発明1の課題について
本件訂正明細書第3頁第4?22行(本件特許公報第2頁第3欄第34行?第4欄第6行)には、「発明が解決しようとする課題」に関して、
「最近の印刷回路のファインパターン化及び多様化への趨勢にともない、
(1)Cu-Ni処理の場合と同じ耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有すること、及び
(2)CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングも可能とすること、
が要求されるようになった。即ち、回路が細くなると、塩酸エッチング液により回路が剥離し易くなる傾向が強まり、その防止が必要である。回路が細くなると、半田等の適用時の高温により回路がやはり剥離し易くなり、その防止もまた必要である。ファインパターン化が進む現在、CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングできることはもはや必須の要件であり、レジスト等の多様化にともないアルカリエッチングも必要要件となりつつある。
更に重要な問題として、印刷回路の高性能化及び用途の拡大、特に磁気ヘッド用FPCとしての応用に鑑み、磁気媒体に近接して配置されることが多くなることからも、印刷回路の帯磁性に新たな関心が持たれつつある。従来のCu-Co合金に見られたような帯磁性の大きな合金は使用出来ず、飽和磁化、残留磁化及び保磁力が所定の水準以下に規制されねばならない。」(なお、原文においては、上記「(1)」及び「(2)」は、それぞれ、丸付き数字の1及び2で記載されている。)
と記載されており、当該課題は、本件発明1の課題であると認められる。
イ 数値限定の技術的意義について
本件訂正明細書第5頁第11行?第6頁第2行(本件特許公報第3頁第5欄第7?34行)には、
「本発明に従えば、この合金めっきは、電解めっきにより、20?40mg/dm2銅-100?3000μg/dm2コバルト-100?1000μg/dm2ニッケル3元系合金を形成するように実施される。コバルトが100μg/dm2未満だと、耐熱性が悪化し、またエッチング性が悪くなる。他方コバルトが3000μg/dm2を超えると、磁性の影響が大きくなり好ましくない。ニッケルが100μg/dm2未満であると耐熱性が悪くなりそして1000μg/dm2を超えるとエッチング残が多くなる。
このCu-Co-Ni3元系合金層の厚みは、銅箔の素面に凹凸があり、また合金となった場合の真比重が不明のため一義的に決めることは難しい。
そこで、仮にCu、Co及びNi単独の真比重を用い且つ凹凸を無視し、その計算上の平均の厚みで表わすと、0.2?0.5μm、好ましくは0.3?0.4μmである。0.2μm未満だと、剥離強度が低下し、そして耐熱性及び耐薬品性が悪化し、他方0.5μmを超えると処理層が脆くなり、エッチング残となりやすい。
また、同様にしてCu-Co-Ni3元系合金層中のCo及びNi含有量は以下の通りとなる。まず、Co含有量は、重量%で、1?8%が好ましく、1%未満では耐熱性が悪くなり、他方8%を超えると磁性の影響が大きくなる。一方、Ni含有量は重量%で、0.5?3%が好ましく、0.5%未満では耐熱性及び耐薬品性が悪化し、他方3%を超えるとアルカリエッチング液でエッチングできなくなる。また、Co+Niの合計の含有量は200?4000μg/dm2が好ましい。」
と記載されている。
ここで、本件発明1の「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」とは、銅、コバルト及びニッケル以外の他の金属元素を不純物として含有することがあるとしても、銅、コバルト及びニッケルを合わせた含有量はほぼ100重量%であると解される。そうすると、Cu含有量は重量%で、89?98.5%となる。
そして、上記の単位面積当たりの付着量と重量%についての記載をまとめると、本件発明1の上記数値限定は、「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」において、「銅の含有量が20?40mg/dm2(89?98.5%)」であるときに、耐熱性が悪くならず、エッチング性が悪くならないコバルトの含有量の下限値を100μg/dm2(1%)と限定し、磁性の影響が大きくならないコバルトの含有量の上限値を3000μg/dm2(8%)と限定し、また、耐熱性及び耐薬品性が悪化しないニッケルの含有量の下限値を100μg/dm2(0.5%)と限定し、エッチング残が多くならず、アルカリエッチング液でエッチングできるニッケルの含有量の上限値を1000μg/dm2(3%)と限定したものといえる。
また、「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層」の平均厚みについては、剥離強度が低下し、耐熱性及び耐薬品性が悪化しない平均厚みの下限値を0.2μmと限定し、また、処理層が脆くならず、エッチング残とならない上限値を0.5μmと限定したものといえる。
そうすると、本件発明1の上記数値限定の下限値及び上限値には、それぞれ、技術的意義があるといえる。
ウ 数値限定による発明の効果について
本件訂正明細書第10頁下から7?2行(本件特許公報第4頁第8欄第36?41行)には、「発明の効果」に関して、
「本方法による銅箔は、耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有し、しかもCuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングをも可能とする。しかも、今後重要性を増す磁気性質についても、帯磁性を許容水準以下とすることに成功した。」
と記載されている。
上記記載によれば、本件発明1の処理方法によって3元系合金めっき層が形成された印刷回路用銅箔は、耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有すること(上記「第4.2.(1)イ」の「効果(a)」、以下同様)、CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングをも可能とすること(「効果(b)」)、帯磁性を許容水準以下とすること(「効果(c)」)という効果を奏するものと認められる。そして、上記「(i)数値限定の技術的意義について」で検討したことから、本件発明1の電気めっき層を上記数値限定の範囲内のものとすることによって、これら3つの効果(a)?効果(c)のいずれもが満足される(以下、「上記3つの効果(効果(a)?効果(c))を同時に満足する」という。)ものといえる。
なお、請求人は、本件発明1の効果は自明である旨を主張している(平成18年8月11日付け弁駁書第6頁第26行?第10頁第4行の「A-2.発明の効果の自明性」、参照)。しかしながら、上記効果(a)は甲第2号証に記載のニッケル及び銅から成る電気めっきから、また、上記効果(b)は甲第3号証に記載のコバルト及び銅から成る電気めっきから、更に、上記効果(c)はコバルト、ニッケルの含有量を少量とすることから、それぞれ断片的に予測できるとしても、本件発明1の電気めっき層を上記数値限定の範囲内のものとすることによってはじめて、上記3つの効果(効果(a)?効果(c))を同時に満足することができるものであるから、上記3つの効果(効果(a)?効果(c))を同時に満足することが自明であるとはいえない。
エ 甲各号証の数値限定に関する記載について
甲各号証の上記数値限定に関する記載について検討すると、次のとおりである。
先ず、甲第1号証には、「ニッケルは、ニッケルと銅の総量に対し、40?60%となるようにメッキした。」(記載事項(ウ)、参照)との記載があり、上記「40?60%」がニッケルの含有量の重量%であるとすると、本件発明1の上記数値限定の「ニッケル含有量が重量%で0.5?3%」であることとは相違しているし、ニッケル以外の本件発明1の上記数値限定に関する事項ついては、記載も示唆もされていない。よって、甲第1号証には、本件発明1の上記数値限定について、記載あるいは示唆されているとはいえない。
次に、甲第2号証及び甲第3号証には、本件発明1の上記数値限定について、記載も示唆もされていない。
更に、甲第4号証には、「Cu1.58?26.56% Co9.5?42.0% Ni51.4?88.92%」との記載があり、上記数値がCu、Co及びNiの含有量の重量%であるとすると、本件発明1の上記数値限定の「コバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%」であることとは相違しているし、上記以外の本件発明1の上記数値限定に関する事項ついては、記載も示唆もされていない。よって、甲第4号証には、本件発明1の上記数値限定について、記載あるいは示唆されているとはいえない。
更に、甲第5号証には、電気めつき浴の各成分に関し、「ニツケル塩(金属ニツケル分として):2?30g/l(0.03?0.5モル/l) 銅塩(金属銅分として):0.3?10g/l(0.005?0.16モル/l) コバルト塩(金属コバルト分として):0.1?20g/l(0.002?0.34モル/l)」(記載事項(コ)、参照)との記載があり、請求人は、当該記載の電気めつき浴組成は、本件明細書に実施例として記載の「Cu-Co-Niめっき(本発明)」のめっき浴組成「Cu:5?25g/l Co:3?15g/l Ni:3?15g/l」と重複するから、甲第5号証の上記電気めつき浴から得られる銅-ニツケル-コバルト合金電気めつきは、本件発明1の上記数値限定の範囲内に包含される旨を主張している。しかしながら、甲第5号証の記載事項(サ)?(ス)の実施例1?11をみると、いずれの電気めつき浴組成も金属銅分よりも金属ニツケル分の方が多いし、また、銅塩(金属銅分)を主成分とする旨の記載も何らないので、甲第5号証の銅を主成分としない上記電気めつき浴からは、本件発明1の上記数値限定された銅を主成分とする3元系合金電気めっき層が得られるとはいえない。また、本件訂正明細書第6頁第6?8行(本件特許公報第3頁第5欄第38?40行)には、一般的浴組成として、「Cu:10?20g/L Co:1?10g/L Ni:1?10g/L」と記載されており、当該記載のCu(銅)の組成割合と上記甲第5号証の銅塩(金属銅分)の組成割合とを比較すると、上記一般的浴組成のCu(銅)の下限値10g/Lと甲第5号証の銅塩(金属銅分として)の上限値10g/lとが一致するのみであるから、この点からも、甲第5号証の上記電気めつき浴からは、本件発明1の上記数値限定された銅を主成分とする3元系合金電気めっき層が得られるとはいえない。よって、甲第5号証には、本件発明1の上記数値限定について、記載あるいは示唆されているとはいえない。
更に、甲第6号証?甲第11号証のいずれにも、本件発明1の上記数値限定について、記載あるいは示唆されていない。
なお、甲第12号証?甲第14号証及び甲第16号証は、いずれも本件発明1に係る特許出願後に頒布された刊行物であり、また、甲第15号証は、その発行日が不詳であるので、発明の新規性及び進歩性を判断するための証拠としては採用することができない。また、甲第17号証は、被請求人(原告)が東京地方裁判所平成16年(ワ)第15688号特許権侵害差止請求事件で提出した「被告製品説明書」であるので、発明の新規性及び進歩性の判断とは無関係の証拠である。

(3)本件発明1についてのむすび
以上のとおり、本件発明1は、上記数値限定の下限値及び上限値に技術的意義があるといえるし、また、電気めっき層を上記数値限定の範囲内のものとすることによって、上記3つの効果(効果(a)?効果(c))を同時に満足するものであるのに対して、甲第1号証?甲第11号証のいずれにも、本件発明1の上記数値限定について、記載あるいは示唆されていない。
そうすると、甲第1号証に記載の5種の金属のうちの2種の組み合わせとして、甲第2号証に「ニッケル及び銅」が、甲第3号証に「コバルト及び銅」がそれぞれ記載され、更に、同じく3種の組み合わせとして、甲第4号証や甲第5号証の記載にみられるように、一般的に、「銅、コバルト及びニッケルから成る三元系合金」が周知のものであるので、甲第1号証に記載の5種の金属のうちの1種以上のものとして、銅、コバルト及びニッケルの3種を選択し、「銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき」をして電気めっき層を形成することは、当業者であれば容易に想到できた事項であるといえるとしても、本件発明1の課題(上記3つの効果(効果(a)?効果(c))を同時に満足すること)を解決するために、電気めっき層を特定の上記数値限定の範囲とすることまでも、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明であるといえないばかりか、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「前記電気めっき層を形成した後に防錆処理を施すこと」を限定したものである。上記(1)?(3)において説示したとおり、本件発明1が、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明であるといえないばかりか、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、印刷回路用銅箔に防錆処理を施すことが周知技術であったとしても、本件発明1に上記技術的限定を付加した本件発明2も、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明であるといえないばかりか、甲第1号証?甲第11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2.無効理由2:記載不備について
(1)平均厚みが0.2?0.5μmという要件について
請求人の主張の要旨は、本件発明1における平均厚みは、銅めっき粗化処理することなく銅箔上に直接3元合金めっき層を付与した場合にのみ適用されうる規定であり、甲第17号証に示されているような著しい凹凸面をもつ銅めっき粗化処理層を介して付与した3元合金めっき層の平均厚みには適用し得ない規定である、というものである。
ところで、本件発明1の「処理すべき銅箔」及び「平均厚み」がどのようなものをいうのか、特許請求の範囲1)に記載の文言からは必ずしも一義的に明らかであるとはいえない。
そこで、先ず、「処理すべき銅箔」に関し、発明の詳細な説明の記載をみると、本件訂正明細書第4頁下から5行?第5頁第7行(本件特許公報第2頁第4欄第39行?第3頁第5欄第2行)には、
「本発明において使用する銅箔は、電解銅箔或は圧延銅箔いずれでも良い。
通常、銅箔の、樹脂基材と接着する面即ち粗化面には積層後の銅箔の引き剥がし強さを向上させることを目的として、脱脂後の銅箔の表面に例えば銅のふしこぶ状の電着を行なう粗化処理が施される。こうした銅のふしこぶ状の電着はいわゆるヤケ電着により容易にもたらされる。粗化前の前処理として通常の銅めっきがそして粗化後の仕上げ処理として通常の銅めっきが行なわれることもある。その他の公知の方法での粗化処理も実施可能である。圧延銅箔と電解銅箔とでは処理の内容を異にする。或る種の圧延銅箔では粗化処理自体が省略されることもある。本発明においては、こうした処理を総称して予備処理という。」
と記載されている。
上記記載によれば、本件発明1の「処理すべき銅箔」は、銅めっき粗化処理層を有さない銅箔と有する銅箔との両方を含むことは明らかである。
次に、「平均厚み」に関し、発明の詳細な説明の記載をみると、本件訂正明細書第5頁第18?25行(本件特許公報第3頁第5欄第17?25行)には、
「このCu-Co-Ni3元系合金層の厚みは、銅箔の素面に凹凸があり、また合金となった場合の真比重が不明のため一義的に決めることは難しい。
そこで、仮にCu、Co及びNi単独の真比重を用い且つ凹凸を無視し、その計算上の平均の厚みで表わすと、0.2?0.5μm、好ましくは0.3?0.4μmである。0.2μm未満だと、剥離強度が低下し、そして耐熱性及び耐薬品性が悪化し、他方0.5μmを超えると処理層が脆くなり、エッチング残となりやすい。」
と記載されている。
上記記載によれば、本件発明1の「平均厚み」とは、計算上の平均の厚みであることは明らかでる。
そうすると、銅めっき粗化処理層を有さない銅箔と有する銅箔とでは、形成される3元系合金電気めっき層の実際の平均厚みが異なることは請求人の主張するとおりであるが、計算上の平均の厚みであれば、銅めっき粗化処理層を有さない銅箔でも有する銅箔でも等しく求めることができるものである。
よって、本件発明1の「平均厚みが0.2?0.5μm」であるという要件について、本件訂正明細書には記載の不備はない。

(2)3元合金めっき層の製造方法(条件)について
請求人の主張の要旨は、本件訂正明細書には、一般的説明はもとより、実施例でも、めっき条件、特にめっき浴組成、が範囲をもって記載されているにとどまり、しかもその条件は、本件発明1の3元合金の規定を満足しない3元合金を与える条件として被請求人が示した乙第2号証に記載されている条件と区別がつかないから、本件発明1の上記数値限定された3元系合金電気めっき層を製造する方法(条件)が記載されていない、というものである。
そこで、3元系合金電気めっき層の製造方法(条件)に関し、発明の詳細な説明の記載をみると、本件訂正明細書第6頁第3?12行(本件特許公報第3頁第5欄第35?44行)には、
「こうした三元系合金を形成するための一般的浴及びめっき条件は次の通りである。
浴組成及びめっき条件
Cu: 10?20g/L
Co: 1?10g/L
Ni: 1?10g/L
pH: 1?4
温度: 40?50℃
電流密度DK: 20?30A/dm2
時間: 1?5秒」
と記載され(以下、「一般的浴組成」及び「一般的めっき条件」という)、
また、本件訂正明細書第8頁下から10?3行(本件特許公報第4頁第7欄第27?34行)には、
「Cu-Co-Niめっき(本発明)
Cu: 5?25g/L
Co: 3?15g/L
Ni: 3?15g/L
pH: 1?4
温度: 20?50℃
DK: 10?30A/dm2
時間: 2?5秒」
と記載されている(以下、「実施例の浴組成」及び「実施例のめっき条件」という)。
上記一般的浴組成及び一般的めっき条件は、数値限定の技術的意義の記載に続いて「こうした三元系合金を形成するための一般的浴及びめっき条件は次の通りである。」とあることから、本件発明1の上記数値限定された3元系合金電気めっき層を形成する浴及び条件であると解される。また、上記実施例の浴組成及び実施例のめっき条件は、訂正前の本件発明1の上記数値限定のない電気めっき層を形成する浴及び条件を、従来技術と関連させて示したものと解される。
そこで、上記一般的浴組成及び一般的めっき条件について検討すると、本件発明1の上記数値限定においては、3元系合金電気めっき層の各金属の含有量(単位面積当たりの付着量と重量%)及び平均厚みが数値範囲をもって限定されているところ、当該数値範囲となるような一般的浴組成及び一般的めっき条件がまとめて示されているといえる。そして、まとめて示されたものであるから、上記一般的浴組成の範囲内でも、本件発明1の上記数値範囲内の3元系合金電気めっき層が得られないこともあることは、当業者であれば容易に理解しうるところである(なお、被請求人も、得られないこともあることを認めている。第2回口頭審理調書の被請求人の陳述の要領1、参照)。例えば、上記一般的浴組成のうち、Cuを下限値の10g/Lとし、Co及びNiをそれぞれ上限値の10g/Lとした場合には、必ずしも本件発明1の上記数値限定の範囲内の3元系合金電気めっき層が得られないことは、当業者であれば容易に予測しうるといえる。しかし、上記一般的浴組成の範囲内の組み合わせによっては、本件発明1の上記数値範囲内の3元系合金電気めっき層が得られないことがあるとしても、本件発明1の3元系合金電気めっき層は、上記数値限定における単位面積当たりの付着量及び重量%の割合からみて銅を主成分とすることが明らかであるから、当業者であれば、上記一般的浴組成及び一般的めっき条件を手がかりとして、3元系合金電気めっき層の銅が主成分となるようにめっき浴組成を調整することによって、本件発明1の上記数値限定の範囲の3元系合金電気めっき層を形成することは容易であるといえる。
また、上記実施例の浴組成及び実施例のめっき条件の数値範囲は、上記一般的浴組成及び一般的めっき条件の数値範囲と大部分において重複するから、上記一般的浴組成及び一般的めっき条件について述べたのと同様なことが、上記実施例の浴組成及び実施例のめっき条件についてもいえる。
よって、本件発明1の上記数値限定された3元系合金電気めっき層を製造する方法(条件)について、本件訂正明細書には記載の不備はない。

(3)3元合金めっき層の分析法について
請求人の主張の要旨は、銅めっき粗化処理層は著しい凹凸表面を有しており、しかもその上に付与する3元合金が粗化処理層と同じ銅を主要成分とすることから、請求人の知る限り、現時点での分析技術をもってしても、両者を分離したり、3元合金層中の各成分だけを分析することは不可能であるので、含有量についての測定法の記載を欠く本件明細書は記載不備である、というものである。
これに対して、被請求人は、「自社製品であるなら、合金めっき層の組成を知るために、粗化層と3元合金層を分離したりすることは不要で、その製造条件などから容易に分析できるものである。例えば、一例を挙げると、所定面積の銅箔を全量溶解して分析することにより、単位面積当たりのコバルトとニッケルの付着量を定量することは可能である。そして、単位面積に流した電流量からファラデーの法則により総電着量を求め、そこからコバルトとニッケルの付着量を差し引くことにより、銅の付着量を計算することができる。そして、各元素の付着量から各元素の含有量(重量%)および平均厚みも計算で求めることができる。」(平成18年11月10日付け答弁書第9頁第13?23行)と主張している。
そこで検討すると、被請求人が一例として挙げたファラデーの法則を利用する分析法は、妥当な分析法であるといえるし、また、当業者であれば容易に採用しうる分析法であるといえる。
よって、本件発明1の3元合金めっき層の分析法について、本件訂正明細書には記載の不備はない。

(4)その他の記載不備について
請求人が審判請求書で主張する、上記(1)?(3)以外の明細書の記載不備は、本件訂正明細書で特許請求の範囲1)の記載が訂正されたことによって、解消したものと考えられる。

(5)記載不備についてのむすび
以上のとおり、本件訂正明細書の記載は、平成2年改正前特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしているといえる。

第8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
印刷回路用銅箔の処理方法
(57)【特許請求の範囲】
1)印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層を形成することを特徴とする印刷回路用銅箔の処理方法であって、該電気めっき層が、
i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、
ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、
iii)平均厚みが0.2?0.5μm
である印刷回路用銅箔の処理方法。
2)前記電気めっき層を形成した後に防錆処理を施すことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の印刷回路用銅箔の処理方法。
【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、印刷回路用銅箔の処理方法に関するものであり、特には良好な耐熱性とアルカリエッチング性を具備し、しかも帯磁性の小さな印刷回路用銅箔を生成する処理方法に関する。本発明銅箔は、例えばファインパターン印刷回路、磁気ヘッド用FPC(Frexible Printed Circuit)として特に適する。
発明の背景
印刷回路用銅箔は一般に、合成樹脂等の基材に高温高圧下で積層接着され、その後目的とする回路を形成するべく必要な回路を印刷した後、不要部を除去してエッチング処理が施される。最終的に、所要の素子が半田付けされて、エレクトロニクスデバイス用の種々の印刷回路板を形成する。
印刷配線板用銅箔に対する品質要求は、樹脂基材と接着される面(所謂粗化面)と、非接着面(所謂光沢面)とで異なり、両者を同時に満足させることが重要である。
粗化面に対する要求としては、主として、
▲1▼保存時における酸化変色のないこと、
▲2▼基材との引き剥がし強さが高温加熱、湿式処理、半田付け、薬品処理等の後でも充分なこと、
▲3▼基材との積層、エッチング後に生じる所謂積層汚点のないこと、
等が挙げられる。
他方、光沢面に対しては、
▲1▼外観が良好なこと及び保存時における酸化変色のないこと、
▲2▼半田濡れ性が良好なこと、
▲3▼高温加熱時に酸化変色がないこと、
▲4▼レジストとの密着性が良好なこと、
等が要求される。
こうした要求に答えるべく、印刷配線板用銅箔に対して多くの処理方法が提唱されてきた。処理方法は、圧延銅箔と電解銅箔とで異なるが、脱脂後の銅箔に、必要に応じてめっき及び粗化処理を含む予備処理施した後、所要の銅箔表面を形成する合金めっきを行ない、防錆処理を行ない、更には必要に応じシラン処理、更には焼鈍を行なう方法が有用な方法の一つとして確立されている。
従来技術
上述した合金めっき処理は銅箔の表面性状を決定するものとして、大きな鍵を握っている。合金めっきの代表的処理方法として、本件出願人は既に、Cu-Ni処理(特開昭52-145769号)及びCu-Co処理(特公昭63-2158号)を提唱し、成果を納めてきた。
前者のCu-Ni処理は、耐熱性剥離強度及び耐塩酸性に優れる反面、塩化銅(CuCl2)エッチング液でもエッチングしずらく、150μピッチ回路巾以下の印刷回路には不適であり、更に悪いことにはアルカリエッチング液ではエッチング出来なかった。
後者のCu-Co処理は、塩化銅(CuCl2)エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、アルカリエッチングも可能としたが、耐熱性剥離強度及び耐塩酸性がCu-Ni処理の場合よりも劣った。
発明が解決しようとする課題
最近の印刷回路のファインパターン化及び多様化への趨勢にともない、
▲1▼Cu-Ni処理の場合と同じ耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有すること、及び
▲2▼CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングも可能とすること、
が要求されるようになった。即ち、回路が細くなると、塩酸エッチング液により回路が剥離し易くなる傾向が強まり、その防止が必要である。回路が細くなると、半田等の適用時の高温により回路がやはり剥離し易くなり、その防止もまた必要である。ファインパターン化が進む現在、CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングできることはもはや必須の要件であり、レジスト等の多様化にともないアルカリエッチングも必要要件となりつつある。
更に重要な問題として、印刷回路の高性能化及び用途の拡大、特に磁気ヘッド用FPCとしての応用に鑑み、磁気媒体に近接して配置されることが多くなることからも、印刷回路の帯磁性に新たな関心がもたれつつある。従来のCu-Co合金に見られたような帯磁性の大きな合金は使用出来ず、飽和磁化、残留磁化及び保磁力が所定の水準以下に規制されねばならない。
発明の目的
本発明の目的は、印刷回路銅箔として上述した多くの一般的特性を具備することはもちろんのこと、特に▲1▼Cu-Ni処理の場合と同じ耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有すること、▲2▼CuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングも可能とすること及び▲3▼帯磁性が許容水準以下であることという要件を満たす印刷回路用銅箔を提供することである。
発明の概要
本発明者等は、上記目的に向け検討を重ねた結果、所定のコバルト及びニッケル含有量を有する銅-コバルト-ニッケルを含む三元合金でもって上記目的を満たしうることを見出すに至った。コントロールされたコバルト及びニッケル含有量を有する三元合金とすることにより、Cu-Ni合金及びCu-Co合金の長所をおおきく生かし、しかもそれらの短所が排除されうることがここに初めて見出されたものである。コバルトを上記▲2▼のエッチング性要件を満たすに充分量含めても帯磁性を許容水準以下に低減しうること並びにコバルトの添加によってもCu-Ni合金の場合と同じ耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を保持しうることは予想外の知見であった。
こうした知見に基づいて、本発明は、
(1)印刷回路用銅箔の処理方法において、処理すべき銅箔の表面に銅、コバルト及びニッケルから成る3元系合金電気めっき層を形成することを特徴とする印刷回路用銅箔の処理方法であって、該電気めっき層が、
i)銅の含有量20?40mg/dm2、コバルトの含有量100?3000μg/dm2、ニッケルの含有量100?1000μg/dm2であり、
ii)電気めっき層中のコバルト含有量が重量%で1?8%、ニッケル含有量が重量%で0.5?3%であり、且つ、
iii)平均厚みが0.2?0.5μm
である印刷回路用銅箔の処理方法、及び
(2)前記電気めっき層を形成した後に防錆処理を施すことを特徴とする前記(1)記載の印刷回路用銅箔の処理方法
を提供する。
発明の具体的説明
本発明において使用する銅箔は、電解銅箔或は圧延銅箔いずれでも良い。
通常、銅箔の、樹脂基材と接着する面即ち粗化面には積層後の銅箔の引き剥がし強さを向上させることを目的として、脱脂後の銅箔の表面に例えば銅のふしこぶ状の電着を行なう粗化処理が施される。こうした銅のふしこぶ状の電着はいわゆるヤケ電着により容易にもたらされる。粗化前の前処理として通常の銅めっきがそして粗化後の仕上げ処理として通常の銅めっきが行なわれることもある。その他の公知の方法での粗化処理も実施可能である。圧延銅箔と電解銅箔とでは処理の内容を異にする。或る種の圧延銅箔では粗化処理自体が省略されることもある。本発明においては、こうした処理を総称して予備処理という。
本発明は予備処理後の銅箔の処理と関係する。予備処理後、銅箔の少なくとも一面に、印刷回路用表面として要求される多くの性質を与える合金表面がめっきにより形成される。
本発明に従えば、この合金めっきは、電解めっきにより、20?40mg/dm2銅-100?3000μg/dm2コバルト-100?1000μg/dm2ニッケル3元系合金を形成するように実施される。コバルトが100μg/dm2未満だと、耐熱性が悪化し、またエッチング性が悪くなる。他方コバルトが3000μg/dm2を超えると、磁性の影響が大きくなり好ましくない。ニッケルが100μg/dm2未満であると耐熱性が悪くなりそして1000μg/dm2を超えるとエッチング残が多くなる。
このCu-Co-Ni3元系合金層の厚みは、銅箔の素面に凹凸があり、また合金となった場合の真比重が不明のため一義的に決めることは難しい。
そこで、仮にCu、Co及びNi単独の真比重を用い且つ凹凸を無視し、その計算上の平均の厚みで表わすと、0.2?0.5μm、好ましくは0.3?0.4μmである。0.2μm未満だと、剥離強度が低下し、そして耐熱性及び耐薬品性が悪化し、他方0.5μmを超えると処理層が脆くなり、エッチング残となりやすい。
また、同様にしてCu-Co-Ni3元系合金層中のCo及びNi含有量は以下の通りとなる。まず、Co含有量は、重量%で、1?8%が好ましく、1%未満では耐熱性が悪くなり、他方8%を超えると磁性の影響が大きくなる。一方、Ni含有量は重量%で、0.5?3%が好ましく、0.5%未満では耐熱性及び耐薬品性が悪化し、他方3%を超えるとアルカリエッチング液でエッチングできなくなる。また、Co+Niの合計の含有量は200?4000μg/dm2が好ましい。
こうした三元系合金を形成するための一般的浴及びめっき条件は次の通りである。

この後、防錆処理が実施される。本発明において好ましい防錆処理は、クロム酸化物単独の皮膜処理或はクロム酸化物と亜鉛/亜鉛酸化物との混合物皮膜処理である。クロム酸化物と亜鉛/亜鉛酸化物との混合物皮膜処理とは、亜鉛塩または酸化亜鉛とクロム酸塩とを含むめっき浴を用いて電気めっきにより亜鉛または酸化亜鉛とクロム酸化物とより成る亜鉛-クロム基混合物の防錆層を被覆する処理である。めっき浴としては、代表的には、K2Cr2O7、Na2Cr2O7等の重クロム酸塩やCrO3等の少なくとも一種と、水溶性亜鉛塩、例えばZnO、ZnSO4・7H2O等少なくとも一種と、水酸化アルカリとの混合水溶液が用いられる。代表的なめっき浴組成と電解条件は次の通りである:

クロム酸化物は、クロム量として15μg/dm2以上、そして亜鉛は30μg/dm2以上の被覆量が要求される。粗面側と光沢面側とで厚さを異ならしめても良い。こうした防錆方法は、特公昭58-7077、61-33908、62-14040等に記載されている。
こうして得られた銅箔は、ニッケル量が大幅に低減され且つコバルトがかなり含まれているにもかかわらずCu-Ni処理の場合と匹敵する耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有し、しかもCuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかもアルカリエッチングも可能とする。アルカリエッチング液としては、例えば、NH4OH:6モル/L;NH4Cl:5モル/L;CuCl2:2モル/L(温度50℃)等の液が知られている。コバルトを含有するにもかかわらず、帯磁性が許容水準以下である。ここで「帯磁性が許容水準以下である」とは、飽和磁化Ms160emu/cc以下、残留磁化Mrを70emu/cc以下そして保磁力Hcを3000e以下とすることを現時点での一応の基準とする。本発明においては、飽和磁化Msを50emu/cc以下、残留磁化Mrを40emu/cc以下、そして保磁力Hcを2200e以下を容易に実現することができる。
更に、好ましくは、銅箔と樹脂基板との接着力の改善を主目的として、防錆層上の少なくとも粗化面にシランカップリング剤を塗布して薄膜が形成するシラン処理が施される。塗布方法は、シランカップリング剤溶液のスプレーによる吹き付け、コーターでの塗布、浸漬、流しかけ等いずれでもよい。例えば、特公昭60-15654号は、銅箔の粗面側にクロメート処理を施した後シランカップリング剤処理を行なうことによって銅箔と樹脂基板との接着力を改善することを記載しているので、詳細はこれを参照されたい。
この後、必要なら、銅箔の延性を改善する目的で焼鈍処理を施すこともある。
実施例及び比較例
圧延銅箔に通常の粗化処理を含む予備処理を施した後、本発明及び比較目的での幾種かの合金めっき処理を行なった。
銅粗化処理の条件は次の通りであった。

これら材料に防錆処理後、表面層成分分析、剥離強度特性、磁気性質及びエッチング特性を評価した。
磁気特性は次のようにして行なった。
サンプル
5.5mm直径サンプルに穴をあけポンチで処理箔を打ち抜き、20枚を重ねそしてVSM測定した。処理表面積Sは0.0475dm2であった。
評価項目
飽和磁化Ms(emu/cc)
残留磁化Mr(emu/cc)
保磁力Hc(Oe)
測定
東栄工業(株)製VSMを使用してヒステリシス曲線を描かせ、各特性値を読取った。最大印加磁場は10kOeとした。残留磁化及び保磁力については、±両方の値を読み、平均値を採用した。
剥離強度については、サンプルをガラスクロス基材エポキシ樹脂板に積層接着し、常態(室温)剥離強度(kg/cm)を測定し、耐熱劣化は180℃×48時間加熱後の剥離強度の劣化率(%)として示しそして耐塩酸劣化は18%塩酸に1時間浸漬した後の剥離強度を0.2mm巾の回路で測定した場合の劣化率(%)として示した。
結果を次の表にまとめて示す。
アルカリエッチングは、前記したアルカリエッチング液を使用してのエッチング状態の目視による観察結果である。
【表1】


発明の効果
本発明は、近時の半導体デバイスの急激な発展に伴なう印刷回路用の高密度及び高多層化に対応し得る銅箔の処理方法を提供する。本方法による銅箔は、耐熱性剥離強度及び耐塩酸性を有し、しかもCuCl2エッチング液で150μピッチ回路巾以下の印刷回路をエッチングでき、しかも、アルカリエッチングをも可能とする。しかも、今後重要性を増す磁気性質についても、帯磁性を許容水準以下とすることに成功した。本発明は特に、ファインパターンで且つ磁気ヘッド用FPCとして使用しうる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-02-10 
結審通知日 2006-02-15 
審決日 2007-03-05 
出願番号 特願平1-112226
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H05K)
P 1 113・ 531- YA (H05K)
P 1 113・ 534- YA (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平山 美千恵  
特許庁審判長 鈴木 久雄
特許庁審判官 藤井 俊明
永安 真
登録日 1995-05-12 
登録番号 特許第1927967号(P1927967)
発明の名称 印刷回路用銅箔の処理方法  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 中野 通明  
代理人 金谷 宥  
代理人 吉見 京子  
代理人 清永 利亮  
代理人 清永 利亮  
代理人 松田 美和  
代理人 椙山 敬士  
代理人 石井 良夫  
代理人 斉藤 武彦  
代理人 吉見 京子  
代理人 石井 良夫  
代理人 宮寺 利幸  

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