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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1157757
審判番号 不服2004-20228  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-30 
確定日 2007-05-17 
事件の表示 平成11年特許願第265904号「光プリントヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月 3日出願公開、特開2001- 88345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成11年9月20日の出願であって、平成16年8月26日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月30日付けで本件審判請求がされたものである。
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年2月16日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「n個の個別電極とp個(p≧2)の共通電極とこれらによって選択される複数(n×p)の発光部とを備える発光素子と、前記個別電極並びに共通電極に接続されるn個の素子駆動用出力端子並びにm個の群選択用端子を備えた駆動用のICとを備え、前記発光素子は、1つの前記駆動用ICに対して複数(q)設けられ、その数(q)は、発光素子の共通電極の数(p)と前記駆動用ICの群選択用端子の数(m)に基づいて(m/p)に定められることを特徴とする光プリントヘッド。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-202947号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?オの記載が図示とともにある。
ア.「複数の発光部を複数の群に分けるとともに、群毎の発光部に接続した複数の共通電極と、異なる群に属する発光部に接続した複数の個別電極と、を設けて構成した発光素子と、該発光素子を駆動する駆動回路を備える光プリントヘッドにおいて、前記駆動回路は、前記複数の個別電極を選択する第1の駆動部と、前記複数の共通電極を選択する第2の駆動部を一体に設けた駆動用ICを前記発光素子に対応して設けたことを特徴とする光プリントヘッド。」(【請求項1】)
イ.「特開平6-163980号公報において、時分割駆動可能な発光素子が提案されている。すなわち、発光素子上の複数の発光部をM(2?3)の群に分け、群毎の発光部に接続するようにM本の共通電極を設け、異なる群に属するM個の発光部に接続した個別電極をN個設けることによってM×N個の発光部を備える発光素子が提案されている。この発光素子によれば、M本の共通電極を時分割的に選択することによって個別電極の数を従来の1/Mに削減することができるので、駆動用ICとの接続を容易にすることができる。・・・ここで、各発光素子100は、その表面に設けた複数の発光部を2つの群に分け、各群に属する複数の発光部に2本の共通電極を各々接続するとともに、別々の群に属する1組の発光部に対して各々個別電極を接続し、各個別電極を発光素子の片側に配置した構造を前提としている。そして、この発光素子100には、個別電極の数と同じ端子を備える駆動用のIC200が1対1でワイヤボンド接続されるとともに、前記共通電極の選択を行うための選択用IC300が2本のグランドライン400を介して接続される。・・・L個の発光素子100の各共通電極に接続した2本のグランドライン400に流れる大電流を1つの共通電極選択用IC300によって各々制御するため、このICは非常に大きな電流に耐え得る比較的大きな構造のものとする必要があり、構造の大型化につながるという問題がある。」(段落【0003】?【0005】)
ウ.「図1(a),(b)を参照して同実施例の光プリントヘッド1の構造について説明する。光プリントヘッド1は、絶縁性基板2の上に複数、例えばL=38個の発光素子3を一列に配列し、この発光素子3の片側に隣接させて発光素子3を駆動するための駆動用IC4を発光素子3と1対1で対応させて一列に配列している。」(段落【0011】)
エ.「共通電極37の数は、複数の発光部35を複数の群(M群)に区分けする場合の群の数に応じて設定され、ここでは192個の発光部35を交互に第1の群に属する発光部35aと第2の群に属する発光部35bのように2群に区分けする場合を例示しているので、M=2に対応して2本の共通電極37aと37bを設けている。」(段落【0014】)
オ.「個別電極38は、異なる群に属する発光部35aと35bを接続するように、この例では、隣接する2つの発光部35のコンタクト層34を接続するように設けている。個別電極38の幅広部分は、ワイヤボンド用のパッド領域として機能する。個別電極38は、基板30の長さ方向に沿って一列にN個、この例では96個設けられる。発光素子3上の発光部35の総数は、M×Nで表されるので、この例では192個となる。ここで、個別電極38の配列ピッチは、発光部35の配列ピッチのM倍、この例では2倍に設定することができるので、個別電極38へワイヤボンド接続を行う場合などの配線作業性を高めることができる。尚、発光素子3はL個(38個)であるので、ヘッド1全体の発光部35の数は、L×M×N=38×2×96=7296個となる。」(段落【0015】)

2.引用例1記載の発明の認定
引用例1の記載ウ,オによれば、記載アの発光素子及び駆動用ICは、1対1の対応関係で複数(L個)設けられている。個々の発光素子の発光部数は、群数(記載エに準じてMと表記する。)と個別電極数(記載オに準じてNと表記する。)の積であり、共通電極数はMである。以下、M及びNは複数として扱う。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「M×N個の発光部をM群に分けるとともに、群毎の発光部に接続したM個の共通電極と、異なる群に属する発光部に接続したN個の個別電極と、を設けて構成した発光素子と、該発光素子を駆動する駆動回路を備える光プリントヘッドにおいて、前記駆動回路は、前記N個の個別電極を選択する第1の駆動部と、前記M個の共通電極を選択する第2の駆動部を一体に設けた駆動用ICを設けた光プリントヘッドであって、
前記発光素子及び前記駆動用ICを1対1の対応関係で複数設けた光プリントヘッド。」(以下「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
「個別電極」、「共通電極」、「発光素子」及び「発光部」との用語が、本願発明と引用発明1において共通の意味で用いられていることは明らかである。
個別電極及び共通電極数を表す文字は異なる(引用発明1のM及びNが、本願発明のn及びpに該当する。)ので、以下ではこれらを本願発明の文字で表現する。
引用発明1の発光素子が「n個の個別電極とp個(p≧2)の共通電極とこれらによって選択される複数(n×p)の発光部とを備える」こと、及び引用発明1の駆動用ICが「個別電極に接続されるn個の素子駆動用出力端子」を備えることは明らかであり、群選択用端子数こそ異なるものの、引用発明1の駆動用ICが「共通電極に接続される群選択用端子」を備えることも明らかである。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「n個の個別電極とp個(p≧2)の共通電極とこれらによって選択される複数(n×p)の発光部とを備える発光素子と、前記個別電極に接続されるn個の素子駆動用出力端子及び共通電極に接続される群選択用端子を備えた駆動用のICとを備えた光プリントヘッド。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉発光素子と駆動用ICの関係につき、本願発明が「前記発光素子は、1つの前記駆動用ICに対して複数(q)設けられ」とし、そのことに付随して群選択用端子数(m)と共通電極数(p)の関係を(m/p)をqと定めているのに対し、引用発明1では発光素子と駆動用ICが1対1の関係(本願発明の文字qを用いて表現すればq=1)にある点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-255368号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のカ?クの記載が図示とともにある。
カ.「各々の発光ダイオード2は表面に1列若しくは千鳥状2?4列に整列された複数(64個)の発光領域22とその発光領域22の電極23を、又裏面にブロック電極24を有している。」(段落【0010】)
キ.「3は後述する配線素子4を介して複数の発光ダイオード2にわたり各々の発光領域22の電極23に接続された発光ダイオード2の駆動素子で、同じくヘッド基板1に載置され、シリアル入力64ビットパラレル出力のシフトレジスタ、ラッチレジスタ、ドライバーアレー等からなるデータドライバーであり、コモン駆動素子31とペアで用いられる。」(段落【0011】)
ク.「発光ダイオード2単位にコモン駆動素子31が選択され、その選択タイミングに合わせてデータ駆動素子3から駆動出力が出される。即ち、図6に示すように、印字データDは一度に選択される発光領域22の数(64)に相当するだけブロック単位(1ブロック64ドットデータ)でデータ駆動素子3に供給され」(段落【0017】)

引用例2は、本願発明及び引用発明1と比べて異なる用語を使用しているので用語の整理を行う。引用例2記載の「発光ダイオード」、「発光領域」及び「ブロック電極」が、本願発明及び引用発明1の「発光素子」、「発光部」及び「共通電極」にそれぞれ相当し、引用例2記載の「データ駆動素子3」と「コモン駆動素子31」を併せたものが本願発明及び引用発明1の「駆動用IC]の機能を果たしている。そして、「データ駆動素子3」の出力端子が、本願発明及び引用発明1の「素子駆動用出力端子」に該当するものであり、引用例2【図3】には、1つのデータ駆動素子3に1つの発光ダイオード(発光素子)の発光領域数だけの出力端子が設けられており、個々の出力端子が複数(4個)の発光ダイオード(発光素子)の発光領域(発光部)に接続される様子が図示されている。また、「コモン駆動素子31」については、その出力端子が1つのデータ駆動素子3に接続される発光ダイオード(発光素子)数(4個)だけ用意されており、個々の出力端子が(スイッチ用のトランジスタを介して)1つの発光ダイオード(発光素子)のみの共通電極に接続される様子が図示されている。
以上を総合すれば、引用例2には、データ駆動素子及びコモン駆動素子の何れも、複数の発光ダイオード(発光素子)を駆動するために設けられており、コモン駆動素子の出力端子数を1つのデータ駆動素子に接続される発光ダイオード(発光素子)数と同数とし、1つのデータ駆動素子に接続される発光ダイオード(発光素子)を同時駆動しない技術が記載されている。
引用例2のデータ駆動素子及びコモン駆動素子は、どちらも複数の発光素子を駆動できるのだから、データ駆動素子及びコモン駆動素子の機能を1つの駆動素子にまとめた引用発明1にあっても、1つの駆動用ICにて複数の発光素子を駆動することは当業者が容易に想到できることである。もちろん、引用例2記載の技術では、1つのデータ駆動素子に接続される発光素子の1つだけが選択されるから、複数の発光素子を同時に駆動することはできず、1つの駆動用ICにて複数の発光素子を駆動した場合に印刷時間が長くなる(引用発明1そのものに比して)ことは避けられないが、そもそも引用発明1においても、群数Mは例示された2群に限られないから、群数を増加したのと印刷時間において異ならないし、駆動用IC数を減少できるという利点もあるのだから、1つの駆動用ICにて複数の発光素子を駆動することに阻害要因があると認めることはできない。
そして、引用例2記載の技術では、複数の発光素子を駆動するに当たり、データ駆動素子の出力端子数を増やしていない(個別の発光素子は同時駆動しないから)のだから、引用例2記載の技術を採用して1つの駆動用ICにて複数の発光素子を駆動するに当たっては、素子駆動用出力端子をそのままにして、異なる発光素子を同時駆動しないように、群選択用端子を増やすことには何の困難性もない。引用発明1では1つの発光素子をM群(共通電極数bと同数)に分割しているのだから、1つの駆動用ICで駆動する発光素子数を複数(以下、本願発明の使用文字に合わせて「q」とする。)とした場合には、群選択用端子数をq倍にしなければならない。そのことは、群選択用端子数(m)と共通電極数(p)の関係を(m/p)をqと定めることにほかならない。
請求人は、「引用例2(審決注;審決の「引用例1」)に記載の発明は、引用例1(審決注;審決の「引用例2」)に記載のダイナミック駆動の問題点である『1つのコモン選択用ICで複数個の発光素子を選択する際、大電流がグランドラインに流れる』という点を解決すべき課題とし、素子内で時分割駆動できる発光素子と、それに対応した時分割駆動用の駆動用ICを1対1の対応関係でもって配置したものであります。
すなわち、引用例2に記載の時分割駆動の構成は、引用例1に記載の時分割駆動の構成を基礎としてそれを改良して発展させたもの(引用例2に記載の発光素子は、引用例1に記載の複数個の発光素子を1つにまとめた構成)であるので、引用例2に記載の構成は、引用例1に記載の構成を内在したものであります。
よって、『引用例1の構成が内在された引用例2に記載された発明に、さらに引用例1に記載された駆動用ICと発光素子の対応関係を適用すること』は、引用例1の構成が2重に適用されることになるので、『引用例2に記載された発明に、引用例1に記載された駆動用ICと発光素子の対応関係を適用すること』の阻害要件が存在することは明らかであります。」(審判請求書に対する平成16年10月29日付け手続補正書4頁15?27行)と主張している。しかし、引用例1に従来技術として記載されているのは、その【図7】にあるとおり、個々の発光素子に個別の駆動用IC(個別電極接続用)を接続し、すべての発光素子を同時に駆動するものであり、引用例2記載の技術のように、駆動用IC(個別電極接続用)に複数の発光素子を接続し、それらを同時には駆動しない技術ではない。すなわち、引用発明1の課題は、1つのコモン選択用ICで複数個の発光素子を同時選択することにより大電流がグランドラインに流れるという課題であり、引用例2記載の技術では、複数個の発光素子を同時選択していないのだから、引用発明1に引用例2記載の技術を採用することに阻害要因があると認めることはできない。このように、請求人の上記主張は的を射ない主張であり、採用することができない。
以上のとおり、相違点に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者に想到容易であり、そのことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-19 
結審通知日 2007-03-20 
審決日 2007-04-02 
出願番号 特願平11-265904
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 尾崎 俊彦
島▲崎▼ 純一
発明の名称 光プリントヘッド  
代理人 ▲角▼谷 浩  
代理人 ▲角▼谷 浩  

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