• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680240 審決 特許
無効200680197 審決 特許
無効200680029 審決 特許
無効200680009 審決 特許
無効200680110 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60S
管理番号 1157955
審判番号 無効2006-80238  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2007-05-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3722026号発明「洗車機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3722026号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3722026号の請求項1ないし3に係る発明(平成13年8月7日出願、平成17年9月22日設定登録。以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものと認める。

(本件発明1)
「洗車機本体と被洗浄車両とを車長方向に相対的に移動させて、ブラシ群により被洗浄車両の洗浄を行う洗車機であって、少なくとも一部のブラシは、布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体との両方を使用して構成されていることを特徴とする洗車機。」

(本件発明2)
「布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体とが、ブラシ軸心の方向で交互に配置されていることを特徴とする請求項1記載の洗車機。」

(本件発明3)
「布製ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径と、スポンジ製ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径とは、いずれかが長く設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の洗車機。」

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1ないし本件発明3についての特許を無効とする、との審決を求め、以下の理由を挙げて、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである旨主張するとともに、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。

(理由1)
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり、または甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかにそれぞれ記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項第3号、または特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(理由2)
本件発明2は、甲第1号証及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、または甲第1号証、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれか及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(理由3)
本件発明3は、甲第1号証及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、または甲第1号証、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれか及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(証拠方法)
甲第1号証:独国実用新案第9301692号明細書
甲第2号証:特開昭61-271157号公報
甲第3号証:実願昭60-45769号(実開昭61-160727号)
のマイクロフィルム
甲第4号証:特開昭63-161904号公報
甲第5号証:特開平9-207729号公報
甲第6号証:特開平10-226322号公報
なお、甲第1号証の表記は、特許庁審査ハンドブック(63.04)の外国の特許明細書等の刊行物の記載例に従った。

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の主張は、完成した発明を見た後に、その構成となる引用文献を後付けで集めてから種々述べたに過ぎず、当業者が実際に本件発明1を甲第1号証ないし甲第6号証から容易に想到するとする納得できる理由が見当たらない旨主張するとともに、本件発明1が特許になれば、本件発明2、3も特許は維持される旨主張している。

4.甲第1号証ないし甲第6号証
(1)甲第1号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている(なお、括弧内の和訳は請求人の提出した甲第1号証に添付された抄訳文による。)。
a)「Die Erfindung・・・・・・eingesetzt werden.(本発明による洗浄ブラシは、従来から知られている洗浄ブラシのように単に剛毛または織物小片を装着することからではなく、両者の組合せから成る。これにより、織物小片洗浄ブラシの問題を克服できることが明らかである。本発明による洗浄ブラシは、水平屋根ブラシとしても垂直側面ブラシとしても取り付けることができる。)」(2頁1?10行)
b)「Wie in Fig.6・・・・・・weichere Oberflache.(図6?8にさらに詳しく図示するように、このような洗浄ブラシ(2)は、洗車装置(1)において水平屋根ブラシ(3)および/または垂直側面ブラシ(4)として働く。洗車装置(1)は、図8に例として図示説明するように、門形洗車装置すなわち洗車通路とすることができる。
洗浄ブラシ(2)の洗浄要素(7)は、糸状の剛毛(8)および織物小片(9)から構成される。剛毛(8)は洗浄機能の代りに、または洗浄機能に加えて、不安定な織物小片(9)を支持する機能をも有することができる。
剛毛(8)は糸状の形態を有し、引抜きまたは射出されたプラスチック索から成る。ブラシ材料としては、例えばLDポリエチレンまたはポリアミドが挙げられる。材料の観点からより堅いポリアミドが剛毛(8)の支持効果のために好都合である。
織物小片(9)は、織られた繊維材料または不織の繊維材料、例えばフェルトから構成される。これは、相互の貼合せ、押圧、またはその他の適当な方法で結合された多数の繊維から構成される。剛毛(8)と比較して、織物小片(9)はより軟らかい表面を有する。)」(5頁14行?6頁12行)
c)「Die Borsten (8)・・・・・・bestehen kann.(剛毛(8)および織物小片(9)はブラシ支持体(10)に固定され、このブラシ支持体(10)は断面が円筒形状を呈し、1つまたは複数の外皮(11)から構成できる。)」(6頁21?24行)
d)「Im Ausfuhrungsbeispiel von Fig.1・・・・・・angeordnet.(図1の実施例では、剛毛(8)および織物小片(9)は、ブラシの軸(13)に沿って空間的に離隔した洗浄ブラシ(7)の領域に配置される。)」(7頁5?8行)
e)「Bei dieser Variante・・・・・・Vordergrund tritt.(この変形実施例では、剛毛(8)および織物小片(9)を同じ長さにすることができ、この場合、剛毛(8)は、洗浄機能に加え不安定な織物小片(9)のための支持機能も果たす。代替案として剛毛(8)の長さを短くすることもでき、これによって支持機能が前面に出てより強固なものとなる。)」(8頁1?6行)
f)「Die erfindungsgemabe Waschburste (2)・・・・・・Kombinationsbestuckung versehen.(本発明による洗浄ブラシ(2)を、あらゆる種類の洗車装置に取り付けることができる。図8は、複数のブラシステーション(5、6)を装備した洗車通路(1)における可能な一配置例を示す。この場合、各ブラシステーション(5、6)には屋根ブラシ(3)および側面ブラシ(4)が配置される。この場合、牽引方向(14)における手前すなわち最初のブラシステーション(5)には、・・・(中略)・・・従来型の洗浄ブラシ(2)が取り付けられる。向こう側すなわち後続のブラシステーション(6)には、少なくとも屋根ブラシ(3)が配置され、剛毛(8)と織物小片(9)を備えた組合せ装着とされる。好ましい実施形態では、側面ブラシ(4)も組合せ装着とされる。)」(9頁14?29行)
・また、Fig1?6には、複数の織物小片(9)と複数の剛毛(8)とを組合せ装着して構成されている洗浄ブラシが示され、Fig8には、ブラシステーション(5、6)に対し被洗浄自動車(16)を牽引させる洗車装置が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、つぎの発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ブラシステーションに対し被洗浄自動車を牽引させて、屋根ブラシ及び側面ブラシからなる洗浄ブラシにより被洗浄自動車の洗浄を行う洗車装置であって、洗浄ブラシは、織物小片とプラスチック剛毛とを組合せ装着して、プラスチック剛毛を織物小片より短くして構成されている洗車装置。」

(2)甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「合成樹脂発泡体であつて柔軟性拡縮及び伸縮弾性を有し、同発泡体が独立気泡の集合体である洗車機用洗浄材。」(特許請求の範囲)
・「本発明は柔軟性に富み強度が大で吸水性がなく軽量であると共に凍結することがなくかつワツクス等による汚染の少い洗車機用洗浄材料を得ようとするものである。」(1頁右下欄8?11行)

(3)甲第3号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「合成樹脂発泡体であつて柔軟性を有し、柔軟補強材を上記発泡体と一体的に配設してなり、同発泡体が独立気泡の集合体である洗車機用洗浄材。」(実用新案登録請求の範囲)
・「本案は柔軟性に富み強度が大で吸水性がなく軽量であると共に凍結することがなくかつワツクス等による汚染の少い洗車機用洗浄材料を得ようとするものである。」(明細書2頁9?12行)

(4)甲第4号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「回転軸の外周面に複数の軸方向溝を凹設し、同溝の入口幅よりも同溝の内部空間の幅を広く形成し、スポンジ洗浄材の折返部が上記溝内に挿入され、同折返部の内部にスポンジ嵌込条を嵌合して同折返部を同溝内に保持してなる洗浄用スポンジローラ。」(特許請求の範囲)

(5)甲第5号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 車の自動洗浄システムに特に適する表面洗浄用の回転ブラシ(1)であって、回転装置(3)及び複数の柔軟な洗浄部材(4)に連結する支持部材(2)を含んでおり、前記洗浄部材は互いに支持しており且つその一端部(4e)において前記支持部材(3)に対して垂直に取り付けられた構成において、前記柔軟な洗浄部材(4)は発泡独立セル型合成樹脂から形成されていることを特徴とする回転ブラシ。」
・「【請求項2】 前記合成樹脂はポリエチレン、ビニルアセテート添加物(EVA)を含有するポリエチレン、及びポリウレタンを含む群から選択される、請求項1に記載の回転ブラシ。」

(6)甲第6号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 洗車機本体と被洗浄車両とを車長方向に相対的に移動させて、ブラシ群により被洗浄車両の洗浄を行う洗車機であって、少なくとも一部のブラシは、撥水性ブラシ単体と非撥水性ブラシ単体との両方を使用して構成されていることを特徴とする布製ブラシ使用の洗車機。」
・「【請求項4】 トップブラシが、非撥水性ブラシ単体と撥水性ブラシ単体とを、ブラシ軸心の方向で、一枚ずつまたは複数枚ずつ交互に配置することで構成されていることを特徴とする請求項1記載の布製ブラシ使用の洗車機。」
・「【0049】さらに上記した本発明の請求項4によると、非撥水性ブラシ単体間に位置する撥水性ブラシ単体により非撥水性ブラシ単体を左右から規制して、非撥水性ブラシ単体の形状が波状にバラつくことを防止でき、以てトップブラシを回転させたときのブラシ形状を均一化させて、外観の良いものにできる。そして、撥水性ブラシ単体群の存在によって、トップブラシの全体重量を軽くでき、ブラシ回転用の駆動装置(モータなど)に負荷がかからないようにできる。」
・「【0050】しかも上記した本発明の請求項5によると、被洗浄車両の傷つきを気にする部分である上面部分に対しては、主として、その作用半径が長い非撥水性ブラシ単体群を接触させることになって、車体上面を傷つけることを減少でき、かつ洗い上がりの良い洗浄を行うことができる。そして、その作用半径が短く車体上面にあまり接触しない撥水性ブラシ単体を、非撥水性ブラシ単体間に位置させることで、これら撥水性ブラシ単体により非撥水性ブラシ単体を左右から規制して、非撥水性ブラシ単体の形状が波状にバラつくことを防止でき、以てトップブラシを回転させたときのブラシ形状を均一化させて、外観の良いものにできる。」

5.無効理由について
(1)理由1について
本件発明1と甲1発明とを比較すると、後者の「ブラシステーション」が前者の「洗車機本体」に、後者の「被洗浄自動車」が前者の「被洗浄車両」に、後者の「牽引」が前者の「移動」に、それぞれ相当するから、後者の「ブラシステーションに対し被洗浄自動車を牽引させ」ることは前者の「洗車機本体と被洗浄車両とを車長方向に相対的に移動させ」ることに相当するといえる。
また、後者の「屋根ブラシ及び側面ブラシからなる洗浄ブラシ」が前者の「ブラシ群」に相当し、後者の「洗車装置」が前者の「洗車機」に相当する。
そして、後者の「織物小片」は前者の「布製ブラシ単体」に相当し、後者の「プラスチック剛毛」と前者の「スポンジ製ブラシ単体」とは、「プラスチック製ブラシ単体」との概念で共通するから、後者の「洗浄ブラシは、織物小片とプラスチック剛毛とを組合せ装着して」いることと前者の「少なくとも一部のブラシは、布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体との両方を使用して」いることとは、「少なくとも一部のブラシは、布製ブラシ単体とプラスチック製ブラシ単体との両方を使用して」いるとの概念で共通するといえる。

したがって、両者は、
「洗車機本体と被洗浄車両とを車長方向に相対的に移動させて、ブラシ群により被洗浄車両の洗浄を行う洗車機であって、少なくとも一部のブラシは、布製ブラシ単体とプラスチック製ブラシ単体との両方を使用して構成されている洗車機。」である点で一致し、次の点で相違している。
(相違点)
プラスチック製ブラシ単体に関し、本件発明1は「スポンジ製ブラシ単体」としているのに対し、甲1発明は「プラスチック剛毛」である点。

上記の相違点について以下検討する。

(1-1)新規性の判断について
本件発明1において、「スポンジ製ブラシ単体」とは、本件特許明細書中の段落【0023】の「上記したスポンジ製ブラシ単体27,37,47としては、たとえばウレタン、EVA、ポリエチレンなどを発泡(注:「発砲」は誤記)させた合成樹脂発泡体(注:「合成樹脂発砲体」は誤記)からなり、これによると、厚みも大きくでき強度的にも強く形成し得る。しかも、気泡群により形成されていることで、すなわち短発泡性で製作されていることで、気泡群の伸縮弾性などによって切損などし難く、さらに独立気泡群からなることで水を含みづらいものにし得る。」なる記載によれば、気泡群により形成された発泡体からなり、気泡群により伸縮弾性を有するものであると解される。
一方、甲1発明において、「プラスチック剛毛」とは、甲第1号証中の「剛毛(8)は糸状の形態を有し、引抜きまたは射出されたプラスチック索から成る。ブラシ材料としては、例えばLDポリエチレンまたはポリアミドが挙げられる。材料の観点からより堅いポリアミドが剛毛(8)の支持効果のために好都合である。」(記載事項b)参照)なる記載によれば、引抜きまたは射出された堅いプラスチック索として形成されるものであるところから、気泡群により伸縮弾性を有するものとまではいえない。
したがって、甲1発明の「プラスチック剛毛」は本件発明1の「スポンジ製ブラシ単体」とは実質的に異なるものと解するのが相当であるから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と実質的に同一であり特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである、とはいえない。

(1-2)進歩性の判断について
甲第1号証の記載事項a)及びb)によれば、甲1発明は、従来周知の布製ブラシ単体(織物小片)からなる洗浄ブラシと、従来周知のプラスチック製ブラシ単体(プラスチック剛毛)からなる洗浄ブラシの各利点に着目し、布製ブラシ単体とプラスチック製ブラシ単体との両方を使用して構成し、プラスチック製ブラシ単体により不安定な布製ブラシ単体を支持する機能を備えさせることにより、布製洗浄ブラシの問題を克服するという技術思想を内在したものであるといえる。
一方、甲第2号証ないし甲第5号証に見られるように、プラスチック製ブラシ単体として、発泡させて形成された気泡群により伸縮弾性を有するスポンジ製ブラシ単体を用いた洗浄ブラシも、従来周知のものであり、かかるスポンジ製ブラシ単体が、布製ブラシ単体に比べて、剛性が高いことも良く知られているところである。
そうすると、甲1発明において、布製ブラシ単体をプラスチック製ブラシ単体で支持することにより布製洗浄ブラシの問題を克服するとの課題の下に、プラスチック製ブラシ単体として、従来周知のプラスチック剛毛に替えて従来周知のスポンジ製ブラシ単体を用いることは、甲1発明に接した当業者が通常の創作活動の一環として適宜試みる程度のものというべきであり、また、スポンジ製ブラシ単体を布製ブラシ単体と組み合わせて使用して洗浄ブラシを構成するに際し、格別な技術的困難性あるいは阻害要因が存在するともいえない。
そして、本件発明1の奏する効果は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載のものから当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかにそれぞれ記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(1-3)口頭審理における被請求人の主張について
被請求人は、平成19年3月28日に実施された口頭審理において、プラスチック剛毛をスポンジ製ブラシ単体に置き換える動機付けがない旨主張している。
しかしながら、上述したように、甲1発明は、布製ブラシ単体をプラスチック製ブラシ単体で支持することにより布製洗浄ブラシの問題を克服するとの課題を有するものというべきであり、かかる課題は、上記の置き換えのための動機付けとなり得るものである。

さらに、被請求人は、上記口頭審理において、本件発明1の奏する効果として、「布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体との両方を使用」した構成により、「布どうしが水分でくっつくことを防止し得る」点を挙げている。
しかしながら、本件特許明細書には、布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体との両方を使用した構成のみにより、布どうしが水分でくっつくことを防止し得る効果が奏されるとの説明はなされておらず、上記構成と効果との関係は理解し難いところである。
また、仮に、「布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体との両方を使用」した構成により、「布どうしが水分でくっつくことを防止し得る」効果が奏されるのであるならば、甲1発明においても、布製ブラシ単体とプラスチック製ブラシ単体との両方を使用した構成を備えている以上、同様の効果が奏されるはずである。
したがって、被請求人の挙げた本件発明1の奏する効果については、格別のものとは認められない。

(1-4)理由1のまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証のいずれかにそれぞれ記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、理由1には理由があるというべきである。

(2)理由2について
本件発明2は、本件発明1に、「布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体とが、ブラシ軸心の方向で交互に配置されている」構成をさらに限定したものであり、これにより、本件特許明細書中の段落【0009】に記載の「スポンジ製ブラシ単体により布製ブラシ単体を両側から規制して、布製ブラシ単体の形状が波状にバラつくことを防止し得るとともに、布製ブラシ単体どうしが水分でくっつくことを防止し得る」との効果を奏するものである。
ところで、非撥水性と撥水性の二種類のブラシ単体がブラシ軸心の方向で交互に配置されている構成は、甲第6号証に、「トップブラシが、非撥水性ブラシ単体と撥水性ブラシ単体とを、ブラシ軸心の方向で、一枚ずつまたは複数枚ずつ交互に配置することで構成されている」(【請求項4】参照)として開示されており、このような構成により、非撥水性ブラシ単体を両側から規制して非撥水性ブラシ単体の形状のバラつきを防止する効果を奏することも、「非撥水性ブラシ単体間に位置する撥水性ブラシ単体により非撥水性ブラシ単体を左右から規制して、非撥水性ブラシ単体の形状が波状にバラつくことを防止でき」(段落【0049】参照)として開示されているところである。
そうすると、非撥水性ブラシ単体に属する布製ブラシ単体と撥水性ブラシ単体に属するスポンジ製ブラシ単体の二種類のブラシ単体から構成する洗浄ブラシにおいても、布製ブラシ単体を両側から規制して、布製ブラシ単体の形状のバラつきを防止するとの効果を得るために、本件発明2の上記限定された構成を採用することは、当業者が適宜なし得たものというべきである。
また、「布製ブラシ単体どうしが水分でくっつくことを防止し得る」との効果は、布製ブラシ単体の形状のバラつきが防止できれば、それに伴って当然に生ずる効果にすぎない。
したがって、上記「(1)」での検討内容を踏まえれば、本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれか及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、理由2には理由があるというべきである。

(3)理由3について
本件発明3は、本件発明1または本件発明2に、「布製ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径と、スポンジ製ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径とは、いずれかが長く設定されている」構成をさらに限定したものである。
ところで、二種類のブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径が異なるように設定することは、甲1発明の「剛毛を織物小片より短くし」た構成がこれに相当しているとともに、甲第6号証に、「非撥水性ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径が、撥水性ブラシ単体のブラシ軸心からの作用半径に対して長く設定されている」(【請求項5】参照)として開示されているところである。
そうすると、布製ブラシ単体とスポンジ製ブラシ単体という二種類のブラシ単体から構成する洗浄ブラシにおいても、いずれかのブラシ単体の作用半径を長く設定することは、当業者が必要に応じて適宜なし得たものというべきであり、かかる構成により奏される効果も、当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。
したがって、上記「(1)」及び「(2)」での検討内容を踏まえれば、本件発明3は、甲第1号証、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれか及び甲第6号証にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、理由3には理由があるというべきである。

6.むすび
したがって、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-03-30 
出願番号 特願2001-238548(P2001-238548)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B60S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関 裕治朗  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 田良島 潔
渋谷 善弘
登録日 2005-09-22 
登録番号 特許第3722026号(P3722026)
発明の名称 洗車機  
代理人 笹原 敏司  
代理人 仁木 一明  
代理人 森本 義弘  
代理人 板垣 孝夫  
代理人 落合 健  
代理人 原田 洋平  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ