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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1158477
審判番号 不服2002-10219  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-06 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 特願2000-76742「デジタルコンテンツの配信方法およびデジタルコンテンツの配信システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年9月28日出願公開、特開2001-265937〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願の請求項1に係る発明
本願は、平成12年3月17日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成14年2月4日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】ネットワークを利用して、売り手側のサーバから買い手側のクライアントに、書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを配信する方法であって、
前記クライアントが、前記サーバに用意された複数の前記商品・サービスのアイテムを表示し、この表示された中から任意のアイテムを選択して当該サーバに要求することを買い手に促し、
前記クライアントからの前記要求に基づいて、前記サーバが、時限消滅プログラムを呼び出し、前記選択されたアイテムに相当する商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込むとともに、当該時限消滅プログラムが計時動作を開始し、
前記デジタルコンテンツを組み込んだ前記時限消滅プログラムを、前記サーバから前記クライアントにダウンロードすることで配信し、
前記配信後前記時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が経過すると、当該時限消滅プログラムの起動または動作ステップを契機として、当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータを前記サーバへ送って自動的に消滅するとともに、当該時限消滅プログラムに組み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に消滅する、
ことを特徴とするデジタルコンテンツの配信方法。」

2.引用例に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-259574号公報(以下「引用例1」という。)には、以下(a)?(n)の記載がある。
(a)「【特許請求の範囲】【請求項1】アプリケーションソフトウェアを含むデジタルコンテンツと該コンテンツに付随するライセンス使用条件書とを用いて、デジタルコンテンツのライセンス流通管理を行うライセンス管理方法において、
前記デジタルコンテンツを使用するために、オペレーションシステム機能が稼働している状態を把握し、
該デジタルコンテンツの動作を監視し、時間貸し/回数貸しを含むPay per use のデータや前記デジタルコンテンツの課金データを生成し、
監視結果を、集中管理型で運用されるライセンス管理センタに通知することにより、該ライセンス管理センタと通信し、不正使用を防止することを特徴とするライセンス管理方法。
【請求項2】主プログラムと起動/終了プログラムとから構成されるリンク処理プログラムを分割し、該主プログラムをオペレーションシステム拡張機能エリアに配置し、該起動/終了プログラムをライセンス使用条件と共に、デジタルコンテンツを包含したファイル構造としたシェル構造とし、
ユーザから前記デジタルコンテンツの起動要求が発行されると、前記シェル構造中のデジタルコンテンツを分離し、
前記起動/終了プログラムにより該デジタルコンテンツの起動及び終了を制御すると共に、前記主プログラムと前記起動/終了プログラムとで、該デジタルコンテンツの動作を監視し、
監視結果を前記主プログラムにおいて、前記ライセンス管理センタと通信する請求項1記載のライセンス管理方法。
【請求項3】前記デジタルコンテンツの使用の終了を検知すると、該デジタルコンテンツを前記シェル構造に戻す手段を含む請求項2記載のライセンス管理方法。
【請求項4】前記起動/終了プログラムが前記デジタルコンテンツの起動/終了を監視し、その監視結果を前記主プログラムに通知し、
前記主プログラムでは、前記監視結果に基づいて、前記デジタルコンテンツの使用時間、使用回数データを取得して、前記ライセンス管理センタに通知する請求項2記載のライセンス管理方法。」
(b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、…デジタルコンテンツに対して、知的財産や使用条件等を規定した該ライセンス条件書に基づいて、該デジタルコンテンツの動作を監視し、該デジタルコンテンツの不正使用を防止すると共に、該デジタルコンテンツの時間貸し・回数貸し等のペイパーユース(Pay per use:映像、文書、アプリケーションソフトウェア等のデジタルコンテンツを時間や回数等によって貸し出す方式)を実現するオペレーションシステム(OS)機能拡張エリアを用いたライセンス管理方法…に関する。」
(c)「【0006】本発明は、…デジタルコンテンツの不正使用の防止や、Pay per use ライセンスの実現が可能なライセンス管理方法…を提供することを目的とする。」
(d)「【0022】…利用者がデジタルコンテンツを利用できない形に変換することをシェルに組み込む(シェル構造にする)といい、一度、シェル構造にしたデジタルコンテンツを逆変換して、利用者が利用できる形にすることをシェルから分離(離脱)するという。」
(e)「【0026】さらに、…デジタルコンテンツが複数ある場合には、図6に示すように、主プログラム1100で複数のファイル構造、シェル構造を用いて管理することで、容易に実施可能である。」
(f)「【0028】【実施例】以下、図面と共に本発明の実施例を説明する。図7は、本発明の一実施例のライセンス管理システムの構成を示す。同図に示すライセンス管理システムは、ユーザ端末10、ライセンス管理センタ20から構成される。」
(g)「【0029】ユーザ端末10は、オペレーションシステム2000とシェル10000から構成される。オペレーションシステム2000は、オペレーションシステム2000を介してシェル10000を制御する主プログラム1100及び、OS機能170から構成される。」
(h)「【0031】これを動作させるには、シェル10000の起動/終了プログラム1200の制御部1230の指令によって、端末入出力処理部1210は、当該端末10に接続されたマウス等から入力されるデジタルコンテンツ3000の起動要求データとそのシェル10000の所在データを受け取り、連結処理部1220に転送する。」
(i)「【0032】次に、制御部1230の指令によって、連結処理部1220は、ライセンス使用条件書2000とデジタルコンテンツ3000が対応しているか否か、時間貸し/回数貸し等Pay per use の期限切れ等を検査し、その結果、デジタルコンテンツ3000を動作させないのであれば、端末入出力部1210にその結果データを転送する。」
(j)「【0033】端末入出力処理部1210は、その結果をディスプレイ等から出力する。他方、デジタルコンテンツ3000を動作させる場合には、…主プログラム1100の起動/終了プログラム連結処理部1111は、シェル10000の連結処理部1220から受け取った起動要求データをメモリ部1130に格納する。」
(k)「【0034】制御部1140の指令によって、コンテンツ動作監視処理部1110内の起動/終了プログラム連結部1111は、起動許可データを起動/終了プログラム1200の連結処理部1220に転送する。制御部1230の指令によって、連結処理部1220は、起動/終了プログラム連結処理部1111から受け取った起動要求データからデジタルコンテンツ3000をシェル10000と分離する。」
(l)「【0036】また、制御部1140の指令によって、コンテンツ動作監視処理部1110内の起動/終了プログラム連結処理部111は、シェル10000の起動/終了プログラム1200の連結処理部1220にデジタルコンテンツ使用終了データを転送する。更に、制御部1230の指令によって、連結処理部1220は、デジタルコンテンツ3000をシェル10000に組み込む(装着する)。」
(m)「【0037】さらに、主プログラム1100とシェル10000をリンクさせておき、使用時だけ当該シェル10000からデジタルコンテンツ3000を外すことが可能であるため、シェル10000によって、ユーザからデジタルコンテンツ3000に直接アクセスできないことになる。また、当該デジタルコンテンツ3000使用中であっても、主プログラム1100において、コピー等を検知する機能を用いて、不正使用を防ぎ、著作権、肖像権を守ることが可能である。」
(n)「【0038】つまり、利用者が、アプリケーションを使用していない場合は、シェル構造により、利用者から利用できないようにし、アプリケーションを利用中の場合は、利用者がコピー等の不正な処理を行うことをOS機能170のタスク処理に定期的に割り込みをかけて主プログラム1100が現在行われているタスク(コピー等)の情報を取り出し、利用者が不正な処理を行うことを強制的に中断処理することにより不正使用をブロックする。」
上記のライセンス管理方法は、上記(b)のように、「デジタルコンテンツを時間や回数等によって貸し出す方式」を実現するものであるから、貸し手側から借り手側のユーザ端末にデジタルコンテンツを提供する方法として把握できる。
したがって、上記(a)?(n)の記載及び図面の記載から、引用例1には、
「貸し手側から借り手側のユーザ端末に、映像、文書、アプリケーションソフト等のデジタルコンテンツを提供する方法であって、
貸し手側は、デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できないように、起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコンテンツを利用者が利用できない形に変換して包含したファイル構造のシェル構造として借り手側のユーザ端末に提供し、
借り手側のユーザ端末において、提供後ライセンス使用条件にあらかじめ設定された所定時間が経過すると、起動/終了プログラムがシェル構造中からデジタルコンテンツを分離することすなわちデジタルコンテンツを逆変換して利用者が利用できる形にすることを行わないようにする、
デジタルコンテンツを提供する方法。」
の発明(以下「引用例1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

同じく引用された特開平7-253940号公報(以下「引用例2」という。)には、以下(o)?(y)の記載がある。
(o)「【0019】【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。図1には、本発明の一実施例に係るソフトウエア流通システムの概略的な機能構成が示されている。【0020】本実施例のソフトウエア流通システムは、不特定多数のユーザに対して種々のソフトウエアを提供するソフト提供側の端末装置(以下、「提供側端末装置」と呼ぶ)1と、この提供側端末装置1からの所望のソフトウエアを入手するソフト種入手側の端末装置(以下、「入手側端末装置」と呼ぶ)2とを通信手段3を介して接続している。」
(p)「【0023】図2は提供側端末装置1の機能ブロックを示している。」
(q)「【0026】また、…図3は入手側端末装置2の機能ブロックを示している。」
(r)「【0030】次に、以上のように構成された本実施例の動作について図4?図6及び図8を参照しながら説明する。…入手側端末装置12のコマンド・条件入力部31からコマンドを入れて提供側端末装置1に対してアクセス要求を出す。このアクセス要求を受信した提供側端末装置1では接続可能な状態であれば入手側端末装置2に対してアクセス許可を与える。」
(s)「【0031】アクセス許可を受けた入手側端末装置2では、利用者が希望するソフトウエア(探索ソフトウエア)のソフトウエア情報をコマンド・条件入力部31で受付け、その受付けたソフトウエア情報を検索条件として送信する。検索条件を受信した提供側端末装置1では、ソフトウエア情報管理部23がその検索条件に合致するソフトウエア条件のソフトウエアをソフトウエア属性情報ファイル21から検索する。この様にしてソフトウエア情報管理部23で検索されたソフトウエアの情報が画面制御部25により画面表示ディスプレイ26に表示されて該当するソフトウエアの一覧表が作成されることとなる。【0032】そして、画面表示ディスプレイ26に表示され該当ソフトウエアの一覧表と同一の一覧表がウインドウサーバ機能によりリアルタイムで入手側端末装置2の画面表示ティスプレイ33に表示される。【0033】入手側端末装置2では、画面表示ティスプレイ33に表示した一覧表の中で希望するソフトウエアがあれば、そのソフトウエアをコマンド・条件入力部31で受付ける。」
(t)「【0037】一方、…入手側端末装置2のコマンド・条件入力部31から上記選択したソフトウエアの転送要求を入力する。」
(u)「【0041】また、計算機調査部29で、入手側端末装置2の計算機環境が整っていると判断した場合は、ソフトウエア管理部24が上記転送要求のされているソフトウエアをソフトウエア格納ファイル22から取出し、そのソフトウエアに自己消去機能を付加する。自己消去機能は、設定されている日限になるとソフトウエア自体を消去するように作用するプログラムである。ソフトウエア管理部24により日限が設定された自己消去機能付ソフトウエアが通信回線を介して入手側端末装置2へ送られる。」
(v)「【0042】入手側端末装置2では、自己消去機能付ソフトウエアをソフトウエア格納ファイル37に格納する。以後、入手側端末装置2ではソフト管理部36とソフト制御部34によりソフトウエア入手側の環境下で自由に自己消去機能付ソフトウエアを起動できるものとなる。」
(w)「【0043】その後、ソフトウエアの入手が正式に決定した場合は、正式入手指示がコマンド・条件入力部31より入力され提供側端末装置1へ送信される。正式入手指示を受けた提供側端末装置1の除去命令発生部30は、入手側端末装置2へ転送してあるソフトウエアの自己消去機能を除去する旨の除去命令(除去キーワード)を入手側端末装置2へ送信する。除去命令を受信した入手側端末装置2では、除去キーワードを入れることにより自己消去機能付ソフトウエアから自己消去機能のみが取り除かれる。それ以後は、通常のソフトウエアとして使用されることとなる。」
(x)「【0044】一方、最終的にソフトウエアを正式に入手しない場合は、期限監視部35で監視している日時が自己消去機能に設定されている日限となったところで、自己消去機能が起動され、ソフトウエア自体が消去される。」
(y)「【0047】また、本実施例によれば、ソフトウエアを正式入手決定前に入手側端末装置2へ送る場合は、起動日限が設定された自己消去機能をソフトウエアに付加して入手側端末装置2へ提供するようにしたので、ソフトウエアの回収作業を削減することができ、またソフト回収に伴うウィルス感染の危険性を除去することもできる。」
上記(x)の「自己消去機能が起動され、ソフトウエア自体が消去される」のに、
上記(u)のように、入力装置に送られるのは自己消去機能付ソフトウエアであり、消去後に自己消去機能のみを残すことは不合理であるから、自己消去機能すなわち「設定されている日限になるとソフトウエア自体を消去するように作用するプログラム」を含めて自己消去機能付ソフトウエアを消去することは自明のことである。
したがって、上記(o)?(y)の記載及び図面の記載から、引用例2には、
ソフトウエア流通システムにおいて、利用者が希望するソフトウエアの検索条件を利用者側装置から提供者側装置に通信回線を介して送信し、提供者側装置は受信した検索条件に合致するソフトウエアを検索し、利用者側装置は該検索されたソフトウエアの一覧表を表示して該一覧表の中から任意のソフトウエアを利用者に選択させ、該選択されたソフトウエアを提供者側装置から利用者側装置に通信回線を介して送信しソフトウエア格納ファイルに格納して提供すること
が記載されていると認められ、さらに、
ソフトウエア流通システムにおいて、提供者側装置は、設定されている日限になるとソフトウエアを消去するように作用するプログラムを利用者の要求するソフトウエアに付加して自己消去機能付ソフトウエアとし、利用者側装置に提供し、利用者側装置では、前記プログラムに設定されている日限になったところで、前記プログラムが起動され、提供された自己消去機能付ソフトウエアを前記プログラムを含めて消去すること
も記載されていると認められる。

同じく引用された特表平9-506225号公報(以下「引用例3」という。)には、「ビューワ266は、書籍が記憶され、読まれ、消去されることを可能にするソフトウェア・オペレーティング・システムを含み、また、書籍を注文し、書籍をシステム・オペレータによって決定される予め定義された時間期間だけメモリ728に保持する能力を含む。ソフトウェアは、書籍が、ある期間(例えば2週間)の間に読まれその後で自動的に消去されたり、いったん読まれたら消去されたり、又は、メモリの中に永久に保持されることを可能にするように構成されうる。」(40頁25行?41頁3行)と記載されている。
この記載及び図面の記載から、引用例3には、
書籍のデジタルコンテンツをメモリに記憶する表示装置(ビューワ)において、利用者に読まれるように書籍のデジタルコンテンツを処理可能なソフトウェアに、書籍のデジタルコンテンツがメモリに記憶されてから予め定められた期間が経過すると、書籍のデジタルコンテンツを自動的に消去する機能を持たせること
が記載されていると認められる。

同じく引用された特開平7-64786号公報(以下「引用例4」という。)には、「【0006】本発明は、…プログラム利用契約においてユーザが不正行為を働いていないことをライセンサが確認することのできるプログラム利用契約管理方法及びその方法を実現するシステムを提供することにある。【0007】また、具体的な態様に従えば、使用プログラムの消去とその確認ができ、更に、利用しているプログラムを知ることができるプログラム利用契約管理方法及びその方法を実現するシステムを提供する。」、「【0020】<利用契約管理手順例>(実施例1)図2は実施例1の処理手順をフローチャートで示したものである。なお、図中網掛けの部分は利用プログラム又はライセンサのプログラムが自動で行なう行為を示している。概略は次の様になる。【0021】まず、ライセンサはプログラムの利用契約の終了に伴って、ユーザにプログラムの消去を要請する。【0022】ユーザは、ライセンサの提供した特別なコマンド(これを以下…Srmと呼ぶ)をそのプログラムに対して実行する。Srmは、プログラムの消去を行うとともに、それを実行した日時、及び、プログラムのIDナンバーや、それをインストールしていたコンピュータの名前など必要事項の含まれているデータファイルの内容を暗号化し、特定の暗号コードC1を生成する。ユーザはC1をライセンサに電子メール、もしくはC1を記録させた媒体の郵送やFaxなどの手段を用いて送る。【0023】C1を受領したライセンサは、C1を復号して解読することによってユーザが誠実にライセンサとの契約を履行してプログラムを消去したことを確認する。」と記載されている。
これらの記載及び図面の記載から、引用例4には、
プログラム利用契約管理方法において、プログラムの利用契約の終了にともなって、ユーザは、プログラムの消去を行うとともに、消去確認用のデータをライセンサに送ること
が記載されていると認められる。

3.本願の請求項1に係る発明と引用例1に記載された発明との対比
本願の請求項1に係る発明(以下「前者」という。)と引用例1に記載された発明(以下「後者」という。)とを対比すると、
後者の「貸し手」、「借り手」は、前者の「売り手」、「買い手」と、各々「提供者」、「利用者」として共通し、
後者の「ユーザ端末」は、前者の「クライアント」と、「装置」として共通し、
後者の「映像、文書、アプリケーションソフト等のデジタルコンテンツ」は、前者の「書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツ」に相当し、
後者の「提供する」は、前者の「配信する」と、「提供する」ことで共通し、
後者の「起動/終了プログラム」は、前者の「時限終了プログラム」と、「プログラム」として共通し、
後者の「デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できないように、起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコンテンツを利用者が利用できない形に変換して包含したファイル構造のシェル構造とし」は、前者の「時限消滅プログラムを呼び出し、商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込む」と、「商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツをあるプログラムによらなければ処理が不可能になるように該プログラムと一体とする」ことで共通し、
後者の「提供後ライセンス使用条件にあらかじめ設定された所定時間が経過すると、起動/終了プログラムがシェル構造中からデジタルコンテンツを分離することすなわちデジタルコンテンツを逆変換して利用者が利用できる形にすることを行わないようにする」は、前者の「前記配信後前記時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が経過すると、当該時限消滅プログラムの起動または動作ステップを契機として、当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータを前記サーバへ送って自動的に消滅するとともに、当該時限消滅プログラムに組み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に消滅する」と、「提供後あらかじめ設定された所定時間が経過すると、前記デジタルコンテンツの利用者による利用が自動的に不可能になる」ことで共通している。
したがって、両者は、
「提供者側から利用者側の装置に、書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを提供する方法であって、
前記提供者側が、商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツをあるプログラムによらなければ処理が不可能になるように該プログラムと一体とし、
前記デジタルコンテンツを包含した前記プログラムを利用者側の装置に提供し、
前記提供後あらかじめ設定された所定時間が経過すると、前記デジタルコンテンツの利用者による利用が自動的に不可能になる、
ことを特徴とするデジタルコンテンツの提供方法。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
前者は、提供者と利用者が、売り手と買い手であるのに対して、後者は、貸し手と借り手である点。
[相違点2]
前者は、提供者側から利用者側の装置に、書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを提供するのに、ネットワークを利用して、売り手側のサーバから買い手側のクライアントに、ダウンロードすることで配信するものであって、前記クライアントが、前記サーバに用意された複数の前記商品・サービスのアイテムを表示し、この表示された中から任意のアイテムを選択して当該サーバに要求することを買い手に促し、前記選択されたアイテムに相当する商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを配信するものであるのに対して、後者は、そのようなものではない点。
[相違点3]
前者は、サーバが、時限消滅プログラムを呼び出し、デジタルコンテンツを当該時限消滅プログラムに読み込んで当該時限消滅プログラムによってのみ処理可能に組み込むとともに、当該時限消滅プログラムが計時動作を開始し、配信後前記時限消滅プログラムにあらかじめ設定された所定時間が経過すると、当該時限消滅プログラムの起動または動作ステップを契機として、当該時限消滅プログラムが消滅確認用のデータを前記サーバへ送って自動的に消滅するとともに、当該時限消滅プログラムに組み込まれた前記デジタルコンテンツも自動的に消滅するものであるのに対して、後者は、デジタルコンテンツが起動/終了プログラムによらなければ処理できないように、起動/終了プログラムをライセンス使用条件とともにデジタルコンテンツを利用者が利用できない形に変換して包含したファイル構造のシェル構造として提供し、提供後ライセンス使用条件にあらかじめ設定された所定時間が経過すると、起動/終了プログラムがシェル構造中からデジタルコンテンツを分離することすなわちデジタルコンテンツを逆変換して利用者が利用できる形にすることを行わないようにするものであり、前者のようなものではない点。

4.当審の判断
[相違点1]について検討する。
後者においても、貸し手はデジタルコンテンツを利用期限を限って借り手に引き渡しており、貸し手はデジタルコンテンツの利用期限内での利用する権利を借り手に与えているということができ、利用する権利もまた売買の対象となり得るのであるから、後者において、貸し手と借り手を売り手と買い手とすることは、当業者が容易になし得たことである。
[相違点2]について検討する。
引用例2に、ソフトウエア流通システムにおいて、利用者が希望するソフトウエアの検索条件を利用者側装置から提供者側装置に通信回線を介して送信し、提供者側装置は受信した検索条件に合致するソフトウエアを検索し、利用者側装置は該検索されたソフトウエアの一覧表を表示して該一覧表の中から任意のソフトウエアを利用者に選択させ、該選択されたソフトウエアを提供者側装置から利用者側装置に通信回線を介して送信しソフトウエア格納ファイルに格納して提供することが記載されている。ここで、例えば、引用例1に、上記(b)のように、「Pay per use:映像、文書、アプリケーションソフトウェア等のデジタルコンテンツを時間や回数等によって貸し出す方式」と記載され、特開平11-296437号公報に、「【0002】【従来の技術】コンピュータソフトウェアの販売促進、映画の動員数の増強、ビデオ・LD・DVDタイトルの販売・レンタル促進、音楽CD・本・雑誌等の販売促進など、オンライン/オフラインコンテンツの販売・利用促進のために、ダイジェストや体験版、推薦文などのコンテンツの購買・利用意欲を高めるようなデジタル化された宣伝用サンプルコンテンツをネットワークもしくはCD-ROMなどの記録媒体を介して希望するユーザーのコンピュータ端末に配布することは一般に行われている。」、「【0006】第2の方法(以下、従来法2とする)は、主にコンテンツ45がコンピュータソフトウェアである場合に用いられる。」と記載されているように、利用者のコンピュータ端末に配布するデジタルコンテンツとしてソフトウェア及び文書のデジタルコンテンツのいずれもが周知であるから、引用例3に記載された前記の技術的事項が、ソフトウェアの流通に限らず、文書のデジタルコンテンツの流通にも適用できることは自明のことである。
そして、通信手段を利用したサービスの提供にネットワークを利用したクライアントサーバシステムを用いることが慣用手段であり、さらに、例えば、カタログ販売にみられるように、提供者が用意する複数の商品のアイテムを利用者に提示し、提示されたアイテムの中から利用者が任意のアイテムを選択して提供者に要求し、提供者が要求されたアイテムの商品を利用者に提供することも慣用手段であるから、後者において、提供者側から利用者側の装置に、書籍を含む商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを提供するのに、引用例2に記載された上記の技術的事項を適用して、利用者側端末が提供者側端末に用意された複数の商品・サービスのアイテムの中から複数のアイテムを表示し、この表示された中から利用者が選択したアイテムに相当する商品・サービスの内容をデジタルデータに変換したデジタルコンテンツを通信回線を利用して提供者側装置から利用者側装置にダウンロードすることで配信するようにし、その際に、ネットワークを利用したクライアントサーバシステムを用い、さらに、表示して利用者の選択の対象とするアイテムをサーバに用意された複数の商品・サービスのアイテムとして、前者のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
[相違点3]について検討する。
引用例2に、ソフトウエア流通システムにおいて、提供者側装置は、設定されている日限になるとソフトウエアを消去するように作用するプログラムを利用者の要求するソフトウエアに付加して自己消去機能付ソフトウエアとし、利用者側装置に提供し、利用者側装置では、前記プログラムに設定されている日限になったところで、前記プログラムが起動され、提供された自己消去機能付ソフトウエアが前記プログラムを含めて消去されることが記載されており、引用例2に記載された上記の技術的事項が、ソフトウェアの流通に限らず、文書のデジタルコンテンツの流通にも適用できることは自明のことであり、さらに、引用例3に、書籍のデジタルコンテンツをメモリに記憶する表示装置において、該書籍のデジタルコンテンツを処理可能なソフトウェアに、書籍のデジタルコンテンツがメモリに記憶されてから予め定められた期間が経過すると、書籍のコンテンツを自動的に消去する機能を持たせることが記載されているから、後者において、提供後あらかじめ設定された所定時間が経過すると、デジタルコンテンツの利用者側による利用を自動的に不可能にするのに、引用例2に記載された上記の技術的事項及び引用例3に記載された上記の技術的事項を適用して、起動/終了プログラムを、該プログラムにあらかじめ所定時間が設定され、提供後該所定時間が経過すると、提供された該プログラム自身とデジタルコンテンツとを自動的に消去する機能を持つデジタルコンテンツを処理可能なプログラムとすることは、当業者が容易に推考し得たことである。
その際に、プログラムに処理対象を組み込むことが周知のことであるから、プログラムにデジタルコンテンツを利用者が利用できない形に変換して包含させてファイル構造のシェル構造とするのに代えて、デジタルコンテンツをプログラムに読み込んで当該プログラムによってのみ処理可能に組み込むようにすることは、当業者が適宜に選択し得たことであり、あらかじめ設定された所定時間の計時の開始の時期は提供者により決定されるものであるから、プログラムの計時動作の開始をデジタルコンテンツを一体としたときとすることは、当業者が必要に応じて適宜になし得たことであり、消滅動作を行う契機の基となる所定時間がプログラムに設定されるのであるから、消滅動作の契機をプログラムの起動または動作ステップとすることは自明のことであり、さらに、引用例4に、プログラム利用契約管理方法において、プログラムの利用契約の終了にともなって、ユーザは、プログラムの消去を行うとともに、消去確認用のデータをライセンサに送ることが記載されており、消去確認用のデータを提供者に送ることは、ユーザによる消去に限らず、利用者側装置における自動的な消去にも適用できることであるから、デジタルコンテンツをプログラムに読み込んで当該プログラムによってのみ処理可能に組み込むようにし、プログラムの計時動作の開始をデジタルコンテンツを包含したときとし、消滅動作の契機をプログラムの起動または動作ステップとした上で、消去動作に伴って消去確認用のデータを提供者側装置に送るようにして、前者のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願の請求項1に係る発明の効果も、引用例1?4に記載された発明及び周知の技術的事項の効果から、当業者が容易に予測し得た程度のものである。

5.まとめ
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、引用例1?4に記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-25 
結審通知日 2006-05-09 
審決日 2006-05-22 
出願番号 特願2000-76742(P2000-76742)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 篠原 功一  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 高瀬 勤
山本 穂積
発明の名称 デジタルコンテンツの配信方法およびデジタルコンテンツの配信システム  
代理人 三好 秀和  

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