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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01S |
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管理番号 | 1158488 |
審判番号 | 不服2004-14691 |
総通号数 | 91 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-07-14 |
確定日 | 2007-06-19 |
事件の表示 | 平成11年特許願第141793号「半導体レーザ、および半導体レーザの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月30日出願公開、特開2000-332351、請求項の数(10)〕についてなされた平成18年8月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10444号 平成19年4月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 平成11年 5月21日 特許出願 平成16年 4月22日 手続補正 平成16年 6月10日 拒絶査定 平成16年 7月14日 拒絶査定不服審判請求 平成16年 8月12日 手続補正 平成18年 8月22日 審決(請求不成立) 平成18年10月 3日 知財高裁出訴 平成19年 4月26日 判決(審決取消) 2.本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成16年8月12日付手続補正の特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりの次のものである(以下、請求項1?10に記載の発明をそれぞれ「本願発明1?10」という。)。 「【請求項1】 半導体レーザであって、 基板の主面上に設けられた第1導電型半導体層と、 前記基板の主面上に設けられた第2導電型半導体層と、 前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層に挟まれ、キャリアが注入されると光を発生する活性層と、 前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定する2次元回折格子と、 前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層において発生された光が放出される光放出面と、 を備え、 前記2次元回折格子は、2以上の回折格子群からなり、 前記回折格子群の各々は、同一の周期を有しており、 各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、 当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記2次元回折格子とを含むことを特徴とする半導体レーザ。 【請求項2】 前記2次元回折格子は、第1の屈折率を有する媒質内に2次元回折格子を構成するように設けられた第2の屈折率の部分を有し、 前記第1の屈折率は前記第2の屈折率よりも大きく、 前記第2の屈折率の部分は、第1の屈折率を有する媒質が除かれた空間である、請求項1に記載の半導体レーザ。 【請求項3】 前記2次元回折格子は、三角格子および正方格子のいずれか一方である、請求項1に記載の半導体レーザ。 【請求項4】 前記活性層は、キャリアが注入されると光を発生する複数の発光部と、前記複数の発光部を分離するように設けられた分離部とを有する請求項1に記載の半導体レーザ。 【請求項5】 前記活性層において発生された光に対して透明であって、前記光放出面上に設けられ、前記活性層にキャリアを与えるための電極を更に備える、請求項1に記載の半導体レーザ。 【請求項6】 前記活性層を介して前記2次元回折格子と対向するように設けられた別の2次元回折格子を更に備える、請求項1に記載の半導体レーザ。 【請求項7】 半導体レーザであって、 基板の主面上に設けられた第1導電型半導体層と、 前記基板の主面上に設けられた第2導電型半導体層と、 前記第1導電型半導体層と前記第2導電型半導体層との間に設けられ、キャリアが注入されると光を発生する活性層と、 前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定するフォトニックバンド構造を有するフォトニックバンド層と、 前記フォトニックバンド層が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層において発生された光が放出される光放出面と、 を備え、 前記フォトニックバンド層は2以上の回折格子群からなり、 前記回折格子群の各々は同一の周期を有しており、 各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、 当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記フォトニックバンド層とを含むことを特徴とする半導体レーザ。 【請求項8】 第1の基板を含み第1の表面を有する第1の部品を準備する工程と、 第1導電型半導体層、活性層、および第2導電型半導体層を第2の基板の主面上に順に堆積し、前記主面が延びる方向に沿って第2の表面を有する第2の部品を形成する工程と、 前記第1の表面および前記第2の表面の少なくともいずれか一方に、前記活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための2次元回折格子を形成する格子工程と、 格子工程の後に、前記第1の表面と前記第2の表面とが向き合うように前記第1の部品および前記第2の部品を接合して、前記活性層と前記2次元回折格子とから構成されるレーザ共振器を形成する工程と、 を備え、 前記2次元回折格子は2以上の回折格子群からなり、 各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、 前記回折格子群の各々は同一の周期を有していることを特徴とする半導体レーザの製造方法。 【請求項9】 第1の基板を含み第1の表面を有する第1の部品を準備する工程と、 第1導電型半導体層、活性層、および第2導電型半導体層を第2の基板の主面上に順に堆積し、前記主面が延びる方向に沿って第2の表面を有する第2の部品を形成する工程と、 前記第1の表面および前記第2の表面の少なくともいずれか一方に、前記活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための2次元回折格子を形成する格子工程と、 格子工程の後に、前記第1の表面と前記第2の表面とが向き合うように前記第1の部品および前記第2の部品を接合し第3の部品を形成する工程と、 前記第3の部品から前記第1の基板を第3の表面が現れるように除去し第4の部品を形成する工程と、 第3の基板を含み第4の表面を有する第5の部品を準備する工程と、 前記第3の表面および前記第4の表面のいずれか一方に、前記活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための別の2次元回折格子を形成する工程と、 前記第3の表面と前記第4の表面とが向き合うように、前記第4の部品および前記第5の部品を接合して、前記活性層、前記2次元回折格子および前記別の2次元回折格子から構成されるレーザ共振器を形成する工程と、 を備え、 前記2次元回折格子は2以上の回折格子群からなり、 各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、 前記回折格子群の各々は同一の周期を有していることを特徴とする半導体レーザの製造方法。 【請求項10】 前記格子工程は、 前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長に対応したフォトニックバンド構造を形成するように規定された2次元回折格子パターンを持つマスクを前記第1の表面および前記第2の表面の少なくともいずれか一方に形成する工程と、 前記マスクを用いてエッチングし、2次元回折格子を形成する工程と、 を有する請求項8または請求項9に記載の半導体レーザの製造方法。」 3.刊行物記載の発明 原査定の拒絶理由に引用した刊行物1:M.Imada et.al., 16th International Semiconductor Laser Conference, 4-8 October 1998, pp.211-212には、おおよそ下記の事項が記載されている。 a.「1次元分布帰還型レーザの製作工程は次のとおり;2つのウエハAとBを準備した。ウエハAは、MOVPEによって成長した無歪多重量子井戸構造(λg=1.3μm)とInGaAsPエッチストップ層を有している。ウエハBは、n-InP基板上に電子ビーム(EB)描画と反応性イオンエッチング(RIE)によって形成された、0.4μm周期の回折格子を有している。2つのウエハはバッファHF溶液で予め処理され、積み重ねられる。それから、それらは水素雰囲気中で620℃、30分加熱され、融着される。・・・図2は室温で連続発振状態でのI-L特性を示し、挿図は発振スペクトルを示す。連続発振が達成されている。閾値電流は60mA、装置は1.275μmで単一縦モードで発振した。」(211頁20?28行) b.「それから、我々は三角格子構造を有する2次元装置を製作した。2次元構造はn-InP基板(ウエハC)上にEBとRIEによって形成された。図3の挿図はRIE処理後の三角格子構造の電子顕微鏡写真を示す。エアロッドは均一に形成され、格子間隔は0.4μmであることが分かる。エアロッドの深さは約0.1μmであった。ウエハAとCは1次元装置と同様の条件で融着した。それから、図3に示すように電流注入領域(R=40μm)と表面発光領域を形成した。」(211頁30?35行)。 c.図2には、図1に示された1次元分布帰還型レーザが、電流の注入量に応じて徐々に発光し、閾値電流、60mAでレーザ発振することが見て取れる。 d.図3の記載から下記の事項が見て取れる。 「n型InP基板上に2次元空気/半導体三角格子構造の回折格子を有するn型InPクラッド層からなるウエハCと、n型InPクラッド層上に無歪多重量子井戸活性層、p型InPクラッド層を順に設け、その上面中央部に電極を設け、該電極周囲の表面が発光領域となるウエハAと、を融着してなる発光素子。」 e.図4は、室温で注入電流が30mAとした場合のデバイス上面から観察した2次元デバイスの近視野像を示す図であり、該図には、Γ-X方向には光が良く伝搬しているが、Γ-J方向にはそれ程伝搬していないことが見て取れる。 上記a?eによれば、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。」)。 「n型InP基板上に2次元空気/半導体三角格子構造の回折格子を有するn型InPクラッド層からなるウエハCと、n型InPクラッド層上に無歪多重量子井戸活性層、p型InPクラッド層を順に設け、その上面中央部に電極を設け、該電極周囲の表面が発光領域となるウエハAと、を融着してなる発光素子。」 4.対比 本願発明1と刊行物1発明とを対比する。 ア.刊行物1発明の「n型InP基板」、「n型InPクラッド層」および「p型InPクラッド層」は、それぞれ、本願発明1の「基板」、「第1導電型半導体層」および「第2導電型半導体層」に相当する。 イ.刊行物1発明の「無歪多重量子井戸活性層」が、n型InPクラッド層とp型InPクラッド層に挟まれており、キャリアが注入されると光を発生することは自明のことである。 ウ.刊行物1発明の「2次元空気/半導体三角格子構造の回折格子」が、基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層と光学的に結合されることは明らかである。 エ.刊行物1発明においては、発光素子の上表面が発光領域となっているから、刊行物1発明は、本願発明1の「前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層において発生された光が放出される光放出面」を備えるものである。 オ.刊行物1発明の「発光素子」が半導体で構成されていることは明らかである。そして、本願発明1の「半導体レーザ」は、半導体発光素子に含まれるものであるから、刊行物1発明の「発光素子」及び本願発明1の「半導体レーザ」は、「半導体発光素子」である点で一致するといえる。 よって、両者は、 「半導体発光素子であって、 基板の主面上に設けられた第1導電型半導体層と、 前記基板の主面上に設けられた第2導電型半導体層と、 前記第1導電型半導体層および前記第2導電型半導体層に挟まれ、キャリアが注入されると光を発生する活性層と、 前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられた2次元回折格子と、 前記基板の主面が延びる方向に沿って設けられ、前記活性層において発生された光が放出される光放出面と、 を備えた半導体発光素子。」である点で一致し、下記の点で相違する。 [相違点1] 本願発明1は、半導体発光素子が「半導体レーザ」であり、「活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定する2次元回折格子」を備え、「前記2次元回折格子は、2以上の回折格子群からなり、前記回折格子群の各々は、同一の周期を有しており、各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記2次元回折格子とを含む」のに対して、刊行物1発明は、この点を明確に有するものではない点。 4.判断 上記相違点1につき検討する。 イ.本願発明1の「2次元回折格子」について、本願明細書には下記の記載がある。 「【0038】図2は、2次元回折格子として、格子間隔がaである3角格子を描いた図面である。3角格子は、一辺の長さがaである正三角形によって埋め尽くされている。図2において、任意に選択された格子点Aに着目し、格子点Aから格子点Bに向かう方向をX-Γ方向と呼び、また格子点Aから格子点Cへ向かう方向をX-J方向と呼ぶ。本実施の形態では、活性層において発生される光の波長がX-Γ方向に関する格子周期に対応している場合について説明する。 【0039】2次元回折格子24は、以下に説明する3個の1次元回折格子群L、M、Nを含むと考えることができる。1次元回折格子群Lは、Y軸方向に向けて設けられた1次元格子L1、L2、L3等から成る。1次元回折格子群Mは、X軸方向に対して120度の角度を方向に向けて設けられた1次元格子M1、M2、M3等から成る。1次元回折格子群Nは、X軸方向に対して60度の方向に向けて設けられた1次元格子N1、N2、N3等から成る。3格子群は、任意の格子点を中心に120度の角度で回転すると重なりあう。各格子群において、1次元格子間の間隔はdであり、1次元格子内の間隔はaである。」 上記記載によれば、本願発明1の「2次元回折格子」には、三角格子が含まれており、それゆえ、刊行物1発明の「2次元回折格子」も本願発明1の「2次元回折格子は、2以上の回折格子群からなり、前記回折格子群の各々は、同一の周期を有しており、各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており」なる構成を有するものといえる。 ロ.そこで、刊行物1発明の「2次元回折格子」が、「活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定する2次元回折格子」であるか、さらに、刊行物1発明の「2次元回折格子」と「活性層」とが、本願発明1の「当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記2次元回折格子とを含む」の如く、両者で共振器を形成するものであるか、について判断するに際し、本願発明1の「2次元回折格子」の技術的意義について検討する。 ハ.本願明細書の発明の詳細な説明には、2次元回折格子の機能について、次の記載がある。 「【0007】本発明の半導体レーザは、第1導電型半導体層と、第2導電型半導体層と、活性層と、2次元回折格子と、光放出面とを備える。・・・ 【0008】第1導電型半導体層および第2導電型半導体層は、基板の主面上に設けられている。活性層は、キャリアが注入されると光を発生するように設けられ、第1導電型半導体層および第2導電型半導体層に挟まれている。2次元回折格子は、活性層において発生されるべき光の波長を規定するように設けられ、基板の主面が延びる方向に沿って延びている。 【0030】第1の閉じ込め層12上には、2次元回折格子24が設けられている。2次元回折格子24は、第1の閉じ込め層12の一表面に複数の凹部24aが3角格子を形成するように設けられている。各凹部24aは、柱状(例えば、円柱形状)の空間部として設けられている。各凹部24aの中心と、これと最も近い隣接の6個の凹部24aの中心との距離は等しい値であり、本実施の形態では、凹部の中心の間隔は0.426ミクロンメートル、凹部の深さは0.1ミクロンメートルにとられた。適用できる格子としては、他に正方格子がある。 【0033】2次元回折格子24は、第1の方向と、この方向と所定の角度をなす第2の方向とに対して、等しい周期(格子定数に対応する値)を有する回折格子である。2次元回折格子24には、上記の2方向およびそれらの方向の周期に関して様々な選択が可能である。これについては、後ほど説明する。 【0034】 活性層16において発生された光が2次元回折格子24に到達すると、2次元回折格子24が有する所定の周期にこの光の波長が一致する場合には、その周期に対応する波長において光の位相条件が規定される。2次元回折格子24によって位相が規定された光は、活性層16に伝搬し、活性層16において誘導放出を促す。誘導放出された光は、2次元回折格子24において規定される光の波長および位相条件を満足する。この光は再び2次元回折格子24へ伝搬する。このようにして、波長及び位相条件の揃った光が発生され増幅されていく。 【0042】以上、説明したように、格子点Aから格子点Bに進む光は、複数回の回折を経て、最初の格子点Aに到達する。このため、半導体発光デバイス1は、従来の半導体レーザのように2つの光反射面から成る光共振器を備えていないけれども、ある方向に進む光が複数回の回折を介して元の格子点の位置の戻るということは、2次元回折格子24が光共振器、つまり波長選択器および反射器、として作用することを示している。 【0043】さらに、2次元回折格子24では、上記の説明が任意の格子点Aにおいて行われたことを考慮すると、上記のような光の回折は、2次元的に配置されたすべての格子点において生じ得る。このため、各X-Γ方向に伝搬する光が、ブラッグ回折によって2次元的に相互に結合していると考えられる。2次元回折格子24では、この2次元的結合によって3つのX-Γ方向が結合しあってコヒーレントな状態が形成されると考えられる。 【0051】以上、説明したように、格子点Wから格子点Pに進む光は、複数回の回折を経て、最初の格子点Wに到達する。このため、半導体発光デバイス1は従来の半導体レーザのように2つの光反射面から成る光共振器を備えていないけれども、ある方向に進む光が複数回の回折を介して元の格子点の位置の戻ることは、2次元回折格子25が光共振器、つまり波長選択器および反射器、として作用することを示している。この反射器によって位相整合が達成される。 【0090】【発明の効果】 本発明の半導体レーザによれば、2次元回折格子が、活性層において発生されるべき光の波長を規定するように設けられている。このため、活性層において発生された光は、2次元回折格子によって2次元的に結合され光放出面から放出される。したがって、面発光が可能な半導体レーザが提供された。」 ニ.上記記載によれば、本願発明1の2次元回折格子は、活性層で発生した光を2次元平面で回折させ、これにより、特定方向に伝搬する光が2次元的に結合してコヒーレントな(位相の揃った)レーザ光の発振を可能とするレーザ共振器として機能するものであり、これによってレーザ光の波長が規定されるものであることが分かる。 以上のとおり、本願発明1の「半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定する2次元回折格子」とは、光を2次元的に結合させてコヒーレントなレーザ光の発振を可能とするレーザ共振器として機能するものであり、これにより発振するレーザ光の波長が規定されるものと認められる。 ホ.そして刊行物1発明には、上記a?eを検討しても、その2次元回折格子が光を2次元的に結合させてコヒーレントなレーザ光の発振を可能とするレーザ共振器として機能する点は見いだせず、それゆえ、上記a,c,eに記載された1次元分布帰還型レーザが電流の注入量に応じて徐々に発光し、閾値電流、60mAでレーザ発振するものだとしても、同様に刊行物1発明が電流注入量を増加していったところでレーザ発振するといえないことは明らかである。 ヘ.また、原査定の時に周知例として引用した実願昭56-14939号(実開昭57-130455号)のマイクロフィルムには、2次元回折格子を設けた面発光型の半導体レーザが開示されているが、このものは、 「以下に本考案を実施例により詳細に説明する。第1図は本考案の実施の一例を示す概略説明図であり、同図を用いて本考案の原理を説明する。第1図(a)に示すように、半導体基板1上に活性層を含む導波路2、その上に半導体層3を設け、この導波路2の表面に周期性のある凹凸を第1図(b)に示すように、x方向およびy方向につくりつけたものである。この凹凸の周期は前記活性層内のレーザ発振半波長の整数倍近傍とする。4、5は電極である。この素子に電流を流すか、光で励起すると、x方向、y方向の両方の回折格子による分布帰還が生じてξ方向、η方向のレーザ発振が生じる。ところが、x方向とy方向の各々の回折格子単独の分布帰還も生じるので、ξ方向とη方向のレーザ光が結合し、回折格子のある面全体が同一位相で発振する。」(2頁下から2行?3頁14行) と記載されているように、x方向の1次元回折格子と、y方向の1元回折格子による分布帰還に関するものであり、これによる実際のレーザ発振の観測データの記載もなく、本願発明1のように2次元回折格子自体が一つのレーザ共振器として機能することを裏付けるものではない。 そして、本願発明1によってもたらされる効果は、刊行物1発明から予測し得えない格別のものである。 したがって、刊行物1には、上記相違点1に係る「半導体レーザ」であること、「活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定する2次元回折格子」を有すること、及び「当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記2次元回折格子とを含む」こと、が開示されてなく、しかも、それらの事項が刊行物1に記載された事項から容易に想到し得たことともいえないから、本願発明1は当業者が容易に発明し得たものではない。 5.本願発明2?10について 1)本願発明2?6は、本願発明1を引用し、これに従属する発明であるから、上記4に述べたのと同様に当業者が容易に発明し得たものではない。 2)本願発明7は、本願発明1の「2次元回折格子」を、単に「フォトニックバンド構造を有するフォトニックバンド層」に置き換えたものに相当し、それゆえ、刊行物1発明とは以下の点で相違する。 [相違点2] 本願発明1は、半導体発光素子が「半導体レーザ」であり、「活性層と光学的に結合され、当該半導体レーザによって発生されるべきレーザ光の波長を規定するフォトニックバンド構造を有するフォトニックバンド層」を備え、「前記フォトニックバンド層は、2以上の回折格子群からなり、前記回折格子群の各々は、同一の周期を有しており、各回折格子群は、それぞれ異なる方向に伸びており、当該半導体レーザのレーザ共振器は、前記活性層と前記フォトニックバンド層とを含む」のに対して、刊行物1発明は、これらの点を明確に有するものではない点。 そして、「フォトニックバンド構造を有するフォトニックバンド層」は「2次元回折格子」と実質的に同じものであるから、本願発明7は、上記4に述べたのと同様に当業者が容易に発明し得たものではない。 3)本願発明8,9は、半導体レーザの製造方法に関し、また、本願発明10は、本願発明8,9を引用し、これに従属する発明であるところ、本願発明8は、刊行物1発明とは以下の点で相違する。 [相違点3] 本願発明8は、半導体発光素子が「半導体レーザ」であり、「活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための2次元回折格子」及び「前記活性層と前記2次元回折格子とから構成されるレーザ共振器」を備えるのに対して、刊行物1発明は、これらの点を明確に有するものではない点。 そして、かかる相違点3は、実質的に相違点1と同じであるから、本願発明8は、上記4に述べたのと同様に当業者が容易に発明し得たものではない。 また、本願発明9についても、刊行物1発明とは以下の点で相違する。 [相違点4] 本願発明9は、半導体発光素子が「半導体レーザ」であり、「活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための2次元回折格子」及び「活性層に光を帰還して前記活性層において発生されるべきレーザ光の波長を規定するための別の2次元回折格子」を備え、「前記活性層、前記2次元回折格子および前記別の2次元回折格子から構成されるレーザ共振器」を有するのに対して、刊行物1発明は、これらの点を明確に有するものではない点。 そして、かかる相違点4は、上記相違点3にさらなる限定を付加したものに相当するから、少なくとも上記本願発明8と同様に当業者が容易に発明し得たものではない。 さらに、本願発明10は、本願発明8,9を引用し、これに従属する発明であるから、本願発明8,9と同様に当業者が容易に発明し得たものではない。 6.むすび 以上のとおり、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-08-04 |
結審通知日 | 2006-08-08 |
審決日 | 2006-08-22 |
出願番号 | 特願平11-141793 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01S)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 日夏 貴史 |
特許庁審判長 |
向後 晋一 |
特許庁審判官 |
吉田 禎治 稲積 義登 |
発明の名称 | 半導体レーザ、および半導体レーザの製造方法 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 塩田 辰也 |
代理人 | 柴田 昌聰 |
代理人 | 近藤 伊知良 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 寺崎 史朗 |
代理人 | 柴田 昌聰 |
代理人 | 塩田 辰也 |
代理人 | 近藤 伊知良 |