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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1158649 |
審判番号 | 不服2005-8658 |
総通号数 | 91 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-07-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-05-10 |
確定日 | 2007-06-07 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第285883号「転がり軸受用保持器」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 7月30日出願公開、特開平 8-193623〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯の概要 本願は、平成6年10月25日の出願であって、平成17年4月1日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年5月10日(受付日)に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年5月20日(受付日)付けで手続補正がなされたものである。 2.平成17年5月20日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年5月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の請求項1に係る発明 本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、 「【請求項1】潤滑油と接触する転がり軸受用保持器であって、 ポリフェニルサルホン樹脂を母材とし、強化繊維10?35重量%を含有させてなることを特徴とする転がり軸受用保持器。」 と補正された。(なお、下線部は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。) 上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、軸受用保持器について「潤滑油と接触する転がり軸受用保持器であって、」との限定を付加したものであって、上記補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用刊行物の記載事項 〈刊行物1〉 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-134413号公報(以下、「刊行物1」という。)には、転がり軸受の保持器に関して、下記の事項ア?ウが図面とともに記載されている。 ア;「従来の技術および発明の課題 玉軸受などの転がり軸受の保持器として、ガラス繊維を添加したナイロン66(ガラス繊維強化ナイロン66)などの合成樹脂材料が広く用いられている。 ところが、上記ナイロン66製保持器を自動車などのトランスミッション用軸受に使用する場合、次のような問題がある。すなわち、自動車のトランスミッションオイルにはギアなどの焼付きを防止するために通常PやSを成分中に含む極圧添加剤が添加されており、140?160℃の高温油中ではこれら極圧添加剤によってナイロン66は劣化をきたす。 上記のようなナイロン66製保持器の欠点を解消するため、ナイロン66より高温特性に優れたナイロン46の使用が考えられているが、ナイロン46は成形条件や金型寸法などにより射出成形品に配向による不具合が生じて、保持器に用いた場合、強度のばらつきが生じる。したがって、物性値ほどの効果は得られない。また、ナイロン46は吸水性が高く、したがって、吸水による寸法変化はナイロン66より大きく、吸湿後の保持器の寸法には注意を要する。 この発明の目的は、上記の問題を解決し、強度、高温特性および寸法特性がともに優れた転がり軸受の保持器を提供することにある。」(第1頁左下欄14行?右下欄19行) イ;「課題を解決するための手段 この発明による転がり軸受の保持器は、50?70重量%のナイロン46、2?20重量%のエラストマおよび25?35重量%の強化繊維よりなることを特徴とするものである。 エラストマとしては、たとえばエチレンプロピレンゴム(EPゴム)などが用いられる。強化繊維としては、たとえばガラス繊維、炭素繊維などが用いられる。」(第1頁右下欄20行?第2頁左上欄8行) ウ;「発明の作用および効果 ナイロン46を母材とするものであるから、ナイロン66に比べ極圧添加剤を含む高温油中での耐性が優れている。 エラストマが含まれているため、ナイロン46の溶融粘度が高くなり、成形時に強化繊維の分散が効果的に行なわれるとともに、強化繊維量を下げることなく柔軟性および靱性を与えることができるので成形性が安定し、したがって、保持器の強度のばらつきが防げる。さらに、衝撃に対する強度も高くなり、吸水による寸法変化も小さい。エラストマが2%未満では、相対的にナイロン46の割合が大きいため、エラストマの効果は現れ難く、ナイロン46の欠点である吸水率が高くなり、保持器寸法が安定しない。エラストマが20%を越えると、ナイロン46本来の特性の発現度が少なくなり、強度の低下が大きく、また、溶融粘度が高くなるので、射出成形による成形が困難になる。 強化繊維が含まれているので、機械的強度が高く、熱による変形も少なく、また、吸水による寸法変化も小さい。強化繊維が25%未満では、十分な強度が得難く、また、寸法安定性も悪くなる。強化繊維が35%を越えると、成形時の離型が困難であり、保持器としても硬くなりすぎるため、好ましくない。 このように、この発明によれば、強度、高温保持および寸法特性がともに優れた保持器が得られる。」(第2頁左上欄9行?右上欄17行) 〈刊行物2〉 同じく引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭58-160353号公報(以下、「刊行物2」という。)には、耐摩耗、潤滑特性のすぐれた無給油軸受を与える樹脂組成物に関して、下記の事項エ?キが記載されている。 エ;「芳香族ポリスルホンは、すぐれた耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐熱水性などの特性を有するため、電気電子分野、機械分野、自動車分野、航空機分野、医療食品工業分野などの数々の用途に使用されている。また芳香族ポリスルホンにフルオロカーボン重合体、好ましくはポリテトラフルオロエチレンを含有してなる組成物は上記特性に加えて、自己潤滑特性が付与されるため、上記分野で摺動を伴なう種々の用途に使用されている。」(第1頁左下欄16行?右下欄5行) オ;「すなわち、芳香族ポリスルホン95?30重量%、フルオロカーボン重合体2.5?60重量%およびオキシベンゾイルポリエステル2.5?60重量%の組成物にすることにより、上記問題点を解決できることがわかり本発明に至ったのである。 本発明に使用し得る芳香族ポリスルホンは、下記の構造の反復単位より成りたっている。 -Ar-SO2- ここでArは2個の芳香族基であって重合体鎖中のある単位と別の単位が異なる(異種の共重合体を形成している)こともある。一般に熱可塑性芳香族ポリスルホンは少なくとも下記の構造単位を有する。 [・・・ 化学式省略 ・・・] ここにYは酸素もしくは硫黄または芳香族ジオール、例えば4,4’-ビスフェノールの残基である。かかる重合体のうちで市販されているものは一般には、次の構造の反復単位を有する(ICI社製)。 [・・・ 化学式省略 ・・・] 他の例は[・・・ 化学式省略 ・・・] なる構造の反復単位(ユニオンカーバイト社製 または [・・・ 化学式省略 ・・・]と[・・・ 化学式省略 ・・・] との構造を種々の比で共重合した単位(3M社製)を有すると称される。 かかる重合体の他の群は、下記構造の反復単位を有する。 [・・・ 化学式省略 ・・・] ここに、Yは酸素または硫黄であり、この反復単位は前記の別の構造の反復単位と共重合されてもよい。」(第2頁左下欄10行?第3頁左上欄下から14行) カ;「配合量としては、芳香族ポリスルホン95?30重量%、フルオロカーボン重合体2.5?60重量%、オキシベンゾイルポリエステル2.5?60重量%(フルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステルの合計量としては、全樹脂組成物の5?70重量%)配合したものが有効である。 すなわち、フルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステルの合計量が樹脂組成物の70重量%を越え、芳香族ポリスルホンの量が30重量%未満の時は、樹脂組成物の流動性が失なわれ、たとえ射出成形により成形品を得ることができても、機械的強度において非常に低くもろいものとなる。 また、フルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステルの合計量が5重量%未満の時は、十分な摺動特性が得られない。 また、フルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステルの合計量が、5?70重量%であっても、フルオロカーボンの量が2.5重量%未満であれば、潤滑性が不十分で、60重量%を越えると、分散性、相溶性が低下し、均一な組成物が得られにくい。一方、オキシベンゾイルポリエステルの量は、2.5重量%未満では、耐摩耗性において不充分で、量がふえるに従って耐摩耗性の向上は顕著となるが、60重量%を越えると、組成物の流動性の著しい低下と、得られた成形品の強度低下が顕著になる。 本発明の樹脂組成物には、更に潤滑性を向上させるために、黒鉛、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を加えることも可能である。」(第3頁左下欄7行?右下欄17行) キ;「本発明にかかる樹脂組成物はすぐれた摺動特性を有し、軸受設計の上での一つの資料となる摩耗係数が、芳香族ポリスルホンとフルオロカーボン重合体とからなる組成物のそれにくらべ、1桁以上低い値(・・略・・)を有するため、無給油軸受として好適な成形材料である。」(第4頁左上欄9行?15行) (3)対比・判断 刊行物1に記載された上記記載事項ア?ウからみて、刊行物1に記載された発明の転がり軸受の保持器は、ナイロン46を母材とし、強化繊維を25?35重量%含有させてなるものである。 そして、刊行物1に記載された発明の転がり軸受の保持器は、潤滑油と接触する転がり軸受の保持器として採用できるものであることは、当業者であれば自明の事項といい得るものである。 そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「潤滑油と接触する転がり軸受用保持器であって、合成樹脂を母材とし、強化繊維25?35重量%を含有させてなる転がり軸受用保持器。」の点で一致しており、下記の点で相違している。 相違点;本願補正発明では、保持器の母材となる合成樹脂が、ポリフェニルサルホン樹脂であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、保持器の母材となる合成樹脂がナイロン46である点。 上記相違点について検討するに、刊行物2の上記記載事項エからも理解できるように、芳香族ポリスルホン(上記記載事項オ等に鑑みれば、本願補正発明の「ポリフェニルサルホン樹脂」に相当するということができる。)は、優れた耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐熱水性などの特性を有するため、電気電子分野、機械分野、自動車分野、航空機分野、医療食品工業分野などの数々の用途に使用されていることは、当業者であれば周知の事項といい得るものである。 さらに、刊行物2には、その優れた耐熱性及び機械的特性等を有する芳香族ポリスルホンの具体的な用途として、芳香族ポリスルホンを母材としフルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステルを含有する樹脂組成物とすることにより、無給油軸受に適用できることが記載(上記記載事項オ?キ参照)されていることを考慮すれば、優れた耐熱性及び機械的特性等を有する芳香族ポリスルホンは、無給油軸受の母材としての用途に格別限定されるものではなく、ナイロン46等のポリアミド樹脂や各種のエンジニアリングプラスチック樹脂が採用されている転がり軸受用保持器の母材にも適用できることは、当業者であれば容易に理解できる程度の事項と認められるものである。 してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された事項を知り得た当業者であれば、転がり軸受用保持器の母材として刊行物1に記載されたナイロン46に代えて刊行物2に記載された芳香族ポリスルホン(ポリフェニルサルホン樹脂)を採用して、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のものであって、格別創意を要することではない。 また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のことであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 ところで、請求人は、審判請求書中で、概略「すなわち、刊行物2には、単に母材の材料が記載されているのみで、強化繊維も配合されておらず、用途やその効果も全く異なり、一方、刊行物1には、強化繊維の配合、及び、同じ用途のものが記載されているとはいえ、基本的な母材が全く異なるものであります。たとえ、当業者であっても、その用途が全く異なり、本願発明(本願補正発明)の効果も全く記載されていない刊行物2の発明の樹脂を刊行物1に記載の発明に転用することにより、本願発明の効果が得られると予測することは、到底考えられず、両発明の組み合わせには、重大な阻害事由があると言わざるを得ません。このように、当業者であっても、2つの発明を組み合わせて本願発明に想到するとは、到底思えず、本願発明は、進歩性を有するものであります。」(平成17年5月20日(受付日)付け手続補正書(方式)の【本願発明が特許されるべき理由】の(3)刊行物1と刊行物2の組み合わせた際の進歩性の項参照)旨主張している。 しかしながら、刊行物2を引用した趣旨は、芳香族ポリスルホン(ポリフェニルサルホン樹脂)が、優れた耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐熱水性などの特性を有するため、機械分野、自動車分野などの数々の用途に使用されているものであって、この芳香族ポリスルホンの有する樹脂特性を活用するために芳香族ポリスルホンを母材として他の樹脂(フルオロカーボン重合体とオキシベンゾイルポリエステル)を含有させた樹脂組成物として無給油軸受に使用することが本願出願前に当業者に知られた事項であることを例示するために引用したにすぎないものである。 そして、転がり軸受用保持器の母材となる樹脂としては、刊行物1に記載されているナイロン46やナイロン66のポリアミド樹脂に限られることなく、各種のエンジニアリングプラスチック樹脂等が採用されており、優れた耐熱性、機械的特性、電気的特性、耐熱水性などの特性を有する芳香族ポリスルホンを転がり軸受用保持器の母材として採用することを妨げる格別の事情は認めることができないものであって、当業者であれば、芳香族ポリスルホンを転がり軸受用保持器の母材に適用できることが容易に理解できる事項であることは、上記のとおりである。 よって、請求人の上記審判請求書中での主張は採用することができない。 (4)むすび 以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成17年5月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、平成16年10月1日(受付日)付けの手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】ポリフェニルサルホン樹脂を母材とし、強化繊維10?35重量%を含有させてなることを特徴とする転がり軸受用保持器。」 (2)引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平2-134413号公報(上記刊行物1)及び特開昭58-160353号公報(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項である転がり軸受用保持器について「潤滑油と接触する転がり軸受用保持器であって、」との限定を省いたものに実質的に相当する。 そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-03-28 |
結審通知日 | 2007-04-03 |
審決日 | 2007-04-16 |
出願番号 | 特願平6-285883 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 裕、大内 俊彦 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
大町 真義 町田 隆志 |
発明の名称 | 転がり軸受用保持器 |
代理人 | 安富 康男 |