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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て成立) H01M
管理番号 1158779
判定請求番号 判定2007-600004  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-07-27 
種別 判定 
判定請求日 2007-01-23 
確定日 2007-05-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第3731142号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件は、特許第3731142号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。  
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号物件の構成の説明及び図面に示す「試験用非水系電池セル」(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3731142号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

2.本件に係る特許発明
(1) 本件に係る特許発明の構成要件の分説
特許第3731142号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、本件請求書に添付された特許第3731142号公報(以下、「本件特許公報」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。なお、本件特許発明については、その構成を分説して示している(以下、「構成要件A」などという。また、構成要件の分説は、請求人及び被請求人ともに構成要件A?Fに分説したのでそれに倣った。)

A 正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部に前記電池要素の一方の極に接続し外部に導通する第一の導体を有し平面状の接合面を有する第一の容器と、
B 前記電池要素を仮押さえし前記第一の容器とゴム状の気密封止部を介して接合されてなる平面状の接合面を有する第二の容器と、
C 前記第二の容器とゴム状の気密封止部を介して接合されてなり前記電池要素を密閉する平面状の接合面を有する第三の容器とからなり、
D 前記電池要素の他の一方の極に接続し前記第二の容器または第三の容器を通って外部に導通し且つ前記第一の容器に設けられた前記第一の導体とは絶縁されてなる第二の導体を有し、
E 且つ前記電池要素と前記第二の導体との間に介在する導電性のピンとばね要素を有するとともに、
F 第一の容器側と第三の容器側とは電解液注入用の穴により連通してなることを特徴とする試験用非水系電池セル。

(2) 本件特許発明の「第一の導体」及び「第二の導体」について
構成要件Aの「第一の導体を有し平面状の接合面を有する第一の容器」における「第一の容器」とは、本件特許公報の「本発明において、第一または第二の導体は、第一乃至第三の容器が金属等の導体である場合は導体と容器とを兼ねることができる。」(段落【0005】)及び「金属製の第一の容器1」(段落【0007】1行)の記載によれば、それ自体が「第一の導体」である場合を包含していると認められる。
同様に、構成要件Dの「前記電池要素の他の一方の極に接続し前記第二の容器または第三の容器を通って外部に導通し且つ前記第一の容器に設けられた前記第一の導体とは絶縁されてなる第二の導体」における「第二の容器」及び「第三の容器」とは、本件特許公報の「本発明において、第一または第二の導体は、第一乃至第三の容器が金属等の導体である場合は導体と容器とを兼ねることができる。」(段落【0005】)及び「金属製の第二の容器8・・・金属製の第三の容器15」(段落【0007】5?10行)の記載によれば、それら自体が「第二の導体」である場合を包含していると認められる。

3.イ号物件
(1) イ号物件の構成の説明
判定請求書に添付されたイ号物件の構成の説明は、次のとおり記載されている。
「正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素2を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部が前記電池要素2の一方の極に接続するとともに、平面上の接合面を有する金属の第一の容器1と、前記第一の容器1とゴム状の気密封止部7を介して接合されてなる平面状の接合面を有する金属の第二の容器8と、前記第二の容器8とゴム状の気密封止部14を介して接合されてなり平面状の接合面を有する金属の第三の容器15とからなり、且つ前記電池要素2と前記第三の容器15との間に介在する導電性のピン11とばね要素13を有するとともに、第一の容器1側と第二の容器8側とは少孔12より連通してなることを特徴とする試験用非水系電池セル。」

(2) 被請求人のイ号物件についての主張
被請求人は、イ号物件の構成は次のとおりのものであると主張している。
「正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素2を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部が前記電池要素2の一方の極に接続するとともに、平面上の接合面を有する金属の第一の容器1と、前記第一の容器1とゴム状の気密封止部7を介して接合されてなる平面状の接合面を有する金属の第二の容器8と、前記第二の容器8とゴム状の気密封止部14を介して接合されてなり平面状の接合面を有する金属の第三の容器15とからなり、且つ前記電池要素2と前記第三の容器15との間に介在する導電性のピン11とばね要素13を有するとともに、第一の容器1と第二の容器8の間に形成される空間Aと第二の容器8と第三の容器15との間に形成される空間Bとが小孔12により連通してなることを特徴とする試験用非水系電池セル。
第二の容器8及び第三の容器15は、導電性のピン11とばね要素13を介して前記電池要素2の他の一極に接続し、前記電池要素2の他の一極をそれ自身(第二の容器8及び第三の容器15)を通って外部に導通し、且つ、前記第一の容器1からつば付き絶縁リング9及び絶縁シート16によって絶縁されている。
第一の容器1と第二の容器8の間に形成される空間Aには、絶縁リング3とばね17と部材18とが収容されている。
第三の容器15を第二の容器8に取り付けずに第二の容器8を第一の容器1に取り付けた状態において、第二の容器8は、ばね17を縮めて絶縁リング3に第一の容器1に向かう方向に力を作用させ、これにより電池要素2を第一の容器1に向かって押さえる。
部材18は、絶縁リング3の内側に挿入されて使用される。第二の容器8が第一の容器1に取り付けられ、且つ、第三の容器15が第二の容器8に取り付けられていない状態では、部材18は、その重みにより電池要素2を押さえる機能を有している。」

(3) イ号物件の構成の説明及び図面から把握される事項
イ号物件について被請求人が主張する点を参考にしつつ、イ号物件の構成の説明及び図面から把握される事項について、以下検討する。
イ号物件は、試験用非水系電池セルとしての機能を奏するためには、電池要素2が、ピン11を介して導電接続された構造である必要があるから、電池要素2とピン11の間にある、被請求人が主張する「部材18」は「導電性部材18」であり、そして、その上面側がピン11の下部先端部を受ける凹部形状となっていると認められる。
また、「第一の容器1」と「第二の容器8」は、それぞれ導体である金属から構成され、それら両者の容器は絶縁している必要があり、「第一の容器1」と「第二の容器8」との間にある「符号16のもの」は、被請求人が主張するとおり、「絶縁シート16」であると認められる。
更に、「符号17のもの」は、「ばね要素13」と同様の形態で記載されていることからして、被請求人が実質的に主張するとおり、「ばね要素17」と認められる。
そして、「第三の容器15」は、「第二の容器8」と「ゴム状の気密封止部14」を介して接合されており、しかも平面状の接合面を有し、更に、「気密封止部14」、「第二の容器8」、「気密封止部7」及び「第一の容器1」とともに「電池要素2」を密閉していると認められる。
なお、イ号物件の「構成の説明」に記載の「少孔12」は、被請求人が主張するとおりの「小孔12」の誤記と認められる。

(4) イ号物件の構成
イ号物件は、以上のことから、次のとおりの構成を具備するものと認められる。(以下、「構成A’」などという。)

A’ 正極とセパレータと負極からなる平板状の積層体の電池要素2を収容する凹部を有し且つ該凹部の底部が前記電池要素2の一方の極に接続し外部に導通するものであって、平面状の接合面を有する、導体である金属の第一の容器1と、
B’ 前記第一の容器1に取り付けた状態において、ばね要素17により絶縁リング3を前記第一の容器1の方向に付勢させ、これにより前記電池要素2を支持して押さえ、前記第一の容器1とゴム状の気密封止部7を介して接合されてなる、平面状の接合面を有する第二の容器8と、
C’ 前記第二の容器8とゴム状の気密封止部14を介して接合されてなり、ばね要素13とピン11と上面が凹部形状の導電性部材18とを介して前記電池要素2を押圧し、前記気密封止部14、前記第二の容器8、前記気密封止部7及び前記第一の容器1とともに前記電池要素2を密閉する、平面状の接合面を有する、導体である金属の第三の容器15とからなり、
D’ 前記電池要素2の他の一方の極に導電性部材18とピン11とを介して接続し、前記第二の容器8及び前記第三の容器15を通って外部に導通し、且つ前記第一の容器1とは、絶縁シート16等により絶縁されてなる、導体である金属の前記第二の容器8及び前記第三の容器15を有し、
E’ 且つ前記電池要素2と前記第三の容器15との間に介在する導電性のピン11とばね要素13とを有するとともに、
F’ 第一の容器1側と第三の容器15側とは小孔12により連通してなる試験用非水系電池セル。

4.イ号物件の構成と本件特許発明の構成要件の対比・判断
イ号物件の各構成が、本件特許発明の各構成要件を充足するか否かを各構成ごとに判断する。
(A)イ号物件の構成A’について
構成要件Aの「第一の容器」とは、上記2.(2)に示したとおり、「第一の容器」それ自体が「第一の導体」である場合を包含しているから、構成A’の「導体である金属の第一の容器1」は、構成要件Aの「第一の導体を有・・・する第一の容器」に相当しているといえる。
そして、以上のことを踏まえ、イ号物件の構成A’を本件特許発明の構成要件Aと対比すると、イ号物件の構成A’は、本件特許発明の構成要件Aを充足するといえる。
(B)イ号物件の構成B’について
構成B’の第二の容器8は、第一の容器1に取り付けた状態においた状態で、既に、電池要素2を支持して押さえているのであるから、試験用非水系電池セルが最終的に組み上がる前においても電池要素2を押さえるという構成、即ち、電池要素2を仮押さえするという構成を備えているということができる。
そして、以上のことを踏まえ、イ号物件の構成B’を本件特許発明の構成要件Bと対比すると、イ号物件の構成B’は、本件特許発明の構成要件Bを充足するといえる。
(C)イ号物件の構成C’について
構成C’の「ばね要素13とピン11と上面が凹部形状の導電性部材18とを介して・・・電池要素2を押圧し、・・・気密封止部14、・・・第二の容器8、・・・気密封止部7及び第一の容器1とともに前記電池要素2を密閉する」という構成は、構成要件Cの「電池要素を密閉する」に相当するといえる。
そして、以上のことを踏まえ、イ号物件の構成C’を本件特許発明の構成要件Cと対比すると、イ号物件の構成C’は、本件特許発明の構成要件Cを充足するといえる。
(D)イ号物件の構成D’について
構成要件Dの「第二の容器」及び「第三の容器」とは、上記2.(2)に示したとおり、それら自体が「第二の導体」である場合を包含しているから、構成D’の「導体である金属の・・・第二の容器8及び・・・第三の容器15」は、構成要件Dの「第二の導体」に相当しているといえ、また、(A)で述べたように、構成A’の「導体である金属の第一の容器1」は、構成要件Aの「第一の導体を有・・・する第一の容器」に相当しており、これを構成D’と構成要件Dとの対比でいえば、構成D’の「第一の容器1」は、構成要件Dの「第一の容器に設けられた・・・第一の導体」に相当しているといえ、結局、構成D’の「第一の容器1とは、絶縁シート16等により絶縁されてなる、導体である金属の・・・第二の容器8及び・・・第三の容器15を有し」は、構成要件Dの「第一の容器に設けられた・・・第一の導体とは絶縁されてなる第二の導体を有し、」に相当しているといえる。
そして、以上のことを踏まえ、イ号物件の構成D’を本件特許発明の構成要件Dと対比すると、イ号物件の構成D’は、本件特許発明の構成要件Dを充足するといえる。
(E)イ号物件の構成E’について
(D)で述べたように、構成D’の「導体である金属の・・・第二の容器8及び・・・第三の容器15」は、構成要件Dの「第二の導体」に相当しているといえ、これを構成E’と構成要件Eとの対比でいえば、構成E’の「第三の容器15」は、構成要件Eの「第二の導体」に相当しているといえる。
そして、以上のことを踏まえ、イ号物件の構成E’を本件特許発明の構成要件Eと対比すると、イ号物件の構成E’は、本件特許発明の構成要件Eを充足するといえる。
(F)イ号物件の構成F’について
イ号物件の構成F’と本件特許発明の構成要件Fとを対比すると、イ号物件が「小孔12」を有するものであるのに対し、本件特許発明が「電解液注入用の穴」という用途を特定された穴を有する点で相違しているといえる。以下、補足する。
本件特許発明は、「電解液注入用の穴」から注入された電解液が電池要素2に到達するために、「絶縁リング3」には、その周囲に電解液が流入するための穴が貫通している(本件特許公報3頁1?2行)など、具体的構成を有しているのに対し、イ号物件は、電解液が電池要素2に到達するための具体的構成を有しているとは認められない。
また、イ号物件は、導電性部材18の上面部分がピン11の下部先端部を受けるために凹部形状となっており、第二の容器8を第一の容器1に組み付け、電池要素2を押さえた状態で「小孔12」から電解液を注入しようとすると、導電性部材18の上面部分の凹部に電解液が溜まることになるなど不具合が生じることになることから、第一の容器1に電池要素2を収容した後であって、導電性部材18及び第二の容器8を第一の容器1に組み付ける前に、電解液を供給するのが自然であるといえる。
以上のことから、「小孔12」は「電解液注入用」の穴であるということはできないから、イ号物件の構成F’は、本件特許発明の構成要件Fを充足しない。
これに対し、被請求人は、判定請求答弁書(17頁20?22行)において、「本件特許発明は、物の発明であるから・・・各発明特定事項は、構成を特定するものであると解釈しなくてはならない。従って、発明特定事項が用途で特定されていても、実際にその用途に使用されることは要求されない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明は、上記2.(1)で述べたとおりのものであって、被請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張で、採用の限りではない。

5.むすび
したがって、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2007-05-21 
出願番号 特願平8-143384
審決分類 P 1 2・ 0- ZA (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高木 正博  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 高木 康晴
吉水 純子
登録日 2005-10-21 
登録番号 特許第3731142号(P3731142)
発明の名称 試験用非水系電池セル  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 伸一  
代理人 加藤 恭介  
代理人 中尾 圭策  
代理人 吉岡 誠  
代理人 工藤 実  

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