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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E02D
管理番号 1158782
判定請求番号 判定2007-600012  
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1999-10-12 
種別 判定 
判定請求日 2007-02-15 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2893527号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「水中捨石均し工法」は、特許第2893527号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は,イ号図面ならびに説明書に示す「水中捨石均し工法」(以下,「イ号工法」という。)が特許第2893527号発明(以下、「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めたものである。

2.本件発明
本件特許第2893527号は,平成10年3月27日の出願に係り,平成11年3月5日に設定登録されたものであって,本件発明は,その特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】計画天端高さより高い所要の余盛り高さにした水中捨石基礎を形成し、その水中捨石基礎の長手方向に順次区画される複数の作業区域の各境界部分に、上記水中捨石基礎の幅員方向に走行する調整溝を形成し、クレーン船のクレーンブームを、複数の作業区域の各々において、水中捨石基礎の幅員方向に延長支持し、そのブーム先端を旋回範囲の中央から左右方向、すなわち、水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って移動しながら、クレーンブームに吊下した重錘の自由落下を各部位で反復実施することにより輾圧作業を行い、計画天端高さまで圧密均しするとともに、なお残る余分な捨石を、当該作業区域の境界部分に形成されている調整溝に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘により輾圧することを特徴とする重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。」(以下,「本件発明1」という。)
「【請求項2】調整溝を、小型のオレンジバケット等で捨石を除去することにより、V形またはU形に掘削形成することを特徴とする請求項1記載の重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。」(以下,「本件発明2」という。)
そして,本件発明1は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。
A 計画天端高さより高い所要の余盛り高さにした水中捨石基礎を形成し、
B その水中捨石基礎の長手方向に順次区画される複数の作業区域の各境界部分に、上記水中捨石基礎の幅員方向に走行する調整溝を形成し、
C クレーン船のクレーンブームを、複数の作業区域の各々において、水中捨石基礎の幅員方向に延長支持し、そのブーム先端を旋回範囲の中央から左右方向、すなわち、水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って移動しながら、クレーンブームに吊下した重錘の自由落下を各部位で反復実施することにより輾圧作業を行い、計画天端高さまで圧密均しするとともに、
D なお残る余分な捨石を、当該作業区域の境界部分に形成されている調整溝に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘により輾圧することを特徴とする
E 重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。
(以下,上記A?Dを構成要件A?Dという。)

3.イ号工法
請求人は,イ号工法を「計画天端高さ(H)より高い所要の余盛り高さにした水中捨石基礎(捨石基礎20)に対して、作業船のクレーンブームに吊下した重錘(錘本体6)の自由落下を水中捨石基礎(捨石基礎20)の中央部から縁部へ向けて直線的に反復実施することによる輾圧作業を行って、該水中捨石基礎(捨石基礎20)を計画天端高さ(H)まで圧密均し、輾圧作業により皺寄せられた捨石(4)を水中捨石基礎(捨石基礎20)の縁部から法面へと排除することを特徴とする水中捨石均し工法。」と特定している(請求書3頁29行?同書4頁6行)が,請求人が判定請求書に添付した「イ号図面ならびに説明書」との対応が,例えば,所定幅Wについて,十分説明されていない。
そこで,イ号工法については,被請求人の認定(答弁書6頁18行?7頁6行)を採用することとし,イ号工法を次のように特定する。

a 捨石投入工程において,指示棒22,22を目印に,所定幅Wの内側に捨石4を投入し,所定高さ(計画天端高さ)Hよりもh1ほど高い余盛り高さにした捨石基礎20を形成し(図4),
b その捨石投入工程で,上端の縁部の捨石4を自然落下させて,該縁部の間隔w1を所定幅Wよりも狭くし,すなわち間隔w1と所定幅Wとの間に所要の空処を形成し,かつ,荒均し工程で,捨石基礎20の上端の縁部の捨石4を排除することにより間隔w3を所定幅Wよりもさらに狭くし,すなわち上記空処の幅を狭く調整し(図4,図5),
c 本均し工程において,指示棒22,22で示される領域の内側,すなわち所定幅Wの範囲内で,クレーンブームのワイヤー18に吊下した錘本体6の自由落下を,捨石基礎20の中央部から縁部へ向けて直線的に反復実施することによる輾圧作業を行って該捨石基礎20を計画天端高さHまで圧密し,
d そのときに皺寄せられる捨石4を幅を狭く調整した上記空処に堆積させ,かつ,その部分に対する上記輾圧により,余分な捨石4を捨石基礎20の縁部から法面へと排除する(図6,図7)
e 水中捨石均し工法。
(以下,上記a?eを構成a?eという。)

4.当事者の主張
(1)請求人
請求人は,イ号工法と本件発明1と比較すると,イ号工法は,次の(1)?
(4)を行っていない点で相違し,本件発明のような効果を奏しないから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない旨,主張する。
(1)水中捨石基礎の長手方向に複数の作業区域を順次区画している。
(2)複数の作業区域の各境界部分に、上記水中捨石基礎の幅員方向に走行する調整溝を形成している。
(3)水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って移動しながら、クレーンブームに吊下した重錘の自由落下を各部位で反復実施することにより輾圧作業を行っている。
(4)余分な捨石を、当該作業区域の境界部分に形成されている調整溝に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘により輾圧している。
(判定請求書の4頁7行?末行「(5)本件特許発明とイ号発明との技術的対比」及び「(6)イ号が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの説明」の項参照)。

(2)被請求人
被請求人は,概ね,次のように主張する。
(イ)「請求理由(4)」のイ号発明と,「イ号図面ならびに説明書」のイ号発明とが整合しない。このため,イ号発明が特定されていない。また,イ号発明は,本件特許発明1,2の構成ア)?カ)と対応させることができる程度に特定されていない。したがって,イ号発明については,上記各点に関する補正が適正になされない限り,対比が不可能であるから,「本判定の請求を却下する」との判定を賜りたい。(答弁書5頁22行?6頁11行)
(ロ)「(2) 相違点
1)本件特許発明1の上記構成イ)の調整液は,水中捨石基礎の長手方向に順次区画される複数の作業区域の各境界部分に,該水中捨石基礎の幅員方向に走行するように形成されるのに対し,イ号工法の上記構成b)の所要の空処は,間隔 wl(w3)と所定幅Wとの間に捨石基礎 20 の上端の縁部に沿って形成されることにおいて,両者一応相違する。
2)本件特許発明1の上記構成ウ)の醸圧作業は,重錘の自由落下を水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って行うことになるのに対し,イ号工法の上記構成c)の賑圧作業は,錘本体6の自由落下を捨石基礎 20 の中央部から縁部へ向けて直線的に反復実施することにより行うことにおいて,両者一応相違する。」(答弁書8頁2?12行)
(ハ)「相違点1)は,本件特許発明1の調整溝とイ号工法の空処とに係るものであるが,これらの調整溝および空処は,輾圧作業により捨石を皺寄せ堆積させるものであることにおいて共通し,しかも,イ号工法において,その空処に皺寄せ堆積した捨石を錘本体6により輾圧していることが,図6に実線で描かれている錘本体6の位置からして明らかであるが,このことは,本件特許発明1において調整溝に皺寄せ堆積した捨石を重錘により輾圧しているのと同じで,これらの間に,技術的な相違はない。すなわち,本件特許発明1の調整溝とイ号工法の空処とは,重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法において同じ目的に供され,作用効果上も格別差異をもたらすものではない。したがって,イ号工法において空処を捨石基礎20の上端の縁部(捨石基礎20の上面と法面との交差部)に沿って形成していることは,当業者が必要に応じ適宜採用する程度のこと,すなわち,本件特許発明1における調整溝を作業区域の各境界部分に形成することの単純な設計変更にすぎない。」(答弁書8頁15?27行)
(ニ)「相違点2)は,重錘(錘本体6)の移動(運行)を水中捨石基礎(捨石基礎20)の長手方向の円弧線に沿って行うか,中央部から縁部へ向けて直線的に行うかに係るものであるが,両者とも,余盛りした水中捨石基礎(捨石基礎20)を圧密しつつ,そのとき皺寄せされる捨石を上記調整溝または空処に堆積させるものである以上,重錘(錘本体6)の移動(運行)をその調整溝または空処が位置する方向,すなわち,本件特許発明1では上記長手方向に,また,イ号工法では上記中央部から縁部へ向けて,それぞれ行わざるを得ないことは理の当然であり,その場合に,両者間に技術的な相違も,作用効果上の差異も存在しないことは自明である。」(答弁書8頁28行?9頁7行)
(ホ)「一方,請求の理由(5)(6)の記載,特に請求の理由(5)の「イ号発明では、上記(1)?(4)を行っていない。そのため、本件特許発明では、上記した特有の効果を奏するのに対して、本件特許発明(「イ号工法」の誤記…当審注)では、上記本件特許発明のような効果は奏しない。」との単純な記載,および,請求の理由(6)の「本件特許発明とイ号発明とは明らかな相違点があり、またイ号工法発明は本件特許発明が奏する特有の効果を奏し得ない。」との形式的な記載だけで,これらが,請求の趣旨の「イ号図面ならびに説明書に示す水中捨石均し工法(以下、「イ号発明」という。)は、特許第2893527号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない」とすることに対する説得力のある合理的根拠をなしているとは到底認められない。」(答弁書10頁23行?11頁4行)

5.当審の判断
先ず,上記請求人の主張における構成(1)?(4)についてみれば,構成(1)と構成(2)は構成要件Bに含まれ,構成(3)は構成要件Cに含まれ,構成(4)は構成要件Dに含まれていることから,請求人は,構成要件Aと構成要件Eについては充足することについて争っていないといえる。
そこで,以下,構成要件B?Cについて検討する。

(1)構成bが構成要件Bを充足するか否かについて
・構成要件Bについて
先ず,構成要件Bの技術的意義につき,本件特許明細書(甲第1号証)を参酌すると,次のような「従来の問題点」,「目的」,「解決手段」及び「効果」について次の記載がある。
(イ)従来の問題点:
「【0004】…各作業区域f1 ,f2 内に堆積している各捨石は、重錘eの輾圧作用により下方および放射方向に向かって圧密されていくものであるが、計画天端高さまで圧密均ししてもなお残る余分な捨石は、クレーンブームbの旋回方向に皺寄せ移動させられ、上記においては両作業区域f1 ,f2 の境界部分において筋状に競り上がってしまう。…」,
(ロ)目的:
「【0006】本発明は、このような捨石の競り上がりそのものが発生することのないようにして、圧密均しを効率よく、経済的に行うことができ、かつ、これによって高品質の水中捨石基礎を仕上げることができる重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法を提供しようとするものである。」,
(ハ)解決手段:
「【0007】…計画天端高さまで圧密均しするとともに、なお残る余分な捨石を、当該作業区域f0 ,f1 ,f2 …の境界部分に形成されている調整溝B1 ,B2 …に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘eにより輾圧するものである。」,
(ニ)効果:
「【0016】…水中捨石基礎を、計画天端高さまで圧密均しするとともに、なお残る余分な捨石を、当該作業区域の境界部分に形成されている調整溝に皺寄せ堆積し、それを重錘により輾圧することにより、従来のように、過分な余盛り捨石の筋状競り上がりの発生をなくして、効率よく、かつ、経済的に高品質の水中捨石基礎を仕上げることができる。」。

上記本件特許明細書の記載内容からすると,構成要件Bである「その水中捨石基礎の長手方向に順次区画される複数の作業区域の各境界部分に、上記水中捨石基礎の幅員方向に走行する調整溝を形成」するという工程を採用することにより,「余盛り捨石の筋状競り上がりの発生をなくして、効率よく、かつ、経済的に高品質の水中捨石基礎を仕上げる」ことができるものとし点に技術的特徴を有するものと認められる。
そして,本件発明1の構成要件Bにおける「調整溝」は,「クレーン船のクレーンブームを、複数の作業区域の各々において、水中捨石基礎の幅員方向に延長支持し、そのブーム先端を旋回範囲の中央から左右方向、すなわち、水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って移動しながら、クレーンブームに吊下した重錘の自由落下を各部位で反復実施することにより輾圧作業を行い、計画天端高さまで圧密均しする」ことを前提として,「水中捨石基礎の幅員方向に走行する」,すなわち,水中捨石基礎の幅員方向に走る(通ずる)ことに,その技術的意義を有するものであることは明らかである。
そもそも,本件発明1の「水中捨石基礎」は,本件特許明細書(甲第1号証)の【0002】に「・・・防波堤や岸壁等の築造に際し・・・・」と記載されているように,防波堤や岸壁等の基礎となるものであって,「幅員方向」よりも「長手方向」が,かなり長い平面形状をしたものであると解釈することができる。そして,その図3は側面図であるから,その左右方向(矢印c)は「幅員方向」であるといえる。
ところで,本件発明1の同「調整溝」は,構成要件Bの「上記水中捨石基礎の幅員方向に走行する調整溝を形成し」と特定されていることからみて,前述したように,水中捨石基礎の幅員方向に走る(通ずる)もの,すなわち,本件特許明細書の図3において左右方向に走るものである。そうすると,同図3に示されている左右の傾斜面は,「捨石基礎20」の長手方向に延びる左右の法面であって,水中捨石基礎の幅員方向に走る「調整溝」を形成する面ではないということができる。
また,本件発明1の同「調整溝」は,「その水中捨石基礎の長手方向に順次区画される複数の作業区域の各境界部分に、・・・・・調整溝を形成し」と特定されていることからみて,「調整溝」の両側には,「水中捨石基礎」の作業区域が存在する,すなわち,「調整溝」の断面は,「水中捨石基礎」の面からなる2側面から構成され底部が閉じているものであるといえる。

・構成bについて
一方,イ号工法においては,その「捨石基礎20」がどのようなものの基礎となるのか,あるいは,その平面形状が特定されていないものの,「イ号図面ならびに説明書」の2頁11?15行には「この水中捨石均し工法は、水中3に多量の捨石4で所定幅W、所定高さH、所定長さの略台形状の基礎19(図8参照。)を形成するための工法であり,水中3に捨石4を略台形状に投入して所定高さHよりも高い捨石基礎20(図4参照。)を形成し、この捨石基礎20の上端面を水中捨石均し装置1を用いて均等に押圧することで所定高さHの基礎19を形成するものである。」との記載がある。そうすると,「捨石基礎20」および「基礎19」は,本件発明1の「水中捨石基礎」と同様に,かなり長い平面形状をしたものであり,イ号図面の図4?図8も,これらの側面図であり,本件明細書の図3に対応するといえる。そして,イ号図面の図4?図8における左右方向が,本件発明1の「幅員方向」に相当するといえる。
そして,イ号工法の構成bの「所要の空処」は,「捨石投入工程で,上端の縁部の捨石4を自然落下させて,該縁部の間隔w1を所定幅Wよりも狭くし,すなわち間隔w1と所定幅Wとの間に形成し」と特定されているに止まり,該特定事項からその形状が必ずしも明確であるとはいえず,また,「捨石基礎20」あるいは「基礎19」が長手方向に順次区画される複数の作業区域を設定されるのかどうかも,明らかでないところ,被請求人も認めているように,イ号工法では,該空処を「捨石基礎20」の上端の縁部(「捨石基礎20」の上面と法面との交差部)に沿って形成しているのであるから,少なくとも,該空処が複数の作業区域の各境界部分に形成されたものではないことはイ号図面の図4?図8からも明らかであり,また,2側面から構成され,底部が閉じているものではない。

・対比
上記したとおり,イ号図面の図4?図8に示されている左右の傾斜面は,「捨石基礎20」あるいは「基礎19」の長手方向に延びる左右の側面(法面)であるから,本件発明1の「調整溝」に相当するものを形成する面ではない。
そうすると,イ号工法の「所要の空処」は,「捨石基礎20」あるいは「基礎19」の左右方向,すなわち,幅員方向に走るものでなく,むしろ,左右の側面に沿って長手方向に走るものであるといえるから,構成bの「所要の空処」は,本件発明1の「調整溝」に相当するものとはいえない。
また,上記したとおり,本件発明1の「調整溝」の断面は,「水中捨石基礎」の面からなる2側面から構成され,底部が閉じているものであるが,一方,イ号工法の「所要の空処」の断面は,その形状が不明確であるものの,すくなくとも,2側面から構成され,底部が閉じているとは,到底いえないのであるから,イ号工法の「所要の空処」は,本件発明1の「調整溝」に相当するものとはいえない。
したがって,構成bは,構成要件Bを充足するということできない。

(2)構成cが構成要件Cを充足するか否かについて
・構成要件Cについて
重錘により輾圧する際の「クレーンブーム」の移動方向に注目すると,構成要件Cの「そのブーム先端を旋回範囲の中央から左右方向、すなわち、水中捨石基礎の長手方向に円弧線に沿って移動しながら」の特定からみて,「クレーンブーム」は,水中捨石基礎の長手方向に略直線的に移動するといえる。すなわち,図3においては,左右方向(矢印c方向)に移動するのではなく,それとは直交する方向(紙面に対して垂直の方向)に移動するものである。
その結果,重錘により輾圧による「余分な捨石」の移動(皺寄せ)方向も,「クレーンブーム」の移動方向と同じ水中捨石基礎の長手方向であり,図3においては,左右方向(矢印c方向)に移動(皺寄せ)するのではなく,それとは直交する方向(紙面に対して垂直の方向)である。

・構成cについて
イ号の説明には,「起重機船のクレーン」と記載されているに止まり,「クレーンブーム」に相当するものが記載されていないものの,「起重機船のクレーン」が「クレーンブーム」を有することは技術常識であるから,イ号工法においても,クレーンブームを延長支持し,クレーンブームに吊下した重錘の自由落下を各部位で反復実施することにより輾圧作業を行い、計画天端高さまで圧密均しするといえる。
次に,重錘により輾圧する際の「クレーンブーム」の移動方向に注目すると,構成cによれば,「所定幅Wの範囲内で,クレーンブームのワイヤー18に吊下した錘本体6の自由落下を,捨石基礎20の中央部から縁部へ向けて直線的に反復実施する」のであるから,イ号工法の「クレーンブーム」は,イ号図面の図4?図8に示されている左右方向,すなわち,所定幅Wの方向(幅員方向)に移動するものである。
また,これが実現されるために,イ号工法の「クレーンブーム」は,イ号図面の図4?図8において紙面に対して略垂直の方向に延長支持されることとなる。

・対比
上記したとおり,水中捨石基礎の輾圧作業の際,構成要件Cは,クレーン船のクレーンブームが「水中捨石基礎の幅員方向に延長支持」されるのに対して,イ号工法の「クレーンブーム」は,「捨石基礎20」あるいは「基礎19」の長手方向に延長支持されるものであるから,構成cは構成要件Cと相違する。
また,上記のとおり,構成要件Cは,クレーンブームが「水中捨石基礎の長手方向に略直線的に移動する」のに対し,イ号工法の「クレーンブーム」は,「捨石基礎20」あるいは「基礎19」の所定幅Wの方向(幅員方向)に移動するものであるから,両者は相違するといえる。
したがって,構成cは,構成要件Cを充足しないというべきである。

(3)構成dが構成要件Dを充足するか否かについて
・構成要件Dについて
そもそも,「水中捨石基礎の幅員方向にクレーンブームを円弧線に沿って移動させながら輾圧作業を行う」工法,すなわち,水中捨石基礎の幅員方向にクレーンブームを円弧線(略直線)に沿って移動させながら輾圧作業を行う場合には,なお残る余分な捨石は幅員方向の両縁部に皺寄せ移動させられ,該縁部から法面へと排除される工法では,【0004】に記載された「両作業区域f1,f2 の境界部分において筋状に競り上がってしまう」という現象は発生せず,本件発明1の課題が生じないのであるから,該工法は,本件発明1と同じ技術的意義を有するとはいえない。
なお,構成要件Dは,「なお残る余分な捨石を、当該作業区域の境界部分に形成されている調整溝に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘により輾圧する」と特定されるのみで,輾圧後に「調整溝」がどの様になるのか不明である。このことに関しては,本件特許明細書(甲第1号証)の【0015】には「すなわち、余盛り高さhおよび調整溝B1 ,B2 ・・・の幅と深さを、適切に調整設定しておくことによって、これら調整溝B1 ,B2 ・・・を含む作業区域f0 ,f1 ,f2 ・・・全域を計画天端高さHどおりに圧密均しすることができるものである。」と記載されていることからみて,輾圧後「調整溝」は,消滅するといえる。

・構成dについて
一方,前述したように,イ号工法の「クレーンブーム」は,所定幅Wの方向(幅員方向)に移動するのであるから,輾圧による捨石4の移動(皺寄せ)方向も,同じ所定幅Wの方向(幅員方向)である。そして,錘本体6が「捨石基礎20」の縁部に達する毎に,余分な捨石4が「捨石基礎20」の縁部から法面へと排除されるのである。

・対比
上記したとおり,構成要件Dは,重錘を順次,水中捨石基礎の長手方向に移動させながら「なお残る余分な捨石を、調整溝に皺寄せ堆積し、かつ、それを重錘により輾圧する」のに対し,構成dは,錘本体6を順次,「捨石基礎20」の所定幅Wの方向(幅員方向)に移動させながら,「そのときに皺寄せられる捨石4を幅を狭く調整した上記空処に堆積させ,かつ,その部分に対する上記輾圧により,余分な捨石4を捨石基礎20の縁部から法面へと排除する」のであるから,皺寄せる方向の点で,両者は明らかに相違するといえる。
したがって,構成dは,構成要件Dを充足しないというべきである。

(4)まとめ
以上検討したとおり,イ号工法は構成要件B?Dのを充足しない。
また,本件発明2は,本件発明1を更に「調整溝を、小型のオレンジバケット等で捨石を除去することにより、V形またはU形に掘削形成する」ことを限定したものであるから,イ号工法は,同様に本件発明2の構成要件をも充足しないことは明らかである。

6.被請求人の主張に対して
まず,上記被請求人の主張(イ)については,上記「3.イ号工法」において述べたようにイ号工法を特定することができ,本件発明1および2と対比できるのであるから,被請求人の「本判定の請求を却下する」との主張は,理由がない。
また,被請求人の上記主張(ハ)および(ニ)について検討すると,
確かに,本件発明1とイ号工法は,単に,押圧作業により捨石を皺寄せ堆積させるものであることにおいては共通するものの,上記「5.(1)」で説示したとおり,本件発明1は,余分な捨石を調整溝に堆積しかつそれを重錘により輾圧することにより盛り捨石の筋状競り上がりの発生をなくすものであるのに対し,イ号工程は,余分な捨石の筋状競り上がりの発生をなくすものではなく,捨石を捨石基礎20の縁部から法面へと排除するもの(イ号工法の構成d参照)であるから,被請求人の主張は前提において誤りがあり,採用できない。
さらに,上記被請求人の主張(ホ)については,請求人は,イ号発明が本件発明1を充足しない相違点を明確に列挙(1)?(4)しており,しかも,本件発明1が奏する特有の効果は,請求書には記載されていないものの,本件特許明細書を参照すれば明確であるから,請求人の「…技術範囲に属しない」根拠は,単純な記載あるいは形式的な記載にとどまらず,明確に示されているということができ,被請求人の主張は理由がない。

7.むすび
以上のとおりであるから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり,判定する。
 
判定日 2007-06-01 
出願番号 特願平10-81953
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 憲子  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 峰 祐治
岡田 孝博
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2893527号(P2893527)
発明の名称 重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法  
代理人 原田 信市  
代理人 内野 美洋  
代理人 原田 敬志  

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