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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1159289
審判番号 不服2006-24254  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 特願2003-417026「アニオン重合開始剤、官能化された共役ジエン(共)重合体、加硫性のゴム組成物およびタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年4月22日出願公開、特開2004-124105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成5年10月18日に出願された特願平5-282157号〔以下「原出願」ということがある。〕の一部を平成15年12月15日に新たな特許出願〔以下「本件出願」または「本件分割出願」という。〕としたものであって、平成18年4月10日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内に応答がなされず、平成18年9月15日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成18年10月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年11月27日付けで手続補正書が提出され、平成19年1月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成19年2月2日付けで前置報告がなされたものである。

第2 分割出願の適否・適用法規
平成18年4月10日付け拒絶理由通知の理由1.でも指摘されているとおり〔後記第6 1および2参照〕、本件分割出願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、当該分割後の原出願の明細書中の特許請求の範囲の請求項1,2,5に係る発明と同一であるから、本件分割出願は適法なものではなく、出願日の遡及を認めることはできない。よって、本件出願の出願日は、実際に願書が提出された平成15年12月15日であって、本件出願には、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)附則各条で規定する経過措置を勘案した上で、同法附則第1条柱書の規定にしたがい、同法による改正後の特許法〔以下「平成14年改正特許法」ということがある。〕が適用される。
原審における前記平成18年4月10日付け拒絶理由通知に対しては、その応答期間に何らの応答もなく、本件出願に係る分割出願に係る不適法が治癒されないまま拒絶査定がなされ、これを不服として審判が請求され、そして、その審判請求の日から30日以内に手続補正がなされている〔以下「審判請求時補正」という。〕のであるから、当該審判請求時補正の適否は、平成14年改正特許法の規定に基づいて判断されるものである。そうであれば、当該審判請求時補正は、新規事項の追加に該当してはならないことに加え、その目的が、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれかの事項に該当するものでなければならない。

第3 平成18年11月27日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年11月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成18年11月27日付けの手続補正〔審判請求時補正〕は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?3および8?10を削除し、補正前の「共役ジエン(共)重合体」に係るものである請求項4?7について、請求項4に記載されているリチオアミンの一般式における「A」を、アルキルアミン基、ジアルキルアミン基およびシクロアルキルアミン基に限定するとともに、「共役ジエン系(共)重合体の製造方法」に係る発明に変更〔以下、当該変更を「補正事項a」という。〕して、新たな請求項1?4とするとともに、発明の名称を補正前の「アニオン重合開始剤、官能化された共役ジエン(共)重合体、加硫性のゴム組成物およびタイヤ」から「共役ジエン系(共)重合体の製造方法」へ変更するものである。

2.合議体の判断
しかしながら、上記補正事項aは、発明のカテゴリーを「共役ジエン(共)重合体」という物から、「共役ジエン(共)重合体の製造方法」という方法へと変更するものであって、発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから、特許請求の範囲の限定的減縮と解し得ないものである。
また、当該補正事項aが、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの)に該当しないことは明らかである。

3.小括
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本件発明
平成18年11月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、本件出願の願書に添付された明細書および特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりの以下の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
(i)一般式 (A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミンおよびそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化1】

を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルおよびジシクロアルキルアミン基および一般式
【化2】

を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、各々のR1は独立して1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合しており、そしてR2は、3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択され、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合している)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミン、
(ii)一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、および
(iii)キレート剤、
の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。
【請求項2】
一般式RLi(式中、Rは1から20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマーから得られる25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマーから成る群から選択される)を有する有機リチウム化合物を一般式、
【化3】

(式中、R2は3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択され、そして窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合している)を有する環状アミンから成る群から選択される官能化剤と反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせ、そして上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、そしてキレート剤と混合する段階を含む炭化水素可溶アニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項3】
炭化水素溶媒中で1種以上のアニオン重合可能モノマーの溶液を生じさせ、そして上記モノマーを、一般式
(A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミン及びそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化4】

を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、R2は、3から16個のメチレン基を有する二価のアルキレン、ビシクロアルカン、置換されたアルキレンまたはオキシ-またはN-アルキルアミノ-アルキレン基であり、そして窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合している)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミンと式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物とキレート剤との混合物を用いて重合させることでポリマーを生じさせる、段階を含む製造方法。
【請求項4】
炭化水素溶媒中で、少なくとも1種の共役ジエンモノマーおよび必要に応じて他のアニオン重合可能なモノマーを、下記の(I)と(II)との混合物又は(I)と(II)と(III)との混合物からなる、炭化水素溶媒中に溶解したアニオン重合開始剤系を用いて重合させることによって製造された、少なくとも一つの末端に下記の官能基Aが導入された共役ジエン系(共)重合体。
(I) 一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化5】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選択され、同じでも異なっていてもよく、さらに炭素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)
を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに、一般式
【化6】

(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン。
(II)一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8の各々は約1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールまたはフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)
を有する有機アルカリ金属化合物。
(III)キレート剤。
【請求項5】
モノマーが少なくともブタジエンおよびスチレンを含んで成り、リチオアミンのAが5、6、7または8員環の環状アミン基であり、有機アルカリ金属化合物のMがKであり、カップリング反応に供する前の分子量分布Mw/Mnが<1.47である、請求項4に記載の共重合体。
【請求項6】
停止側の末端が改質されている、請求項4または5に記載の共重合体。
【請求項7】
停止側の末端が改質剤、停止剤、カップリング剤または連結剤で改質されている、請求項6に記載の共重合体。
【請求項8】
請求項4?7のいずれかに記載の官能化されたポリマーをエラストマー成分100重量部あたり少なくとも10重量部、および必要に応じ他のエラストマー成分として天然ゴム、上記以外の合成エラストマーまたはこれらの任意のブレンドを0?90重量部含み、更に該エラストマー成分100重量部あたりCTAB35?200m2/gのカーボンブラックを5?100phr含んで成る、加硫性ゴム組成物。
【請求項9】
請求項8の加硫性ゴム組成物を用いた少なくとも一つの部材を有することを特徴とするタイヤ。
【請求項10】
請求項8の加硫性ゴム組成物をトレッド部材に用いたことを特徴とするタイヤ。」(以下各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1?10」という。)

第5 原査定の理由
原審における拒絶査定の理由である平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由のうち、理由1,2(1)?(3)の概要は、以下のとおりである。
(理由1,2)
(1)本件出願の請求項1?3に係る発明は、分割出願の基礎とされた特願平5-282157号の請求項1,2,5に係る発明と同一であり、本件出願は2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たに特許出願したものには該当しないから、分割出願の利益を受けることができず、その出願日は平成15年12月15日となるところ、本件出願の請求項1?10に係る発明は、原出願の内容を公開した特開平6-199923号公報〔引用文献1〕に記載された発明である。
(2)本件出願の請求項4?10に係る発明は、特開昭54-65788号公報〔引用文献2〕に記載された発明であるか、または、当該引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(理由2)
(3)本件出願の請求項1?3に係る発明は、引用文献2に記載された発明、または、引用文献2に記載された発明および特開昭57-180615号公報〔引用文献3〕に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 合議体の判断
1.本件分割出願後の原出願の特許請求の範囲に記載された発明
本件分割出願後の原出願の特許請求の範囲の請求項1,2および5に係る発明は、原出願に係る平成15年12月15日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2および5に記載された以下のとおりのものである。
なお、原出願に係る明細書は、平成15年12月15日以降手続補正されることなく、平成18年8月8日付けで「原査定を取り消す。この出願の発明は特許すべきものとする。との審決を求める」との請求は成り立たない旨の審決がなされ、当該審決は確定している。
「【請求項1】(i)一般式
【化1】 (A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミンおよびそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化2】

を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルおよびジシクロアルキルアミン基および一般式
【化3】

を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、各々のR1は独立して1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択される)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミン、
(ii)一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、および任意に、
(iii)キレート剤、
の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。
【請求項2】 一般式RLi(式中、Rは1から20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマーから得られる25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマーから成る群から選択される)を有する有機リチウム化合物を一般式、
【化4】

(式中、R2は3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択される)を有する環状アミンから成る群から選択される官能化剤と反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせ、そして上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、そして任意にキレート剤と混合する段階を含む炭化水素可溶アニオン重合開始剤の製造方法。
【請求項5】 炭化水素溶媒中で1種以上のアニオン重合可能モノマーの溶液を生じさせ、そして上記モノマーを、一般式
【化10】 (A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミン及びそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化11】

を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、R2は、3から16個のメチレン基を有する二価のアルキレン、ビシクロアルカン、置換されたアルキレンまたはオキシ-またはN-アルキルアミノ-アルキレン基である)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミンと式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物の混合物を用いて重合させることでポリマーを生じさせる、段階を含む製造方法。」(以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「原発明1,2,5」という。)

2.本件発明1?3と原発明1,2,5との同一性
(1)本件発明1
本件発明1と原発明1とを対比すると、両者は、
「(i)一般式 (A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミンおよびそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式

を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルおよびジシクロアルキルアミン基および一般式

を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、各々のR1は独立して1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択される)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミン、
(ii)一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、および任意に、
(iii)キレート剤、
の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。」である点で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明1では、リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、原発明1はこの点を規定していない点。
上記相違点について検討すると、原出願に係る明細書の段落【0049】には、「両方または一方のR1およびR2が共にt-ブチル基、イソプロピル基などである場合、その結果として生じる重合は、恐らくはその開始部位の窒素の回りの障害が原因となって遅くなることが見いだされた。それゆえ、本発明の好適な具体例において、該アミン中の窒素に結合しているR1およびR2中の炭素原子はまた、全体で少なくとも3個の水素原子と結合している。」と記載されている。
リチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しているところ、原出願の明細書における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明1における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであり、基R1およびR2のうち「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」しているものは、原発明1においても好適な態様に該当するものである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明1は原発明1と同一である。

(2)本件発明2
本件発明2と原発明2とを対比すると、両者は、
「一般式RLi(式中、Rは1から20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマーから得られる25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマーから成る群から選択される)を有する有機リチウム化合物を一般式、


(式中、R2は3から12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択される)を有する環状アミンから成る群から選択される官能化剤と反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせ、そして上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、そして任意にキレート剤と混合する段階を含む炭化水素可溶アニオン重合開始剤の製造方法。」である点で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明2では、環状アミンの一般式中の基R2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、原発明2はこの点を規定していない点。
しかしながら、この点は上記(1)で指摘したとおり、原出願に係る明細書の段落【0049】に記載されており、原出願の明細書における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明2における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであるから、基R2が「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」しているものは、原発明2においても好適な態様に該当するものである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明2は原発明2と同一である。

(3)本件発明3
本件発明3と原発明5とを対比すると、両者は、
「炭化水素溶媒中で1種以上のアニオン重合可能モノマーの溶液を生じさせ、そして上記モノマーを、一般式
(A)Li(SOL)y
(式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミン及びそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式


を有する環状アミン基から成る群から選択され、ここで、R2は、3から16個のメチレン基を有する二価のアルキレン、ビシクロアルカン、置換されたアルキレンまたはオキシ-またはN-アルキルアミノ-アルキレン基である)
を有する炭化水素に可溶のリチオアミンと式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物の混合物を用いて重合させることでポリマーを生じさせる、段階を含む製造方法。」である点で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明3では、リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、原発明5はこの点を規定していない点。
しかしながら、この点は上記(1)で指摘したとおり、原出願に係る明細書の段落【0049】に記載されており、原出願の明細書における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明3における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであるから、基R2が「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」しているものは、原発明5においても好適な態様に該当するものである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明3は原発明5と同一である。

以上のとおり、本件発明1?3は、原発明1,2,5と同一であり、本件出願は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たに特許出願したものには該当しないから、本件分割出願は適法なものではなく、その出願日は実際に願書が提出された平成15年12月15日となる。よって、原出願に係る公開公報(特開平6-199923号公報)は、本件出願に対しては公知刊行物である。

3.引用刊行物に記載された事項
(1)引用刊行物1
原審における平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に引用された特開平6-199923号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-イ)「【請求項1】 (i)一般式
【化1】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または約0.5から約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化2】

を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式
【化3】

を有する環状アミン類から成る群から選択され、ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン、
(ii)有機アルカリ金属化合物、および任意に、
(iii)キレート剤、の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。
【請求項2】 一般式
【化4】

を有するアルキル、ジアルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式
【化5】

を有する環状アミン類[ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]から成る群から選択される官能化剤と、一般式RLi[式中、Rは、1から約20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル、並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマー類から得られる約25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマー類から成る群から選択される]を有する有機リチウム化合物とを、反応させることで反応生成物を生じさせ、
そして、上記反応生成物と、有機アルカリ金属化合物および任意のキレート剤とを混合する、段階を含む、アニオン重合開始剤の製造方法。」(特許請求の範囲)
(1-ロ)「以下に示す記述から明らかになるように、本発明は、炭化水素溶媒、例えば好適にはシクロヘキサン、シクロヘプタンおよびそれらの誘導体などの如きシクロアルカン類、並びにこれらとヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタンおよびそれらのアルキル化誘導体の如きアルカン類との混合物などの炭化水素溶媒に可溶な、新規な重合開始剤を提供するものである。」(明細書段落【0036】)
(1-ハ)「両方または一方のR1およびR2が共にt-ブチル基、イソプロピル基などである場合、その結果として生じる重合は、恐らくはその開始部位の窒素の回りの障害が原因となって遅くなることが見いだされた。それゆえ、本発明の好適な具体例において、該アミン中の窒素に結合しているR1およびR2中の炭素原子はまた、全体で少なくとも3個の水素原子と結合している。」(明細書段落【0049】)
(1-ニ)「該有機アルカリ金属化合物は、好適には、一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3Mを有する化合物から成る群から選択され、ここでR3、R4、R5、R6、R7およびR8の各々は、約1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールまたはフェニルから成る群から選択される。この成分Mは、Na、K、RbまたはCsから成る群から選択される。好適にはMはNaまたはKである。」(明細書段落【0052】)
(1-ホ)「上述したように、このようにして生じる開始剤混合物は、全てのアニオン重合エラストマー、例えばポリブタジエン、ポリイソプレンなど、およびそれらとモノビニル芳香族、例えばスチレン、アルファメチルスチレンなど或はトリエン類、例えばミルセンなどとのコポリマー類を製造するための開始剤として用いられ得る。従って、これらのエラストマー類には、ジエンのホモポリマー類およびそれらとモノビニル芳香族ポリマー類とのコポリマー類が含まれる。適切なモノマー類には、約4から約12個の炭素原子を有する共役ジエン類および8から18個の炭素原子を有するモノビニル芳香族モノマー類およびトリエン類、並びにそれらの混合物が含まれる。」(明細書段落【0066】)
(1-ヘ)「モノマー(類)と炭化水素溶媒のブレンド物を適切な反応容器に仕込んだ後、該極性調整物(用いる場合)および上述した開始化合物を添加することで、バッチ重合を開始させる。これらの反応体を約20から約200℃の温度に加熱し、そしてこの重合を約0.1から約24時間進行させる。この開始化合物から官能アミン基が誘導されて、その開始部位の所で結合する。従って、本質的に全ての得られるポリマー鎖が、以下の一般式
【化27】AYLi
[式中、Aは上述したのと同じであり、そしてYは、上述したジエンホモポリマー類、モノビニル芳香族ポリマー類、ジエン/モノビニル芳香族ランダムコポリマー類およびブロックコポリマー類のいずれかまたは全てから誘導される二価のポリマー基である]を有している。この重合を継続すると、このリチウム末端にモノマーが付加することでこのポリマーの分子量が上昇する。」(明細書段落【0069】?【0070】)

(2)引用刊行物2
同じく、原審における平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に引用された特開昭54-65788号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-イ)「共役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素とをリチウム有機アミドを重合開始剤として共重合させるにあたり、アルカリ金属とケトンもしくは亜リン酸トリエステルとの錯化合物、または、下記一般式で示される化合物から撰ばれた1種以上を存在させることを特徴とするランダム共重合体の製造方法、
一般式
RM,R(OM)n,(RO)2Ba,R(CO2M)n,ROCO2M,R2NM,RSO3M,ROSO3M,R2AlOM,(但し、式中のRは、脂肪族残基、脂環族残基、芳香族炭化水素基、Mはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを表わし、n=1?3の整数である。)」(特許請求の範囲)
(2-ロ)「本発明は、リチウム有機アミドを重合開始剤とし、さらに助触媒としてアルカリ金属を含有する有機化合物を存在させて、共役ジオレフインとビニル芳香族を共重合させ、・・・ランダム共重合体を製造する方法を提供することを目的とするものである。」(第2頁左下欄第8?16行)
(2-ハ)「また、これら助触媒の中には重合溶液に溶解し難く重合系中への装入が・・・、重合溶液への助触媒の溶解性もしくは分散性を向上させるために、エーテル類、チオエーテル類および第3級アミン類のような極性有機化合物を少量存在させてもよい。かかる助触媒の溶解剤として用いられる極性有機化合物は、生成共重合体中の共役ジオレフィン部分のビニル含有量があまり大きくならないに、使用量において制限されなければならない。特に好ましい極性有機化合物としては、・・・・・・エーテル類、・・・テトラメチルエチレンジアミンのような第3級アミン類、・・・チオエーテル類等が挙げられる。」(第5頁左上欄第10行?右上欄第8行)
(2-ニ)「本発明において主触媒となるリチウム有機アミドとは、リチウム-窒素結合を有するリチウム化合物であり、次の一般式で表わされるものである。


ここに、

は環化した構造、もしくは環化しない構造を意味し、環化していない構造の場合は、RおよびR’は独立して炭素数1?20の脂肪族残基、脂環族残基、芳香族炭化水素基であり、たとえばリチウムジメチルアミド、・・・等が挙げられる。
また環化した構造としては、リチウムエチレンイミド、リチウムトリメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘキサメチレンイミド等のリチウム環状イミド、・・・、リチウム-3-ピロリドのような不飽和結合を含有するリチウム環状イミドおよびリチウムプロピレンイミド、リチウムピペコリド、・・・のような上記各種リチウム環状イミドの誘導が挙げられる。特に好ましくは、・・・リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピペコリド等である。」(第5頁右上欄第13行?同頁右下欄第6行)
(2-ホ)「これらのリチウム有機アミドは、公知の方法によりリチウムアルキルまたはリチウム及び活性不飽和化合物からなる系を有機溶媒中で適当な2級アミンもしくは環状イミンと反応させることにより製造することができる。」(第5頁右下欄第8?12行)
(2-ヘ)「本発明の重合プロセスは塊状重合でもよいが、一般には不活性溶媒中での溶液重合を用いるのが好適である。溶媒は普通重合反応の条件下では液体であることが好ましく、脂肪族、脂環族、芳香族等の炭化水素が使用される。好ましい不活性溶媒の例としてはプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が含まれている。」(第6頁左下欄第5?14行)
(2-ト)「本発明のプロセスは原料物質の適当な添加方法を用いて重合体を製造できる。例えば、助触媒を先ず重合溶媒およびモノマーの存在する反応器に添加し、次いで開始剤を加えて反応を開始させてもよく、予め開始剤と接触させて反応器に仕込んでもよい。」(第6頁右下欄第6?11行)
(2-チ)実施例1?14には、「リチウム有機アミド」としてリチウムピペリジドまたはリチウムジ-n-ブチルアミドを、「助触媒」としてオレイン酸カリウム、カリウム-t-ブトキシド、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ナトリウム-t-ブトキシド、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナトリウム-n-アミルアルコラートまたはナトリウムp-(s-ブチル)-フェノラートをそれぞれ使用して、ブタジエンとスチレンの共重合を行った製造例とその結果が示されている。

4.引用発明
(1)引用発明1-1および1-2
引用刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項1に、「(i)一般式
【化1】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または約0.5から約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化2】

を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式
【化3】

を有する環状アミン類から成る群から選択され、ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン、
(ii)有機アルカリ金属化合物、および任意に、
(iii)キレート剤、の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。」が記載され〔摘示記載(1-イ)〕、また、同刊行物の請求項2には、「一般式
【化4】

を有するアルキル、ジアルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式
【化5】

を有する環状アミン類[ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]から成る群から選択される官能化剤と、一般式RLi[式中、Rは、1から約20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル、並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマー類から得られる約25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマー類から成る群から選択される]を有する有機リチウム化合物とを、反応させることで反応生成物を生じさせ、
そして、上記反応生成物と、有機アルカリ金属化合物および任意のキレート剤とを混合する、段階を含む、アニオン重合開始剤の製造方法。」〔摘示記載(1-イ)〕が記載されている。
さらに、当該アニオン重合開始剤は炭化水素溶媒に可溶であること〔摘示記載(1-ロ)〕、前記リチオアミンの一般式中の基R1およびR2、ならびに、当該リチオアミンを製造する際の原料化合物である環状アミン類中の基R2に関し、該アミン中の窒素に結合しているR1およびR2中の炭素原子は全体で少なくとも3個の水素原子と結合していることが好適であること〔摘示記載(1-ハ)〕、前記有機アルカリ金属化合物としては、好適には、一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3Mを有する化合物から成る群から選択されること〔摘示記載(1-ニ)〕についても記載されており、引用刊行物1の請求項2における「一般式


を有する環状アミン」なる記載は、当該記載が出発原料である官能化剤に関するものであることに鑑みれば、「一般式

を有する環状アミン」を意図したものであることは明らかであるから、結局、引用刊行物1には、以下の発明が記載されているということができる。
「(i)一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または約0.5から約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そしてAは、一般式


を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式


を有する環状アミン類から成る群から選択され、ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、さらに窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合しており、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択され、さらに窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合している]
を有する炭化水素に可溶のリチオアミン、
(ii)一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々約1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMは、Na、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、および
(iii)キレート剤、の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。」〔以下「引用発明1?1」という。〕
および
「一般式RLi[式中、Rは、1から約20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル、並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマー類から得られる約25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマー類から成る群から選択される]を有する有機リチウム化合物を、一般式


[ここで、R2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択され、そして窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合している]を有する環状アミンから成る群から選択される官能化剤と反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせ、そして、上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、そしてキレート剤とを混合する段階を含む炭化水素可溶アニオン重合開始剤の製造方法。」〔以下「引用発明1-2」という。〕

(2)引用発明1-3
引用刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項4に、「炭化水素溶媒中で1種以上のアニオン重合可能モノマー類の溶液を生じさせ、そして一般式
【化9】 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または約0.5から約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化10】

を有するアルキル、ジアルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式
【化11】

を有する環状アミン類から成る群から選択され、ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]を有するリチオアミンと有機アルカリ金属化合物の混合物を用いて上記モノマーを重合させることでポリマーを生じさせる、ことによって製造されたポリマー。」が記載されている。
そして、上記リチオアミンと有機アルカリ金属化合物の混合物またはこの混合物にさらにキレート剤を混合したものが炭化水素に可溶なアニオン重合開始剤として作用すること〔摘示記載(1-イ)〕、前記リチオアミンの一般式中の基R1およびR2、に関し、該アミン中の窒素に結合しているR1およびR2中の炭素原子は全体で少なくとも3個の水素原子と結合していることが好適であること〔摘示記載(1-ハ)〕、「アニオン重合可能モノマー類」には、共役ジエンモノマー等が該当すること〔摘示記載(1-ホ)〕、得られるポリマー鎖は一般式AYLi[Yは、ジエンホモポリマー類、モノビニル芳香族ポリマー類、ジエン/モノビニル芳香族ランダムコポリマー類およびブロックコポリマー類のいずれかまたは全てから誘導される二価のポリマー基]を有していることが記載されているから、結局、引用刊行物1には、以下の発明が記載されているということができる。
「炭化水素溶媒中で、少なくとも1種の共役ジエンモノマーおよび必要に応じて他のアニオン重合可能なモノマーを、下記の(I)と(II)との混合物又は(I)と(II)と(III)との混合物からなる、炭化水素溶媒中に溶解したアニオン重合開始剤系を用いて重合させることによって製造された、少なくとも一つの末端に下記の官能基Aが導入された共役ジエン系(共)重合体。
(I)一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化5】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選択され、同じでも異なっていてもよく、さらに炭素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)
を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに、一般式
【化6】

(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン。
(II)一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8の各々は約1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールまたはフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)
を有する有機アルカリ金属化合物。
(III)キレート剤。」〔以下「引用発明1-3」という。〕

(3)引用発明2-1および2-2
引用刊行物2には、その特許請求の範囲に、「共役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素とをリチウム有機アミドを重合開始剤として共重合させるにあたり、アルカリ金属とケトンもしくは亜リン酸トリエステルとの錯化合物、または、下記一般式で示される化合物から撰ばれた1種以上を存在させることを特徴とするランダム共重合体の製造方法、
一般式
RM,R(OM)n,(RO)2Ba,R(CO2M)n,ROCO2M,R2NM,RSO3M,ROSO3M,R2AlOM,(但し、式中のRは、脂肪族残基、脂環族残基、芳香族炭化水素基、Mはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを表わし、n=1?3の整数である。)」〔摘示記載(2-イ)〕が記載されており、これらのアルカリ金属含有化合物が助触媒として用いられること〔摘示記載(2-ロ)〕、主触媒となるリチウム有機アミドは

で示される環化した構造、もしくは環化しない構造を有しており、環化した構造のものとしては、リチウムトリメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘキサメチレンイミド等の「リチウム環状イミド」が挙げられること〔摘示記載(2-ニ)〕、該リチウム有機アミドは、公知の方法によりリチウムアルキルまたはリチウム及び活性不飽和化合物からなる系を有機溶媒中で適当な2級アミンもしくは環状イミンと反応させることにより製造することができること〔摘示記載(2-ホ)〕、および重合体製造プロセスにおいて、助触媒を予め開始剤と接触させて反応器に仕込んでもよいこと〔摘示記載(2-ト)〕が記載されている。
リチウム有機アミドの製造方法に係る上記の記載からみて、環化した構造を有する「リチウム環状イミド」はリチウムアルキルと環状イミンとを反応させることにより製造されるものと解され、「リチウム環状イミド」として例示されたリチウムトリメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド及びリチウムヘキサメチレンイミドについてみれば、リチウムアルキルと、それぞれ対応する環状イミンである、トリメチレンイミン、ピロリジン、ピペリジン及びヘキサメチレンイミンとを反応させることにより製造されるものであることは明らかである。そして、これらの化合物は、それぞれ、3個、4個、5個及び6個のメチレン基を有する二価のアルキレンを有する環状イミンであって、いずれも「環状アミン類」として本件明細書中に開示されている化合物(段落【0046】,【0049】)に外ならない。
このような環状イミンがリチウムアルキルと反応して生成する「リチウム環状イミド」は、その構造及び共役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素を共重合させる点からみてアニオン重合開始剤であることが明らかであり、その環状イミド部分をもたらす環状イミン化合物はアニオン重合に関与する「官能化剤」と称し得るものである。
また、環状イミンと反応してリチウム環状イミドを形成するアルキルリチウムは「RLi(Rはアルキル基)」と表現できるものであり、RLiにおけるRは、反応性及び操作性の点からみて本願発明における「1から20個」と重複する範囲の数の炭素原子を有する低級アルキルであると解するのが相当である。
さらに、引用刊行物2の「一般式」で示されたアルカリ金属含有化合物の内、「RM,R(OM)n,R(CO2M)n,R2NM,RSO3M(但し、式中のRは、脂肪族残基、脂環族残基、芳香族炭化水素基、Mはナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを表わし、n=1?3の整数である。)」は、本件発明1における「一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物」と一致するものである。
そして、引用刊行物2には、助触媒であるアルカリ金属含有化合物を予め開始剤と接触させて反応器に仕込んでもよいこと〔摘示記載(2-ト)〕が記載されており、「開始剤」にはRLiと環状イミンとの反応生成物であるリチウム環状イミドが包含されるから、結局、引用刊行物2には、以下の発明が記載されているということができる。
「一般式RLi(式中、Rは1から20個の炭素原子を有するアルキル)を有する有機リチウム化合物を一般式、

(式中、R2は3から6個のメチレン基を有する二価のアルキレン)を有する環状アミンと反応させることで反応生成物を生じさせ、そして上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物と混合する段階を含むアニオン重合開始剤の製造方法」〔以下「引用発明2?1」という。〕
また、上述のとおり、引用刊行物2には、共役ジオレフインとビニル芳香族炭化水素とをリチウム有機アミドを重合開始剤として共重合させることが記載されているから〔摘示記載(2-イ)〕、当該共重合の結果得られる重合体は、共役ジオレフィンとビニル芳香族炭化水素との共重合体であり、さらに、この共重合は炭化水素溶媒を使用した溶液重合で実施するのが好ましいこと〔摘示記載(2-ヘ)〕も記載されているので、結局、引用刊行物2には、以下の発明もまた記載されているということができる。
「炭化水素溶媒中で、共役ジエンモノマーとビニル芳香族炭化水素を、下記の(I)と(II)との混合物からなるアニオン重合開始剤系を用いて重合させることによって製造された、共役ジエン系共重合体。
(I) 一般式

(式中、RおよびR’は独立して炭素数1?20の脂肪族残基、脂環残基または芳香族炭化水素基である)で表されるリチウム有機アミド、
(II) 一般式 R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する有機アルカリ金属化合物」〔以下「引用発明2-2」という。〕

5.対比・判断
(1)本件発明1
本件発明1と引用発明1-1とを対比すると、両者は、「(i)一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または約0.5から約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そしてAは、一般式


を有するジアルキル、アルキル、シクロアルキルまたはジシクロアルキルアミン基および一般式


を有する環状アミン類から成る群から選択され、ここで、各々のR1は、独立して、1から約12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルおよびアラルキルから成る群から選択され、そしてR2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-およびアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]
を有する炭化水素に可溶のリチオアミン、
(ii)一般式 R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、および
(iii)キレート剤、の混合物を含む、炭化水素可溶アニオン重合開始剤。」である点で一致しており、以下の点でのみ一応相違する。
相違点:
リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について、本件発明1では、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、引用発明1?1では、「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」するとしている点。
上記相違点について検討すると、リチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しており、引用発明1?1における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明1における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであるから、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明1は、引用刊行物1に記載された発明であるといえる。

(2)本件発明2
(イ)本件発明2と引用発明1-2とを対比すると、両者は、「一般式RLi[式中、Rは、1から約20個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびアラルキル、並びにジオレフィンおよびビニルアリールモノマー類から得られる約25個以下の単位を有する短鎖長の低分子量ポリマー類から成る群から選択される]を有する有機リチウム化合物を、一般式


[ここで、R2は、約3から約12個のメチレン基を有する二価のアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選択される]を有する環状アミンから成る群から選択される官能化剤と反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせ、そして、上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物、そしてキレート剤とを混合する段階を含む炭化水素可溶アニオン重合開始剤の製造方法。」である点で一致しており、以下の点でのみ一応相違する。
相違点:
環状アミンの一般式中の基R2について、本件発明2では、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、引用発明1-2では、「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」するとしている点。
上記相違点について検討すると、環状アミン類の基R2中には窒素原子に結合した炭素原子が2個存在しており、引用発明1-2における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明2における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであるから、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明2は、引用刊行物1に記載された発明であるといえる。

(ロ)本件発明2と引用発明2?1とを対比すると、両者は、「一般式RLi(式中、Rは1から20個の炭素原子を有するアルキル)を有する有機リチウム化合物を一般式、

(式中、R2は3から6個のメチレン基を有する二価のアルキレン)を有する環状アミンと反応させることで反応生成物を生じさせ、そして上記反応生成物を一般式、R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する化合物から成る群から選択される有機アルカリ金属化合物と混合する段階を含むアニオン重合開始剤の製造方法」である点で一致しており、以下の点でのみ一応の相違ないし相違が認められる。
相違点:
本件発明2では以下の点につき規定しているのに対し、引用発明2?1ではこれらの点について規定していない点。
すなわち、
(あ)RLiと環状イミン官能化剤とを反応させることで「炭化水素に可溶の反応生成物を生じさせる」点、および
(い)アニオン重合開始剤が「炭化水素可溶」である点
で一応相違し、
(う)上記(あ)の炭化水素に可溶の反応生成物を「キレート剤」と混合する点、で相違している。

そこで、これらの相違点について以下に検討する。
引用刊行物2には、「本発明の重合プロセスは塊状重合でもよいが、一般には不活性溶媒中での溶液重合を用いるのが好適である。溶媒は普通重合反応の条件下では液体であることが好ましく、脂肪族、脂環族、芳香族等の炭化水素が使用される」〔摘示記載(2-ヘ)〕と記載されており、重合プロセスとして、不活性炭化水素溶媒中での溶液重合を用いるのが好適であることが明示されている。
そして、原審における平成18年4月10日付け拒絶理由通知で引用された特開昭50-79590号公報〔第2頁右上欄第2?6行〕に記載されているように、リチウムアミドが不活性有機溶媒には極めて僅かしか溶解せず、その溶解した部分のみが触媒として作用することは本願の出願前に広く知られており、引用刊行物2に好適な例として記載された不活性炭化水素溶媒中で溶液重合を行わせる場合についてみると、リチウム有機アミド触媒が炭化水素に溶解して触媒作用をするものであることが当然の前提とされているものというべきである。
したがって、引用発明2?1においても本件発明2の(あ)のように、RLiと環状イミン官能化剤とを反応させることで炭化水素に可溶の反応生成物を生じ、それによって(い)のように炭化水素可溶のアニオン重合開始剤が生成されるものというべきであるから、これらの点で、本件発明2と引用発明2?1とが実質的に相違するものということはできない。
次に、上記(う)の点に関しては、引用刊行物2に、重合溶液への助触媒の溶解性を向上させるために、テトラメチルエチレンジアミン等の極性有機化合物を併用する旨の教示がなされているところ〔摘示記載(2-ハ)〕、ここで併用されるテトラメチルエチレンジアミン等の極性有機化合物は、本件明細書に「キレート剤」として開示されている化合物(段落【0060】)と重複一致するものであるものであるから、当該極性有機化合物は「キレート剤」と称し得るものである。
そうしてみると、引用刊行物2の記載に接した当業者であれば、主触媒であるリチオアミンに対して、助触媒として有機アルカリ金属化合物を使用し、さらにキレート剤の追加混合を試みることは容易であるというほかはない。
そして、本件明細書の記載を参酌しても、本件発明2に係る効果が、引用刊行物2に記載された発明および技術常識からは予測することができないほど顕著なものであるとも認められない。
したがって、本件発明2は、引用刊行物2に記載された発明および技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明4
(イ)本件発明4と引用発明1-3とを対比すると、両者は、「炭化水素溶媒中で、少なくとも1種の共役ジエンモノマーおよび必要に応じて他のアニオン重合可能なモノマーを、下記の(I)と(II)との混合物又は(I)と(II)と(III)との混合物からなる、炭化水素溶媒中に溶解したアニオン重合開始剤系を用いて重合させることによって製造された、少なくとも一つの末端に下記の官能基Aが導入された共役ジエン系(共)重合体。
(I) 一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、0または0.5から3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル類、アミン類またはそれらの混合物から成る群から選択される可溶化成分であり、そして
Aは、一般式


(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選択され、同じでも異なっていてもよい)
を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに、一般式


(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン。
(II) 一般式 R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する有機アルカリ金属化合物。
(III) キレート剤。」である点で一致しており、以下の点でのみ一応相違する。
相違点:
リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について、本件発明4では、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、引用発明1?3では、「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」するとしている点。
上記相違点について検討すると、リチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しており、引用発明1?3における「窒素原子に結合している炭素原子は全体で少なくとも3個以上の水素原子と結合」することと、本件発明4における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであるから、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明4は、引用刊行物1に記載された発明であるといえる。

(ロ)本件発明4と引用発明2-2とを対比すると、引用発明2-2における「リチウム有機アミド」および「(一般式・・・で示される)化合物」が、それぞれ、本件発明4における「リチオアミン」および「有機アルカリ金属化合物」と同義であることは自明であり、また、引用発明2-2の一般式

で表される化合物における部分構造

は、環化した構造、もしくは環化しない構造を意味しており〔摘示記載(2-ニ)〕、この環化した構造および環化しない構造は、それぞれ、

および

なる一般式で表現することができるものであるから、結局両者は、「炭化水素溶媒中で、共役ジエンモノマーとビニル芳香族炭化水素を、下記の(I)と(II)との混合物からなるアニオン重合開始剤系を用いて重合させることによって製造された、共役ジエン系共重合体。
(I) (A)Li
[式中、Aは、一般式


(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選択され、同じでも異なっていてもよい)
を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに、一般式


(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレンから選ばれる)を有する環状アミン基から成る群から選択される]
を有するリチオアミン、
(II) 一般式R3M、R4OM、R5C(O)OM、R6R7NMおよびR8SO3M、
(式中、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は各々1から12個の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリールおよびフェニルから成る群から選択され、そしてMはNa、K、RbおよびCsから成る群から選択される)を有する有機アルカリ金属化合物。」である点で一致しており、以下の点でのみ一応の相違が認められる。
相違点:
本件発明4では以下につき規定しているのに対し、引用発明2?2ではこれらの点について規定していない点。
(え)アニオン重合開始剤系が炭化水素溶媒中に溶解している点
(お)リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定している点
および
(か)製造された共役ジエン共重合体の少なくとも一つの末端に、部分構造Aで表される官能基〔官能基A〕が導入されている点

そこで、これらの相違点について以下に検討する。
まず、上記(え)の点については、上記(2)本件発明2(ロ)における一応の相違点(あ)および(い)に関連して検討したとおりであり、引用発明2-2においても炭化水素溶媒に可溶なアニオン重合開始剤が使用されていると認められるので、実質的な相違点にはならない。
次に、上記(お)の点に関し、引用刊行物2の実施例の記載をみると、環化した構造を有するリチオアミンとしてリチウムピペリジドが、また、環化していない構造を有するリチオアミンとしてリチウム-n-ブチルアミドがそれぞれ使用されており、これらのリチオアミンにおいて窒素原子に隣接した二つの炭素原子はいずれも2個の水素原子と結合している。よって、この点は実質的な相違点ではない。
さらに、本件発明4および引用発明2-2に係る重合体を製造する際に用いられているような、有機リチウム触媒を重合開始剤として使用した、いわゆるアニオンリビング重合においては、まず、重合開始剤のアルキル金属〔すなわち、リチウム〕とこれに結合する官能基との間に単量体が挿入され、次いで、このリチウム側末端に単量体が連続的に付加することより重合体が成長していくことは当業界における技術常識であるから、引用発明2-2においても、その少なくとも一つの末端に、重合開始剤中でリチウム金属に結合している官能基「A」が導入されて重合が進行していると解するのが相当である。よって、上記(か)の点も実質的な相違点にはならない。
したがって、上記(え)?(か)の点で、本件発明4と引用発明2-2とが実質的に相違するものということはできず、本件発明4は引用刊行物2に記載された発明というべきである。

第7 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1,2,4に係る発明は、特許法第29条1項第3号に該当し、また、本件出願の請求項2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-23 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-16 
出願番号 特願2003-417026(P2003-417026)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 561- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 福井 美穂
高原 慎太郎
発明の名称 アニオン重合開始剤、官能化された共役ジエン(共)重合体、加硫性のゴム組成物およびタイヤ  
代理人 小田島 平吉  

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