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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1159290
審判番号 不服2006-24262  
総通号数 92 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-26 
確定日 2007-06-13 
事件の表示 特願2003-417032「溶媒に溶解したアニオン重合開始剤、その製造方法及びそれらからの生成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年5月27日出願公開、特開2004-149807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成5年10月1日に出願された特願平5-267763号〔以下「原出願」ということがある。〕の一部を平成15年12月15日に新たな特許出願〔以下「本件出願」または「本件分割出願」という。〕としたものであって、平成18年4月10日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内に応答がなされず、平成18年9月15日付けで拒絶査定がなされたのに対して、平成18年10月26日に拒絶査定不服審判が請求され、平成18年11月27日付けで手続補正書が提出され、平成19年1月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成19年2月2日付けで前置報告がなされたものである。

第2 分割出願の適否・適用法規
平成18年4月10日付け拒絶理由通知の理由1.でも指摘されているとおり〔後記第6 1および2参照〕、本件分割出願の願書に添付された特許請求の範囲の請求項4に係る発明は、当該分割後の原出願の明細書中の特許請求の範囲の請求項7に係る発明と同一であるから、本件分割出願は適法なものではなく、出願日の遡及を認めることはできない。よって、本件出願の出願日は、実際に願書が提出された平成15年12月15日であって、本件出願には、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)附則各条で規定する経過措置を勘案した上で、同法附則第1条柱書の規定にしたがい、同法による改正後の特許法〔以下「平成14年改正特許法」ということがある。〕が適用される。
原審における前記平成18年4月10日付け拒絶理由通知に対しては、その応答期間に何らの応答もなく、本件出願に係る分割出願に係る不適法が治癒されないまま拒絶査定がなされ、これを不服として審判が請求され、そして、その審判請求の日から30日以内に手続補正がなされている〔以下「審判請求時補正」という。〕のであるから、当該審判請求時補正の適否は、平成14年改正特許法の規定に基づいて判断されるものである。そうであれば、当該審判請求時補正は、新規事項の追加に該当してはならないことに加え、まず、その目的が、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれかの事項に該当するものでなければならない。さらに、当該目的が特許請求の範囲の限定的減縮である場合には、当該審判請求時補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

第3 平成18年11月27日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年11月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
平成18年11月27日付けの手続補正〔審判請求時補正〕は、補正前の特許請求の範囲の請求項4を削除し、さらに、補正前の請求項1,5?7におけるリチオアミンの一般式における「A」から環式アミンを、また、同請求項2,3における官能化剤から環状アミン化合物をそれぞれ削除〔以下、この環式アミンまたは環状アミン化合物の削除を「補正事項a」という。〕して、新たな請求項1?6とするものである。そして、補正後の請求項1に係る発明は、以下に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化1】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基から成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤。」〔以下「本件補正発明1」という。〕

2.合議体の判断
(1)補正の目的の適否
上記補正事項aが、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの)のいずれにも該当しないことは明らかであり、当該補正事項aは、補正前の請求項1?3,5?7におけるリチオアミンの一般式中の「A」または官能化剤に関して、択一的に記載された選択肢の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮に該当するものである。
(2)独立特許要件に関する検討
しかしながら、審判請求時補正後の請求項1において特許を受けようとする発明は、以下の理由で特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、当該審判請求時補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
[理由]
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された刊行物4〔平成18年4月10日付け拒絶理由通知で引用した特開昭50-79590号公報〕に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2-1)引用刊行物4に記載された事項
引用刊行物4〔特開昭50-79590号公報〕には、以下の事項が記載されている。
(2-1-イ)「不活性有機溶媒中にて触媒としての式


(式中、RおよびR’は同一であつても異なつていてもよく、C3?C20のアルキル、C5?C7のシクロアルキルまたはC6?C10のアリールを示し:そしてMeはリチウム、ナトリウムまたはカリウム原子を示す)
に相当するアルカリ金属アミドと少なくとも1種の共役ジエンとを該触媒に対する溶解剤の存在下に接触せしめることを特徴とする共役ジエンの単独重合または共重合方法。」(特許請求の範囲)
(2-1-ロ)「リチウムアミドは単量体および通常の不活性有機溶媒に極めて僅かしか溶解しないものである。リチウムアミドはその溶解した部分だけしか触媒として作用しないので、触媒の有効量は重合系におけるリチウムアミドの溶解度に依存する。」(第2頁右上欄第2?6行)
(2-1-ハ)「活性触媒の量は使用する溶解剤の量および性質によつて決めうるので、この溶解剤の量および性質を変化させることにより重合体の分子量および微構造を再現性よく変化させることができる。」(第2頁左下欄第9?13行)」
(2-1-ニ)「特に適するアルカリ金属アミドは例えばリチウムジプロピルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジシクロヘキシルアミド、リチウムジフエニルアミド、N-リチウム-N-メチルアニリド、N-リチウム-N-エチルアニリド、・・・である。これらのアミドは、アルカリ金属アルキルまたはアルカリ金属-ナフタリン成分を有機溶媒中で適当な第二級アミドと反応させることにより常法で製造することができる。」(第3頁左上欄下から6行?同頁右上欄第5行)」
(2-1-ホ)「使用する溶解剤は好ましくは例えばジメトキシエタンの如きジエーテル類および例えばN,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミンの如き第三級脂肪族ジアミン類から選択される。
溶解剤の必要量は、所望重合体の構造および分子量に依存して、単量体に対し0.01?3重量%である。一般に、アルカリ金属アミドは、その一部が未溶解で残るような量で加えられる(例えば単量体に対し0.01?1重量%)。」(第3頁右上欄第6?14行)」
(2-1?ヘ)「重合自身は通常の不活性溶媒例えば脂肪族または芳香族炭化水素の中で行なわれる。特に適する溶媒は例えばn-ヘキサン、・・・である。」(第3頁右上欄第14行?同頁左下欄第3行)」
(2-1-ト)「重合過程は有機金属触媒にとつて通常の方法で行なわれる。好ましくは、溶媒および溶解剤の混合物中におけるアルカリ金属アミドの溶液を先ず作り、次いでこの溶液へ空気および水分の不存在下に単量体を添加する。」(第3頁左下欄第6?10行)
(2-1-チ)「実施例9
A)触媒の製造:
n-ブチル-リチウム溶液4mlおよびジ-i-ブチルアミン1.38mlをn-ヘキサン1lに加え、この混合物を空気および水分の排除下に20℃で15分間攪拌する。リチウム・ジ-i-ブチルアミドの溶液が得られる。
B)重合:
N,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミン0.12mlおよびブタジエン400mlを上記A)にて得られた溶液に加え、20?40℃の温度で20時間攪拌する。反応溶液の後処理により、固有粘度η=84ml/gのポリブタジエンが100%収率で得られる。」(第5頁左下欄第14行?同頁右下欄第12行)

(2-2)引用発明
引用刊行物4には、その特許請求の範囲に、「不活性有機溶媒中にて触媒としての式


(式中、RおよびR’は同一であつても異なつていてもよく、C3?C20のアルキル、C5?C7のシクロアルキルまたはC6?C10のアリールを示し:そしてMeはリチウム、ナトリウムまたはカリウム原子を示す)
に相当するアルカリ金属アミドと少なくとも1種の共役ジエンとを該触媒に対する溶解剤の存在下に接触せしめることを特徴とする共役ジエンの単独重合または共重合方法」〔摘示記載(2-1-イ)〕が記載されている。
上記の式(以下、「R’(R)N-Me」と表記する。)で表される「アルカリ金属アミド触媒」は、その構造及び共役ジエンを重合させる点からみてアニオン重合開始剤であることが明らかであるから、引用刊行物4には、「一般式
R’(R)N-Me
(式中、RおよびR’は同一であつても異なつていてもよく、C3?C20のアルキル、C5?C7のシクロアルキルまたはC6?C10のアリールを示し:そしてMeはリチウム、ナトリウムまたはカリウム原子を示す)
を有するアルカリ金属アミドを含有して成るアニオン重合開始剤」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものということができる。

(2-3)対比・判断
本件補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における一般式R’(R)N-Meにおいて、R’及びRが同一であってC3?C12のアルキル又はC5?C7のシクロアルキルの場合、R’(R)N-は本件補正発明1におけるA


と一致し、更に引用発明においてMeがLiの場合、引用発明のR’(R)N-Meは本件補正発明1における(A)Liと一致し、この化合物はその構造から「リチオアミン」といい得るものである。
そうすると、本件補正発明1と引用発明とは、
「一般式 (A)Li
[式中、Aは、一般式

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基(式中、R1は、3?12の炭素原子を有するアルキル、5?7の炭素原子を有するシクロアルキルから成る群から選ばれる]
を有するリチオアミンを含有して成る、アニオン重合開始剤」
である点で一致しているが、引用発明は、本件補正発明1の以下の構成を備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)「一般式 (A)Li(SOL)y[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分である]」を有する可溶化されたリチオアミンを含有する点、
(い)アニオン重合開始剤が「脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解した」ものである点、および、
(う)リチオアミンの一般式における「A」中の基R1が、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす」点
そこで、これらの相違点について以下に検討する。

まず、上記(う)の点に関し、引用刊行物4の実施例の記載をみると、リチオアミンとしてリチウムジプロピルアミド〔実施例1?3,11〕、リチウムジ-i-ブチルアミド〔実施例9,10:摘示記載(2-1-チ)〕が使用されており、これらのリチオアミンにおいて、窒素原子に隣接した二つの炭素原子はいずれも合計で3個以上の水素原子と結合している。よって、この点は実質的な相違点ではない。
次に、引用刊行物4には上記のように、不活性有機溶媒中にて、本件補正発明1の(A)Liに相当する触媒としてのアルカリ金属アミドと少なくとも1種の共役ジエンとを、該触媒に対する溶解剤の存在下に接触せしめることが記載されており〔摘示記載(2-1-イ)〕、また、好ましい溶解剤としてジメトキシエタンの如きジエーテル類およびN,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミンの如き第三級脂肪族ジアミン類が例示〔摘示記載(2-1-ホ)〕され、重合が通常の不活性溶媒例えば脂肪族炭化水素の中で行われること〔摘示記載(2-1-ヘ)〕も記載されている。更に引用刊行物4には、n-ヘキサン中でn-ブチル-リチウムとジ-i-ブチルアミンを反応させてリチウム・ジ-i-ブチルアミドの溶液を得、これに、N,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミンおよびブタジエンを加え、20?40℃の温度で20時間攪拌した後、反応溶液の後処理によりポリブタジエンを得る実施例〔摘示記載(2-1-チ)〕が示されている。
そうすると引用刊行物4には、脂肪族炭化水素溶媒中において、アミンから成る溶解剤の存在下でリチウムアミド(リチオアミン)をアニオン重合開始剤として機能せしめることが記載されているものということができ、溶解剤の作用により、本件補正発明1の(い)と同様にアニオン重合開始剤が脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したものと解される。
そして、このようなアニオン重合開始剤を調製するに際し、予め溶解剤成分を含有させてリチオアミンを可溶化しておくことは、引用刊行物4にも好ましい態様として記載されているのであって〔摘示記載(2-1-ト)〕、当業者が適宜選択すべき事項というべきである。
また、引用刊行物4には溶解剤の必要量について、「所望重合体の構造および分子量に依存して、単量体に対し0.01?3重量%である。一般に、アルカリ金属アミドは、その一部が未溶解で残るような量で加えられる(例えば単量体に対し0.01?1重量%)」〔摘示記載(2-1-ホ)〕と記載されており、当該必要量を、重合体の構造および分子量に応じて、アルカリ金属アミドと同程度以上の量とすることが開示されているのであるから、上記のようにリチオアミンに予め溶解剤成分を含有せしめる場合、その配合量をモル比でリチオアミンの1?3倍とすること、即ち本件補正発明1の(あ)のように「(A)Li(SOL)y(yは1?3)」とすることは、当業者が溶解剤の種類に応じた溶解性を考慮して、適宜実験的になし得たものというほかはない。
そして、本件明細書の記載をみても、本件補正発明1がこの点により、特に予測を超えた作用効果を生ずるものとも認められない。
よって、本件補正発明1は、引用刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3.小括
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第4 本件発明
平成18年11月27日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、本件出願の願書に添付された明細書および特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりの以下の事項により特定されるものである。
「【請求項1】
一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化1】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化2】

(式中、R2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤。
【請求項2】
有機リチウム化合物を脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒および可溶化剤の存在下で官能化剤と反応させるステップを含有して成る、該溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を製造する方法であって、該官能化剤は、一般式
【化3】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン化合物、並びに一般式
【化4】

(式中、R2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)
を有する環状アミン化合物から成る群から選ばれ、そして該可溶化剤が、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれ、かつ該可溶化剤と該有機リチウムのモル比が1?3である方法。
【請求項3】
脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を製造する方法であって、該溶媒の存在下で有機リチウム化合物を官能化剤{ここで、該官能化剤は、一般式
【化5】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン化合物、並びに一般式
【化6】

(式中、R2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミン化合物から成る群から選ばれる}と反応させて反応生成物を生成させるステップ;並びに該反応生成物を炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化剤と反応させて可溶化するステップ(ただし、該可溶化剤と該有機リチウムのモル比が1?3である)を含有して成る方法。
【請求項4】
ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを該連鎖末端に有してなる官能化されたポリマーであって、該官能基Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化7】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化8】

(式中、R2は3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とする官能化されたジエンポリマー及びコポリマー。
【請求項5】
官能化されたポリマー(i)を、エラストマー成分100部に対し少なくとも10部、必要に応じ他のエラストマー成分(ii)として天然ゴム、(i)以外の合成エラストマー、ないしはこれらの任意のブレンドを0-90重量部含み、更に該エラストマー成分100部に対しCTAB35-200m2/gであるカーボンブラック(iii)を5-100phr含んで成るゴム組成物であって、
ここで該ポリマー(i)は、少なくとも一つの可能基Aを該連鎖末端に有してなり、その構成モノマー単位として少なくとも一種の共役ジエンモノマー、および必要に応じ少なくとも一種のビニル芳香族モノマー、更に必要に応じ他のアニオン重合可能なモノマーを含んでなり、さらに該官能基Aは、
一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化9】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化10】

(式中、R2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項6】
官能化されたポリマー(i′)を、エラストマー成分100部に対し少なくとも10部、必要に応じ他のエラストマー成分(ii)として天然ゴム、(i′)以外の合成エラストマー、ないしはこれらの任意のブレンドを0-90重量部含み、更に該エラストマー成分100部に対しCTAB35-200m2/gであるカーボンブラック(iii)を5-100phr含んで成るゴム組成物であって、
但し該ポリマー(i′)が、少なくとも一つの官能基A、および少なくとも一つのスズ-炭素結合を、それぞれ異なる該連鎖末端に有してなり、その構成モノマー単位として少なくとも一種の共役ジエンモノマー、および必要に応じ少なくとも一種のビニル芳香族モノマー、更に必要に応じ他のアニオン重合可能なモノマーを含んでなり、
さらに該官能基Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化11】

(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化12】

(式中、R2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種の共役ジエンモノマーを含んでなるアニオン重合開始性モノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項7】
官能化されたポリマー(i″)をエラストマー成分100部に対し少なくとも10部、必要に応じ他のエラストマー成分(ii)として天然ゴム、(i″)以外の合成エラストマー、ないしはこれらの任意のブレンドを0-90重量部含み、更に該エラストマー成分100部に対しCTAB35-200m2/gであるカーボンブラック(iii)を5-100phr含んで成るゴム組成物であって、
但し該ポリマー(i″)が、少なくとも一つの官能基A、および末端停止剤、カップリング剤、または結合剤(官能性末端処理剤)と該リビング末端との反応に由来する第二の官能基をそれぞれ異なる該連鎖末端に有してなり、ここで第二の官能基の複数の種類の前記官能性末端処理剤を併用する場合は複数種類が混在していてもよく、その構成モノマー単位として少なくとも一種の共役ジエンモノマー、および必要に応じ少なくとも一種のビニル芳香族モノマー、更に必要に応じ他のアニオン重合可能なモノマーを含んでなり、さらに官能基Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化13】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、同じでも異なっていてもよく、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化14】

(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、C4-C7の脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種の共役ジエンモノマーを含んでなるアニオン重合開始性モノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とするゴム組成物。」(以下各請求項に係る発明をそれぞれ「本件発明1?7」という。)

第5 原査定の理由
原審における拒絶査定の理由である平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に記載された拒絶の理由のうち、理由1(1),2(2)の概要は、以下のとおりである。
(理由1)
(1)本件出願の請求項4に係る発明は、分割出願の基礎とされた特願平5-267763号の請求項7に係る発明と同一であり、本件出願は2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たに特許出願したものには該当しないから、分割出願の利益を受けることができず、その出願日は平成15年12月15日となるところ、本件出願の請求項1?7に係る発明は、原出願の内容を公開した特開平6-206920号公報〔引用文献1〕に記載された発明である。
(理由2)
(2)本件出願の請求項1?4に係る発明は、特開昭54-89号公報〔引用文献2〕,特開昭54-65788号公報〔引用文献3〕および特開昭50-79590号公報〔引用文献4〕に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 合議体の判断
1.本件分割出願後の原出願の特許請求の範囲に記載された発明
本件分割出願後の原出願の特許請求の範囲の請求項7に係る発明は、原出願に係る平成15年12月15日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項7に記載された以下のとおりのものである。
なお、原出願に係る明細書は、平成15年12月15日以降手続補正されることなく、平成18年8月8日付けで「原査定を取り消す。この出願の発明は特許すべきものとする。との審決を求める」との請求は成り立たない旨の審決がなされ、当該審決は確定している。
「【請求項7】 ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを該連鎖末端に有して成る官能化されたポリマーであって、該官能基Aは、一般式
【化15】 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そして
Aは、一般式
【化16】

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化17】

を有する環状アミン基
(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、そしてR2は、3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)から成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とする官能化されたジエンポリマー及びコポリマー。」〔以下、「原発明7」という。〕

2.本件発明4と原発明7との同一性
本件発明4と原発明7とを対比すると、両者は、
「ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを該連鎖末端に有してなる官能化されたポリマーであって、該官能基Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式


(式中、R1は、1?12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれる)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式


(式中、R2は3?7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とする官能化されたジエンポリマー及びコポリマー。」である点で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明4では、リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、原発明7ではこの点を規定していない点。
上記相違点について検討すると、原出願に係る明細書の段落【0075】には、「R1またはR2がジ-t-ブチル基、ジイソプロピル基または類似物である時には、生じる重合は、多分開始場所の窒素の回りの障害によって遅いことが見い出された。それ故、本発明の好ましい実施態様においては、アミン中の窒素に結合しているR1及びR2中の炭素原子はまた、3つの水素原子に結合している。」と記載されている。
リチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しているところ、原出願の明細書における「窒素に結合しているR1及びR2中の炭素原子はまた、3つの水素原子に結合している」することと、本件発明4における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかであり、基R1およびR2のうち「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」しているものは、原発明7においても好適な態様に該当するものである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明4は原発明7と同一である。

以上のとおり、本件発明4は、原発明7と同一であり、本件出願は、2以上の発明を包含する特許出願の一部を新たに特許出願したものには該当しないから、本件分割出願は適法なものではなく、その出願日は実際に願書が提出された平成15年12月15日となる。よって、原出願に係る公開公報(特開平6-206920号公報)は、本件出願に対しては公知刊行物である。

3.引用刊行物に記載された事項
(1)引用刊行物1
原審における平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に引用された特開平6-206920号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-イ)「【請求項1】 一般式
【化1】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化2】

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化3】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、そしてR2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、非環状アルカン溶媒中に可溶性のアニオン重合開始剤。
【請求項4】 ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを有することを有して成る、官能化されたポリマーであって、Aは、一般式
【化8】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化9】

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化10】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、そしてR2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する重合開始剤から誘導される官能化されたポリマー。」(特許請求の範囲)
(1-ロ)「後続する説明から明らかになるであろうように、本発明は、非環状アルカン、例えばノルマルアルカン例えばヘキサン、ペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、それらのアルキル化誘導体、それらの混合物及び類似物中に可溶性である新規な重合開始剤を提供する。」(明細書段落【0062】)
(1-ハ)「R1またはR2がジ-t-ブチル基、ジイソプロピル基または類似物である時には、生じる重合は、多分開始場所の窒素の回りの障害によって遅いことが見い出された。それ故、本発明の好ましい実施態様においては、アミン中の窒素に結合しているR1及びR2中の炭素原子はまた、3つの水素原子に結合している。」(明細書段落【0075】)
(1-ニ)「官能性アミン基は開始剤化合物から誘導されそして開始場所に結合する。かくして、実質的にすべての生成するポリマー連鎖は、以下の一般式
【化42】 AYLi
[式中、Aは上で述べたようであり、そしてYは上述のジエンホモポリマー、モノビニル芳香族ポリマー、ジエン/モノビニル芳香族ランダムコポリマー及びブロックコポリマーの任意のものから誘導される二価のポリマー基である]を有する。リチウム末端でのモノマーの添加は、重合が継続するにつれてポリマーの分子量を増加せしめる。」(明細書段落【0082】?【0083】)

(2)引用刊行物4
同じく、原審における平成18年4月10日付け拒絶理由通知書に引用された特開昭50-79590号公報(以下「引用刊行物4」という。)には、上記第3 2.(2?1)で摘示したとおりの事項が記載されている。

4.引用発明
(1)引用発明1?1
引用刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項1に、「一般式
【化1】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、
SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化2】

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化3】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、そしてR2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、非環状アルカン溶媒中に可溶性のアニオン重合開始剤。」が記載され〔摘示記載(1-イ)〕、さらに、当該アニオン重合開始剤は脂肪族炭化水素溶媒に可溶であること〔摘示記載(1-ロ)〕、前記リチオアミンの一般式中の基R1およびR2に関し、好ましい実施態様において、アミン中の窒素に結合しているR1及びR2中の炭素原子はまた、3つの水素原子に結合していること〔摘示記載(1-ハ)〕についても記載されているから、引用刊行物1には、以下の発明が記載されているということができる。
「一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、さらに窒素原子に結合している炭素原子は3つの水素原子に結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式


(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素原子に結合している炭素原子は3つの水素原子に結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒中に可溶性のアニオン重合開始剤。」〔以下「引用発明1?1」という。〕

(2)引用発明1-2
引用刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項4に「ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを有することを有して成る、官能化されたポリマーであって、Aは、一般式
【化8】(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化9】

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化10】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、そしてR2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する重合開始剤から誘導される官能化されたポリマー。」が記載され、さらに、当該アニオン重合開始剤が脂肪族炭化水素に可溶であること〔摘示記載(1-イ)〕、前記重合開始剤の部分構造[A]の一般式中の基R1およびR2に関し、好ましい実施態様において、当該基R1およびR2中の炭素原子は3つの水素原子と結合していること〔摘示記載(1-ハ)〕、生成するポリマー連鎖は一般式AYLi[Yはジエンホモポリマー、モノビニル芳香族ポリマー、ジエン/モノビニル芳香族ランダムコポリマー及びブロックコポリマーの任意のものから誘導される二価のポリマー基]を有していることが記載されているから、結局、引用刊行物1には、以下の発明もまた記載されているということができる。
「ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを該連鎖末端に有することを有して成る、官能化されたポリマーであって、Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式
【化9】

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれ、さらに窒素に結合している炭素原子は3つの水素原子と結合していることを満たす)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式
【化8】

(式中、R2は約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれ、さらに窒素に結合している炭素原子は3つの水素原子と結合していることを満たす)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とする官能化されたジエンポリマー及びコポリマー。」〔以下「引用発明1-2」という。〕

(3)引用発明2
引用刊行物4には、上記第3 2.(2?2)で認定したとおりの発明が記載されている〔以下この発明を「引用発明2」という。〕。

5.対比・判断
(1)本件発明1
(イ)本件発明1と引用発明1?1とを対比すると、両者は、「一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれる)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式


(式中、R2は、約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる)を有する環状アミンから成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒中に可溶性のアニオン重合開始剤。」で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明1では、リチオアミンの一般式における部分構造Aに含まれる基R1およびR2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、この点に関し、引用発明1?1では「窒素原子に結合している炭素原子は3つの水素原子に結合している」と規定している点。
上記相違点について検討すると、リチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しており、引用発明1-1における「窒素に結合しているR1及びR2中の炭素原子はまた、3つの水素原子に結合している」することと、本件発明1における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明1は引用刊行物1に記載された発明である。

(ロ)次に、本件発明1と引用発明2とを対比する。
引用発明2における一般式R’(R)N-Meにおいて、R’及びRが同一であってC3?C12のアルキル又はC5?C7のシクロアルキルの場合、R’(R)N-は本件発明1におけるA


と一致し、更に引用発明2においてMeがLiの場合、引用発明2のR’(R)N-Meは本件発明1における(A)Liと一致し、この化合物はその構造から「リチオアミン」といい得るものである。
そうすると、本願発明1と引用発明2とは、
「一般式 (A)Li
[式中、Aは、一般式

を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基(式中、R1は、3?12の炭素原子を有するアルキル、5?7の炭素原子を有するシクロアルキルから成る群から選ばれる]
を有するリチオアミンを含有して成る、アニオン重合開始剤」
である点で一致しているが、引用発明2は、本願発明1の以下の構成について規定していない点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)「一般式 (A)Li(SOL)y
[式中、yは、1?3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分である]」を有する可溶化されたリチオアミンを含有する点、
(い)アニオン重合開始剤が「脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解した」ものである点、および
(う)リチオアミンの一般式中の「A」中の基R1が、「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合していることを満たす」点
そこで、これらの相違点について以下に検討する。

まず、上記(う)の点に関し、引用刊行物4の実施例の記載をみると、リチオアミンとしてリチウムジプロピルアミド〔実施例1?3,11〕、リチウムジ-i-ブチルアミド〔実施例9,10:摘示記載(2-1-チ)〕が使用されており、これらのリチオアミンにおいて窒素原子に隣接した二つの炭素原子はいずれも合計で3個以上の水素原子と結合している。よって、この点は実質的な相違点ではない。
次に、引用刊行物4には上記のように、不活性有機溶媒中にて、本願発明1の(A)Liに相当する触媒としてのアルカリ金属アミドと少なくとも1種の共役ジエンとを、該触媒に対する溶解剤の存在下に接触せしめることが記載されており〔摘示記載(2-1-イ)〕、また、好ましい溶解剤としてジメトキシエタンの如きジエーテル類およびN,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミンの如き第三級脂肪族ジアミン類が例示〔摘示記載(2-1-ホ)〕され、重合が通常の不活性溶媒例えば脂肪族炭化水素の中で行われること〔摘示記載(2-1-ヘ)〕も記載されている。さらに引用刊行物4には、n-ヘキサン中でn-ブチル-リチウムとジ-i-ブチルアミンを反応させてリチウム・ジ-i-ブチルアミドの溶液を得、これに、N,N,N’,N’-テトラメチル-エチレンジアミンおよびブタジエンを加え、20?40℃の温度で20時間攪拌した後、反応溶液の後処理によりポリブタジエンを得る実施例〔摘示記載(2-1-チ)〕が示されている。
そうすると引用刊行物4には、脂肪族炭化水素溶媒中において、アミンから成る溶解剤の存在下でリチウムアミド(リチオアミン)をアニオン重合開始剤として機能せしめることが記載されているものということができ、溶解剤の作用により、本件発明1の(い)と同様にアニオン重合開始剤が脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したものと解される。
そして、このようなアニオン重合開始剤を調製するに際し、予め溶解剤成分を含有させてリチオアミンを可溶化しておくことは、引用刊行物4にも好ましい態様として記載されているのであって〔摘示記載(2-1-ト)〕、当業者が適宜選択すべき事項というべきである。
また、引用刊行物4には溶解剤の必要量について、「所望重合体の構造および分子量に依存して、単量体に対し0.01?3重量%である。一般に、アルカリ金属アミドは、その一部が未溶解で残るような量で加えられる(例えば単量体に対し0.01?1重量%)」〔摘示記載(2-1-ホ)〕と記載されており、当該必要量を、重合体の構造および分子量に応じて、アルカリ金属アミドと同程度以上の量とすることが開示されているのであるから、上記のようにリチオアミンに予め溶解剤成分を含有せしめる場合、その配合量をモル比でリチオアミンの1?3倍とすること、即ち本件発明1の(あ)のように「(A)Li(SOL)y(yは1?3)」とすることは、当業者が溶解剤の種類に応じた溶解性を考慮して、適宜実験的になし得たものというほかはない。
そして、本件明細書の記載をみても、本件発明1がこの点により、特に予測を超えた作用効果を生ずるものとも認められない。
したがって、本件発明1は、引用刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明4
本件発明4と引用発明1-2とを対比すると、両者は、
「ポリマー連鎖が少なくとも一つの官能基Aを該連鎖末端に有することを有して成る、官能化されたポリマーであって、Aは、一般式
(A)Li(SOL)y
[式中、yは、約1?約3であり、SOLは、炭化水素、エーテル、アミンまたはこれらの混合物から成る群から選ばれた可溶化成分であり、そしてAは、一般式

(式中、R1は、1?約12の炭素原子を有するアルキル、シクロアルキルまたはアラルキルから成る群から選ばれる)を有するアルキル、ジアルキル及びシクロアルキルアミン基、並びに一般式


(式中、R2は約3?約7のメチレン基を有するアルキレン、オキシ-またはアミノ-アルキレン基から成る群から選ばれる]を有する可溶化されたリチオアミンを含有して成る、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒に溶解したアニオン重合開始剤を用いて該ポリマー連鎖の原料の一部または全部となる少なくとも一種のアニオン重合可能なモノマーを重合開始することによって該ポリマー連鎖の開始側末端に導入された官能基Aである、ことを特徴とする官能化されたジエンポリマー及びコポリマー。」である点で一致し、以下の点でのみ一応相違している。
相違点:
本件発明4では、重合開始剤の一般式における部分構造「A」に含まれる基R1およびR2について「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」していることを規定するのに対して、この点に関し、引用発明1-2では、「窒素原子に結合している炭素原子は3つの水素原子に結合している」と規定している点。
上記相違点について検討すると、重合開始剤の活性成分であるリチオアミンが環状アミン類、非環状アミン類のいずれから誘導される場合についてみても、当該アミン類の基R1またはR2中には窒素原子に結合した炭素原子か2個存在しており、引用発明1-2における「窒素に結合している炭素原子は3つの水素原子に結合している」することと、本件発明4における「窒素原子に隣接した二つの炭素原子は合計で3個以上の水素原子と結合」することとが同義であることは明らかである。
したがって、上記相違点は実質的なものではなく、本件発明4は引用刊行物1に記載された発明である。

第7 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1,4に係る発明は、特許法第29条1項第3号に該当し、また、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-03-23 
結審通知日 2007-04-03 
審決日 2007-04-16 
出願番号 特願2003-417032(P2003-417032)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 福井 美穂
高原 慎太郎
発明の名称 溶媒に溶解したアニオン重合開始剤、その製造方法及びそれらからの生成物  
代理人 小田島 平吉  

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