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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効200335369 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 一部無効 2項進歩性 G11B |
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管理番号 | 1161149 |
審判番号 | 無効2005-80332 |
総通号数 | 93 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-09-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-11-21 |
確定日 | 2007-07-12 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2921538号発明「ビデオ装置及び映像装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2921538号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第2921538号の請求項1に係る特許についての出願は、平成4年2月28日に特許出願(優先権主張 平成3年11月6日)され、平成11年4月30日にその特許権の設定登録がなされたものである。 これに対し、平成17年11月21日付けで大宇電子ジャパン株式会社(以下、「請求人」という。)より特許無効審判の請求がなされ、平成18年2月7日付けで被請求人船井電機株式会社(以下、「被請求人」という。)より答弁書が提出された。 第2 本件発明 本件特許第2921538号の請求項1に係る特許についての発明(以下、「本件発明」という。)は、特許査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(なお、便宜上、当審で構成要件を(A)?(C)に分説した。)。 「【請求項1】 (A) 回路基板上に高周波トランスを含む電源回路が設けてあり、該回路基板の上方にビデオ機構部品搭載用シャーシが略平行に配置され、かつ該ビデオ機構部品搭載用シャーシ上にビデオ・ヘッド・シリンダが搭載されたビデオ装置であって、 (B) 前記高周波トランスは、その高周波磁束を生ずるコア・ギャップの面を前記回路基板の面に対して水平となるように配置し、 (C) 該高周波トランスからの漏れ磁束の磁力線方向が、前記ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップのピックアップしやすい磁力線方向と略直交するように構成したことを特徴とするビデオ装置。」 第3 審判請求人の主張の概要 請求人は、審判請求書において、以下の理由I乃至IVにより、本件請求項1に係る発明についての特許を無効にすべき旨主張するとともに、以下の証拠方法を提出している。 (理由I)本件について、平成10年9月9日付けで行った手続補正は、発明の要旨を変更する補正に該当し、出願公告前になされた補正が要旨変更であると特許権の設定の登録があった後に認められたときはその特許出願はその補正について手続補正書を提出したときにしたものとみなされる(平成5年改正前特許法第40条)ことから、基準日は平成10年9月9日となり、本件発明は平成5年8月6日発行の実開平5-59697号公報に記載の考案と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるにもかかわらず特許されたものであり、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (理由II)本件請求項1に記載された発明は、いわゆる当業者が容易にその実施をすることができる程度に、明細書の詳細な説明に目的、構成及び効果が記載されておらず、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、平成5年改正前特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないにもかかわらず特許されたものであり、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (理由III)仮に、平成10年9月9日付けで行った手続補正が要旨変更ではないと認められたとしても、本件発明は、その出願(平成4年(1992年)2月28日、優先日:平成3年(1991年)11月6日)前に日本国内において公然と実施をされた発明(甲第11号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるにもかかわらず特許されたものであり、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 (理由IV)仮に、平成10年9月9日付けで行った手続補正が要旨変更ではないと認められたとしても、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された甲第12号証から甲第16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるにも拘わらず特許されたものであり、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とされるべきである。 <証拠方法> 甲第1号証:特許第2921538号公報 甲第2号証:特開平5-183840号公報 甲第3号証:特願平4-79224号に関する平成8年7月17日付起案の拒絶理 由通知書 甲第4号証:特願昭4-79224号に関する平成8年9月30日付提出の手続補 正書 甲第5号証:特願昭4-79224号に関する平成8年9月30日付提出の意見書 甲第6号証:特願平4-79224号に関する平成9年10月6日付起案の拒絶理 由通知書 甲第7号証:特願昭4-79224号に関する平成9年12月15日付提出の手続 補正書 甲第8号証:特願平4-79224号に関する平成10年7月7日付起案の拒絶理 由通知書 甲第9号証:特願昭4-79224号に関する平成10年9月9日付提出の手続補 正書 甲第10号証:実開平5-59697号公報 甲第11号証:松下電器産業株式会社製「PANASONIC AG-101CR」製造番号 I0C200338を撮影した写真 甲第12号証:特開昭58-30291号公報 甲第13号証:実願昭55-111406号(実開昭57-35015号)のマイクロフィル ム 甲第14号証:特開平1-245597号公報 甲第15号証:「テレビ技術」1990年2月号、「新技術搭載スーパーVHS ビデオ:松下電器 積層形アモルファスヘッド搭載 NV-FS9 00」 甲第16号証:「電子技術」1990年9月号、「高周波スイッチング電源」 甲第17号証:平成16年(ワ)第12975号 実用新案権侵害行為差し止め 等請求事件 原告(本件の被請求人)訴状 第4 被請求人の主張の概要 被請求人は、答弁書を提出して概要以下のとおり答弁している。 1.答弁の概要 被請求人は、請求人が主張する無効理由I乃至IVは、何れも合理的な根拠を欠く失当なものであり、本件審判請求は成り立たないものである旨、主張し、以下の証拠方法を提出している。<証拠方法> 乙第1号証:本件の出願当初の明細書 2.答弁の具体的理由 (1)無効理由Iに対する反論 平成10年9月9日付手続補正によって追加された本件請求項1に係る発明は、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内のものである。 本件の出願当初の明細書(乙第1号証)から明らかなとおり、同明細書には高周波トランスとビデオヘッドを有する空間(限られた空間内)で、ビデオヘッドが高周波トランスから発生する漏れ磁束によるノイズの影響を受けないように部品の配置を特定するという技術思想が開示されている。そして、発明者・出願人は、出願当初において、その実施例として、テレビ・ビデオ一体型の映像装置を発明の実施例として挙げ、かつ特許請求の範囲とした。しかし、出願人は、その他の適用例を排除した訳ではない。出願当初明細書においてテレビ・ビデオ一体型の実施例しか示されていないからといって、本件の発明を限定的に解釈すべきものではない。 したがって、単独の「ビデオ装置」を特許請求の範囲に追加することは、出願当初の明細書に記載した事項の範囲内で「ビデオ装置」部分のみを抽出し追加しただけのことであって、この補正は要旨変更には当たらない。 (2)無効理由IIに対する反論 上記(1)のとおり、「テレビ装置とビデオ装置とを同一のケース内に収容した映像装置」のビデオ装置部分の設計者と単独の「ビデオ装置」の設計者は共通しているのであるから、明細書に開示された「テレビ装置とビデオ装置とを同一のケース内に収容した映像装置」の「ビデオ装置」部分に係る発明事項は、単独の「ビデオ装置」に共通して適用できるものである。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、単独の「ビデオ装置」に係る問題点とその解決手段が全て開示されているということになる。換言すれば、本件明細書の「テレビ装置とビデオ装置とを同一のケース内に収容した映像装置」に係る「ビデオ装置」部分の実施例を見れば、当業者であれば、単独の「ビデオ装置」についても、シールドなしでビデオヘッドのノイズの影響を排除する本件発明の解決手段に思い至ることは自明の事項である。 (3)無効理由IIIに対する反論 ア)甲第11号証の装置は、それが公然実施された時期が明らかではなく、甲第11号証の装置が本件出願前に公然実施された発明に該当するとはいえない。 甲第11号証の装置が、製造されてからどの位の期間を経て出荷され公然実施されたものとなったかは不明であるため、上記のとおり公然実施されたときは不明である。 また、甲第11号証の写真8乃至写真10で示されている製造年月日の刻印は、部品に関するものであって、装置全体に関するものではなく、甲第11号証の装置が1990年9月11日に製造されたものともいえない。 イ)甲第11号証の装置には、本件請求項1に係る発明の構成要件A、B及びCが存しない。上記構成の相違により、本件請求項1に係る発明の効果のうち、少なくとも「高周波トランスの回りを磁気シールドする必要もないので、低コスト化及び軽量化を図ることができる」という効果は甲第11号証の装置には存しない。 (4)無効理由IVに対する反論 ア)甲第12号証 (技術課題の相違点) 本件請求項1に係る発明と甲第12号証の発明は、「ノイズ対策」を行うという意味において、課題において共通するものがある。 しかし、本件請求項1に係る発明は「ビデオ装置」におけるノイズ対策であるのに対して、甲第12号証の発明は、「テレビ受像機」におけるノイズ対策であるから、本件請求項1に係る発明では、甲第12号証の発明と比べて極めて厳密なノイズ対策が求められるものであり、両者のノイズ成分とレベルが全く異なり、その解決しようとする課題は全く異なるものである。 (構成の相違点) 甲第12号証の装置には、本件請求項1に係る発明の構成要件A、B及びCが存しない。 (作用効果の相違点) 上記構成上の相違により、本件請求項1に係る発明の効果のうち、少なくとも、「高周波トランスからの漏れ磁束によるビデオヘッドの干渉が少ないビデオ装置を得ることができる」という効果、及び、「高周波トランスとビデオヘッドの距離を近づける事ができることによるスペースの有効利用、さらには、これによる装置の小型化」という効果は、甲第12号証の発明には存しない。 イ)甲第13号証 甲第13号証の考案の技術課題は、本件請求項1に係る発明の技術課題とは全く異なり、甲第13号証の考案には、本件請求項1に係る発明の構成要件A、B及びCが存しない。そして、上記構成上の相違により、甲第13号証の考案には、本件請求項1に係る発明に特有の効果が存しない。 ウ)甲第14号証 (技術課題の相違点) 本件請求項1に係る発明と甲第14号証の発明とは、「ノイズ対策」を行うという意味において、技術課題が共通している。 しかし、本件請求項1に係る発明は、磁気シールドによらずにノイズ対策をしようとするものであり、シールドを強化(2重構造に)することで課題を解決しようとする甲第14号証の発明とは、課題解決のための技術思想が異なる。 (構成の相違点) 甲第14号証の発明には、本件請求項1に係る発明の構成要件A、B及びCが存しない。 (作用効果の相違点) 上記構成上の相違から、甲第14号証には、少なくとも「高周波トランスの回りを磁気シールドする必要もないので、低コスト及び軽量化をはかることができる」という作用効果は期待し得ない。 エ)甲第15、16号証 甲第15、16号証の発明には、本件請求項1に係る発明の構成要件A、B及びCが存しない。 オ)本件請求項1に係る発明と先行技術文献との比較 a.甲第12、15、16号証との比較 甲第15号証に記載の「制振動トランス」を単に甲第16号証に記載の「トランス」に置き換えるには、阻害要因が存在し、当業者にとって容易に想到できるものではない。 仮に、甲第15号証及び甲第16号証に記載の各装置を組み合わせることができたとしても、本件請求項1に係る発明の構成要件のA及びCの一部が存しない。 甲第12号証に開示された「遅延素子1」の配置に係る技術思想を参酌して甲第15号証の第2図に示されている「ビデオ・ヘッド・シリンダ」の配置を決めることは、当業者が容易に想到し得るものではない。 b.甲第12、13、14号証との比較 甲第12号証に開示された「遅延素子1」の配置に係る技術思想を甲第14号証に記載の「シリンダ11」の配置に流用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。 甲第13号証に記載の「プリント基板34」、甲第14号証に記載の「プリント基板10」、及び、甲第12号証に記載の「取付基板5」は全く異質なものであるから、甲第13号証に開示されたトランスの組立て・取付けに係る技術思想を、甲第14号証の「コイル6」及び甲第12号証の「フライバック・トランス6」の組立て・取付けに流用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。 仮に、甲第12号証から甲第15号証に記載の発明・考案を組み合わせたとしても、本件請求項1に係る発明の構成要件のうち、Aの一部、B及びCの一部の構成が存しない。 第5 当審の判断 請求人が主張する無効理由IVについて検討する。 1.本件発明 上記「第2 本件発明」において示したとおりである。 2.甲各号証の記載 請求人が提出した本願出願前に頒布された刊行物である甲各号証の記載乃至開示事項は、以下のとおりである(なお、下線は当審で付与した。)。 (1)甲第12号証(特開昭58-30291号公報) ア)「本発明は、テレビ受像機における遅延素子の配置構造に関する。」(第1頁左下欄第19?20行) イ)「上記遅延素子は回路設計上などの制約から、フライバック・トランスの近くの場所に取り付けられるのが一般である。」(第1頁右下欄第8?9行) ウ)「第2図は、その遅延素子1の取付基板5に対する従来の取付状態を示す図であり、遅延素子1は取付基板5の部品取付パターンの設計上から上記したように、取付基板5にコイル軸線Y-Yが直交するように取り付けられたフライバック・トランス6の近傍で、しかもコイル軸線X-Xがそのフライバック・トランス6に取り付けられるように,その取付基板5に直接取り付けられている。」(第1頁右下欄16行?第2頁左上欄3行) エ)「目的は、遅延素子のコイル軸線とフライバック・トランスからの磁束とが直交するようにして、シールドケースなどのシールド部材を使用せずとも遅延素子がフライバック・トランスに対して磁気的に結合しないようにした遅延素子の配置構造を提供することである。」(第2頁右上欄5?11行) オ)「本実施例は、第3図に示すように,フライバック・トランス6から発生する磁束の接線が直交する前記した仮想水平面Z-Zに、遅延素子1をそのコイル軸線X-Xが一致するように配置したものである。」(第2頁右上欄第13?17行) カ)「上記のように遅延素子1を位置づけることにより、その遅延素子1を通る磁束Fは、すべてそのコイル軸線X-Xに直交することになり、その磁束Fに含まれているリンギング成分による電圧誘導は効果的に抑制される。よって、シールドケースなどの磁気シールド材を用いなくとも、遅延素子1とフライバック・トランス6との磁気的結合は問題とならず、水平妨害縞成分が有効に除去される。」(第2頁左下欄第5?13行) キ)第2図及び第3図には、フライバック・トランス6のコアギャップの面を取付基板5に対して水平となるように配置していることが示されている。 (2)甲第13号証(実願昭55-111406号(実開昭57-35015号)のマイクロフィルム) ア)「本考案は増幅回路、発振回路などトランスを有する電気回路に係り、特に、プリント基板上に構成した電気回路において使用するトランスの取付構造に関する。」(第1頁第11?14行) イ)「第1図は本考案の対象になるDC-DC コンバータの回路図を示し、6は 電流電源、13は電源スイッチ、30は直流電源6の電圧を発振動作により高圧の交流に変換するための発振回路、8はその交流出力を整流して高圧の直流に変換するためのダイオード、10はダイオード8の高圧値流出力を蓄電するコンデンサである。発振回路30はスイッチングトランジスタ7aと、1次側巻線2と2次側高圧巻線4を有するトランス 5aと、コンデンサ9、22と、抵抗23及びトランジスタ保護用のダンパーダイオード25よりなり、第2図示のようにこの発振回路30の構成に必要なパターン33を備えたプリント基板34に、必要部品、すなわちトランジスタ 7a、トランス5a、コンデンサ9、22、抵抗23及びダンパーダイオード25等を取付け配線して構成される。そして必要部品中のトランス5aは互いに組み合わされるコア31、32をプリント基板34に挟んで取り付けられる。」(第2頁第5行?第3頁第2行) ウ)「例えばE形-I形のコア組合せの場合は第3図示のようにプリント基板34にE形コア31の中心コア部31aを貫通させる孔34aと両側コア 31b、31cを挟込む切欠部34b、34cを形成し、このコア34a及び切欠部34b、34cにそれぞれE形コア31のコア部31a及び31b、31cを挿通せしめ,基板34より突出した中心コア部31aに1次側巻線2及び2次側高圧巻線4を嵌装して上下2層に積層し、E形コア31の開放側にI形コア32を装着してトランス5aをプリント基板34に組立て取付けるものである。」(第3頁第2?12行)。 (3)甲第14号証(特開平1-245597号公報) ア)「本発明は、カメラ一体型等の磁気記録再生装置の小型軽量化及び低消費電力化に関し、特にスイッチング電源を備えた磁気記録再生装置に関するものである。」(第1頁左下欄第15?18行) イ)「近年例えばカメラ一体型のように小型、軽量、低消費電力化された磁気記録再生装置の開発が急速に進められており、低消費電力化のために、スイッチング電源は必要不可欠であるが、一方小型化していく上でスイッチングノイズ妨害の対策が必要となってきている。」(第1頁左下欄末行?同頁右下欄第5行目) ウ)「第3図は従来の磁気記録再生装置の電源部の回路図・・・である。 第3図において、1はバッテリ入力端子である。2と3はスイッチングノイズがラインへ出ないよう防止するLCフィルタを構成するコイル及びコンデンサ、4はスイッチングトランジスタ、5はスイッチングトランジスタを制御するスイッチングパルス入力端子である。6と7はスイッチングトランジスタ4の出力を平滑するLCフィルタを構成するコイル及びコンデンサである。8はスイッチングされて平滑されたDC電圧の出力端子である。」(第1頁右下欄第7?19行) エ)「第1図は本発明の一実施例における磁気記録再生装置の要部の構成を示すものである。 第1図において、6は平滑用のコイル、9はシールドケース、10は部品及びシールドケース9を実装するプリント基板、11は映像信号をテープ上へ記録再生する回転シリンダ、12はテープ走行機構及び回転シリンダ11を固定するメカ基板、13はシリンダ11に搭載された磁気ヘッドにより前記テープ上から再生された微弱信号を約1000倍に増幅するヘッドアンプ、14は強磁性体のパーマロイ等よりなる2重シールド用のシールド材、15、16は基板間で信号を接続するためのフレキシブル線材である。」(第2頁左下欄第2?14行) オ)「第1図においてスイッチング波形平滑用のコイル6から幅射するスイッチングノイズは、対面するシリンダ11の磁気ヘッド、回転トランス及びフレキシブル線材15、16へ影響し画面上にスイッチング電源ビートとしてあらわれる。このスイッチングノイズを防止するため、ブリキ板等により密封状態とするシールドケース9によりシールドを行い、録再映像信号へ飛び込むスイッチングノイズを防止している。」(第2頁左下欄第18行?同頁右下欄第6行) カ)第1図には、メカ基板12がプリント基板10に対して平行に配置され、かつメカ基板12 の上に搭載された回転シリンダ11が示されている。 (4)甲第15号証(「テレビ技術」1990年2月号 p.19-29) スーパーVHSビデオ(松下電器 積層形アモルファスヘッド搭載 NV-FS900)に関し、メカシャーシを筐体の中心に配置し、その下にシスコン基板を設け、トランス(制振動トランス)をメカシャーシの後方に配置するとともに、ビデオ・シリンダ・ヘッドをシャーシに平行に配置したビデオデッキが開示されている(第2図参照。)。 (5)甲第16号証(「電子技術」1990年11月号 日刊工業新聞社 p.53-54) 高周波スイッチング電源のノイズ低減に関し、トランス等の回路基板に対する実装図が示されている(図2等)。 3.対 比 請求人の提出した甲第14号証には、その上記ア)?カ)の摘記事項を参酌すると、スイッチング電源を用いた磁気記録再生装置において、スイッチング平滑用のコイルより輻射されるスイッチングノイズを低減し、映像信号へノイズが入ることを防止するという目的をもって、次の発明が記載されているものと認められる(特に、第1図を参照。以下、「引用発明」という。)。 「プリント基板10上に、スイッチング用トランジスタとスイッチング波形平滑用のコイル6と平滑用コンデンサとを含むスイッチング電源が設けてあり、該プリント基板10の上方にメカ基板12が略平行に配置され、かつ該メカ基板12上にテープ走行機構及び回転シリンダ11を固定された磁気記録再生装置であって、 前記平滑用コイル6をシールドケース9で密封状態とするとともに、シールドケース9と同一または略同一形状で、シリンダ11、ヘッドアンプ13、フレキシブル線材15、16に対面する部分に材質の異なるシールド材14(パーマロイ等の強磁性体)を接着して2重にシールドした磁気記録再生装置。」 そこで、本件発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明が対象とする「磁気記録再生装置」は、本件発明が対象とするいわゆる「ビデオ装置」のことであることは明らかである。 引用発明における「プリント基板」は、本件発明における「回路基板」のことである。 引用発明における「スイッチング用トランジスタとスイッチング波形平滑用のコイル6と平滑用コンデンサとを含む」「スイッチング電源」は、スイッチング電源回路という意味で、本件発明における「高周波トランスを含む電源回路」と共通する。 引用発明における「回転シリンダ」は、本件発明におけるいわゆる「ビデオ・ヘッド・シリンダ」のことであり、また、「テープ走行機構及び回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)」は、本件発明における「ビデオ機構部品」と言えるものである。 引用発明における「メカ基板」は、その上にテープ走行機構及び回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)等の「ビデオ機構部品」が固定(搭載)されるものであるから、本件発明における「ビデオ機構部品搭載用シャーシ」に相当する。 そうすると、本件発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 回路基板上にスイッチング電源回路が設けてあり、該回路基板の上方にビデオ機構部品搭載用シャーシが略平行に配置され、かつ該ビデオ機構部品搭載用シャーシ上にビデオ・ヘッド・シリンダが搭載された ビデオ装置。 そして、次の点で相違する。 <相違点> 「スイッチング電源回路」に関し、本件発明においては、高周波トランスを含むものであり、この高周波トランスはその高周波磁束を生ずるコア・ギャップの面を回路基板の面に対して水平となるように配置するものであり、該高周波トランスからの漏れ磁束の磁力線方向が、前記ビデオ・ヘッド・シリンダのヘッド・ギャップのピックアップしやすい磁力線方向と略直交するように構成するものであるのに対し、引用発明においては、このことについて示されていない点。 4.判 断 そこで、上記相違点について検討する。 引用発明におけるスイッチング電源(電源回路)は、スイッチング用トランジスタとスイッチング波形の平滑用コイルと、平滑用コンデンサとを含むもの(具体的には、甲第14号証の第3図で示されるスイッチング電源)である。 一方、VTR等の磁気記録再生装置(ビデオ装置)の電源回路として、高周波トランスを含むスイッチング・レギュレータ回路を使用することは、特開昭61-79393号公報、特開昭63-253866号公報、及び、特開昭64-12859号公報にもみられるように本件の出願前にごく周知の技術にすぎない。 また、甲第13号証には、DC-DCコンバータ(スイッチング・レギュレータ)に用いる高周波トランスのE-I形コアのギャップ面をプリント基板に平行に配置して取り付けることが記載されており、基板に対するこのようなコアの取付け方はごく通常の態様である。 してみると、磁気記録再生装置をその対象とする引用発明において、電源回路として、スイッチング用トランジスタとスイッチング波形の平滑用コイルと、平滑用コンデンサとを含むスイッチング電源に替えて、単に、上記周知の高周波トランスを含むスイッチング・レギュレータ回路を使用し、該回路に用いる高周波トランスのコアのギャップ面をプリント配線基板に対し平行に配置する程度のことは当業者が容易に想到できたものである。 その場合、回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)のヘッド・ギャップの面が、プリント配線基板(回路基板)と平行に設けられるメカ基板(ビデオ機構部品搭載用シャーシ)に対してほぼ垂直の方向に設けられることがごく通常の態様であることを考えると、スイッチング電源の高周波トランスからの漏れ磁束の磁力線方向が、前記回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)のヘッド・ギャップのピックアップしやすい磁力線方向と略直交するように構成されることは明らかである。 そして、引用発明は、磁気記録再生装置において、スイッチング・レギュレータ回路を電源回路として使用するとノイズが発生し映像信号に悪影響を与えるのを防止することをその目的とするものであり(このようなノイズによる影響が発生すること自体は、前掲の特開昭61-79393号公報、及び、特開昭61-248676号公報にもみられるところである。)、甲第12号証にもみられるように、トランスの磁束を生ずるコア・ギャップの面を基板に対して平行となるように配置して素子の作用磁束と略直交させれば、トランスからの磁束による素子に対する磁気的影響を抑制できることは明らかであるから、引用発明において、上記のように、電源回路として周知の高周波トランスを含むスイッチング・レギュレータ回路を用いた場合、スイッチング電源の高周波トランスからの漏れ磁束の磁力線方向が、前記回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)のヘッド・ギャップのピックアップしやすい磁力線方向と略直交するように構成されることにより、該高周波トランスからの磁束による回転シリンダ(ビデオ・ヘッド・シリンダ)に対する磁気的影響を抑制できることは技術上当然予測しうる作用効果と言うべきである。 5.むすび 以上のとおりであって、本件請求項1に係る発明は、甲第12号証乃至甲第14号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件審判請求人が主張する他の無効理由を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-07-06 |
結審通知日 | 2006-07-11 |
審決日 | 2006-07-31 |
出願番号 | 特願平4-79224 |
審決分類 |
P
1
123・
121-
Z
(G11B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 中村 和男、大野 雅宏 |
特許庁審判長 |
片岡 栄一 |
特許庁審判官 |
山田 洋一 江畠 博 |
登録日 | 1999-04-30 |
登録番号 | 特許第2921538号(P2921538) |
発明の名称 | ビデオ装置及び映像装置 |
代理人 | 西山 文俊 |
代理人 | 矢部 耕三 |
代理人 | 安江 邦治 |
代理人 | 大塚 就彦 |
代理人 | 渋谷 和俊 |
代理人 | 牧野 利秋 |
代理人 | 本多 泰介 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 佐久間 幸司 |