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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C02F
管理番号 1161398
審判番号 無効2004-80001  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-02 
確定日 2007-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3235990号発明「流体イオン化装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3235990号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯・本件発明

本件特許第3235990号の請求項1ないし6に係る発明についての出願は、平成10年9月8日に出願され、平成13年9月28日にそれらの発明についての特許権の設定登録がなされたものであって、本件請求項1ないし6にかかる発明(以下、「本件発明1ないし6」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(ここで、本件発明1ないし6については、特定事項を(A-1)から(A-13)までに分節して記載することとする。)

「【請求項1】
(A-1): 左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)と、
(A-2): 該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され、上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)から構成され、
(A-3): 上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を、上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように、磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し、
(A-4): 該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめ、
(A-5): コンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成し、
(A-6): コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させ、
(A-7): 且つ突起物等を有するパイプ(2)への取り付けを容易にした
(A-8): 流体イオン化装置。
【請求項2】
(A-9): 対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成された
(A-8): 請求項1の流体イオン化装置。
【請求項3】
(A-10): コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を、該ユニット(15)の下端側から挿入し、一体的に固定するケース(18)を設けた
(A-8): 請求項1又は2の流体イオン化装置。
【請求項4】
(A-11): ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ、該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめた
(A-8): 請求項3の流体イオン化装置。
【請求項5】
(A-12): ケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめた
(A-8): 請求項3の流体イオン化装置。
【請求項6】
(A-13): 挿通部がユニット(15)の下端面と、ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)からなる
(A-8): 請求項5の流体イオン化装置。」

II 当事者の主張および証拠方法

1 請求人の主張の概要

理由1
本件発明1ないし6に係る特許は、他人の創作物であるにも係わらず、偽りの発明者を発明者として取得したものであり、特許法第123条第1項第6号に該当し、無効とすべきものである。
理由2
本件発明1ないし6は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件発明に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

なお、請求人は、本件特許は、日本における販売代理人の地位を不当に独占する意図のもとに出願したものであるから、特許法第32条の規定に違反してなされたものであり、本件発明に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである旨の主張もしていたが、該主張は口頭審理において撤回された。
なお、また、請求人は、口頭審理陳述要領書の第7頁において、本件発明1が特許法第36条第6項の規定に違反する旨の主張をしているが、該主張は、審判請求書に記載されている無効理由ではないので、請求人の主張として採用しない。

2 請求人の証拠方法

甲第1号証 :本件特許の登録原簿謄本
甲第2-1号証 :本件特許公報
甲第2-2号証 :本件特許の公開公報(特開2000-84564号公報)
甲第3号証 :米国特許第5269915号公報
甲第4号証 :米国特許第5269916号公報
甲第5号証 :限定的独占販売契約書
甲第6号証 :小林剛の陳述書
甲第7号証 :1988年8月1日付けSuper USA LLC から株式会社ヒューマンネットワークの社長波田野辰雄氏宛の書簡
甲第8号証 :1988年8月4日付けSuper USA LLC から株式会社ヒューマンネットワークの社長波田野辰雄氏宛の書簡
甲第9-1号証 :平成14年9月20日付審決(無効2001-35430号審決)
甲第9-2号証 :平成14年11月20日付審決(無効2001-35431号審決)
甲第9-3号証 :平成14年11月20日付審決(無効2001-35432号審決)
甲第10号証:コロネル・クライアの Statement
甲第11号証:株式会社ヒューマンネットワークのパンフレット
甲第12号証:株式会社ヒューマンネットワークのカタログ
甲第13号証:波田野辰雄の身上調書
甲第14号証:平成15年2月19日付判決 損害賠償請求事件(平成11年(ワ)第1710号)
参考資料1:和解調書

3 被請求人の主張の概要

無効理由1に対して
本件発明1ないし6に係る特許は、他人の創作物ではなく、本当の発明者を発明者として取得したものであり、特許法第123条第1項第6号に該当せず、無効とすべきものではない。

無効理由2に対して
本件発明1ないし6は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではなく、本件発明1ないし6に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。

4 被請求人の証拠方法

乙第1号証 :流体イオン化装置写真(平成9年8月9日撮影)
乙第2号証1 :特許第3350640号公報
乙第2号証2 :特開2000-314260号公報
乙第2号証3 :特許第3429228号公報
乙第2号証4 :特開2004-223508号公報
乙第2号証5 :実用新案登録第3063197号公報
乙第3号証1 :意匠第1053608号公報
乙第3号証2 :意匠登録第1053608-1号公報
乙第3号証3 :意匠登録第1037106号公報
乙第3号証4 :意匠登録第1037109号公報
乙第3号証5 :意匠登録第1053630号公報
乙第3号証6 :意匠登録第1053657号公報
乙第3号証7 :意匠登録第1053658号公報
乙第3号証8 :意匠登録第1053659号公報
乙第3号証9 :意匠登録第1102080号公報
乙第3号証10 :意匠登録第1182290号公報
乙第4号証 :流体イオン化装置によりパイプ内に発生する磁気の測定(平成17年6月1日付)

5 甲第3号証及び甲第4号証の記載事項

本件発明との関連から甲第3号証の記載の一部を摘示又は記載を要約すると次のようになる。

・甲第3号証には次のような記載がある。
(ア-1) 「鉄製パイプ(P)の内側に磁束を生ぜしめる磁気源とコンデンサーは相対向する大きな面をもつ矩形の磁石(M)と磁石を挟持する一対の磁極片(NとS)からなる。磁極片は各々、磁石の下部をパイプに隣接して延伸する足(NfとSf)をもつ。磁極片と足によって、磁石からの磁束は、パイプに適用される前に集中される。」(アブストラクト欄第1?8行、訳文 抄録欄第1?4行)と記載されている。
(ア-2) 「磁石Mは左面が一つの極、即ちN極、右側が対極、即ちS極」(第5欄第2?4行、訳文 第6頁21行)と記載され、さらにFIG 1には直方体の磁石Mが図示されている。
(イ-1) 「磁石Mの左面、即ちN極に密着しているのは磁気的に飽和した鋼製コンセントレータ、即ち磁極片Nであり、磁石Mの右面、即ちS極に密着しているのは磁気的に飽和した鋼製コンセントレータ、即ち磁極片Sである」(第5欄第5?9行、訳文 第6頁第23?25行)と記載され、さらにFIG 1には一対のコンセントレータが磁石Mの両側面を覆う状態が図示されている。
(イ-2) 「磁極と磁石を風雨からさらに保護するために非磁性のカバーと被覆を用いてもよい」(第5欄第46?48行、訳文 第7頁第13?14行)と記載されている。
(ウ-1) FIG 2には、コンセントレータ(N、S)の下端面(Na、Sa)がパイプに当接した状態が図示されており、FIG 1によれば、その下端面Na、Saは内側に傾斜している。
(ウ-2) 「当接面NaとSaは半径5cm、弧長さ2cmでパイプPに密着して当接して」(第6欄第12?14行、訳文 第7頁第30?31行)と記載されている。
(エ) 「磁束線Gはすべて水流の方向Fに対して完全に垂直である」(第7欄第4?5行、訳文 第8頁第26行)と記載されている。
(オ) 「図2において、図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて、非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」(第5欄第52?54行、訳文 第7頁第16?17行)と記載されている。
(カ-1) 「この装置は、全ての鉄製及び非鉄製のパイプのための自蔵のイオン化装置を提供する。それは、それらのパイプのなかの流体および溶解・懸濁した固体をイオン化して」(第4欄第14?18行、訳文 第5頁第22?23行)と記載されている。
(カ-2) 「本発明の開示の範囲内で多くの応用と変形がなされうる。例えば種々の材料や種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用できる。その部品は前述とは異なった形状にしてもよい。磁石と磁極片は、正方形の代わりに長く、矩形にしてもよい。」(第8欄第34?40行、訳文 第10頁第16?20行)
(キ)
「(キ-1) 一対の対向する平面状の大きな面および該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源、
該大きな面の一つがS極でもう一方の該大きな面がN極であるように装着され(charged)た該磁石、
(キ-2) 磁極片の各々は一対の対向する平面状の大きな面をもち、その一つは内側の大きな面で他方は外側の大きな面で、該内側の大きな面の面積は該磁石の大きな面の面積に等しく、該外側の大きな面の面積は該磁石の該大きな面の各々より大きい、一対の磁極片を含むコンデンサー、
該磁石の対向する両側に、該磁極片が該磁石を挟持し、各磁極片の該内側の大きな面は該磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い、かつ、各磁極片の該外側の大きな面は該磁石から反対側を向くように配置された該磁極片、
(キ-3) 該磁極片は、互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された足をもち、各々の足は該磁石に対して遠位と近位の面をもち、各々の足は対向する足の端部から離れた端部をもつ、そのような、各磁極片の該内側の大きな面に対し垂直に延伸した統合された(integral)足をもつ各磁極片、
所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位面、
該磁石の該小さな面と接触している各足の該近位面、からなり、
(キ-4) これにより、該パイプ内のスケール、腐食及び藻類蓄積(build)を減ずるように、該磁石と磁極片が、各足の遠位面は該パイプに接触し、該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに、該磁石と磁極片は、該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめ、該パイプの内側を流れるいかなる流体も該磁束線を切って、該パイプを該流体に対して陰に荷電し、該流体及び該流体中のいかなる溶解並びに懸濁した固体をイオン化する望ましい電流を該流体のなかに生ぜしめる、
(キ-5) パイプの中を流れる流体をイオン化し、またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する、パイプを保護するための磁気源とコンデンサー。」(第8欄のクレーム1、訳文 第10頁第27行?第11頁第19行)

本件発明との関連から甲第4号証の記載の一部を摘示又は記載を要約すると次のようになる。

・甲第4号証には次のような記載がある。
(ク) 「磁気パイプ保護装置は、容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて、あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して、パイプを保護することができる。」
(第5欄第36?39行、訳文 第9頁第32?33行)と記載されている。

IV 対比・判断

本件請求人の主張する無効理由2について検討する。

(1)甲第3号証記載の発明

請求人が提出した甲第3号証には、
記載事項(キ-1)に「面の一つがS極でもう一方の面がN極である一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源」が記載され、
記載事項(キ-2)に「磁石の対向する両側に、磁極片が磁石を狭持し、各磁極片の該内側の大きな面は磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い、かつ、各磁極片の外側の大きな面は磁石から反対側を向くように配置された一対の磁極片を含むコンデンサー」が記載され、
記載事項(キ-3)に「一対の磁極片を含むコンデンサーは、互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された(integral)足をもち、各々の足は磁石に対して遠位と近位の面をもち、所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位で所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接させる」ことが記載され、
記載事項(キ-4)に「各足の遠位面は該パイプに接触し、該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに、該磁石と磁極片は、該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめる」ことが記載され、
記載事項(キ-5)に「パイプの中を流れる流体をイオン化し、またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する、パイプを保護するための磁気源とコンデンサー」が記載されており、上記甲第3号証の記載事項を本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、
「(B-1): 面の一つがS極でもう一方の面がN極である一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面をもつ磁石を含む磁気源と、
(B-2): 該磁石の対向する両側に、磁極片が磁石を狭持し、各磁極片の該内側の大きな面は磁石の大きな面の全体と接触してかつ完全に覆い、かつ、各磁極片の外側の大きな面は磁石から反対側を向くように配置された一対の磁極片を含むコンデンサーとから構成され、
(B-3): 一対の磁極片を含むコンデンサーは、互いの方向に延伸しかつ実質的に同一平面上にある2つのそれぞれ統合された(integral)足をもち、各々の足は磁石に対して遠位と近位の面をもち、所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位で所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接させ、
(B-4): 各足の遠位面は該パイプに接触し、該磁極片は該パイプの円周に間隔をおいて並んだ状態でパイプ上に位置するときに、該磁石と磁極片は、該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめ、
(B-5): パイプの中を流れる流体をイオン化し、またそのような流体の中の溶解し懸濁した固体をイオン化する、パイプを保護するための磁気源とコンデンサー」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。(ここで、引用発明については、特定事項を(B-1)から(B-5)までに分節して記載することとする。)

(2)証拠との対比

当審での甲号証との対比においては、甲第3号証に記載された引用発明と本件発明1ないし6とを対比する。

(2-1)本件発明1について

(a)対比

引用発明の(B-1)の「面の一つがS極でもう一方の面がN極であるように装着された該磁石」は磁石の左右両側面が互いに異なる磁極を形成するものであり、(B-1)の「一対の対向する平面状の大きな面をもち該大きな面の中間に延伸し該大きな面に垂直な平面状の小さな面」を有する形状はブロック状又はプレート状の形状を含んでいるから、引用発明の(B-1)の特定事項は、本件発明1の(A-1)の特定事項の「左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)」に相当する。

引用発明の(B-2)の「一対の磁極片を含むコンデンサー」は、記載事項(イ-1)からしてコンセントレータであり、記載事項(ア)に「磁極片と足によって、磁石からの磁束は、パイプに適用される前に集中される」とあり、記載事項(オ)に「図2において、図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて、非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」とあることからして谷状の当接面間に磁束を集中させるものであり、記載事項(キ-2)からして磁石の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着されているものであるから、引用発明の(B-2)の特定事項は、本件発明1の特定事項の(A-2)の「該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され、上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)」に相当する。

引用発明の(B-3)の「一対の磁極片を含むコンデンサー」は、記載事項(イ-1)からしてコンセントレータであり、「所定の凸曲率をもつパイプの外表面と密着して当接する所定の凹曲率をもつ各足の該遠位面」を有し流体の流通用のパイプを収容して当接させるものであるから、引用発明の(B-3)の特定事項は、本件発明1の特定事項の(A-3)の「上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を、上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように、磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し、」に相当する。

引用発明の(B-4)の「該磁石と磁極片」は、記載事項(ア)に「磁極片と足によって、磁石からの磁束は、パイプに適用される前に集中される」とあり、記載事項(オ)に「図2において、図1の磁性源とコンデンサーはパイプに装着されて示されていて、非常に密度の高い磁場が磁石MのN極nから流れている」とあることからして、引用発明は谷状の当接面間に磁束を集中させるものであり、そして、引用発明の(B-4)の「該磁石と磁極片」は、該パイプ内の流体の流れ方向と垂直の方向に磁束線を該パイプ内に生ぜしめるものであるから、引用発明の(B-4)の特定事項は、本件発明1の特定事項の(A-4)の「該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめ、」に相当する。

引用発明の(B-5)の「パイプの中を流れる流体をイオン化する磁気源とコンデンサー」は「パイプの中を流れる流体をイオン化」するものであるから、引用発明の(B-5)の特定事項は、本件発明1の特定事項の(A-8)の「流体イオン化装置」に相当する。

以上のとおりでありから、両者は、
「(A-1) 左右両側面が互いに異なる磁極を形成するブロック状又はプレート状の磁石(16)と、
(A-2) 該磁石(16)の相対向する左右の両側面に該両側面を覆うように装着され、上記磁石(16)の上端面(16d)側に磁束密度を集中させる一対のコンセトレータ(17)から構成され、
(A-3) 上記両コンセントレータ(17)の上端面(17b)を、上記磁石(16)の左右幅より大きい直径の流体の流通用のパイプ(2)を収容して当接させるように、磁石(16)の上端面(16d)に向かって内側に傾斜する谷状の傾斜面に形成し、
(A-4) 該谷状の当接面(17b),(17b)間に磁束を集中させて磁束密度を高めると共に磁力線(a)の方向が上記パイプ(2)の軸心(c)と交差するように磁界を形成せしめた、
(A-8) 流体イオン化装置。」
である点で一致し、

本件発明1では、(A-5) コンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成しているのに対して、引用発明ではこの点についてなにも記載されていない点(相違点1)、
本件発明1では、(A-6) コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるのに対して、引用発明ではこの点について明確に分節して記載されていない点(相違点2)、
本件発明1では、(A-7) 且つ突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にしているのに対して、引用発明ではこの点についてなにも記載されていない点(相違点3)、
で相違している。

(b)相違点についての判断

まず、相違点1について検討する。

引用発明は、記載事項(カ-2)からして、そもそも、その装置について発明の開示の範囲内で多くの応用と変形がなされうるものであり、そして、種々の形状の異なる形式の永久磁石または電磁石が使用でき、その部品の形状を異なったものとしてもよく、磁石と磁極片の形状を異なったものとしてもよいものであるから、磁石と磁極片の形状を装置の取り付け条件に応じてその形状を適宜に設計できることが示唆されているものである。
そして、また、記載事項(ア-1)からして流体が流れるパイプに取り付けるものであって、通常はパイプ面に直接に取り付けられる形状に設計されているものである。そして、また、流体が流れるパイプのパイプ面の態様としては、パイプ外周面に管と管との継ぎ手部を有するものがあることは通常のことであり、このような管と管との継ぎ手部には軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられていることも通常のことである。
してみると、引用発明は、その使用の態様として、管と管との継ぎ手部位で軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物が設けられており、装置がそのままの形状では取り付けが困難な設置部位に流体イオン化装置を設置するという技術課題を有しているものである。
そうすると、係る自明の技術課題を認識し、また、その装置の磁石と磁極片の形状を必要に応じて異なった形状にしてよいことを認識する当業者にとって、その技術課題に対応すべく、流体イオン化装置を流体が流れるパイプへ取り付けるのを妨げる軸心方向に並んで形成されるナット等の突起物を避けて流体イオン化装置を流体が流れるパイプに取り付けられるように、流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成し、該部位に流体イオン化装置を取り付けられるように装置の磁石と磁極片の形状を異なった形状にすることは、容易に想到しえることであると認められる。
なお、この点についてさらにいえば、本件発明1では、流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状にするに際して、後述する乙第4号証のAタイプのような凸部の幅に等しい縦幅の図1?図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置としないで、流体イオン化装置のコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成した流体イオン化装置としているが、前者より後者のほうが磁石とコンセントレータの容積が大きくとれ、したがって、後者のほうが磁力密度が大きくなることが自明であることに鑑みれば、前者でなく後者を採用することは当業者が適宜になしえたものと認められるから、この点について検討してみても、上記の容易性についての判断が左右されるものではない。

次に、相違点2について検討する。

まずもって、(A-6)の特定事項であるコンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるということは、本件発明1の(A-2)の特定事項の構成が果たす機能を特定事項として記載したものである。他方、引用発明は(A-2)の特定事項に相当する(B-2)の特定事項を有しており、引用発明が、(B-2)の特定事項を有していることにより、(B-2)の特定事項の構成が果たす機能として本件コンセントレータに相当するコンデンサの端部の磁束密度を集中させるものであることは明らかである。
してみると、(B-2)の特定事項を有する引用発明に接した当業者が、引用発明に(A-6) コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるという特定事項を附加することは、当業者が適宜になしえる程度の事項にすぎない。
また、(A-6)の特定事項であるコンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるということは、本件発明1の(A-5)の特定事項であるコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成するという構成が果たす機能を特定事項として記載したものであるともいえるものであって、相違点1の構成が満たされれば当然に達成されるものである。そして、相違点1の構成が当業者に容易に想到しえるものであることは上記したとおりである。
してみると、この点からしても、引用発明に(A-6) コンセントレータ(17)の端部の磁束密度を集中させるという特定事項を附加することは、相違点1の構成を容易に想到できる当業者にとっては、適宜になしえる程度の事項にすぎないものである。

次に、相違点3について検討する。

(A-7)の特定事項である突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にすることは、相違点1の(A-5)の特定事項であるコンセントレータ(17)のパイプ(2)への当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成するという構成が果たす機能であり、相違点1の構成が満たされれば当然に達成されるものである。そして、相違点1の構成が当業者に容易に想到しえるものであることは上記したとおりである。
してみると、引用発明に(A-7) 且つ突起物を有するパイプ(2)への取り付けを容易にするという特定事項を附加することは、相違点1の構成を容易に想到できる当業者にとっては、適宜になしえる程度の事項にすぎないものである。

したがって、本件発明1の構成は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

(c)本件発明1の効果についての判断

(あ)本件明細書中に記載されている(A-5)の要件に基づく効果についての検討

本件明細書中には(A-5)の要件を含むタイプの発明と(A-5)の要件を含まないタイプの発明が記載されており、両者の発明の効果を比較することにより(A-5)の要件に基づく効果がどのようなものなのかを検討することとする。

まず、本件明細書の記載事項を摘示する。

(ア)
【0012】【発明の実施の形態】図1?図3は本発明の1実施形態を示し、図1(a),(b)は磁石を内装した流体イオン化装置1を水道管等の流体流通用パイプ2の外周に装着し、紐等を含む結束帯である、いわゆるインシュロックタイ3で固定したものを示しており、これによりパイプ2内の水流Sが磁界内を通過することにより水の活性化を行い、パイプ2内のスケール付着、腐食及び藻類の発生を防止するものである。
【0013】上記流体イオン化装置1は図2,図3に示されるように対向する両側面6a,
6bが互いに異なる磁極をなすブロック状の磁石6,該磁石6における対向する両側面6a,6bに装着されて磁束密度を集中させる一対のコンセントレータ7,磁石6とコンセントレータ7とが一体化されたユニット5を保持するケース8等により構成され、該ユニット5とケース8とが一体的に固定された構造となっている。
【0014】本実施形態において磁石6は外形が10×51×55(mm)で51mmを高さ方向とする略直方体をなすネオジム合金製のものであり、幅広の対向する両側面が上記左右側面6a,6bをなすとともに、該左右側面6a,6bが互いに異なる磁極(S極又はN極)をなし、該左右両側面6a,6bの磁束密度が略2200ガウス程度、上端面6c及び下端面6bの磁束密度が略4000ガウス程度に設定されたものとなっている。

(イ) 【0017】そして該当接面(上端面)7bとパイプ2との当接状態において左右の当接面7b間の磁力線aの方向がパイプ2の軸線cと略直交するように磁界が形成せしめられている。また左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており、さらに当接面7bにおける外側端は面取りされている。

(ウ) 【0018】これによりコンセントレータ7の当接面7b間に磁束が集中せしめられ、該当接面7b間における磁束密度が、磁石6単体の上端面6cの磁束密度(4000ガウス)に比較して略3.5倍程度の概ね14000ガウスに集中されて高められている。特に当接面が凹状にパイプ2の外周に沿うため、磁束密度の集中効果がより高められている

(エ)
【0031】一方図4?図6は本発明の他の実施形態を示し、図4(a),(b)は上記実施形態同様に磁石6を内装した流体イオン化装置1を水道管等の流体流通用パイプ2の回りに装着し、結束帯(インシュロック3)で固定したものを示しており、これによりパイプ2内の水流sが磁界内を通過することにより水の活性化を行い、パイプ2内のスケール付着、腐食及び藻類の発生を防止するものである。
【0032】上記流体イオン化装置1は図4?図6に示されるようにプレート状の磁石16,該磁石16を左右側面16b,16cから狭持して後述するように磁束密度を高めるコンセントレータ17,磁石16とコンセントレータ17とが一体化したユニット15を保持するケース18等により構成されており、ユニット15と磁石16とが一体化的に固定された構造となっている。
【0033】本実施形態において磁石16は外形が10×24.5×27(mm)で24.5mmを高さ方向とする略直方体の上方前後をそれぞれ7.5×6.5×10mm(7.5が高さ方向)切り欠いた側面視で凸形状をなすネオジム合金製のものであり、突出部16aを上方として、幅広の対向する両側面が上記左右側面16b,16cをなすとともに互いに異なる磁極(S極又はN極)をなし、該左右両側面の磁束密度が略2500ガウス程度、上端面16d(突出部16cの上端面)の磁束密度が略3500ガウス程度に設定されたものとなっている。
【0034】一方上記コンセントレータ17は、磁性材により形成せしめられ、上記磁石16の左右各側面16b,16cに磁力により着脱自在に装着されているが、磁石16の左右側面16b,16cは各1つのコンセントレータ17によって覆われており、該コンセントレータ17も磁石16同様側面視で凸形状(側面視で磁石16と同形状)をなしている。

(オ) 【0038】また左右の当接面17bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており、さらに当接面7bにおける外側端は面取りされている。これによりコンセントレータ17の当接面17b間に磁束が集中せしめられ、該当接面17b間における磁束密度が、磁石16単体の上端面16dの磁束密度(3500ガウス)に比較して略3.3倍程度の概ね11500ガウスに集中されて高められている。

(カ) 【0044】これにより上記構造の流体イオン化装置1も前述の実施形態同様にパイプ2内の清浄,スケール等の除去を行うことができるが、本実施形態の場合突出部16a(当接面17a)の前後幅L1がユニット15の底面15a側(反当接面側)の前後幅L2に比較して狭められている{(L2-L1)/2分前後幅が狭められている}ため、前後面側に発生する磁界が弱められ、当接面17b間に磁束がより集中させられ、当接面17b間の磁束密度の集中が比較的強く行われ、磁石16のサイズが小さい場合であっても、比較的高い効果を得ることができる。

(キ) 【0045】このため流体イオン化装置1をさらに小型化することができるが、特にケース18にフランジ等を設ける必要がないため、流体イオン化装置1から突起が突出することが無く、流体イオン化装置1の取り付け場所の自由度がより高くなるが、特にコンセントレータ17の前後が切欠き状に窪ませられているため、ねじ等が取り付けの妨げになることが無く、突起物等が邪魔にならず、狭い場所にあるパイプや種々のパイプ等に流体イオン化装置1をさらに容易に取り付けることができる。なお上記挿通部をケース18の底面18cの外面側に突出させたバンド通し(図示せず)等により形成せしめても良い。

(ク)
【0048】【発明の効果】以上のように構成される本発明の構造によれば、ブロック状又はプレート状の磁石の相対向する両側面にコンセントレータを取り付け、対向するコンセントレータの互いの近接端面を流体の流通用のパイプの外周面に沿った凹状の面間に磁束を集中せしめると共に磁力線の方向が上記パイプの軸心と交差するように磁界を形成せしめることで、凹状の面間の磁束密度を高められ、強力な磁界が形成される。これによってより効果が高い流体イオン化装置を形成せしめることができる。
【0049】このため流体イオン化装置を構成するにあたり、磁石の磁束密度を必要以上に大きくする必要がないことから、磁石自身を必要以上に大きくする必要がなく、さらに1つの磁石で足りるため、流体イオン化装置を簡単に構成することができるとともに、小型化することができ、さらに製造コストが低くなり、コストダウンを図ることができるという効果がある。
【0050】特に上端面における前後方向の磁石及びコンセントレータの幅を、下端面側に対して短く形成し、コンセントレータのパイプへの当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成することにより、当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられ、磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなり、流体イオン化装置をより小型化することができ、取り付けに対する自由度がより高くなり、突起物等を有するパイプ2への取り付けを容易にするという利点もある。

以上の本件明細書に記載された摘示事項に基づいて検討する。

記載事項(ア)からして、図1?図3のタイプの実施形態は、(A-5)の要件を含まないタイプの発明である。
他方、載事項(エ)からして、図4?図6のタイプの本件発明の実施形態は、(A-5)の要件を含むタイプの発明である。
そこで、両者のタイプの発明の磁束密度の集中効果について検討する。
記載事項(イ)からして、(A-5)の要件を含まないタイプの発明は、左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており、さらに当接面7bにおける外側端は面取りされていることにより磁束密度が集中するものと認められ、その効果は、記載事項(ウ)からして、磁石6単体の上端面6cの磁束密度(4000ガウス)に比較して当接面7b間における磁束密度を概ね14000ガウスに集中し略3.5倍程度に高めるものである。
これに対して、記載事項(オ)からして、(A-5)の要件を含むタイプの発明は、左右の当接面7bは連続して単一の円弧状面をなすように凹状に形成されており、さらに当接面7bにおける外側端は面取りされ、さらに、(A-5)の構成とすることにより磁束密度が集中するものと認められ、その効果は、記載事項(オ)からして、磁石16単体の上端面16cの磁束密度(3500ガウス)に比較して当接面17b間における磁束密度を概ね11500ガウスに集中し略3.3倍程度に高めるものである。
すなわち、(A-5)の要件を含まないタイプの発明においては略3.5倍に磁束密度が集中されるのに対し、(A-5)の要件を含むタイプの発明においては略3.3倍に磁束密度が集中されることが記載されている。
してみると、(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が高められるとはいえず、むしろ、(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が低くなっていることがうかがえる。
そうすると、(A-5)の要件に基づき格別の磁束密度の集中効果が奏されるとすることはできない。
なお、記載事項(オ)と記載事項(ク)の【0050】には「当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられ、磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなり、流体イオン化装置をより小型化することができ、」と記載されており、(A-5)の要件に基づき磁束密度の集中効果が奏される旨が記載されているが、(A-5)の要件に基づけば当接面間の磁力線に略直交する方向で磁石とコンセントレータの幅が減少することになるのであるから、確かに「当接面間の磁力線に略直交する方向の磁界形成が減少せしめられる」とまではいえるが、上記したように、「(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が高められるとはいえず、むしろ、(A-5)の要件を附加することにより磁束密度の集中が低くなっていることがうかがえる」のであるから、「磁石のサイズや磁力に対する磁束の収束効果が比較的高くなる」とは到底いえず、したがって、「流体イオン化装置をより小型化することができる」ということもいえないものである。
したがって、係る記載を根拠に(A-5)の要件に基づき磁束密度の集中効果が奏されるとすることもできない。

次に、記載事項(キ)と記載事項(ク)の【0050】によれば、(A-5)の要件を附加することにより「ねじ等が取り付けの妨げになることが無く、突起物等が邪魔にならず、狭い場所にあるパイプや種々のパイプ等に流体イオン化装置1をさらに容易に取り付けることができ、取り付けに対する自由度がより高くなり、突起物等を有するパイプ2への取り付けを容易にする」という効果が奏されることが認められるが、上端面における前後方向の磁石及びコンセントレータの幅を、下端面側に対して短く形成し、コンセントレータのパイプへの当接面側端部の前後を切欠き状に窪ませて当該端部を凸状に形成すれば、本件発明1の装置の設置に必要な取り付けスペースはより狭い幅ですむことは自明であるらか、係る効果は、(A-5)の要件を附加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎない。

以上のとおり、本件明細書の記載を検討してみても、本件発明1が(A-5)の要件を附加することにより格別顕著な効果を奏しているとすることはできない。

(い)乙第4号証に記載されている(A-5)の要件に基づく効果についての検討

乙第4号証は「流体イオン化装置によりパイプ内に発生する磁気の測定」と題する実験報告である。
その内容についてみるに、その「3.3 流体イオン化装置」の項には、A,B,Cの3つの流体イオン化装置が記載されており、Cタイプとして、図1?図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例が記載されており、Bタイプとして、図4?図6の1実施形態の(A-5)の要件を含むタイプの流体イオン化装置の例が記載されており、Aタイプとして、Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1?図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例が記載されている。
そして、その「実験方法」の項には、各流体イオン化装置の凹部に塩ビパイプ(t=3mm)を密着させ、磁束密度計のプローブを塩ビパイプ内に挿入し、最大の磁束密度(ガウス数)を各4回測定する旨が記載されている。
そして、その「実験結果」の項には、Cタイプのものでは、1回:1937ガウス、2回:1968ガウス、3回:1977ガウス、4回:2010ガウスであったことが記載され、Bタイプのものでは、1回:1791ガウス、2回:1789ガウス、3回:1786ガウス、4回:1796ガウスであったことが記載され、Aタイプのものでは、1回:1347ガウス、2回:1395ガウス、3回:1380ガウス、4回:1476ガウスであったことが記載されている。

上記した事項について検討する。

4回おこなった実験のいずれの結果においても、CタイプのものはBタイプのものより、4桁レベルの測定値での比較で、3桁のレベルでの差違である100ガウス以上の違いで磁束密度が高くなっており、したがって、この実験結果からすると、(A-5)要件を附加したBタイプのものは(A-5)要件を附加しないCタイプものより明らかに磁束密度が低いものと認められる。
そうすると、(A-5)要件を附加することによって、むしろ、磁束密度は低下しているのであるから、上記の実験結果から(A-5)要件を附加することにより磁束の収束効果が比較的高くなり磁束密度の集中が比較的強く行われるという効果を導きだすことはできない。
そして、この点は、Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1?図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないタイプの流体イオン化装置の例であるAタイプの結果を参酌してみても変わるものではない。

また、被請求人は上記の実験結果について、Aタイプの4回目の実験結果の1476ガウスとAタイプの4回の実験結果の平均値1399.5を根拠として実験誤差を+5.5%とし、その約2倍のマージンをとるとして+10%の誤差があるとの前提をおいて、縷々主張を述べているが、そもそも、Aタイプのものは(A-5)要件を附加することにより磁束の収束効果が比較的高くなり磁束密度の集中が比較的強く行われるという効果を導きだすことができるかどうかの比較の対象となるものではなく、また、Aタイプの4回目の実験結果の1476ガウスは他の3回の実験値と比べて極端に大きな数値であり、このような不自然な実験結果をそのまま採用すること自体にわかに是認できることではなく、また、実験結果の誤差の2倍のマージンとするのも不自然であってその根拠も不明であるので、被請求人のこの点の主張は採用することができない。

また、4回おこなった実験のいずれの結果においても、BタイプのものはAタイプのものより、4桁レベルの測定値での比較で、3桁のレベルでの差違である300?400ガウス以上の違いで磁束密度が高くなっており、したがって、この実験結果からすると、(A-5)要件を附加したBタイプのものは、Bタイプの凸部の幅に等しい縦幅の図1?図3の1実施形態の(A-5)の要件を含まないAタイプものより、明らかに磁束密度が高いものと認められる。
そうすると、被請求人が口頭審理陳述要領書において主張するとおり、BタイプのものとAタイプのものを比較すると、凸状端部の切り残し部を有するBタイプのものは、単純にコンセントレータを薄くしたAタイプのものに比し、コンセントレータと切り残し部分の磁石との接触面積が大きい分だけ磁力の確保ができるという効果が奏されていることが認められる。しかしながら、係る効果はAタイプのものは切り残し部分がなく、したがって、コンセントレータと磁石との接触面積が小さく磁石そのものの体積が小さく、磁石そのものの磁力が小さいのに対して、Bタイプのものほうが切り残し部分があり、したがって、コンセントレータと磁石との接触面積が大きく磁石そのものの体積が大きく、磁石そのものの磁力が大きいことからして当然に奏されるものであることは自明であるから、この点の効果も、(A-5)の要件を附加することにより本件発明1に当然に生じてくる効果にすぎない。

以上のとおり、本件明細書の記載を検討してみても、本件発明1が(A-5)の要件を附加することにより格別顕著な効果を奏しているとすることはできない。


以上のとおりであり、本件発明1は、甲第3号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)本件発明2について

本件発明2は、本件発明1において、(A-9): 対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成されたと限定した発明である。
しかし、甲第3号証の記載事項(ウ-2)に「当接面NaとSaは半径5cm、弧長さ2cmでパイプPに密着して当接して」と記載されており、該記載がパイプに密着する当接面が円弧状であることを意味していることは明らかであるから、甲第3号証には(A-9): 対向する両コンセントレータ(17)の当接面が円弧状の面をなすように凹状に形成することが記載されている。
したがって、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-3)本件発明3について

本件発明3は、本件発明1又は本件発明2において、(A-10): コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を、該ユニット(15)の下端側から挿入し、一体的に固定するケース(18)を設けたと限定した発明である。
しかし、甲第3号の記載事項(イ-2)に「磁極と磁石を風雨からさらに保護するために非磁性のカバーと被覆を用いてもよい」と記載されているのであるから、コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)に設ける保護カバーとして係るケースを採用することは適宜になしえることである。
したがって、本件発明3は、甲第3号証に記載さらた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-4)本件発明4について

本件発明4は、本件発明3において、(A-11): ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ、該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめたと限定した発明である。
しかし、甲第3号証と同様な発明についてのものである甲第4号証の記載事項(ク-1)に「磁気パイプ保護装置は、容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて、あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して、パイプを保護することができる。」と記載され、該記載によりケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)の存在が示唆されているのであるから、ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる態様の1つとして、ケース(18)の相対向する側面にフランジを突設せしめ、該フランジにケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を位置決め収容する収容部を形成せしめる態様を採用することは適宜になしえることである。
したがって、本件発明4は、甲第4号証の上記記載を参酌することにより、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-5)本件発明5について

本件発明5は、本件発明3において、(A-12): ケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめたと限定した発明である。
しかし、甲第3号証と同様な発明についてのものである甲第4号証の記載事項(ク-1)に「磁気パイプ保護装置は、容器で覆うこともできる。本パイプ保護装置にひもを付けて、あるいはほかの方法で非鉄のパイプに固定して、パイプを保護することができる。」と記載され、該記載によりケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)の存在が示唆されているのであるから、ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる態様の1つとして、コンセントレータ(17)と磁石(16)とが一体化したユニット(15)を、該ユニット(15)の下端側から挿入し、一体的に固定するケース(18)に、ケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を設ける態様としてケース(18)の底面側にケース(18)側とパイプ(2)とを締着固定せしめる結束帯(3)を挿通せしめる挿通部を形成せしめる態様を採用することは適宜になしえることである。
したがって、本件発明5は、甲第4号証の上記記載を参酌することにより、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-6)本件発明6について

本件発明6は、本件発明5において、(A-13): 挿通部がユニット(15)の下端面と、ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)からなると限定した発明である。
しかし、挿通部がユニット(15)の下端面と、ケース(18)の底面(18c)との間に形成される間隙(21)である態様であることは明らかである。
したがって、本件発明6は、甲第4号証の上記記載を参酌することにより、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

V むすび

以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、甲第3号証に記載された発明に基いて又は甲第4号証を参酌することにより甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-11 
結審通知日 2006-04-17 
審決日 2006-05-02 
出願番号 特願平10-254035
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 斉藤 信人  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 増田 亮子
大黒 浩之
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3235990号(P3235990)
発明の名称 流体イオン化装置  
代理人 河野 誠  
代理人 小林 英一  

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