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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) C23G
管理番号 1161510
審判番号 無効2000-35690  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-12-21 
確定日 2007-07-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第2680930号「多成分溶剤クリーニング系」の特許無効審判事件についてなされた平成17年12月12日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において「特許庁が無効2000-35690号事件について平成17年12月12日にした審決のうち、特許第2680930号の請求項8に係る部分を取り消す。」との判決(平成18年(行ケ)第10029号:平成18年12月25日判決言渡)があったので、請求項8に係る部分についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2680930号の請求項8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続きの経緯の概要
本件特許第2680930号は、平成4年11月30日(優先日:1991年12月2日;米国)の出願であって、平成9年8月1日に特許権の設定の登録がなされ、その後、特許異議申立て(平成10年異議第72526号)の手続中、平成11年10月20日付けで訂正請求書が提出され、平成11年11月12日付けで「訂正を認める。特許第2680930号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。」との決定がなされた。
その後、平成12年12月21日に本件無効審判請求がなされ、平成14年4月10日付けで「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたところ、東京高等裁判所に出訴され(平成14年(行ケ)第262号)、平成16年4月8日に、審決を取り消す旨の判決がなされ、最高裁判所に上告受理申し立てされ(平成16年(行ヒ)第241号)、これに対して平成16年10月26日付けで上告不受理決定がなされたものである。
その後、再度審理の上、平成17年11月15日付けで「特許第2680930号の請求項1ないし7、9ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2680930号の請求項8に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との審決がなされたところ、請求項8に係る部分について知的財産高等裁判所に出訴され(平成18年(行ケ)第10029号)、平成18年12月25日に、「特許庁が無効2000-35690号事件について平成17年12月12日にした審決のうち、特許第2680930号の請求項8に係る部分を取り消す。」との判決がなされたものである。
なお、平成19年2月15日付けで提出された上申書は訂正請求申立書として提出されたものであるが、本特許無効審判事件は平成15年改正特許法(平成15年5月23日法律第47号)の適用対象外であり、訂正請求の期間は指定できない。
以下、請求項8に係る発明について記載し、これと関係ない部分は省略する。

II.請求項8に係る発明
本件特許の請求項8に係る発明は、特許権設定登録後の特許異議申立て(平成10年異議第72526号)の手続中、平成11年10月20日付けの訂正請求書で訂正された明細書(以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項8に記載されたとおりのものであるところ、請求項8は請求項1を引用した請求項4に従属する下位の請求項であって、これら請求項1、4及び8は次のとおりのものである。
「1.次の:
(a)部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機又は炭化水素クリーニング液の中に導入する工程;
(b)前記部品を前記有機又は炭化水素クリーニング液から取り出し、そして該有機又は炭化水素クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中に含有される液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤中に曝すことにより前記部品をリンスする工程であって、前記の液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機又は炭化水素クリーニング液を前記部品から除去する工程、この際、前記の液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で少なくとも2モル%の該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、該ヒドロフルオロカーボンが、水素、炭素、及びフッ素から成り、場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含むものである;
(c)工程(a)及び(b)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画及びリンス区画の上に形成する工程であって、前記燃焼抑制被覆が実質的に純粋なヒドロフルオロカーボン蒸気から本質的になる工程;及び
(d)前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法であって、クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを使用しないで行なわれる方法。」
「4.リンス剤が、約3?約8の炭素原子を含有して少なくとも60重量%のフッ素を有する1または2以上のヒドロフルオロカーボン化合物から本質的になり、前記化合物が直鎖または分岐鎖を有して約25℃?約125℃の沸点を有する、請求項1記載の方法。」
「8.ヒドロフルオロカーボンリンス剤を含有するリンス区画中に存在する有機又は炭化水素クリーニング液が、有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように、前記ヒドロフルオロカーボンリンス剤と前記有機又は炭化水素クリーニング液とを選択する、請求項4記載の方法。」

以上各請求項の記載によれば、請求項8に係る発明は、次のとおりのものと認めることができる。
「(あ)次の:
(a)部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機又は炭化水素クリーニング液の中に導入する工程;
(b)前記部品を前記有機又は炭化水素クリーニング液から取り出し、そして該有機又は炭化水素クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中に含有される液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤中に曝すことにより前記部品をリンスする工程であって、前記の液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機又は炭化水素クリーニング液を前記部品から除去する工程、この際、前記の液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で少なくとも2モル%の該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、該ヒドロフルオロカーボンが、水素、炭素、及びフッ素から成り、場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含むものである;
(c)工程(a)及び(b)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画及びリンス区画の上に形成する工程であって、前記燃焼抑制被覆が実質的に純粋なヒドロフルオロカーボン蒸気から本質的になる工程;及び
(d)前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法であって、クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを使用しないで行なわれる方法であって、
(い)上記リンス溶剤が、約3?約8の炭素原子を含有して少なくとも60重量%のフッ素を有する1または2以上のヒドロフルオロカーボン化合物から本質的になり、前記化合物が直鎖または分岐鎖を有して約25℃?約125℃の沸点を有し、かつ、
(う)上記ヒドロフルオロカーボンリンス溶剤を含有するリンス区画中に存在する有機又は炭化水素クリーニング液が、有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように、前記ヒドロフルオロカーボンリンス溶剤と前記有機又は炭化水素クリーニング液とを選択する
(え)方法。」
以下、請求項8に係る発明を「本件発明8」という。なお、上記認定において、当審で(あ)?(え)を付与すると共に段落分けした。また、本件明細書中に混在する「リンス溶剤」と「リンス剤」は同じものを指称するので、本件明細書の摘記個所を除いて、本審決中「リンス溶剤」に統一した。

III.請求人の主張
請求人の主張は、本件発明8は、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である、というにある。

IV.被請求人の主張
被請求人は、請求項8に係る特許についての審判請求は成り立たない旨主張している。

V.証拠方法
(V-1)請求人が提出した証拠方法
(A1)甲第1号証(特開平2-191581号公報)
(A1-1)「(1)容器(12)中の水素含有、易燃性の液体有機溶剤(21)との接触により部品を洗浄し乾燥する方法であって、溶剤表面が、有機溶剤に熱移動する高フッ素化有機化合物に富んだ蒸気層(26)によりおおわれていること、および、洗浄されるべき部品を液体有機溶剤と接触させ、それから除去し、高フッ素化化合物に富んだ蒸気層中で蒸気-すすぎ、または乾燥し、次に洗浄環境から除去することを特徴とする方法。
(2)有機溶剤が低級脂肪族(C1?C5)アルコールであることを特徴とする上記(1)の方法。
(3)部品が電気または電子部品であり、高フッ素化化合物が30℃?100℃で沸騰するペルフルオロアルカン、ペルフルオロ-脂環式化合物、ペルフルオロ-アミンおよびペルフルオロ-エーテルから選ばれることを特徴とする上記(1)または(2)の方法。
(4)高フッ素化化合物がペルフルオロ(アルキル-またはポリアルキル-シクロヘキサン)であることを特徴とする上記(3)の方法。
(5)有機溶剤が、高フッ素化化合物を該溶剤中の該化合物の飽和溶解度に至るまで含有することを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)の方法。」(第1頁:特許請求の範囲(1)?(5))
(A1-2)「近年、特に1980年以来、クロロフルオロカーボン(CFC)は、一般に、上空大気中のオゾン層の枯渇の-因となる可能性があるという疑いを受けるようになった。したがって、地球上の大気中へのクロロフルオロカーボンの放出を減じ、終局的には排除する運動がある。したがって、CFCの大気中への認知しうる脱出がありそうな使用からCFCを排除することが望ましい。
本発明は、塩素または臭素を含有しない高フツ素化有機化合物(HFO)を、高フツ素化合物よりも高い溶解力を有する溶剤(通常は極性有機溶剤)とともに用いる、特に電子集成装置および部品のための洗浄および乾燥の代わるべき方法を提供する。HFOは、一般に、非常に乏しい溶解力を有し、大部分の他の液剤と部分的に混和するにすぎない。しかしながら、HFOは化学的に不活性であり、プラスチック材料と非常に良い相溶性を有する。脂肪族アルコール、ケトン、ニトリル、ニトロアルカンおよびアセタールのような官能性炭化水素は、特に極性の汚れに対して比較的に高い溶解力を有するが、それらは常に易燃性である。」(第2頁左下欄第8行?右下欄第8行)
(A1-3)「「HFO」は、主として炭素とフツ素原子を含有するが、酸素または窒素原子とともに、または、それなしに少量割合の水素原子を含有しうる有機化合物を意味するものとする。
本発明は、HFOより比較的に高い溶解力を有する易燃性液体を、フツ素化有機化合物と組み合わせて用い、したがって引火性の危険を最小に減じる。特に電子集成装置および部品のための、洗浄および乾燥方法および装置の提供を目的とする。」(第2頁右下欄第13行第3頁左上欄第1行)
(A1-4)「好ましい有機溶剤は、1?5個の炭素原子を含有する低級脂肪族アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール)であるが、ケトン、ニトリルおよびニトロアルカンのような他の官能性溶剤も用いることができる。有機溶剤は、高フツ素化化合物を有機溶剤中のその化合物の飽和濃度(飽和溶解度)まで含有することができることを理解されたい。
電子部品洗浄のために好ましいHFOは、ペルフルオロ-n-アルカン、ペルフルオロ-脂環式化合物、ペルフルオロ-アミンおよびペルフルオロ-エーテルであり、好ましくは+30℃と+100℃の間の沸点範囲を有する。他の洗浄または脱脂作用においては、これらの温度は超過し、代表的には100゜?250℃であつてよい。しかしながら、このようなHFO化合物は、完全にフツ素化される必要はない。該化合物は、最も好ましくは、ペルフルオロ(アルキル-またはポリアルキル-シクロアルカン)である。
特に適当な水素含有フツ素化有機化合物は、下記を含む;
沸 点
ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へプタン 45℃
ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へキサン 70℃
ペルフルオロ-1,3-ジヒドロ-シクロヘキサン 78℃ 」(第3頁左上欄第11行?右上欄第18行)
(A1-5)「損失を避けるために、既知の冷却/凝縮/再循環手段により溶剤およびフツ素化化合物を分離し、維持することが必要である。
したがつて、別の面では、本発明は、高フツ素化化合物溜め、高フツ素化化合物を加熱し、溜めから蒸発させる手段、高フツ素化化合物蒸気を洗浄部屋に誘導し、該部屋中の有機液体をおおうための手段、洗浄されるべき部品を該部屋に導入し取出すための手段、および高フツ素化化合物と有機溶剤を凝縮し、それぞれの溜めに再循環するための手段より成る、部品を洗浄し乾燥するための装置を提供する。
加熱手段は、電気素子または加熱コイルであるのが好ましい。
高フツ化化合物蒸気は、有機液体を直接加熱する洗浄部屋に通すのが好ましい。
凝縮手段は、好ましくは、冷却コイルである。」(第3頁左下欄第1?17行)
(A1-6)「添付図面を参照して、例示のためにのみ、本発明を更に説明する。第1?第4図は、本発明による装置の略図である。
下記の説明において、パーフルオロ化合物というのは、上に規定したような高フツ素化有機化合物への言及を含むものと理解されたい。
本発明による方法および装置の単純な型を、第1図について説明する。
第1図は、重質ペルフルオロカーボン層9および易燃性溶剤層5を含有するタンク4を示す。この二つの液体はほとんど混和しないから分離層のままである。」(第3頁右下欄第6?17行)
(A1-7)「いずれの適当なペルフルオロ化合物/有機溶剤の組み合わせも、蒸気を難燃性にするのに十分なべルフルオロ化合物が溶剤の上の蒸気空間に存在することを条件として、用いることができる。」(第4頁左上欄第14?17行)
(A1-8)「洗浄されるべき部品を、溶剤層5中に適当な時間おろす。次に部品をフリーボード域1に上げ、冷却が起こるのに十分な時間そのままにしておく。冷却された部品を、次に、蒸気帯域3に下げ、部品上に蒸気を凝縮させ、したがって、ペルフルオロ化合物液体中のすすぎを構成し、微量の汚れとともに残りのアルコールを除去する。蒸気すすぎの後に、部品を蒸気層3から再びしっかりと上げ、部品が蒸気から出ると、ほとんど直ちに乾燥が起こる。」(第4頁右上欄第3?12行)
(A1-9)「部品を冷溶剤層21中におろし、汚れを除去する。・・・部品を溶剤21中に浸漬した後、蒸気層26中に上げる。部品は、蒸気層より温度が低いので、凝縮が部品表面で起り新たに蒸溜された液体中のすすぎを与える。凝縮物によるすすぎの後に、部品をタンクからしっかりと引上げ、部品が蒸気/空気の界面27を通る時に乾燥が生じる。」(第4頁左下欄第20行?右下欄第8行)
(A1-10)「溶剤は・・せき54を越えて区分室47に流れる。溶剤及び油のような溶解した汚れは区分室47に集中し、部品が浸漬される区分室44の溶剤45は、連続的に精製される。」(第5頁左下欄第1?6行)
(A1-11)「洗浄の順序は次のとおりである:
洗浄されるべき部品を区分室44中の冷溶剤45の中におろす。・・・次に、部品を蒸気層55に引上げ、そこで凝縮物が部品の上に形成し、純粋な液体中のすすぎを提供する。次に、部品を蒸気から着実に上げ、部品が蒸気/空気の界面57を出ると瞬時に乾燥が生じる。
この態様は、約60℃で沸騰するペルフルオロカーボンについて用いるのに適当である。」(第5頁左下欄第7?17行)
(A1-12)「区分室77中の過剰の易燃性有機液体は、絶縁されたせき70を越え区分室76中に流れ、そこからせき69を越え区分室75に流れ、そこで蒸発が再び開始する。これにより、有機溶剤に入る可溶性の汚れは、区分室75に集中し、同時に区分室76および77は、連続的に清潔にされる。いずれの区分室75、76、77に入るペルフルオロカーボン液体は、底に沈み、分離して」(第6頁左上欄第17行?右上欄第5行)
(A1-13)「本発明の実施において、いずれの高フツ素化化合物、特に、適当な沸点を有するいずれのペルフルオロカーボン有機化合物(pfc)も、非-易燃性蒸気層として適当であるであろう。これらは、一般に、分子中にフツ素と炭素のみを含む化合物、または酸素または窒素のようなヘテロ原子を含むものである。したがつて、ペルフルオロ化エーテルおよびアミンも使用できる。ペルフルオロカーボンの乏しい溶解力と、上記例の蒸気凝縮工程における有効なすすぎを与える必要性の故に、ペルフルオロカーボンは、選ばれた有機溶剤に最大の溶解性を示すものが好ましい。しかしながら、液相においては、有機溶剤とpfcは、下記の理由のために出来るだけ混和しないままであるのが望ましい:
1.有機溶剤の廃棄にともなう高価なpfcの損失を避けるために、二つの液体の可能な限り完全な分離を促進すること、
2.pfcと混合した有機溶剤は、溶解する汚れの濃度を増加させるので、pfcに溶解する汚れを最小にすること。」(第6頁右下欄第1?20行)
(A1-14)「相溶性は温度の関数であるから、有効な洗浄と両立して最小のペルフルオロカーボンの沸点が選ばれ、それは通常、温度とともによくなる。一般に、40℃?100℃範囲のペルフルオロカーボンの沸点が最も広く有用である。連続的な溶剤の蒸留が必要である場合は、溶剤の沸点に近い沸点を有するこれらのペルフルオロカーボンが最も有用である。第3表は、ペルフルオロメチルシクロヘキサン(PP2)とイソプロピルアルコールが、下記の理由により特に有用な対であることを示す。」(第7頁右上欄第7?17行)
そして、「第2表」(第7頁左上欄)には、ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)の沸点が76℃であることが記載され、「第3表」(第7頁左下欄)には、「PP2中のアルコールの0.4%溶解度」が示されている。

(A2)甲第2号証(特公平3-55189号公報)
(A2-1)「1 沸点20?50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域中に複数の槽を設置し、
(a)複数の槽の中の少なくとも一つに前記クロロフルオロハイドロカーボンと相溶性を有し且つ非共沸性で前記クロロフルオロハイドロカーボンより50℃以上高い沸点を有する有機溶剤と前記クロロフルオロハイドロカーボンとの混合溶剤を収容し、前記クロロフルオロハイドロカーボンの沸点より高く前記有機溶剤の沸点より30℃以上低い範囲の任意の温度に保持して混合溶剤中のクロロフルオロハイドロカーボンの蒸発と飽和蒸気域のクロロフルオロハイドロカーボンの吸収により混合溶剤中の有機溶剤とクロロフルオロハイドロカーボンとの混合比を平衡に保ち、
(b)複数の槽の中の少なくとも一つに実質的に前記クロロフルオロハイドロカーボンよりなる液を収容し加熱し沸騰状態に保持してクロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域を維持し、
(c)被洗浄物をまず前記混合溶剤中に浸漬し、
(d)ついで被洗浄物を沸騰状態に保持された前記クロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬することを特徴とする洗浄方法。」(特許請求の範囲1)
(A2-2)「この発明は洗浄方法及び洗浄装置、特に金属、電子材料等に付着した油分その他の汚れを効率的に溶剤で洗浄する方法及び装置に関するものである。」(第3欄第20?23行)
(A2-3)「金属、電子材料等に付着した油分その他の汚れは炭化水素系の溶剤で洗浄することができるが、炭化水素系の溶剤は引火の危険が大きく、且つ一般に毒性を有する。」(第3欄第25?28行)
(A2-4)「非毒性、非引火性の溶剤としてはトリクロロトリフルオロエタン(フロン113)などのクロロフルオロハイドロカーボン類が知られており、極めて良好な特性を有するため溶剤として多用されているが、汚れの中には高沸点の溶剤を高温で使用する以外の方法では除去困難なものがある。」(第3欄第31?36行)
(A2-5)「本発明は、高温での洗浄力は大きいが毒性、引火性がある高沸点溶剤と、沸点以下の温度でしか使用できないため相対的に洗浄力は劣るが、非毒性、非引火性である沸点20?50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンの両者の特性を生かし、その欠点を補った洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。」(第3欄第42行?第4欄第4行)
(A2-6)「クロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域中に3つ以上の槽を設置し、前記の如く少なくとも一つを混合溶剤槽、また少なくとも一つを沸騰状態に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン槽とするほか、さらに少なくとも一つの槽に沸点以下の温度に保持された実質的にクロロフルオロハイドロカーボンよりなる液を収容し、被洗浄物をまず混合溶剤中に、ついで沸騰状態に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬したのち、さらに沸点以下の温度に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬し、飽和蒸気域で蒸気洗浄するようにすればなお好ましく、一層すぐれた洗浄効果と、高沸点有機溶剤の気化・拡散の高度の抑制とを達成できる。」(第4欄第第31行?第5欄第1行)
(A2-7)第1図について「第1槽31は、沸点20?50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボン(以下第1溶剤と略記する)と相溶性を有し且つ非共沸性で第1溶剤より50℃以上高い沸点を有する有機溶剤(以下第2溶剤と略記する)と第1溶剤との混合溶剤を収容する槽であり、その混合溶剤を第1溶剤の沸点より高く第2溶剤の沸点より30℃以上低い範囲の任意の温度に保持し得る加熱器5と攪拌機6を備えている。
第2層32は、実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽であり、それを沸騰状態に保持し得る加熱器5を備えている。」(第5欄第16?27行)
(A2-8)「第2図の場合、第2槽32、第3槽33及び第4槽34はいずれも実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽であって、第2槽及び第3槽は第1溶剤の沸点温度に、第4槽は第1溶剤の沸点以下の温度に保持されている。
このように実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽32、33、34を設けた場合には、第3槽33の液面が第2槽32の液面より高くなるよう、さらに第4槽34の液面が第3槽33の液面より高くなるように設置し、第4槽34をオーバーフローした液が第3槽33に流入し、さらに第3槽33をオーバーフローした液が第2槽32に流入するように配置するとよい。」(第6欄第9?21行)
(A2-9)「第1槽の温度を選定することにより、第1槽における溶剤混合比率を任意の値に長時間安定して維持することが可能となり、安定した洗浄を行うことができる。」(第7欄第12?15行)
(A2-10)「第1槽の混合溶剤から蒸発した第2溶剤蒸気は直ちに低温の第1溶剤の飽和蒸気域4に接触し、液化して大部分が第1槽に還流し、第1溶剤の飽和蒸気域4を突破して開放された頂部から大気中に拡散することは殆どない。このようにして、毒性、引火性がある第2溶剤を高温で使用した場合でも、溶剤を収容した槽からその溶剤が蒸発して大気中に拡散するのを防止でき、運転中の引火の危険や、作業環境における毒性の問題が避けられる。」(第7欄第20?29行)
(A2-11)「被洗浄物に付着していた汚れは第1槽の混合溶剤で殆ど完全に溶解除去される。必要ならば混合溶剤槽を2槽以上設けてもよい。」(第8欄第2?4行)
(A2-12)「第1槽から引き上げられた被洗浄物に付着した第2溶剤は第2槽中の第1溶剤液により濯がれるので、第2溶剤が被洗浄物に付着したままの状態で外部に取り出され、そこで蒸発して大気中に拡散するのを防止でき、運転中の引火の危険や作業環境における毒性の問題が避けられる。
この濯ぎを完全に行うため、第2図に示すように被洗浄物をまず第1槽31の混合溶剤中に、ついで第2槽32及び第3槽33の沸騰状態に保持された第1溶剤液中に順次浸漬した後、さらに第4槽34中の沸点以下の温度に保持された第1溶剤液中に浸漬し、被洗浄物の温度を第1溶剤の沸点以下の温度に冷却した後、被洗浄物を飽和蒸気域に保持して蒸気洗浄を行うようにすればなお好ましい。」(第8欄第6?20行)
(A2-13)「洗浄装置の項で述べたように、第3槽33の液面が第2槽32の液面より高くなるよう、さらに第4槽34の液面が第3槽33の液面より高くなるように設置し、第4槽34をオーバーフローした液が第3槽33に流入し、さらに第3槽33をオーバーフローした液が第2槽32に流入するように配置しておけば、第4槽34では第1溶剤飽和蒸気域4から凝縮した第1溶液が還流して液面が上昇し、オーバーフローした液が第3槽33に流入し、第3槽33ではそれと第1溶剤飽和蒸気域4から凝縮還流した第1溶剤液とが合体して液面が上昇し、オーバーフローした液が第2槽32に流入する。
このようにすると、濯ぎの際に溶出した第2溶剤はオーバーフロー液と共に第4槽から第3槽、第2槽へと移動し、後段の槽では第1溶剤液がより純粋な状態で維持され、濯ぎを完全にする。」(第8欄第21?37行)
(A2-14)「本発明で使用する第1溶剤としてはトリクロロフルオロメタン(フロン11)、1,1,2-トリクロロ1,2,2-トリフルオロエタン(フロン113)、1,1-ジクロロ2,2,2-トリフルオロエタン(フロン123)、1,2-ジクロロ1,1-ジフルオロエタン(フロン123b)及び1,1-ジクロロ2-フルオロエタン(フロン141b)などがある。」(第8欄第42行?第9欄第5行)
(A2-15)「第2溶剤としては、ミネラルスピリット、ケロシンなどの脂肪族炭化水素溶剤、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノールなどのアルコール類、ブチルエーテル、セロソルブ、カルビトールなどのエーテル及びエーテルアルコール類、ジイソプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸ブチル、酢酸アミル、セロソルブアセテートなどのエステル類、トルエン、キシレン、クレゾールなどの芳香族、ジペンテン、テレビン油などのテルペン類などを挙げることができる。」(第9欄第11?21行)
(A2-16)「実施例1 沸点20?50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンとしてフロン113(沸点47.6℃)を使用し、第1槽の設定温度を変更することにより第1槽中のフロン113と第2溶剤の比率を任意に設定できることを確認するため、次の実験を行った。
第2溶剤として安息香酸イソアミル(沸点262℃)を使用し、フロン113との混合溶剤・・を第2図に示した装置の第1槽31に収容し、フロン113を第2槽32に収容して沸騰させ、第3槽及び第4槽にはフロン113を収容して沸点温度以下に維持し、第1槽の温度を60℃?100℃の範囲で設定温度を変更して第1槽中の濃度が平衡に達した後の組成を求めた。」と記載され、当該「第1表」には、第1層の設定温度が60、70、80、90及び100℃であったことが記載され、また例えば、60℃での平衡後のフロン濃度が54.9%であったことが示されている。そして「実施例2」では、実施例1と同じ第1溶剤及び第2溶剤を使用して洗浄試験を行ったことが記載され、80℃で良好な洗浄結果が得られたことが示されている。(第9欄第30行?第11欄第14行)
(A2-17)「発明の効果 既述の如く、本発明においては非毒性、非引火性のクロロフルオロハイドロカーボンでべ一パ一シールされた状態で第2溶剤を使用するので、引火性や毒性のある有機溶剤であっても、大気中への漏洩、拡散を抑制しつつ高温で使用して高い洗浄効果を達成することができ、運転中の引火の危険や作業環境における毒性の問題が避けられる。」(第12欄第17?24行)。

(A3)甲第3号証(欧州特許出願公開第431458号明細書)
甲第3号証は、甲第4号証として提出された特開平4-28798号公報(以下、この摘記欄で「対応公報」と略する。)に対応する欧州特許明細書であって、以下の記載(訳文)がなされている。
(A3-1)「1.一般式CnFmH2n+2-m(式中、4≦n≦6及び6≦m≦12である)で表わされるフッ化脂肪族炭化水素を有効成分として含有する洗浄剤組成物。・・・
4.炭化水素類、アルコール類、エステル類及びケトン類から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤を含む請求項1に記載の洗浄剤組成物。・・・
6.約30重量%またはそれ以下の有機溶剤を含む請求項4記載の洗浄剤組成物。」(第9?10頁クレーム1、4、6)
(A3-2)「本発明は・・・IC部品、精密機械部品などに付着したフラックス、油脂類、塵埃などの除去に適した洗浄剤組成物に関する。」(第2頁第1?3行)
(A3-3)「従来から、IC部品、精密機械部品などを製造する際、組み立て行程で付着したフラックス、塵埃などを除去するために、通常有機溶剤を用いる洗浄が行なわれている。有機溶剤としては、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(R-113という)が広く使われている。・・・
しかるに、最近、R-113が成層圏のオゾンを破壊し、ひいては皮膚癌の発生をひき起こす原因となる疑いがあることから、その使用が規制されつつある。」(第2頁第4?13行)
(A3-4)「本発明者は、上記従来技術の現状に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のフッ化脂肪族炭化水素が、(1)分子中に塩素を含有しないので、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、(2)フラックス、油脂類、塵埃などの洗浄効果に優れ、(3)従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れのみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵さないことを見出し、本発明を完成した。」(第2頁第19?24行;対応公報第2頁右上欄第3?12行参照。)
(A3-5)「上記洗浄剤組成物中に存在するフッ化脂肪族炭化水素の例は、代表的には、C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5、C6F12H2である。好ましい具体例は、1,1,2,3,4,4,-ヘキサフルオロブタン(HCF2CFHCFHCF2H)・・・、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン(HCF2(CF2)4CF2H)・・・等である。」(第2頁第34?45行)
(A3-6)「本発明の組成物には、フラックスの溶解力を向上させるために、炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類などの有機溶剤から選ばれる少なくとも一種を併用しても良い。有機溶剤の配合量は、特に制限されないが、通常洗浄剤組成物全量の30重量%又はそれを超えない範囲、好ましくは0.5?10重量%程度、さらに好ましくは1?8重量%程度とすれば良い。」(第2頁第49?55行)
(A3-7)「炭化水素類としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン・・・などが好ましい。アルコール類としては、特に制限されないが、炭素数1?5程度の鎖状飽和アルコール類が好ましく・・・エステル類としては、特に制限されないが、炭素数1?5程度の脂肪酸と炭素数1?6程度の低級アルコールのエステルが好ましく・・・ケトン類としては、特に制限されないが、一般式R-CO-R’(式中、RおよびR’は炭素数1?4程度の飽和炭化水素基を示す)で表わされるものが好ましく・・・などが特に好ましい。」(第3頁第1?16行)
(A3-8)「本発明組成物を用いてフラックス、油脂類などの洗浄、塵埃除去などを行なうに際しては、通常の洗浄方法が採用できる。具体的には、手拭き、浸漬、スプレー、揺動、超音波洗浄、蒸気洗浄などの方法を挙げることができる。」(第3頁第22?25行)
(3-9)「本発明の洗浄組成物は、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、しかもフラックス洗浄効果に優れている。また、従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れ(フラックス、油脂類、塵埃など)のみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵すことがない。」(第3頁第26?30行)

(A4)甲第4号証(特開平4-28798号公報)
上記甲第3号証に対応する日本特許出願の公開公報であり、本件特許の優先日後に頒布されたものである。摘記略。

(A5)甲第5号証(実験報告書「ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-ヘキサンに対するイソプロピルアルコールの溶解性試験」(平成12年12月18日 三井・デュポンフロロケミカル株式会社 テクニカルセンター ガス技術サービスグループ 菊地秀明作成)
ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-ヘキサンとイソプロピルアルコールとの混和性を25℃及び70℃で測定した結果が示されている。

(V-2)被請求人が提出した証拠方法
(B1)乙第1号証(「ジョン・オーエンスによる実験成績書」)
沸騰槽をデカン酸メチルと試験すべきフルオロケミカル溶剤との50重量%混合液で満たし、リンス槽は純粋なフルオロケミカル溶剤で満たし、汚れた試験片を沸騰槽に浸漬してから、リンス槽中でリンスし、蒸気相中で溶剤を切ってから計量して得られた油除去率の結果が示されている。

VI.甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には、容器中の水素含有、易燃性の液体有機溶剤との接触により部品を洗浄し乾燥する方法(摘記A1-1)が記載され、併せて、洗浄されるべき部品を液体有機溶剤と接触させ、それから除去すること(摘記A1-1)が記載されており、そして、上記において「部品を洗浄」することは、部品の残留汚れや表面の汚染物を除去することに相当し、また上記の「液体有機溶剤」は、「有機クリーニング液」に相当するといえる。
したがって、甲第1号証には、「部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機クリーニング液の中に導入する工程」が記載されているといえる。
(イ)甲第1号証には、洗浄されるべき部品を液体有機溶剤と接触させ、それから除去すること(摘記A1-1)、及び、洗浄されるべき部品を区分室中の冷溶剤の中におろし、次に、部品を蒸気層に引上げ、そこで凝縮物が部品の上に形成し、純粋な液体中のすすぎを提供すること(摘記A1-11)が記載されており、そして、上記の「有機クリーニング液の中に導入する」部分は「クリーニング区画」ということができ、また、上記において「すすぎを提供する」部分は「リンス区画」ということができる。
したがって、甲第1号証には、「部品を有機クリーニング液から取り出し、そして該有機クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画で前記部品をリンスする工程であって、リンス溶剤が前記有機クリーニング液を前記部品から除去する工程」、が記載されているといえる。
(ウ)甲第1号証には、「塩素または臭素を含有しない高フツ素化有機化合物(HFO)を、高フツ素化合物よりも高い溶解力を有する溶剤(通常は極性有機溶剤)とともに用いる・・・方法を提供する」(摘記A1-2)と記載されているので、該高フッ素化有機化合物(HFO)の溶解性は、該極性有機溶剤等の溶剤の溶解性よりも小さいといえる。
したがって、甲第1号証には、該リンス溶剤は、該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有することが記載されているといえる。
(エ)甲第1号証には、洗浄後にすすぎを行うことともに(摘記A1-1,A1-8,A1-11)、当該すすぎについて、ペルフルオロ化合物液体中のすすぎを構成し、微量の汚れとともに残りのアルコールを除去すること(摘記A1-8)が記載されている。そして、甲第1号証には、すすぎ剤として高フッ素化有機化合物(HFO)を用いることが記載され(摘記A1-1)、また、HFOは、主として炭素とフツ素原子を含有するが、酸素または窒素原子とともに、または、それなしに少量割合の水素原子を含有しうる有機化合物を意味することが記載され(摘記A1-3)、そして、具体的には、ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へプタン(沸点45℃)、ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へキサン(沸点70℃)等が例示されている(摘記A1-4)。
してみれば、上記例示された化合物は、水素、炭素及びフッ素からなる「ヒドロフルオロカーボン」であるといえ、また、一定の沸点を有するものであるといえる。
(オ)甲第1号証には、「いずれの適当なペルフルオロ化合物/有機溶剤の組み合わせも、蒸気を難燃性にするのに十分なべルフルオロ化合物が溶剤の上の蒸気空間に存在することを条件として用いることができる。」(摘記A1-7)と記載されており、そして、上記難燃性にする「蒸気空間」は、「燃焼抑制被覆」といえる。
したがって、甲第1号証には、ペルフルオロ化合物蒸気により、燃焼抑制被覆を形成することが記載されているといえる。
(カ)甲第1号証に記載された洗浄方法(摘記A1-1)は、ヒドロフルオロカーボン基剤のリンス溶剤と有機クリーニング液を用いるものであるので(摘記A1-1?A1-4)、「非水系クリーニング法」といえ、また、その液組成からみて、クロロフルオロカーボンを特段使用しないものでもある(摘記A1-1,A1-2)。

以上(ア)?(カ)によれば、甲第1号証には、
「(a)部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機クリーニング液の中に導入する工程;
(b)前記部品を前記有機クリーニング液から取り出し、そして該有機クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中でヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤液体により前記部品をリンスする工程であって、前記ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機クリーニング液を前記部品から除去する工程、この際、前記のヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、一定の沸点範囲を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、該ヒドロフルオロカーボンが、水素、炭素、及びフッ素から成り、;
(c)工程(a)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画の上に形成する工程;及び
(d)前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法であって、クロロフルオロカーボンを使用しないで行なわれる方法。」
の発明が記載されているといえる。
(以下、上記発明を「引用発明」という。)

VI.対比・判断
本件発明8と、引用発明とを対比すると、本件発明8は、引用発明と、
「(a)部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機クリーニング液の中に導入する工程;
(b)前記部品を前記有機クリーニング液から取り出し、そして該有機クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中でヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤液体により前記部品をリンスする工程であって、前記ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機クリーニング液を前記部品から除去する工程、この際、前記のヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、一定の沸点を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、該ヒドロフルオロカーボンが、水素、炭素、及びフッ素から成り、;
(c)工程(a)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画の上に形成する工程;及び
(d)前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法であって、クロロフルオロカーボンを使用しないで行なわれる方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(A)本件発明8では、クリーニング液について「又は炭化水素」と特定し、ヒドロフルオロカーボンについて「場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含むものである」と特定し、また、使用しない成分について「またはヒドロクロロフルオロカーボン」と特定しているのに対し、引用発明ではそのような各特定がなされていない点。
(B)本件発明8では、部品をリンス溶剤液体によりリンスする工程について、「リンス区画中に含有される液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤中に曝すことにより前記部品をリンスする」としているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
(C)本件発明8では、「燃焼抑制被覆をリンス区画の上に形成」し、且つ、「燃焼抑制被覆が実質的に純粋なヒドロフルオロカーボン蒸気から本質的になる」としているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
(D)本件発明8では、リンス溶剤について、「少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で少なくとも2モル%の該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し」としているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
(E)本件発明8では、リンス溶剤について、「上記リンス剤が、約3?約8の炭素原子を含有して少なくとも60重量%のフッ素を有する1または2以上のヒドロフルオロカーボン化合物から本質的になり、前記化合物が直鎖または分岐鎖を有して約25℃?約125℃の沸点を有し」と特定しているのに対して、引用発明はそのような特定をしていない点。
(F)本件発明8では、「上記ヒドロフルオロカーボンリンス溶剤を含有するリンス区画中に存在する有機又は炭化水素クリーニング液が、有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように、前記ヒドロフルオロカーボンリンス溶剤と前記有機又は炭化水素クリーニング液とを選択する」と特定しているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

そこで、上記各相違点について、以下検討する。
相違点(A)について:
上記の「又は炭化水素」、「場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含むものである」、及び、「またはヒドロクロロフルオロカーボン」とした点は、いずれも任意の選択事項であり、これにより実質的に相違するとはいえない。
したがって、相違点(A)は実質的な相違点を構成しないものである。

相違点(B)について:
本件発明8では、リンス溶剤として、ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤を用いている。一方、甲第1号証には、高フッ素化有機化合物による蒸気-すすぎを行うこと(摘記A1-1)が記載され、その化合物の具体例として、ヒドロフルオロカーボンに該当するペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へプタン、及びペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へキサン(摘記A1-4)が例示されている。したがって、リンス溶剤が、ヒドロフルオロカーボンを基剤とするものである点で両者は一致している。
一方、洗浄システムの方式は、被洗物の性質、被洗物の汚れの程度、被洗物に対する清浄度の要求の度合いにより決まること、必要とする洗浄槽等の数もその目的に応じて1槽ないし5槽以上の中から選択され、汎用的には3槽式の洗浄機が用いられていること、その3槽式の洗浄機では、2槽目ですすぎ洗浄が行われ、3槽目で仕上げ洗浄すなわち蒸気洗浄と乾燥とが同時に行われること、及び、すすぎ洗浄の方法には浸漬洗浄と蒸気洗浄があることは、甲第2号証(摘記A2-1、A2-6、及び第1図、第2図)に記載されるとおり既知の事項であり、また、周知の事項である(要すれば、「特定フロン・クロロカーボン代替品開発の現状とその方向」化学工業日報社(1990年12月19日)第54?55頁(東京高等裁判所(現知的財産高等裁判所)に提出された甲第8号証)、「フッ素化合物の最先端応用技術」株式会社シーエムシー(昭和56年4月24日)第228?229頁(同上、甲第9号証)、及び、「オゾン層破壊物質使用削減マニュアル」オゾン層保護対策産業協議会発行(1991年7月1日)第85?87頁(同上、甲第10号証)を参照。)。
そして、上記3槽式洗浄機の2槽目のすすぎ洗浄と3槽目の仕上げ洗浄は、クリーニング液を除去するための工程であり、本件発明1でいう「リンス」に該当する工程であるから、3槽目の洗浄機はリンス工程として浸漬リンスと蒸気リンスを組み合わせているものであるということができる。
上記の既知ないし周知の技術からすれば、湿式洗浄システムにおいて、単槽式、2槽式、3槽式あるいは4槽式以上の方式のいずれとするかは、洗浄する対象物及びその目的に応じて適宜選択して採用され得るものであることは明らかである。
以上からすれば、洗浄システムにおけるリンス方式として、浸漬リンス方法を採用する程度のことは、洗浄する対象物及び洗浄の目的に応じて当業者が適宜選択する範囲に属することである。
以上のとおりであるから、上記相違点(B)に係る構成とする点に格別の困難性があるとすることはできず、なおかつ、これにより、当業者が予期し得なかった格別の効果を奏したと認めることもできない。
したがって、相違点(B)に係る構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

相違点(C)について:
引用発明の「燃焼抑制被覆」は、本件発明8でいう「燃焼抑制被覆」に相当し、そして、引用発明の当該燃焼抑制被覆を構成する難燃性の蒸気については、甲第1号証の「蒸気を難燃性にするのに十分なペルフルオロ化合物が溶剤の上の蒸気空間に存在する」との記載からすると、当該蒸気には易燃性である有機溶剤が含まれず、実質的に純粋なペルフルオロ化合物の蒸気であることを意味し、また、示唆されていると認められる。
甲第1号証には、前記ペルプロオロ化合物の蒸気を、リンス区画の上に形成する点の記載は見当たらない。しかし、これは、「相違点(B)について」の欄で検討した蒸気リンスを伴う浸漬リンス方法を採用することにより、普通に採用される構成である。
したがって、相違点(C)に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

相違点(D)について:
甲第1号証には、「40℃?100℃範囲のペルフルオロカーボンの沸点が最も広く有用である」(摘記A1-14)こととともに、「ペルフルオロカーボンの乏しい溶解力と、上記例の蒸気凝縮工程における有効なすすぎを与える必要性の故に、ペルフルオロカーボンは、選ばれた有機溶剤に最大の溶解性を示すものが好ましい。しかしながら、液相においては、有機溶剤とpfcは・・・出来るだけ混和しないままであるのが望ましい」(摘記A1-14)と、相互の溶解性の程度について説明され、その具体例として、「PP2中のアルコールの0.4%溶解度」(摘記A1-16)の例が記載されて、クリーニング溶剤のリンス溶剤に対する溶解度が示されている。
これを「モル%」に換算の上、本件発明8の「少なくとも2モル%」の「混和性」の要件を満たしているかを確認すると、上記の「0.4%」とは、PP2(ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン))(沸点76℃)が100gにイソプロピルアルコールが0.4g溶解している状態であると推測されるから、PP2(C7F14)の分子量の350、イソプロピルアルコール(C3H6O)の分子量の60から、上記重量をモル数に換算すると、PP2が0.286モル、イソプロピルアルコールが0.0067モルとなり、0.4%(wt%)は、2.3モル%と換算され、してみれば、甲第1号証には、クリーニング剤のリンス溶剤に対する溶解度が2.3モル%程度のものが、実施例として記載されている。
したがって、クリーニング剤のリンス溶剤に対する溶解性(混和性)に関して、本件発明8と引用発明とは実質的に相違するということはできない。
よって、当該相違点(D)は、実質的な相違点を構成するものではない。

相違点(E)について:
甲第1号証には、「特に適当な水素含有フツ素化有機化合物」(摘記A1-4)として、ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-ヘキサン(沸点70℃)が挙げられており、その組成式はC6F13H、フッ素量は77重量%である。すなわち、この化合物は、炭素、フッ素及び水素を構成元素とするヒドロフルオロカーボン化合物であって、その炭素数は6であり、その化合物構造は直鎖を有するものであり、また沸点は上記のとおり70℃である。したがって、ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-ヘキサンは、相違点(E)に係る「約3?約8の炭素原子を含有して少なくとも60重量%のフッ素を有する1または2以上のヒドロフルオロカーボン化合物から本質的になり、前記化合物が直鎖または分岐鎖を有して約25℃?約125℃の沸点を有し」ているものに該当するといえる。
したがって、相違点(E)は実質的な相違点を構成しないものである。
また、上記の「特に適当な水素含有フツ素化有機化合物」として挙げられたものの中から、好適な化合物を選択して特定する点に格別の困難性があるとはいえないので、相違点(E)は当業者が容易になし得たことである。

相違点(F)について:
(i):相違点(F)は、本件発明8の上記構成(う)に基づくものであって、これは、前記のとおり、「ヒドロフルオロカーボンリンス剤を含有するリンス区画中に存在する有機又は炭化水素クリーニング液が、有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように、前記ヒドロフルオロカーボンリンス剤と前記有機又は炭化水素クリーニング液とを選択する。」というものである。
上記記載からも明らかなとおり、構成(う)は、「前記ヒドロフルオロカーボンリンス剤と前記有機又は炭化水素クリーニング液とを選択する方法」、すなわちリンス溶剤とクリーニング液の選択方法に係るものであって、リンス溶剤とクリーニング液の選択方法という観点から限定したものである。そして、その選択に必要な要件として、「有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように」との特定がなされているものである。
(ii):上記「カスケード効果」という言葉の意味は、特許請求の範囲から一義的に明らかではなく、この言葉が確立した技術用語であることを示す的確な証拠もない。そこで、発明の詳細な説明等の記載を参酌して、その意味内容を検討することとする。
「カスケード効果」については、本件明細書にも明確な定義はないが、発明の詳細な説明には、「図3では、浴20には炭化水素系クリーニング液で飽和したフルオロカーボン系リンス溶剤の溶液が入っている。この液は炭化水素が割合低い濃度で(例えば、10モル%以下)フルオロカーボン中で相分離し、より比重の高いフルオロカーボンの上部に浮いて来て、カスケード効果によりクリーニング浴15に戻る。」(第16頁第3?6行)という記載がある。そして、本件明細書の第3図には、リンス浴20とクリーニング浴15の両区画の液面に高低差があり、リンス区画の上部に浮かんだクリーニング液(HC)が、両区画を隔てる壁を越えて,クリーニング区画に戻る様子が図示されている。
これらの記載と、「カスケード(cascade)」とは、「小滝」を意味する語であることを併せて考えると、構成(う)の「カスケード」とは、区画間の段差を利用して滝状に流下することを意味し、「カスケード効果」とは、比重差により分離した上層の液体がカスケードによって移送されること(又はそのことにより両液が分離回収できること)を意味するものと理解できる。
(iii):これを踏まえ、構成(う)のうち、リンス溶剤とクリーニング液の選択に必要な要件として特定された「有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように」との記載を改めて見ると、前半の「予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成」するように両液を選択すれば、後半の「該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供するように」なること、すなわち、「該リンス区画の上部に浮かんだ炭化水素クリーニング液を、カスケードにより該クリーニング区画に戻す」ことができるようになることは明らかである。
そうすると、両液の選択に関して意味のある限定は、前半の「予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成」することにあるということができる。
(iv):なお、構成(う)に係る前記記載によれば、同構成は、クリーニング液がリンス溶剤上にクリーニング液相を形成し、リンス区画の上部に浮かんでクリーニング区画内に戻るという作用を奏することを可能にするようなクリーニング液とリンス材の選択方法を規定したものにとどまり、そのような工程を含む方法や,そのような工程を可能にする装置に関する構成ではないことは明らかである(例えば,請求項9が「・・・第1リンス区画内へのカスケード効果を提供する工程を含んでなる、請求項4記載の方法」と規定されていることと対比しても明らかである。)。

(v):そこで、構成(う)についての以上の認定を前提に、相違点(F)に係る当該構成(う)が容易に想到し得たかどうかについて検討する。
(vi):甲第1号証には、以下の記載がある。
(ア)「損失を避けるために、既知の冷却/凝縮/再循環手段により溶剤およびフツ素化化合物を分離し、維持することが必要である。」(摘記A1-5)、
(イ)「第1図は、重質ペルフルオロカーボン層9および易燃性溶剤層5を含有するタンク4を示す。この二つの液体はほとんど混和しないから分離層のままである。」(摘記A1-6)、
(ウ)「溶剤は・・せき54を越えて区分室47に流れる。溶剤及び油のような溶解した汚れは区分室47に集中し、部品が浸漬される区分室44の溶剤45は、連続的に精製される。」(摘記A1-10)、
(エ)「いずれの区分室75,76,77に入るペルフルオロカーボン液体は、底に沈み,分離して」(摘記A1-12)、
(オ)「ペルフルオロカーボンの乏しい溶解力と、上記例の蒸気凝縮工程における有効なすすぎを与える必要性の故に、ペルフルオロカーボンは,選ばれた有機溶剤に最大の溶解性を示すものが好ましい。しかしながら、液相においては,有機溶剤とpfcは,下記の理由のために出来るだけ混和しないままであるのが望ましい:
1.有機溶剤の廃棄にともなう高価なpfcの損失を避けるために、二つの液体の可能な限り完全な分離を促進すること・・・」(摘記A1-13)。
(vii):上記記載によれば、甲第1号証において、クリーニング液である「溶剤」(「有機溶剤」とも記載)とリンス溶剤である「ペルフルオロカーボン」(「フツ素化化合物」「pfc」とも記載)との混和性は、すすぎ効果を与えるためにある程度は必要であるが、高価なペルフルオロカーボンの損失を避けるために、分離回収が可能なように、できるだけ混和しないままであるのが望ましいという認識が示され、両液が分離した際には、ペルフルオロカーボン上に溶剤の層が形成されることも開示されているということができる。
そうすると、甲第1号証には、構成(う)のうち「ヒドロフルオロカーボンリンス溶剤を含有するリンス区画中に存在する有機又は炭化水素クリーニング液が、有機又は炭化水素クリーニング液のヒドロフルオロカーボンに対する予め設定された低濃度で該ヒドロフルオロカーボンから分離して該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成」するように両液を選択することが示されているということができる。そして、前記のとおり、その場合には,「該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供する」ことが可能になることは自明である。
(viii):以上(i)?(vii)のとおりであるから、相違点(F)に係る構成(う)は、甲第1号証の記載事項に基づき、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

(ix):また、仮に、構成(う)に係る「該ヒドロフルオロカーボン上に炭化水素クリーニング液相を形成し、そして該リンス区画の上部に浮かんで該クリーニング区画内に戻るといった炭化水素クリーニング液のカスケード効果を提供する」ことは、リンス溶剤とクリーニング液の選択を行った後に行うべき工程を予め規定したものであったとしても、そのような工程を付加することは、次のとおり、当業者が容易に想到し得るものである。
(x):甲第1号証には、前記(vi)の(ア)?(エ)記載のとおり、区分室において、リンス溶剤であるペルフルオロカーボンが底に沈み、クリーニング液である有機溶剤と分離することが記載されており、さらに、「損失を避けるために、既知の冷却/凝縮/再循環手段により溶剤およびフツ素化化合物を分離し、維持することが必要である。・・・高フツ素化化合物と有機溶剤を凝縮し、それぞれの溜めに再循環するための手段より成る部品を洗浄し乾燥するための装置を提供する。」(摘記A1-5)とも記載されている。この記載によれば、混合されたクリーニング液とリンス溶剤を分離し、それぞれの溜めに再循環して、液体を維持することは、甲第1号証にも記載されている事項であるということができる。
また、甲第1号証には、リンス溶剤の上部に分離して存在するクリーニング液を、移送先はクリーニング区画ではないものの、隣接する区画に、両区画間のせきを越えて移送することが記載されており(前記(vi)の(ア)?(エ))、甲第1号証記載の発明と構成(う)は、両液が混在した区画から、クリーニング液を分離して、クリーニング液のみからなる区画に戻すという点で一致するということができる。
そうすると、甲第1号証の記載に基づいて、両液が混在する「リンス区画」から、ここで相分離されたクリーニング液を、クリーニング液の溜めに相当する「クリーニング区画」へ戻すという構成(う)のような構成を想到することが困難であるとは考えられない。
(xi):また、そもそも比重差により相分離した液体の分離回収方法として、オーバーフローさせるなど重力を利用して上層のみを分離回収する方法自体は、当該技術分野において慣用されている方法であると認められる。
(xii):以上(x)?(xi)によれば、構成(う)が、相分離したリンス溶剤とクリーニング液を、カスケードを利用して分離する工程を含むとしても、当業者であれば、甲第1号証の記載から、そのような工程を容易に想到し得たということができる。

(xiii):以上(i)?(xii)のとおりであるから、相違点(F)に係る構成(構成(う))は、甲第1号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

以上のとおりであるから、本件発明8は、周知技術を参酌すれば、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本件発明8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、したがって、請求項8に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-26 
結審通知日 2005-11-29 
審決日 2005-12-12 
出願番号 特願平5-510280
審決分類 P 1 112・ 121- Z (C23G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 諸岡 健一  
特許庁審判長 池田 正人
特許庁審判官 市川 裕司
城所 宏
登録日 1997-08-01 
登録番号 特許第2680930号(P2680930)
発明の名称 多成分溶剤クリーニング系  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 社本 一夫  
代理人 谷 義一  
代理人 中田 隆  
代理人 阿部 和夫  
代理人 主代 静義  
代理人 田村 正  
代理人 岩崎 利昭  

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