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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1161778
審判番号 不服2003-14514  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-29 
確定日 2007-08-13 
事件の表示 平成 7年特許願第521944号「受精能を変化させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月24日国際公開、WO95/22340、平成 9年 9月22日国内公表、特表平 9-509418〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年2月17日に国際出願されたものであって(優先権主張 1994年2月18日 米国)、その請求項に記載された発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、請求項1に記載された発明を「本願発明1」という)。

「1.循環における黄体形成ホルモン活性を有する糖蛋白質ホルモンの活性を減少させると共に、これにより濾胞刺激ホルモンの生成を刺激することによる哺乳動物における受精能刺激剤において、黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤を哺乳動物に投与することを特徴とする受精能刺激剤。」

2 刊行物について
原査定で引用されたJOURNAL OF ANIMAL SCIENCE(1985)Vol.60, No.3, p.749-754は、本願優先日前に頒布された刊行物であって、「正常繁殖期にウシLHに対する抗血清で処置された成雌ヒツジの上昇した排卵率」と題する学術論文である。(以下、これを刊行物1という。)

刊行物1には、妊娠ウマの血清ゴナドトロピン(PMSG)処置がヒツジにおける排卵率向上に用いられていたが、PMSGの入手可能性とPMSGに対する予測不能な反応がこのホルモンの一般的な使用の制限となっているため、ヒツジにおける排卵率を向上させる他の技術の開発が必要であるとの認識があった旨記載されている(p.794右欄15行?23行)。そして、卵巣ステロイドに対する受動免疫によって、排卵率を向上させ、受精率を向上させ、1頭当たりの仔羊数を増加させられることや、ハムスター及びモルモットにおけるウシ黄体ホルモン(LH)に対する受動免疫が同様に排卵を刺激することという従来の知見をふまえ、これらの種におけるデータは視床下部-下垂体-卵巣系をあるポイントで変調させることで、排卵率を向上させられることを示唆すると記載した上で(p.794右欄23行?下から5行)、刊行物1に記載の研究は、黄体期のヒツジへのウシLHに対する抗血清の注射が排卵率とホルモン分泌に与える影響を試験するためのものであることが記載されている(p.794右欄下から5行?末行)。

刊行物1には試験方法について、周期の10日目に5mlのウシLHに対する抗血清を投与し、対照動物には5mlの通常のウマ血清を投与したこと(p.750左欄4段落)が記載され、処置後の発情から2日後に中央開腹術を行い、排卵と直径5mm未満の濾胞の数を記録したこと及び卵巣表面でキャリパーを用いて濾胞の大きさを測定したことが記載されている(p.750左欄5段落)。また、毎日血液サンプルを採取し、プロゲステロン、エストラジオール、FSHについてRIAアッセイを行ったことが記載されている(p.750右欄2段落)。
上記試験の結果については、排卵数が処置群では対照群の2.1±0.1よりも高い2.7±0.2、p<0.05であって、LHに対する抗血清を投与された14頭のヒツジのうち8頭では3又は4個の黄体を有したのに対し、コントロールでは1頭が3個の黄体を有していたことが記載されている(p.751左欄2段落及びTABLE 2)。処置群のエストラジオールは対照群と比較して、13日目では低く(p<0.05)、17日目では高かったこと、また、FSH濃度は対照動物では観察期間を通じて比較的低かったのに対し、10日目にLH抗血清を注射した後FSHは著明に上昇し、12日目にピークに達し、11日目から16日目まで対照群の値を超えていた(p.0.05)ことが記載されている(p.751右欄下から2行?p.752左欄1段落)。
この試験結果について、刊行物1は、ヒツジの発情サイクルの10日目にウシLHに対する抗血清で受動免疫を付与すると排卵率が上昇したことを示すと述べ、末梢ホルモン濃度、とりわけ免疫反応性のFSHが排卵率の上昇と関連していると記載している(p.752左欄2段落)。

3 判断
(3-1)特許法第29条第2項について
a.本願請求項1の「黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤を哺乳動物に投与することを特徴とする受精能刺激剤。」との記載からみて、本願発明1は有効成分である黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤を、受精能刺激の効果を得る目的で用いる用途発明であると認められる。また、「循環における黄体形成ホルモン活性を有する糖蛋白質ホルモンの活性を減少させると共に、これにより濾胞刺激ホルモンの生成を刺激することによる哺乳動物における受精能刺激剤において」という記載は、有効成分である黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤が受精能を刺激する機構を説明したものと認められる。
また、本願明細書14頁の発明の詳細な説明の冒頭部分「本発明は、ルトロピン(LH)活性を有する循環糖蛋白質ホルモンの活性および/またはレベルを減少させることによる受精能の増大方法に関するものである。本発明の分子は、LHの生物学的活性を減少させる抗体または他の結合剤である。結合剤は、免疫処理に呼応して投与しあるいは生成させることができる。」との記載からみて、本願発明1の受精能刺激剤の有効成分である「黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤」は、LHに対する抗体である場合を包含するものと解される。

b.刊行物1の記載は、LHに対する抗血清(抗体)の投与がLHに対する抗体が濾胞の発達を促進させ、受精に必要な排卵の率と個数を上昇させる作用を持つことを哺乳動物であるヒツジでの試験によって確認したものと理解することができる。
これに対し、本願発明1は、受精能刺激剤である点において、刊行物1に記載の試験のものとは相違する。
上記相違点に関し、刊行物1には、LHに対する受動免疫の付与が排卵率を高め、仔羊を多く得るための実用的な方法となりうることを示唆すると記載されている(p.753右欄3段落?p.754左欄1行)。そうすると、刊行物1の上記示唆に基づき、刊行物1において確認されたLHに対する抗体の作用を受精能刺激の目的で利用して、LHに対する抗体を有効成分とする受精能刺激剤を得ることは、当業者が容易に想到し得たことである。また、本願明細書の記載を参酌しても、本願発明1が当業者の予測をこえる格別顕著な効果を奏するとも認められない。

c.したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(3-2)特許法第36条第4項について
a.本願明細書の請求項8?10には、本願発明1において、結合剤をLHおよびヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)に対する抗体に特定した請求項7に記載された発明について、抗体をそれぞれ、非中和抗体、さらにその中のB105、B110に特定した発明が記載されている。このように、本願発明1においては黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤としてB105やB110といった非中和抗体を用いる場合を含むものと認められる。

b.ところで、医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分の物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、明細書に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり、それがなされていない発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない。
そこで、本願発明1において、黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤として非中和抗体を用いる場合につき、発明の詳細な説明において、薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付けられているかを以下で検討する。

c.本願明細書には、非中和抗体を用いてその受精能刺激効果を実際に確認した薬理試験データは記載されていない。
本願明細書の記載をさらに検討すると、実施例1中の明細書19頁9?11行に「10μg?10mgの高親和性抗体(すなわちKa>5×107M-1)の投与は、多卵胞性卵巣病を有する女性にて受精能を誘発するのに充分である。適する抗体の同定および特徴化については実施例2に示す。」との記載があり、実施例2中、明細書20頁下から7行?下から4行に「たとえば大過剰のB110はhCGの活性を僅か約半分だけ減少させるのに対し、大過剰のB105はhCGの活性を約3/4減少させることが示された。これら各抗体はhLHに結合すると共に、hLH活性に対し同じ作用を有すると予想される。」との記載がある。
これら実施例中には、実施例1には黄体形成ホルモンに対する抗体がホルモンの変動に与える影響が述べられ、実施例2においては、抗体の受容体結合とホルモン産生に与える影響の程度を測定する試験方法が併せて記載されている。しかしながら、これら実施例の記載を含め、明細書の全記載を詳細に検討しても、黄体形成ホルモン活性の減少がホルモンの変動に影響を与えるとしても、非中和抗体による黄体形成ホルモン活性の減少量がどれだけであれば、実際に受精能刺激が得られるのかが不明であって、多卵胞性卵巣病患者であるかどうかを問わず、非中和抗体を用いて本願発明1の最終的な用途である受精能刺激の効果が得られることを理解することができるように記載されていない。

d.そうすると、結局、本願明細書には、黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤として非中和抗体を用いた場合に受精能を刺激できることが、実験的にも理論的にも裏付けられていないことになる。

f.このように、本願明細書には、本願発明1において、黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤として非中和抗体を用いた場合に受精能刺激効果が得られることについて、具体的裏付けがなく、また、黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤として非中和抗体を用いた場合にこのような効果が得られることを客観的に理解するに足りる合理的説明もされていないのであるから、本願明細書の記載は、当業者が黄体形成ホルモンの生物学的活性を減少させる結合剤として非中和抗体を受精能を刺激する目的で使用することの技術上の意義を理解するために必要な事項を欠くものである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が非中和抗体を用いる本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえないから、本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項7に記載された発明において非中和抗体を用いる場合、非中和抗体を用いる請求項8に記載された発明、非中和抗体であるB105を用いる請求項9に記載された発明及び非中和抗体B110を用いる請求項10に記載された発明についても同様の理由で本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-17 
結審通知日 2006-03-22 
審決日 2006-05-22 
出願番号 特願平7-521944
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 聖子守安 智  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 齋藤 恵
佐伯 裕子
発明の名称 受精能を変化させる方法  
代理人 浜田 治雄  

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