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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1161875
審判番号 不服2004-25042  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-12-08 
確定日 2007-08-02 
事件の表示 平成11年特許願第163780号「インクジェット式記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月19日出願公開、特開2000-351209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成11年6月10日の出願であって、平成16年10月22日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月8日付けで本件審判請求がされるとともに、平成17年1月6日付けで明細書についての手続補正がされたものである。
当審においてこれを審理した結果、平成17年1月6日付けの手続補正を却下するとともに、新たに拒絶理由を通知したところ、請求人は平成19年5月16日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成19年5月16日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数のノズル開口部と、各ノズル開口部にそれぞれ連通した圧力室と、各圧力室に対応して設けられた圧電振動子とを備え、駆動信号の印加に伴う前記圧電振動子の作用によって圧力室に圧力変動を生じさせ、この圧力変動によってノズル開口部からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドにおいて、
前記圧電振動子に直列に接続され、前記圧電振動子に印加される駆動信号の駆動電圧を分圧する複数のコンデンサ素子と、各コンデンサ素子に直列又は並列接続され、
前記コンデンサ素子は前記圧力室における圧力変動を調整してインク滴の吐出量を変えるために選択的に圧電振動子に電気的に接続させる選択スイッチとを有する補正回路を備え、前記選択スイッチは、複数の圧電振動子を複数のグループに分けて、同じグループに属する圧電振動子に対応して同一状態になるように制御されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。」
なお、「各コンデンサ素子に直列又は並列接続され、」で改行されているため、直列又は並列接続されるものが何であるのか不明確であるが、直後段落の「選択スイッチ」であることは明らかである。そこで、上記文言以下については、「各コンデンサ素子に直列又は並列接続される選択スイッチとを有する補正回路を備え、
前記コンデンサ素子は前記圧力室における圧力変動を調整してインク滴の吐出量を変えるために選択的に圧電振動子に電気的に接続させるものであり、前記選択スイッチは、複数の圧電振動子を複数のグループに分けて、同じグループに属する圧電振動子に対応して同一状態になるように制御されていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。」の趣旨に解する。

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
当審における拒絶の理由に引用した特開昭56-21861号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?ウの記載が図示とともにある。
ア.「印字信号に従って駆動される電気機械変換器と、該電気機械変換器の動作によりインクを噴射するノズルとを複数組備えたマルチノズル型のインクジェットプリンタにおいて、
上記各電気機械変換器の駆動信号を発生する手段と、各電気機械変換器の駆動電圧を設定する増幅手段と、上記信号の電圧と駆動電圧との比を設定する手段と、を備えていることを特徴とするインクジェットプリンタ。」(1頁左下欄5?13行)
イ.「ノズルが複数のDOD型インクジェットプリンタをシリアルプリンタに適用する場合、第2図のようにプリントヘッドHは、複数のノズル2’…及びそれらに対応する電気機械変換器(ピエゾ振動子)7’…を持った構成となる。」(2頁左下欄14?18行)
ウ.「第6図にこのような調整を行うための制御回路の一実施例を示す。便宜上、プリントヘッド12…として既述した3つの試作プリントヘッドを使用して説明する。各プリントヘッド12…のピエゾ振動子7’…と駆動信号源13との間には、各ピエゾ振動子ごとに独立して、可変抵抗14で増幅率が可変の増幅器15と、ピエゾ振動子の駆動用の増幅器16とが挿入接続されている。」(4頁右上欄1?8行)

2.引用例1記載の発明の認定
記載ウの「可変の増幅器15」(又はこれに「増幅器16」を加えたもの)及び「ピエゾ振動子7’」が記載アの「各電気機械変換器の駆動電圧を設定する増幅手段」及び「電気機械変換器」にそれぞれ該当する。
記載アにおける「電気機械変換器」及び「ノズル」は記載イの「プリントヘッドH」に備わっているが、可変の増幅器がプリントヘッドHに備わっているかどうかは、引用例1の記載からは明らかでない。
そこで、引用例1記載の「プリントヘッドH」に「各電気機械変換器の駆動電圧を設定する増幅手段」(可変の増幅器)を加えたものを、「プリントヘッドユニット」ということにする。
したがって、記載ア?ウを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次のような「プリントヘッドユニット」の発明が記載されていると認めることができる。
「印字信号に従って駆動されるピエゾ振動子と、該ピエゾ振動子の動作によりインクを噴出するノズルとを複数組備えたマルチノズル型のプリントヘッドと、
上記各ピエゾ振動子の駆動信号を発生する手段と、各ピエゾ振動子の駆動電圧を設定する可変の増幅器とを備えているプリントヘッドユニット。」(以下「引用発明1」という。)

3.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「ノズル」及び「ピエゾ振動子」は、本願発明の「ノズル開口部」及び「圧電振動子」にそれぞれ相当し、引用発明1の「プリントヘッド」が「各ノズル開口部にそれぞれ連通した圧力室と、各圧力室に対応して設けられた圧電振動子とを備え、駆動信号の印加に伴う前記圧電振動子の作用によって圧力室に圧力変動を生じさせ、この圧力変動によってノズル開口部からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド」といえることは明らかである。
引用発明1の「各ピエゾ振動子の駆動電圧を設定する可変の増幅器」と本願発明の「補正回路」は、「圧力室における圧力変動を調整してインク滴の吐出量を変えるために圧電振動子に電気的に接続させるもの」である点で一致する。
補正回路につき、本願発明では「インクジェット式記録ヘッド」の一部とされ、引用発明1ではそのように限定されておらず、その点は相違点となるが、補正回路を内在するかどうかにかかわらず、補正回路を含めたものを「インクジェット式記録ヘッドユニット」ということにして、補正回路の有無自体は一致点として扱い、「インクジェット式記録ヘッド」の一部かどうかを相違点とするのが妥当である。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「複数のノズル開口部と、各ノズル開口部にそれぞれ連通した圧力室と、各圧力室に対応して設けられた圧電振動子とを備え、駆動信号の印加に伴う前記圧電振動子の作用によって圧力室に圧力変動を生じさせ、この圧力変動によってノズル開口部からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドユニットにおいて、
前記圧力室における圧力変動を調整してインク滴の吐出量を変えるために圧電振動子に電気的に接続させる補正回路を備えたインクジェット式記録ヘッドユニット。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正回路につき、本願発明では「インクジェット式記録ヘッド」の一部とされているのに対し、引用発明1ではその点明らかでない点。
〈相違点2〉補正回路の具体的構成として、本願発明では「前記圧電振動子に直列に接続され、前記圧電振動子に印加される駆動信号の駆動電圧を分圧する複数のコンデンサ素子と、各コンデンサ素子に直列又は並列接続される選択スイッチとを有」し、「前記コンデンサ素子は前記選択的に圧電振動子に電気的に接続させる」とされているのに対し、引用発明1では「各ピエゾ振動子の駆動電圧を設定する可変の増幅器」である点。
〈相違点3〉制御態様につき、本願発明では「複数の圧電振動子を複数のグループに分けて、同じグループに属する圧電振動子に対応して同一状態になるように制御されている」のに対し、引用発明1では複数のグループに分けているとはいえない点。なお、請求項1に「前記選択スイッチは、」とあるのは、相違点2に係る構成を採用した結果にすぎないので、別途独立した相違点とはしない。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
本願発明と引用発明1に共通して、補正回路は圧電振動子ごとに設けられているから、補正回路の出力数と圧電振動子数は一致する。
補正回路をインクジェット式記録ヘッドの一部としない場合には、圧電振動子数に等しい出力配線を、インクジェット式記録ヘッド内外で施さなければならないのに対し、補正回路をインクジェット式記録ヘッドの一部とする場合には、補正回路の入力配線だけで事足りる。
他方、引用発明1において、補正回路をインクジェット式記録ヘッドの一部とすることを妨げる要因は見あたらない。
そうであれば、インクジェット式記録ヘッド内外の配線数を減少できるように、補正回路をインクジェット式記録ヘッドの一部とすることに困難性があるということはできず、当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
引用例1には、記載ア?ウのほかに、「従来、・・・ピエゾ振動子の駆動波形としては、矩形波が用いられている。そして、各ノズルから噴射される粒子の飛翔速度は、各ピエゾ振動子7’…に直列に接続された可変抵抗11…を変えることにより、矩形波の立上がり時間を変化させ、一定になるように、調節される。」(3頁左上欄1?10行)との記載があり、引用発明1の「可変の増幅器」が能動素子であるのに対し、従来技術としてここに記載された「可変抵抗」は受動素子である。すなわち、引用例1には受動素子をピエゾ振動子に直列接続することも記載されているが、可変抵抗を直列に接続しても、容量性素子であるピエゾ振動子の電圧を変化することはできない。
他方、当審における拒絶の理由に引用した特開平10-161090号公報(以下「引用例2」という。)には、「各画素領域ごとに、前記液晶に作用する電圧の値を画素領域内で部分的に異ならせるための電圧調整手段を設けた」(【請求項1】)及び「図2に示した等価回路でみると、画素領域Dのうちの第1の液晶駆動用電極52が対向している部分D1は、プラズマ放電により閉成されるプラズマスイッチPSWと表示駆動部Aとの間に液晶層の容量CLCとカラーフィルタの容量CCFとが直列に介在した回路構成となっており、第2の液晶駆動用電極52aが対向している部分D2は、前記プラズマスイッチPSWと表示駆動部Aとの間に液晶層の容量CLCだけが介在した回路構成となっているため、D1の部分の液晶に作用する有効電圧は、D2の部分の液晶に作用する電圧よりも、カラーフィルタ容量CCFによる電圧降下分だけ低くなる。」(段落【0057】)との各記載がある。
同じく引用した特開平7-159448号公報(以下「引用例3」という。)には、「導体11と接地電極60との間の電圧は、導体11と中間電極50の間の静電容量CTと、中間電極50と接地電極60の間の静電容量CSと分圧電圧調整用コンデンサ52の静電容量CBおよび光学式電圧センサ40の静電容量CKによって分圧される。そのため光学式電圧センサ40に印加される電圧は、分圧電圧調整用コンデンサ52の静電容量CBを変化させることにより任意に調整できる。」(段落【0010】)との記載がある。
引用例2記載の「液晶層」及び引用例3記載の「光学式電圧センサ」は、引用発明1の「ピエゾ振動子」同様容量性素子であり、容量性素子の印加電圧をそれに直列接続されたコンデンサにより調整する技術を、引用例2,3から把握することができる(引用例2,3がなくとも、容量性素子の印加電圧を調整する受動素子が、直列接続したコンデンサであることは技術常識に属する。)。そうであれば、引用発明1を出発点として、各ピエゾ振動子の電圧を設定するに当たり、能動素子である「可変の増幅器」を受動素子である「コンデンサ」(当然、可変でなければならない。)に変更することは当業者にとって想到容易である。
そして、容量が可変なコンデンサを実現するため、複数のコンデンサを用意し、それらを直列又は並列に接続するとともに、各コンデンサに対し選択スイッチを設ける(受動素子同士が直列接続であれば、各選択スイッチは各受動素子に対して並列接続され、受動素子同士が並列接続であれば、各選択スイッチは各受動素子に対して直列接続されることは当然である。その例として、特開平4-290585号公報(拒絶理由に引用した文献の1つである。)【図1】並びに特開平10-229327号公報【図1】及び【図3】をあげておく。なお、受動素子と選択スイッチの接続については、受動素子が抵抗性であるか容量性であるかは無関係である。)ことは設計事項というべきである。
以上のとおりであるから、相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(3)相違点3について
相違点3に係る本願発明の構成に関して、本願明細書には「本実施形態では、ノズル列単位でグループ化された圧電振動子群毎に、選択スイッチ14を同一状態に制御している。即ち、ノズル列単位で構成されたヘッドユニット毎に選択スイッチ14を同一状態に制御している。これは、インク滴の吐出量のばらつき(圧力室37の圧力変動特性のばらつき)は、ヘッドユニット毎に生じ易いことに起因している。」(段落【0084】)との記載があり、要するにノズル列単位等、吐出量のばらつきが小さい圧電振動子群をグループとして「同じグループに属する圧電振動子に対応して同一状態になるように制御」することが記載されている。
引用発明1に相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって想到容易なことは前示のとおりであり、各ピエゾ振動子(圧電振動子)ごとに複数のコンデンサを選択スイッチとともに設けるとした場合、ばらつきを小さくしようとすれば、ピエゾ振動子ごとの印加電圧を精密に調整せざるを得ず、多数のコンデンサと選択スイッチが必要になり、製造が困難になるとともにコストアップにつながる。そうである以上、ピエゾ振動子ごとのコンデンサ及び選択スイッチ数を、製造容易性及びコスト面から比較的少数に抑えることは設計事項であり、コンデンサ及び選択スイッチが少数であれば、コンデンサ合成容量の選択肢が少なくなるため、わずかなばらつきに対しては、同一容量とせざるを得ない。
その場合、ノズル列単位等、吐出量のばらつきが小さい圧電振動子群に対しては、選択スイッチを同一状態とすることになるから、吐出量のばらつきが小さい圧電振動子群をグループとして、相違点3に係る本願構成を採用することは、相違点1,2に係る本願発明の構成の採用を前提としたうえでの設計事項であり、引用発明1を出発点とした場合には当業者にとって想到容易である。

(4)本願発明の進歩性の判断
相違点1?3に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2,3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-01 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-19 
出願番号 特願平11-163780
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男大仲 雅人  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
尾崎 俊彦
発明の名称 インクジェット式記録ヘッド  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 須澤 修  

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