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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235443 審決 特許
無効200135480 審決 特許
異議199973920 審決 特許
異議200172607 審決 特許
審判199835415 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H04M
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  H04M
審判 全部無効 特174条1項  H04M
管理番号 1161935
審判番号 無効2004-80204  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-25 
確定日 2007-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第2997709号発明「電話の通話制御方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2997709号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2997709号に係る発明についての出願は、昭和61年1月13日に出願した特願昭61-6163号の一部を平成9年5月7日(パリ条約による優先権主張1985年1月13日、1985年11月10日、イスラエル国)に新たな特許出願としたものであって、平成9年6月6日付け及び平成11年7月5日付けで手続補正がなされ、平成11年11月5日にその発明について特許の設定登録がなされ、平成16年10月25日に本件無効審判が請求されたものである。

2.請求人の主張の概要
請求人の主張の概要は次のようなものである。
平成9年6月6日付け手続補正(以下、「本件第1補正」という。)および平成11年7月5日付け手続補正(以下、「本件第2補正」という。)は、特願昭61-6163号(以下、「親出願」という。)の出願当初の明細書および図面に記載した事項の範囲内のものでないから、本件特許が分割の実体的要件を満たさないことは明らかである。よって、本件特許は親出願の出願日まで遡及することができず、平成9年5月7日付けの出願(以下、「本件特許出願」という。)であるところ、本件第1補正及び本件第2補正は、本件特許出願の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内でなされたものでないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第123条第1項第1号(平成5年法律第26号による改正後のもの)の規定により、無効とすべきである。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、出願日(優先日)をそのままの昭和61年1月13日(昭和60年1月13日および昭和60年11月10日)として、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成および効果が記載されておらず、また特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないので、本件特許は、特許法第36条第4項および第5項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第3号(昭和60年法律第41号による改正前のもの、その改正後にあっては同法第36条第3項および第4項)の規定により、無効とすべきである。

3.被請求人の主張の概要
一方、被請求人の主張の概要は次のようなものである。
[本件特許出願が適法に分割されたものである点について]
本件特許出願における分割出願は適法になされたものであり、特許法17条の2第3項が適用される余地はないので、請求人の主張は誤っている。まず、本件特許に係る分割出願は、特許庁において認められたように適法なものである。具体的には、分割出願当初の明細書は、親出願に比べ、親出願の特許請求の範囲第10項?第23項が特許請求の範囲から削除され、削除された内容が段落0030に移動され、親出願の9頁9行?10頁9行の「本発明の広い局面…接続しうるようにする。」が削除されているだけにすぎない。このため、当該分割出願は、分割直前の原出願の明細書または図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでも、分割出願の明細書または図面が、原出願の出願当初の明細書または図面に記載した事項の範囲内でないものを含むものでもない。したがって、当該分割出願自体は適法なものであり、出願日はもとの親出願の時にしたものとみなされる。そして改正附則(平成6年12月14日法律第116号附則第6条1項)における経過措置により、いわゆる平成5年改正法施行前にした特許出願の明細書又は図面についての補正については、当該改正法以前の法律が適用されると規定されている結果、本件特許出願についても、原出願(親出願)の出願日当時における法律を適用して補正の適否が判断される。したがって、特許法17条の2第3項が適用されることはなく、被告の主張は誤っている。
そして、分割出願である本件特許出願においてした補正は補正の要件を満たし、分割の要件も満たしているのであるから、本件特許出願は、適法に分割されたものであり、原出願の出願日(昭和61年1月13日)に出願されたものとみなされる。従って、本件特許出願に無効理由は存在しない。

[本件第1補正及び本件第2補正でした補正が親出願の当初明細書に記載された技術的事項を変更しない点について]
(1)本件第1補正(全文訂正明細書)の第0007段落の第7?9行において、「上記預託金額は、各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に、通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される。」とした補正(補正事項1)について
親出願の出願当初の明細書(本件特許出願の当初明細書も同じ)には、クレジット額は、顧客が該クレジットを支払った後に特別のコードとともに特別の中央局のメモリーに記憶されるとは記載されていない。親出願の出願当初の明細書には、「実施例」において、「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり、今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」(親出願の出願当初の明細書第12頁6行?9行)と記載されているだけで、預託金額が支払われた後に、特別のコード(特殊コード)をメモリーが記憶するという経時的な動作が記載されているわけではない。「クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」という文章が、たまたま「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり、今後の電話使用ができる。」という文章の後にあるにすぎない。しかも、かかる記載は、実施例における記載にすぎないのであるから、本発明の技術的事項が、預託金額の支払い後に特別のコード等がメモリーに記憶されることのみに限定されるものではない。このことは、特別のコード等がメモリーに記憶されるのが、預託金額の支払い前であるか後であるかで、本発明の作用効果に何ら変化を生じないことからも明らかである。本発明は、「市内或いは市外通話を含む電話通話を容易に、安価にかつどの電話機からでもできるようにする方式の必要性が長い間感じられていた。」(親出願の出願当初の明細書第9頁1行?4行「発明が解決しようとする問題点」)ことから、「本発明の広い局面においては、電話通話の前払いを可能にする電話システムが提供され、このシステムは:呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって、呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び、前記確認手段に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;とを含む。」(親出願の出願当初の明細書第9頁9行?18行「問題点を解決するための手段」)発明を完成させたのであり、クレジットに関して言えば、前払いクレジットを用いることのみが記載されているのであり、その取得方法・手順等についての限定はないのである。
従って、親出願の当初明細書に「特殊コードとクレジット額は、顧客が預託金額を支払った後に中央局のメモリーに記憶され、その後に使用可能となるもの」であったものを、補正事項1により、「預託金額は、各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されており、特殊コードは、顧客が預託金額を支払った時点で即使用可能になるように、変更するものである」という請求人の主張も誤っている。補正事項1にいう「メモリー手段に予め記憶される」とは、取得者の電話使用に先だってメモリー手段に記憶される、という意味であり、預託金額の支払い前から記憶されていることに限定された表現ではない。この点は、特殊コードや預託金額が、預託金額の支払い前からメモリーに記憶されたとしても、預託金額の支払い後にメモリーに記憶されたとしても、特殊コードや預託金額の取得者が電話を使用しようとするときには既にメモリーに記憶されているのであり、メモリー手段に記憶される時点が預託金額の支払い前であるか、支払い後であるかで、本発明の本質的な事項が変更され、作用効果に変化を生ずるものではないことからも明らかである。
(2)本件第1補正の第0023段落の第1?3行において、「また、特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので、特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く、入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない。」とした補正(補正事項2)について
上記補正事項2は、【発明の効果】の欄に記載されていることから明らかなように、特許請求の範囲に記載された発明に対応する効果であることは常識的なことである。実施例である【発明の実施の形態】中の記載である補正事項1に対応する効果であるという主張は誤りである。補正事項2で記載されているように、「特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶」しておけば、本発明の本質的な動作を完遂できるのであるから、補正事項1と同様にこの補正事項2も、親出願の出願当初の明細書(本件特許出願の当初明細書も同じ)に記載された技術的事項の範囲内のものである。
(3)本件第2補正の特許請求の範囲第1項の発明の第3?4行において、「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、」とした補正(補正事項3)について
上記補正事項3について、請求人は、補正事項3の技術的事項を補正事項1および2を参酌して解釈すると、補正事項3は、所定の預託金額に対して特殊コードを予め割り当て、これら預託金額と特殊コードの複数組合せを前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶し、顧客が預託金額を支払った時点で特殊コードが即使用可能となることを意味することとなって、本件特許の特許請求の範囲第1項の特許発明の技術的事項を実質的に変更することになる、と主張するが、上述したように、親出願の出願当初の明細書(本件特許出願の当初明細書も同じ)には、前払いクレジットを用いることが記載されているのであり、預託金額の支払い前から記憶されていること等前払いクレジットの取得方法・手順等についての限定はないのである。このため、補正事項3についても、親出願の出願当初の明細書の記載の範囲内のものであり、特許発明の技術的事項を実質的に変更するものではない。
(4)さらに請求人は、親出願の当初明細書に記載された発明は「顧客が預託金額を支払った後に、該預託金額と特殊コードを中央局のメモリーに記憶し、特殊コードが使用可能となるもの」であるところ、補正事項1、2および3は、「顧客が預託金額を支払う前に予め所定の預託金額と対応する特殊コードを中央局のメモリーに記憶させ、該預託金額を支払った時点で特殊コードを即使用可能とするように変更するものである」として、この補正により本件特許出願が分割の実体的要件を満たさず、親出願の出願日まで遡及することができない、と主張するが、前述したように、親出願の当初明細書に記載された技術的事項(本件特許出願の当初明細書も同じ)は、顧客が預託金額を支払った後に記憶するものに限定されないことが当業者に自明である。
また、補正事項1、2、および3は、顧客が預託金額を支払う前に予めメモリーに記憶されることは何ら規定していない。つまり、各補正事項は、「メモリー手段に予め記憶され」(補正事項1)、「特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶し」(補正事項2)、および「特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ」(補正事項3)とされ、メモリーへの記憶と使用との関係を規定するのみで、預託金額支払いとメモリーへの記憶とを関連づけた記載はないのである。
したがって、これらの補正は本件特許出願の当初明細書の要旨を変更するものなどではなく適法にされたものであり、さらに、これらの補正がされた分割出願の明細書又は図面は、親出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲でないものを含んでいないので、本件特許出願は分割の実体的な要件も満たし、分割に係る本件特許出願は親出願の出願時にしたものとみなされる。
(5)さらに請求人は、本件特許出願が親出願の当初明細書の内容と同一であり、本件第1補正および本件第2補正が本件特許出願の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内でされたものではなく、明細書に記載された事項から当業者に自明でない新規な事項を追加するもので、本件特許の特許請求の範囲を実質的に変更させるものである、と主張するが、本件第1補正および本件第2補正が親出願の当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたことは、上述したとおりであるから、本件第1補正および本件第2補正が親出願の当初明細書の内容と同一である本件特許出願の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内でなされたことは、同一の理由から明らかである。
また、請求人は、補正事項1?3が本件特許出願の明細書の重要な技術的事項を変更するものであると主張するが、重要な技術的事項であるか否かで補正の要件が変更することは無いので、請求人の主張は意味がない。
(6)本件第1補正の第0017段落第5?11行において、「前記メモリー手段86に記憶された預託金額またはその残高と、通話を開始するための最小費用、前記通話を維持するために必要な費用及びその後の通話費用とが夫々比較され、該預託金額またはその残高が、通話を開始するための最小費用より多い時のみ、被呼者との接続を行い、接続後は通話費用と上記預託金額またはその残高との関係を比較して、その後の通話費用を負担し得なくなった時には、発呼者と被呼者の通話を切るように前記接続・遮断手段92を作動させるものである。」とした補正(補正事項4)、本件第2補正の特許請求の範囲第1項の第12?15行において、「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、」とした補正(補正事項5)、同本件第2補正の第0006段落第5?11行において、「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、発呼者の電話を被呼者の電話に接続し、発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターして、前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように構成されている。」とした補正(補正事項6)、及び、同本件第2補正の第0022段落第5?12行において、「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、発呼者の電話を被呼者の電話に接続し、発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターして、前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者の通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者との通話接続を遮断するように構成されているので、特殊コードを入力するだけで事後精算の必要がないキャッシュレス通話を行うことが可能となる。」とした補正(補正事項7)について
分割出願における補正については、親出願の出願時の法律における補正の要件にしたがって補正の適否が判断されるため、これら補正事項については、明細書の要旨を変更するかどうかで補正の適否が判断される。この点、補正事項5の(f)の「発呼者の電話を被呼者の電話に接続するための必要な最小費用」や(g)の「必要な費用」、補正事項4の「通話を開始するための最小費用」、補正事項6、7の同様の技術的事項は、補正前の明細書の要旨を変更するものではない。
すなわち、本件特許の出願当初の明細書には、「本発明の別の特徴によれば、…十分であり確かなものであることが確認されると、即ち、呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には、通常の発信音が呼出局に送られる。」(親出願の11頁7?13行、本件分割出願の当初明細書段落0006)や、「クレジットが有効なものであるなら、…相手先の電話機に接続した時に通常の発信音が呼出局に送られる。」(親出願の当初明細書13頁5?8行、本件分割出願の当初明細書段落0009)等と記載されており、クレジット額と通話開始のための接続の関係は明示されている。通話できる十分なクレジットをもっているとは、預託金額の残額が、請求人者の電話に接続するために必要な最小費用より多いことと同義であることは明白であるから、補正事項4?7は、本件特許出願の当初明細書の要旨を変更するものでも、新しい事項を加えるものでもない。
したがって、上記したように、本件第1補正および第2補正はいずれも技術的事項を変更するもの、または、明細書の要旨を変更するものではない。そして補正後の内容で本件分割出願の分割の要件を判断すれば、本件分割出願は、親出願の明細書または図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでも、本件分割出願の明細書または図面が、親出願の出願当初の明細書または図面に記載した事項の範囲内でないものを含んでもいない。
よって、請求人の、本件第1補正および第2補正が、特許法第17条の2第3項の規定にする要件を満たしていないという主張は誤っており、本件特許出願においてした補正は、親出願の出願当時の特許法第40条(平成5年法律第26号による改正前のもの)の規定に違反しておらず、これら補正事項は要旨変更ではないからこそ、特許庁審判官は補正を認めたのであって、補正は適法なものである。従って、要旨変更に基づく出願日の繰り下げは無く、分割の要件を満たさないということもなく、請求人が主張するような無効理由は存在しない。

[本件特許発明が特許法第36条の規定に適合する点について]
(1)特許公報第1頁第2欄1?2行の(f)中の「被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」、同欄3行の(g)中の「預託金額の残高が必要な費用より多い」、および同欄5?6行の(h)中の「発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用」については、明細書を参酌するまでもなく、特許請求の範囲の文言それ自体から明確である。(f)中の「最小費用」については、「被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」と明確に記載されている。(g)中の「必要な費用」が、(f)中の「必要な最小費用」であることは文脈上明確である。(h)中の「継続するのに必要な費用」については、「発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用」と明確に記載されている。これらの事項は、これ以上説明しようもなく、具体的な金額がなければ不明確になるというものでもない。いずれの記載も、それ自体、当業者にとって十分明確な技術的事項の記載となっているのであり、本件特許の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されている。
(2)同段落0006の6?8行の「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して」の「最小費用」、および同第8行の「預託金額の残高が必要な費用より多い時」の「必要な費用」の技術的意味も明確である。
(3)同段落0012の3?5行の「ペグカウンターとして表されている通常の時間/距離計算回路は、使用可能な預託金額またはその残高を通話時間に変換するための情報を提供し始める。」の「通常の時間/距離計算回路」については、段落0012には「ペグカウンターとして表されている通常の時間/距離計算回路は、使用可能な預託金額またはその残高を通話時間に変換するための情報を提供し始める。」と記載されているのであり、時間/距離計算回路の機能が、「使用可能な預託金額またはその残高を通話時間に変換するための情報を提供」するものであることは明白である。
(4)同段落0012の9?10行の「預託金額またはその残高が、使用されている時間変換のための単位以下になった時には、」については、この部分は【発明の実施の形態】中の「更に好ましい態様」として「比較手段」の動作を説明している箇所であるから、「使用されている時間変換のための単位以下になった時」とはその字義から把握されるように、通話費用を負担し得なくなった場合にはという意味であることは明白であり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(5)同段落0017の2行の「時間変換のための単位」、同3?4行の「発呼者から入力された被呼者への通話のために必要な最小費用および前記通話を維持するために必要な費用」、同8?10行の「通話を開始するための最小費用、前記通話を維持するために必要な費用およびその後の通話費用」、および同13?14行の「その後の通話費用を負担し得なくなった時」という事項のうち、「その後の通話費用を負担し得なくなった時」については、「接続後は通話費用と上記預託金額またはその残高との関係を比較して、その後の通話費用を負担し得なくなった時には、発呼者と被呼者の通話を切る」と段落0017に明確に記載されているとおり、「預託金額またはその残高」がその後の通話費用を負担できない場合であり、文言それ自体から明確である。その他の記載も、上述したように、いずれもそれ自体から当業者に自明な事項であり、これ以上説明のしようもないくらい明確な事項である。
(6)同段落0022の6?9行の「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、」の「最小費用」と「必要な費用」、および同11?13行の「前記預託金額の残高が発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、」の「通話接続を継続するのに必要な費用」についても、上述したように、いずれもそれ自体から当業者に自明な事項であり、これ以上説明のしようもないくらい明確な事項である。

4.当審の判断
(1)本件特許出願が適法に分割されたものであるか否かについて
(1-1)本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、」との記載(本件第2補正による補正事項3に係る記載)について
まず、上記記載における(a)、(b)の構成要件は、本件特許請求の範囲第1項第1?2行の「次のステップを含む電話の通話制御方法であって、」に続いて記載されているものであって、通常、特殊な事情がない限り、方法におけるステップは、時系列的に記載されているものと解されるから、上記記載において、(a)のステップに続いて(b)のステップが行われると解釈するのがごく普通の解釈である。
そして、上記(b)のステップにおいて「使用可能とされ」るのは、「支払いを条件として」であり、「預託金額の支払い」という行為は、上記(b)のステップにおいてなされる行為であると解される。
してみると、上記(a)のステップ中にある「予め」という表現は、上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で、(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作を「予め」行うという意味で用いられていると解釈するのが相当である。
なお、被請求人は、補正事項1(本件第1補正の第0007段落の第7?9行において、「上記預託金額は、各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に、通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される。」とした補正)にいう「メモリー手段に予め記憶されている」とは、取得者の電話使用に先だってメモリー手段に記憶されているという意味である旨の主張をし、上記(a)のステップ中にある「予め」という表現も、上記(b)のステップよりも前という意味での「予め」ではない旨の主張をしているが、上記(b)のステップよりも前という意味での「予め」と解釈した方が自然であることは、補正事項2(本件第1補正の第0023段落の第1?3行において、「また、特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので、特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く、入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない。」とした補正)を参酌しても明らかである。
すなわち、上記補正事項2においても、「特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してある」との記載があり、この記載中の「予め」が、上記(a)のステップ中に記載されている「予め」と同じ意味で用いられていると解するのが普通の解釈であって、そう解釈すれば、上記補正事項2中の「特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけでよい」旨の記載は、「対応する金額」の支払い時点には、もうすでに「予め預託金額及び特殊コードを記憶してある」から、「入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない」ということを意味することとなり、全く矛盾のない記載となるのである。
そこで、特願昭61-6163号(親出願)の出願当初の明細書又は図面において、上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことについて記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。
親出願における上記事項に関連する記載について、まず、親出願の出願当初の明細書第12頁第6?9行の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり、今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される。」との記載について検討する。
上記記載を普通に読めば、前段の「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり、今後の電話使用ができる。」との記載は、「支払われた額」がどのようなものであるかの説明であり、後段の「クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される。」との記載の最初に出てくる「クレジット額」は、前段の記載中の「支払われた額」を指すものと解されることから、該「クレジット額」は、「支払われた」後に「特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」ものと解される。
仮に、上記出願当初の明細書第12頁第6?9行の記載が、「クレジット額」が「特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」動作がいつ行われるのかを特定したものでないのだとしても、到底、上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為に対応する「クレジット額の支払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で、上記(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作に対応する「特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶」するという動作を「予め」行うということが記載ないし示唆されていたものとは認められない。
次に、親出願の出願当初の明細書第1頁第7?9行の「前払いにより特別のコードを取得し;特別交換局のメモリーに、呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入し;」との記載について検討する。
上記記載も、普通に解釈すれば、「前払いにより特別のコードを取得し」た後に「特別交換局のメモリーに、呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入」するのであり、この記載が時系列を特定するものではないのだとしても、到底、上記(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為に対応する「前払い」という行為がなされる時点よりも前の時点で、上記(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作に対応する「特別交換局のメモリーに、呼出者の呼出しを確認するために使用するよう前払い額を挿入」するという動作を「予め」行うということが記載ないし示唆されていたものとは認められない。
そして、親出願の出願当初の明細書の他の記載や図面を見ても、上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことについて記載ないし示唆されていたものとは認められない。
次に、上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことが、親出願の出願当初の明細書又は図面では特定されていなかったことを単に特定したものにすぎないものであるか否かについて検討すると、本件特許明細書の第0023段落における「また、特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので、特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く、入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない。」との記載(本件第1補正による補正事項2に係る記載)は、まさに、上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことによる効果として、親出願の出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もされていなかった新たな効果を追加するものであり、このような新たな効果を奏する事項を特定することが、単に特定したことに該当するとは、到底認めることはできない。

(1-2)本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、」との記載(本件第2補正による補正事項5に係る記載)について
まず、上記(g)の記載中の「前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、」は、(f)の「・・・預託金額の残高と、・・・必要な最小費用とを比較し、」との記載を受けたものであり、(g)の記載中の「必要な費用」は、(f)の記載中の「必要な最小費用」をさすものと解される。
そこで、親出願の出願当初の明細書又は図面において、「受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、前記預託金額の残高が必要な最小費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続」することが記載ないし示唆されていたかどうかについて検討する。
上記記載事項は、「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続」するための条件であるが、該条件に関連する親出願の出願当初の明細書の記載は次のようなものである。
記載A:「メモリー中のクレジットと通話経費と比較することにより特別のコード及びクレジットを確認し;確認に従い呼出者と相手先とを接続し」(親出願の出願当初の明細書の第1頁第14?17行)
記載B:「呼出局から特別交換局に送られるコードに応動して呼出者を確認する手段であって、コードがメモリー手段中のコードに対応するかまた呼出者が残額のあるクレジットを有するかを確認する手段;及び、前記確認により呼出局を相手先局と接続する手段;」(親出願の出願当初の明細書の第3頁第17行?第4頁第3行)
記載C:「呼出局と特別の中央局とを接続する手段であって、呼出者が前払いクレジットを持っている場合には呼出局から前記特別の中央局へ送られる確認されたコードに応動して前記呼出者を確認する手段;及び、前記確認に応動して前記呼出局と望む相手先局との接続を可能にする手段;」(親出願の出願当初の明細書の第9頁第12?18行)
記載D:「十分であり確かなものであることが確認されると、即ち呼出者が適切なコード番号を使用しており通話できる十分なクレジットをもっている時には、通常の発信音が呼出局に送られる。」(親出願の出願当初の明細書の第11頁第9?13行)
記載E:「そしてまだクレジットが残っている場合、彼は再び通常の発信音に接続し」(親出願の出願当初の明細書の第16頁第13?15行)
記載F:「この手順はクレジットが残っている限り繰り返される。」(親出願の出願当初の明細書の第17頁第4?6行)
上記記載A?C,E,Fからは、「クレジット」の額がいくらあれば被呼者との通話が接続されることになるのかは特定されないが、上記記載Dを参酌すると、「クレジット」の額は、通話できる十分な場合に被呼者との通話が接続されることになる。
それでは、「預託金額の残高が発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より多い」という条件が、「クレジット」の額が「通話できる十分な場合」という条件と同じもの、あるいは下位概念に含まれるものなのかどうかを検討する。
「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」といった場合、例えば、日本の公衆電話であれば「10円」という額が「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」であり、「通話できる十分な」額といった場合は、どのぐらいの時間通話することができれば十分なのかは、個人個人の主観により異なるものであり、また、たとえ多数の人間の平均をとって十分な通話時間を想定したとしても、通話相手との距離に応じてどれだけの額が十分なものなのかは異なってくるものと解される。よって、親出願の出願当初の明細書において明確に記載はされていないが、親出願の出願当初の明細書では、通話を開始させる「クレジット」の額は、想定される通話相手がかなり遠距離である場合も十分な通話ができるように、「最小費用」よりも多い額を想定していたものと解される。
してみると、「預託金額の残高が発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より多い」という条件は、「クレジット」の額が「通話できる十分な場合」という条件とは、全く異なる概念であり、同じもの、あるいは下位概念に含まれるようなものではない。
さて、上記記載D以外の上記記載A?C,E,Fでは、「クレジット」の額がいくらあれば被呼者との通話が接続されることになるのかは特定されておらず、「クレジット」の額が少しでもあれば、すなわち、「最小費用」に満たない場合でも、被呼者との通話接続を許容することを含む記載となっているものと解される。しかし、その場合は、課金をすることができなくなってしまうという不都合が生じることから、その不都合を避けるために、親出願の出願当初の明細書にはない「最小費用」という文言を入れた補正をしたものと解される。
ただし、「最小費用」に満たない場合に被呼者との通話接続を許容しても、後から料金を請求しさえすれば、課金をすることは全く不可能ではないのであるから、上記のように「最小費用」という文言を入れることが、直ちに自明な補正であるとまでは言えない。
そして、親出願の出願当初の明細書の他の箇所の記載や図面を見ても、「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続」するための条件を「預託金額の残高が発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より多い」こととすることは、記載も示唆もされていないことである。

以上、(1-1)、(1-2)で検討したとおり、本件特許請求の範囲第1項に係る発明は、(b)のステップ中にある「預託金額の支払い」という行為がなされる時点よりも前に「予め」、(a)のステップにおける「特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶」するという動作を行うようにした点、及び、「発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続」するための条件を「預託金額の残高が発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用より多い」こととした点において、親出願の出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかった事項を含むものであり、親出願の一部を新たな特許出願としたもの、すなわち適法に分割されたものとは認められず、出願日の遡及は認められない。
なお、被請求人は、分割出願当初の明細書は、親出願に比べ、親出願の特許請求の範囲第10項?第23項が特許請求の範囲から削除され、削除された内容が段落0030に移動され、親出願の9頁9行?10頁9行の「本発明の広い局面…接続しうるようにする。」が削除されているだけにすぎないから、分割出願自体は適法である旨の主張をしているが、その後の補正により、分割の要件を満たさなくなった場合には、適法でないことは明らかである。

(2)本件第1補正及び本件第2補正が特許法第17条の2第3項の規定に適合するか否かについて
(2-1)出願日の特定、及び出願当初の明細書及び図面の内容
上記(1)で検討したとおり、本件特許出願の出願日の遡及は認められず、平成9年5月7日に出願されたものとみなされる。
そして、本件特許出願の出願当初の明細書及び図面の内容は、親出願の出願当初の明細書及び図面の一部を削除したものであり、親出願の出願当初の明細書及び図面の内容に比して新たな内容が加わったものではない。

(2-2)平成9年6月6日付け手続補正(本件第1補正)について
(2-2-1)本件第1補正(全文訂正明細書)の第0007段落の第7?9行において、「上記預託金額は、各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に予め記憶されていると共に、通話費用を差し引いた預託金額の残高が記録される。」とした補正(補正事項1)、及び同本件第1補正の第0023段落の第1?3行において、「また、特殊な交換部に予め預託金額及び特殊コードを記憶してあるので、特殊コードの取得時には対応する金額を支払うだけで良く、入金等のデータを特殊な交換部に入力する等の手間は一切必要ない。」とした補正(補正事項2)について
上記補正事項1は、上記(1-1)で検討した本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、」との記載に関連する事項であり、上記(1-1)に記載したとおり、預託金額を、各預託金額毎に附される特殊コードと共に前記特殊な交換部のメモリー手段に「予め」記憶することは、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったことである。
また、上記補正事項2についても、上記(1-1)に記載したとおり、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面には記載も示唆もされていなかった新たな効果である。

(2-2-2)本件第1補正の第0017段落第5?11行において、「前記メモリー手段86に記憶された預託金額またはその残高と、通話を開始するための最小費用、前記通話を維持するために必要な費用及びその後の通話費用とが夫々比較され、該預託金額またはその残高が、通話を開始するための最小費用より多い時のみ、被呼者との接続を行い、接続後は通話費用と上記預託金額またはその残高との関係を比較して、その後の通話費用を負担し得なくなった時には、発呼者と被呼者の通話を切るように前記接続・遮断手段92を作動させるものである。」とした補正(補正事項4)について
上記補正事項4は、上記(1-2)で検討した本件特許請求の範囲第1項に係る発明における「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、」との記載に関連する事項であり、上記(1-2)に記載したとおり、「最小費用」に関連する事項は、出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったことである。

(2-3)平成11年7月5日付け手続補正(本件第2補正)について
(2-3-1)本件第2補正の特許請求の範囲第1項の発明の第3?4行において、「(a)この特殊な交換部(A)において所定の預託金額に対し特殊コードを予め割り当て、これら預託金額及び特殊コードの複数組合わせを記憶し、(b)前記特殊コードは、対応する預託金額の支払いを条件として使用可能とされ、」とした補正(補正事項3)について
上記補正事項3については、上記(1-1)に記載したとおり、上記(b)のステップよりも前に「予め」上記(a)のステップを行うことは、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったことである。

(2-3-2)本件第2補正の特許請求の範囲第1項の第12?15行において、「(f)前記受信された特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較し、(g)前記預託金額の残高が必要な費用より多い時に、発呼者の電話(81)を被呼者の電話に接続し、」とした補正(補正事項5)、同本件第2補正の第0006段落第5?11行において、「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、発呼者の電話を被呼者の電話に接続し、発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターして、前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者の通話接続を遮断するように構成されている。」とした補正(補正事項6)、及び、同本件第2補正の第0022段落第5?12行において、「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、発呼者の電話を被呼者の電話に接続し、発呼者の電話が被呼者の電話と接続を開始してから遮断されるまで通話費用をモニターして、前記預託金額の残高が、発呼者と被呼者の通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、発呼者と被呼者との通話接続を遮断するように構成されているので、特殊コードを入力するだけで事後精算の必要がないキャッシュレス通話を行うことが可能となる。」とした補正(補正事項7)について
上記補正事項5?7については、上記(1-2)に記載したとおり、「最小費用」に関連する事項は、出願当初の明細書又は図面に記載も示唆もされていなかったことである。

以上、(2-2)、(2-3)で検討したとおり、本件第1補正及び本件第2補正は、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載に記載した事項の範囲内においてされたものであるとは認められず、特許法第17条の2第3項の規定に適合しない。

(3)本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明が特許法第36条の規定に適合するか否かについて
(3-1)特許公報第1頁第2欄1?2行の(f)中の「被呼者の電話に接続するために必要な最小費用」、同欄3行の(g)中の「預託金額の残高が必要な費用より多い」、および同欄5?6行の(h)中の「発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用」について
上記記載が意味するところは、電話システムの接続をする場合に必要とされる「最小費用」あるいは「必要な費用」であることは明らかであり、具体的な金額がなければ不明確になるというものでもなく、その技術的意味が不明瞭であるとは言えない。
よって、上記(3-1)に係る記載をもって、本件特許明細書の特許請求の範囲第1項の発明を明瞭に把握することができないとは言えない。

(3-2)同段落0006の第6?8行の「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して」の「最小費用」、および同第8行の「預託金額の残高が必要な費用より多い時」の「必要な費用」について
上記(3-1)と同様に、上記記載が意味するところは、電話システムの接続をする場合に必要とされる「最小費用」あるいは「必要な費用」であることは明らかであり、具体的な金額がなければ不明確になるというものでもなく、その技術的意味が不明瞭であるとは言えない。

(3-3)同段落0012の3?5行の「ペグカウンターとして表されている通常の時間/距離計算回路は、使用可能な預託金額またはその残高を通話時間に変換するための情報を提供し始める。」の「通常の時間/距離計算回路」について
上記「通常の時間/距離計算回路」の機能は、「使用可能な預託金額またはその残高を通話時間に変換するための情報を提供」するということであることは明らかであり、その機能が不明瞭であるとは言えない。

(3-4)同段落0012の9?10行の「預託金額またはその残高が、使用されている時間変換のための単位以下になった時には、」について
上記記載は、「預託金額またはその残高」が、「使用されている時間変更のための単位」、すなわち、例えば、3分あたり10円等の1単位の金額以下になった時等を意味するものと解され、この記載が不明瞭であるとは言えない。

(3-5)同段落0017の2行の「時間変換のための単位」、同3?4行の「発呼者から入力された被呼者への通話のために必要な最小費用および前記通話を維持するために必要な費用」、同8?10行の「通話を開始するための最小費用、前記通話を維持するために必要な費用およびその後の通話費用」、および同13?14行の「その後の通話費用を負担し得なくなった時」について
「時間変換のための単位」については、上記(3-4)に記載したとおり、この記載が不明瞭であるとは言えず、また、「発呼者から入力された被呼者への通話のための必要な最小費用」とは、通話を開始するために必要な最小費用のことであり、「前記通話を維持するために必要な費用」とは、通話接続を継続できる金額という意味であることは明らかであり、これらの記載が不明瞭であるとも言えない。
さらに、「その後の通話費用を負担し得なくなった時」は、「預託金額またはその残高」が通話費用を負担できなくなった時であることは明らかであるから、この記載が不明瞭であるとも言えない。

(3-6)同段落0022の6?9行の「特殊コードの預託金額の残高と、発呼者の電話を被呼者の電話に接続するために必要な最小費用とを比較して、前記預託金額の残高が必要な費用より多い時には、」の「最小費用」と「必要な費用」、および同11?13行の「前記預託金額の残高が発呼者と被呼者との通話接続を継続するのに必要な費用より少なくなった場合には、」の「通話接続を継続するのに必要な費用」について
上記「最小費用」と「必要な費用」については、上記(3-1)、(3-2)に記載したとおり、この記載が不明瞭であるとは言えず、上記「通話接続を継続するのに必要な費用」については、上記(3-5)と同様に、通話接続を継続できる金額という意味であることは明らかであり、この記載が不明瞭であるとも言えない。

よって、上記(3-2)?(3-6)に係る記載をもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成および効果が記載されていないとは言えない。

したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、特許法第36条の規定に適合する。

5.まとめ
以上のとおり、本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明は、特許法第36条の規定に適合するものの、本件特許出願の出願日の遡及は認められず、平成9年5月7日に出願されたものとみなされるところ、平成9年6月6日付け手続補正(本件第1補正)及び平成11年7月5日付け手続補正(本件第2補正)は、本件特許出願の出願当初の明細書又は図面に記載に記載した事項の範囲内においてされたものであるとは認められず、本件特許明細書の特許請求の範囲第1?33項に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しない補正をした特許出願に対してされたものであって、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-27 
結審通知日 2005-06-30 
審決日 2005-07-29 
出願番号 特願平9-117138
審決分類 P 1 113・ 55- Z (H04M)
P 1 113・ 531- Z (H04M)
P 1 113・ 532- Z (H04M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉見 信明松野 高尚  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 長島 孝志
望月 章俊
登録日 1999-11-05 
登録番号 特許第2997709号(P2997709)
発明の名称 電話の通話制御方法  
代理人 田中 香樹  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 根本 浩  
代理人 大貫 敏史  
代理人 尾崎 英男  
代理人 飯塚 暁夫  
代理人 田邉 壽二  

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