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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1162232 |
審判番号 | 不服2002-22487 |
総通号数 | 93 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-11-21 |
確定日 | 2007-08-13 |
事件の表示 | 平成11年特許願第351772号「レンズ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月22日出願公開、特開2001-166101〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本願は、平成11年12月10日の出願であって、特許請求の範囲の請求項1乃至6に係る発明は、平成17年9月15日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1乃至6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物と10ppmから0.01ppmの範囲の染料からなるブルーイング剤を含有する重合性組成物を注型重合することを特徴とするエピスルフィド系レンズの製造方法。」 2.引用例 これに対して、当審において平成17年7月19日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平11-335560号公報(以下、「刊行物1」という。)、同じく特開平9-133801号公報(以下、「刊行物2」という。)、同じく特開平9-291205号公報(以下、「刊行物3」という。)及び同じく特開平9-263694号公報(以下、「刊行物4」という。)にはそれぞれ、次の発明が記載されている。 刊行物1; エピチオ系光学材料用樹脂の製造方法に関するもので、 (1)段落【0001】の「発明の属する技術分野」の項に、光学材料の一例として、プラスチックレンズの記載。 (2)段落【0007】に、有機化合物として「分子内に2つ以上のエピチオ基を有する化合物」を用いることの記載。 (3)段落【0037】及び各実施例に、重合性組成物を注型重合することの記載。 (4)段落【0034】に、「本発明の組成物に、本発明の目的を妨げない範囲において、ブルーイング剤等の添加剤を配合しても良い。」旨の記載。 したがって、刊行物1には、「分子内に2つ以上のエピチオ基を有する化合物とブルーイング剤を含有する重合性組成物を注型重合することを特徴とするエピチオ系レンズの製造方法。」が記載されているといえる。 刊行物2; 注型重合によるウレタン系樹脂レンズの製造方法に関するもので、 段落【0011】に、「ウレタン系樹脂レンズは、上記のような各種の成分を含むモノマー混合物を型中に注入し、重合させることによって製造されるが、試作などによって色相の変化、すなわち黄変が観察された場合にはその補色として微量の青色染料を添加して透明感を補わなければならない。」の記載。 「実施例1」には、青色染料の濃度が500ppbである例が記載されている。 刊行物3、4; 注型重合によるポリカーボネート樹脂レンズの製造方法に関するもので、 各実施例には、染料ブルーイング剤を、0.5,0.6,0.7,0.8,1ppm含有させることが記載されている。 3.対比・判断 本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。 刊行物1の「分子内に2つ以上のエピチオ基を有する化合物」は、本願発明の「分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物」に相当する。 よって、両者は、「分子内に2つ以上のエピスルフィド基を有する化合物とブルーイング剤を含有する重合性組成物を注型重合するエピスルフィド系レンズの製造方法。」である点で一致し、含有するブルーイング剤が、本願発明は、10ppmから0.01ppmの範囲の染料からなるのに対して、刊行物1には、使用するブルーイング剤の種類、含有量について記載されていない点で相違する。 4.当審の判断 上記相違点について検討する。 a.使用するブルーイング剤の種類について 刊行物2に示されるように、重合性組成物を注型重合して樹脂レンズを製造する際に生じる黄変を解消し、透明感を補うために、該重合性組成物に染料ブルーイング剤を含有させる技術は知られている。しかも、刊行物2は、本願発明と同様、熱硬化性樹脂レンズに関するものである。さらに、刊行物3及び4にも、プラスチックレンズを製造する際に、黄変化を防ぐために染料ブルーイング剤を含有させる技術が記載されている。 また、本願発明においては、染料タイプが好ましいとしつつも、本願明細書の段落【0012】には「本発明に用いられるブルーイング剤としては、染料、蛍光増白剤、蛍光顔料、無機顔料等が挙げられるが、ブルーイング剤として使用できるものの中からレンズに要求される物性や樹脂色相などに合わせて適宜選択される。」旨記載されており、本願発明が、ブルーイング剤として特に染料を選択したことで格別の効果を奏するものとは認められない。 したがって、刊行物2乃至4の記載内容を基に、刊行物1の発明で使用するブルーイング剤として染料を用いることは、当業者にとって格別の困難性はない。 b.ブルーイング剤の含有量について 刊行物2には、重合性組成物を注型重合して樹脂レンズを製造する際に、該重合性組成物に含まれる染料ブルーイング剤の含有量を本願発明の「10ppmから0.01ppmの範囲」に包含される0.5ppmとすることが記載されている。さらに、刊行物3及び4にも、同様に、染料ブルーイング剤を0.5,0.6,0.7,0.8,1ppm含有させる技術が記載されている。 そして、刊行物1の発明においてブルーイング剤として染料を選択した際に、当該染料が十分なブルーイング効果を発揮するように染料含有量の上限値、下限値を設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないもので、当業者が実験等により適宜設定し得る事項である。 また、本願明細書の記載によれば、その段落【0012】に「その使用量は、モノマーの種類、各種添加剤の使用の有無、使用する添加剤の種類や量、重合方法、重合条件によっても異なるが、一般にはモノマーの全体使用量に対して1000ppm?0.001ppmの割合で、好ましくは100ppm?0.005ppmの割合で、さらに好ましくは10ppm?0.01ppmの割合で使用される。1000ppmを越えるとレンズ全体が青くなりすぎて好ましくない場合があり、また0.001ppmより少ないと効果が十分に発揮されず好ましくない場合がある。」と記載されているものの、実施例として記載されているのは0.5ppmだけである。 よって、本願発明において、重合性組成物に含有されるブルーイング剤の含有量を、上限値10ppm、下限値0.01ppmとすることに格別臨界的意義があるものとは認められない。 なお、本件請求人は平成17年8月18日付けの実験証明書を提出している。 しかしながら、上述したように本願明細書において実施例として具体的に記載されているのは0.5ppmだけであって、上記実験証明書の実験データの内容は、本願明細書の記載から自明の範囲内のものとは認められない。 すなわち、発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識又は自然法則を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。(知財高裁平成17年(行ケ)10042号判決参照。) 本件でいえば、当初明細書には実施例等による裏付けのない数値範囲の意義を、後出しの実験証明書によって主張することは、当初明細書に開示のない発明を主張するものであって、採用することができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1乃至4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-12-28 |
結審通知日 | 2006-01-04 |
審決日 | 2006-01-18 |
出願番号 | 特願平11-351772 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 宮本 純、原田 隆興 |
特許庁審判長 |
鹿股 俊雄 |
特許庁審判官 |
江塚 政弘 柏崎 正男 |
発明の名称 | レンズ及びその製造方法 |
代理人 | 金田 暢之 |
代理人 | 岩田 慎一 |
代理人 | 緒方 雅昭 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 石橋 政幸 |
代理人 | 伊藤 克博 |