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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199835415 審決 特許
無効200435069 審決 特許
審判199935072 審決 特許
無効200035545 審決 特許
無効200680144 審決 特許

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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A01M
管理番号 1162246
判定請求番号 判定2007-600007  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-02-01 
確定日 2007-07-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3901708号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件説明書に示す「ロータリーファン型害虫駆除剤拡散装置」は、特許第3901708号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人である大日本除蟲菊株式会社は、判定請求書のイ号物件説明書に示す「ロータリーファン型害虫駆除剤拡散装置」(以下「イ号物件」という)が、特許第3901708号発明の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許第3901708号の発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを構成要件に分説すると次のとおりである。
【請求項1】
a.多数のブレードを有し、各ブレードの間が開いていて開口部を形成している円形のロータリーファンと、
b.前記ファンに連結するモーターとを備え、
c.前記ファンはその開口部内周面にピレスロイド系薬剤を収納した通気しうる袋または容器を固定し、
d.前記モーターが乾電池を電源とする
e.ことを特徴とする、ロータリーファン型害虫駆除剤拡散装置。」

第3 イ号物件
請求人が提出した判定請求書中の「イ号物件説明書」及び甲第2号証カタログによれば、イ号物件は、次のとおり特定される。
【イ号物件】
A.円形に配列された多数のブレードを有し、各ブレードの間が開いていて開口部を形成しており、かつ環状薬剤保持容器に固定され、開口部外周面が環状薬剤保持容器の内壁とされているロータリーファンと、
B.前記環状薬剤保持容器及びこれに固定されたロータリーファンに連結するモーターとを備え、
C.前記ファンは、その開口部外周面にピレスロイド系薬剤を収納した通気しうる環状薬剤保持容器を固定し、
D.前記モーターが乾電池を電源とする
E.ロータリーファン型害虫駆除剤拡散装置。

なお、被請求人は、イ号物件は、二重の開口部を有すると主張するが、イ号物件における環状薬剤保持容器外側の開口部は「ブレードの間が開いて」形成されるものではないと認められる。

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、判定請求書4頁1行乃至8頁7行において、次の理由によりイ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。
(1)本件特許発明のロータリーファンは、薬剤を収納する袋または容器との一体形成を伴わず、独立した状態で自らの形状を保持するものであり、ファンを構成しているブレード部により円形に配置されたものと解されるところ、イ号物件のロータリーファンは、環状薬剤保持容器と一体形成することによって円形に配列されるものであり、本件特許発明のロータリーファンとは異なるから、構成Aは本件特許発明の構成要件aを充足していない。
(2)本件特許発明の「ファンに連結するモーターとを備え」とは、モーターとロータリーファンが直接結合していることを前提としているところ、イ号物件のロータリーファンは、環状薬剤保持容器に固定されるもので、環状薬剤容器を介して間接的にモーターに連結されるものであるから、構成Bは本件特許発明の構成要件bを充足していない。
(3)イ号物件のファンは、その開口部外周面にピレスロイド系薬剤を収納した通気しうる環状薬剤容器を固定しているものであり、本件特許発明の開口部内周面にピレスロイド系薬剤を収納した通気しうる袋または容器を固定しているものとは異なるから、構成Cは本件特許発明の構成要件cを充足していない。
また、本件特許の出願の経過からみて、袋または容器を開口部外周面に固定するという基本的技術思想はもとより存在しなかった。
(4)本件特許発明の構成要件dとイ号物件の構成D、及び本件特許発明の構成要件eとイ号物件の構成Eは同一である。

請求人は、さらに、判定請求書5頁17行乃至13頁22行において、上記構成A乃至Cは、当業者において容易に置換し、かつ採用しうるものではなく、イ号物件は本件特許発明と均等でもない旨、主張している。

2.被請求人の主張
被請求人は、判定答弁書において、次のように主張している。
(1)本件発明の「円形」とは、ロータリーファン全体の外形が、円形であることを意味することは明らかであり、イ号物件の構成Aは、構成要件aの「円形」の要件を満たしている。
(2)イ号物件のロータリーファンはモーターと直接連結していることが明らかであるから、イ号物件の構成Bは、構成要件bを満たしている。
(3)イ号物件のロータリーファンは、ブレードの間に形成された開口部と、ロータリーファンの側壁部(当審注:環状薬剤保持容器の外周壁)に形成された開口部との二重の開口部を有しており、環状薬剤保持容器は、ロータリーファンの側壁部に形成された開口部内周面に固定されているものであるから、イ号物件の構成Cは、構成要件cを充足しているといえる。
(4)本件特許発明の構成要件dとイ号物件の構成D、及び本件特許発明の構成要件eとイ号物件の構成Eは同一である。
(5)したがって、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。

被請求人は、さらに、イ号物件が、本件特許発明の構成要件cを文言上充足していないとしても、イ号物件は本件特許発明と均等の範囲である旨主張し、均等である理由として概略次のように主張している。
(i)本件特許発明の本質的部分は、「ロータリーファンと薬剤を一体化させた点」にあり、薬剤容器をどのように配置するかは本質的部分ではない。
(ii)イ号物件は「薬剤の揮発を十分良好に行う」ことを目的とするもので、構成要件cを構成要件Cに置き換えても、上記目的・作用効果に何ら影響を及ぼすものではない。
(iii)薬剤を保持するための容器の位置を構成要件cから構成要件Cに置き換えることは当業者が容易に想到可能である。
(iv)イ号物件は、本件特許発明の出願時における公知技術と同一又は容易に推考できたものではない。
(v)本件特許発明の審査経緯において、薬剤容器の配置に関して、イ号物件の構成要件Cを、意識的に除外する旨の記載はない。

第5 対比・判断
1.本件特許発明とイ号物件との対比
(1)イ号物件の構成D及びEは、本件特許発明の構成要件d及びeを充足している。
(2)本件特許発明の構成要件aは、請求項1の文言によれば、1)多数のブレードを有すること、2)各ブレードの間が開いていて開口部を形成していること、3)円形のロータリーファンであることを要するものであり、ロータリーファンに薬剤保持容器が一体に形成されているか否かに拘わらない。そして、イ号物件の構成Aも、1)?3)の構成を有するから、本件特許発明の構成要件aを充足している。
(3)イ号物件の構成Bは、本件特許発明の構成要件bを充足している。
なお、請求人は、本件特許発明の構成要件bは、モーターとロータリーファンが直接結合していることを前提としているところ、イ号物件のロータリーファンは、環状薬剤容器を介して間接的にモーターに連結されるものであるから、構成Bは本件特許発明の構成要件bを充足していない旨主張するが、本件の請求項1には「直接」結合するとは記載されていないし、イ号物件においても、イ号物件説明書の第3図の1ないし3に記載されているように、ファンにはモータの連結部が設けられ、構成Bに特定したとおり、ファンはモーターに連結されているものである。
(4)本件特許発明の構成要件cは「ファンはその開口部内周面にピレスロイド系薬剤を収納した通気しうる袋または容器を固定し」ているものであり、当該「開口部」は、構成要件aに示されているとおりブレードの間に形成された開口部であるところ、イ号物件の構成Cは、「ファンはブレードの間に形成された開口部の外周面にピレスロイド系薬剤を収納した容器を固定し」たものであり、本件特許発明の構成要件cを充足していない。

以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件cを充足していないから、本件特許発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

2.均等の判断
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

そこで、イ号物件が、前記要件を満たすか否かについて検討する。
本件特許明細書には、本件特許発明の効果に関して以下の記載がある。
「【0021】本発明は、多数のブレードを有し、各ブレードの間が開いていて開口部を形成し、駆動装着部に取付けられる円形のブレード部であって、前記ブレード部は前記の多数のブレードにより形成される前記開口部全面に揮散性害虫駆除剤を収容した袋又は容器を設けることにより揮散性害虫駆除剤を保持でき前記袋又は容器から前記揮散性害虫駆除剤が揮散することを特徴とする、…(中略)…揮散性害虫駆除剤の拡散量を著しく大きくすることができる。このため、より広い気中に効率よく使用することができる。」
「【0030】 図1?2に示す薬剤拡散用ファン1を、モーターの回転を軸部4に伝えることにより回転させると、ブレード部2のブレード5によって風が生じ、薬剤袋7の表面に出てきた揮散性薬剤をよく拡散させる。」
さらに、被請求人は、本件特許に係る出願の審査の過程において、平成17年5月30日付け意見書(甲第6号証の1)を提出し、次のように主張している。
「本願発明は、多数のブレードにより形成される開口部全面に揮散性害虫駆除剤を収容した袋又は容器を設けることにより害虫駆除剤を保持しており、回転によりブレード部の開口部を通して外周に流れる風が生じることにより、その風が上記のブレード部の開口部全面に設けられた害虫駆除剤を収容した袋又は容器を通ることにより、害虫駆除剤を揮散させることができるのであります。
そして、本願発明では、ファンの上記のブレード部の開口部全面に前記の袋又は容器を設けることができるので、害虫駆除剤を収容した袋又は容器において広い通気面積を取ることが容易となります。さらに、…(中略)…本願発明では、前記の袋又は容器が全部ブレード部の開口部全面にある関係で、通風量が小さい部分がないので、全部が有効に作用します。」(甲第6号証の1第6頁33行?44行)。
そうすると、本件特許発明は、「開口部内周面」に薬剤を収納した袋または容器を固定するという構成を採用することにより、ブレード部の開口部を通して外周に流れる風が、害虫駆除剤を収容した袋又は容器を通り、害虫駆除剤を揮散させるという本件特許明細書記載の作用効果を達成するものと認められるから、構成要件cは、本件特許発明の本質的部分といわざるを得ない。

さらに、本件特許に係る出願の審査の過程において、平成17年3月22日付け拒絶理由通知(甲第6号証の2)で、「本願の明細書に記載された「ブレード部の外周側に害虫駆除剤を収容した袋又は容器を設ける」という事項は、親出願の出願当初の明細書及び図面には記載されておらず、当業者にとって同明細書及び図面の記載から自明な事項であるとも認められない。」とされたのに対し、被請求人は、平成17年5月30日付けで明細書を補正するとともに上記意見書(甲第6号証の1)を提出し、当該意見書において、
「拒絶理由1の根拠の一つは「本願の明細書に記載された『ブレード部の外周側に害虫駆除剤を収容した袋または容器を設ける』という事項は、当業者にとって原出願の当初明細書および図面の記載からみて自明な事項であるとも認められない」という点でありました。これは、ご指摘の記載が出願当初明細書の請求項3に該当し、上記実体要件のiiiを満たさないものであるからであると解されますが、本補正により該記載は削除されましたので、実体要件iiiを満たすものと言えます。」(甲第6号証の1第3頁3行?8行)と主張している。
そうすると、イ号物件の構成Cに相当する、「ブレード部の外周側に害虫駆除剤を収容した袋または容器を設けたもの」が、本件特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たることは明らかである。

したがって、イ号物件は、均等の判断にあたって上記要件(1)及び(5)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲
 
判定日 2007-07-18 
出願番号 特願2004-317668(P2004-317668)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 秋月 美紀子吉田 佳代子吉田 英一  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮川 哲伸
西田 秀彦
登録日 2007-01-12 
登録番号 特許第3901708号(P3901708)
発明の名称 ロータリーファン型害虫駆除剤拡散装置  
代理人 添田 全一  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  
代理人 赤尾 直人  

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