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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E02D
管理番号 1162249
判定請求番号 判定2007-600016  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-02-15 
確定日 2007-08-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3453710号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「水中捨石均し工法」は,特許第3453710号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1 請求の趣旨
本件判定請求は,イ号図面ならびに説明書に示す「水中捨石均し工法」(以下,「イ号工法」という。)が特許第3453710号発明(以下,「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めたものである。

2 本件発明
本件特許第3453710号は,平成13年4月4日の出願に係り,平成15年7月25日に設定登録されたものであって,本件発明は,その特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】重錘ヘッドと重錘支柱とからなり、その重錘支柱の所要部位に残り均し目盛りを表示するとともに、その下方部位に吊上げ・低下目盛りを表示してなる重錘を、クレーンオペレーターが操作するクレーンからの自由落下により、上記重錘支柱の上端部所要長さ部分を現場海面から突出させる状態で捨石マウンドの天端上に起立し、レベル計測者が、椅子に座った状態で計測できる高さに固定されたレベルにより、そのときの残り均し高さを上記残り均し目盛りから判読して、クレーンオペレーターに報告し、クレーンオペレーターが、そのレベル計測者の報告と、現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて、重錘の次回吊上げ高さを決定し、その高さへの重錘の吊上げを、現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行い、その後、該重錘を自由落下させることを繰り返し実施することを特徴とする重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。」(以下,「本件発明1」という。)
「【請求項2】上記重錘の残り均し目盛りおよび吊上げ・低下目盛りが、複数本の同色または色違いのマーキングによって表示されていることを特徴とする請求項1記載の重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。」(以下,「本件発明2」という。)
「【請求項3】上記重錘の残り均し目盛りおよび吊上げ・低下目盛りが、重錘支柱の全周にわたって表示されていることを特徴とする請求項1または2記載の重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。」(以下,「本件発明3」という。)
「【請求項4】上記重錘の残り均し目盛りは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面からの深度とレベル設置地点の地盤高さ(真高)とレベル機械高さとの合計長さを、上記重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にし、その下方に向かって数値を増やす目盛りであることを特徴とする請求項1,2または3記載の重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。」(以下,「本件発明4」という。)
「【請求項5】上記重錘の吊上げ・低下目盛りは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面からの深度と同じ長さを、上記重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にして上方と下方に向かい数値を増やす目盛りであることを特徴とする請求項1,2,3または4記載の重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。」(以下,「本件発明5」という。)

そして,本件発明1は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。

A 重錘ヘッドと重錘支柱とからなり、その重錘支柱bの所要部位に残り均し目盛りを表示するとともに、その下方部位に吊上げ・低下目盛りを表示してなる重錘を、クレーンオペレーターが操作するクレーンからの自由落下により、上記重錘支柱の上端部所要長さ部分を現場海面20から突出させる状態で捨石マウンドの天端上に起立し、

B レベル計測者が、椅子に座った状態で計測できる高さに固定されたレベルにより、そのときの残り均し高さを上記残り均し目盛りから判読して、クレーンオペレーターに報告し、

C クレーンオペレーターが、そのレベル計測者の報告と、現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて、重錘の次回吊上げ高さを決定し、その高さへの重錘の吊上げを、現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行い、

D その後、該重錘を自由落下させることを繰り返し実施する

E 重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法。
(以下,上記A?Eを本件発明1の構成要件A?Eという。)

また,本件発明2は,構成要件A?Eに加え,以下の構成要件Fを備えるものである。
F 上記重錘の残り均し目盛りおよび吊上げ・低下目盛りが、複数本の同色または色違いのマーキングによって表示されている

また,本件発明3は,構成要件A?Eまたは構成要件A?Fに加え,以下の構成要件Gを備えるものである。
G 上記重錘の残り均し目盛りおよび吊上げ・低下目盛りが、重錘支柱の全周にわたって表示されている

また,本件発明4は,構成要件A?E,構成要件A?Fまたは構成要件A?Gに加え,以下の構成要件Hを備えるものである。
H 上記重錘の残り均し目盛りは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面からの深度とレベル設置地点の地盤高さ(真高)とレベル機械高さとの合計長さを、上記重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にし、その下方に向かって数値を増やす目盛りである

また,本件発明5は,構成要件A?E,構成要件A?F,構成要件A?Gまたは構成要件A?Hに加え,以下の構成要件Iを備えるものである。
I 上記重錘の吊上げ・低下目盛りは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面からの深度と同じ長さを、上記重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にして上方と下方に向かい数値を増やす目盛りである

3 イ号工法
請求人は,イ号工法を「起重機船のクレーンにそれぞれ別個に昇降自在に吊下げられた支持台5と錘本体6とからなり、支持台5の支柱8の上端部分に支持台5の底面を起点とした高さ目盛を形成し、錘本体6をクレーンオペレータが操作するクレーンから自由落下により、上記支持台5の支柱8の上端部所要長さ部分を現場海面から突出させる状態で捨石基礎20の天端上に起立し、計測者がレベルにより、そのときの支持台5の底面を起点とした高さを上記高さ目盛から判読するとともに、その値から、基準海面(東京湾の平均海面)から計測器までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し、その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出して、クレーンオペレータに報告し、クレーンオペレータが、その計測者の報告に基いて、錘本体6の次回吊り上げ高さを決定し、その高さへの錘本体6の吊り上げを行い、その後、錘本体6を自由落下させることを繰り返し実施することを特徴とする水中捨石均し工法。」と特定している(請求書4頁下1行?5頁13頁行)が,本件発明と対比できるように分説・整理し,被請求人の特定(答弁書8頁20行?9頁7行)をも考慮して,イ号工法を次のように特定する。

a 台座7と支柱8からなる支持台5と,錘本体6とからなり,支持台5の支柱8の上端部分に支持台5の底面を起点(すなわち,ゼロ)とした高さ目盛を形成してなる重錘2であって,錘本体6を吊下げるワイヤー18の張力を一気に緩和して,錘本体6を支柱8に沿って直下方の台座7に向けて落下自在とし,また,上記支柱8は,その上端部分を現場海面から突出させる状態で捨石基礎20の天端上に起立し,

b 計測者が計測器(レベル)により,そのときの支持台5の底面を起点とした高さを上記高さ目盛から判読するとともに,その値から,基準海面(東京湾の平均海面)から計測器(レベル)までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し,その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出して,クレーンオペレータに報告し,

c クレーンオペレータが,その計測者の報告に基いて,錘本体6の次回吊り上げ高さを決定し,その高さへの錘本体6の吊り上げを行い,

d その後,錘本体6を自由落下させることを繰り返し実施することを特徴とする

e 水中捨石均し工法。
(以下,上記a?eをイ号工法の構成a?eという。)

4 当事者の主張
(4-1)請求人
請求人は,イ号工法と本件発明1と比較すると,イ号工法は,次の点で本件発明1と相違し,本件発明のような効果を奏しないから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない旨,主張する。
「本件特許発明とイ号発明とを対比すると、本件特許発明では、残り均し目盛と吊上げ・低下目盛を有するのに対して、イ号発明では、高さ目盛を有する点で大きく異なっている。
特に、本件特許発明では、残りの均し高さを瞬時に判読できる残り均し目盛を有しているために、その残り均し目盛から判読した残り均し高さをクレーンオペレータに報告するようにしている。
しかしながら、イ号発明では、支持台5の底面を起点とした高さ目盛しか有しておらず、その高さ目盛から支持台5の底面を起点とした高さを判読し、その値から、基準海面(東京湾の平均海面)から計測器までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し、その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出して、クレーンオペレータに報告するようにしている。
なお、イ号発明で用いている方法は、本件特許公報(甲第1号証)の従来の技術にも記載されているように、従来から慣行されている方法である。
以上に説明したように,本件特許発明とイ号発明とを対比すると、有する目盛の種類が明らかに異なっている。
そのため、本件特許発明では、瞬時に残り均し高さを判読でき、その値を報告すればいいので、上記効果を奏する。
一方、イ号発明(従来技術)では、高さ目盛からだけでは残り均し高さを判読することはできず、残り均し高さを算出してから報告しなければならないために、上記本件特許発明のような効果は奏しない。」(判定請求書の5頁14行?6頁7行「(5)本件特許発明とイ号発明との技術的対比」の項参照)。

(4-2)被請求人
被請求人は,次のように主張する。
(イ)「請求の理由(4)・・・・・のイ号発明の構成と,そのイ号図面ならびに説明書に記載されているイ号発明の構成とが,一致も対応もしていない・・・・・整合しているとはいえない。
このため,・・・・・『イ号発明』が特定されていないこととなる。
その上,・・・・・いずれもその構成が,・・・・・請求項1?5に記載された構成,・・・・・と対応させることができる程度に特定されていないことも明らかである。
・・・・・イ号発明については,・・・・・本件特許発明1?5との正確な対比が不可能であるから,・・・・・『本件判定の請求を却下する。』との判定を賜りたく存じます。」(答弁書7頁下7行?同8頁13行)
(ロ)「イ号工法は,計測者が上記高さ目盛から捨石基礎20の高さを判読し,その値から基準海面から計測器までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し,その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出して,クレーンオペレータに報告していることが,本件特許発明1において,レベル計測者が残り均し目盛りから残り均し高さを判読し,クレーンオペレーターに報告していることと対応一致する以上,請求人のいう『目盛の種類』が異なる点は,当業者が必要に応じ適宜行う設計変更的な微差に過ぎない。」(答弁書10頁21?28行)
(ハ)「しかし,第1に,本件特許発明の明細書の発明の効果で『残り均し高さ、吊上げ高さ、天端の低下値などを、瞬時にしかも正確に判読するのに効果的』であるとしているのは,段落0039の記載から明らかなとおり,残り均し目盛りおよび吊上げ低下目盛りを表示するマーキングとして,例えば,色テープなどを使用して,色分け表示し,しかもそれを重錘支柱の全周にわたり表示した場合の効果,すなわち,本件特許発明2,3の効果であって,本件特許発明1が直接奏する効果ということはできない。
第2に,請求人は,イ号発明(イ号工法)において,高さ目盛から残り均し高さを算出するのを瞬時には行い得ないことを当然の前提としているようであるが,本件特許発明1は格別算出速度を規定しているものではない。」(答弁書11頁6?15行)
(ニ)「イ号工法は,本件特許発明1と同じ目的を達成しかつ同じ作用効果を奏し得ることが,当業者に自明である。」(答弁書11頁20?21行)
(ホ)「請求の理由(5)本件特許発明とイ号発明との技術的対比の項の主張,特に後段の『本件特許発明とイ号発明とを対比すると、有する目盛の種類が明らかに異なっている。そのため、本件特許発明では、瞬時に残り均し高さを判読でき、その値を報告すればいいので、上記効果を奏する。一方、イ号発明(従来技術)では、高さ目盛からだけでは残り均し高さを判読することはできず、残り均し高さを算出してから報告しなければならないために、上記本件特許発明のような効果は奏しない。』との請求人の単純な主張だけでは,それが上記のように誤解に基づくものであることを考慮しないとしても,請求の趣旨の『イ号図面ならびに説明書に示す水中捨石均し工法(以下、『イ号発明』という。)は、特許第3453710号発明(以下、『本件特許発明』という。)の技術的範囲に属しない』とすることに対する説得力のある合理的根拠をなしているとは到底認められない。」(答弁書12頁1?12行)

5 当審の判断
(5-1)本件発明の技術的意義について
まず,本件発明の技術的意義を把握するために,本件特許明細書(甲第1号証)を参照すると,次のような「従来の問題点」,「目的」,「解決手段」及び「効果」が記載されている。
(イ)従来の問題点:
「【0010】…一般に、同じ現場においてさえも、レベルの機械高さは、レベル計測者が交代するごとに、そのレベル計測者の背丈などに応じ計測し易い高さに調整変更されるが、そのたびに、前記基準海面からの深度の算出を、その新たなレベル機械高さに基づいて行わなければならない煩わしさがある。」,
「【0012】…レベル計測管理は、ジオジメーター計測管理に比べると、コスト面すなわち経済的に有利であり、また、そのジオジメーター計測管理における検測に利用できる等のメリットがある反面、レベル計測者による高さ目盛りの判読ミスや、クレーンオペレーターの聞き取り違いを完全には回避できないところがあること、クレーンオペレーターによる重錘の吊上げ高さの決定や、その吊上げ高さの確認は、専ら、クレーンオペレーター本人の経験に基づく勘に依存しているものであること、さらには、レベル計測者またはクレーンオペレーターが、例えば残り均し高さを正負逆にとってしまうことなどがあり、これらの点では、レベル計測管理にも問題なしとしない。」,
(ロ)目的:
「【0013】本発明の目的は、レベル計測者による高さ目盛りの判読ミスをなくすこと、残り均し高さを簡単に把握できるようにすること、また、クレーンオペレーターによる重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき、かつまた、重錘自由落下ごとの天端の低下値をクレーンオペレーターも正確に目測できるようにすること、さらには、レベル計測者が交代した場合でもレベルの機械高さを変更しないで計測できるようにし、これらによって、レベル計測管理を簡単にできるとともに、その精度を向上させ、捨石マウンドの天端の輾圧を過不足なく正確に行って、高品質の水中捨石基礎を築造しようとするものである。」,
(ハ)解決手段:
「【0014】【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法は,重錘ヘッドaと重錘支柱bとからなり、その重錘支柱bの所要部位に残り均し目盛りcを表示するとともに、その下方部位に吊上げ・低下目盛りdを表示してなる重錘Aを、クレーンオペレーターが操作するクレーンからの自由落下により、上記重錘支柱bの上端部所要長さ部分を現場海面20から突出させる状態で捨石マウンドcの天端上に起立し、レベル計測者16が、椅子17に座った状態で計測できる高さに固定されたレベルgにより、そのときの残り均し高さを上記残り均し目盛りcから判読して、クレーンオペレーターに報告し、クレーンオペレーターが、そのレベル計測者16の報告と、現場海面20との関係において上記吊上げ・低下目盛りdを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて、重錘Aの次回吊上げ高さを決定し、その高さへの重錘Aの吊上げを、現場海面20との関係において上記吊上げ・低下目盛りdにより確認しながら行い、その後、該重錘Aを自由落下させることを繰り返し実施するものである。」,
(ニ)効果:
「【0036】【発明の効果】以上述べたところから明らかなように、本発明によれば次の効果を奏する。
【0037】レベル計測者は、残り均し高さを簡単かつ正確に把握でき、また、クレーンオペレーターは、重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき、しかも、重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき、捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を、極めて経済的にしてかつ正確に行って、高品質の水中捨石基礎を築造することができる。
【0038】換言すると、重錘を、重錘支柱の上端部所要長さ部分を現場海面から突出させる状態で捨石マウンドの天端上に起立させ、レベル計測者が、そのときの残り均し高さをレベルにより残り均し目盛りから直接判読して、クレーンオペレーターに報告し、クレーンオペレーターが、そのレベル計測者の報告と、現場海面との関係において吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて、重錘の次回吊上げ高さを決定し、その高さへの重錘の吊上げを、同じく現場海面との関係において吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行い、その後、該重錘を自由落下させることを、繰り返し行うことにより、所期の水中捨石基礎均しを簡単に実施できる。
【0039】特に、残り均し目盛りおよび吊上げ・低下目盛りを表示するマーキングとして、例えば、色テープなどを使用し、色分け表示すると、しかもそれを重錘支柱の全周にわたり表示すると、レベル計測者やクレーンオペレーターは、どの方向からでも、残り均し高さ、吊上げ高さ、天端の低下値などを、瞬時にしかも正確に判読するのに効果的であり、作業効率の向上に寄与するところが大きいものである。
【0040】また、レベルの機械高さを、レベル計測者が椅子に座った状態で計測できる高さに固定しておくことによって、レベル計測者が交代した場合でも、そのレベルの機械高さを変更することなく、所期の計測を行うことができ、効率的である。」。

上記本件特許明細書(甲第1号証)の記載から明確に把握できるとおり,「重錘支柱bの所要部位に残り均し目盛りを表示するとともに,その下方部位に吊上げ・低下目盛りを表示してなる」ことにより,「レベル計測者は、残り均し高さを簡単かつ正確に把握でき、また、クレーンオペレーターは、重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき、しかも、重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき、捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を、極めて経済的にしてかつ正確に行って、高品質の水中捨石基礎を築造することができる」ものとしたこと,すなわち,「残り均し目盛り」と「吊上げ・低下目盛り」を表示してなることにより、「捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を、極めて経済的にしてかつ正確に行って、高品質の水中捨石基礎を築造することができる」点に,技術的特徴を有するものであって,本件発明の本質的部分であると認められる。

(5-2)構成aが構成要件Aを充足するか否かについて
(i)構成要件Aについて
まず,「残り均し目盛り」とは,構成要件Bの「レベル計測者が、椅子に座った状態で計測できる高さに固定されたレベルにより、そのときの残り均し高さを上記残り均し目盛りから判読」できるようにするものであって,本件特許明細書段落【0007】の記載「レベル計測者は、重錘が自由落下し捨石マウンドの天端に起立するたびごとに、その高さ目盛りを目視判読し、上記のようにして、捨石マウンドの天端深度現在値を算出するとともに、それと計画天端高さとの差、すなわち、残り均し高さを算出し、その値(例えば80cm)をクレーンオペレーターに報告する。クレーンオペレーターは、その都度、報告を受けた残存均し高さを考慮して、重錘の吊上げ高さを決め、クレーンを操作してその高さまで重錘を吊り上げるとともに、自由落下させる。」および段落【0024】の記載「cは、重錘支柱bの上端部すなわち鋼管3に表示した残り均し目盛りである。この残り均し目盛りcは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面9からの深度Dとレベル設置地点(後記のf)の地盤高さ(真高)Hとレベル機械高さhの合計長さを、上記重錘ヘッドaの底面7から測って重錘支柱bの所要部位、すなわち本実施形態では、重錘ヘッドaの底面7から14m上がった部位(鋼管3の上端面8から1m下がった部位)に位置に得られる仮想基線10をおきその仮想基線10を起点0にして下方に向かって数値を増やす目盛りを表示してなるものである。」から明らかなように,「捨石マウンドの天端深度現在値と計画天端高さとの差」である「残り均し高さ」を直接に表示するものであり,「重錘支柱の所要部位の仮想基線を起点0にして下方に向かって数値を増やす目盛りを表示してなる」ものである。

次に,「吊上げ・低下目盛り」とは,構成要件Cの「クレーンオペレーターが,そのレベル計測者の報告と,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて,重錘の次回吊上げ高さを決定し,その高さへの重錘の吊上げを,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行う」際に,使用されるものであって,本件特許明細書段落【0027】の記載「dは、重錘支柱bの中央上部、すなわち鋼管2に表示した吊上げ・低下目盛りである。この吊上げ・低下目盛りdは、当該水中捨石基礎の計画天端高さすなわち基準海面9からの深度Dと同じ長さを、上記重錘ヘッドaの底面7から測って重錘支柱bの所要部位、すなわち、本実施形態では重錘ヘッドaの底面7から10m上がった部位、換言すると、鋼管3の上端面8から5m下がった部位に得られる仮想基線13を起点0にして、上方と下方に向かい数値を増やす目盛りである。」からみて,「計画天端高さと同じ長さを、重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にして、上方と下方に向かい数値を増やす目盛り」である。

また,「重錘」は,重錘ヘッドと重錘支柱とからなるが,「・・・重錘を、クレーンオペレーターが操作するクレーンからの自由落下により、・・・捨石マウンドの天端上に起立」するのであるから,重錘ヘッドと重錘支柱とは一体のものであるといえる。

(ii)構成aについて
一方,イ号工法の構成aにおいては,重錘2の支持台5の支柱8の上端部分に高さ目盛を形成してなるものであり,該高さ目盛りは,支持台5の底面を起点(すなわち,ゼロ)とした高さを表したものである。
また,イ号工法の重錘2は,台座7と支柱8からなる支持台5と,錘本体6とからなり,錘本体6を吊下げるワイヤー18の張力を一気に緩和して錘本体6を支柱8に沿って直下方の台座7に向けて落下自在のものである。

(iii)対比
重錘に表示される「目盛り」は,構成要件Aでは,「残り均し目盛り」及び「吊り上げ・低下目盛り」の二種類の目盛りがあるのに対し,構成aでは,「高さ目盛り」の一種類しか見当たらない。この点において,両者は明らかに相違するといえる。
また,構成要件Aの「残り均し目盛り」は,前述したように,「捨石マウンドの天端深度現在値と計画天端高さとの差」である「残り均し高さ」を直接に表示するものであり,レベル計測者が読み取った残り均し目盛りの値を,何ら加工することなく,そのまま,残り均し高さとして,クレーンオペレーターに報告するためのものである。一方,イ号工法において,本件発明にいう「残り均し高さ」を求めるには,構成aの「高さ目盛り」の値から,基準海面(東京湾の平均海面)から計測器までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し,その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出する(要件b参照)という演算を,レベル計測者自身がしなければならないものであり,構成aの「高さ目盛り」から,直接,残り均し高さが得られるものではないから,構成aの「高さ目盛り」は,構成要件Aの「残り均し目盛り」と相違するといえる。
さらに,構成要件Aの「吊り下げ・低下目盛り」は,前述したように,「計画天端高さと同じ長さを、重錘ヘッドの底面から測って重錘支柱の所要部位に得られる仮想基線を起点0にして、上方と下方に向かい数値を増やす目盛り」であるのに対し,構成aの「高さ目盛り」は,支持台5の底面を起点(すなわち,ゼロ)とした高さを表したものであるから,両者は同一のものといえない。
そして,本件発明は,構成要件Aにより,「レベル計測者は、残り均し高さを簡単かつ正確に把握でき、また、クレーンオペレーターは、重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき、しかも、重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき、捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を、極めて経済的にしてかつ正確に行って、高品質の水中捨石基礎を築造することができる。」等の格別の作用効果を奏するのに対し,イ号工法は,構成aによっては,このような作用効果を奏し得ないといえる。
さらに,構成要件Aの「重錘」は,重錘ヘッドaと重錘支柱bとが一体のものからなるのに対し,構成aの「重錘2」は,台座7と支柱8からなる支持台5と,錘本体6とからなり,錘本体6を吊下げるワイヤー18の張力を一気に緩和して錘本体6を支柱8に沿って直下方の台座7に向けて落下自在のものであるから,構成aの「重錘2」は,構成要件Aの「重錘」のように一体の部材から構成されるものではないといえる。
以上のことから,構成aは,構成要件Aを充足しないというべきである。

(5-3)構成bが構成要件Bを充足するか否かについて
(i)構成要件Bについて
構成要件Bの一部である「レベル計測者が,椅子に座った状態で計測できる高さに固定されたレベルにより,そのときの残り均し高さを上記残り均し目盛りから判読」することにより,「レベル計測者が交代した場合でも,そのレベルの機械高さを変更することなく,所期の計測を行うことができ,効率的である」という格別の作用効果と共に,構成要件Bの一部である「レベル計測者が,…残り均し高さを上記残り均し目盛りから判読して,クレーンオペレーターに報告」,すなわち,レベル計測者が,そのときの残り均し高さをレベルにより残り均し目盛りから直接判読して,クレーンオペレーターに報告することにより,「レベル計測者は,残り均し高さを簡単かつ正確に把握」できるという作用効果を奏する。

(ii)構成bについて
イ号工法において,計測者が椅子に座った状態で計測できる高さに固定された「計測器(レベル)」か否か不明である。
構成bでは,計測者が「レベルにより,そのときの支持台5の底面を起点とした高さを上記高さ目盛から判読」するだけでは足らず,「その値から,基準海面(東京湾の平均海面)から計測器までの高さを減算することで押圧する領域の高さを算出し,その高さから残り均し高さ(押圧量)を算出」した上で,「クレーンオペレータに報告」するものである。

(iii)対比
そもそも,上記「(5-2)構成aが構成要件Aを充足するか否かについて」の項で述べたように,本件発明の「残り均し目盛り」とイ号工法の「高さ目盛」とは相違し,本件発明が構成要件Bにより,「レベル計測者は,残り均し高さを簡単かつ正確に把握」できるという格別の作用効果を奏するのに対し,イ号工法は,構成bにより,本件発明と同等の作用効果を奏しないことは明らかである。
したがって,構成bは構成要件Bを充足しないというべきである。

(5-4)構成cが構成要件Cを充足するか否かについて
(i)構成要件Cについて
構成要件Cは,「クレーンオペレーターが,そのレベル計測者の報告と,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて,重錘の次回吊上げ高さを決定し,その高さへの重錘の吊上げを,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行」うものであり,クレーンオペレーターが,レベル計測者の報告のみに基づいて重錘の次回吊上げ高さを決定するのではない。そして,この構成により,「クレーンオペレーターは,重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき,しかも,重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき,捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を,極めて経済的にしてかつ正確に行って,高品質の水中捨石基礎を築造することができる。」という作用効果を奏するといえる。

(ii)構成cについて
イ号工法の構成cは,「クレーンオペレータが,その計測者の報告に基いて,錘本体6の次回吊り上げ高さを決定し,その高さへの錘本体6の吊り上げを行」うものであり,本件特許明細書に従来例として記載されているものと同様に「クレーンオペレーターの聞き取り違いを完全には回避できないところがあること,クレーンオペレーターによる重錘の吊上げ高さの決定や,その吊上げ高さの確認は,専ら,クレーンオペレーター本人の経験に基づく勘に依存しているものであること,さらには,レベル計測者またはクレーンオペレーターが,例えば残り均し高さを正負逆にとってしまうことなどが」ある等の欠点を有するものであるといえる。

(iii)対比
構成要件Cは,クレーンオペレーターが,レベル計測者の報告のみに基づいて重錘の次回吊上げ高さを決定するのではなく,「レベル計測者の報告と,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りを判読することにより得られる前回の天端低下値とに基づいて,重錘の次回吊上げ高さを決定」し,しかも,「次回吊上げ高さへの重錘の吊上げを,現場海面との関係において上記吊上げ・低下目盛りにより確認しながら行」うものであるのに対し,構成cでは,クレーンオペレーターがレベル計測者の報告はうけるものの,クレーンオペレーターが吊上げ・低下目盛りを判読することはなく,この点において,構成cと構成要件Cとは相違することが明らかである。
そして,前記相違により,本件発明1は,イ号工法が奏し得ない「クレーンオペレーターは,重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき,しかも,重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき,捨石マウンドの天端の輾圧による均し作業を,極めて経済的にしてかつ正確に行って,高品質の水中捨石基礎を築造することができる。」という格別の作用効果を奏するといえる。
したがって,構成cは,構成要件Cを充足しないというべきである。

(5-5)構成dが構成要件Dを充足するか否かについて
上記「(5-2)構成aが構成要件Aを充足するか否かについて」の項で述べたように,本件発明の「重錘」は,一体の部材からなるのに対し,イ号工法の「重錘2」は,支持台5と錘本体6とからなり,一体の部材からなるものではない。
したがって,構成dは,構成要件Dを充足しないというべきである。

(5-6)構成eが構成要件Eを充足するか否かについて
上記「(5-2)構成aが構成要件Aを充足するか否かについて」の項で述べたように,構成eの水中捨石均し工法は,前述したように,重錘の一部である「錘本体6」を自由落下させており,その意味で,構成要件Eと同様に重錘自由落下式といえ,また,イ号工法の水中捨石は,本件発明1と同様に水中捨石基礎といえるものであるから,構成eは構成要件Eを充足するというべきである。

(5-7)まとめ
そうすると,イ号工法は本件発明1の構成要件A?Dを充足しないものである。

また,本件発明2が,本件発明1を更に限定したものであるから,イ号工法は,同様に本件発明2の構成要件をも充足しないものであり,
本件発明3が本件発明1または2を更に限定したものであるから,イ号工法は,同様に本件発明の構成要件3をも充足しないものであり,
本件発明4が本件発明1,2または3を更に限定したものであるから,イ号工法は,同様に本件発明4の構成要件をも充足しないものであり,
本件発明5が,本件発明1,2,3または4を更に限定したものであるから,イ号工法は,同様に本件発明5の構成要件をも充足しないものである。

6 被請求人の主張に対して
まず,上記被請求人の主張(イ)について検討すると,上記「3 イ号工法」にて述べたように「イ号図面ならびに説明書」からイ号工法が本件発明と対比できる程度に把握できるから,被請求人の「本判定の請求を却下する」との主張は理由がない。
次に,上記主張(ロ)について検討すると,
確かに,レベル計測者が,残り均し高さをクレーンオペレータに報告するという点では,両者は共通するが,上記「(5-3)構成bが構成要件Bを充足するか否かについて」の項で述べたように,イ号工法では,レベル計測者が,高さ目盛りを判読するだけでは足りず,その目盛りに基づいて,残り均し高さを演算した上で,クレーンオペレータに報告するものであるから,本件発明のように,レベル計測者が,残り均し高さを簡単かつ正確に把握できるものではない。
また,上記主張(ハ)および(ニ)について検討すると,
確かに,残り均し高さ,吊上げ高さ,天端の低下値などを「瞬時」に判読するとの記載は,従来例を説明している段落【0009】,及び,本件発明2,3の作用効果についての段落【0039】にしか存在しない。
しかしながら,本件発明1に,残り均し高さ,吊上げ高さ,天端の低下値などを「瞬時」に判読するという効果がないとしても,本件特許明細書の段落【0037】,【0038】及び【0040】に記載の作用効果を本件発明が奏するのに対し,イ号工法は,このような作用効果を奏さしないことは明らかである。
また,本件特許明細書の段落【0037】の「レベル計測者は,残り均し高さを簡単かつ正確に把握でき,また,クレーンオペレーターは,重錘の吊上げ高さをかなり正確に目測でき,しかも,重錘自由落下ごとの天端の低下値も正確に目測でき」との記載,同段落【0038】の「レベル計測者が,そのときの残り均し高さをレベルにより残り均し目盛りから直接判読して」との記載から,本件発明1の効果は,残り均し高さ,吊上げ高さ,天端の低下値などを「瞬時」に判読するとの明示が無くとも,「簡単」,「正確」との記載がある以上,程度の差こそあれ,「瞬時」に近似の作用効果が得られるいえる。
さらに,上記主張(ホ)について検討すると,
確かに、請求人の主張「有する目盛の種類が明らかに異なっている」は簡略であるが、上記「5 当審の判断」の項において述べたとおりであるから,被請求人の主張は理由がない。

7 むすび
以上のとおりであるから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり,判定する。
 
別掲
 
判定日 2007-07-31 
出願番号 特願2001-106212(P2001-106212)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 砂川 充
峰 祐治
登録日 2003-07-25 
登録番号 特許第3453710号(P3453710)
発明の名称 重錘自由落下式水中捨石基礎均し工法  
代理人 内野 美洋  
代理人 原田 信市  
代理人 原田 敬志  

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