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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E02D
管理番号 1162250
判定請求番号 判定2007-600017  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-02-15 
確定日 2007-08-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3608165号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 イ号図面ならびに説明書に示す「水中捨石均し工法」は,特許第3608165号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1 請求の趣旨
本件判定請求は,イ号図面ならびに説明書に示す「水中捨石均し工法」(以下,「イ号工法」という。)が特許第3608165号発明(以下,「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない,との判定を求めたものである。

2 本件発明
本件特許第3608165号は,平成13年12月18日の出願に係り,平成16年10月22日に設定登録されたものであって,本件発明は,その特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
高さH′を計画高さHより少し高くし、天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし、かつ、法面G′,G′の勾配を自然勾配とした捨石マウンドMを築造し、
その後、重錘Pを自由落下させて行う輾圧作業を天端の中央部から上記仮天端肩部S′,S′にわたり繰り返し行って、上記天端の高さH′を計画高さHになるまで圧密均しし、
続いて、上記重錘Pにより上記仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって、天端幅W′を計画天端幅Wとしてその外側縁部に計画天端肩部S,Sを露呈させるとともに、上記自然勾配の法面G′,G′を計画法面G,Gに成形することを特徴とする重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。」(以下,「本件発明1」という。)
「【請求項2】
上記計画法面G,Gの勾配をほぼ1:2?1:3とすることを特徴とする請求項1記載の重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。」(以下,「本件発明2」という。)
「【請求項3】
上記計画天端肩部S,Sとそれに続く計画法面Gに対する仕上げ造成を、潜水士の水中手作業により行うことを特徴とする請求項1または2記載の重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。」(以下,「本件発明3」という。)

そして、本件発明1は,分説すると以下の構成要件を備えるものである。

A 高さH′を計画高さHより少し高くし、天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし、かつ、法面G′,G′の勾配を自然勾配とした捨石マウンドMを築造し、

B その後、重錘Pを自由落下させて行う輾圧作業を天端の中央部から上記仮天端肩部S′,S′にわたり繰り返し行って、上記天端の高さH′を計画高さHになるまで圧密均しし、

C 続いて、上記重錘Pにより上記仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって、天端幅W′を計画天端幅Wとしてその外側縁部に計画天端肩部S,Sを露呈させるとともに、上記自然勾配の法面G′,G′を計画法面G,Gに成形する

D ことを特徴とする重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法。
(以下,上記A?Dを構成要件A?Dという。)

また,本件発明2は,構成要件A?Dに加え,以下の構成要件Eを備えるものである。
E 上記計画法面G,Gの勾配をほぼ1:2?1:3とする

また,本件発明3は,構成要件A?Dまたは構成要件A?Eに加え,以下の構成要件Fを備えるものである。
F 上記計画天端肩部S,Sとそれに続く計画法面Gに対する仕上げ造成を、潜水士の水中手作業により行う

3 イ号工法
請求人は,イ号工法を「高さを計画高さ(H)より少し高く(H+h1)し、天端幅(W1)を計画天端幅(W)より少し狭くし、その狭くした両側部分に対応する部分を仮天端肩部とし、かつ、法面の勾配を自然勾配とした捨石マウンド(20) を築造し、
その後、重錘(6)を自由落下させて行う輾圧作業を天端の中央部から上記仮天端肩部にわたり繰り返し行って、上記天端の高さを計画高さ(H)になるまで圧密均しして、天端幅(W1)を計画天端幅(W)としてその外側縁部に計画天端肩部S,Sを露呈させ、続いて、上記自然勾配の法面を計画法面に成形する水中捨石均し工法。」と特定している(請求書4頁4?13行)が,判定請求書に添付した「イ号図面ならびに説明書」に記載されていない「仮天端肩部」や「計画天端幅を露呈させる」などの文言により特定されており,対応関係が明確とはいえない。
そこで,イ号工法については,同「イ号図面ならびに説明書」を考慮し,イ号工法は次のように特定する。

a 高さを所定高さHよりもh1高くし,縁部の捨石4が自然に落下して,上端の縁部の間隔W1が所定幅Wよりも狭くなる捨石基礎20を形成し(捨石投入工程),
次に,捨石基礎20の上端部の捨石4をクレーンや潜水士によって排除して,捨石基礎20の上端が概ね平坦で高さが所定高さHよりもh2(h2<h1)ほど高く,上端の縁部の間隔W3が所定幅よりも狭い捨石基礎20を形成し(荒均し工程),

b 次に,錘本体2が支柱8に沿って台座7に落下衝突して台座7によって捨石4を押圧するようにしている錘2を用いて,捨石基礎20の上端の中央部から縁部へ向けて順次押圧していき,押圧により皺寄せられた捨石4が捨石基礎20の縁部から法面へと排除され,下端の縁部の間隔が若干拡がり(W4),上端の縁部が所定幅Wで所定高さHの捨石基礎20を形成し(本均し工程),

c 次に,潜水士によって,捨石基礎20の法面の捨石4を均等に均していき,下端の縁部の間隔を若干拡げて(W5),捨石基礎20を所定形状の基礎19に仕上げる(法面均し工程),

d 水中捨石均し工法。
(以下,上記a?dを構成a?dという。)

4 当事者の主張
(4-1)請求人
「本件特許発明では、計画よりも広い幅の捨石マウンドを形成しておき、計画よりも外側部分をも重錘Pを用いて崩し、計画天端肩部を形成しているのに対して、イ号発明では、計画よりも狭い幅の捨石基礎を形成しておき、計画通りの幅だけを均すことで、計画天端肩部を形成している。
以上に説明したように、本件特許発明とイ号発明とを対比すると、捨石マウンド(イ号では『捨石基礎20』)の形状と、重錘(イ号では『錘本体6』)による均しの方法が明らかに異なっている。
そのため、本件特許発明では、計画よりも外側の捨石までも重錘で押圧することができ、『天端肩部についても重錘による輾圧を行って該肩部の密度ないし強度を十分なものにでき』る効果を奏する。
一方、イ号発明では計画よりも外側の捨石を錘で押圧していないために、本件特許発明のような効果は奏しない。」(請求書5頁9?21行)。

(4-2)被請求人
被請求人は、答弁書5頁下8行?10頁下4行において、次のように主張する。
(イ)「(1) 上記から明らかなように,請求の理由(4)イ号発明の説明の項で『イ号発明は、イ号図面ならびに説明書に記載されているとおりのものであり、本件特許発明(請求項1)に即して記載すると、次のとおりのものである。』とされているところのイ号発明(以下,この項では『イ号発明1』という。)の構成と,そのイ号図面ならびに説明書に記載されているイ号発明(以下,この項では『イ号発明2』という。)の構成とが,一致も対応もしていないのはもちろん,両者の具体的内容説明も整合しているとはいえない。
・・・・・
(2) その上,請求の理由(4)イ号発明の説明の項に記載のイ号発明,およびイ号図面ならびに説明書に記載のイ号発明は,いずれもその構成が,本件特許発明の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された構成・・・・・と対応させることができる程度に特定されていないことも明らかである。」
(ロ)「(4) 既述のように・・・・・
これらの記載によって,請求人は,水中捨石均し装置1による輾圧作業で捨石基礎20の天端幅W1が計画天端幅Wに拡幅しかつその外側縁部が圧密された計画天端肩部をなすことを説明しようとしているもののように推認される。
しかし,第1に,前記のとおり,捨石基礎20の自然勾配の法面は開放状態をなしているから,輾圧作業により天端の端縁は計画天端幅Wに拡幅する以前か少なくとも直後には崩れることが明らかである。
第2に,一般に,水中捨石基礎の構築に供される捨石は,直径20?50cm程度,重量30?300kg程度の中割石であり,通常,投入時の堆積空隙率は40%程度になるものであることが,当業界における技術常識であり,また,水中捨石均し装置による輾圧は,垂直落下する重錘底板の中央部が捨石に加える衝撃が有効な垂直方向圧密をもたらすもので,その底板の周辺部が捨石に加える衝撃は,特に天端の端縁において堆積している捨石に対しては,それを開放状態の法面に向けて排除するように作用するものであることも技術常識であるが,これらの技術常識からすると,本均し工程を示す説明図である図6が,水中捨石均し装置1が所定幅Wの捨石基礎20の縁部に起立している状態を示しているからといって,実際にその縁部が圧密されるとは到底認められない。
したがって,本均し工程に関するイ号図面ならびに説明書の上記記載や図6の上記記載があるからといって,それだけでは,イ号発明が,天端幅W1を計画天端幅Wに拡幅成形し,かつその縁部を圧密された計画天端肩部に成形する内容のものであることが,技術的に明確になっているということができない。」
(ハ)「(6)このため,イ号発明については,少なくとも上記した各点に関する要旨変更には該当しない補正が適正になされない限り、本件特許発明1?3との正確な対比が不可能であることが明らかである。
よって,答弁の趣旨に記載のとおり『本件判定の請求を却下する。』との判定を賜りたく存じます。」

5 当審の判断
(5-1)本件発明の技術的意義について
本件発明の技術的意義を把握するために,本件特許明細書(甲第1号証)を参照すると,次のような「従来の問題点」,「目的」,「解決手段」及び「効果」が記載されている。
(イ)従来の問題点:
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記重錘Pによる輾圧作業とそれによる各捨石間の圧密は、上記捨石マウンドMの天端の中央部から外側縁部すなわち天端肩部Sにわたって順次行われ、余分な捨石は開放されている法面に押し出されることとなる。
特に、上記天端肩部Sは、外側が開放状態であるから重錘Pで輾圧しても圧密することなく、却って、その部分の捨石を崩落させてしまう。
このため、重錘Pによる輾圧は、天端肩部Sに対して直接行うことなく、その内側手前までとし、該天端肩部Sとそれに続く法面G′,G′の仕上げ造成は、専ら潜水士の水中仕上げ手作業に依存している。
すなわち、実際には所要の遣り型を使用する等しながら、当該天端肩部Sとそれに続く法面G′,G′に所要量の捨石を補填し、潜水士の水中仕上げ作業により、最終的に、計画天端幅W、計画高さH、計画法面G,G(勾配ほぼ1:2?1:3)に仕上げているものである。
【0004】
したがって、上記天端肩部Sの密度ないし強度は、天端中央部の重錘輾圧部分に比べて小さくならざるを得ない。
また、潜水士の上記水中仕上げ作業は、浮遊状態で行わなければならないこともあって、特に浅海では多少の波浪でも身体が不安定となり、的確安全な作業を困難にする等の難点がある。」,
(ロ)目的:
「【0005】
そこで本発明は、天端肩部についても重錘による輾圧を行って該肩部の密度ないし強度を十分なものにでき、したがってまた、潜水士による上記水中仕上げ作業を最小限で足りるものとし、これによって、従来に比べて工期ならびに工費を大幅に縮減できる重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法を提供しようとするものである。」,
(ハ)解決手段:
「【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法は、まず、高さH′を計画高さHより少し高くし、天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし、かつ、法面G′,G′の勾配を自然勾配とした捨石マウンドMを築造し、その後、重錘Pを自由落下させて行う輾圧作業を天端の中央部から上記仮天端肩部S′,S′にわたり繰り返し行って、上記天端の高さH′を計画高さHになるまで圧密均しし、続いて、上記重錘Pにより上記仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって、天端幅W′を計画天端幅Wとしてその外側縁部に計画天端肩部S,Sを露呈させるとともに、上記自然勾配の法面G′,G′を計画法面G,Gに成形するものである。」,
(ニ)効果:
「【0014】
【発明の効果】
以上述べたところから明らかなように、重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均工法によれば、天端肩部についても重錘による輾圧を行って該肩部の密度ないし強度を十分なものにでき、したがってまた、潜水士による上記水中仕上げ作業を最小限で足りるものとし、これによって、従来に比べて工期ならびに工費を大幅に縮減でき、その効果はきわめて顕著である。」。

上記本件特許明細書の記載から明確に把握できるとおり,「【0006】…高さH′を計画高さHより少し高くし、天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし、かつ、法面G′,G′の勾配を自然勾配とした捨石マウンドMを築造し、その後、重錘Pを自由落下させて行う輾圧作業を天端の中央部から上記仮天端肩部S′,S′にわたり繰り返し行って、上記天端の高さH′を計画高さHになるまで圧密均しし、続いて、上記重錘Pにより上記仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって、天端幅W′を計画天端幅Wとしてその外側縁部に計画天端肩部S,Sを露呈させるとともに、上記自然勾配の法面G′,G′を計画法面G,Gに成形する…」ことにより,「【0005】…天端肩部についても重錘による輾圧を行って該肩部の密度ないし強度を十分なものにでき、したがってまた、潜水士による上記水中仕上げ作業を最小限で足りるものとし、これによって、従来に比べて工期ならびに工費を大幅に縮減できる…」ことが,本件発明1の技術思想であると認められる。

(5-2)構成aが構成要件Aを充足するか否かについて
(i)構成要件Aについて
構成要件Aの「法面G′,G′の勾配を自然勾配とした」との特定,および,本件特許明細書の段落【0009】の記載「まず、作業船から慣行にしたがい所要の捨石投入を行い、次の構成をなす断面山形の捨石マウンドMを築造する。捨石マウンドMは、高さH′を計画高さHより少し高くし、すなわち余盛り状態とし、また、天端幅W′を、計画天端幅Wより少なくとも、重錘Pの一辺の長さ(約2.5m)の例えば2倍の長さ分だけ広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし、かつ、法面G′,G′の勾配を自然勾配(ほぼ1:1)としている。」からみて,構成要件Aの「捨石マウンドM」は,捨石投入により築造され,その高さH′が計画高さHより少し高く,また,その天端幅W′が計画天端幅Wより広いとともに,その法面が自然勾配をなす捨石マウンドであるといえる。
また,「仮天端肩部S′,S′」とは,構成要件Aの「高さH′を計画高さHより少し高くし、天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′とし」からみて,計画高さHより少し高い天端における計画天端幅Wより外側の両側部分Lであることが明らかである。

(ii)構成aについて
構成aの「捨石基礎20の上端部の捨石4をクレーンや潜水士によって排除して,捨石基礎20の上端が概ね平坦で高さが所定高さHよりもh2(h2<h1)ほど高く,上端の縁部の間隔W3が所定幅よりも狭い捨石基礎20を形成し(荒均し工程)」からみて,荒均し工程では,捨石投入工程にて形成された捨石基礎20の法面に変更を加えないのであるから,荒均し工程後の「捨石基礎20」は,その高さが所定高さHよりh2高く,また,その上端の縁部の間隔W3が所定幅Wより狭いとともに,その法面が自然勾配をなす捨石基礎であるといえる。

(iii)対比
構成aと構成要件Aと対比すると,構成aの荒均し工程後の「捨石基礎20」が構成要件Aの「捨石マウンド」に対応することが明らかであり,構成aの「上端の所定高さH」が構成要件Aの「計画高さH」に相当するから,「捨石基礎20」の「所定高さHよりもh2ほど高く」は,「捨石マウンド」の「計画高さHより少し高い高さH′」と実質的に同一であるといえる。また,「捨石基礎20」と「捨石マウンド」とは,その法面が自然勾配をなす点で,一致している。
しかしながら,構成aにおいては,「上端の縁部の間隔W3が所定幅Wよりも狭く」したものであるのに対し,構成要件Aにおいては,「天端幅W′を計画天端幅Wより少し広くし、その広くした両側部分Lに対応する部分を仮天端肩部S′,S′」としたものであり,捨石マウンドを築造するに当たって,計画天端幅Wを基準とすると,構成aにおいては,天端幅Wをこれより狭くし,一方,構成要件Aにおいては,天端幅をこれより広くした点において相違するといえる。すなわち,構成aは,構成要件Aの「仮天端肩部S′,S′」に相当するものを有していない点で,構成要件Aと相違する。そして,本件発明1は,後述の構成要件Cの工程と相まって,計画天端肩部の密度ないし強度を十分なものにするものであるのに対し,イ号工法は,同等の効果を奏しないといえる。
してみると,構成aは,構成要件Aを充足しないというべきである。

(5-3)構成bが構成要件Bを充足するか否かについて
構成bと構成要件Bと対比すると,何れも,重錘を自由落下させて行う輾圧作業を,天端の中央部から天端の端部まで行っている点では共通する。
しかしながら,輾圧作業を行う天端の縁部が,構成bにおいてそのまま計画天端幅W(所定幅W)の縁部となるのに対し,構成要件Bにおいては「仮天端肩部S′」であり,この仮天端肩部S′は,上記構成要件Aをも参照すれば,計画天端幅Wより広くした部分であるから,構成要件Bは構成bよりも天端を幅広く輾圧作業を行うことになる。
また,構成bにおいては,計画天端幅W(所定幅W)及び計画高さH(所定高さH)を形成するのに対し,構成要件Bの工程においては,計画高さH(所定高さH)のみを形成し,計画天端幅W(所定幅W)の形成は依然として行われていない(ちなみに,計画天端幅Wにするのは,次の工程の構成要件Cによって行われる)。
したがって,構成bは構成要件Bを充足しないというべきである。

(5-4)構成cが構成要件Cを充足するか否かについて
構成cと構成要件Cと対比すると,両者は,計画法面に成形する点に関しては共通する。
しかしながら,計画法面に成形するのに,構成cでは,潜水士によって行われるのに対し,構成要件Cでは,重錘Pにより仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって行われる点で相違することは明らかである。
また,イ号工法では,既に,前工程の本均し工程(上記構成b参照)で計画天端肩部(上端の縁部が所定幅Wからなる部分)が形成されているのに対し,本件発明1は構成要件Cの工程で,重錘Pにより仮天端肩部S′,S′の捨石を崩すことによって初めて計画天端肩部が形成(露呈)されるものである点でも相違するといえる。
これにより,本件発明1は,本件特許明細書記載のとおり,「天端肩部についても重錘による輾圧を行って該肩部の密度ないし強度を十分なものにでき、したがってまた、潜水士による上記水中仕上げ作業を最小限で足りるものとし、これによって、従来に比べて工期ならびに工費を大幅に縮減」できる作用効果を奏するのに対し,イ号工法は,潜水士により法面の仕上げを行うものであるから,このような作用効果は奏しないといえる。
したがって,構成cは,構成要件Cを充足しないというべきである。

(5-5)構成dが構成要件Dを充足するか否かについて
イ号工法の構成dの水中捨石均し工法は,上記「(5-4)構成bが構成要件Bを充足するか否かについて」の項において述べたとおり,重錘2を自由落下させており,その意味で,本件発明1と同様に重錘自由落下式といえ,また,イ号工法の水中捨石は,本件発明1と同様に水中捨石基礎といえるものであるから,構成dは構成要件Dを充足するというべきである。

(5-6)まとめ
そうすると,イ号工法は,構成要件Dを充足するものの,本件発明1の構成要件A?Cを充足しないものである。

また,本件発明2が,本件発明1において更に「上記計画法面G,Gの勾配をほぼ1:2?1:3とする」ことを限定したものであるから,イ号工法は,本件発明1と同様に,本件発明2をも充足しないものであり,
さらに,本件発明3が本件発明1または2において更に「上記計画天端肩部S,Sとそれに続く計画法面Gに対する仕上げ造成を,潜水士の水中手作業により行う」ことを限定したものであるから,イ号工法は,本件発明1及び本件発明2と同様に,本件発明3をも充足しないものである。

6 被請求人の主張について
被請求人の上記主張(イ)について検討すると,
確かに、「請求の理由(4)」に記載されているイ号工法の構成は,「イ号図面ならびに説明書」に記載されていない「仮天端肩部」や「計画天端幅を露呈させる」などの文言により特定されており,「請求の理由(4)」に記載されているイ号工法の構成と,「イ号図面ならびに説明書」に記載されているイ号工法の構成とが,文章上整合しない。
しかしながら,「イ号図面ならびに説明書」からはイ号工法が,本件発明と対比できる程度に特定することが可能であり,請求人の本意も「イ号図面ならびに説明書」に記載されたものをイ号工法として特定していると推測されるから,上記「3 イ号工法」のとおり「イ号図面ならびに説明書」に記載されているイ号工法として特定することとする。
また,上記被請求人の主張(ロ)において,被請求人は,「イ号図面ならびに説明書」の記載や図6だけでは,イ号工法が天端幅W1を計画天端幅Wに拡幅成形し,縁部を圧密された計画天端肩部に成形するものであることが,技術的に明確になっているということはできない旨主張するが,「イ号図面ならびに説明書」には「錘2の押圧により皺寄せられた捨石4が捨石基礎20の縁部から法面へと排除され」(構成b)とのみ記載されているのであるから,該被請求人の主張は,請求人の特定したイ号工法と「イ号図面ならびに説明書」に記載されたイ号工法とが整合しないことを具体的に述べているに過ぎないといえる。
なお,請求人の提出した「イ号図面ならびに説明書」には,イ号工法が具体的に,何時,何処で実施したのか,説明がなく,また,実施状況を立証するマニュアル類あるいは写真も貼付されていない。仮に,「イ号図面ならびに説明書」のイ号工法が架空の工法であるとしても,被請求人がその旨を具体的に証拠を提示して争っておらず,また,「イ号図面ならびに説明書」に記載された事項から技術的に実施可能なイ号工法を特定することができるのであるから,当合議体は,本件判定の請求を却下することなく,上記「3 イ号工法」にて特定したイ号工法に基づいて判定することとする。

7 むすび
以上のとおりであるから,イ号工法は,本件発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり,判定する。
 
別掲
 
判定日 2007-07-31 
出願番号 特願2001-385037(P2001-385037)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 昭次  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 峰 祐治
砂川 充
登録日 2004-10-22 
登録番号 特許第3608165号(P3608165)
発明の名称 重錘自由落下式水中捨石基礎圧密均し工法  
代理人 原田 敬志  
代理人 内野 美洋  
代理人 原田 信市  

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