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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A01D
管理番号 1162252
判定請求番号 判定2007-600025  
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2007-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2007-03-09 
確定日 2007-08-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3435129号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号カタログに示すイ号物件「刈払機用の刈刃装置」は、特許第3435129号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人である株式会社ハートフルジャパンは、判定請求書のイ号図面及びイ号カタログに示す「刈払機用の刈刃装置」(以下「イ号物件」という)が、特許第3435129号の請求項1及び2に係る発明の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
本件特許第3435129号の発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 駆動軸の先端部に取着される回転盤に、外周筒壁と中間筒壁を垂設して両筒壁間に下方に開放された環状空間を形成し、該空間内にあって中間筒壁に、該中間筒壁に嵌着される結合筒壁下端に張出縁を周設してなる巻き枠体を装着し、該巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて近接する2つの切欠き孔を設け、両孔間で結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部を設け、巻き枠体の外から2つ折りコード刃を切欠き孔に通してコード刃取着部に係止させて結合筒壁上に巻き付け、該巻き枠体に巻き付けたコード刃を外周筒壁に設けた通孔から外部に突出させたことを特徴とする刈払機の刈刃装置。
【請求項2】 コード刃取着部から2つの切欠き孔に対応して張出縁内側に肉厚部を段設したことを特徴とする請求項1記載の刈払機の刈刃装置」
(以下、請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明を総称して「本件特許発明」という。)

これを構成要件に分説すると次のとおりである。
[請求項1に係る発明]
a.駆動軸の先端部に取着される回転盤に、外周筒壁と中間筒壁を垂設して両筒壁間に下方に開放された環状空間を形成し、
b.該空間内にあって中間筒壁に、該中間筒壁に嵌着される結合筒壁下端に張出縁を周設してなる巻き枠体を装着し、
c.該巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて近接する2つの切欠き孔を設け、
d.両孔間で結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部を設け、
e.巻き枠体の外から2つ折りコード刃を切欠き孔に通してコード刃取着部に係止させて結合筒壁上に巻き付け、
f.該巻き枠体に巻き付けたコード刃を外周筒壁に設けた通孔から外部に突出させた
g.ことを特徴とする刈払機の刈刃装置。

[請求項2に係る発明]
上記構成要件aないしg及び
h.コード刃取着部から2つの切欠き孔に対応して張出縁内側に肉厚部を段設したこと。

第3 イ号物件
請求人が提出した判定請求書中の「イ号物件の説明」、判定請求書に添付して提出した「イ号図面」及び「イ号カタログ」(別添参照)によれば、イ号物件は、次のとおり特定される。
【イ号物件】
[請求項1に対応する構成として]
A.駆動軸の先端部に取着される回転盤1に、外周筒壁4と中間筒壁5を垂設して両筒壁間に下方に開放された環状空間6を形成し、
B.該空間6内にあって中間筒壁5に、該中間筒壁5に嵌着される結合筒壁11下端に張出縁12を周設してなる巻き枠体2を装着し、
C.該巻き枠体2の結合筒壁11のみの部分に、近接する2つの切欠き孔13を設けるとともに、上記中間筒壁5のうち、それに嵌着された結合筒壁11部の上記2つの切欠き孔13と重なる位置に開口20を設け、
D.両孔間で結合筒壁11のみの部分にコード刃取着部14を設け、
E.中間筒壁5の内周側から中間筒壁5の上記開口20を経由させて、2つ折りコード刃を切欠き孔13に通してコード刃取着部14に係止させて結合筒壁11上に巻き付け、
F.該巻き枠体2に巻き付けたコード刃を外周筒壁4に設けた通孔10から外部に突出させた
G.刈払機の刈刃装置。
[請求項2に対応する構成として]
上記構成AないしG及び
H.2つの切欠き孔に対応する位置の張出縁内側に肉厚部を段設していないこと。

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、判定請求書4頁18行乃至7頁3行において、次の理由によりイ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない旨主張している。
(1)イ号物件の構成A、B、F及びGは、本件特許発明の構成要件a、b、f及びgと一致している。
(2)イ号物件の構成Cは、切欠き孔13が、巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて設けられているのではないため、本件特許発明の構成要件cと相違する。
(3)イ号物件の構成Dは、コード刃取着部14が結合筒壁11のみの部分に設けられているもので、結合筒壁から張出縁に跨るようにコード刃取着部を設けられるものではないため、本件特許発明の構成要件dと相違する。
(4)イ号物件の構成Eは、中間筒壁5の開口20を経由させて、2つ折りコード刃を中間筒壁の内周側から通すものであり、巻き枠体の外から2つ折りコード刃を切欠き孔に通すものではないから、本件特許発明の構成要件eと相違する。
(5)イ号物件は、切欠き孔13が、結合筒壁部11のみに設けられているため張出縁12が切り欠かれることはなく、強度低下がないため張出縁の内側に肉厚部を段設する必要はなく、構成Hは、張出縁内側に肉厚部を段設してしていないから、本件特許発明の構成要件Hと相違する。
(6)本件特許発明は、構成要件cのとおり切欠き孔を結合筒壁部から張出縁部に掛けて設けているため、構成要件eのとおりコード刃を切欠き孔に通す際には、コード刃先端を甲第1号証の図1において下から上向き挿入し、その後にその先端の向きを水平に直す必要があるのに対し、イ号物件では構成Cのとおり切欠き孔を巻き枠体の結合筒壁部に設けているからコード刃先端を挿入する際、向きを変える必要がなく、張り出し縁の外側から取り出すことが容易なものであり、本件特許発明とイ号物件には作用効果に差異がある。
(7)被請求人は審査の過程で、本件特許発明の構成要件c及びdの意義を強調しており、本件特許発明とイ号物件との間に均等論を適用する余地はないことはあきらかである。

2.被請求人の主張
被請求人は、判定答弁書において、次のように主張している。
(1)本件特許発明は、巻き枠体2を回転盤1に装着した状態で、2つの切り欠き孔13、13が外側に開口し、環状空間6の開口部6aが形成される構成を備えるように構成したところが本質的部分である。
(2)本件特許発明の構成要件cは、切欠き孔が結合筒壁部から始まり、張出縁部を含む部分に亘る形状としてもよいし、結合筒壁部から始まり、張出縁部の手前で終端してもよいものであり、イ号物件の構成Cを含むものである。
(3)本件特許発明の構成要件dは、コード刃取着部の一端が巻き枠体の結合筒壁と結合し、その他端が張出縁部と結合する形状としてもよいし、コード刃取着部の一端が巻き枠体の結合筒壁部と結合し、その他端が張出縁部の手前で終端してもよいものであり、イ号物件の構成Dを含むものである。
(4)本件特許発明の構成要件eは、巻き枠体の外から2つ折りコード刃Aの各端部A’、A’を、直接に切欠き孔に通してコード刃取着部14に係止させて結合筒壁11上に巻き付けるようにしてもよいし、イ号物件の構成Eのように巻き枠体の外から2つ折りコード刃Aの各端部A’、A’を、開口20を経由して切欠き孔13、13に通してコード刃取着部14に係止させて結合筒壁11上に巻き付けるようにしてもよいものであり、イ号物件の構成Eを含むものである。
(5)イ号物件の構成Eのように、コード刃Aの各端部A’、A’を、切欠き孔13、13に通すために障害となる中間筒壁5に必要に応じて開口20を形成することは当然なすべきことであり、イ号物件の構成Eのように、コード刃Aの各端部A’、A’を、開口20を経由して切欠き孔13、13に通すことも本件特許発明の構成要件eのようにコード刃Aの各端部A’、A’を、直接に切欠き孔に通すことも実質的に同一である。
(6)したがって、イ号物件は本件請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。

第5 対比・判断
1.本件特許発明とイ号物件との対比
(1)イ号物件の構成A、B、F及びGは、本件特許発明の構成要件a、b、f及びgを充足している。
(2)イ号物件の構成Cと、本件特許発明の構成要件cを対比する。
本件特許発明の構成要件cは、「巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて2つの切欠き孔を設け」たものである。
本件特許明細書(甲第1号証参照)には、以下の記載がある。
「【0006】このように構成された本発明の刈刃装置によれば、回転盤に巻き枠体を結合して使用に供され、巻き枠体からコード刃を繰り出したり、新しいコード刃を巻き枠体に巻き付けたりする作業は、回転盤に巻き枠体を装着したままで、回転盤を裏返しにして回転盤と巻き枠体との間に形成される環状空間の開口部から簡単にできるので、コード刃の取り扱い面から何の煩わしさもなく、作業性を向上できる。」
「【0018】 上記構成において、巻き枠体2に対するコード刃Aの巻き付けは、図3に示すように、コード刃Aを2つ折りしてこれを巻き枠体2の外から近接する2つの切欠き孔13に通し、コード刃Aの折曲部をコード刃取着部14に引っ掛けて係止させ、この後、2つ折りコード刃Aを束ねたまま巻き枠体2に巻き付ける。」
これらの記載によれば、本件特許発明は、「巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて近接する2つの切欠き孔を設け、両孔間で結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部を設け」るという構成を採用することにより、新しいコード刃を巻き枠体に巻き付ける作業を、回転盤を裏返しにして、巻き枠体の外から2つ折りコード刃を切欠き孔に通してコード刃取着部に係止させ、2つ折りコード刃を束ねた状態で、回転盤と巻き枠体との間に形成される環状空間の開口部から外部に引き出し、同じ開口部から結合筒壁上に巻き付けることで簡単にでき、作業性を向上できるとの作用効果が奏されるものと認められる。
そうであれば、上記構成要件cにより、切欠き孔が、回転盤の裏側に開口するという構造を実現していると解される。
他方、イ号物件の構成Cは、「巻き枠体2の結合筒壁11のみの部分に近接する2つの切欠き孔13を設け」たものであり、イ号カタログの「コード取付方法」に示されるように、中間筒壁5内側の開口部を上にした状態で、2つ折りコード刃を中間筒壁5の内周側から中間筒壁5の開口20を経由させて、巻き枠の切欠き孔13に通し、その後本体をひっくり返してコード刃を巻き枠体に巻き付けるものであり、作用効果が構成要件cとは異なるものであって、切欠き孔が、回転盤の裏側に開口していない。
そうすると、イ号物件の構成Cは、本件特許発明の構成要件cとは切欠き孔の開口する位置を異にし、その作用効果において全く異なるものというべきである。
仮に、構成要件cの切欠き孔が、結合筒壁部から始まり張出縁部の手前で終端したものを含むとしても、切欠き孔が、回転盤の裏側に開口するものとなるから、上述したとおり、イ号物件の構成Cとは異なるものである。
したがって、イ号物件の構成Cは、本件特許発明の構成要件cを充足しない。
(3)イ号物件の構成Dと、本件特許発明の構成要件dを対比する。
本件特許発明の構成要件dは、「結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部を設けているところ、イ号物件の構成Dは、「結合筒壁11のみの部分にコード刃取着部14を設け」たものであるから、本件特許発明の構成要件dを充足していない。
なお、被請求人は、本件特許発明の構成要件dは、コード刃取着部の一端が巻き枠体の結合筒壁部と結合し、その他端が張出縁部の手前で終端してもよいものである旨主張するが、構成要件dの「結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部」とは、コード刃取着部の一端が結合筒壁部と結合し、他端が張出縁部結合していることを意味することは明らかであり、コード刃取着部が張出縁部の手前で終端するものは、「張出縁に跨る」ものとはいえず、被請求人の主張は採用できない。
(4)イ号物件の構成Eと、本件特許発明の構成要件eを対比する。
本件特許発明の構成要件eの、「巻き枠体の外から・・・2つ折りコード刃を切欠き孔に通す」とは、巻き枠体の装着状態における、環状空間外から環状空間内へ2つ折りコード刃を通すこと、すなわち、切欠き孔に通されたコード刃が、巻き枠体の環状空間内側部分に位置にするように、2つ折りコード刃の2つ折り部を除いた部分を環状空間外から切欠き孔に通すことを意味するものと解される。
一方、イ号物件の構成Eは、中間筒壁の内周側の開口部を経由して2つ折りコード刃を巻き枠体の切欠き孔に通すものであるが、巻き枠体の装着状態における、環状空間外から環状空間内へ2つ折りコード刃を通すものであるから、イ号物件の構成Eは、本件特許発明の構成要件eを充足している。
(5)イ号物件の構成Hと、本件特許発明の構成要件hを対比する。
イ号物件の構成Hは、張出縁内側に肉厚部を段設していないものであるから、本件特許発明の構成要件hを充足していない。

以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件c、d及びhを充足していないから、本件特許の請求項1及び2に係る発明の技術的範囲に属するとすることはできない。

2.均等の判断
請求人は均等論の適用する余地はない旨主張しているので、均等論が成立するか否かについても検討する。
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

イ号物件が、前記要件を満たすか否かについて検討すると、前記第5.1.(2)で述べたとおり、本件特許発明は、「巻き枠体の結合筒壁部から張出縁部に掛けて近接する2つの切欠き孔を設け、両孔間で結合筒壁から張出縁に跨るコード刃取着部を設け」るという構成要件c、dを採用することにより、明細書記載の作用効果を奏するものと認められるから、構成要件c、dは、本件特許発明の本質的部分といわざるを得ない。
したがって、イ号物件は、均等の判断にあたって上記要件(1)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、均等なものとして本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
別掲 イ号物件の説明
イ号物件は、本件特許発明の請求項1の発明に即して記載すれば、つぎのとおりのものである。
「A)駆動軸の先端部に取着される回転盤1に、外周筒壁4と中間筒壁5を垂設して両筒壁間に下方に開放された環状空間6を形成し、
B)該空間6内にあって中間筒壁5に、該中間筒壁5に嵌着される結合筒壁11下端に張出緑12を周設してなる巻き枠体2を装着し、
C)該巻き枠体2の結合筒壁11のみの部分に、近接する2つの切欠き孔13を設けるとともに、上記中間筒壁5のうち、それに嵌着された結合筒壁11部の上記2つの切り欠き孔13と重なる位置に閉口20を設け、
D)両孔間で結合筒壁11のみの部分にコード刃取着部14を設け、
E)中間筒壁5の内周側から中間筒壁5の上記関口20を経由させて、2つ折りコード刃を切欠き孔13に通してコード刃取着部14に係止させて結合筒壁11上に巻き付け、
F)該巻き枠体2に巻き付けたコード刃を外周筒壁4に設けた通孔10から外部に突出させたことを特徴とする
G)刈払機の刈刃装置。」
またイ号物件は、上記請求項2に即して記載するとつぎのとおりになる。
「H)コード刃取着部14および2つの切欠き孔13が張出縁12には設けられていないことに関連して、張出縁12内側に肉厚部を段設してはいないことを特徴とする刈払機の刈刃装置。」

 
判定日 2007-08-09 
出願番号 特願2000-229178(P2000-229178)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西田 秀彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 西田 秀彦
石井 哲
登録日 2003-05-30 
登録番号 特許第3435129号(P3435129)
発明の名称 刈払機の刈刃装置  
代理人 細見 吉生  
代理人 角田 嘉宏  

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