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審決分類 審判 一部無効 発明同一  B29C
審判 一部無効 2項進歩性  B29C
管理番号 1162723
審判番号 無効2005-80238  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-08-01 
確定日 2007-07-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2501048号発明「管路補修工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第2501048号に係る手続の経緯は以下のとおりである。

平成 3年 5月14日 出願
平成 8年 3月13日 特許権の設定登録(特許第2501048号)
平成17年 8月 1日 本件審判の請求(無効2005-80238号)(請求項1、2、4に係る特許に対して)
平成17年10月24日 訂正請求書 特許庁受付
平成17年10月26日 答弁書 差出
平成17年12月16日 弁駁書
平成18年 2月28日 口頭審理
平成18年 3月15日 上申書(請求人、被請求人)


2.訂正の適否について

2-1.訂正の内容

特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「熱硬化性樹脂を含浸し、且つ内面が気密性の高いフィルムで被覆された管状ライニング材を空気圧によって老朽管内で膨張させて老朽管内周面に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングして該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにしたことを特徴とする管路補修工法。」から、
「熱硬化性樹脂を含浸し、且つ内面が気密性の高いフィルムで被覆された管状ライニング材を空気圧によって老朽管内で膨張させて老朽管内周面に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングし、シャワリング済みの温水を管状ライニング材底部を流し、循環して該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにしたことを特徴とする管路補修工法。」に訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

上記訂正は、請求項1において、「管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる」手段を、「温水をシャワリング」することから、「温水をシャワリング」することに加えて、さらに「シャワリング済みの温水を管状ライニング材底部を流し、循環」することを追加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、特許査定時の明細書の段落【0014】及び【0016】には、「本発明では温水のシャワリングによって熱硬化性樹脂が加熱されるため、シャワリングによる温水の強制撹拌作用及び熱気の上昇、或いはシャワリング済みの温水の管状ライニング材底部の流れによって、効率の良い加熱状態が得られる。」、「シャワリングによって管状ライニング材2を加温した温水は、落下して図1に示すように圧力容器5と管状ライニング材2の底部に溜り、この溜った温度の低い温水は、温水ポンプ16によって温水ホース15を経てボイラー10に送られ、ここで再度所定温度に加熱されて管状ライニング材2に供給され、管状ライニング材2に含浸された熱硬化性樹脂の硬化に供される。このように、温水は1つの閉じた系内を循環せしめられる。」と記載されているから、上記訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.独立特許要件の判断

無効請求がなされていない請求項3は、文言上は訂正されていないが、引用する請求項1が訂正されたことにより、実質的に訂正されていることになるから、該請求項に係る発明が独立特許要件を満たしているかどうかを検討する。
下記「7-1」及び「7-2」で述べるように、請求項1に係る発明が、特許法第29条の2第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、これにさらに限定をした請求項3に係る発明もまた上記規定により特許を受けることができないものであるといえず、かつ、他の無効理由もみあたらないから、独立して特許を受けることができるものである。

2-4.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項ないし第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.本件発明

上記2.のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2、4に記載された、次のとおりのものである。

「【請求項1】熱硬化性樹脂を含浸し、且つ内面が気密性の高いフィルムで被覆された管状ライニング材を空気圧によって老朽管内で膨張させて老朽管内周面に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングし、シャワリング済みの温水を管状ライニング材底部を流し、循環して該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにしたことを特徴とする管路補修工法。」
「【請求項2】 前記管状ライニング材は、老朽管内に挿入される前に熱硬化性樹脂を含浸していることを特徴とする請求項1記載の管路補修工法。」
「【請求項4】 前記温水は、老朽管と加熱装置間を循環することを特徴とする請求項1記載の管路補修工法。」
(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」という。)


4.請求人の主張

請求人は、証拠方法として下記の甲第1号証?甲第6号証を提出して、以下の無効理由により、本件請求項1、2、4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効にすべきであり、審判費用は被請求人の負担とすべき旨を主張している。

無効理由1:
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、本件特許出願前の出願であってその出願日後に公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲第1号証)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

無効理由2:
本件特許の請求項1、2、4に係る発明は、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

甲第1号証:特開平7-186259号公報(特願平3-106545号の願書に最初に添付した明細書又は図面)
甲第2号証:特開昭60-242038号公報
甲第3号証:特開昭56-115213号公報
甲第4号証:米国特許第4562098号明細書
甲第5号証:特開平1-148530号公報
甲第6号証:KENKYUSHA'S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY、1980年、(株)研究社発行、表紙、第514頁、奥付
甲第6号証は、甲第4号証の翻訳のための資料である。

さらに、請求人は、弁駁書において、上記無効理由1に関して以下の主張をしている。
a)甲第1号証には、本件発明1の「管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングし、」についての構成が記載されている。
b)訂正により追加された構成「(シャワリング済みの温水を管状ライニング材底部を流し、)循環して」は、周知技術にすぎず、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。


5.被請求人の主張

一方、被請求人は、参考資料を提出して、請求人の主張には理由がなく、本件無効審判の請求は成り立たず、審判費用は請求人の負担とすべき旨主張している。


6.甲各号証の記載事項

甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】 一端部に取付管の本管接続部の口径,形状に合わせた孔が設けられ硬化性樹脂を付着若しくは含浸したフェルトつばと、該つばの孔部に固定され、硬化性樹脂を含浸したフェルトチュ-ブと、該フェルトチュ-ブより長く形成され、フェルトチュ-ブを覆った耐熱フイルムチュ-ブとからなることを特徴とする取付管用内張り材。
【請求項2】 上記内張り材の内部に1又は複数の流体流出口を有する加圧流体供給ホ-スを挿入し、流体流出口を耐熱フイルムチュ-ブの後側に配置し、内張り材を断面積が小さくなるように形状を変え、該内張り材を、一端部がパッカ-表面に取り付けられ、パッカ-内を貫通した後端に空気供給口と加圧流体供給ホ-ス挿入口を有する反転ガイドパイプに挿入して、内張り材のつばをパッカ-の表面に装着し、上記パッカ-を取付管の本管接続部まで移動した後、パッカ-内部に加圧空気を供給してパッカ-を膨張させ、内張り材のつばを取付管の本管接続部に固定し、反転ガイドパイプの空気供給口から加圧空気を供給し、内張り材を取付管内に反転,挿入し、加圧流体供給ホ-スから加熱加圧流体を供給して、反転したフェルトチュ-ブとつばを加熱,硬化させることを特徴とする取付管用内張り材の施工方法。」(特許請求の範囲、【請求項1】、【請求項2】)
(1b)「【産業上の利用分野】この発明は、下水道の取付管の本管接続部における侵入水等を防止する取付管用内張り材及びその施工方法に関するものである。」(段落【0001】)
(1c)「陶管やヒュ-ム管等からなる本管に取付管を接合するとき、・・・孔をあけ、この孔に取付管の先端を差し込み、本管に対して45度または90度になるように取付管を布設していた。」(段落【0003】抜粋)
(1d)「内張り材7は、図2の斜視図に示すように、フェルトからなるつば8と、つば8に接合されたフェルトチュ-ブ9及びフェルトチュ-ブ9の外面を覆う耐熱フイルムチュ-ブ10とから形成されている。つば8とフェルトチュ-ブ9は熱硬化性樹脂を含浸した合成樹脂の織物や不織布からなり、つば8の中央には、施工する取付管の本管接続部の口径,形状に応じた大きさの楕円形の孔11があけられている。フェルトチュ-ブ9は取付管の内径に対して90?100%の外径を有し、取付管の内径に応じて長さが10?50cm程度と短く形成され、つば8に加熱により接着されている。耐熱フイルムチュ-ブ10はフェルトチュ-ブ9より長く形成されている。
この内張り材7の内部には加圧流体供給ホ-ス12を挿入する。加圧流体供給ホ-ス12は中間部に流体を放出する1又は複数の流体流出口を有する流体流出部13を有し、この流体流出部13が耐熱フイルムチュ-ブ10の後方に位置するように配置されている。そして、図3に示すように、フェルトチュ-ブ9と耐熱フイルムチュ-ブ10を成形ロ-ラ等で断面積が小さくなるように扁平にしたり、折り曲げてフェルトチュ-ブ9と耐熱フイルムチュ-ブ10で加圧流体供給ホ-ス12を固定する。」(段落【0017】、【0018】)
(1e)「加圧流体供給ホ-ス12の両端部を外部のボイラ等加熱加圧流体源に接続された加圧流体供給ホ-スに接続する。」(段落【0021】抜粋)
(1f)「その後、反転ガイドパイプ2に取り付けられた空気供給ホ-ス5から加圧空気を反転ガイドパイプ2内に送る。この加圧空気の圧力により内張り材7のフェルトチュ-ブ9と耐熱フイルムチュ-ブ10が取付管21内に反転挿入され、図7に示すようにつば8とフェルトチュ-ブ9が接続部22と取付管21の端部に密着する。このフェルトチュ-ブ9と耐熱フイルムチュ-ブ10の反転挿入により加圧流体供給ホ-ス12も取付管21内を進行し、加圧流体供給ホ-ス12の流体流出部13も接続部22の近傍に移動する。
この状態を保持しながら、加熱加圧流体源を稼働して加圧流体供給ホ-ス12に蒸気又は温水を送る。加圧流体供給ホ-ス12の送られた蒸気等の一部は流体流出部13から耐熱フイルムチュ-ブ10と反転ガイドパイプ2で形成する空間に噴射され、その他蒸気等は加圧流体供給ホ-ス12と加熱加圧流体源間で循環する。このように蒸気等を循環することによりつば8とフェルトチュ-ブ9を所定温度で加熱することができる。
そして、つば8とフェルトチュ-ブ9に含浸した熱硬化性樹脂が硬化するまで加熱温度を保つ。所定時間経過して熱硬化性樹脂が硬化したら、蒸気等の循環を停止し、反転ガイドパイプ2とパッカ-1に送っている加圧空気を止めて内部の加圧空気を抜く。この加圧空気を抜くことによりパッカ-1が収縮し、耐熱フイルムチュ-ブ10が硬化したフェルトチュ-ブ9から離れる。そこでパッカ-1を本管20から引き抜くことにより、接続部22と取付管21の端部とを硬化したつば8とフェルトチュ-ブ9で覆うことができる。」(段落【0024】?【0026】及び図7)

甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「本発明の方法としてもつとも広く実施されているものは、たとえばここに挙げる英国特許第1449455号に記述されているように、屈曲性の内張用管というのを、縫合したフエルトのような繊維質材料の単層または2層以上を硬化性樹脂で含浸してつくるのである。・・・この繊維質材料の片面には不透性(・・)のフイルムが接着される。内張管が最初につくられる時には、このフイルムはフエルト材の外側になつている。・・・
屈曲性の内張管がパイプラインまたは通路内に挿入されるときには、その管の一端が固定され、ついで管の残余の部分はこの固定端の所を経て管の内外が裏返えしにされ、管はパイプラインまたは通路内へ裏返えされつつ内張りされるべき表面の所まで送りこまれる。
裏返えしのための媒体は通常液体であつて、この裏返しの操作が終つたときにはその液体は裏返された管内に残留し、樹脂が硬化するその間中パイプラインまたは通路の表面の形状の通りになるように管を維持する。この目的のためには、硬化開始過程を生起させまたは促進するために通常この裏返された管内に加熱水が循環させられる。普通使用される樹脂の場合には硬化が始まればそれから後はそのまゝ硬化し終るまで自然にその状態が続く。
内張を行う別の方法では内張管は裏返えしが行われることなしにパイプラインまたは通路内へ送りこまれる。ついで通路の表面と同じ形状を内張管に持たせるために、加熱流体、これは水でも空気でもよい、を用いて管を脹らませる。この工法では内張管の構造は違つたものにならなければならない。そして内部にプラスチツクの不透性の膜があつて管の形状になつており、脹らせることができるようなものでなければならない。」(第2頁左上欄8?左下欄11行)

甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「1.内面に熱硬化性接着剤を塗付された柔軟な内張り材の一端を環状に固定し、該環状固定部分の後部に流体圧力を作用させると共に、該環状固定部分に形成される折返し部分において内張り材を内側が外側となるよう反転させつつ該折返し部分を管路内を進行させると共に反転した内張り材を前記流体圧力により前記接着剤を介して管路内面に圧着させ、内張り材の自由端にその全長全周に亘つて微細な漏出孔を多数有する前記内張り材よりも小径の柔軟なホースを接続し、前記内張り材をその全長に亘つて反転することにより該内張り材を管路の全長に亘つて圧着すると共に該内張り材内に前記ホースを挿通し、然る後に前記ホース内に加圧水蒸気を送入して該加圧水蒸気を前記漏出孔からホースと内張り材との間へ漏出せしめ、内張り材を介して前記接着剤を加温して硬化せしめることを特徴とする管路の内張り方法。
2.内張り材の内面に予め接着剤を塗付しておくことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の管路の内張り方法。」(特許請求の範囲第1、2項)
(3b)「本発明はガス管、水道管、電力線や通信線等の埋設管等の主として既設の地中埋設管路に対し、補修又は補強のために内張りを施す方法に関するものであつて」(第2頁左上欄9?12行)
(3c)「次に、第1図に基づいて本発明の工程を説明する。内張り材17はリール19から引き出され、スリツト13,14を通り、管路1と挟搾装置2との間に環状に固定される。・・・・
この状態で圧力流体送入口12及び15から圧縮空気等の圧力流体を送入する。これにより前記環状固定部分の後部に流体圧力が作用し、ここで、内張り材17が内側が外側となるよう反転して折返し部分26が形成される。・・・次いで管路1内に進入し、折返し部分26に到達してここで反転され、さらに前記流体圧力によつて接着剤を介して管路1の内面に圧着されるのである。この状態が第1図(a)に示されている。」(第3頁右上欄2?左下欄2行、第1図)

甲第4号証には、以下の記載がある。(請求人が提出した抄訳を参照)
(4a)「発明の分野
本発明は、金属表面における樹脂コーティングの形成に関するものである。より具体的には、本発明はこのようなコーティングを硬化する改良された手段に関するものである。」(第1欄10?29行)
(4b)「本発明は、自動積層コーティングを比較的低温において比較的短時間水またはスチームにさらして該コーティングを硬化することに関するものである。」(第1欄66?第2欄2行)
(4c)「樹脂状コーティングを硬化させると該コーティングを連続的なものにし、それにより該コーティングの耐食性および下にある金属表面に対する該コーティングの粘着性を改良する。代表的な硬化手段には、新たに被覆された部分への温水の噴霧、新たに被覆された部分の温水への浸漬および新たに積層されたコーティングのスチーム雰囲気への露出がある。本発明を利用すると、被覆された塊状物により熱を迅速に移動させることができ、その結果被覆された部分を空気中で加熱する場合よりも、コーティング特性を十分発揮させるために必要な温度に、より迅速に到達させることができる。」(第13欄31?42行)
(4d)「1.未硬化自動積層コーティングを硬化するプロセスであって、金属表面を自動積層組成物の水相に分散させられた固体樹脂を有する前記自動積層組成物と接触させて、前記表面上に該表面に粘着させられた固体樹脂の形をした未硬化自動積層コーティングを形成し、次いで、前記未硬化自動積層コーティングを前記コーティングを硬化させるのに十分な時間華氏約70°?華氏約212°の温度を有するスチームまたは水にさらすことからなるプロセス。
・・・
3.前記コーティングをスチームで処理することにより該コーティングが硬化される、請求項1に記載のプロセス。
4.前記コーティングを温水噴霧するか、またはそれを温水浴に浸漬することによって、前記コーティングから残渣をすすぎ、同時に前記コーティングを硬化することを含む、請求項1に記載のプロセス。」(特許請求の範囲第1、3、4項)

甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「本発明は、老朽管内周面にライニングを施すための管状ライニング材及びこれを用いた管路補修工法に関する。」(第2頁左上欄6?8行)
(5b)「その後、第4図に示すようにボイラー車17に設置されたボイラー18にて発生する温水をポンプ19によって温水ホース16から管状ライニング材1内に供給し、且つ管状ライニング材1内の水を吐出ホース20からボイラー18に戻す作業を繰り返すと、管状ライニング材1に含浸された熱硬化性樹脂が温水によって加温されて硬化し、老朽管3の内周面に剛性内張り管が形成される。」(第4頁左上欄5?12行、第4図)


7.当審の判断

7-1.無効理由1について(特許法第29条の2)

7-1-1.本件発明1について
摘示記載(1a)?(1f)によれば、甲第1号証、すなわち、特願平3-106545号の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「熱硬化性樹脂が含浸された、フェルトからなるつばと該つばに接合されたフェルトチューブ、及び該フェルトチューブの外面を覆う耐熱フィルムチューブから形成されている内張り材の内部に、複数の流体流出口を有する加圧流体供給ホ-スを挿入し、該流体流出口を耐熱フイルムチュ-ブの後側に配置して固定し、
一端部がパッカ-表面に取り付けられパッカ-内を貫通した後端に空気供給口と加圧流体供給ホ-ス挿入口を有する反転ガイドパイプに、上記内張り材を挿入して、該内張り材のつばをパッカ-の表面に装着し、上記パッカ-を取付管の本管接続部まで移動した後、パッカ-内部に加圧空気を供給してパッカ-を膨張させ、内張り材のつばを取付管の本管接続部に固定し、
上記反転ガイドパイプの空気供給口から加圧空気を供給し、上記内張り材を取付管内に反転、挿入し、
上記加圧流体供給ホースの両端部が接続された加熱加圧流体源より蒸気又は温水を該ホースに送り、蒸気等の一部が流体流出口から耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間に噴射され、かつ、その他の蒸気等は該ホースと加熱加圧流体源間で循環し、このように蒸気等を循環させて反転したフェルトチュ-ブとつばを加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする取付管用内張り材の施工方法。」(以下、「先願発明」という。)

本件発明1と先願発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。
相違点1)本件発明1においては、管状ライニング材に内側から「温水をシャワリング」して「熱硬化性樹脂を硬化させる」のに対し、先願発明においては、蒸気等の一部が加圧流体供給ホースの流体流出口から耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間に噴射され、その他の蒸気等は該ホースと加熱加圧流体源間で循環し、蒸気等の循環により樹脂を加熱、硬化させるのであり、「温水をシャワリング」して「熱硬化性樹脂を硬化させ」ているかどうか不明である点。
相違点2)本件発明1においては、シャワリング済みの温水を循環させるのに対し、先願発明においては、噴射された蒸気等を循環させる構成を有さない点。

まず、上記相違点1)が実質的な相違点か否かを検討する。
本件発明1における構成「温水をシャワリングし、・・・該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにした」によれば、温水のシャワリングより熱硬化性樹脂が硬化されると解され、この点は、発明の詳細な説明における記載、例えば、「本発明によれば、老巧管の内周面に押圧された管状ライニング材は、シャワリングされる温水によって一様に加温されてこれに含浸された熱硬化性樹脂が硬化されるため、シャワリングされる温水を加熱するに必要な熱エネルギーは、従来工法において水の全てを加熱するに要する熱エネルギーに比して小さくて済み、ボイラー、温水ポンプ等の加熱・循環設備画小型、コンパクト化され、大口経又は長大な老巧管であっても、これを短期間、且つ低コストで補修することができる。」(段落【0011】)からみても、裏付けられる。
一方、先願発明における熱硬化性樹脂の硬化は、「加圧流体供給ホースの両端部が接続された加熱加圧流体源より蒸気又は温水を該ホースに送り、蒸気等の一部が流体流出口から耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間に噴射され、かつ、その他の蒸気等は該ホースと加熱加圧流体源間で循環し、このように蒸気等を循環させて反転したフェルトチュ-ブとつばを加熱して」行うものであり、主として蒸気又は温水の循環により行われるものと解される。そして、「蒸気等の一部が流体流出口から・・・空間に噴射され」る点については、先願明細書等には、耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間内の圧力、加圧流体供給ホース内の圧力、温水の供給量、空間内の容積等の条件が何ら記載されておらず、温水のシャワリングにより熱硬化性樹脂が硬化されるかどうかは、やはり不明である。
したがって、先願発明においては、温水をシャワリングして熱硬化性樹脂を硬化しているとはいえず、上記相違点1)は実質的な相違点である。

さらに、上記相違点2)についても実質的な相違点か否かを検討する。
摘示記載(1a)?(1f)をみても、先願発明においては、流体流出口から耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間内に噴射された蒸気等を循環させていないことは明らかである。
請求人は、弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、管路補修工法において、「温水の循環使用」は、例えば甲第5号証に記載されているように周知技術であり、本件発明1は先願発明に該周知技術を付加したものにすぎず、本件発明1は先願発明と実質的に同一である旨主張しているので、この点について検討する。
摘示記載(5a)、(5b)によれば、甲第5号証には、管路補修工法において、ボイラーから温水ホースにより管状ライニング材内に供給された温水を、吐出ホースからボイラーに戻すという工程を繰り返すこと、すなわち温水を循環して使用することが記載されており、管状ライニング材に溜まった温水を循環使用することは周知技術であるものと一応認められる。
しかしながら、先願発明においては、耐熱フィルムチューブと反転ガイドパイプで形成する空間内に噴射されるのは蒸気等の一部であり、その他の蒸気等は加圧流体供給ホースと加熱加圧流体源間で循環するものである。すなわち蒸気等の大部分は加圧流体供給ホースと加熱加圧流体源間で循環しているのであり、蒸気等が仮に温水であったとしても、空間内に噴射された一部の該温水を循環させることについては、実質的に記載されていないし、想定もされていない。
そして、単に、温水を循環使用することが周知であるとしても、加圧流体供給ホースと加熱加圧流体源間での蒸気等の循環に加えて、空間内に噴射された一部の蒸気等をさらに循環させることは、周知技術ということもできないから、請求人の上記主張は採用できない。
また、請求人は、上申書(第11頁(III)、4))において、先願発明においても、温水が流体流出部に達した後は、シャワリング済みの温水が循環するものである旨主張している。しかしながら、先願発明においては、加圧流体供給ホースから送られた蒸気等のうち、空間に噴射された蒸気等が循環するものではなく、噴射された一部の蒸気等以外のその他蒸気等が加圧流体供給ホースと加熱加圧流体源間で循環するものであるから(摘示(1f))、先願発明における蒸気等の循環経路と本件発明1における温水の循環経路は異なるものである。さらに、先願発明において、仮に温水が流体流出部まで達したとしても、噴射され管状ライニング材底部を流れた温水が必ずしも循環するとはいえないから、請求人の上記主張は採用できない。
したがって、上記相違点2)は、実質的な相違点である。

以上のことから、本件発明1は、先願発明と同一であるということはできない。


7-1-2.本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件発明1を引用して記載し、技術的な限定を加えたものであり、本件発明1は、上記7-1-1.で検討したとおり、先願明細書に記載された発明と同一でない。
したがって、本件発明2、4は、同様に、先願発明と同一でない。


7-2.無効理由2について(特許法第29条第2項)

7-2-1.本件発明1について
摘示記載(2a)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されている。
「縫合したフエルトのような繊維質材料を硬化性樹脂で含浸してつくられた屈曲性の内張用管の外側に不透性のフィルムが接着されたものを、液体により裏返されつつパイプライン内に挿入・送りこまれ、裏返された上記管内に残留した上記液体により上記管はパイプライン表面の形状通りとなるよう維持され、上記管内に加熱水が循環されて樹脂が硬化されるパイプラインの内張方法。」(以下、「甲2発明」という。)

本件発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3)本件発明1においては、管状ライニング材に内側から「温水をシャワリング」して熱硬化性樹脂を硬化させるのに対し、甲2発明においては、管内に加熱水が循環されて樹脂が硬化される点

また、摘示記載(3a)?(3c)によれば、甲第3号証には、以下の発明が記載されている。
「内面に熱硬化性接着剤を塗付された柔軟な内張り材の一端を環状に固定し、該環状固定部分の後部に圧縮空気等の流体圧力を作用させると共に、該環状固定部分に形成される折返し部分において内張り材を内側が外側となるよう反転させつつ該折返し部分を管路内を進行させると共に反転した内張り材を前記流体圧力により前記接着剤を介して管路内面に圧着させ、内張り材の自由端にその全長全周に亘つて微細な漏出孔を多数有する前記内張り材よりも小径の柔軟なホースを接続し、前記内張り材をその全長に亘つて反転することにより該内張り材を管路の全長に亘つて圧着すると共に該内張り材内に前記ホースを挿通し、然る後に前記ホース内に加圧水蒸気を送入して該加圧水蒸気を前記漏出孔からホースと内張り材との間へ漏出せしめ、内張り材を介して前記接着剤を加温して硬化せしめることを特徴とする管路の内張り方法。」(以下、「甲3発明」という。)

本件発明1と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点4)本件発明1においては、管状ライニング材に内側から「温水をシャワリング」して熱硬化性樹脂を硬化させるのに対し、甲3発明においては、加圧水蒸気をホースの漏出孔からホースと内張り材との間へ漏出させて熱硬化性接着剤を加温、硬化させる点

上記相違点3)、4)について、検討する。

甲第4号証( 摘示記載(4a)?(4d))には、金属表面における樹脂コーティングの形成に関して、コーティングを温水噴霧するか、またはそれを温水浴に浸漬することによって、前記コーティングを硬化することが、一応記載されている。
しかしながら、甲第4号証には、温水噴霧による樹脂コーティングの硬化を管路補修工法に適用することも、管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂に適用することも、何ら記載されておらず、示唆もされていない。
したがって、甲第4号証の記載から、甲2発明または甲3発明における樹脂硬化手段に代えて、温水のシャワリングを採用することは、当業者であっても容易に想到することとはいえない。
さらに、甲第5号証の記載をみても、温水のシャワリングについて何ら記載されていない。
そして、本件発明1は、上記相違点3)、4)により、本件発明の作用、効果「本発明によれば、老巧管の内周面に押圧された管状ライニング材は、シャワリングされる温水によって一様に加温されてこれに含浸された熱硬化性樹脂が硬化されるため、シャワリングされる温水を加熱するに必要な熱エネルギーは、従来工法において水の全てを加熱するに要する熱エネルギーに比して小さくて済み、ボイラー、温水ポンプ等の加熱・循環設備画小型、コンパクト化され、大口経又は長大な老巧管であっても、これを短期間、且つ低コストで補修することができる。」(段落【0011】、)及び「本発明では管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を加熱する熱媒として温水を用いるため、熱硬化性樹脂が硬化時に発生する熱は温水の加熱及び蒸発に費やされ、温水は約100℃以上の高温には加熱されない。従って、管状ライニング材の高温加熱に伴う残留応力によるクラックや割れの発生が押えられる。」(段落【0013】)を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない

7-2-2.本件発明2、4について
本件発明2、4は、本件発明1を引用して記載し、技術的な限定を加えたものであり、本件発明1は、上記7-2-1.で検討したとおり、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2、4も、同様に、甲第2号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


8.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1、2、4に係る発明の特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
管路補修工法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】熱硬化性樹脂を含浸し、且つ内面が気密性の高いフィルムで被覆された管状ライニング材を空気圧によって老朽管内で膨張させて老朽管内周面に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングし、シャワリング済みの温水を管状ライニング材底部を流し、循環して該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにしたことを特徴とする管路補修工法。
【請求項2】前記管状ライニング材は、老朽管内に挿入される前に熱硬化性樹脂を含浸していることを特徴とする請求項1記載の管路補修工法。
【請求項3】前記管状ライニング材を老朽管内に挿入した後、該管状ライニング材に熱硬化性樹脂を含浸せしめることを特徴とする請求項1記載の管路補修工法。
【請求項4】前記温水は、老朽管と加熱装置間を循環することを特徴とする請求項1記載の管路補修工法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、老朽管の内周面にライニングを施して該老朽管を補修する管路補修工法に関する。
【0002】
【従来の技術】地中に埋没された下水道管等の管路が老朽化した場合、該管路を掘出することなく、その内周面にライニングを施して当該老朽管を補修する管路補修工法が既に提案され、実用に供されている(例えば、特開昭60-242038号公報参照)。即ち、この管路補修工法は、例えば熱硬化性樹脂を含浸した可撓性の管状ライニング材を水圧によって老朽管内に反転させながら挿入するとともに、これを老朽管内周面に押圧し、その後管状ライニング材内に充満する水を蒸気等によって加熱して温水とし、この温水の熱で管状ライニングに含浸された熱硬化性樹脂を硬化させることによって、老朽管の内周に剛性内張り管を形成してライニングを施す工法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の工法においては、老朽管内に反転挿入された管状ライニング材に充満する水の全てを加熱して温水とする必要があるため、特に老朽管の口径が大きい場合、或いは長さが長い場合には、多量の水を加熱する必要があり、ボイラー、温水ポンプ等の加熱・循環設備が大型化、コストアップする他、施工時間が長びくという問題があった。
【0004】又、急勾配の管路においては、上下の部分で水圧差が大きくなり、バースト等の施工上の問題が生じ、或いは管状ライニング材の管路内周面への押圧力に差が生じて剛性内張り管の肉厚が変化するという問題もあった。
【0005】そこで、熱エネルギーを節減するために、空気圧によって管状ライニング材を老巧管の内壁に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材を蒸気或いは温風で加熱して該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させる方法が提案されている。
【0006】しかしながら、管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂又は高反応エキポシ樹脂の場合には、該樹脂が硬化時に発熱し、特に管状ライニング材の厚さが厚い場合には発熱温度が高くなる。そして、熱硬化性樹脂が発生する熱は蒸気或いは温風の加熱に費やされるため、管状ライニング材が高温に加熱され、この結果、管状ライニング材の残留応力が大きくなり、該管状ライニング材にクラックや割れが発生するという問題があった。
【0007】又、特に高反応性の不飽和ポリエステル樹脂を含浸した厚さ9mm以上の管状ライニング材等にあっては、不飽和ポリエステル樹脂の硬化発熱温度が140℃を超えるために管状ライニング材内部のスチレンが沸騰してスチレンガスを発生し、このスチレンガスによって管状ライニング材内部に気泡が残留し、このために管状ライニング材の強度が低下するという問題も発生する。
【0008】これに対して、熱硬化性樹脂を加熱する熱媒として温水を用いる場合には、熱硬化性樹脂が発生する熱は温水の加熱及び蒸発に費やされ、温水の温度は最大でも約100℃に保たれるため、管状ライニング材は約100℃以上の高温に加熱されることはなく、前記問題は発生しない。但し、この場合でも従来のように管状ライニング材内を温水で満たす方法では、温水の対流作用よりも大きな撹拌作用が必要となり、温水を強制的に撹拌しない場合には長時間の加熱が必要となる。
【0009】
【実施例】以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0010】図1は本発明工法を説明するための断面図、図2は図1のA-A線拡大断面図であり、図中、1は地中に埋設された下水道管等の老朽管であって、該老朽管1の内部には、熱硬化性樹脂を含浸し、且つその内面が気密性の高いフィルムで被覆された可撓性の管状ライニング材2が引き込まれる。尚、この管状ライニング材2は不織布を管状に縫製した可撓性の樹脂吸収材に熱硬化性樹脂を予め(即ち、老朽管1内に引き込む前に)含浸させて構成されているが、該管状ライニング材2を老朽管1内に引き込んだ後、この管状ライニング材2(正確には、樹脂吸収材)に熱硬化性樹脂を含浸させるようにしても良い。
【0011】
【作用】本発明によれば、老巧管の内周面に押圧された管状ライニング材は、シャワリングされる温水によって一様に加温されてこれに含浸された熱硬化性樹脂が硬化されるため、シャワリングされる温水を加熱するに必要な熱エネルギーは、従来工法において水の全てを加熱するに要する熱エネルギーに比して小さくて済み、ボイラー、温水ポンプ等の加熱・循環設備画小型、コンパクト化され、大口経又は長大な老巧管であっても、これを短期間、且つ低コストで補修することができる。
【0012】ところで、圧力容器5にはエアコンプレッサー6がパイプ7によって接続されており、パイプ7の途中には圧力計8及びバルブ9が介設されている。又、圧力容器5内には、地上に設置されたボイラー10から延出する温水ホース11が引き込まれており、該温水ホース11は管状ライニング材2の中を通って該管状ライニング材2の先端部(図1中、右端部)に接続されている。尚、温水ホース11の管状ライニング材2内に臨む部位には、温水を噴出すべき複数の噴出口(図示せず)が適当な間隔で形成されている。又、温水ホース11の途中には温度計12とバルブ13が設けられている。
【0013】更に、本発明では管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を加熱する熱媒として温水を用いるため、熱硬化性樹脂が硬化時に発生する熱は温水の加熱及び蒸発に費やされ、温水は約100℃以上の高温には加熱されない。従って、管状ライニング材の高温加熱に伴う残留応力によるクラックや割れの発生が押えられる。
【0014】又、本発明では温水のシャワリングによって熱硬化性樹脂が加熱されるため、シャワリングによる温水の強制撹拌作用及び熱気の上昇、或いはシャワリング済みの温水の管状ライニング材底部の流れによって、効率の良い加熱状態が得られる。
【0015】次に、上記状態を保ったまま、前記ボイラー10及び温水ポンプ16を駆動すると、ボイラー10によって所定の温度に加熱された温水が温水ホース11を矢印方向に流れ、温水ホース11に形成された前記噴出口から噴出する。すると、管ライニング材2は内側から温水のシャワリングを受け、これに含浸された熱硬化性樹脂が温水の熱によって加温されて硬化し、老朽管1の内周は、図2に示すように硬化した管状ライニング材2(剛性内張り管)によってライニングされて補修される。
【0016】尚、シャワリングによって管状ライニング材2を加温した温水は、落下して図1に示すように圧力容器5と管状ライニング材2の底部に溜り、この溜った温度の低い温水は、温水ポンプ16によって温水ホース15を経てボイラー10に送られ、ここで再度所定温度に加熱されて管状ライニング材2に供給され、管状ライニング材2に含浸された熱硬化性樹脂の硬化に供される。このように、温水は1つの閉じた系内を循環せしめられる。
【0017】以上のように、本実施例によれば、老朽管1の内周面に押圧された管状ライニング材2は、これの内側からシャワリングされる温水によって一様に加温されてこれに含浸された熱硬化性樹脂が硬化されるため、シャワリングされる温水を加熱するに必要な熱エネルギーは、従来工法において水の全てを加熱するに要する熱エネルギーに比して小さくて住み、ボイラー10、温水ポンプ16等の加熱・循環設備が小型、コンパクト化され、大口径又は長大な老朽管1であっても、これを短期間、且つ低コストで補修することができる。
【0018】又、管状ライニング材2は空気圧によって老朽管1の内周面に押圧されるため、老朽管1の勾配が急であっても、該老朽管1の内周面に管状ライニング材2を均等な力で押圧することができ、老朽管1の内周に形成される剛性内張り管の肉厚を均等に保つことができる。
【0019】
【発明の効果】以上の説明で明らかな如く、本発明によれば、熱硬化性樹脂を含浸し、且つ内面が気密性の高いフィルムで被覆された管状ライニング材を空気圧によって老朽管内で膨張させて老朽管内内周面に押圧し、この状態を保ったまま、管状ライニング材にこれの内側から温水をシャワリングして該管状ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させるようにしたため、大口径又は長大な老朽管、或いは急勾配の老朽管に対しても、小型・コンパクトな設備で短期間に補修を行なうことができ、省エネルギー、施工コストの低減等を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明工法を説明するための断面図である。
【図2】図1のA-A線拡大断面図である。
【符号の説明】
1 老朽管
2 管状ライニング材
5 圧力容器
6 エアコンプレッサー
10 ボイラー
11 温水ホース
15 温水ホース
16 温水ポンプ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-03-23 
結審通知日 2006-03-28 
審決日 2006-04-11 
出願番号 特願平3-137100
審決分類 P 1 123・ 161- YA (B29C)
P 1 123・ 121- YA (B29C)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 野村 康秀
芦原 ゆりか
登録日 1996-03-13 
登録番号 特許第2501048号(P2501048)
発明の名称 管路補修工法  
代理人 松田 政行  
代理人 中川 邦雄  
代理人 後藤 正彦  
代理人 中川 邦雄  
代理人 林 宏  
代理人 池村 聡  
代理人 林 直生樹  
代理人 齋藤 浩貴  
代理人 中川 邦雄  

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