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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない B24B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない B24B
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正しない B24B
管理番号 1163057
審判番号 訂正2005-39196  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-10-27 
確定日 2007-09-10 
事件の表示 特許第3431599号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3431599号に係る発明についての出願は、平成11年5月7日(優先日:平成10年6月3日、優先権主張国:米国)の出願であって、平成15年5月23日にその発明について特許権の設定の登録がなされたところ、その特許について特許異議申立人・金子しの及び波津久寛史より特許異議の申立てがなされ、取り消しの理由が通知され、平成17年2月28日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、平成17年6月7日(発送日)にその訂正を認め請求項1、4?25に係る発明についての特許を取り消し、請求項2、3に係る発明についての特許を維持する決定がされた。その後、平成17年10月6日に知的財産高等裁判所に出訴(平成17年(行ケ)第10721号)され、平成17年10月27日に本件訂正審判の請求がなされ、平成17年12月6日に訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成18年1月30日に意見書の提出がなされたものである。

2.訂正の内容
特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当審で付したものである。

特許第3431599号(平成11年5月7日特許出願、平成15年5月23日設定登録)の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載される、
「【請求項1】 化学的機械的研磨のためのキャリア・ヘッドの止め輪であって、
研磨の間にポリシング・パッドと接触し、第一の材料で作られている、底部表面を有する下部の部分と、
前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている、上部の部分と、を有する、
ボルトによってキャリア・ヘッドのベースの外縁に固定されるようになっている全体として環状の止め輪。」を、
「【請求項1】 化学的機械的研磨のために、ハウジング、ベース、ローディングチャンバを有するキャリア・ヘッドにおいて、前記ハウジングと前記ベースの間に前記ローディングチャンバが配置され、ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される、前記キャリア・ヘッドの止め輪であって、
第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と、
前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている、上部の部分と、を有し、
前記上部の部分は、ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっており且つ前記下部の部分は、被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する、全体として環状の止め輪。」
と訂正する。

3.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の適否
上記訂正内容のうち、
「化学的機械的研磨のためのキャリア・ヘッドの止め輪であって、」を、「化学的機械的研磨のために、ハウジング、ベース、ローディングチャンバを有するキャリア・ヘッドにおいて、前記ハウジングと前記ベースの間に前記ローディングチャンバが配置され、ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される、前記キャリア・ヘッドの止め輪であって、」と訂正しようとすること(以下、「訂正事項a」という。)は、キャリア・ヘッドを、「ハウジング、ベース、ローディングチャンバを有」し、「前記ハウジングと前記ベースの間に前記ローディングチャンバが配置され、ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
「研磨の間にポリシング・パッドと接触し、第一の材料で作られている、底部表面を有する下部の部分と、」を、「第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と、」と訂正しようとすること(以下、「訂正事項b」という。)は、ポリシング・パッドと底部表面との関連構成を明らかにしようとしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。

「ボルトによってキャリア・ヘッドのベースの外縁に固定されるようになっている」を、「前記上部の部分は、ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっており 」と訂正しようとすること(以下、「訂正事項c」という。)は、止め輪がボルトによって固定される部分を、止め輪の「上部の部分」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。

「且つ前記下部の部分は、被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する、」という事項を追加すること(以下、「訂正事項d」という。)は、「下部の部分」が、「被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する」ものと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。

したがって、上記訂正事項a?dは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号の規定に適合すると認められる。

そして、上記訂正事項a?dは、ともに実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないので、特許法第126条第4項の規定に適合すると認められる。

4.新規事項追加の有無
訂正事項aは、本件特許明細書の段落【0021】、【0022】、【0028】及び図2の記載に基づいて、訂正事項bは、本件特許明細書の段落【0034】及び図3の記載に基づいて、訂正事項cは、本件特許明細書の段落【0033】、【0040】及び図2の記載に基づいて、それぞれなされたものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加に該当しない。
しかしながら、訂正事項dのうち、化学的機械的研磨の対象物を「被研磨物」とすることについて検討するに、本件特許明細書には「被研磨物」という語は記載されておらず、化学的機械的研磨の対象物としての「基板」又は「ウェーハ」が記載されているのみである。また、化学的機械的研磨の対象物として「被研磨物」が「基板」及び「ウェーハ」以外のものを表さないことが自明であるとも認められない。そして、「被研磨物」には、「基板」及び「ウェーハ」以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得ると解される。そうすると、化学的機械的研磨の対象物を「被研磨物」とすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。したがって、訂正事項dを含む本件訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合しない。

なお、請求人は、平成18年1月30日付け意見書の第6頁第6行?第18行において、「ところで、「基板」のほかに化学的機械的研磨の対象物として、例えば「ウエハ」がある。そして、「ウエハ」は本件特許明細書に明示的に記載されているものではないが、それが化学的機械的研磨の対象物であることは、当業者にとって本件特許明細書に記載されていると同然のものであると理解することは極めて明白であり、従ってそれは(1)「当初明細書等の記載から自明な事項」に該当するものである。そして、「基板」といおうが、「ウエハ」といおうが、はたまたその他の用語を使用するかに拘わらずに、本件発明における処理対象物とは化学的機械的研磨の対象物であって、それは少なくとも研磨されるべき物であることを必要十分条件とするものである。そして、研磨されるべき物とは取りも直さず「被研磨物」であり、それは、(1)「当初明細書等に明示的に記載された事項」(例えば、「基板」)と(2)「当初明細書等の記載から自明な事項」(例えば、「ウエハ」)の両方を包含する「当初明細書等に記載した事項」であることは明らかである。」と主張している。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0002】には、「集積回路は、導電層、半導電層あるいは絶縁層の連続的な堆積により基板、特にシリコンウェーハ、の上に通常形成される。」と記載されており、また同段落【0005】には、「端部効果は、基板外辺部、たとえば、200ミリ・ウェーハの最外部の5から10ミリメートルにおいて、オーバーポリシング(基板からの材料の除去が多すぎる)を通常もたらす。」と記載されていることから、化学的機械的研磨の対象物としての「ウェーハ」は、本件特許明細書に明示的に記載されているものであって、化学的機械的研磨の対象物としての「基板」以外のものではなく、「基板」の一種又は一例として記載されているとするのが妥当である。してみれば、本件特許明細書において、化学的機械的研磨の対象物としては実質的に「基板」が記載されているのみである。さらに、化学的機械的研磨の対象物として、請求人が主張するように、「少なくとも研磨されるべき物であることを必要十分条件とするものである」「その他の用語」を使用すれば、「基板」以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得る可能性があることは明らかであり、必ずしも本件特許明細書に記載した事項の範囲内におけるものということはできない。したがって、「被研磨物」という語には、「基板」以外の化学的機械的研磨の対象物を含み得ると解するのが相当である。

5.独立特許要件
上述したとおり、本件訂正は、新規事項を追加するものであり、特許法第126条第3項の規定に適合しないが、独立特許要件についても検討を行う。
本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正事項を含むものであるので、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

(1)訂正発明
訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には以下の発明(以下、「訂正発明1」という。)が記載されている。
「【請求項1】 化学的機械的研磨のために、ハウジング、ベース、ローディングチャンバを有するキャリア・ヘッドにおいて、前記ハウジングと前記ベースの間に前記ローディングチャンバが配置され、ポリシング・パッドに対する前記ベースの垂直位置を制御する前記ローディングチャンバ内の圧力はポンプにより制御される、前記キャリア・ヘッドの止め輪であって、
第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と、
前記第一の材料より剛性である第二の材料で作られている、上部の部分と、を有し、
前記上部の部分は、ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっており且つ前記下部の部分は、被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する、全体として環状の止め輪。」

(2)刊行物記載の発明(事項)
(a)刊行物1
本願の優先権主張の日前に外国で頒布された刊行物である国際公開96/36459号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、刊行物1とパテントファミリーの関係にある特表平11-505181号公報(以下、「刊行物1’」という。)を翻訳文として使用する。

(イ)明細書第1頁第7行?第11行(刊行物1’第10頁第5行?第8行を参照)
「本発明は、集積回路などのチップがそこから作られるタイプの半導体ウエハの研磨に関する。詳細には、化学的、機械的処理(CMP)において、半導体ウエハを、ツーリングヘッドで固定し、制御された化学的に活性な環境の下で研磨材料と接触させることによって研磨する。」
(ロ)明細書第5頁第1行?第5行(刊行物1’第13頁第25行?第28行) 「例えば、入手可能な多くのCMP機器において、ウエハの端部付近において材料の除去率が高いことがわかっている。(研磨媒体に対してウエハを固定する)プラテンの形状、およびプラテンと(ウエハをプラテンの中心に保つ)保定リングとの関係は、最終的なウエハの平坦性に決定的に重大である。」
(ハ)明細書第6頁第23行?第26行(刊行物1’第15頁第15行?第18行)
「ウエハは、円形プラテンおよびプラテンの外端部の周りに周縁的に方向付けられた保定リングを備えるツーリングヘッドによって研磨パッドと接触して配置場所に固定される。ウエハの面と研磨面との係合によって生じるウエハへの横方向の力に抵抗するために、保定リングが取り付けられて配置される。」
(ニ)明細書第10頁第6行?第12行(刊行物1’第18頁第22行?第28行)
「本発明の好ましい実施態様によれば、ウエハと研磨パッドとの間の力は、(図9に図示される)ツーリングヘッド202に位置する圧縮バネによって制御される。ツーリングヘッドは、コンピュータによる制御下で、Z方向に移動可能であるため、使用者は、スラリー(slurry)または切除流体の分布および切除効率を改善するために、ウエハと研磨パッドとの間にかけられる力を自由にプログラムすることができる。例えば、研磨の間にかけられる力を変化させることによって研磨結果を改善する場合もあり得る。」
(ホ)明細書第15頁第8行?第25行(刊行物1’第24頁第9行?第26行)
「図9は、本発明の1つの実施態様によるツーリングヘッド202の横断面図である。図示されるように、ポスト204は、ショルダ260に接続されて、Z方向への動作および力を提供する。ショルダ260は中実の円筒部材であり、中心に、ガイドボール264とかみ合う円筒形のガイドボールソケット262を有する。ガイドボール264は、ボルトなどによってプラテン266にしっかりと留められている。図示するように、ウエハ200は、プラテン266の下面と接触している。保定リップ273は、プラテン266の下面で突出しており、ウエハの端部と接触することによってウエハをプラテンの中心に保っている。ガイドボール264およびガイドボールソケット262は、プラテン266およびショルダ260のXおよびY方向への正確な位置づけを提供する。好ましくは、ガイドボール264は、ガイドボールソケット262にきっちりと固定され、XおよびY方向への移動は約0.0002インチを下回る。
ショルダ260はまた、その中に、ショルダ260とプラテン266との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ(notch)268を備える。好ましい実施態様において、バネ270は、円形のベルビル(Bellville)バネを積み重ねたものを含む。バネ270は、プラテン266をウエハおよびテーブルに対して偏らせ、Z方向への力、従ってウエハの圧力が変化し得ることを確実にする。従って、ショルダ260およびポスト204の位置をZ方向に変化させることによって、ウエハ200と研磨パッドとの間の圧力が正確に制御され得る。」
(ヘ)明細書第16頁第7行?第18頁第11行(刊行物1’第25頁第11行?第26頁第18行を参照)
「図10は、本発明の他の実施態様によるツーリングヘッドの断面図である。ウエハ200がツーリングヘッド202によって固定されて示されている。ウエハ200の裏面は、可撓性プラテン277とウエハ200との間でバネとして機能し、Z方向への力で圧縮可能な、好ましくは弾性材料を含む弾性パッド298と接触している。可撓性プラテン277は、厚い壁部276および薄い面部279を含む。プラテン277は、好ましくは、鉄のような金属材料からなる。プラテン277の壁部は、上部プレート274に取り付けられ、プラテン277の壁部および面部、ならびに上部プレート274によってキャビティ278が規定されている。ダイアフラムとして機能するプラテン277の面部に正または負の圧力をかけるために、キャビティ278は気体または液体を充填され得る。キャビティ278から気体または液体を供給および排出するために、ポート280が設けられる。好ましい実施態様によれば、キャビティ278内の圧力がプログラム可能かつ正確に制御され得るように、コンピュータによって制御される電気圧力レギュレータ281が設けられる。キャビティ278内の流体または気体の量を制御することによって、プラテン277の面を、凹凸形状にたわますことができ、研磨の間ウエハ200の形状を有利に変化させ得る。
図11は、ウエハの端部付近の領域を示す、図10を参照しながら説明した実施態様によるツーリングヘッドの部分断面図である。図示されるように、ウエハ200は、ウエハ200の円周を囲む、磨耗リング291を備える保定リング282によって位置に固定されている。保定リング282およびプラスチック磨耗リング291は、曲線の反った外端部を有し、これにより、研磨の間、研磨パッドの平坦化が補助され、ウエハからのより均一な材料の除去をもたらす。好ましくは、磨耗リング291は、研磨パッドによる研磨に耐える高い耐研磨性、および歪みに耐える良好な寸法安定性の両方を備えたプラスチック材料を含む。保定リング282は、保定リング可撓性部材284によって、可動性を有するように上部プレート274に取り付けられる。保定リング可撓性部284は、平坦な円形鉄バンドからなり、上部プレート274に留められるクランプリング275(図10に図示)によって上部プレート274に留められる。可撓性部材284は、保定リング282が、ウエハ200の面と実質的に直交する垂直方向に移動することを可能にする。保定リング282の正確な垂直位置は、ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される。センサ290は、上部プレート274に対する保定リング282の垂直の高さを測定し、好ましくは、コンピュータコントローラに情報を伝達する。コンピュータもまた、操作の間、保定リング282の垂直位置をセットするサーボ操作されるネジ288を制御する。
保定リング282の垂直位置が調節可能である一方で、ネジ288および可撓性部材284は、リングを配置位置に固く固定する・・・」

そうすると、上記の摘記事項(イ)?(ヘ)及び図9?図11からみて、刊行物1には、
「化学的機械的研磨のために、ショルダ260、上部プレート274、断面視でショルダと上部プレートと可撓性リング272とで囲まれる空間を有するツーリングヘッド202において、前記ショルダと前記上部プレートの間に前記空間が配置され、ショルダ260は、ショルダ260とプラテン266との間で機能する圧縮バネ270が固定される円形のノッチ268を備え、ウエハ200と研磨パッド206との間の力は圧縮バネ270によって制御される、前記ツーリングヘッド202の、摩耗リング291を備える保定リング282であって、
プラスチック材料を含み且つ研磨の間に研磨パッド206と接触する底部表面を有する摩耗リング291と、
前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分と、を有し、前記保定リング282のうち摩耗リング291より上部の部分は、保定リング可撓性部材284によって、可動性を有するように上部プレート274に取り付けられ、前記保定リング282の正確な垂直位置は、ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される保定リング282。」
との発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。

(b)刊行物2
本願の優先権主張の日前に外国で頒布された刊行物である国際公開97/20660号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、刊行物2とパテントファミリーの関係にある特表平2002-514976号公報(以下、「刊行物2’」という。)を翻訳文として使用する。

(イ)明細書第1頁第4行?第9行(刊行物2’第8頁第3行?第5行を参照)
「発明の分野
本発明は化学機械的研磨の分野に関する。より詳細には、本発明は集積回路製造で使用される基板の化学機械的研磨の装置と方法に関する。」
(ロ)明細書第16頁第17行?第17頁第3行(刊行物2’第18頁第2行?第14行を参照)
「 図1?図6の構成には保持(エッジ-表面の調節)リング52が含まれる。保持リング52は基板50を取り囲み、基板が研磨ヘッド30の下から滑り出すのを防止する。保持リング52と基板は可動ベルト60に対して一緒に保持(または他の構成では圧迫)される。保持リンク52の厚さは、一般に研磨される基板50と裏当てパッド(例えば図2?図4の図番46)を一緒にした厚さに等しい。保持リング52は主研磨ヘッド部材40の底部に取り付けられるので、研磨ヘッド50に加わる圧力は基板50と保持リング52の両方に均一に分散される。‥‥‥基板保持リング52は、ねじまたは一般に機械的な保持機構によって保持組立体裏当て板に取り付けられる。このリング52は過度に摩耗した場合取り外し及び交換できる。」

これら(イ)?(ロ)の摘記事項、及び図1?3から、刊行物2には、
「基板の化学機械的研磨装置において、可動ベルト60と接触する底部表面を有する保持リング52が、主研磨ヘッド部材40の外縁にねじによって固定されている」
との事項が記載されているものと認められる。

(3)対比
訂正発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「ショルダ260」は前者の「ハウジング」に、以下同様に「上部プレート274」は「ベース」に、「ツーリングヘッド202」は「キャリア・ヘッド」に、「研磨パッド206」は「ポリシング・パッド」に、「ウエハ」は「被研磨物」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「断面視ショルダと上部プレートと可撓性リング272とで囲まれる空間」と前者の「ローディングチャンバ」とは、ハウジングとベースの間に配置される空間という限りで一致する。
また、訂正明細書の段落【0006】の「基板マウンティング面および研磨の間にマウンティング面の下に基板を維持するための止め輪」との記載、及び、段落【0033】の「止め輪110の内部表面188は、可撓膜118のマウンティング面120と連係して、基板収容陥凹部192を定める。止め輪110は、基板が基板収容陥凹部から逃れるのを防止する。」との記載からみて、訂正発明1における「止め輪」の技術的意義は、研磨の間に基板をマウンティング面の下に維持することにあり、一方、刊行物1記載の発明の「保定リング282」も、上記摘記事項(ロ)の「(ウエハをプラテンの中心に保つ)保定リング」との記載、上記摘記事項(ハ)の「ウエハの面と研磨面との係合によって生じるウエハへの横方向の力に抵抗するために、保定リングが取り付けられて配置される。」との記載、上記摘記事項(ホ)の「保定リップ273は、プラテン266の下面で突出しており、ウエハの端部と接触することによってウエハをプラテンの中心に保っている。」との記載と図9、及び、上記摘記事項(ヘ)の「図示されるように、ウエハ200は、ウエハ200の円周を囲む、磨耗リング291を備える保定リング282によって位置に固定されている。」と図10からみて、訂正発明1の「止め輪」と同等の機能を有していることが明らかであり、「リング」は「輪」または「環」とも表現できるものであるから、「保定リング282」は「環状の止め輪」と表現できるものである。
さらに、「保定リング」が「ウエハへの横方向の力に抵抗する」こと、「保定リップ273」が「ウエハの端部と接触する」こと、及び図10、11からみて、「保定リング282」に備えられた「摩耗リング291」はウエハの周縁部と接触するものであって、「摩耗リング291」の側面と弾性パッド298の下面とによりウエハがその内部に存在する凹部を画定していると解するのが妥当であるから、「摩耗リング291」は、ウエハの周縁部と接触してウエハをツーリングヘッドの底部に画定されているウエハ収容陥凹部に維持するものであり、「被研磨物の周縁部と接触して前記被研磨物を前記キャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する」「下部の部分」に相当するものである。
してみれば、「保定リング282」のうち摩耗リング291より上部の部分は「上部の部分」に、「プラスチック」は「第一の材料」ということができる。

そうすると、両者は、
「化学的機械的研磨のために、ハウジング、ベース、ハウジングとベースの間に配置される空間を有するキャリア・ヘッドにおいて、前記ハウジングと前記ベースの間に前記空間が配置される、前記キャリア・ヘッドの止め輪であって、第一の材料で作られており且つ研磨の間にポリシング・パッドと接触する底部表面を有する下部の部分と、上部の部分と、を有し、下部の部分は、被研磨物の周縁部と接触して被研磨物をキャリア・ヘッドの底部に画定されている被研磨物収容陥凹部に維持する、全体として環状の止め輪」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>前者は、ハウジングとベースの間に配置される空間がローディングチャンバであって、ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御するローディングチャンバ内の圧力がポンプにより制御されるのに対して、後者は、ハウジングとベースとの間で機能する圧縮バネ270により、被研磨物と研磨パッド206との間の力が制御される点。

<相違点2>前者は、上部の部分が「第一の材料より剛性である第二の材料で作られている」のに対して、後者は、上部の部分の材料を特定していない点。

<相違点3>前者は、止め輪の「上部の部分は、ボルトによってキャリア・ヘッドの前記ベースの外縁に固定されるようになっている」のに対して、後者は、止め輪の上部の部分は、ベースである上部プレート274に固定されるのではなく、「保定リング可撓性部材284によって、可動性を有するようにベースである上部プレート274に取り付けられ、その正確な垂直位置は、ツーリングヘッドの周縁に沿って間隔を開けられたいくつかのサーボ操作されるネジ288およびセンサ290によって制御される」点。

(4)判断
前記各相違点について検討する。

<相違点1について>
訂正発明1において、相違点1に係る構成、すなわち、「ハウジングとベースの間に配置される空間がローディングチャンバであって、該ローディングチャンバ内の圧力がポンプにより制御される」ことの技術的意義は、訂正明細書の段落【0022】に、「ローディング・チャンバ108は、負荷すなわち下方への圧力をベース104に加えるように、ハウジング102とベース104の間に配置されている。」と記載され、段落【0028】に、「第二のポンプ(図示せず)は、ローディングチャンバ内の圧力とベース104に印加される負荷を制御するために、ローディング・チャンバ108に流体的に接続されることができる。」と記載され、また段落【0033】に「流体がローディング・チャンバ108に送り込まれ、ベース104が下向きに押されると、‥‥‥」と記載されていることから、ベースに印加される負荷すなわち下方への圧力を制御することであると認められる。
一方、刊行物1記載の発明における「ハウジングとベースとの間で機能する圧縮バネ270」は、被研磨物と研磨パッド206との間の力が制御されるためのものであり、上記摘記事項(ホ)の「ショルダ260およびポスト204の位置をZ方向に変化させることによって、ウエハ200と研磨パッドとの間の圧力が正確に制御され得る。」との記載と図9又は図10から、Z方向におけるハウジングの位置変化によってベースに下方への力を印加して、それにより被研磨物と研磨パッド206との間に力を作用させるものであると認められる。
そうすると、相違点1に係る、訂正発明1の上記構成及び刊行物1記載の発明の上記構成とは、ベースに印加される下方への圧力を制御する点で同等のものということができる。
ところで、ウェーハの研磨装置において、ローディングチャンバを設け、該ローディングチャンバ内の圧力を流体の量で制御して、当該ローディングチャンバ下方への圧力を制御することは、従来周知の事項(例えば、特開平9-29618号公報の段落【0012】、段落【0017】?【0019】及び図1、特開平6-126615号公報の段落【0012】、段落【0016】?【0017】及び図1参照)であり、また、流体の量をポンプで制御することも従来周知である。
そうすると、刊行物1記載の発明における圧縮バネ270に換えて、ハウジングとベースの間に配置される空間をローディングチャンバとし、該ローディングチャンバ内の圧力をポンプで制御することによりベースに印加される下方への圧力の制御を達成することは、従来周知の技術から当業者が容易になし得ることである。

なお、請求人は、上記意見書の第16頁第14行?第24頁第12行において、まず概ね「ローディングチャンバ内の圧力がポンプにより制御される」ことの技術的意義は第一義的には「ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御する」ことであり、訂正明細書の段落【0022】の記載部分を無視している点で失当であると主張しているが、「ポリシング・パッドに対するベースの垂直位置を制御する」ことの技術的意義は、段落【0022】を含めて本件特許明細書に記載されておらず、それを示唆する記載もないので、その技術的意義は不明であり、上記主張を採用することはできない。
また、請求人は概ね、刊行物1記載の発明において、圧縮バネを取り除いて、ショルダ260と、可撓性リング272と、プラテン266(図9)又は上部プレート274(図10)との間に画定されるチャンバ内の流体の圧力を増加させた場合には、可撓性リング272が太鼓状に膨らむこととなるにすぎない旨主張する。
確かにチャンバ内の流体の圧力を変化させた場合に可撓性リング272が膨らむことがないとは言えないが、たとえ可撓性リング272が膨らんだとしても、可撓性リング272を膨らませる圧力はプラテン266又は上部プレート274を垂直方向に変化させる力をも加えていることは明らかであり、可撓性リング272のみに作用するものではないので、チャンバ内の圧力変化がプラテン266又は上部プレート274を垂直方向に変化させる力として作用するとするのが相当である。
そして、研磨時にチャンバ内の圧力が変化する場合に、すなわちベースに印加される圧力が変化する場合に、ベースの位置変化を妨げる要因があればベースのポリシング・パッドに対する垂直位置は変化することはないが、刊行物1記載の発明のキャリア・ヘッドにおいて、ベースとポリシング・パッドとの間にはキャビティ278と弾性パッド298が介在しており、キャビティ278においては内部の圧力を制御してプラテン277を少なくとも凸形状にたわますことができることに起因して、プラテン277を凸形状にたわました時に外部から圧力を受ければプラテン277は変形を生じると解することができ、弾性パッド298もZ方向への力で圧縮可能であることから(刊行物1の摘記事項(ヘ)を参照)、チャンバ内の圧力が制御されることと相まってベースのポリシング・パッドに対する垂直位置も変化するものと認められ、チャンバ内の圧力が制御されることによりベースのポリシング・パッドに対する垂直位置も制御されていると解される。
さらに、請求人は概ね、刊行物1記載の発明において、プラテン266又は上部プレート274がショルダ260から離れる方向に移動するとガイドボール264がガイドボールソケット262から抜け出てガイドボール264が脱落し実施不能状態に陥る危険性がある旨主張しているが、圧縮バネ270は、被研磨物と研磨パッド206との間の力が制御されるためのものであるから、被研磨物と研磨パッド206とが接触した状態において作用するものであり、またローディングチャンバを有し、該ローディングチャンバ内の圧力を流体の量で制御して、当該ローディングチャンバ下方への圧力を制御するウェーハの研磨装置において、ローディングチャンバ内の圧力制御を被研磨物と研磨面とが接触した状態において行うことは従来周知の事項(例えば、上記特開平6-126615号公報の段落【0016】?【0017】参照)であるから、被研磨物とポリシング・パッドとが当接した状態でローディングチャンバ内の圧力制御を行えば、ガイドボール264がガイドボールソケット262から抜け出てガイドボール264が脱落するほどに上部プレート274がショルダ260から離れる方向に移動するものとまでは認められない。
そうすると、刊行物1記載の発明における相違点1に係る構成を本件発明1のそれとすることは、従来周知の技術から当業者が容易になし得ることである。

<相違点2について>
刊行物1記載の発明における「保定リング282」のうち摩耗リング291より上部の部分は「摩耗リング291」を支持するものであるから、支持される「摩耗リング291」より高剛性の材料を採用することは当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。しかも、「保定リング282」が「ウエハへの横方向の力に抵抗する」ためのものであることを考慮すれば、より外力に抗することのできるより高剛性の材料を可能であるなら選択すべきところ、「摩耗リング291」がプラスチック材料からなるのであれば、「保定リング282」のうち摩耗リング291より上部の部分を該プラスチック材料よりも高剛性の材料で作り、もって「保定リング282」をより高剛性のものとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
したがって、刊行物1記載の発明における止め輪の「上部の部分」を、「下部の部分」を構成する「第一の材料」より剛性である「第二の材料」で作ることは、当業者が容易になし得ることである。

<相違点3について>
訂正発明1と刊行物2記載の事項とを対比すると、後者の「化学機械的研磨」は前者の「化学的機械的研磨」に、以下同様に、「基板」は「被研磨物」に、「保持リング52」は「止め輪」にそれぞれ相当する。
また、後者のねじは螺合による固着手段として前者のボルトと共通するものであり、刊行物2の明細書第3頁第9行?第14行(刊行物2’第9頁第14行?第17行を参照)における「‥‥そこでは研磨パッドは可撓膜(flexible membrane)の帯(strip)またはベルト(好適には連続したもの)であり、‥‥」との記載から、後者の「可動ベルト60」は、研磨パッドである点に限り前者の「ポリシング・パッド」と共通するものであり、後者の「主研磨ヘッド部材40」は、「止め輪」が固定される部材である点に限り前者の「ベース」と共通するものである。
してみれば、刊行物2には
「被研磨物の化学的機械的研磨装置において、研磨パッドと接触する底部表面を有する止め輪が、止め輪が固定される部材の外縁に螺合手段によって固定されている」ことが記載されているものと認められる。また、螺合手段として「ボルト」は慣用なものにすぎない。
そして、刊行物1記載の発明は、上部部分を含めた止め輪全体が、ベースに相当する上部プレートに対して可動性を有するものであって、当該上部プレートに固定されていないが、止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合(上述刊行物1記載の図9参照)も存在することは明らかである。
そうすると、刊行物1記載の発明も刊行物2に記載の事項も、ともに、化学的機械的研磨という同一の技術分野に属するものであることを考慮すれば、刊行物1記載の発明における止め輪の上部の部分をベースに保持させる方式を、止め輪をベースに対して可動性を有することを要しないものとし、キャリア・ヘッドのベースの外縁にボルトで固定するとの事項を適用し、相違点3に係る構成を訂正発明1のそれとすることは、刊行物2に記載の事項及び慣用手段から当業者が容易になし得ることである。

なお、請求人は概ね、上記意見書第32頁第17行?第36頁第20行において、止め輪がベースに相当する上部プレートに対して可動性を有する刊行物1記載の発明に対して、止め輪を止め輪が固定される部材の外縁にネジで固定する刊行物2記載の事項を適用すると、刊行物1記載の発明の目的(作用効果)を達成することが不可能となるので阻害要因が存在すると主張するが、上述したように、止め輪をベースに対して可動性を有することを要しない場合も存在するとともに、刊行物1の図9で示される実施例では「保定リップ273は、プラテン266の下面で突出しており、ウエハの端部と接触することによってウエハをプラテンの中心に保っている。」旨の記載しかないことから、保定リップが、プラテンに対して可動性を有することが刊行物1のツーリングヘッドに必須の構成であるとまでは言えず、請求人の主張する阻害要因が存在するとまでは認め得ない。
また、請求人は概ね、上記意見書第28頁第20行?第32頁第16行において、止め輪が上部プレート等に固定される場合には単体の構成を有し、上部プレートに対して可動性を有するように設けられている場合は2部構成を有していることから、刊行物1記載の2部構成の止め輪に対し単体構成の止め輪に係る刊行物2記載の事項を適用することにならない旨主張する。しかしながら、刊行物1の特許請求の範囲の請求項15、請求項16、発明の目的、図9に係る発明の1つの実施態様、及び図10に係る発明の他の実施態様を総合的に勘案すると、保定リップ又は保定リングを設ける主たる目的は、ウエハの端部と接触し、ウエハへの横方向の力に抵抗して、ウエハをプラテン又は上部プレートの中心位置に保つことであり、保定リングの垂直位置を制御することによりウエハに対する圧力の分布の微妙な調整を行うことは付加的な目的であると解するのが妥当である。してみると、2部構成を有する止め輪を、上部プレートに固定することを阻害する要因が存在するとまでは認め得ず、2部構成を有する止め輪の取り付け手段の一つとして、上部プレートに固定することも、当業者が容易になし得ることである。

そして、訂正発明1の作用効果は、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載の事項、周知の事項、及び慣用手段から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

したがって、訂正発明1は、刊行物1記載の発明、刊行物2に記載の事項、周知の事項、及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本件審判の請求は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない訂正事項を含むものであるから特許法第126条第3項の規定に適合しない。また、訂正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第126条第5項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-18 
結審通知日 2006-04-20 
審決日 2006-05-02 
出願番号 特願2000-551919(P2000-551919)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (B24B)
P 1 41・ 856- Z (B24B)
P 1 41・ 841- Z (B24B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 中島 昭浩
鈴木 孝幸
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3431599号(P3431599)
発明の名称 化学的機械的研磨用の多層の止め輪を有するキャリア・ヘッド  
代理人 小橋 正明  

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