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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B29C
管理番号 1163539
審判番号 無効2006-80196  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-29 
確定日 2007-08-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第2131480号発明「偏肉補強部構造を有する合成樹脂成形品の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2131480号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2131480号に係る出願(特願昭62-103227号)は、昭和62年4月28日に出願されたもので、平成7年9月27日に出願公告(特公平7-88025号)され、その特許権の設定登録は平成9年8月15日になされたものであって、その後、請求人鈴鹿富士ゼロックス株式会社から無効審判が請求されたものである。以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成18年 9月29日付け 審判請求書の提出
平成18年12月25日付け 審判事件答弁書の提出
平成19年 2月26日 口頭審尋の実施
平成19年 3月27日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
平成19年 4月17日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成19年 4月17日 口頭審理の実施
平成19年 4月25日付け 上申書の提出(被請求人より)
平成19年 4月27日付け 上申書の提出(請求人より)
平成19年 5月 8日付け 審尋の送付(請求人及び被請求人へ)
平成19年 5月24日付け 回答書の提出(被請求人より)
なお、請求人より、上記審尋に対する回答書の提出はなかった。

2.請求の趣旨と、請求人の主張する無効理由
請求人は、審判請求書によれば、「本件特許の、特許請求の範囲第1項に記載された発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、その無効理由の概要は、本件特許は、昭和62年5月法律27号による改正前の特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満足しない特許出願についてなされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する、というものであって、以下の甲第1?6号証を証拠方法として提出している。また、以下の資料1も提出している。

甲第1号証;特公平7-88025号公報(本件特許公告公報)
甲第2号証;山田年正、福島勝仁、北川和昭、井出尚武及び井出正之の見解書
甲第3号証;平成9年3月3日付け、異議申立人 岩田直子への特許異議答弁書
甲第4号証;平成9年3月3日付け、異議申立人 プラスチック モールデッド テクノロジーズへの特許異議答弁書
甲第5号証;片岡紘、佐藤功 著「図解 射出成形技術最前線」、表紙、60?61頁、72?73頁、102?103頁、奥付、2004年4月1日、株式会社工業調査会発行
甲第6号証;社団法人日本塑性加工学会 編「プラスチック成形加工データブック」、表紙、145頁、奥付、昭和63年3月25日、日刊工業新聞社発行
資 料 1;森隆、宮本和男、千坂浅之助 著「射出成形の実技」、表紙、13?19頁、132?135頁、奥付、昭和45年5月10日、社団法人日本合成樹脂技術協会発行
そして、請求人の無効理由を詳しく見ると、以下の理由A?Dを主張しているものと認める。

理由A;厚肉部分を中空部構造に形成することが、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項であるにも拘わらず、該事項が特許請求の範囲に記載されていないから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとはいえない。
理由B;特許請求の範囲第1項に記載された発明における「厚肉部分」なる構成は、願書に添付した明細書又は図面において明確でないから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしているとはいえない。
理由C;厚肉部分はゲート部に直接連通していることが、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項であるにも拘わらず、該事項が特許請求の範囲に記載されていないから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしているとはいえない。
理由D;発明の詳細な説明に記載した実施例1又は2は、当業者が容易に実施をすることができるとはいえないから、本件特許に係る出願は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしているとはいえない。

3.答弁の趣旨と、被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
そして、請求人の主張する無効理由に理由はない、と主張し、以下の乙第1?9号証を証拠方法として提出している。

乙第1号証;小川伸 著「英和 プラスチック工業辞典」、表紙、415頁、奥付、1985年6月10日、株式会社工業調査会発行
乙第2号証;技術士 本間精一の「平成18年12月22日付け見解書」
乙第3号証;菱江運輸株式会社 山崎邦夫、及び三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 渡辺哲二の「平成18年12月19日付け実施証明書」
乙第4号証;フドー株式会社 碓氷一彦の「平成18年12月20日付け実施証明書」
乙第5号証;宮川化成工業株式会社 福井道泰の「平成18年12月20日付け実施証明書」
乙第6号証;東洋化学株式会社 赤堀和之の「平成18年12月19日付け実施証明書」
乙第7号証;吉藤幸朔 著「特許法概説[第7版]」、表紙、189?191頁、奥付、昭和61年4月25日、株式会社有斐閣発行
乙第8号証;特公昭57-14968号公報
乙第9号証の1;T.Pearson 著「Formteilherstellung nach dem Cinpres-Verfahren」、Kunststoffe 76(1986)8、667?670頁
乙第9号証の2;T.Pearson 著「Moulding by the Cinpres process」、Kunststoffe German Plastics 76(1986)8、11?12頁
乙第9号証の3;乙第9号証の1の訳文

4.当審の判断

4-1.本件の明細書又は図面の記載
本件特許に係る出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の特許請求の範囲は、甲第1号証によれば、以下のとおりに記載されていると認める。

「溶融した熱可塑性樹脂を型キヤビテイに射出注入し、次いで、加圧ガス体を注入して中空部構造を有する合成樹脂成形品を製造する方法において、厚肉部分を偏在させ、且つその厚肉部分はゲート部に連通している成形品を形成するように設計された型キヤビテイに溶融した熱可塑性樹脂を注入して当該樹脂を型キヤビテイに満たし、次いで、加圧ガスを注入し、ガス加圧下に合成樹脂成形品を型内で冷却、固化することを特徴とする偏在した補強部構造を有する合成樹脂成形品の製造法。」

そして、本件明細書等には、甲第1号証によれば、以下の記載a?iも認められる。

記載a;「〔産業上の利用分野〕
本発明は、偏肉補強部構造を持ち、且つ表面が平滑で、ひけや反りがない合成樹脂成形品を射出成形によつて製造する方法に関する。」(甲第1号証1頁1欄13行?2欄1行)
記載b;「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は、成形品の肉厚を増すことなく剛性や強度の高い成形品を得、且つ成形品の表面にひけがなく、反りもない成形精度の高い成形品を製造する方法を提供することを目的とする。さらには、本発明は、表面仕上げが良好で、塗装その他の後処理を必要としない成形品を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、かかる目的が中空の厚肉部分を偏在させた成形品を製造することによつて成就されることを見出し、本発明を完成した。」(甲第1号証2頁3欄39?48行)
記載c;「〔効果〕
実施例および比較例の結果に明らかなごとく、本発明の方法で得られた成形品には反りもひけもなく、リブ部およびボス部を含む偏肉部には成形品全体にわたつて中空部が形成されていた。」(甲第1号証3頁6欄32?36行)
記載d;「表面積の大きい成形体の肉厚を薄くし、その薄肉部分に強度と剛性を保たせるために、リブと呼ばれる補強部を設けることも、よく行われている。しかし、この成形品では、リブの部分において成形体表面にひけが発生し、それが外観不良の原因となることはよく知られている。」(甲第1号証2頁3欄33?38行)
記載e;「前述の如く、成形品にリブおよび/またはボス構造を持たせるように設計した金型を用いて溶融した熱可塑性樹脂を型キヤビテイに射出注入し、冷却してリブおよび/またはボス構造を持つ物品を成形することは、周知の技術である。通常行われている射出成形によつて上記物品を成形した場合、型キヤビテイ内で樹脂が溶融状態から固化する過程において、冷却にともなう樹脂の体積収縮が起こり、特に、リブおよび/またはボス構造の部分において成形体表面にひけが発生する。このようなひけの発生を防止するために、成形時の溶融樹脂注入圧力を高く保持するのも一つの方法であるが、たとえば、ゲート部やゲートに近い薄肉の部分で早く冷却が起こり、加圧効果が所望の部分に十分に働かず、その結果、ひけ発生の防止が満足されない。また、この方法において、樹脂注入圧力は、ゲート付近で高くても、ゲートからの距離に比例して加圧効果は逓減し、この加圧効果の差に応じて体積収縮に差が生じ、その結果、成形品に反りが発生する原因にもなる。」(甲第1号証2頁4欄11?28行)
記載f;「本発明は、上記のようなリブ構造部、所望に応じては、さらにボス構造部やピン立て構造部のような偏肉部分を持つ成形品の改良された製造方法であつて、所望のリブに相当する厚肉部分をゲート部から所望の個所に連通偏在させるように設計された金型を用い、この金型の型キヤビテイ内に溶融した熱可塑性樹脂を射出注入して当該樹脂で満たし、次いで、ゲート部より加圧されたガス流体を注入するところが、本発明の要部である。注入された加圧ガス流体は、偏在させた厚肉部分の未だ溶融状態にある樹脂で充満されている中心部を貫流し、厚肉部分に中空部を形成する。形成された中空部に満たされているガス流体を加圧状態に保持し、そのまま金型を冷却し、樹脂の固化を待つ。その間、溶融樹脂の冷却に伴う体積収縮に相当する成形品の容積減少は、ガス流体の圧力によつて補填され、成形品はキヤビテイの形状に沿う形で保持さる。
かくして得られた成形品は、その表面にひけは全く見られず、キヤビテイ表面がそのまま転写された美麗な外観を持つ。さらに、厚肉部分におけるガス流体の貫流は、ゲート部より離れた部分にも容易に到達することから、ガス流体の圧力効果は成形品全体に及び、その結果、得られた成形品には樹脂の体積収縮に起因する反りは見られない。」(甲第1号証2頁4欄29行?3頁5欄1行)
記載g;「〔問題点を解決するための手段〕
すなわち、本発明は、溶融した熱可塑性樹脂を型キヤビテイに射出注入し、次いで、加圧ガス体を注入して中空部構造を有する合成樹脂成形品を製造する方法であつて、厚肉部分を偏在させ、且つその厚肉部分はゲート部に連通している成形品を形成するように設計された型キヤビテイを用い、このキヤビテイに溶融した熱可塑性樹脂を注入して当該樹脂をキヤビテイに満たし、次いで、加圧ガスを注入し、ガス加圧下に合成樹脂成形品を型内で冷却、固化することによつて偏在した中空補強部構造を持つ合成樹脂成形品を製造する方法である。」(甲第1号証2頁3欄49行?4欄9行)
記載h;「〔実施例〕
以下の実施例および比較例において、圧力はいずれもゲージ圧を示す。
実施例 1
熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名「ユーピロン S-3000」)を用い、第1図に示した物品を成形した。射出成形機シリンダーの温度300℃で溶融、可塑化したポリカーボネート樹脂を射出圧力28kg/cm2で型キヤビテイ内に注入し、2秒後に同じ注入口より圧力30kg/cm2の圧縮窒素ガスを注入した。金型を冷却し、45秒後に成形品を取り出した。成形品の重量は373gで、反り量0.1mm、ひけ量0.1mmで、実質的に反りもひけも見られない美麗な成形品であつた。
・・・。
実施例 2
熱可塑性樹脂としてゴム変性ポリスチレン樹脂(三菱モンサント化成株式会社製、商品名「ダイヤレツクス HT-88」)を用い、シリンダー温度を230℃とする以外は実施例1と同じ操作条件で、実施例1を繰り返した。得られた成形品の重量は332gで、反り量0.2?0.3mm、ひけ量0.1?0.2mmで、実質的に反りもひけも見られない成形品であつた。」(甲第1号証3頁5欄42行?6欄25行)(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。)
記載i;「【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の方法を適用して得られる成形品の平面図、第2図は、同上のA-A線における断面図、第3図は、同上のB-B線における断面図、第4図は、同上のC-C線における断面図、第5図は、同上のD-D線における断面図、そして、第6図は、同上のE-E線における断面図を、それぞれ示す。
図中、1はリブ構造部、2はボス構造部、3は中空部、そして、4はゲート部である。」(甲第1号証3頁6欄37?末行)及び、第1図?第6図(甲第1号証4頁)

4-2.理由Aについて

1)本件明細書等の発明の詳細な説明(以下、「本件詳細な説明」という。)には、記載aによれば、ここにおいて開示しようとする発明(以下、「本件開示発明」という。)は、合成樹脂成形品の製造法であることが記載されていると認められる。そして、本件開示発明は、記載b及びcによれば、ひけや反りのない合成樹脂成形品を得ることを主な目的とし、その目的を達し得たことを、その効果としていることが窺える。

2)そこで、本件開示発明が上述のことを主な目的とするに至った技術的な課題について見てみると、記載dによれば、全体的に薄肉の合成樹脂成形品において、その補強目的からリブと呼ばれる補強部を設けると、その部分の合成樹脂成形品表面にひけが発生し、それが外観不良の原因となっていたこと、また、記載eによれば、上述したリブと呼ばれる補強部をも実質的に意味していると認められるリブ構造部の他、ボス構造部において発生するひけを防止するために、成形時の溶融樹脂注入圧力を高く保持する方法もあるが、不十分で、成形品に反りが発生する原因にもなることが見て取れるから、上記課題は、まず第1には、リブ構造部やボス構造部における合成樹脂成形品表面にひけが発生していたことであることが分かる。

3)ここで、リブ構造部やボス構造部について見ると、これらは、記載fの「本発明は、上記のようなリブ構造部、所望に応じては、さらにボス構造部やピン立て構造部のような偏肉部分を持つ成形品の改良された製造方法であつて、所望のリブに相当する厚肉部分」との記載によれば、ピン立て構造部も含めた、厚肉部分(審決注;本件詳細な説明における「偏肉部分」という用語も、実質的に、「厚肉部分」と同義のものとして用いられていると認められる。)の具体例とされていること、また、記載fの上記記載によれば、本件開示発明は厚肉部分を持つ合成樹脂成形品の改良された製造方法であるとされていること、そして、先に「2)」で述べた課題を考え合わせると、本件開示発明は、リブ構造部、ボス構造部、更にはピン立て構造部に例示される厚肉部分が存在するが故に、そこに生じるひけを防止して、ひけのない合成樹脂成形品を得ることを第1の目的とし、併せて、反りのない合成樹脂成形品を得ることをも目的とし、これら目的を達し得たという効果を有しているものと認められる。

4)次に、記載fを見ると、ここには、型キヤビテイ内を溶融熱可塑性樹脂で満たし、次いで、ここにガス流体を注入すると、ガス流体は、厚肉部分の溶融樹脂で充満されている中心部を貫流して厚肉部分に中空部を形成し、該中空部に満たされているガス流体を加圧状態に保持して溶融熱可塑性樹脂を冷却すると、冷却に伴う体積収縮に相当する成形品の容積減少は、ガス流体の圧力によつて補填され、成形品はキヤビテイの形状に沿う形で保持されることから、厚肉部分にひけが生じないことが記載され、少なくとも、ガス流体により厚肉部分に中空部を形成すること、即ち、厚肉部分を中空部構造に形成することによって、厚肉部分に生じるひけを防止すること、即ち、上記発明の効果を達し得ることが窺え、また、この中空部構造に形成することによらずして、達し得ることは、本件詳細な説明の記載からは窺うことはできない。
また、反りのない合成樹脂成形品を得るとの目的を達し得たという効果についても、この効果は、記載fの「さらに、厚肉部分におけるガス流体の貫流は、ゲート部より離れた部分にも容易に到達することから、ガス流体の圧力効果は成形品全体に及び、その結果、得られた成形品には樹脂の体積収縮に起因する反りは見られない。」なる記載によれば、少なくとも、厚肉部分を中空部構造に形成することによって達し得ることが窺える。

5)更に、記載bには、先に「1)」で述べた目的に関し、「かかる目的が中空の厚肉部分を偏在させた成形品を製造することによつて成就されることを見出し、本発明を完成した。」と記載され、更に、記載gには、本件開示発明は、偏在した中空補強部構造を持つ合成樹脂成形品を製造する方法である旨の記載があり、これらの記載は、本件開示発明は、少なくとも、厚肉部分を中空部構造に形成することをその構成として有していること、を述べているものといえる。

6)してみると、本件開示発明、即ち、本件詳細な説明に記載した発明は、その目的を達成するためには、少なくとも、厚肉部分を中空部構造に形成することを、構成に欠くべかざる事項、即ち、発明の構成に欠くことができない事項としているといわざるを得ず、そして、該事項が特許請求の範囲に記載されていないのは明らかである。

7)これに対し、被請求人は、厚肉部分を中空部構造に形成することは、本件詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項ではなく、該発明の作用効果であると主張し、その根拠の1つとして、記載cを挙げる。
そこで、この記載cを見ると、ひけや反りのない合成樹脂成形品を得られたことと共に、偏肉部には中空部が形成されていたこと、即ち、厚肉部分が中空部構造に形成されていたことは、作用効果として記載されているかの如くであるが、これまで述べてきたように、本件詳細な説明の記載全体を見れば、厚肉部分を中空部構造に形成することは、ここに記載した発明の構成に欠くことができない事項といえるのであって、記載cの記載のあることが、厚肉部分を中空部構造に形成することは本件詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項である、との判断を左右するものではなく、被請求人の主張は採用できない。

8)よって、理由Aには、理由がある。

4-3.理由Bについて

1)本件明細書等の特許請求の範囲の記載は、先に「4-1」で認定したとおりであって、同範囲の記載によれば、ここに記載の発明は、合成樹脂成形品の製造法に係るものであって、厚肉部分なる構成を有し、該厚肉部分は上記合成樹脂成形品において偏在しているものと認められる。

2)そこで、この厚肉部分なる構成について検討すると、上記発明が属する合成樹脂成形品の技術分野において、偏在している厚肉部分とは、その記載自体から、合成樹脂成形品が、ほぼ均一厚さの板状の部位から大部分が形作られたものにおいて、このほぼ均一厚さとは明らかに厚さの程度が大きいと認識される部分が偏って存在している、該部分のことであるといえる。
なお、本件明細書等の記載において、重要なことは、先に「4-2」における検討から明らかなように、特許請求の範囲に記載の発明における厚肉部分なる構成は、中空部構造に形成されているのであって、該中空部構造の中空部分をも含めた部分全体を厚肉部分と記載していることである。

3)一方、本件詳細な説明を見ると、記載fには、「本発明は、上記のようなリブ構造部、所望に応じては、さらにボス構造部やピン立て構造部のような偏肉部分を持つ成形品の改良された製造方法であつて、所望のリブに相当する厚肉部分をゲート部から所望の個所に連通偏在させるように設計された金型を用い、」との記載が認められ、この記載によれば、ボス構造部やピン立て構造部、更にはリブ構造部が、偏在した厚肉部分として記載されていると認められる。
そして、本件明細書等の図面、即ち、合成樹脂成形品が記載されている、記載iの第1図から第6図を見ると、ここには、大凡のものとして、ほぼ均一厚さの板状の部位から大部分が形作られた合成樹脂成形品が記載され、記載iの【図面の簡単な説明】を参酌すれば、ここにおける図面符号「1」で示される部分がリブ構造部で、また、図面符号「2」で示される部分がボス構造部であって、上記板状の部位が形作る合成樹脂成形品の輪郭を概観した場合、その板状の部位の厚さと比べてその厚さ方向において、これら図面符号「1」や「2」で示される部分、即ち、先に「2)」で述べた中空部分をも含めた部分全体は、厚いものとして記載されていることが見て取れる。
このことに関連して、第1図及び第4図を正面視し、その上方域と下方域にある図面符号「1」で示される部分、これを本件明細書等においてはリブ構造部と称しているが、この部分を例に補足的に述べると、板状の部位が形作る合成樹脂成形品の輪郭について見ると、第4図で、上方と下方に形成された、左右方向に長さを持つ比較的に短い輪郭、これら短い輪郭の左端を結ぶよう形成された上下方向に伸びた比較的に長い輪郭が見て取れる。そして、この輪郭を概観すると、これを構成する板状の部位の厚み方向に対して、リブ構造部と称している部分は、上方域のものも下方域のものも、共に、板状の部位の厚さと比べてその厚さ方向において厚いことが見て取れる。
これに対し、請求人は、要するに、第1図及び第4図の上記下方域にある図面符号「1」で示される部分に注目して、この部分の厚みとは、輪郭を構成する板状の部位の厚み方向ではなく、図面符号「1」で示される部分における上下方向の厚みとの前提に立っての主張を展開しているが、この主張は、ボス構造部やピン立て構造部、更には、第1図及び第4図の上記上方域にある図面符号「1」で示される部分のリブ構造部など、本件明細書等において厚肉部分として記載されているものを斟酌しないものであって、採用の限りではない。
そして、ここで述べた、本件詳細な説明において偏在した厚肉部分として記載されているものを見ると、先に「2)」で述べた、偏在している厚肉部分とは、その記載自体から、合成樹脂成形品が、ほぼ均一厚さの板状の部位から大部分が形作られたものにおいて、このほぼ均一厚さとは明らかに厚さの程度が大きいと認識される部分が偏って存在している、該部分のことであるとの理解と整合しているということができる。

4)以上のことから、「厚肉部分」なる構成は、本件明細書等において明確でない、とまではいうことができない。
よって、理由Bに、理由はない。

4-4.理由Cについて

1)本件明細書等の特許請求の範囲の記載は、先に「4-1」で認定したとおりであって、同範囲の記載によれば、「厚肉部分はゲート部に連通している」との記載があり、ここに記載された事項を、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項としているものと認められる。

2)これに対し、請求人は、厚肉部分はゲート部に直接連通していることが、上記発明の構成に欠くことができない事項であると主張するので、検討する。
まずは、「厚肉部分はゲート部に連通している」との記載について検討すると、「連通」とは連なって通ずることであって、該記載は、厚肉部分はゲート部に連なって通じていることを表現するもので、特別な事情のない限り、厚肉部分はゲート部に直接連通していることを記載していると解するのが自然である。

3)ここで、上述した特別な事情があるかについて検討する。
まずは、本件明細書等には、厚肉部分とゲート部との間に、厚肉部分以外の部分が実質的に介在していることを示す記載は見当たらない。
また、記載i、特に、その第1図から第6図を見ると、ここには、リブ構造部1やボス構造部2が記載され、これら構造部は、先に「4-3」の「3)」で述べたように、厚肉部分として記載されているのであるが、図面に示されたゲート部4に対して連通、即ち、直接連通していることが見て取れる。
してみると、本件明細書等には、上述した特別な事情も見当たらないというべきである。

4)したがって、厚肉部分はゲート部に直接連通していることは、そもそも、特許請求の範囲に実質的に記載されているのであって、理由Cに理由がないことは明らかである。

4-5.理由Dについて

1)本件詳細な説明には、記載h及びiが認められ、これらの記載によれば、実施例1及び2は、所定の樹脂を用いて射出成形により第1図から第6図に示した合成樹脂成形品を成形するものであると認められる。また、これら図面について見てみると、ここには、先に「4-3」の「3)」で述べたように、大凡のものとして、ほぼ均一厚さの板状の部位から大部分が形作られた、リブ構造部やボス構造部、すなわち、これまで述べたことから明らかなように中空部を有する厚肉部分、を有する合成樹脂成形品が記載されていると認められるものの、これら図面は、製図のような、その寸法等を厳密に表現したものでない、前記物品の概念図といえる程度のものということができる。

2)その一方で、本件詳細な説明には、記載fが認められ、ここには、型キヤビテイ内を溶融熱可塑性樹脂で満たし、次いで、ここにガス流体を注入することが、本件開示発明の要点であることが記載され、そして、このガス流体が、厚肉部分の溶融樹脂で充満されている中心部を貫流して厚肉部分に中空部を形成し、該中空部に満たされているガス流体を加圧状態に保持して溶融熱可塑性樹脂を冷却すると、冷却に伴う体積収縮に相当する成形品の容積減少は、ガス流体の圧力によつて補填されることが記載されていると認められる。
そして、上記実施例1及び2は、この要点に従えば、その概念図といえる第1図から第6図に記載された上記合成樹脂成形品が、製造できないとする理由はなく、当業者は容易にその実施をすることができる程度には記載されているといえる。

3)これに対し、請求人は、実施例1又は2が容易に実施をすることができない理由として、要するに、これら実施例によれば、型キヤビテイ内へ樹脂を注入する際の射出圧力が28kg/cm2で、その後に注入する圧縮窒素ガスの圧力が30kg/cm2であるが、この条件では、圧縮窒素ガスを注入することは不可能である点を指摘する。

4)そこで、検討すると、先に「2)」述べたように、記載fに記載された本件開示発明の要点に従えば、実施例1及び2が実施できないとはいえないのであって、仮に、請求人が主張するように、型キヤビテイ内へ樹脂を注入する際の射出圧力が28kg/cm2で、その後に注入する圧縮窒素ガスの圧力が30kg/cm2であっては、該圧縮窒素ガスを注入することは不可能であるとしても、この具体的な数値にとらわれずに、上記要点に従えば実施できるといえるから、請求人の主張に理由はない。

5)よって、理由Dに、理由はない。

5.むすび
以上のとおりであるから、理由Aに理由があり、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-15 
結審通知日 2007-06-20 
審決日 2007-07-03 
出願番号 特願昭62-103227
審決分類 P 1 113・ 531- Z (B29C)
P 1 113・ 532- Z (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川端 康之  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 石井 淑久
鴨野 研一
登録日 1997-08-15 
登録番号 特許第2131480号(P2131480)
発明の名称 偏肉補強部構造を有する合成樹脂成形品の製造法  
代理人 山口 満久  
代理人 吉井 正明  
代理人 山本 孝久  
代理人 宇佐見 忠男  
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