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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C
管理番号 1163723
審判番号 不服2005-13328  
総通号数 94 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-13 
確定日 2007-09-06 
事件の表示 平成 7年特許願第211325号「スクロール圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 2月10日出願公開、特開平 9- 42176〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成7年7月28日の出願であって、平成17年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月13日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同年8月4日に明細書についての補正がされたものである。

2.本願発明の認定
特許請求の範囲の請求項1について平成17年8月4日にされた補正は、補正前の「端版」を「端板」と補正し、「内端」面を「端部内」面と補正するものである。
これらの補正は、それぞれ平成18年改正前特許法17条の2第4項3号に掲げる誤記の訂正、及び、同4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえ、同法17条の2の規定に適合するから、該補正は適法にされたものである。

したがって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年8月4日付け手続補正書で補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認定する。

「固定スクロールとこれに噛み合う旋回スクロールよりなるスクロール型圧縮機構をハウジング内に収容設置し、上記固定スクロールを上記ハウジング内に固定されたフレームに固定してなるスクロール圧縮機において、
上記固定スクロールの端板の外面に当該固定スクロールの端板の中心と同心状に形成したリング状脚部を立設し、このリング状脚部の先端面にシール部材を設け、
上記リング状脚部の先端を当該シール部材を介して上記端板の外面に対向する上記ハウジングの端部内面に当接させることによって上記リング状脚部の内周側を高圧側、外周側を低圧側とし、上記旋回スクロールの公転旋回運動により圧縮されたガスが吐出される高圧側を上記リング状脚部の内周側で限界することを特徴とするスクロール圧縮機。」

3.引用発明の認定
(1)一方、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭59-64346号(実開昭60-175890号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、「スクロール型流体機械」と題して、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「従来のスクロール型圧縮機の一例が第2図に示され、圧縮機1は円筒部11とその前端に設置されたフロントエンドプレート12と後端に設置されたリヤエンドプレート13からなるハウジング10を有している。」(明細書1ページ15?19行)

・「リヤエンドプレート13はその内部に隔壁23によつて区画された吸入室24と吐出室25とを有し、吸入室24および吐出室25はそれぞれ流体吸入口26および流体排出口(図示せず)と連通している。このリヤエンドプレート13はボルト・ナット27によつて円筒部11の後端に取付けられている。このリヤエンドプレート13と円筒部11間に固定スクロール部材28の側板281が挾持されている。なお、2,3は流体漏れを防ぐガスケツトである。側板281は円筒部11の後端開口を塞ぎ、側板281の一面上に立設されたうずまき体282は円筒部11の内部の室29中に配置されている。側板281は円筒部11の内部の部屋29と吸入室24とを結ぶ孔283を有するとともに中央部の流体ポケツト内の圧縮された流体を吐出室25へ吐出する吐出ポート284を有している。室29中に配置された可動スクロール部材30は側板301とその一面に立設されたうずまき体302からなり、うずまき体302はうずまき体282と180°の角度ずれをもつて噛み合わされて、両うずまき体302,282の間に流体ポケツトを形成している。」(明細書2ページ17行?3ページ18行)

・「可動スクロール部材30は駆動機構および回転阻止機構37と連結されていて、主軸15の回転に伴い所定半径の円軌道上を公転運動することによつて流体の圧縮が行われる。」(明細書4ページ5行?8行)

・図2には、固定スクロール部材28と可動スクロール部材30よりなる機構がハウジング10内に収容設置されることが示されている。また、固定スクロール部材28の側板281がハウジング10を構成する円筒部11及びリヤエンドプレート13に挾持されることで、固定スクロール部材28がハウジング10内に固定されることが示されている。さらに、リヤエンドプレート13の内部に立設した隔壁23の先端がガスケット2を介してハウジング10を構成するリヤエンドプレート13の端部内面に対向する側板281の外面に当接すること、及び、隔壁23の内側が吐出側となり、隔壁23の外側が吸入側となることも示されている。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例1には、

「固定スクロール部材とこれに噛み合う可動スクロール部材よりなる機構をハウジング内に収容設置し、上記固定スクロール部材を上記ハウジング内に上記固定スクロール部材の側板を挾持することで固定してなるスクロール圧縮機において、
リヤエンドプレートの内部に隔壁を立設し、上記固定スクロール部材の側板の外面にガスケットを有し、
上記隔壁の先端を当該ガスケットを介して上記リヤエンドプレートの端部内面に対向する側板の外面に当接させ、上記隔壁の内側を吐出側、外側を吸入側とし、上記可動スクロール部材が円軌道上を公転運動することにより圧縮された流体が吐出される吐出側を上記隔壁の内側で区画するスクロール型流体機械。」

という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定できる。

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-180175号公報(以下「引用例2」という。)には、「スクロール圧縮機」と題するものが、図面と共に記載されている。特に、図2には、固定スクロール10の左端部が下方に延長され、該左端部を貫通するボルトが、右斜線(右上から左下に引かれた斜線)が描かれた部材に到達していることが記載されている。ここで、固定スクロール10がシェル1に対して固定される必要があるのは明らかであるから、前記部材はシェル1内に固定されているといえる。

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭58-189463号(実開昭59-111983号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)には、「スクロール型圧縮機」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「固定スクロール部材(13)は、一般に側面板(131)とその一面上に形成したうず巻体(132)及び該うず巻体(132)とは反対側の側面板(131)上に設けた脚部(133)とを有し、該脚部(133)をボルト(15)によってカップ状部分(12)の底部(121)に固定することによってカップ状部分(12)内に固定配置されている。」(明細書6ページ10?17行)

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、各構成の機能・作用からみて、引用発明の「固定スクロール部材」は、本願発明の「固定スクロール」に相当し、以下同様に、「可動スクロール部材」は「旋回スクロール」に、「機構」は「スクロール型圧縮機構」に、「可動スクロール部材が円軌道上を公転運動することにより圧縮された流体」は「旋回スクロールの公転旋回運動により圧縮されたガス」に、及び、「スクロール型流体機械」は「スクロール圧縮機」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「固定スクロール部材をハウジング内に固定スクロール部材の側板を挾持することで固定してなる」ことは、本願発明の「固定スクロールをハウジング内に固定されたフレームに固定してなる」ことと、「固定スクロールをハウジング内に所定の手段で固定してなる」という概念で共通する。
そして、引用発明の「隔壁」は、リヤエンドプレートに立設された「脚部」といえると共に、スクロール圧縮機では吐出側が高圧側で、吸入側が低圧側とされているのが普通であるから、引用発明の「隔壁の内側を吐出側、外側を吸入側」とすることは、本願発明の「リング状脚部の内周側を高圧側、外周側を低圧側」とすることと、「脚部の内側を高圧側、外側を低圧側」とするという概念で共通し、同様に、引用発明の「隔壁の内側で区画」することは、本願発明の「リング状脚部の内周側で限界」することと、「脚部の内側で限界」するという概念で共通する。

よって、両者は、
「固定スクロールとこれに噛み合う旋回スクロールよりなるスクロール型圧縮機構をハウジング内に収容設置し、上記固定スクロールをハウジング内に所定の手段で固定してなるスクロール圧縮機において、
脚部の内側を高圧側、外側を低圧側とし、上記旋回スクロールの公転旋回運動により圧縮されたガスが吐出される高圧側を上記脚部の内側で限界するスクロール圧縮機。」の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
固定スクロールをハウジング内に固定する手段に関し、本願発明は「ハウジング内に固定されたフレーム」に固定スクロールを固定するの対し、引用発明は「固定スクロール部材の側板を挾持することで」固定スクロールを固定する点。

・相違点2
脚部の内側を高圧側、外側を低圧側とするために、本願発明では「固定スクロールの端板の外面に固定スクロールの端板の中心と同心状に形成したリング状脚部を立設し、このリング状脚部の先端面にシール部材を設け、上記リング状脚部の先端を当該シール部材を介して上記端板の外面に対向するハウジングの端部内面に当接させる」のに対し、引用発明では「リヤエンドプレートの内部に隔壁を立設し、固定スクロール部材の側板の外面にガスケットを有し、上記隔壁の先端を当該ガスケットを介して上記リヤエンドプレートの端部内面に対向する側板の外面に当接させ」ている点。

・相違点3
本願発明では「リング状脚部の内周側」を高圧側、「外周側」を低圧側とするのに対し、引用発明では「脚部(隔壁)の内側」を高圧側、「外側」を低圧側とする点、及び、高圧側の限界に際し、本願発明は「リング状脚部の内周側」で限界するのに対し、引用発明は「脚部(隔壁)の内側」で限界する点。

5.相違点についての判断
・相違点1について
固定スクロールをハウジング内に固定する手段がスクロール圧縮機において必須の構成であるのは明らかであるから、その手段として引用例2に記載の構成を採用し、固定スクロールをハウジング内に固定された部材に固定することは、当業者が適宜設定する事項に過ぎない。その際、該部材を「フレーム」と称することに特段の困難性は見出せない。
よって、引用発明において引用例2に記載の構成を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

・相違点2について
引用例3の記載事項によると、固定スクロールの端板の外面に脚部を立設することが本願出願前に公知技術であったといえる。
また、引用発明の隔壁(脚部)の形状について、スクロール圧縮機構の軸方向視形状が通常は円形であることを踏まえると、該スクロール圧縮機構を覆う端板に設けられる脚部の形状を「リング状」と特定することは当業者が適宜設定する事項に過ぎない。そして、その際、リング状脚部を固定スクロールの端板の中心と同心状に形成することも、通常は端板の中心に吐出ポートを設けることを踏まえると、当業者にとって任意の設計事項といえる。
さらに、高圧側と低圧側との区画に際してシール部材を用いるのは例示するまでもなく常套手段であり、引用発明でも、隔壁(脚部)の先端が当接する、固定スクロールの側板(端板)側にシール部材としてのガスケットを用いているところ、かかるシール部材を設ける箇所を反対にし、脚部の先端側に設けるよう構成することは、当業者が格別の困難を伴うことなく実施できたことといえる。
よって、引用発明において引用例3の記載事項を参酌し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

・相違点3について
脚部をリング状と特定することは上記相違点2についてで記載したように当業者が適宜設定する事項であるから、これに伴って、かかるリング状脚部の内側を「内周側」と称し、外側を「外周側」と称することは当業者にとって容易である。
よって、引用発明において相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果も、引用発明及び引用例2記載の構成並びに引用例3の記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2記載の構成並びに引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-07-04 
結審通知日 2007-07-10 
審決日 2007-07-23 
出願番号 特願平7-211325
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 谷口 耕之助
本庄 亮太郎
発明の名称 スクロール圧縮機  
代理人 田中 重光  
代理人 石川 新  

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