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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1164444
審判番号 不服2004-15172  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-21 
確定日 2007-09-25 
事件の表示 平成5年特許願第89840号「ナット」拒絶査定不服審判事件〔平成6年1月21日出願公開、特開平6-10937〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年4月16日(パリ条約による優先権主張:1992年4月18日、独国)の出願であって、その請求項1?7に係る発明は、平成15年9月12日付け及び平成16年8月19日付けの各手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】 工具を係合させる作用部(2)と、該作用部(2)に一体に付加成形された加圧ワッシャ(1)とを有するナットであって、該加圧ワッシャ(1)が、固定しようとする構成部分に対し接触させるコンカーブな区域(4)を有しており、前記加圧ワッシャ(1)とは反対側にて前記作用部(2)と一体に、軸方向に延びるスリット(8)と前記作用部(2)よりもわずかな壁厚さを有する締付け部(3)が付加成形されており、前記作用部(2)、該締付け部(3)、該締付け部(3)の前記スリット(8)及び前記加圧ワッシャ(1)が塑性変形加工により製作されていることを特徴とするナット。」

【二】引用刊行物に記載された事項
これに対して、原査定の拒絶の理由となった平成15年3月10日付けで通知された拒絶理由に引用され、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である「実願昭61-39871号(実開昭62-153414号)のマイクロフィルム」(上記拒絶理由における引用文献5。以下、「刊行物1」という。)、「特開平1-105012号公報」(同引用文献1。以下、「刊行物2」という。)、「特開昭53-3959号公報」(同引用文献4。以下、「刊行物3」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。

(1)刊行物1
〔あ〕「本考案の実施例を図面第3図乃至第5図につき説明すると、第3図に於て、符号(1)は回転軸、(2)は該回転軸(1)に挿通されたベアリング、(3)は該回転軸(1)に形成したねじ部(4)に螺着されてベアリング(2)を抜止めするベアリングナツトを示す。」(明細書3頁18行?4頁3行参照)
〔い〕「該ベアリングナツト(3)の締付方向の後方には、テーパ部(5)が形成され、そこには第4図及び第5図に見られるように回転軸(1)の軸方向のスリツト(6)が等間隔で複数本形成される。該テーパ部(5)の内側にはベアリングナツト(3)の本体のねじ部(8)と一連のねじ部(8)が形成され、これに於て回転軸(1)のねじ部(4)と螺合するが、該ねじ部(8)の直径dは、回転軸(1)の軸径Dよりも多少小径となるように、テーパ部(5)をかしめることにより、或はねじを切削することにより形成される。」(明細書4頁4?14行参照)
〔う〕「これによつてベアリングナツト(3)でベアリング(2)を締付けする際、テーパ部(5)は軸(1)により押し拡げられ乍ら締付方向に進み、その停止位置ではテーパ部(5)の緊縛力が回転軸(1)に対する緩み止めの作用を営む。(7)はベアリングナツト(3)の締付工具の係合溝である。」(明細書4頁14?19行参照)
等の記載が認められる。
また、第4図及び第5図を参照すると、「テーパ部(5)」の壁厚さが「係合溝(7)」が形成された部分の壁厚さよりも薄くなっている構成が示されていると認められる。
したがって、併せて図面も参照すると、刊行物1には、
“締付工具を係合させる係合溝(7)を備えた作用部と、固定しようとするベアリング(2)に接触させるための接触面を有するベアリングナツト(3)であって、前記作用部が前記接触面とは反対側に、前記作用部と一体であるテーパ部(5)を有し、該テーパ部(5)が前記作用部よりもわずかな壁厚さを有し、前記テーパ部(5)に軸方向に延びるスリツト(6)が成形されている、ベアリングナツト”
の発明が記載されていると認められる。

(2)刊行物2
〔え〕「本発明はロツクナツト乃至ゆるみ止めナツトに係わり、より詳細には、ナツト本体と該本体の一端側において該本体から径方向外方に伸長するフランジ部とを有するゆるみ止めナツトに係わる。」(1頁左下欄18行?右上欄1行参照)
〔お〕「第1図及び第2図中、10は筒状のナツト本体2、及び該ナツト本体2の軸線4方向の一端部6側から径方向外方に伸長するフランジ部8を有するゆるみ止めナツトである。尚、ナツト本体2の外形は、図示の例では6角柱状であるが、6角柱状のかわりに例えば8乃至12角柱状等でも円柱状でもよい。」(2頁右上欄18行?左下欄4行参照)
〔か〕「フランジ部8の外側面14にはその外縁部16から径方向中央部18に向かつて角度Gの逆テーパが形成されており、外側面14は、締めつけ前においては、頂角の大きい円錐台の周面を形成している。角度Gが、小さすぎると、十分な抵抗トルクが得られず、角度Gが大きすぎると締めつけの際弾性限界を越える変形がナツト10に生じる虞れがある。従つて、前記角度Gは、10分以上で2度以下であることが好ましい。」(2頁左下欄19行?右下欄7行参照)
〔き〕「ナツト10の螺合を第3図中J方向に進めることにより、ナツト10のフランジ部8の下面(外側面)14の外縁部16が基体22の上面26に当接し押し付けられるようになると、ナツト10の締めつけトルクが上昇し、その後のナツト10のねじこみに際してナツト10のフランジ部8の外縁側にフランジ部8の角度Gを小さくするようにフランジ部8を弾性変形させるK方向の力が基体22の上面26から加えられる。このK方向の力によつて、フランジ部8のみならず、該フランジ部8よりも剛性の小さいナツト本体部2に該本体部2を径小化させるような力Lが加えられる。この力Lは、ナツト本体2をボルト20に押し付ける力として働き、このナツト10の本体部2によるボルト20のおねじの締めつけ作用によつてナツト10とボルト20との螺合のゆるみ止め効果が得られる。この力K,Lは、フランジ部8の下面14の全体が実質的に基体22の上面26に当接する第4図の破線で示す位置にナツト10が設定されるまで高められる。」(3頁左上欄5行?右上欄5行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物2には、
“工具を係合させるナツト本体2と、該ナツト本体2に一体に付加成形されたフランジ部8とを有するナツト10であって、該フランジ部8の下面(外側面)14に、その外縁部16から径方向中央部18に向かつて角度Gの逆テーパが形成されており、固定しようとする基体22に対し接触させる凹面状の区域を有している、ナツト”
が記載されていると認められる。

(3)刊行物3
〔く〕「本発明は溝付きナツトの製造法の改良に関するものである。」(1頁左下欄10?11行参照)
〔け〕「まず予め所定の大きさに材料取りしたナツト素材Nを第1図に示すポンチPとダイDとを備えた成形機により据込む。
次いでこのようにして予備成形されたナツト素材Nを、第4図に示す如きポンチP′とダイD′を備えた第2図の成形機により圧造成形して、第6図及び第7図に示す如きネジ用穴N1′と溝N2′を備えた粗形ナツトN′を得る。
引続き第5図に示す如きポンチP″とダイD″とを備えた第3図に示す成形機により前記粗形ナツトN′の外周のバリN3′を除去すると共にネジ用穴N1′の底を打抜いて第8図に示す如き溝付きナツトN″を得る。
以後は従来と同様の方法でネジ用穴N1″の壁面にネジ溝を切削加工すれば、第9図に示す如き溝付きナツトの完成品が得られる。」(2頁左上欄2?17行参照
〔こ〕「叙上の如く本発明によればナツトの溝はナツト成形時に圧印されて一挙に形成されるため、……生産能率が格段に高く、したがつて製造原価も安くなるという顕著な利点を有する」(2頁左上欄18行?右上欄2行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、刊行物3には、
“工具を係合させる多角形部を備えた作用部を有し、該作用部の端部区域に軸方向に延びる溝が一体成形された溝付きナツト”及び
“工具を係合させる多角形部を備えた作用部と前記作用部の端部区域と該端部区域の溝とが塑性変形加工によって製作され、その後、ネジ用穴の壁面にネジ溝が切削加工されて前記溝付きナツトが完成される溝付きナツトの製造方法”
が記載されていると認められる。

【三】対比・判断
1.上記刊行物1に記載された発明の「ベアリングナツト」も「ナット」であり、本願の請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者の「テーパ部(5)」が前者の「締付け部(3)」に、また後者の「スリツト(6)」が前者の「スリット(8)」に、それぞれ相当して、
両者は、
「工具を係合させる作用部を有するナットであって、該ナットが、固定しようとする構成部分に対し接触させる区域を有しており、前記区域とは反対側にて前記作用部と一体に、軸方向に延びるスリットと前記作用部よりもわずかな壁厚さを有する締付け部が付加成形されている、ナット」
で一致し、次の点で相違する。
[相違点A]
本願の請求項1に係る発明は、「ナット」が「作用部(2)に一体に付加成形された加圧ワッシャ(1)」を有し、前記「固定しようとする構成部分に対し接触させる区域」が前記「加圧ワッシャ(1)」が有する区域であり、したがって、前記「締付け部」は前記「加圧ワッシャ」とは反対側に位置するものであり、また、前記「加圧ワッシャ」が有する「固定しようとする構成部分に対し接触させる区域」が「コンカーブな区域」とされているのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、加圧ワッシャを備えるものではなく、「固定しようとする構成部分に対し接触させる区域」は「締付け部」とは反対側の作用部の端面である点
[相違点B]
本願の請求項1に係る発明は、「前記作用部(2)、該締付け部(3)、該締付け部(3)の前記スリット(8)及び前記加圧ワッシャ(1)が塑性変形加工により製作されている」のに対して、上記刊行物1に記載された発明では、「作用部」、「締付け部」及び「スリット」がどのようにして製作されたものか不明である点

2.次に上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
工具を係合させる作用部と、該作用部に一体に付加成形された加圧ワッシャとを有するナットは、例示するまでもなく従来周知のものであり、その加圧ワッシャに固定しようとする構成部分に対し接触させる区域が形成されていることも、併せて周知の事項である。
そして、上記刊行物2には、このような従来周知の、作用部に一体に付加成形された加圧ワッシャを有するナットにおいて、その加圧ワッシャが、固定しようとする構成部分に対し接触させる「凹面状の区域」即ち「コンカーブな区域」を有する構成としたものが記載されていると認められる。
したがって、上記刊行物1に記載された発明のナットを、作用部に一体に付加成形された加圧ワッシャを有するナットとし、その加圧ワッシャが、固定しようとする構成部分に対し接触させる「コンカーブな区域」を有する構成とすることは、上記刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
そして、上記刊行物1に記載された発明のナットを加圧ワッシャを有するナットとすることで、「締付け部」は加圧ワッシャとは反対側に位置することとなる。

(2-2)相違点Bについて
上記刊行物3には、前述のとおりの「工具を係合させる多角形部を備えた作用部と前記作用部の端部区域と該端部区域の溝とが塑性変形加工によって製作される溝付きナツトの製造方法」が記載されており、この方法によって製造されるナットは、作用部の端部区域に軸方向に延びる溝が一体成形された形状をもつ点で、作用部と一体の締付け部に軸方向に延びるスリットをもつ上記刊行物1に記載された発明のナットと形状が類似するから、上記刊行物3に記載された溝付きナツトの製造方法を上記刊行物1に記載された発明のナットの製造に適用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、作用部に一体に付加成形された加圧ワッシャを有する前記周知のナットを製造する際に、作用部、作用部の端部及び加圧ワッシャを含めてほぼ全体を塑性変形加工により製作することも、従来周知の事項(例えば、特開昭51-136067号公報、特開昭63-299839号公報、特開昭60-154839号公報、特開昭56-59557号公報、参照)と認められる。
したがって、上記刊行物1に記載された発明のナットを、作用部に一体に付加成形された加圧ワッシャを有するナットとし、その「作用部」、「締付け部」、「スリット」及び「加圧ワッシャ」が「塑性変形加工により製作されている」ものとすることは、上記刊行物3に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

3.上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その構成が上記刊行物1?3に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、その作用効果も、上記刊行物に記載された事項及び上記周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。

【四】むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された上記刊行物1?3に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて、本願の優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-19 
結審通知日 2006-05-24 
審決日 2006-06-06 
出願番号 特願平5-89840
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊倉 強窪田 治彦  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 水野 治彦
常盤 務
発明の名称 ナット  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 山崎 利臣  

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