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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1164691
審判番号 不服2005-830  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-13 
確定日 2007-09-18 
事件の表示 平成 7年特許願第348674号「インクジェット出力機」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月24日出願公開、特開平 9-164702〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成7年12月18日の出願であって、平成16年11月19日付けで拒絶の査定がされたため、平成17年1月13日付けで本件審判請求がされるとともに、同年2月10日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年2月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容及び補正目的
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、具体的には補正前の「前記材種設定手段により普通紙よりも吸水力が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整する」を、「前記材種設定手段により普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整し、
前記材種設定手段により浸透性がほとんどない被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より低い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より多い最適液滴量に調整する」と補正するものである。
上記補正は、「普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材」のみならず「浸透性がほとんどない被記録材」が設定される場合があることを限定(「材種設定手段」の限定)するとともに、そのような被記録材に対して「インクの粘度を普通紙における最適粘度より低い最適粘度に調整」(「記憶手段」及び「粘度制御手段」の限定)及び「インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より多い最適液滴量に調整」(「記憶手段」及び「液滴量調整手段」の限定)と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるとおりのものであるが、【請求項1】には「液滴量調節手段」との用語と「液滴量調整手段」との用語が混在しており、これらが同一手段であることは明らかであるから、「液滴量調整手段」に統一した上で次のとおり認定する。
「ノズルからインクを吐出し被記録材上に付着させて記録を行うインクジェット出力機において、
被記録材の種類を設定する材種設定手段と、
被記録材に付着させるインクの最適粘度及び最適液滴量を被記録材の種類ごとに記憶した記憶手段と、
前記材種設定手段の設定に基づいて被記録材に付着させるインクの粘度を前記記憶手段に記憶された最適粘度に調整する粘度制御手段と、
前記材種設定手段の設定に基づいて吐出されるインクの液滴量を前記記憶手段に記憶された最適液滴量に調整する液滴量調整手段とを備え、
前記材種設定手段により普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整し、
前記材種設定手段により浸透性がほとんどない被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より低い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より多い最適液滴量に調整することを特徴とするインクジェット出力機。」

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-213348号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア?カの記載が図示とともにある。
ア.「異なる紙質を有する2種類以上の被記録材が取扱われる電子写真方式やインクジェット方式によるファックス、複写機、プリンター等の記録装置においては、各被記録材の記録特性がその種類によって異なるために、被記録材ごとに対応しないと安定した高画質が得られない点があり、特に電子写真方式ではかかる点に鑑みて多くの発明がなされてきた。しかし、上述した記録装置のうちでも、液体を用いるインクジェット方式においてはフィルムと紙とで吸湿性が顕著に相違するばかりでなく、にじみ率裏抜けの度合や表面の光沢度等種々の特性が異なるために安定した記録画像を得ることが難しかった。すなわち一般にフィルムの方は光沢性がありコーティングの施してあるフィルムだとにじみ率は小さくインクの裏抜けはない。これに対して紙の方は一般ににじみ率がフィルムとは異なる上に裏抜けもし易く、インクの過大打込による紙の波打ち現象も生じ易い。」(2頁左上欄7行?右上欄5行)
イ.「従来の記録手順では、記録信号が入力されると出力信号変換手段を介して記録ヘッドに出力されるだけであったが、本例の特徴はその出力信号変換手段にかわる記録条件設定手段1の所に被記録材に関する情報が検知手段2を介して入力されるもので、その情報に基づく信号によって設定手段1で記録条件が決定されてから出力信号として変換され記録ヘッド3にドライバ4を介して出力される。なおここで、被記録材情報とは被記録材のにじみ率、裏抜け、表面の光沢度、液体の吸湿性(量、速度)等その質にかかわる特性についての情報をいう。また、上述の記録条件とはヘッド駆動条件、すなわち記録ヘッドに駆動電圧やパルス波形として供給される電気信号のエネルギー量、或いは記録ヘッドの被記録材に対する相対の走査密度、ヘッド駆動時のヘッド温調温度等をいう。・・・記録条件設定手段1では上述した種々の特性に対応した記録条件設定用のテーブルを設けておき、検知手段2から入力される情報に基づいて記録条件を設定し、その条件に応じて入力信号を修正変換する。」(3頁左上欄11行?右上欄16行)
ウ.「(実施例2)
にじみ率の違いによるAFを補正する方法として、第6図で示した副走査方向密度変調の他にドット径を制御することもできる。ドット径の制御の1つの方法として記録信号のパルス幅を変調することが知られており、パルス幅を大きくすると第9図に示したようにドット径を太きくすることができる。そこでOHPシートの様ににじみ率が小さなものには長いパルス幅を、またにじみ率が大きい記録シートには小さいパルス幅をそれぞれ与え、このように打込量を変調することにより例えばOHPシート等の場合ODが高め難かったのを解消することができる。」(4頁右上欄7行?末行)
エ.「(実施例3)
実施例2では第9図に示したようにあるドット径まで大きくなるとそれ以上はパルス幅を広げてもドット径がほぼ一定化してしまう。また、パルス幅は無限に広げられるものではなく種々部品の寿命等に関係する。・・・単にパルス幅変調だけでドット径を制御するのには限界があるので、本実施例においては対策としてパルス数が1つではなく2つ以上に分けるサブヒートパルスを用いる。すなわち、ドット径制御による記録の濃度むら補正方法の1つとして知られているこの方法を用いることによってむら補正をしながら被記録材の特性に応じてドット径を変化させることができる。」(4頁左下欄1行?末行)
オ.「(実施例5)
本例はパルス幅やサブヒートパルス制御に代えてヘッド駆動電圧によりドット径を制御するものである。第11図はヘッド駆動電圧(Vop)によるドット径の変化を示した。本例の場合も(実施例2)で示したパルス幅変調と同様、電圧がある値以上ではドット径が殆んど変化しないことがわかる。・・・他の実施例との並用が好ましい。」((5頁左上欄8行?右上欄1行)
カ.「(実施例6)
インクジェットプリンターの場合は液体粘度が記録特性に大きく影響する。特にインクを吐出するためのエネルギーとしてヒータの熱を利用するヘッドを用いたプリンターでは荷電制御型と異なり上記粘度の影響が著しく、ために従来からヘッド温調の手段や方法が多く提案なされてきた。
本実施例は被記録材の特性に応じてヘッド温度を調節制御するもので、第12図はコート紙および普通紙上にヘッド温度を変化させて記録した場合のドット径およびODを示す。このようにドット径は温度が上がるとインクの粘度が下がり吐出し易くなる為に大きくなることが知られている。また被記録材の種類にもその変化率が異なる。なおマルチヘッドの場合は一般にICや蒸着膜等を使用しているためあまりヘッド温度が上げられないのでこれらの事情を考慮した上で被記録材の特性に応じて温調温度を設定する必要のあることは勿論である。
また、コート紙の場合、インク打込量を多くすればそれに見合う許容量の厚さが必要で、一般にはその許容量に応じて厚さを要しコストも高くなる。しかし普通紙ではにじみ率が小さいので良い画像を得るためには同じインクを用いるにしても打込量を多くしてドット径を大きくし、OD向上を図る必要がある。更にまた、OHPシートの場合、にじみ率は普通紙並ではあるが透明陽画として用いる為、普通紙以上の打込量にしODの向上を図りたい。すなわち、コート紙、普通紙、OHPシートの順に打込量を増す必要があるので温調温度もそれにつれて上昇させるようにすればよい。」(5頁右上欄2行?左下欄13行)

4.引用例記載の発明の認定
記載イの「検知手段2」は、当然実施例6(記載カ)のインクジェットプリンターにも備わっており、同インクジェットプリンターにはヘッド温調手段も備わっている。また、記載カには「OHPシートの場合、にじみ率は普通紙並」とあるが、普通紙よりもにじみ率の小さいOHPシートもあり、にじみ率が小さいほど、温調温度を上昇させるべきであることが記載カを含む引用例の全記載から読み取れる。
また、実施例6では、記載イの「記録条件設定用のテーブル」には、ヘッド温調温度が記憶されている。
したがって、引用例に実施例6として記載されたインクジェットプリンターは次のようなものと認めることができる。
「被記録材に関する情報が入力される検知手段及びヘッド温調手段を備えたインクジェットプリンターであって、
ヘッド温調温度を記憶したテーブルを備え、
前記被記録材のにじみ率が小さいほどヘッド温調温度を高くするインクジェットプリンター。」(以下「引用発明」という。)

5.補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
引用発明の「インクジェットプリンター」が「ノズルからインクを吐出し被記録材上に付着させて記録を行う」ものであることは自明であり(摘記していないが、引用例には「ノズル」との文言記載もある。)、引用発明を「インクジェット出力機」ということができる。
引用発明の「被記録材に関する情報が入力される検知手段」は補正発明の「被記録材の種類を設定する材種設定手段」に相当する。
引用発明の「テーブル」と補正発明の「記憶手段」とは、「被記録材の種類ごとに記録条件を記憶した記憶手段」の限度で一致する。
引用発明において、ヘッド温調温度が高いほど、インクの粘度は低く、かつインクの液滴量は多くなる。すなわち、引用発明では被記録材のにじみ率が小さいほど、インクの粘度が低く、かつインクの液滴量が多くなるように調整しており、そのような調整手段を引用発明は備えている。
他方、補正発明において「浸透性がほとんどない被記録材」は、普通紙よりもにじみにくいと解されるから、「普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材」、「普通紙」及び「浸透性がほとんどない被記録材」はこの順ににじみ率が小さくなる。すなわち、補正発明においても、被記録材のにじみ率が小さいほど、インクの粘度が低く、かつインクの液滴量が多くなるように調整しており、「粘度制御手段」と「液滴量調整手段」を併せたものがそのような調整手段である。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「ノズルからインクを吐出し被記録材上に付着させて記録を行うインクジェット出力機において、
被記録材の種類を設定する材種設定手段と、
被記録材の種類ごとに記録条件を記憶した記憶手段と、
被記録材のにじみ率が小さいほど、インクの粘度が低く、かつインクの液滴量が多くなるように調整する調整手段とを備えたインクジェット出力機。」である点で一致し、
〈相違点1〉補正発明の記録条件が「被記録材に付着させるインクの最適粘度及び最適液滴量」であるのに対し、引用発明のそれは「ヘッド温調温度」である点。
〈相違点2〉補正発明が「前記材種設定手段の設定に基づいて被記録材に付着させるインクの粘度を最適粘度に調整する粘度制御手段」及び「前記材種設定手段の設定に基づいて吐出されるインクの液滴量を最適液滴量に調整する液滴量調整手段」を備え、「前記材種設定手段により普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整し、前記材種設定手段により浸透性がほとんどない被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より低い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より多い最適液滴量に調整する」のに対し、引用発明はヘッド温調手段を備える点。なお、「最適粘度に調整」及び「最適液滴量に調整」につき、「前記記憶手段に記憶された最適粘度に調整」及び「前記記憶手段に記憶された最適液滴量に調整」としている点については、相違点1に係る構成を採用したことに付随する事項にすぎないので、別途独立した相違点にはならない。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
相違点1は、インクの粘度及び液滴量を個別に調整することを前提とした相違点であるから、まず相違点2から検討する。以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点2について
引用発明では、結果的にインク粘度を調整しているけれども、それが引用発明の目的とされているわけではない。しかしながら、インク粘度が高いほど被記録材に浸透しにくいことは、当業者であればたやすく理解でき、高粘度のインクがにじみ率の大きい被記録材に、低粘度のインクがにじみ率の小さい被記録材にそれぞれ適していることもたやすく理解できる。そのことは、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-270401号公報に「滲みを防止する目的で、染料インクの粘度を増大せしめる方法が知られている」(段落【0004】)と記載されていることから明らかである。また、記載カには「OHPシートの場合、にじみ率は普通紙並」とあるものの、OHPシートのにじみ率はさまざまであって、浸透性がほとんどないOHPシートもある。浸透性がほとんどないOHPシートであれば、着弾した液滴が半球状になることは当然避けるべきであり(レンズ効果をもつから)、そのためにも粘度は小さい方が好ましい(レンズ効果については、例えば特開平6-293133号公報に「樹脂フィルムに印写した場合に、盛り上がったインクによるレンズ効果により透過先が屈接」(段落【0013】)と記載されている。)。さらに、インク液滴量が同一であっても、被記録材上での広がり度合いはインク粘度に依存する(例えば特開平4-211951号公報に「液滴が紙などの被記録材に着弾して記録ドットを形成する際に、粘度の小さな記録液では被記録材上の記録ドットの広がり、すなわちドット面積が、図15に示すように粘度の大きなものより大きくなってしまい」(段落【0010】)と記載されているとおりである。)から、印字品質を向上するために、インク粘度を適宜の値に制御すること自体も重要であることは技術常識というべきである。そして、1つの変量(引用発明の場合にはヘッド温度)のみを制御して、2つの量を最適値に制御することは一般に困難であるから、ヘッド温調手段とは別の手段を引用発明に備えさせることは、当業者が想到するに困難と認めることはできない。
加えて、インクの液滴量を調整することだけを目的としても、調整手段はさまざま存し、例えば引用例の記載オには「他の実施例との並用が好ましい。」と記載があり、同じく記載エ(実施例3)においては、パルス幅変調とサブヒートパルス利用という2つの手段が併用されている。引用発明(引用例の実施例6)においても、他の手段と併用すれば、インク液滴量調整範囲を拡大できるのだから、そのようにすること、特に実施例2のパルス幅変調又は実施例5のヘッド駆動電圧制御と組み合わせることは当業者にとって想到容易である。
ここで、補正発明の「粘度制御手段」及び「液滴量調整手段」について、これら各手段が粘度又は液滴量の一方のみを調整又は制御し、他方に影響を与えないものに限られるのかどうかは、請求項1の記載のみからは明らかでない。そこで、発明の詳細な説明を参酌するに、「吐出されるインクの液滴量がインク温度の影響を受ける」(段落【0003】)及び「粘度制御部15は、電熱ヒータ11、13を駆動してインクを加熱することによりその粘度を制御するものである。」(段落【0029】)との記載があるから、「粘度制御手段」は液滴量に影響を及ぼす手段であっても構わない。
そうすると、引用発明に引用例記載の実施例2又は実施例5の手段を併用した場合、引用発明自体が有する「ヘッド温調手段」が補正発明の「粘度制御手段」に、実施例2又は実施例5の手段が「液滴量調整手段」に相当することになる。そして、2つの手段を有する場合、各手段によって制御される量が異なる以上、設定温度並びにパルス幅若しくはヘッド駆動電圧を最適値として被記録材ごとに設定し調整することは設計事項というべきであり、その最適設定温度は補正発明の「最適粘度」と等価であり、最適パルス幅又は最適ヘッド駆動電圧は補正発明の「最適液滴量」と等価である。なお、本願明細書の「液滴量制御手段が、材種設定手段の設定に基づいてエネルギー発生素子に与える駆動パルスを変化させる。」(本件補正後の段落【0020】。段落番号は補正されているが、この記載は出願当初から存在する。)との記載からみて、「最適液滴量」は重量又は体積として設定されているものに限られず、駆動パルスを特定できるように設定されておれば十分と解すべきであり、逆に重量又は体積として設定するのであれば、「最適粘度」設定に当たって温度を設定する(その結果、液滴量が変化する)ことから、重量又は体積としての設定値のみでは駆動パルスを定めることができず、重量又は体積としての設定値と粘度(温度)からさらに駆動パルスを決定しなければならないという不合理が生じるから、重量又は体積として設定することに限定解釈はできない。「前記材種設定手段により普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整し、前記材種設定手段により浸透性がほとんどない被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より低い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より多い最適液滴量に調整する」点については、「普通紙よりも吸水性が強くにじみやすい被記録材」及び「浸透性がほとんどない被記録材」を被記録材とした際の結果にすぎない。
以上のとおりであるから、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点1について
相違点2に係る補正発明の構成、すなわちインクの粘度を最適粘度に調整し、かつインクの液滴量を最適液滴量に調整するに当たり、記録条件を「被記録材に付着させるインクの最適粘度及び最適液滴量」とすることは設計事項というべきである。
すなわち、相違点2に係る補正発明の構成の採用を前提とすれば、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項であり、引用発明を出発点とした場合には当業者にとって想到容易である。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び引用例記載のその他の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反しており、同保159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年10月22日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであるが、ここでも「液滴量調節手段」との用語と「液滴量調整手段」との用語が混在しており、これらが同一手段であることは明らかであるから、「液滴量調整手段」に統一した上で次のとおり認定する。
「ノズルからインクを吐出し被記録材上に付着させて記録を行うインクジェット出力機において、
被記録材の種類を設定する材種設定手段と、
被記録材に付着させるインクの最適粘度及び最適液滴量を被記録材の種類ごとに記憶した記憶手段と、
前記材種設定手段の設定に基づいて被記録材に付着させるインクの粘度を前記記憶手段に記憶された最適粘度に調整する粘度制御手段と、
前記材種設定手段の設定に基づいて吐出されるインクの液滴量を前記記憶手段に記憶された最適液滴量に調整する液滴量調整手段とを備え、
前記材種設定手段により普通紙よりも吸水力が強くにじみやすい被記録材が設定された場合には、前記粘度制御手段は、インクの粘度を普通紙における最適粘度より高い最適粘度に調整し、前記液滴量調整手段は、インクの液滴量を普通紙における最適液滴量より少ない最適液滴量に調整することを特徴とするインクジェット出力機。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明を限定的に減縮した補正発明が、引用発明及び引用例記載のその他の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことは第2[理由]で述べたとおりであるから、同様の理由により、本願発明も引用発明及び引用例記載のその他の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきである。
すなわち、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-05 
結審通知日 2007-06-26 
審決日 2007-07-09 
出願番号 特願平7-348674
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大仲 雅人  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 名取 乾治
島▲崎▼ 純一
発明の名称 インクジェット出力機  
代理人 特許業務法人コスモス特許事務所  

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