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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D21H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D21H
管理番号 1165072
審判番号 不服2004-16661  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-10 
確定日 2007-09-25 
事件の表示 特願2000-238264「剥離紙及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年2月19日出願公開、特開2002-54090〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年8月7日の出願であって、平成16年7月8日付けで拒絶査定がされ、同年8月10日に拒絶査定に対する審判が請求されると共に同年9月7日付けで手続補正がされ、平成19年2月9日付けの審尋に対して同月27日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成16年9月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成16年9月7日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 平成16年9月7日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1の
「緊度0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度の紙基材の表面に無溶媒の熱硬化型シリコーンを塗布し、シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に熱硬化させて離型層を形成することを特徴とする剥離紙の製造方法。」
を以下のとおりとする補正を含むものである。
「緊度0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度の紙基材の表面に無溶媒の熱硬化型シリコーンを塗布し、シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に表面および内部で熱硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成することを特徴とする剥離紙の製造方法。」
(下線部は補正箇所を示す。以下、この補正後の請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。)

2 特許法17条の2第3項及び第4項に規定する補正要件について
上記請求項1についての補正は、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に熱硬化させて離型層を形成する」を「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に表面および内部で熱硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成する」とするものである。
上記補正は、熱硬化の部位及び離型層の形成の部位をそれぞれ限定するものであるから特許法17条の2第4号第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、同条第3項の要件を満たすことは明らかである。

3 特許法17条の2第5項で準用する同法第126条第5号に規定する要件(独立特許要件)について
次いで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討すると、以下のとおり、本願補正発明は、原査定の拒絶理由で引用した本出願前に頒布された下記(1)の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本願補正発明は、特許法第126条第5項の規定に規定に適合するものではない。以下、詳述する。
(1) 刊行物及び刊行物の記載事項
1 特開平8- 48950号公報(以下「刊行物1」という。)
2 特開平6-220327号公報(以下「刊行物2」という。)
ア.刊行物1には以下の記載があり、図11の記載がある。
(a)「【請求項1】水解性紙を基材として、この基材の表面に固形分100%の放射線硬化型シリコーンを0.3g/m2 以上の塗布量で塗布し直ちに前記シリコーンに放射線を照射して硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成したことを特徴とする剥離紙。」
(b)「【請求項8】固形分100%の放射線硬化型のシリコーンを0.3g/m2 以上の塗布量で基材表面に直接塗布してシリコーン層を形成し、その後直ちに前記シリコーンに放射線を照射して基材表面で硬化させてなることを特徴とする剥離紙の製造方法。」
(c)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、剥離紙及びその製造方法に関するものであり、特に、固形分100%のシリコーンを基材表面に塗布後直ちに硬化させてシリコーン層を形成してなる剥離紙及びその製造方法に関する。」
(d)「【0004】このように希釈シリコーン液を基材の表面に直接塗布した場合、図11に示すように、塗布された希釈シリコーン液は基材50の繊維中に含浸してしまい、基材表面に均一にシリコーン液を塗布し、シリコーン層52を形成するためには多量のシリコーン液を塗布する必要があり、高価なシリコーン液を多量に消費する結果、剥離紙の製造コストを増大させる原因となっている。そのため、従来の剥離紙の製造方法としては、基材の表面にポリエチレンフィルムをラミネートしたり、薬剤により目止め処理し、基材の繊維中にシリコーン液が含浸しないようにした構成のものや、グラシン紙のような透気性の緩慢な基材に希釈シリコーン液を塗布し、シリコーン液の塗布量の減少を図ったもの等が存在する。」
(e)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】前記従来技術における剥離紙の製造方法において、水や溶剤により希釈されたシリコーン液を使用する手段にあっては、塗布されたシリコーン液を基材表面で硬化させるために、シリコーン液の塗布された基材を100℃?140℃の高温下で1?3分間加熱する。そのため前記乾燥工程に必要な長い乾燥炉を必要とするばかりでなく、この乾燥工程により基材から水分が蒸発し、乾燥工程後に製品に対する加湿工程が必要となる。
【0008】また、乾燥工程により、基材が縮み、剥離紙の製造コストが高くなるという問題点がある。さらに、加熱により発色するサーマル紙や、サーマル合成紙の発色面に対してシリコーン処理が行えれば、剥離紙の剥離面側に発色印刷できるが、前記乾燥工程の存在により、基材が加熱されるので、サーマル紙やサーマル合成紙の発色面が全体的に発色してしまい、サーマル紙やサーマル合成紙を基材とする剥離紙を製造することはできなかった。」
(f)「【0013】また、本発明は、放射線硬化型のシリコーンの使用により、シリコーンの硬化に際して加熱処理を不要とし、従って製品に対する加湿を不要となすと共に基材の縮みを防止でき、しかも加熱により発色するサーマル紙やサーマル合成紙の発色面に対するシリコーン処理をも可能とすると共に、剥離紙の剥離面に対する印字ないし印刷が可能な剥離紙及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(g)「【0030】なお、シリコーンが塗布されてから放射線がシリコーン層38に照射されるまでの時間は、シリコーンが基材34の繊維中に含浸することを最小限に留めるべく、シリコーン塗布後5秒以内とすることが好ましく、より好ましくは3秒以内である。
【0031】このように短時間で、すなわち基材34の繊維内にシリコーンが含浸する前に基材34の表面に塗布されたシリコーン層38に放射線を照射して硬化させることにより、シリコーンは基材34の繊維内に含浸する前に表層部分に硬化してシリコーン層38となり、基材34の表面部分にのみシリコーン層38が形成される。」
(h)「【0045】このように、シリコーンを基材34表面に塗布してから、極めて短時間で塗布されたシリコーン層38に紫外線、電子線等の放射線を照射することにより、シリコーンが基材の繊維中に含浸する前にシリコーン層38を硬化させることができるので、基材の表層付近にのみシリコーン層38を形成することができる。従って、シリコーンの塗布量を大幅に低減することができ、剥離紙の製造コストを低く抑えることができる。」
(i)「【0049】剥離紙の基材34としては、たとえば上質紙、グラシン紙、水解性紙の表面に水溶性のポリビニルアルコール(PVA)、アクリル系スチレン、酢酸ビニル系等の水溶性目止め剤を塗布して目止め処理がなされているものを使用する。」
(j)「【0067】〔実施例1〕幅1100mm、坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒の上質紙に粘度350?450cpsの100%UVシリコーンをオフセットグラビヤコーターで塗布し、1.8秒後に、放射線硬化装置により180w/cmの紫外線を照射し、硬化させた。コーターからUV硬化装置までの距離900mm。」
(k)「【発明の効果】以上の構成により、本発明は剥離性が良好である他、以下の如き顕著な効果を有する。
【0092】(1)固形分100%のシリコーンが基材繊維内に含浸する前にシリコーン層を硬化させるので、基材の表層に硬化皮膜が形成され、目止め処理あるいは、ラミネート処理の有無を問わず、また、基材の種類を問わず、シリコーンの塗布が可能で、且つ、シリコーンが基材の繊維中に含浸せず、シリコーンの塗布量を少なくすることができた。
【0093】また、固形分100%のシリコーンを使用した結果、溶剤を使用しないため、自然環境や人体に悪影響を及ぼさず、また、溶剤や水でシリコーンを希釈しないので、シリコーン層を乾燥させるための熱処理が不要となった。
・・・
【0096】(4)基材表面に直接シリコーンを塗布した構成にあっては、ポリエチレンフィルムの塗膜工程や、カオリンや炭酸カルシウム等の鉱物性塗工剤を塗布する目止め処理が不要となるので、これらの工程が不要な分、剥離紙製造のトータル歩留りが良く、製造コストを抑えることができた。」
イ.刊行物2には以下の記載がある。
(l)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は剥離紙用シリコーン組成物、特には有機溶剤を含有させることなしで紙、ラミネート紙、プラスチックフィルムなどの表面に密着塗布することができ、これらの基材表面に非粘着性を与えることのできる剥離紙用シリコーン組成物に関するものである。」
(m)「【0019】本発明の組成物で処理した基材はこれを70? 200℃の温度で1?30秒間加熱することによってその表面に硬化皮膜を形成させればよいが、この組成物は有機溶剤で希釈しなくてもそのまま基材に薄膜塗工することができるので省エネルギー、安全性、無公害であるし、この硬化が上記のように低温、短時間でよいのでプラスチックフィルムなどに収縮させることなく適用することができ、このようにして得られた硬化被膜は基材特にプラスチックフィルムなどにもよく密着し、すぐれた離型性、耐摩耗性を示すので、このものはプラスチックフィルムに対する離型処理用として特に有用とされる。」
(2) 引用発明
以上の記載によれば、刊行物1は「固形分100%のシリコーンを基材表面に塗布後直ちに硬化させてシリコーン層を形成してなる剥離紙及びその製造方法に関する」(摘記c)ものであって、そこには「水解性紙を基材として、この基材の表面に固形分100%の放射線硬化型シリコーンを0.3g/m2 以上の塗布量で塗布し直ちに前記シリコーンに放射線を照射して硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成したことを特徴とする剥離紙」(摘記a)及び「固形分100%の放射線硬化型のシリコーンを0.3g/m2 以上の塗布量で基材表面に直接塗布してシリコーン層を形成し、その後直ちに前記シリコーンに放射線を照射して基材表面で硬化させてなることを特徴とする剥離紙の製造方法」(摘記b)などについて記載されている。そして、その剥離紙の製造方法によれば、摘記kに記載されるとおり「シリコーンが基材繊維内に含浸する前にシリコーン層を硬化させる」ことによって、「基材の表層に硬化皮膜が形成され、目止め処理あるいは、ラミネート処理の有無を問わず、また、基材の種類を問わず、シリコーンの塗布が可能で、且つ、シリコーンが基材の繊維中に含浸せず、シリコーンの塗布量を少なくすることができ」、かつ、「固形分100%のシリコーンを使用した」ことによって、「溶剤を使用しないため、自然環境や人体に悪影響を及ぼさず、また、溶剤や水でシリコーンを希釈しないので、シリコーン層を乾燥させるための熱処理が不要となった」「基材表面に直接シリコーンを塗布した構成にあっては、ポリエチレンフィルムの塗膜工程や、カオリンや炭酸カルシウム等の鉱物性塗工剤を塗布する目止め処理が不要となるので、これらの工程が不要な分、剥離紙製造のトータル歩留りが良く、製造コストを抑えることができた」などの効果を奏するものであることが認められる。
そして、その製造方法の一具体例を記載すると認められる実施例1には、「幅1100mm、坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒の上質紙」の紙基材に「粘度350?450cpsの100%UVシリコーンを・・・塗布し、1.8秒後に・・・紫外線を照射し、硬化させ」る剥離紙の製造方法が記載されている。この「100%UVシリコーン」の「100%」とは「固形分100%」であり「UV」とは「紫外線」であって放射線に包含されるものであるから、「100%UVシリコーン」は、「固形分100%の放射線硬化型シリコーン」であるということができる。
以上によれば、刊行物1には
「固形分100%の放射線硬化型シリコーンを坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒の上質紙基材の表面に直接塗布してシリコーン層を形成し、その1.8秒後に前記シリコーンに放射線を照射して硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する剥離紙の製造方法」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(3) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、本願補正発明の「固形分100%」のシリコーンは引用発明の「無溶媒」のシリコーンといえ、本願補正発明の「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」にシリコーンを硬化させることも引用発明の「その1.8秒後」にシリコーンを硬化させることも共に塗布後所定短時間後にシリコーンを硬化させることであるといえるから、両者は、
「紙基材の表面に無溶媒のシリコーンを塗布し、塗布後所定短時間後に前記シリコーンを硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する剥離紙の製造方法」
の点で一致し、以下の点で一応の相違が認められる。
(i) 紙基材が、本願補正発明は「0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度」のものであるのに対し、引用発明は「坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒の上質紙」である点
(ii) シリコーンが本願補正発明は熱硬化型であるのに対し、引用発明は放射線硬化型である点
(iii) 本願補正発明は塗布後所定短時間後が「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」であって「表面および内部で・・・硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成する」のに対し、引用発明は塗布後所定短時間後が塗布後「1.8秒後」であって「硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する」のであるが、硬化時のシリコーンの紙基材への浸透の程度や、離型層を紙基材の内部にも形成することは明らかではない点
以下、それぞれの相違点を相違点(i)、相違点(ii)、相違点(iii)という。
(4) 判断
(4-1) 相違点の検討
(4-1-1) 相違点(i)について
引用発明の上質紙は「坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒」で、緊度は0.82g/cm3(=78/95)であるから、本願補正発明で規定する「緊度0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度」の紙基材ということができる。
そもそも、本願補正発明は高緊度で平滑製の高い紙基材(本願補正明細書段落【0010】)を使用するもので、その具体的な紙基材について、「本発明の方法では、従来の市販の紙材をそのまま用い得ることが大きな特長であるが、市販の紙に塗工剤の塗布あるいはカレンダー処理等を行うことにより調整したものでもよい。これらの処理をせずに、または処理をして本発明で用い得る紙の例としては、非塗工紙では上質紙が挙げられる。塗工紙では軽質コート紙等のコート紙が含まれる。」(同段落【0019】)とされている。
してみると、本願補正発明の「緊度0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度」の紙基材には、従来の市販の上質紙や軽量コート紙等のコート紙が包含されるといえる。そして、引用発明の紙基材は、「上質紙」である。
すると、本願補正発明と引用発明とは紙基材において実質的に相違するものではないといえる。
よって、相違点(i)は、本願補正発明と引用発明との実質的な相違点ではない。
(4-1-2) 相違点(ii)について
(ア) 刊行物1に記載された技術においてシリコーンを放射線硬化型シリコーンとしているのは、「水や溶剤により希釈されたシリコーン液を使用する手段にあっては、塗布されたシリコーン液を基材表面で硬化させるために、シリコーン液の塗布された基材を基材を100℃?140℃の高温下で1?3分間加熱」(摘記e)する必要があり、さらに、「加熱により発色するサーマル紙や、サーマル合成紙の発色面に対してシリコーン処理が行えれば、剥離紙の剥離面側に発色印刷できるが、前記乾燥工程の存在により、基材が加熱されるので、サーマル紙やサーマル合成紙の発色面が全体的に発色してしまい、サーマル紙やサーマル合成紙を基材とする剥離紙を製造することはできなかった」(摘記e)という加熱による問題(希釈による乾燥の問題と別途に)があったところ、放射線硬化型のシリコーンを使用すると「シリコーンの硬化に際して加熱処理を不要」とし、「加熱により発色するサーマル紙やサーマル合成紙の発色面に対するシリコーン処理をも可能とすると共に、剥離紙の剥離面に対する印字ないし印刷が可能とすると共に、剥離紙の剥離面に対する印字ないし印刷が可能」(摘記f)とすることができるためであると認められる。
ところで、剥離紙用離型層のシリコーンには、放射線硬化型シリコーンのほか加熱により硬化させる熱硬化型シリコーンが慣用されている(後者については刊行物1のほか、刊行物2(摘記l、m)、その他特開平6-71803号公報(以下「周知例」いう。)等を参照。)。そして、それらのシリコーンには一長一短、すなわち、熱硬化型シリコーンには刊行物1に記載されるような問題がある一方、放射線硬化型シリコーンには加熱は必要ないものの、熱硬化型のものに比べ、コート量を多く必要とする、剥離が重い、剥離力の経時変化が大きい等性能的に劣るという問題がある(例えば、上記周知例の従来技術の項(【0002】)等参照)ことが知られており、これらのシリコーン何れを用いるかは、紙基材の耐熱性や、要求される剥離力の性能などに応じて当業者が適宜なし得る程度の技術事項であるといえる。
なお、引用発明は、上記のとおり放射線硬化型の「固形分100%のシリコーンを使用した」ものであるが、熱硬化型のシリコーンにおいても固形分100%のシリコーンは、周知慣用のもの(刊行物2、周知例(【0021】)参照)である。
してみると、引用発明において、シリコーンを放射線硬化型から熱硬化型のものとすることは、紙基材の耐熱性や、要求される剥離力の性能などに応じて当業者が適宜なし得る程度の技術事項であるといえる。
(イ) 請求人は、刊行物1において熱硬化型シリコーンは避けるべきものとされている旨主張する。
しかし、引用発明は、上記のとおり固形分100%のシリコーンを用い塗布後直ちに硬化させるというものであって、そのことによって「基材の表層に硬化皮膜が形成され、目止め処理あるいは、ラミネート処理の有無を問わず、また、基材の種類を問わず、シリコーンの塗布が可能で、且つ、シリコーンが基材の繊維中に含浸せず、シリコーンの塗布量を少なくすることができ」、かつ、「溶剤を使用しないため、自然環境や人体に悪影響を及ぼさず、また、溶剤や水でシリコーンを希釈しないので、シリコーン層を乾燥させるための熱処理が不要となった」「基材表面に直接シリコーンを塗布した構成にあっては、ポリエチレンフィルムの塗膜工程や、カオリンや炭酸カルシウム等の鉱物性塗工剤を塗布する目止め処理が不要となるので、これらの工程が不要な分、剥離紙製造のトータル歩留りが良く、製造コストを抑えることができた」などの効果を奏するものであって、このような効果を奏するには、シリコーンは固形分100%のもので有れば足り、放射線硬化型であるか熱硬化型であるかを問うものではない。したがって、引用発明において、上記の一長一短を考慮して熱硬化型シリコーンとすることは、上記のとおり、当業者が適宜必要に応じて使用できるものであるといえる。
(ウ) そして、本願補正発明において、シリコーンを熱硬化性のものとしたことによる効果は格別のものではなく当業者が予期し得うる程度のものである。
請求人は、放射線硬化型シリコーンは放射線が照射されない紙基材内部においては硬化しないが、熱硬化型であれば「離型剤層12cと離型剤浸透層12dはそれぞれ同時に形成され一体化しているため、各面の離型剤層12aと離型剤層12cは紙基材に安定的に保持され」るという格別の効果がある旨主張する。
しかし、目止めやラミネートなどをしていない紙基材の場合、その程度は紙基材の浸透性(緊度、透気度等)に加えシリコーンの浸透性(粘度など)や塗布条件(温度、圧力など)などに依存すると認められるものの、特段の事情がなければ、シリコーンは紙基材の繊維間へ浸透すると認められる。このことは例えば刊行物1の摘記d及び図11、周知例段落【0008】に示すとおりである。
そして、紙基材表面及び紙基材中の繊維間へ浸透したシリコーンは硬化作用が及ぼされる範囲において硬化するから、熱硬化型シリコーンにおいては紙基材表面と紙基材中の繊維間へ浸透したシリコーンが加熱によって硬化し紙基材表面の離型剤層と紙基材の繊維間へ浸透して離型剤浸透層とが一体化して硬化し紙基材に安定的に保持されることは明らかである。すると、引用発明においてシリコーンを熱硬化性のものとした場合に、離型剤層と離型剤浸透層とが硬化一体化して紙基材に安定的に保持されることは当然に予期されることに過ぎない。
してみると、本願補正発明においてシリコーンを熱硬化性のものとしたことによる効果は、引用発明においてシリコーンを熱硬化性のものとした場合に予測される効果に比し格別顕著なものであると認めることはできない。
よって、請求人の主張は、上記認定判断を左右するものではない。
(4-1-3) 相違点(iii)について
(ア) 本願補正発明は塗布後所定短時間後が「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」であって「表面および内部で・・・硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成する」のに対し、引用発明は塗布後所定短時間後が塗布後「1.8秒後」であって、「硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する」ものであるが、硬化時のシリコーンの紙基材への浸透の程度や、離型層を紙基材の内部にも形成することについては明らかではない。
しかしながら、上記のとおりシリコーンは目止めやラミネートなどをしていない紙基材の繊維間に、通常は浸透すると認められる。
そして、紙基材の繊維間に浸透したシリコーンは放射線が繊維によって遮られる等して硬化できない部分を除き、紙基材内部においても硬化すると認められるから、引用発明においても放射線が照射され硬化作用が及ぼされる部分において紙基材の「表面および内部で」硬化して「離型層を前記紙基材の表面および内部に形成」していると認められる。
(イ) そして、刊行物1の図11に示された「従来の剥離紙を示す断面概略図」は塗布された希釈シリコーン液は「基材50の繊維中に浸透してしまい、基材表面に均一にシリコーン液を塗布し、シリコーン層52を形成するためには多量のシリコーン液を塗布する必要があ」ることを示す図である。基材の繊維間に多量に浸透したとされる従来技術を示すものであるその図11においても、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化されていることが認められる。すると、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化することは、その出願前普通のことであって格別のことではないといえる。
引用発明においては、上記(ア)のとおり、紙基材の「表面および内部で」硬化して「離型層を前記紙基材の表面および内部に形成」していると認められるが、引用発明は、上記図11で示される従来技術よりも浸透の程度は低いとされるものであるから、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化しているものということができる。
(ウ) 以上のとおりであるから、引用発明においても、シリコーンを塗布後「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に「表面および内部で」硬化させて「離型層を前記紙基材の表面および内部に形成」しているものと認められる。
すると、本願補正発明と引用発明とはシリコーンの紙基材への浸透の程度や、離型層を紙基材の内部にも形成することにおいて実質的に相違するものではない。
よって、相違点(iii)は、本願補正発明と引用発明との実質的な相違点ではない。
(エ) 請求人は、刊行物1には「シリコーンが塗布されてから放射線がシリコーン層38に照射されるまでの時間は、シリコーンが基材34の繊維中に含浸することを最小限に留めるべく」(摘記g)、「このように短時間で、すなわち基材34の繊維内にシリコーンが含浸する前に基材34の表面に塗布されたシリコーン層38に放射線を照射して硬化させることにより、シリコーンは基材34の繊維内に含浸する前に表層部分に硬化してシリコーン層38となり、基材34の表面部分にのみシリコーン層38が形成される。」(摘記g)、「シリコーンが基材繊維内に含浸する前にシリコーン層を硬化させるので、基材の表層に硬化皮膜が形成され、・・・且つ、シリコーンが基材の繊維中に含浸せず、シリコーンの塗布量を少なくすることができた」(摘記k)などの記載を捕らえ、引用発明は、本願補正発明のように離型層を紙基材の「表面および内部で」硬化させて「前記紙基材の表面および内部に形成」されるものではない旨主張する。
しかし、引用発明においても離型層を紙基材の「表面および内部で」硬化させて「前記紙基材の表面および内部に形成」されると認められることは上記のとおりである。上記刊行物1の「繊維中に含浸することを最小限に留める」、「基材の繊維中に含浸せず」、「基材34の表面部分にのみ」などの記載は、紙基材に多量にシリコーンが含浸される従来の技術との対比において、「繊維中に含浸することを最小限に留め」、より「基材の繊維中に含浸せず」、より「基材34の表面部分にのみ」などの趣旨と解される。請求人が主張するような、全く「基材34の表面部分にのみ」であるとか、全く「基材の繊維中に含浸せず」のように解するのは技術常識に反することであり、刊行物1において技術常識に反してそのように解すべき特段の事情は認められない。
(4-2) 以上のとおり、相違点(i)、(iii)は両者の実質的な相違点ではなく、引用発明において相違点(ii)に係る本願補正発明の特定事項とすること(シリコーンを熱硬化性のものとすること)は当業者が容易に想到しうるものであるから、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
(5) 小括
以上のとおりであるから、本願補正発明は、その出願前頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本願補正発明は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条5号に規定する要件に適合しない。

4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合しない補正を含むものであるから、その余の補正について検討するまでもまなく、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、本願の発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1の発明(以下「本願発明」という。)は「第2」「2」に記載されたとおりのものである。

2 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 当審の判断
(1) 刊行物の記載事項及び引用発明
刊行物1、2の記載事項及び引用発明は、前記「第2」の「4」の(1)、(2)に記載したとおりである。
(2) 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明の「固形分100%」のシリコーンは引用発明の「無溶媒」のシリコーンといえ、本願発明の「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」にシリコーンを硬化させることも引用発明の「その1.8秒後」にシリコーンを硬化させることも共に塗布後所定短時間後にシリコーンを硬化させることであるといえるから、両者は、
「紙基材の表面に無溶媒の硬化型シリコーンを塗布し、所定時間後に前記シリコーンを硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する剥離紙の製造方法。」
の点で一致(これは、本願補正発明と引用発明との一致点と同じである。)し、以下の点で一応の相違が認められる。
(a) 紙基材が、本願発明は「0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度」のものであるのに対し、引用発明は「坪量78. 0g/m2、厚さ95μ、水分5. 0%、平滑度40秒、透気度54秒の上質紙」である点
(b) シリコーンが本願発明は熱硬化型であるのに対し、引用発明は放射線硬化型である点
(c) 本願発明は塗布後所定短時間後が「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」であって「硬化させて離型層を形成する」のに対し、引用発明は塗布後所定短時間後が塗布後「1.8秒後」であって「硬化させ前記基材表面にシリコーン層を形成する」のであるが、シリコーンの浸透の程度は明らかではない点
以下、それぞれの相違点を相違点(a)、相違点(b)、相違点(c)という。
ここで、相違点(a)及び相違点(b)は、本願補正発明と引用発明との相違点(i)、相違点(ii)と同じであるから、以下、相違点(c)について検討する。
(3) 相違点(c)について
上記「第3」「3」(4-1-3)で検討のとおり、シリコーンは目止めやラミネートなどをしていない紙基材の繊維間に、通常は浸透すると認められる。
そして、刊行物1の図11によれば、基材の繊維中に多量に浸透したとされる従来技術にあっても、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化されたことが認められる。すると、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化することは、その出願前普通のことであって格別のことではないといえる。
引用発明においては、上記のとおりシリコーンが紙基剤の繊維に浸透しているものであるが、上記「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化している従来技術のものよりも浸透の程度は低いとされるものであるから、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前」に硬化しているものであるということができる。
すると、本願発明と引用発明とはシリコーンの紙基材への浸透の程度において実質的に相違するものではない。
よって、相違点(c)は両者の実質的な相違点ではない。
(4) 上記「第3」「3」(4-1-1)で検討のとおり、相違点(a)は両者の実質的な相違点ではなく、同じく(4-1-2)で検討のとおり、引用発明のシリコーンを相違点(b)に係る本願発明の特定事項(熱硬化性のもの)とすることは当業者が容易に想到しうるものである。
(5) まとめ
したがって、本願発明は、その出願前頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、その余を検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

第5 付記
なお、請求人は、平成19年2月27日付けの回答書において、特許請求の範囲の補正案を提示し、この補正案は一見して特許可能であることが明白なものであると主張する。
その補正案の請求項1は、以下のとおりである。
「緊度0.75g/cm3以上、ベック平滑度(JIS P8119)40秒以上、透気度(JIS P8117)30秒以上の高緊度の紙基材の表面に粘度が300cP以上?5000cP以下の無溶媒の熱硬化型シリコーンを塗布し、塗布後5秒以内に熱硬化処理し、かつ、シリコーン塗布後の硬化工程が100?150℃の範囲の温度に1?30秒間保持することにより行なわれ、シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に表面および内部で熱硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成することを特徴とする剥離紙の製造方法。」(以下「補正案発明」という。)
補正案発明は、本願補正発明の「無溶媒の熱硬化型シリコーン」の粘度を「300cP以上?5000cP以下」と限定すると共に、さらに、「塗布後5秒以内に熱硬化処理」すること、及びシリコーン塗布後の硬化工程を「100?150℃の範囲の温度に1?30秒間保持することにより行なわれ」ることを限定するものである。
しかし、シリコーンの粘度は、引用発明も「350?450cps」(摘記j)であり、補正案発明の粘度の範囲に包含されるから、補正案発明と引用発明との実質的な相違点とはならない。
また、補正案発明において「塗布後5秒以内に熱硬化処理」すること、及びシリコーン塗布後の硬化工程を「100?150℃の範囲の温度に1?30秒間保持することにより行なわれ」ることは、「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に表面および内部で熱硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成する」ための条件であると認められる。
しかし、引用発明においても、塗布後1.8秒後すなわち「塗布後5秒以内に硬化処理」し「シリコーンが基材34の繊維中に含浸することを最小限に留め」(摘記g)、結果として「シリコーンが前記紙基材の裏面にまで浸透する前に表面および内部で熱硬化させて離型層を前記紙基材の表面および内部に形成する」ものである。
そして、補正案発明の具体的熱処理条件(100?150℃、1?30秒間)は、引用発明においてシリコーンを熱硬化型とした場合の通常の熱処理条件(樹脂によって最適条件は異なるが、例えば刊行物2の無溶媒の熱硬化型シリコーンは、70?200℃、1?30秒間(摘記m)である。)であって、当業者が、樹脂等に応じ「シリコーンが基材34の繊維中に含浸することを最小限に留める」(摘記g)ことを考慮して適宜選定しうる程度のもので、格別の条件であるともと認められない。
してみると、補正案発明は、その出願前頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
よって、平成19年2月27日付けの回答書において、請求人が提示た補正案は一見して特許可能であることが明白なものであるということはできない。
 
審理終結日 2007-07-27 
結審通知日 2007-07-30 
審決日 2007-08-14 
出願番号 特願2000-238264(P2000-238264)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D21H)
P 1 8・ 575- Z (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 利直  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 井上 彌一
安藤 達也
発明の名称 剥離紙及びその製造方法  
代理人 大家 邦久  

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