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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H04H
管理番号 1165115
審判番号 不服2004-117  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2007-10-11 
事件の表示 特願2001-239974「デジタルコンテンツの配信方法、配信装置、再生装置、コンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月21日出願公開、特開2003- 51797〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年8月7日の出願であって、平成15年8月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月4日に手続補正がなされると共に意見書が提出されたが、同年11月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月5日に審判請求がなされ、同年2月3日に明細書及び審判請求書の手続補正がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。

「デジタルコンテンツの再生機能及び制御プログラムの実行環境を形成する機能を備えた受信装置と、それぞれ前記受信装置においてデジタルコンテンツが再生可能になる複数の時間帯を定めたタイムテーブルに従ってコンテンツ配信を行う機能を備えた配信装置と、で行う方法であって;
前記配信装置が、それぞれ前記タイムテーブルにおける一つの時間帯で再生可能な複数種類のデジタルコンテンツを、順序性のルール、地域性のルール、天候のルール、あるいはこれらの組合せを適用した、コンテンツ提供者が望む再生内容を表す再生ルールに従って関連付けて編集するとともに、編集された前記複数種類のデジタルコンテンツと、前記受信装置に前記編集された複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを前記再生ルールに基づいて選択させ、選択されたデジタルコンテンツを再生させるための制御プログラムとを、前記一つの時間帯に一斉に放送することにより前記コンテンツ配信を行う段階と;
前記放送された一つの時間帯で前記複数種類のデジタルコンテンツ及び前記制御プログラムを受信した受信装置が、前記実行環境を形成して前記制御プログラムを実行することにより、前記再生ルールに従って前記複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択し、選択したデジタルコンテンツを当該時間帯で再生する段階と;を有することを特徴とする、
放送によるデジタルコンテンツの配信方法。」

2.原査定の拒絶理由
(1)原審において平成15年8月25日付けで通知された拒絶理由は、次のとおりのものである。

「理由1
この出願は、明細書および図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項、第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない。



・明細書に記載の発明が、どのようにして課題を解決しているのか理解することができない。
・請求項の記載そのものが不明瞭であるとともに、請求項で特定した事項は、発明の詳細な説明に開示された発明を正確に反映していないため、請求項に係る発明の動作を把握することができず、また、課題をどのように解決しているのかを理解することができない。
・そのため、請求項に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとは認められない。
・明細書に意味不明な記載が存在する。
といった記載不備が随所に認められる。以下、これら記載不備を例示する。
なお、以下の指摘は、明細書の記載要件を満たさない箇所の例示に過ぎず、全ての記載不備を特定しているわけではない点に留意されたい(記載不備と思われる点が多数であり、互いに関連しているため、全てを指摘することができない。)。

例1.
明細書に記載の発明は、そもそもどのように動作しているのか理解することができないため、どのような課題を解決しようとしているのかや、当該課題をどのように解決しているのか不明である。

(1-1)
複数種類のデジタルコンテンツおよび制御プログラムを受信するタイミングや、デジタルコンテンツを再生するタイミングが、著しく不明瞭である。
例えば、明細書には、受信した制御プログラムを実行して、複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを自律的に選択して再生させる旨が記載されている(第0024段落など)。
ここで、技術常識を鑑みれば、制御プログラムは、プログラム全てを受信することで初めて、実行することができるものと認められる。
とすれば、第2図に示されているように、「前記複数種類のデジタルコンテンツに前記制御プログラムを含めて放送」(請求項3の記載のまま)する場合、最低でも制御プログラムが全て受信されて実行するまでの間は、CMを表示することができないから、「広告提供元の意図を十分に反映した」(第0008段落)CMの再生を行うことができるものとは認められない。
(第2図を素直に見れば、制御プログラムが全て受信されたときには、対応するCM枠が既に終了してしまっており、何も表示することができない。)

結局、明細書に記載の発明は、再生装置がどのようなタイミングで複数のデジタルコンテンツを受信し、どのようなタイミングで制御プログラムを受信し、どのようなタイミングでデジタルコンテンツの再生を行うことで、発明の所期の目的を達成しているのか、理解することができない。
このことは、「配信装置」の送信タイミングについても同様である。

…(以下略)…」

(2)平成15年11月25日付けの拒絶査定の拒絶理由は、
「この出願については、平成15年 8月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものである。」
というものであり、その備考欄には、次のとおりに記載されている。

「出願人は意見書において、要するに、前記拒絶理由通知書において例示した記載不備に対して説明を行った上で、手続補正により特許を受けようとする発明の構成を明確にしたから、この出願の明細書または図面の記載が、特許法第36条第4項、第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしている旨を主張している。

しかし、前記拒絶理由通知書において指摘したとおり、
・明細書に記載の発明が、どのようにして課題を解決しているのか理解することができない。
・請求項の記載そのものが不明瞭であるとともに、請求項で特定した事項は、発明の詳細な説明に開示された発明を正確に反映していないため、請求項に係る発明の動作を把握することができず、また、課題をどのように解決しているのかを理解することができない。
・そのため、請求項に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとは認められない。
といった記載不備が認められる。
以下、それら記載不備を例示する。

例1.
拒絶理由通知書において例1.として例示したとおり、明細書に記載の発明は、そもそもどのように動作しているのか理解することができない。
例えば、拒絶理由通知書において記載不備(1-1)として例示したとおり、複数種類のデジタルコンテンツおよび制御プログラムを受信するタイミングや、デジタルコンテンツを再生するタイミングが不明瞭である。以下、この点について更に詳述する。

(1)出願人は意見書において「各CMコンテンツは、再生ルールを識別するためのインデックスによって関連付けられており(段落0035)、このインデックスが受信装置において読み取り可能になるまでの時間内に、制御プログラムの実行環境を受信装置内に形成することで、複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを再生ルールに基づいて選択して再生することが可能になること(段落0037等)は、技術常識から自明であるものと思料します。
複数種類のすべての広告コンテンツと制御プログラムとを受信して、これらをどこかのメモリにすべて蓄積した後に、制御プログラムに基づくいずれかの広告コンテンツの再生が開始されるものではない点に、ご留意願います。」と説明している。
しかし、仮に、出願人が説明しているように「複数種類のすべての広告コンテンツと制御プログラムとを受信して、これらをどこかのメモリにすべて蓄積した後に、制御プログラムに基づくいずれかの広告コンテンツの再生が開始されるものではない」ことが、明細書の記載から自明のものであったとしても、本願明細書には、どのようにすれば、複数の広告コンテンツと制御プログラムとを「同一時間で一斉に放送」(意見書記載のまま)しながらも、出願人が意見書において説明している「インデックスが受信装置において読み取り可能となるまでの時間内に、制御プログラムの実行環境を受信装置内に形成」し、「広告提供元の意図を十分に反映した」再生が実現できるのかについて、その具体的な手法が記載されておらず、また、このことは当業者にとって自明のものでもない。
すなわち、受信装置は、広告コンテンツを再生する前に、少なくとも、(A)制御プログラムを受信し、(B)受信した制御プログラムを実行し、(C)広告コンテンツの1つを選択するステップを全て行っておくことが必須と認められ、これらのステップの動作を開始してから広告コンテンツを再生するまでの間には、何らかのタイムラグが存在するものと認められる。しかし、明細書に記載されているように、制御プログラムと複数の広告コンテンツとを同一時間で一斉に放送した場合、上記ステップを行っている間に何が表示されているのかや、上記ステップを行っている間に受信した広告コンテンツはどのように処理されているのかについて、何ら記載が無く、このタイムラグをどのように扱うのかが不明である。

(2)更に、放送の技術分野において、複数のコンテンツを連続してユーザに提示するときに、コンテンツの提示のつなぎ目においてコンテンツが再生されない時間があるとユーザは不快感を覚えるため、コンテンツが再生されない提示のつなぎ目の時間をユーザが知覚できないくらいに十分短くしなければならないことは、放送システムを構築するための必須の事項である。
また、広告提供元の視点からみれば、テレビジョンのCMのように広告コンテンツが15秒といった時間で構成されている場合は、広告コンテンツを制作する上で、1秒以下といった比較的短い時間を意識することがごくあたりまえに行われており、広告コンテンツの頭切れがユーザに知覚されてしまえば、それは、放送の技術分野において、広告主の意図をユーザに十分伝えることができたとは認められない。
しかし、発明の詳細な説明には、制御プログラムを受信して実際に実行するまでの時間(すなわちコンテンツが再生されない時間)が、有るのか無いのかや、仮に有るとすればどの程度の時間となるのかについて記載されていないため、制御プログラムと広告コンテンツを同一時間で一斉に放送しつつも、「広告提供元の意図を十分に反映した」(第0008段落)広告コンテンツの再生を、どのように実現しているのかについて、当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているとは認められない。

上記(1)および(2)の検討を鑑みれば、この出願の発明の詳細な説明は、制御プログラムの受信および実行、制御プログラムの実行環境の形成、ならびに、広告コンテンツの受信および再生に係る一連の処理について、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
…(以下略)」

(3)原査定の拒絶理由の趣旨
前記(1)及び(2)からして、原査定の拒絶理由の趣旨は、本願は、明細書および図面の記載に不備があるので、特許法第36条第4項、第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていないというものであり、特に、第36条第4項に係る不備は、制御プログラムの送信、受信、実行環境形成及び実行、並びに、複数種類のデジタルコンテンツの送信、受信、選択及び再生をどのように行っているのかが不明である、というものである。
以下、当該拒絶理由が解消したかどうかについて検討する。

4.当審の検討
(1)請求項1の記載から把握できる事項
請求項1の記載からは、複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムとを一つの時間帯に一斉に配信すること、制御プログラムの実行環境を形成して実行することにより、複数種類のデジタルコンテンツのいずれかを選択して再生すること、を発明を特定する事項として把握することができる。
したがって、発明の詳細な説明には、請求項1に記載された前記の発明特定事項を実現するために、制御プログラムの送信、受信、実行環境形成及び実行、並びに、複数種類のデジタルコンテンツの送信、受信、選択及び再生をどのように行っているのかが明確かつ十分に記載されていなければならない。

(2)発明の詳細な説明の記載についての検討
明細書の段落【0024】の記載「この制御プログラムとデジタルコンテンツとを多重化処理するコーディング部14とをコンテンツ配信に関する機能として形成する。コーディング部14に得られた多重化信号は、放送手段15により放送される。」、段落【0027】の記載「チューナ20は、放送局1から放送された多重化信号を受信するものである。コンピュータは、そのCPUが本発明のコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、多重化信号を分離するデコーディング部21、…(中略)…とを形成する。」、段落【0034】の記載「CMコンテンツの配信は、放送タイムテーブルに従ってなされる。この放送タイムテーブルの一例を図2に示す。図2の例では、…(中略)…、放送タイムテーブルにおける一つの時間帯に、CMコンテンツA、B、Cと制御プログラムとを一斉に配信している点で、図12の例とは異なる。」、段落【0036】の記載「まず、放送局1が、CMコンテンツA,B,Cと制御プログラムとを多重化して放送する…(中略)…。 受信装置2は、チューナ20を通じて、放送された多重化信号を受信し、この多重化信号をデコーディング部21で分離する。」、及び、タームテーブルの例が記載された図2において、複数のコンテンツ(CM、番組)とプログラム(制御プログラム)とが同じ時間帯に配信されている態様からすると、請求項1に記載の「一斉に配信」とは、多重化による放送を意味している。そして、多重化による放送の技術常識からして、複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムは、同時並行的に配信され及び受信されるものと認められる。
一方、明細書の段落【0036】の記載「…分離する。そして、CMコンテンツA,B,Cについては、そのいずれかを選択できるようにし、制御プログラムについては、それが主制御部22において起動実行されるように、主制御部22に展開してプログラム実行環境が形成される。」からすると、受信した多重化信号がデコーディング部によりデジタルコンテンツと制御プログラムとに分離されると、複数種類のデジタルコンテンツは選択の対象となり、制御プログラムは、主制御部22に展開され、これによりプログラム実行環境が形成されることとなる。明細書の段落【0037】には、「制御プログラムが実行されると、…(中略)…視聴履歴を参照する(S2)。そして、この視聴履歴に基づいて一つのCMコンテンツを選択する。」と記載されているが、主制御部に展開された制御プログラムはどのタイミングで起動されるのか具体的に特定されていないから、どのようなタイミングで制御プログラムが実行され、デジタルコンテンツの選択及び再生がなされるのか不明である。しかしながら、プログラム制御に係る技術常識からすると、プログラムの受信が完了するまでは、プログラム実行環境の形成が完了せず、該プログラムを起動することができないから、制御プログラムは、該制御プログラムが完全に受信されるまでは起動されないと考えるのが自然である。すると、制御プログラムと同時並行して受信される複数種類のデジタルコンテンツは、制御プログラムが完全に受信されるまでは、選択可能な状態であるものの、制御プログラムが起動されるまでは、デジタルコンテンツを選択し再生することは不可能である。
つまり、ある時間帯において、複数種類のデジタルコンテンツと制御プログラムが多重化された信号を受信すると、受信装置は、これを分離し、分離した制御プログラムを主制御部に展開することにより実行環境を形成するが、その形成期間中も、複数種類のデジタルコンテンツが選択可能な状態で分離され、入力されているが、実行環境の形成が完了するまでは、複数種類のデジタルコンテンツを選択することが不可能であるから、前記の選択可能な状態で入力される複数種類のデジタルコンテンツのうち、どのデジタルコンテンツを再生の対象とするのかを受信装置がどのように制御しているのか不明である。
よって、発明の詳細な説明には、制御プログラムの送信、受信、実行環境形成及び実行、並びに、複数種類のデジタルコンテンツの送信、受信、選択及び再生をどのように行っているのかについて明確かつ十分に記載されておらず、上記原査定で指摘した拒絶理由は解消していない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成16年2月3日の手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において、次のように主張している。

「(3-2)
例1.の(1)において、『「インデックスが受信装置において読み取り可能となるまでの時間内に、制御プログラムの実行環境を受信装置内に形成」し、「広告提供元の意図を十分に反映した」再生が実現できるのかについて、その具体的な手法が記載されておらず、また、このことは当業者にとって自明のものでもない。すなわち、受信装置は、広告コンテンツを再生する前に、少なくとも、(A)制御プログラムを受信し、(B)受信した制御プログラムを実行し、(C)広告コンテンツの1つを選択するステップを全て行っておくことが必須と認められ、これらのステップの動作を開始してから広告コンテンツを再生するまでの間には、何らかのタイムラグが存在するものと認められる。しかし、明細書に記載されているように、制御プログラムと複数の広告コンテンツとを同一時間で一斉に放送した場合、上記ステップを行っている間に何が表示されているのかや、上記ステップを行っている間に受信した広告コンテンツはどのように処理されているのかについて、何ら記載が無く、このタイムラグをどのように扱うのかが不明である。』とありますが、本願発明は、上記(2-1)の<どのようにして課題を解決しているか>の欄で説明した技術的手段によって上記の課題を解決する、すなわち、ユーザに視聴させるデジタルコンテンツの種類を順序性、地域性、天候、あるいはこれらの組合せに応じて変える、というものであり、『タイムラグ』の存在や『上記ステップを行っている間に何が表示されているか』等は、課題を解決するための技術的手段としては、直接的に関係の無い要素です。
例1.の(2)についても同様です。
なお、請求人は、『タイムラグ』が発生する可能性を否定するものではありません。タイムラグが発生する可能性があることをもって、また、このタイムラグの扱いに関する記述が十分でないことをもって、コンテンツ提供者の意図を視聴者に伝えることができなくなり、特許を受けようとする発明ついての実施が不可能になる、という判断は誤りであろうということを主張しているのです。」

当該主張によると、請求人は、タイムラグの発生の可能性を否定しておらず、かつ、当該主張は、タイムラグの発生及びタイムラグの間の処理が不明であることをもって発明の実施が不可能ということはできない、ということを趣旨としている。
まず、タイムラグが発生すること自体は、そもそも、発明の詳細な説明又は図面には記載されていない。
また、明細書の段落【0022】にあるように、本願は、時間依存編成タイプの配信方式、つまり、タイムテーブルに沿ってデジタルコンテンツを配信し、再生する方式を前提としているから、配信側からすると、デジタルコンテンツがタイムテーブルどおりに受信側で再生されること、逆に、受信側からすると、タイムテーブルどおりに所望のデジタルコンテンツを視聴できることが求められることは技術常識である。したがって、そもそも、受信したデジタルコンテンツの再生にタイムラグが発生することは、タイムテーブルどおりにコンテンツが再生されないことに等しいから、前記の技術常識に反し、時間依存編成タイプの配信方式の所期の目的を実現しているとはいえない。また、タイムラグが発生したとしても、時間依存編成タイプの配信方式の所期の目的を実現しているという技術的な根拠は発明の詳細な説明には記載されておらず、かつ、請求人も何ら釈明を行っていない。
よって、タイムラグが発生することが、技術常識から自明ということもできない。
また、仮にタイムラグを許容すると、制御プログラムの実行環境の形成が完了するまでの時間、つまり、各時間帯の冒頭のしばらくの時間に何も再生されない(あるいは、いずれのデジタルコンテンツも選択されない)間隙が生じてしまい、視聴者が違和感を覚えることは自明であるから、そのような態様にどのような技術上の意義があるのか不明である。
つまり、発明の詳細な説明の記載には、時間依存編成タイプの配信方式としての配信方式を実現できるための構成が明確かつ十分には記載されていない。
また、当該主張において、請求人は、「本願発明は、上記(2-1)の<どのようにして課題を解決しているか>の欄で説明した技術的手段によって上記の課題を解決する、すなわち、ユーザに視聴させるデジタルコンテンツの種類を順序性、地域性、天候、あるいはこれらの組合せに応じて変える、というものであり、『タイムラグ』の存在や『上記ステップを行っている間に何が表示されているか』等は、課題を解決するための技術的手段としては、直接的に関係の無い要素です。」と主張しているが、デジタルコンテンツを順序性、地域性、天候に応じて変えるためには、制御プログラムの実行が必須であることからして、制御プログラムを実行するためにタイムラグが発生するか否か、並びに、タイムラグが発生するとした場合に、該タイムラグの間に何が再生されるのか、及び、タイムラグが発生する態様の技術上の意義が、前記の課題を解決するために「直接的に関係の無い要素」ということはできない。
よって、当該主張は、発明の詳細な説明の記載に基づいたものではないから採用することができない。

なお、請求人は、上記請求の理由において、次のようにも述べている。
「(3-1)
拒絶査定の備考には、記載不備が『例示』されています(平成15年8月25日起案の拒絶理由通知書も同様)。例示では、請求人(出願人)の具体的かつ適切な対応が困難であり、行政手続法第14条の運用上、疑問が残ります。」

まず、行政手続法第1条第2項には、「処分、行政指導及び届出に関する手続に関しこの法律に規定する事項について、他の法律に特別の定めがある場合は、その定めるところによる。」と規定されており、実際、特許法第195条の3には「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による処分については、行政手続法(平成5年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」と規定されているように、そもそも、特許出願の審査に関する手続は、行政手続法の適用から除外されており、特許出願の審査に関する手続は、特許法において規定され、当該規定により適正な手続が担保されている。
そこで、前記主張のうち、「行政手続法第14条」を「特許法」と置き換えてみて検討すると、特許法には、第50条に「審査官は、拒絶をしようとすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見を提出する機会を与えなければならない。」と規定され、第52条に「査定は、文書をもって行い、かつ、理由を付さなければならない。」と規定されているが、平成15年8月25日付けの拒絶理由通知書及び同年11月25日付けの拒絶査定には、「例」という文言が使用されているものの、前記「2.原査定の拒絶理由(2)」で引用したように、不備の理由を具体的に挙げているから、本願が特許法第36条第4項の要件を満たしていない理由を具体的かつ明確に挙げており、出願人(請求人)が適切な対応をすることができるものであるので、単に「例」という文言のみをもって、特許法第50条又は第52条の規定に反した手続がなされているとはいえない。
よって、請求人の当該主張も採用することができない。

5.むすび
以上のように、本願は、明細書及び図面の記載に不備があるので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-14 
結審通知日 2006-09-19 
審決日 2006-10-02 
出願番号 特願2001-239974(P2001-239974)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (H04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊清水 康志川口 貴裕  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 林 毅
橋本 正弘
発明の名称 デジタルコンテンツの配信方法、配信装置、再生装置、コンピュータプログラム  
代理人 鈴木 正剛  

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