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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1165313
審判番号 不服2005-5802  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-04 
確定日 2007-10-03 
事件の表示 特願2000-597758「映像テキスチャー抽出方法及びその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月10日国際公開、WO00/46750、平成14年10月29日国内公表、特表2002-536750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
・出願日:平成12年2月3日(パリ条約優先権主張1999年2月5日、米国)
・補正書の提出日:平成13年8月2日
・拒絶理由通知:平成15年7月31日付け
・補正書の提出日:平成16年2月5日
・拒絶理由通知:平成16年4月16日付け
・補正書の提出日:平成16年10月20日
・補正却下の決定(平成16年10月20日付けの補正を却下):平成16年12月20日付け
・拒絶査定日(平成16年4月16日付けの拒絶理由通知に記載した理由による):平成16年12月20日付け
・拒絶査定不服審判請求日:平成17年4月4日

第2 平成16年12月20日付け補正却下の決定について
【結論】
平成16年12月20日付け補正却下の決定は適法である。
【理由】
1 補正却下の決定の理由
平成16年12月20日付け補正却下の決定の理由は、概略、次のとおりである。
平成16年10月20日付けでなされた請求項1-13についての補正は限定的減縮を目的としているが、当該補正後の請求項1-13に係る発明は、平成16年4月16日付け拒絶の理由の[理由1](ア)が依然として解消されておらず、独立して特許を受けることができないから、平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に違反するものであり、同法53条1項の規定により却下すべきものである。

2 補正却下決定の適否
(1) 平成16年4月16日付け拒絶理由通知について
まず、補正却下の対象となった平成16年10月20日付けでなされた補正(以下、「第3回目の補正」という。)の応答の対象となった平成16年4月16日付け拒絶の理由(以下、「第2回目の拒絶理由通知」という。)が、特許法17条の2第1項3号に記載される「拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知」(以下「最後の拒絶理由通知」という。)であるか否かを検討する。

「第2回目の拒絶理由通知」は、平成16年2月5日付けの補正(以下、「第2回目の補正」という。)により補正された各請求項を対象とし、当該拒絶理由通知が最後の拒絶理由通知である旨、及び、理由として、
「[理由1]
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。

(ア)当初明細書及び図面には、そもそも請求項1の「規則性表示子」、「方向性表示子」、「スケール表示子」なる語句は用いられておらず、当該構成が発明の詳細な説明の欄のどの構成に該当するのか不明である。
(イ)又、当初明細書及び図面には、そもそも請求項3、6、9に係る構成は記載されておらず、当該構成が発明の詳細な説明の欄のどの構成に該当するのか不明である。
(ウ)又、上記(ア)(イ)の点が不明確であるため、その他の請求項2、4、5、7、8、10?16に係る構成も明確でない。
[理由2]
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?16
・引用文献等 1、2
・備考
(ア)例えば刊行物1(特に請求項1、第0003段落、第0049段落?第0050段落参照。)、刊行物2(特に第0002段落、第0021段落参照。)に記載されているように、複数の特徴量を画像検索のための検索キーにすること、は周知の技術である。
(イ)又、規則性、方向などを画像の特徴量として用いることは周知の技術である。
(ウ)してみれば、本願請求項1?16に係る発明は、刊行物1、刊行物2に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易になし得るものである。
引 用 文 献 等 一 覧
刊行物1.特開平9-101970号公報
刊行物2.特開平10-154149号公報
最後の拒絶理由通知とする理由
1.最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶の理由のみを通知する拒絶理由通知である。」と記載されている。

「第2回目の拒絶理由通知」の対象となる「第2回目の補正」により補正された請求項1ないし16は、平成15年7月31日付け拒絶の理由(以下、「最初の拒絶理由通知」という。)に応答するために、平成13年8月2日付けの補正(以下、「第1回目の補正」という。)により補正された特許請求の範囲全体を書き直して補正したものである。

そこで、「規則性表示子」、「方向性表示子」、及び「スケール表示子」なる語句は、「第1回目の補正」による特許請求の範囲に記載されておらず、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正である「第2回目の補正」により初めて特許請求の範囲に記載された事項であるから、「第2回目の拒絶理由通知」の[理由1](ア)は、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由といえる。
また、「第2回目の補正」により補正された請求項3、6、及び9に記載された事項、すなわち「【請求項3】 前記(a)段階は、不規則、やや不規則、規則、極めて規則をそれぞれ示す値のうちいずれか一つで表示される前記規則性表示子を生成する段階であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」、「【請求項6】 前記(b)段階は、方向性無し、0°、30°、60°、90°、120°、150°をそれぞれ示す値のうちいずれか一つで表示される前記方向性表示子を生成する段階であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」、及び「【請求項9】 前記(c)段階は、緻密、中間、粗、極めて粗をそれぞれ示す値のうちいずれか一つで表示される前記スケール表示子を生成する段階であることを特徴とする請求項1に記載の方法。」は、「第1回目の補正」による特許請求の範囲には記載されておらず、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正である「第2回目の補正」により初めて特許請求の範囲に記載された事項であるから、「第2回目の拒絶理由通知」の[理由1](イ)は、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由といえる。
そして、「第2回目の拒絶理由通知」の[理由1](ウ)は、「第2回目の拒絶理由通知」の[理由1](ア)及び(イ)を根拠とするものであるから、「第2回目の拒絶理由通知」の[理由1](ア)及び(イ)と同様に「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由といえる。
さらに、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正である「第2回目の補正」により補正された請求項1ないし16に係る発明を特定するために必要な事項である「(a)映像テキスチャーの規則性を表示する規則性表示子を生成する段階と、(b)前記映像テキスチャーの方向性を表示する方向性表示子を生成する段階と、(c)前記映像テキスチャーのスケールを表示するスケール表示子を生成する段階と、(d)前記規則性表示子、方向性表示子及びスケール表示子を組み合わせてテキスチャー記述子を生成する段階」は、「第1回目の補正」による特許請求の範囲に記載された事項ではないから、「第2回目の補正」により補正された前記発明を特定するために必要な事項により特定される請求項1ないし16に係る発明を対象とする「第2回目の拒絶理由通知」の[理由2](ア)ないし(ウ)は、「最初の拒絶理由通知」に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由といえる。
したがって、「第2回目の拒絶理由通知」で通知したすべての理由である[理由1](ア)ないし(ウ)及び[理由2](ア)ないし(ウ)は、いずれも最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由であり、最後の拒絶理由通知である旨、及び最後の拒絶理由とする理由が記載された「第2回目の拒絶理由通知」は、最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものと認められるので最後の拒絶理由通知とすることができるものである。
ゆえに、「第3回目の補正」は、特許法17条の2第4項の規定の適用対象であると認められる。

(2) 独立特許要件
a 補正後の本願発明
本件補正後の本願の発明は、「第3回目の補正」で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 映像のテキスチャー特徴を記述する方法において、
相異なる方向性係数及び/または相異なるスケール係数を有する複数のフィルタを用いて入力映像をフィルタリングして複数のフィルタリングされた映像を生成する段階と、
前記複数のフィルタリングされた映像をそれぞれ水平軸及び垂直軸上に投影させ複数のx軸投影グラフ及び複数のy軸投影グラフを得る段階と、
前記複数のx軸投影グラフ及び前記複数のy軸投影グラフに基づき、前記入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子、前記入力映像のテキスチャーの方向性を表示する方向性表示子及び前記入力映像のテキスチャーのスケールを表示するスケール表示子を生成する段階と、
前記規則性表示子、方向性表示子及びスケール表示子を組み合わせて前記入力映像のテキスチャー記述子を生成する段階とを含むことを特徴とする方法。」

本件補正は、「第2回目の補正」により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「(a)映像テキスチャーの規則性を表示する規則性表示子を生成する段階と、(b)前記映像テキスチャーの方向性を表示する方向性表示子を生成する段階と、(c)前記映像テキスチャーのスケールを表示するスケール表示子を生成する段階と」を、「相異なる方向性係数及び/または相異なるスケール係数を有する複数のフィルタを用いて入力映像をフィルタリングして複数のフィルタリングされた映像を生成する段階と、前記複数のフィルタリングされた映像をそれぞれ水平軸及び垂直軸上に投影させ複数のx軸投影グラフ及び複数のy軸投影グラフを得る段階と」から得られる「前記複数のx軸投影グラフ及び前記複数のy軸投影グラフに基づき」行うとする補正であり、特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

b 審判請求の趣旨
平成17年4月26日付け手続補正書(方式)により補正された【請求の理由】は、概略、特許請求の範囲に記載された「規則性表示子」は、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】の【数10】式により求められる第1表示子V1に対応し、同じく特許請求の範囲に記載された「方向性表示子」、及び「スケール表示子」は、発明の詳細な説明に記載された第2及び第3表示子V2及びV3、及び、第4及び第5表示子V4及びV5にそれぞれ対応することは明らかであり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号、2号に規定する要件を満たしているというものである。
また、【数10】式に表された第1表示子V1と映像テキスチャーの規則性との関係について、「本願の発明の詳細な説明に記載されていますように、入力映像をC1種類の方向性係数及びC2種類のスケール係数を有するガーバーフィルタを用いてフィルタリングします。C1が6、C2が4の場合を例にとると、6×4個のガーバーフィルタにより入力映像がそれぞれフィルタリングされ24個のフィルタリングされた映像が生成されます。24個のフィルタリングされた映像をそれぞれx軸及びy軸に投影することにより、24個のx軸投影グラフと24個のy軸投影グラフが得られます。それぞれの投影グラフからNAC値(【数4】式)とコントラスト値(【数5】式)を求めます。NAC値は投影グラフがどれぐらい周期性を持っているのかを示し、コントラスト値は投影グラフの振幅がどれぐらい大きいのかを示します。NAC値とコントラスト値に基づき総48項の投影グラフをクラスタリングしてC1、C2、C3の三つのグループに分けます。C1に属する投影グラフは強い周期性を有するグラフであり、C2に属する投影グラフは中間程度の周期性を有するグラフであり、C3に属する投影グラフは弱い周期性を有するグラフです。従って、各Ciに属する投影グラフの個数をNiとし加重値をWiとすれば、映像テキスチャーの規則性を示す「規則性表示子」に該当する「第1表示子V1」が【数10】式により計算されます。加重値WiはW2またはW3より大きいです。従って、映像テキスチャ-の規則性も強いほどC1に属する投影グラフの個数Niが大きくなるので、第1表示子V1の値も大きくなります。」と主張している。
(審決注:段落番号及び数式番号について、第0046段落又は段落0046は段落【0046】、「数10」又は数式10は【数10】式のように引用した本願明細書の表記に統一した。また、NAC値を定義した前記【数4】式、及びコントラスト値を定義した前記【数5】式は、段落【0035】の【数7】式、及び段落【0039】の【数8】式とそれぞれ同じ数式である。)

c 当審の判断
本願補正発明における「規則性表示子」が、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】の【数10】式により求められる「第1表示子V1」に対応するか否か検討する。
発明の詳細な説明には、「第1表示子V1」について「【0031】 図1Aは、本発明による映像テキスチャー記述子抽出方法を示している。図1Aを参照すれば、Nを所定の正数としたとき、N×Nピクセル、例えば128×128ピクセルよりなる入力映像がガボールフィルターを使ってフィルタリングされる(段階100)。前記ガボールフィルターは異なる方向性係数及び異なるスケール係数を有するフィルターよりなる。C1及びC2を正数としたとき、前記入力映像はC1類の方向性係数及びC2類のスケール係数を有するフィルターによりフィルタリングされ、前記フィルターはC1×C2類のフィルタリングされた映像を出力する。
【0032】 次に、ピクセルの平均及び分散はC1×C2類のフィルタリングされた映像の各々に対して計算され、次に、前記平均及び分散を使ってベクターZが得られる(段階102)。
【0033】 次に、前記フィルタリングされた映像はx-軸及びy-軸上に投影され、x-投影グラフ及びy-投影グラフを得る(段階104)。
【0034】 各グラフP(i)(iは1からNまでの数)に対する正規化した自己-相関(Normalized auto-correlation:NAC)値はNAC(k)で表記され、下記式(7)により計算される:
【0035】【数7】

【0036】 ここで、ピクセル位置はiで表記され、ピクセル位置iのピクセルで表現される投影グラフはP(i)で表記され、kは1からN(Nは正数)までの数である。
【0037】 次に、前記計算された自己-相関値NAC(k)が所定の区間で局部的にピークを形成して局部的な最大値P_magn(i)が求められ、前記計算されたNAC値が所定の区間で局部的に谷を形成して局部的な最小値V_magn(i)が求められる(段階108)。
【0038】 一方、コントラストは下記式(8)のように定義される(段階110):
【0039】【数8】

【0040】 また、d及びSは前記局部的な最大値の平均及び標準偏差であり、αは所定の臨界値であるとしたとき、下記式(9)を満足するグラフが第1候補グラフらとして選択される(段階112):
【0041】【数9】

【0042】 図1Bを参照すれば、変形された凝集クラスタリングを前記第1候補グラフに適用して第2候補グラフを選択する(段階114)。変形された凝集クラスタリングアルゴリズムは、アール.オー.ドゥダ(R.O.Duda)及びピー.イー.ハート(P.E.Hart)により“類型分類及び場面分析、ゾーンウィリ及び息子ら、ニューヨーク、1973(Pattern Classification and Scene Analysis, John wiley and Sons, NewYork,1973)”に開示された凝集クラスタリングを適宜に変形したアルゴリズムであり、以下、簡略に説明する。先ず、N個のグラフP1,...,PNにおいて、ピーク間の距離の平均及び標準偏差をdi及びSiとし、各グラフは(di,Si)に該当する2次元ベクターを有するとする。今度、(di,Si)に該当する2次元ベクターを使って次のようにPiをクラスタリングする。所望のクラスターの数をMcとしたとき、初期のクラスターの数Nに対し、各々のクラスターCiはC1={P1}、C2={P2},...,CN={PN}のように表現できる。クラスターの数がMcよりも小さい場合、クラスタリングは停止する。次に、互いに最も距離が遠い2つのクラスターCi及びCjが得られる。C1及びCj間の距離が所定の臨界値よりも大きい場合、クラスタリングは停止する。そうでなければ、Ci及びCjを結合して2つのクラスターのうちいずれか一つのクラスターを除去する。このような過程は、クラスターの数が所定の数に達するまで繰り返し行う。次に、前記クラスタリングされたクラスターのうち、最大のグラフを有するクラスターが選択され、前記選択されたクラスター内にあるグラフは候補グラフとして選択される。
【0043】 今度、第2候補グラフは3種類の類型に分類される(段階116)。前記分類は第2候補グラフをフィルタリングするのに使用されるフィルターのスケールまたは方向性係数と類似したまたは同一のスケールまたは方向性係数を有するフィルターによりフィルタリングされるグラフの数により行われる。以下では、説明の便宜上、一定のスケール係数または一定の方向性係数を有するフィルターによりフィルタリングされたグラフは一定-スケール-係数グラフまたは一定-方向性-係数グラフと称する。
【0044】 より詳細に説明すれば、第一に、該当候補グラフのスケールまたは方向性係数と同一のスケールまたは方向性係数を有する一つ以上のグラフがあり、前記該当候補グラフのスケールまたは方向性係数に近づいたスケールまたは方向性係数を有する一つ以上のグラフがある場合、前記該当候補グラフはC1類のグラフとして分類される。第二に、該当候補グラフのスケールまたは方向性係数と同一のスケールまたは方向性係数を有する一つ以上のグラフがあるが、前記該当候補グラフのスケールまたは方向性係数に近づいたスケールまたは方向性係数を有するグラフがない場合、前記該当候補グラフはC2類のグラフとして分類される。第三に、該当候補グラフのスケールまたは方向性係数と同一のまたはそれに近づいたスケールまたは方向性係数を有するグラフがない場合、前記該当候補グラフはC3類のグラフとして分類される。次に、前記C1、C2及びC3類型の各々に属するグラフの数をカウントして各々N1、N2及びN3で表記し、前記C1、C2及びC3類型の各々に属するグラフの加重値をカウントして各々W1、W2及びW3で表記する。これについては、以下で説明する。
【0045】 今度、決定された数N1,N2及びN3及び加重値W1,W2及びW3を使って次の計算が行われる:
【0046】【数10】

【0047】 ここで、結果Mはテキスチャー記述子を構成する第1表示子V1として決定される(段階118)。」と記載され、また、【図3】には、「本発明による前記映像テキスチャー記述子抽出方法に基づくシミュレーションによりブロダッツテキスチャー映像から抽出された認知的なブラウジング成分(PBC)を示す。」として、テクスチャー構造を有する映像と、当該映像から抽出された第1ないし第5表示子V1、V2、V3、V4、V5を認知的なブラウジング成分(PBC)とした[V1、V2、V3、V4、V5]とを対応させて表示している。
一方、本願補正発明における「規則性表示子」は、本願補正発明に記載されたとおり、「相異なる方向性係数及び/または相異なるスケール係数を有する複数のフィルタを用いて入力映像をフィルタリングして複数のフィルタリングされた映像を生成する段階と、前記複数のフィルタリングされた映像をそれぞれ水平軸及び垂直軸上に投影させ複数のx軸投影グラフ及び複数のy軸投影グラフを得る段階と、前記複数のx軸投影グラフ及び前記複数のy軸投影グラフに基づき」生成される「前記入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」であると認められる。

(a) 発明の詳細な説明に記載された事項と本願補正発明に記載された事項とを対比すると、発明の詳細な説明の段落【0031】に記載された事項は、本願補正発明における「相異なる方向性係数及び相異なるスケール係数を有する複数のフィルタを用いて入力映像をフィルタリングして複数のフィルタリングされた映像を生成する段階」に対応する処理といえ、また、発明の詳細な説明の段落【0033】に記載された事項は、本願補正発明における「複数のフィルタリングされた映像をそれぞれ水平軸及び垂直軸上に投影させ複数のx軸投影グラフ及び複数のy軸投影グラフを得る段階」に対応する処理といえ、さらに、「第1表示子V1」は、前記段落【0033】に記載された処理で得られたx-投影グラフ及びy-投影グラフに処理を施して決定される値であるから、発明の詳細な説明に記載された「第1表示子V1」は、「相異なる方向性係数及び相異なるスケール係数を有する複数のフィルタを用いて入力映像をフィルタリングして複数のフィルタリングされた映像を生成する段階と、前記複数のフィルタリングされた映像をそれぞれ水平軸及び垂直軸上に投影させ複数のx軸投影グラフ及び複数のy軸投影グラフを得る段階と、前記複数のx軸投影グラフ及び前記複数のy軸投影グラフに基づき」生成される表示子といえる。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】の【数10】式により求められる「第1表示子V1」が、「入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」であるか否かを検討する。

「規則性」という用語は、発明の詳細な説明において用語の定義がされていないばかりか、発明の詳細な説明においても該用語は見当たらないが、明細書の段落【0002】及び【0003】に記載されたように、本願は、従来の映像テキスチャー記述子からテキスチャー構造を視覚的に認知するのは極めて難しいことを【従来の技術】とし、映像内に存在するテキスチャー構造を直観的に把握できる映像テキスチャー記述子を抽出することを【発明が解決しようとする課題】としたものであることを参酌し、推測してみると、「入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」は、入力映像のテクスチャー構造における視覚的に認知し得る規則性を、その値から直観的に把握できる表示子と解することが自然であり、このように解することに矛盾する事項も認められない。

発明の詳細な説明の段落【0031】ないし【0047】には、「第1表示子V1」は、概略、入力映像を異なる方向性係数及び異なるスケール係数を有するフィルターよりなるガボールフィルターを使ってフィルタリングし(段階100)、前記フィルタリングされた映像をx-軸及びy-軸上に投影し、x-投影グラフ及びy-投影グラフを得(段階104)、各グラフP(i)に対する正規化した自己相関値NAC(k)を計算し、前記計算された自己-相関値NAC(k)の局部的な最大値P_magn(i)を求め(段階108)、d及びSを前記局部的な最大値の平均及び標準偏差とし、αを所定の臨界値であるとしたとき、前記【数9】式を満足するグラフを第1候補グラフとして選択し(段階112)、ピーク間の距離の平均di及び標準偏差Siに基づき変形された凝集クラスタリングを前記第1候補グラフに適用し、クラスタリングされたクラスターのうち、最大のグラフを有するクラスター内にあるグラフを第2候補グラフとして選択し(段階114)、第2候補グラフを、該当候補グラフのスケール又は方向性係数と同一のスケール又は方向性係数を有する一つ以上のグラフの有無、及び、前記該当候補グラフのスケール又は方向性係数に近づいたスケール又は方向性係数を有する一つ以上のグラフの有無に応じてC1、C2及びC3の3種類の類型に分類し(段階116)、各々に属するグラフの数をカウントして各々N1、N2及びN3で表記し、類型に属するグラフの加重値を各々W1、W2及びW3で表記し、前記【数10】式による結果Mとして決定される(段階118)と記載されている。
前記段落【0031】ないし【0047】記載の処理において、テクスチャー構造における類似する規則性を有する入力映像に対して、近似する値、又は同じ値が「第1表示子V1」として決定されることは明らかであり、例えば【図3】を参照すると、「第1表示子V1」として同じ「2」という値を表示する映像であるT026とT096とには、テキスチャー構造における視覚的に認知し得る共通する規則性を一見して見いだせる。
しかしながら、前記段落【0031】ないし【0047】記載の処理は、視覚的に認知し得る規則性を定義し、定義された規則性に対応する特徴量から「第1表示子V1」を直接決定する処理でないから、テキスチャー構造における、視覚的に認知し得る互いに異なる規則性を有する映像を前記段落【0031】ないし【0047】記載の処理の入力映像とした場合に、「第1表示子V1」の値は、入力映像が有するそれぞれの規則性を必ずしも反映したものとして決定されない。
このことは、【図3】に「第1表示子V1」として同じ「2」という値を表示して示された映像T018、T025、T030、T067、T075、及びT088に、テキスチャー構造における視覚的に認知し得る共通する規則性を一見して見いだせないこと、すなわち、視覚的に認知し得る互いに異なる規則性を有する入力映像に対して同じ値を「第1表示子V1」として決定していることからも明らかである。
してみると、「第1表示子V1」は、テクスチャー構造における、類似する規則性、及び、視覚的に認知し得る互いに異なる規則性の双方を同じ値として表示するものであり、その値から、映像内に存在する視覚的に認知し得るテキスチャー構造における規則性を直観的に把握することはできないから、「入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」であるとはいえない。

(b) 明細書の段落【0050】に、「第1表示子V1は映像のテキスチャーの構造化度を極めてよく表現する」と記載されているので、「構造化度」が「規則性」を意味するか否かについても検討する。
「構造化度」という用語は、画像処理分野において慣用されている技術用語であるとは認められず、また、発明の詳細な説明において用語の定義がされていないが、字義に基づいて推測を試みると、「構造」は「いくつかの材料を組み合せてこしらえられたもの。また、そのしくみ。くみたて。全体を構成する諸要素の、互いの対立や矛盾、また依存の関係などの総称」(広辞苑第五版)という意味であると解され、「構造化度」とは、いくつかの材料を組み合せる際の何らかの度合いであると推測できるが、「構造化度」が、映像内に存在するテキスチャー構造における視覚的に認知し得る「規則性」を直接意味するとはいえない。

以上を踏まえると、「第1表示子V1」は、「入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」ではなく、かつ、「規則性」を表現したものでもないから、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0046】の【数10】式により求められる「第1表示子V1」は、本願補正発明の「規則性表示子」に対応した構成とはいえない。
また、発明の詳細な説明に記載された他の事項で、本願補正発明の「規則性表示子」に対応する構成を推定することもできない。

したがって、「入力映像のテキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」を生成する段階により特定される本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、前記「b 審判請求の趣旨」で、請求人が、【数10】式に表された第1表示子V1と映像テキスチャーの規則性との関係において、「NAC値とコントラスト値に基づき総48項の投影グラフをクラスタリングしてC1、C2、C3の三つのグループに分けます。」及び「加重値WiはW2またはW3より大きいです。」と主張した事項は、発明の詳細な説明に記載された事項ではなく、請求人の主張は発明の詳細な説明に記載された事項に基づいたものとはいえない。

(3) むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反するものであり、同法53条1項の規定により却下すべきものであるから、「第3回目の補正」に対する補正却下の理由は根拠のあるものであり、平成16年12月20日付け補正却下の決定は維持されるべきものである。

第3 本願発明について
1 平成16年12月20日付け補正却下の決定は上記のとおり適法であり、平成16年10月20日付の手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年2月5日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 映像のテキスチャー特徴を記述する方法において、
(a)映像テキスチャーの規則性を表示する規則性表示子を生成する段階と、
(b)前記映像テキスチャーの方向性を表示する方向性表示子を生成する段階と、
(c)前記映像テキスチャーのスケールを表示するスケール表示子を生成する段階と、
(d)前記規則性表示子、方向性表示子及びスケール表示子を組み合わせてテキスチャー記述子を生成する段階とを含むことを特徴とする方法。」

2 拒絶の理由
平成16年2月5日付けで補正された特許請求の範囲に対する、原査定における平成16年4月16日付け拒絶の理由は、前記「第2 2(1)」に記載したとおりである。

3 判断
本願発明は、前記「第2 (2)」で検討した本願補正発明と同様に「映像テキスチャーの規則性を表示する規則性表示子」を生成する段階を、発明を特定するために必要な事項とするものである。
そうすると、本願補正発明が、前記「第2」で判断したとおり特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、本願発明も同様の理由により、「規則性表示子」が発明の詳細な説明の欄のどの構成に該当するのか不明であり、平成16年4月16日付け拒絶理由通知の「[理由1](ア)」に記載された理由である特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-04-26 
結審通知日 2007-05-08 
審決日 2007-05-21 
出願番号 特願2000-597758(P2000-597758)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06T)
P 1 8・ 575- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新井 則和廣瀬 文雄  
特許庁審判長 田口 英雄
特許庁審判官 伊知地 和之
松永 稔
発明の名称 映像テキスチャー抽出方法及びその装置  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  

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