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審決分類 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1165507
審判番号 不服2005-5556  
総通号数 95 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-31 
確定日 2007-10-11 
事件の表示 特願2002-234496「ゲームシステム、記録媒体及びゲームシステムの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月 2日出願公開、特開2003- 93736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成9年5月7日に出願された特願平9-131612号(優先日:平成8年5月10日,出願番号:特願平8-140629号)(以下、「原原出願」という。)の一部を、平成11年12月6日に分割して新たな特許出願とした特願平11-345622号(以下、「原出願」という。)の一部を、更に平成14年8月12日に分割して新たな特許出願としたものであって、平成15年10月10日付けで拒絶理由通知がなされ、これに対して同年12月19日付けで手続補正がなされたところ、平成17年2月23日付けで拒絶査定がなされたが、前記拒絶査定を不服として、同年3月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年4月28日に手続補正がなされたものである。

2.国内優先権の効果について
前記「1.手続の経緯」に記載したとおり、原原出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う特許出願である。
ここで、特許法第41条第4項の規定によれば、「優先権を主張しようとする者は、その旨及び先の出願の表示を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出しなければならない。」とされているところ、原出願については、その出願時において、優先権を主張する旨及び先の出願の表示を記載した書面が提出されていないので、原原出願が享受していた特許法第41条に基づく優先権の効果を享受することはできない。
そして、本願は、原出願の一部を分割して新たな特許出願としたものであるから、同様に原原出願が享受していた特許法第41条に基づく優先権の効果を享受することはできない。

なお、特許法等の一部を改正する法律(平成11年5月14日法律第41号)によって、特許法第44条第4項が追加されたことにより、平成12年1月1日以降の出願においては、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う出願の分割出願では、優先権を主張する旨及び先の出願の表示を記載した書面が、当該分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなされるものとなったが、原出願は、平成11年12月6日に出願されたものであり、その出願時には、前記特許法第44条第4項の規定はなく、前記平成12年1月1日以降の出願に係る取り扱いを受けるものではない。

3.平成17年4月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成17年4月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]

3.1 補正の内容及び補正の目的について
平成17年4月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は、

「プレーヤが操作手段を操作することにより、ゲーム空間上のボールを打撃して当該ボールをゲーム空間上において移動させるようにしたゲームシステムであって、
上記ボールを表示画面上に固定表示する手段と、
水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段と、
垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段と、
プレーヤが上記操作手段を操作して上記ボールをゲーム空間上で打撃する際に、上記ボール上の打撃位置を、上記水平位置及び垂直位置で示される位置とする位置決定手段と
を有することを特徴とするゲームシステム。」

から、

「プレーヤが操作手段を操作することにより、ゲーム空間上のボールを打撃して当該ボールをゲーム空間上において移動させるようにしたゲームシステムであって、
上記ボールを表示画面上に固定表示する手段と、
水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段と、
前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段と、
プレーヤが上記操作手段を操作して上記ボールをゲーム空間上で打撃する際に、上記ボール上の打撃位置を、上記水平位置及び垂直位置で示される位置とする位置決定手段と
を有することを特徴とするゲームシステム。」

と補正された。

上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「垂直方向位置設定用画像」について、「前記水平方向位置設定用画像とは異なる」との限定を付加して減縮するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的として補正された本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.2 引用例及びその記載事項
3.2.1 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、原原出願の出願前に頒布された刊行物である、NEW 3D GOLF SIMULATION Ver.2.0 PC-9801 『ペブルビーチの波濤』 プレイヤーズマニュアル,株式会社ティーアンドイーソフト編著,1992年7月24日初版印刷,第15頁(以下、「引用例1」という。)には、写真とともに以下の事項が記載されている。

・記載事項1
「Power&Impact パワー&インパクト<ショット決定>」との記載の下に、「■ Power & Impact」という表示がなされた画面の写真が掲載されており、当該画面には、左側に略C字形の図形の画像が表示されているとともに、右側にゴルフボールを表す画像と、当該ゴルフボールの中心位置よりやや右の位置に●マークの画像が表示されていることがわかる。
そして、上記写真の外側には、略C字形の図形の画像について、「ボールを打つパワーを決定します。使用しているクラブの飛距離に対して0%?100%までを決定できます。」との説明の記載があり、ゴルフボールを表す画像について、「ボールのインパクトの位置を決めます。」との説明の記載がある。
また、上記写真の下には、「パワーとインパクトは、本ゲームにおいて、最も緊張する瞬間とも言えるでしょう。神経を集中させて、慎重に操作しましょう。」との記載がある。(第15頁右欄上段)

・記載事項2
「■インパクトの決定
パワーを決定するとすぐにボール上に赤いマークが現われ、左右に移動しながら上から下へ、最下点までくると、次は上に向かって移動します。一往復する間に左クリックして、インパクトの位置を決定しないと空振りとなります。」(第15頁右欄中段)

・記載事項3
「■インパクトの位置によるボールの変化
ボールの上をたたくと
トップスピンがかかり、低い弾道でボールは飛び、落下してからのラン(転がり)が増えます。
ボールの下をたたくと
バックスピンがかかり、高い弾道でボールの飛距離は落ちますが、止まりやすくなります。ショートアイアンやウエッジなら、落下してからボールが、後戻りすることもあります。
ボールの右をたたくと
フックボールとなり左側へ曲がります。
ボールの左をたたくと
スライスボールとなり右側へ曲がります。」(第15頁右欄下段)

・実質的記載事項1
引用例1は、「PC-9801」という周知のコンピュータ上で動作する、「3D GOLF SIMULATION」というゲームソフトのプレイヤーズマニュアルなのであるから、引用例1には、上記「PC-9801」という周知のコンピュータと「3D GOLF SIMULATION」というゲームソフトから構成される「ゲームシステム」が、実質的に記載されているといえる。

以上の記載事項1乃至記載事項3、及び実質的記載事項1によれば、引用例1には次の発明が記載されていると認められる。

「左クリックしてボールを打つゲームを行うゲームシステムであって、
「■ Power & Impact」という表示がなされた画面に、左側に略C字形の図形の画像が表示されるとともに、右側にゴルフボールを表す画像が表示され、
パワーを決定するとすぐにボール上に赤いマークが現われ、左右に移動しながら上から下へ、最下点までくると、次は上に向かって移動し、
一往復する間に左クリックして、インパクトの位置を決定しないと空振りとなり、
ボールの上をたたくと、トップスピンがかかり、低い弾道でボールは飛び、落下してからのラン(転がり)が増え、
ボールの下をたたくと、バックスピンがかかり、高い弾道でボールの飛距離は落ちますが、止まりやすくなり、ショートアイアンやウエッジなら、落下してからボールが、後戻りすることもあり、
ボールの右をたたくと、フックボールとなり左側へ曲がり、
ボールの左をたたくと、スライスボールとなり右側へ曲がるゲームシステム。」(以下、「引用発明」という。)

3.2.2 引用例2
原原出願の出願前に頒布された刊行物である、重度身体障害者による情報通信の利用?1接点入力によるネットワークへのアクセス?,情報処理学会研究報告 情処研報 Vol.94,No.74,社団法人情報処理学会,1994年9月8日発行,第65頁?第70頁(以下、「引用例2」という。)には、図とともに、以下の事項が記載されている。

・記載事項1
「2.1 1接点入力による文字の選択方法
文字が書けないとか会話ができないなどの場合には五十音文字配列などの中から任意の文字を選択する必要がある。その基本が直接法(Direct Selection)と走査法、コード化法と呼ばれている3種類の方法である(図1参照)。
走査法は1?数個のスイッチ操作により、文字配列の行と列を指定することで任意の1文字を選択する方法である。この走査法にはカーソル(指標)がどのような移動をおこなうのかによって、連続走査法(Serial Scanning)と行列走査法(Row-Column Scanning)、方向走査法(Directed Scanning)がある(図2参照)。また、連続走査法と行列走査法ではスイッチ操作があるまで自動的にカーソルが移動する自動操作方式[当審注:「自動走査方式」の誤記と認める。](Auto Scanning)と、スイッチ操作毎に1行もしくは1列づつ移動する逐次走査方式(Step Scanning)があり、1つのスイッチしか利用できない場合には自動走査方式が適しているが、複数のスイッチによる逐次走査方式に比べて入力効率が悪い。また、方向走査法とはカーソルを上下左右に移動することによって任意の文字を選択する方法であり、ジョイスティックなど4つ以上のスイッチを利用するものである。」(第66頁右欄)

・記載事項2
図2には、「走査法(Scanning)の種類と動作」として、「○連続走査法」、「○行列走査法」及び「○方向走査法」について、「く」の文字を選択するときのカーソルの移動する様子と、「トリガー」のタイミングが示されている。

3.2.3 引用例3
原原出願の出願前に頒布された刊行物である、情報機器の障害者インタフェース,テレビジョン学会誌 画像情報工学と放送技術,(社)テレビジョン学会,平成5年12月20日発行,第47巻第12号通巻544号,第1612頁?第1618頁(以下、「引用例3」という。)には、図とともに、以下の事項が記載されている。

・記載事項1
「なお,ディスプレイ画面上でのキー表示と利用者の特性に応じたセンサスイッチを利用したソフトキーボードと呼ばれる概念がある.次節では,利用者の特性に整合したセンサスイッチが利用できるソフトキーボードを説明する.
(3) ソフトキーボード
実際のキーボードでの打鍵が困難な場合には,代替え操作で打鍵に相当する操作を実現することが必要となる.ひとつの方法として,ディスプレイ上にキーボードを表示し,希望するキー位置を何らかの形態で指示することが考えられる.キー選択は,タッチパネルを用いた直接的な指示と,センサスイッチによる間接的な指示に分けることができる.
(a) 直接選択法
タッチパネルを利用すれば,直接,希望する位置にあるキーの指示(打鍵)が可能である.
(b) 走査法
パネル上のカーソルを,あらかじめ定められた走査(カーソル移動)方法で移動させ,希望する位置を指定する.このとき,利用者がカーソル移動を指示できる場合(利用者主導型)と,自動的に移動するカーソルを希望する位置でスイッチ操作等で決定する(自動走査型)がある.
カーソル走査は,図7に示すように,1[当審注:実際の表記は丸数字の1である。]横方向の走査を縦(上から下)方向に順次行う線形走査,2[当審注:実際の表記は丸数字の2である。]横方向(左から右)と縦方向が独立に指定できる行列走査,および3[当審注:実際の表記は丸数字の3である。]横方向と斜め方向(右上から左下)[当審注:「左上から右下」の誤記と認める。]との移動も可能とした直接走査がある.
自動走査法型の場合は,使用者が希望する位置にカーソルが移動した時,スイッチ操作で位置を選択する.カーソル移動の速度と利用者の反応速度,および使用するスイッチとの関係で使用負荷(選択操作の負荷)が変化する.したがって,利用する個人の特性に応じた速度調整が必要であり,通常は,いくつかの走査速度から使用者が使いやすい速度を選ぶことができる機能がある.」(第1614頁右欄第32行?第1615頁左欄第23行)[当審注:*等の注釈記号の記載は省略した。]

・記載事項2
図7には、「カーソル走査の方法」として、「(a)線形走査」、「(b)行列走査」及び「(c)直接走査」について、カーソルの移動する様子が示されている。

3.3 対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

・対応関係1
引用発明の「ボール」は、本願補正発明の「ボール」に相当し、以下同様に、「打つ」は「打撃して」に、「画面」は「表示画面」に、「ゲームシステム」は「ゲームシステム」に、それぞれ相当する。

・対応関係2
引用発明の「ゲームシステム」は、「PC-9801」という周知のコンピュータを利用するものであり、「左クリックして、インパクトの位置を決定」するものであるのだから、原原出願の出願時の技術常識を参酌すれば、引用発明の「ゲームシステム」は、入力手段として「マウス」を備えることは明らかであり、当該「マウス」は、本願補正発明の「操作手段」に相当するといえる。
また、引用発明において、「マウス」を操作するのは、本願補正発明の「プレーヤ」に相当する者であることも明らかである。
さらに、引用発明の「ゲームシステム」は、「3D GOLF SIMULATION」のゲームを実行するものであって、仮想空間においてゴルフゲームを実行するものといえるので、引用発明における「ボール」は、本願補正発明の「ゲーム空間上」と同様の仮想空間に存在し、当該仮想空間において移動することは明らかである。
してみれば、引用発明の「左クリックしてボールを打つゲームを行うゲームシステム」は、本願補正発明の「プレーヤが操作手段を操作することにより、ゲーム空間上のボールを打撃して当該ボールをゲーム空間上において移動させるようにしたゲームシステム」に相当するといえる。

・対応関係3
引用発明の「ゲームシステム」は、「PC-9801」という周知のコンピュータを利用するものであるから、「略C字形の図形の画像」を表示する手段を備えることは明らかである。
してみれば、引用発明の「「■ Power & Impact」という表示がなされた画面に、左側に略C字形の図形の画像が表示されるとともに、右側にゴルフボールを表す画像が表示され、」と、本願補正発明の「上記ボールを表示画面上に固定表示する手段」は、「上記ボールを表示画面上に表示する手段」である点で共通する。

・対応関係4
引用発明の「ゲームシステム」は、「PC-9801」という周知のコンピュータを利用するものであるから、「赤いマーク」を移動するように表示する手段を備えることは明らかである。
また、引用発明の「ゲームシステム」においては、「ボール上に赤いマークが現われ、左右に移動しながら上から下へ、最下点までくると、次は上に向かって移動し、一往復する間に左クリックして、インパクトの位置を決定」するのであるから、引用発明の「赤いマーク」は、本願補正発明の「水平方向位置設定用画像」及び「垂直方向位置設定用画像」と、「ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像」である点で共通する。
さらに、引用発明の「赤いマーク」は、「ボール上に赤いマークが現われ、左右に移動しながら上から下へ、最下点までくると、次は上に向かって移動」するのであるから、本願補正発明の「水平方向位置設定用画像」及び「垂直方向位置設定用画像」と同様に、「上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で」水平方向及び垂直方向に移動するといえる。
してみれば、引用発明の「パワーを決定するとすぐにボール上に赤いマークが現われ、左右に移動しながら上から下へ、最下点までくると、次は上に向かって移動し、」と、本願補正発明の「水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段」及び「前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段」は、「ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向及び垂直方向に移動する手段」である点で共通する。

・対応関係5
引用発明の「ゲームシステム」においては、「一往復する間に左クリックして、インパクトの位置を決定」するのであるから、原原出願の出願時の技術常識を参酌すれば、上記対応関係2と同様に、「インパクトの位置を決定」は、「マウス」の「左ボタン」を押すことにより実行されているといえる。
また、引用発明の「ゲームシステム」は、「PC-9801」という周知のコンピュータを利用するものであり、引用発明の「ゲームシステム」においては、「インパクトの位置を決定」した時に、ボールのインパクトの位置を何らかの記憶手段に記憶した上で、ボールの弾道を演算していることは明らかであるから、引用発明の「ゲームシステム」は、「マウスの左ボタンが押されたときの赤いマークの位置を記憶する手段」を備えているといえる。
してみれば、引用発明の「マウスの左ボタンが押されたときの赤いマークの位置を記憶する手段」と、本願補正発明の「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段」、及び、「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段」は、「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときのボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像の水平位置及び垂直位置を記憶する手段」である点で共通する。

・対応関係6
引用発明の「ゲームシステム」においては、「ボールの上をたたくと、トップスピンがかかり、低い弾道でボールは飛び、落下してからのラン(転がり)が増え、ボールの下をたたくと、バックスピンがかかり、高い弾道でボールの飛距離は落ちますが、止まりやすくなり、ショートアイアンやウエッジなら、落下してからボールが、後戻りすることもあり、ボールの右をたたくと、フックボールとなり左側へ曲がり、ボールの左をたたくと、スライスボールとなり右側へ曲がる」のであるから、ボールを打つ際のインパクトの位置が、「赤いマーク」の水平位置及び垂直位置で示される位置であることは明らかである。
してみれば、引用発明の「ゲームシステム」は、本願補正発明の「プレーヤが上記操作手段を操作して上記ボールをゲーム空間上で打撃する際に、上記ボール上の打撃位置を、上記水平位置及び垂直位置で示される位置とする位置決定手段」に相当する構成を備えているといえる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、

「プレーヤが操作手段を操作することにより、ゲーム空間上のボールを打撃して当該ボールをゲーム空間上において移動させるようにしたゲームシステムであって、
上記ボールを表示画面上に表示する手段と、
ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向及び垂直方向に移動する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときのボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像の水平位置及び垂直位置を記憶する手段と、
プレーヤが上記操作手段を操作して上記ボールをゲーム空間上で打撃する際に、上記ボール上の打撃位置を、上記水平位置及び垂直位置で示される位置とする位置決定手段と
を有するゲームシステム。」、

である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
ボールを表示画面上に表示するに際し、本願補正発明では、ボールを固定表示するのに対し、引用発明では、その点に関し特定されていない点。

相違点2
本願補正発明では、「ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像」が、「水平方向位置設定用画像」及び「前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像」の別々の画像であり、それに伴い、「水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段」、「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段」、「前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段」、及び「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段」を有するのに対し、引用発明では、「ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像」が「赤いマーク」のみであるため、「ボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向及び垂直方向に移動する手段」、及び「プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときのボールを打撃する水平位置及び垂直位置を決定するための画像の水平位置及び垂直位置を記憶する手段」を備えるものの、それらの手段が、水平位置及び垂直位置を決定するために別々に構成されていない点。

3.4 当審の判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。

・相違点1について
ゲームの技術分野において、何らかの入力指示を行うための画像は、画面の一部に固定表示されるのが通常の表示形態であり、引用発明において、ボールを画面上に固定表示するように構成して、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

・相違点2について
コンピュータ等により表示される表示画面に形成される、水平方向及び垂直方向で表される二次元座標系において、一つの操作ボタンを用いて特定の座標を指定する場合には、指定すべき座標が二つしかないのであるから、a)X座標及びY座標を同時に指定する入力手法、b)X座標及びY座標の一方の座標をまず指定し、その後に他方の座標を指定する入力手法、の二通りの入力手法しか存在しないことは自明な事項である。
そして、コンピュータの入力手段の技術分野において、一つの操作ボタン用いた座標の入力手法として、上記二つの入力手法は何れも広く知られた手法であり、さらに上記二つの入力手法は相互に置換可能なものであることも広く一般に知られていることである(必要であれば、引用例2の「連続走査法」(前記a)の入力手法に対応する。)及び「行列走査法」(前記b)の入力手法に対応する。)に関する記載、引用例3の「線形走査」(前記a)の入力手法に対応する。)及び「行列走査」(前記b)の入力手法に対応する。)に関する記載参照。)。
してみれば、引用発明において、水平位置及び垂直位置を同時に指定する入力手法を採用するか、水平位置及び垂直位置の何れかをまず指定し、その後に他方を指定する入力手法を採用するかは、当業者が適宜選択可能な事項にすぎないのであるから、引用発明において、前者の方法に代えて後者の方法を採用して、本願補正発明の如く、水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段と、プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段と、前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段と、プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段とを有するように構成することは、当業者が適宜なし得ることである。

そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用発明において、水平位置及び垂直位置の何れかをまず指定し、その後に他方を指定する入力手法を採用したことに伴い必然的に生ずる効果であって、格別のものということができない。

したがって、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.5 審判請求人の主張について
審判請求人は、請求の理由において、
(イ)「本発明は、特に上記構成c乃至構成gにより、プレーヤはボールの縁部が打撃位置となるよう操作手段を操作することが困難となり、例えばゴルフゲームにおいては、トップスピン、バックスピン、フックボール、スライスボールなどの特殊操作を困難とすることができ、これによりゲームの遊戯性を向上させることができるという、顕著な作用効果を奏するものである。すなわち、水平方向位置設定用画像の水平位置により、水平方向のスピン量及び向き(フック性の軌道かスライス性の軌道か)を指定するとともに、垂直方向位置設定用画像の垂直位置により、垂直方向のスピン量及び向き(バックスピンかトップスピンか)を指定しなければ、所望の特殊操作を実現することができず、これによりゲームの遊戯性を極めて向上させることができる。」
(ロ)「また、水平方向位置設定用画像の水平位置と垂直方向位置設定用画像の垂直位置とで示される位置の範囲(正方形の範囲)は、ボールの範囲(円形の範囲)よりも広く、それ故、ボールの縁部を打撃位置としようとした場合、ボール上の位置を的確に打撃位置とすることが困難となる。」
と主張する。

上記主張について検討する。

主張(イ)について、本願の出願当初の明細書には、審判請求人の主張する「プレーヤはボールの縁部が打撃位置となるよう操作手段を操作することが困難となり、例えばゴルフゲームにおいては、トップスピン、バックスピン、フックボール、スライスボールなどの特殊操作を困難とすることができ、これによりゲームの遊戯性を向上させることができる」という作用効果は記載されていない。
同様に、「水平方向位置設定用画像の水平位置により、水平方向のスピン量及び向き(フック性の軌道かスライス性の軌道か)を指定するとともに、垂直方向位置設定用画像の垂直位置により、垂直方向のスピン量及び向き(バックスピンかトップスピンか)を指定しなければ、所望の特殊操作を実現することができず、これによりゲームの遊戯性を極めて向上させることができる」という作用効果も記載されていない。
そもそも本願の出願当初の明細書には、「水平方向位置設定用画像の水平位置により、水平方向のスピン量及び向き(フック性の軌道かスライス性の軌道か)を指定する」こと、及び、「垂直方向位置設定用画像の垂直位置により、垂直方向のスピン量及び向き(バックスピンかトップスピンか)を指定」することについて記載がない。
したがって、上記主張(イ)は、明細書の記載に基づかないものであるから、これを採用することはできない。

次に主張(ロ)について検討すると、本願補正発明では、「水平方向位置設定用画像の水平位置と垂直方向位置設定用画像の垂直位置」について、「水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する」、及び、「前記水平方向位置設定用画像とは異なる垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する」と特定されているのみであり、「水平方向位置設定用画像の水平位置と垂直方向位置設定用画像の垂直位置とで示される位置の範囲(正方形の範囲)は、ボールの範囲(円形の範囲)よりも広く」なることについて特定されているとはいえない。
すなわち、本願補正発明では、「ボールの画像上の所定の最大値及び最小値」について、「所定の最大値及び最小値」がボールの画像との関係においてどのように設定されるものであるのか、例えば、ボールの左右両端を超えた位置に所定の最大値及び最小値が設定されるのか、ボールの画像をはみ出さない範囲で所定の最大値及び最小値が設定されるのか、何ら具体的に特定されていない。
そもそも、本願の出願当初の明細書又は図面には、「水平方向位置設定用画像」の「所定の最大値及び最小値」、及び、「垂直方向位置設定用画像」の「所定の最大値及び最小値」を、ボールの画像との関係においてどのように設定するのか、何ら具体的に記載されていない。
したがって、上記主張(ロ)は、請求項の記載、及び、明細書又は図面の記載に基づかないものであるから、これを採用することはできない。

3.6 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.本願発明について
4.1 本願発明
上記「3.4 当審の判断」に前述した理由により、平成17年4月28日付けの手続補正が却下されたことにより、当審が審理すべき本願発明は、平成15年12月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

「プレーヤが操作手段を操作することにより、ゲーム空間上のボールを打撃して当該ボールをゲーム空間上において移動させるようにしたゲームシステムであって、
上記ボールを表示画面上に固定表示する手段と、
水平方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で水平方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記水平方向位置設定用画像の水平位置を記憶する手段と、
垂直方向位置設定用画像を上記ボールの画像上の所定の最大値及び最小値により示される範囲で垂直方向に移動するように表示する手段と、
プレーヤが上記操作手段の対応ボタンを押したときの上記垂直方向位置設定用画像の垂直位置を記憶する手段と、
プレーヤが上記操作手段を操作して上記ボールをゲーム空間上で打撃する際に、上記ボール上の打撃位置を、上記水平位置及び垂直位置で示される位置とする位置決定手段と
を有することを特徴とするゲームシステム。」(以下、「本願発明」という。)

4.2 引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、原原出願の出願前に頒布された刊行物である、NEW 3D GOLF SIMULATION Ver.2.0 PC-9801 『ペブルビーチの波濤』 プレイヤーズマニュアル,株式会社ティーアンドイーソフト編著,1992年7月24日初版印刷,第15頁の記載事項は、「3.2.1 引用例1」に記載したとおりである。

4.3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明から「3.1 補正の内容及び補正の目的について」に記載した限定事項を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、「3.4 当審の判断」に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-08-09 
結審通知日 2007-08-14 
審決日 2007-08-27 
出願番号 特願2002-234496(P2002-234496)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 03- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋山 斉昭  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 植野 孝郎
森口 良子
発明の名称 ゲームシステム、記録媒体及びゲームシステムの制御方法  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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